公爵家三男の叫び 一番弱い俺の所に帝国四天王の一人がやってきて、生きることに絶望しました
「フランツ、起きろ!」
俺はエック兄上に枕を取られて、仕方なしに起きた。
「えっ? 侍従のギルは?」
いつも俺を起こしてくれるギルを探した。
「非常事態だ、フランツ! 兄上とユリアが反逆した」
「反逆⁉」
俺はその瞬間に目が完全に覚めた。
「ついにユリアが暴走したってこと?」
「何でも、兄上とユリアは鉱山に転移してしまったそうだ。そこで獣人の奴隷の女の子が鞭打たれるのを見てユリアは我慢できなかったらしい」
俺にエック兄上が説明してくれた。現地にいた公爵家ゆかりの騎士が報告してくれたらしい。
そうか、そんなことがあったのか……まあ、ユリアならやりかねなかった。
一緒にいた兄上は当然ユリアを止めるどころか一緒に大暴れしたはずだ。
何しろ二人は公爵家の二大トラブルメーカーなのだから。
でも、奴隷を助けると言うことは今の帝国では皇帝に対する反逆だった。
「あの二人、ひょっとして『金の騎士と銀の聖女』のまねして意気がっているんじゃ無いでしょうね」
何故か部屋にいたリーゼが帝都で今絶賛上演中の演劇を口にした。
「初代皇帝陛下と聖女様の建国神話を元にしたあれだろう」
今、帝国中のありとあらゆるところで絶賛上演中の演劇だ。
王侯貴族の見る高い演劇はのは金貨何枚もするが、庶民用の劇は安いし、果ては紙芝居や人形劇も流行っていて凄まじい人気なのだそうだ。初代皇帝陛下の話だから帝国の憲兵も何も文句は言えないらしい。
確かその冒頭が奴隷の獣人を助けるところから始まるのだ。
「彼の二人ならやりかねないよね。ユリアはどちらかというとミーハーだし、昔からユリアの好きな話も建国神話だし、二人とも金の髪と銀の髪だったよね」
「まあ、最悪の場合の二人のために流行らせたんだが、それが引き金になったか?」
エック兄上が何かとんでもないことを言ったように思ったが、俺はそれ以上に気になったことがあった。
「これからどうするの?」
「俺とリーゼはとりあえず、ハンブルクに帰って父上と合流する。お前はこの屋敷を守ってもらいたい」
「ええええ! 俺が一人で守るの?」
俺は目を見開いた。
「なあに、いざとなったら降伏してもかまわん」
エック兄上は好きなことを言ってくれるが、
「降伏したら拷問されるんじゃない!」
俺が懸念事項を口にした。
「拷問されても話すようなことは何もないだろう」
「それはあの二人がどこにいるかも判らないからそうかもしれないけれど」
彼の陰険そうな皇帝の事だ。人質を拷問して殺すなんてことを平気でしそうだった。
「セバスが残ってくれるそうだから後はセバスと計らえ。今日一日ここにいれば後は潜伏しようがどうしようが構わん」
「潜伏するってどこに潜伏するのさ」
そんな当ては無かった。
本当にユリアも兄上も無茶なことをやってくれる。前もってやる時は教えてほしい。兄上かユリアの傍にいた方が余程安全じゃ無いか。
俺は文句を言いたかった。
「そうだ。ユリアのペットのピーちゃんも残るそうだから、いざとなったら頼れば良いぞ」
「ピー」
兄上の後から出てきたピーちゃんが胸を張ってくれたけれど、
「子竜を頼ってもな」
俺は肩を落とした。
「ピー」
ピーちゃんは怒って俺をつついてくれたけれど、
「ちょっと、ピーちゃん、痛いから辞めて、痛い! 本当に痛いから」
俺は必死にピーちゃんから逃れた。
本当に頭も体も痛かった。
エック兄上はそれからすぐにリーゼと馬車10台、騎士30名を連れて屋敷から出て行った。
残ったのは使用人が10名と俺だけだった。
これはどんないじめなんだと俺はエック兄上に文句が言いたかった。
「なあに、騎士が50名いようがほとんどいなかろうが、やられる時は同じだ」
エック兄上は堂々と言ってくれたんだけど、それって確実に俺は捨て駒だ。
本当に信じられなかった。
「大物は俺たちが引きつけてやる。来るのは大したことは無いはずだ。ホフマン家にフランツありと帝国の愚か者達に示してやれ」
エック兄上はいつも無茶振りする兄上みたいなことを言ってくれたけれど、悪いところだけがうつったのか?
この戦力でそんなの言えるわけ無いだろう!
仕方がない。
俺様は当主の部屋に籠もることにしたのだ。
一応ここなら地下に逃げられるはずだ。
扉を閉め切って完全防御だ。
一応三日分の非常食も持ち込んで、ピーちゃんと一緒に籠もったのだ。
使用人達には帝国が来たら逃げろと言っておいた。
まあ、門番もいないのだ。
帝国の奴らは公爵家の人間が逃げ出したと思ってくれたら言うことはなかった。
俺は扉に木を打ち付け終わってほっとした時だ。
非常食のクッキーをボリボリピーちゃんが食べているのを見つけたのだ。
「ちょっとピーちゃん、それ非常食だから、今食べるのやめてよ」
でも、ピーちゃんは俺の言うことを聞いてくれるわけもなかった。
ピーちゃんに言うことを聞かせられるのはユリアだけだ。何故かピーちゃんはユリアの言うことだけは聞くんだけど、俺の言う事なんて絶対に聞かない。
ピーちゃんは全てのクッキーの袋をつついて開けて食べ出したんだけど、非常食食べられたらもう、籠もれないじゃないか! 俺はもう涙に目になった。
そんな時だ。
ドカーン!
大音響がして、屋敷が揺れた。
それと同時に壁がぶち破られて巨大な黒竜が顔を出してくれた。
俺には壁の破片が落ちてきた。ピーちゃんは無視して食べ続けていたけれど……
「なんだ、小僧、貴様しか残っていないのか?」
竜の上に乗っていたのは帝国四天王の一人、青い凶器、竜遣いのエルネスタ・オルロープ伯爵だった。
名前の通り、彼は古代竜を使役するのだ。凶器である古代竜の黒龍を意のままに操っていた。
エルネスタはゆっくりと竜の首から飛び降りてくれた。
「この屋敷を全て破壊しろ」
「ギャオーーーーー!」
黒龍は首を大きく振った。
ドカーン
大音響と共に屋敷が壊されてぺちゃんこになるのが判った。
数百年の歴史のある侯爵邸が壊された。
「おのれ、貴様!」
頭にきた俺は剣でエルネスタに斬りかかった。
しかし、男が手を振ると黒龍が頭から突っ込んできたのだ。
俺は剣もろとも吹っ飛ばされて、かろうじて残っていた壁に叩きつけられていた。
「ふんっ、今から貴様を冥途に送ってやろう」
エルネスタはニタリと厭らしい笑みを浮かべると俺の方に寄ってきた。
「ギャーーーーー」
そして、思いっきり俺の手を踏んでくれたのだ。
俺は悲鳴を上げるしかなかった。
俺は噂を思い出していた。竜遣いは相手を散々痛めつけてその後に竜に食わさせると……
げっ、どうすればいいんだ!
こんな時に限って生意気なユリアや兄上はいない!
帝国四天王なんかにホフマン家の出来損ないの俺が抵抗できるわけは無いじゃないか!
俺の心は絶望に染まった。
どうする?
絶体絶命のフランツの運命やいかに?
続きは明日です。








