真の聖女視点 むかつく皇帝に逆らったら赤い悪魔に袈裟斬りにされました
私は真の聖女様よ、偽聖女なんかと一緒にしないで!
帝国の学園の剣術競技の大活躍で一躍有名になったのに!
何よ、この雑用は!
私は帝都の中にある大聖堂の中で、その他の聖女達と一緒で貧民達に癒し魔術をさせられていた。
何故か能力のない偽聖女だけが、王侯貴族の癒しを担当しているんだけど……
能力ないんだから、あんたが雑用しなさいよ!
そう偽聖女に向けて教皇の前で叫んでやってから、この位置づけなんだけど……あの教皇、絶対に天罰を与えてやるんだから!
「はい、次」
私の前に患者が座る。
足の骨折だ。
「ヒール、次!」
「おおおお、一瞬で治ったぞ、さすが聖女様、ありがとうございます」
男は感激して私に感謝してくれたが、治るのは当たり前じゃない。
えっ、他の聖女だと半分も治らないって?
それは私が真の聖女様だからよ。偽聖女と違ってね!
後が詰まっているのよ。
「はいはい、次よ」
「聖女様、よろしくお願いします」
次の女はお腹を押さえていた。
妊娠中毒だ。
「ちょっと、この女重症じゃない! 係の司祭は何故すぐに連れてこないのよ? 無能なの?」
私は激怒した。こんな雑用はしたくないけど目の前で死なれたら厭なのよ!
本当に司祭どもも役立たずね。
「聖女様、よろしくお願いします」
うだつの上がらなそうな亭主が頭を下げてくる。
「せ、聖女様、苦しい」
「はいはい、ヒール」
私から金の光が出て女を包む。
「おおおお、神のお力だ」
周りの男達が感嘆の声を上げる。
そうよ、
もっと感激しなさい。
私が真の聖女様なんだから!
「聖女様、ありがとうございます。ありがとうございます」
亭主は私に延々と頭を下げていそうだ。
まあ、それでもいいんだけど、
「判ったから、ハイ次」
亭主の声に優越感を感じつつ次の患者を通すように私は言った。
そんな時だ。私は教皇に呼ばれた。
ついに真の聖女として立つ時が来たのね。
私は嬉々として教皇の所に飛んで行ったのだ。
でも、教皇の隣にはふんぞり返った皇帝がいたのだ。
私は嫌な予感がした。
「聖女アグネスを連れて参りました」
私を連れてきた司祭が報告した。
「おう、その方が能力だけが高い辺境の聖女か」
「な、何ですって!」
皇帝の失礼な言葉に思わず私は声に出していた。
聖女の能力低かったら聖女じゃなくて偽聖女じゃない!
「これ、アグネス、皇帝陛下に何を失礼な言葉を言うのだ」
教皇に注意されて私は思わず口を押さえた。
思い出した。こいつは冷酷皇帝だった。
「まあ、良い。ハンブルクの連中はどいつもこいつも口だけは達者だな」
呆れたように皇帝が言ってくれたけれど、自分らの作った無能聖女をもう少しなんとかしなさいよ!
私はそう叫びたかった。
「実はのアグネス。その方を皇帝陛下が雇って頂けるとおっしゃるのだ」
「貧民相手に毎日雑用をしているそうではないか? 貧民どもの相手をするくらいならば我が騎士や兵士達の治療役に使ってやろうと思ってやったのだ」
「陛下のお心をありがたく思うのじゃぞ」
偉そうな皇帝の言葉に教皇まで笑ってくれた。ふんっ、どのみち教皇は私を貸しだす料金を皇帝からふんだくって喜んでいるはずだ。平民からもらえる金なんか高々知れている。それよりは皇帝からくれる金の方が多いだろう。それに喜んでいるのだ。
でも、私は全然嬉しくなかった。
この冷酷皇帝の下で働く騎士や兵士の治療はあまりやりたくなかった。こいつは前皇帝一族を殺して、逆らう貴族どもを根絶やしにした冷酷非道な皇帝だ。その騎士や兵士達も碌な事に使われない。そんな奴らを癒やすのは嫌だった。
それよりも、貧民なのがむかつくけれど、治されて感激して喜んでくれる貧民達を治療している方が余程ましだった。
「その方、貧民出身なのであろうが、頑張って働けば俺が一度くらい抱いてやっても良いぞ。見れば少しは良い体つきをしているではないか」
皇帝の言葉に私はぞわりと体が震えた。
何が嬉しくてこんな厭らしい年寄りに抱かれなければならないのよ。
そんなの願い下げよ!
「ふんっ、馬鹿馬鹿しい。何で私が冷酷変態皇帝なんかに抱かれなければならないのよ」
私は後先考えずに叫んでいた。
「何じゃと」
「これ、アグネス、陛下になんと言うことを言うのじゃ」
皇帝と教皇が激高したが、どうでも良かった。
私はこいつのためには働きたくなかったのだ。
「ふんっ、あんたなんて帝国四天王使って恐怖政治敷いているだけでしょ。四天王いないと何もできないくせに。誰一人としてあんたの施政に感激している奴なんていないわよ。心の濁ったくず皇帝なんかさっさと地獄に落ちれば良いのよ」
何なら私が地獄に落としてあげましょうか?
さすがにそこまでは言わなかったが……
でも、私はもう少し我慢すべきだったのよ。
怒りにまかせて言ってはいけないことを言ってしまったのだ。
「ふんっ、それだけか、言いたいことは」
皇帝がニタリと笑ってくれた。
や、やばい、言い過ぎたかも!
私は冷汗が背中を流れた。
「愚かな奴じゃ。アーベル、この生意気な女を殺せ」
「えっ」
私は聖女だからいきなり殺されることなんてないと思ったのだ。
私の前に瞬時に赤い悪魔が現れた。
「ギャーーーーー」
そして次の瞬間体に激痛が走った。
私は袈裟斬りで赤い悪魔に斬られていたのだ。
絶体絶命のピンク頭。
ピンク頭の命やいかに?
次は逃げ出したエックお兄様達です。
今夜更新します
お楽しみに!