初登場ホフマン家次男の独り言 故国に帰ろうと馬車を飛ばしたら金色の魔女に襲撃されました
俺は馬車10台と騎士30名を連れて、屋敷を出た。
そして、目立てさせるために一斉に駆けさせたのだ。
まあ、あまり早く駆けさせるとすぐに馬がバテるから、最初の一キロだけだったが。
俺はエックハルト、ホフマン公爵家の次男だ。
我が家の一番上と一番下は問題児だ。
そして、何も考えていない。
我が家の一番の問題ペアなのだ。
兄上は何も考えずに養女にすぎないユリアを公爵家の試練の間に三歳の時に連れて行ってくれたし、そのユリアはユリアで何故かそこで黄金竜の子供をペットに連れて帰ってくるし……もうめちゃくちゃだ。
無理矢理連れ込まれた公爵家の試練で生き残るだけでも奇跡のはずなのに、その出てきた魔物をペットに連れ帰ってくるなんて前代未聞だ。
まあ、子竜だから可愛いけど、これが行く末かの恐ろしい古代竜になるなんて信じられなかったが……
王妃様のお茶会に呼ばれたら、兄は皆で騎士団に訓練に行こうと言い出すし、俺も女どもが面倒くさいから一緒に行ったら父からめちゃくちゃ怒られたんだけど、怒るならまず兄を怒れよ! と俺は言いたかった。父も兄に対しては一撃で倒してそれだけなんだけど……兄に俺が逆らえるわけないだろう!
結局、兄と一番下が問題を起して、いつもそのしわ寄せが俺にくる。
父も一番上や一番下を注意してもしかたがないと思っているのか、すべてのしわ寄せが俺に来るのだ。
今回のユリアの帝国への留学についてもそうだ。
留学に行く前に父は兄と俺を書斎に呼んで、ユリアの正体を初めてばらししてくれたのだ。
はあああ!
ユリアが帝国の皇女殿下だと!
それならそうとさっさと言えよ。
今の皇帝が当時皇帝だった前々皇帝の叔父一族を殺して自分の父親を帝位に就けたそうだ。
ユリアはその前前皇帝の孫に当たるんだとか。
とすると正当な皇位は本来ユリアの物なのか?
いや、少し待て。
あれが皇帝になる?
彼の何も考えていない食い意地だけの張った妹が……
滅び去る帝国の未来しか見えなかった。
父の話によるとユリアの母のクラウディア様はその皇帝の魔の手から逃れるためにハンブルク王国にその護衛騎士と駆け落ちしていたのを皇女と友達だった今は亡き我が母が密かに援助していたという話だった。
皇帝が反逆した時に慌てて助けに行った父は間に合わず、ユリアだけを連れて帰ってきたとか。
それが父の隠し子騒動の顛末だそうだ。
そうか、ユリアは両親を彼の赤鬼に目の前で殺されたのか……さすがの俺もそれには思うことがあった。
「判りました。俺が彼の赤鬼もろとも反逆者の皇帝を血祭りに上げてユリアを帝位に就けます」
「愚か者! 言葉には気をつけろ!」
兄の言葉に父が切れていた。
おいおい、兄上、つい先日その赤鬼に全く相手にされずに殺されかかったのはお前だろうが!
俺は思わず叫びそうになった。
「今回はいかにして、皇帝の注意を逸らして、ユリアがいかに帝国にとって無害か見せて帰ってくるのだ。判ったな」
父は力ずくで兄も頷かせていた。
その後、俺は父に個別に呼ばれた。
これは絶対にまたしてもとんでもないことを頼まれるのだ。
まあ、大体予想はつくが……
しかし、その中身は俺の想像以上だった。
「はああああ! 帝国に反逆するのですか?」
俺は父を見て目が点になった。
実直でかの少し愚鈍気味の現ハンブルク国王陛下の忠実な僕の父からそんな言葉が出と思ってもいなかったのだ。
「まだ、反逆するとは言っていない。あくまでも最後の手段だ」
父は念押ししてくれた。
「しかし、父上、反逆の用意をするというのは?」
俺は理解できなかった。
「彼のユリアが両親が自分の前で殺されたことを思い出してみろ。どうなると思う?」
「それは皇帝を許さないでしょうね。赤い悪魔に適わないと知っても斬りかかるでしょう」
「俺としては妻すなわちお前の母から今際の際に頼まれたのだ。クラウディアとユリアーナを頼むと。俺は母さんのその言葉を守りたい」
「しかし、皇帝に反逆するなど」
「あの皇帝は俺や母さんの友人を何人も殺してくれた。他国のことだからとこれまでは我慢して来た。しかし、俺のユリアーナに手を出されたらさすがの俺も我慢できん」
父は決意の籠もった目で見た。
「我が始祖である帝国の皇弟の今際の言葉をその方にも伝えておこう。いつか皇帝の血を引いた者が頼ってきたらその者を助けよと。これは我が家の家訓だ」
「しかし、父上、勝てるのですか?」
「あと数年もすればな、確実に勝てるようになる」
「数年間あの二人が我慢できるんですか?」
「できたらお前に話すわけ無いだろう!」
「ですよね」
俺は父の言葉に頷いた。
かの二人が我慢できるわけないのだ。
特にユリアは兄上が赤い死に神に斬られた時に本気で斬りつけていたし、絶対に我慢できないだろう。
「良いか、エック、もしユリアが暴発したら、獣人王国に逃せ」
「獣人王国ってもう存在していないのでは」
「していなくてもあそこには年老いた老婆がいるはずだ。帝国の建国当時から生きているとか言う訳の判らないことを言う偏屈老婆だが、そこに行けばかくまってくれるはずだ」
「その方面に行かせれば良いのですね」
俺は頷いた。
「そこに逃げ込めばなんとかなるだろう。できればそこで数年間修行をさせたいところだが、皇帝もそこで待つほどお人好しではないだろう」
「どうするのですか?」
「公爵家の全軍を帝国に突入させる」
「はいっ? 完全な反逆では」
俺は父の言葉に唖然とした。
「ふんっ、静かにこちらを見守ってくれていればこんなことをする気はなかったのだ。先に喧嘩を売ってきたのは帝国だ。ホフマン家の威信に賭けてもここは買わねばなるまい」
父は平然と言い切ってくれた。
なんでも、既に全軍に連絡はいっているようだ。
いざという時は万難排して出撃しろと。
「俺は赤い悪魔か黒い死神を叩く、お前は金色の魔女を叩き潰せ。あいつに生き残られると後が面倒だ。絶対にアルトとユリアには相手にさせるなよ。良いように遊ばれるのが落ちだ」
父はそう言ってくれたけれど、
「残りはどうするのですか?」
「後は出たところ勝負だな」
「えっ」
俺はまたしても絶句した。
出たとこ勝負って何だよ!
もっと確実な手を持っていろよ!
俺は叫びたかった。
そんなことを思い出していた時だ。
ドカーン!
突然馬車が爆発に巻き込まれたのだ。
俺は一緒に乗っていたリーゼを抱えると衝撃に備えた。
ドシーン!
馬車は地面に叩きつけられて粉々になった。
倒れ込んだ俺の前につかつかと女が歩いてきたのだ。
仰ぎ見ると金色の魔女だった。
「ああら、こんなところにホフマン家の御曹司様がいらっしゃったわ。急いで馬車を走らせてどうされたのかしら?」
わらわらと現れた帝国の騎士に囲まれて、金色の魔女は俺達を余裕の表情で見下ろしてくれたのだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
追い詰められたホフマン兄姉。
反撃はなるのか?
続きは明朝です。
お楽しみに!








