獣人の長にお兄様と二人で訓練をつけてもらいましたが、帝国四天王にはまだまだ適わないとダメ出しされました
翌朝気付いたら抱き枕が無かった……
私を抱きしめてくれていたお兄様は隣にはいなかった。
少しがっかりしたのは秘密だ。
昨日はうなされていた私を心配してわざわざ見に来てくれたみたいだし……
まあ、昔はさみしがる私とよく一緒に寝てくれたから、普通と言えば普通なんだけど、最近はニーナが煩くなってそんなに一緒に寝ていなかったけれど……
「いくら兄妹といえどもお年頃の男女が一緒の布団で寝るなんて言語道断です」
って煩いのよ。
まあ、昨日は両親が殺されたことを思い出してショックを受けていたから、お兄様の添い寝は嬉しかった。
まだまだ私はお兄様ッ子だ。
これでお兄様に婚約者が出来たらどうしよう?
昨日みたいにお兄様に抱きしめてもらうのも、さすがにもう出来ない。
そうなったら一人で修行の旅にでも出ようか?
私は少し心細くなった。
でも、お兄様はどこに行ったのだろう?
お兄様の部屋をそうっと覗いてもいなかった。
稽古だろうか?
外に出ると早朝の高原は空気が澄んで気持ちよかった。
鳥のさえずりが聞こえて、白く漂う冷たい霧に肌が当たってすがすがしい。
ダン!
「ギャッ」
遠くで音がしたのでそちらに向かう。
そこでは長に稽古をつけてもらっているお兄様がいた。
お兄様に向かって長の杖から次々に丸い色のカラフルなボールが飛び出していた。
お兄様はそれを次々に斬り捨てているが、時たま、ボールを斬った瞬間、爆発するのだ。
ドカン!
また爆発した。
その爆発に巻き込まれて、お兄様が黒焦げになって倒れていた。
「どうした。こんなことで四天王に勝てるなどと本気で思っているのか?」
「まだまだ!」
長の嘲りの言葉にお兄様が立ち上がる。
「では行くぞ!」
また、次々にお兄様に丸いボールが飛んでいく。
どうやら、赤いボールを斬ると爆発するみたいだった。
お兄様が赤いボールをかわしている。そのついでに横の黄色いボールを切った時だ。
ドカーン!
突然ボールが爆発してお兄様は黒焦げになっていた。
「ヘルカ殿、今のは黄色だったのでは?」
お兄様が文句を言うと
「愚か者。いつも赤いボーが爆発するとは限らんわ。その爆発を避けてこそ一人前じゃ」
「えっ⁉」
長の言葉にお兄様は唖然としていた。
「ふんっ、まだまだじゃの? アーベルなんぞはこれを四方向から受けて全てクリアしておったぞ」
長の言葉にお兄様は歯ぎしりして立ち上がった。
「くっそう、判りました」
お兄様は長に剣を構えて向き合った。
「よろしくお願いします」
「うん、行くぞ」
また、お兄様に向かって長から次々にボールが飛び出したのだ。
お兄様は次々に飛んでくるボールを斬り結び、避けるのだが、今度は爆発するボールが増えていったのだ。
ドカーン
ドカーン
ドカーン
と
私はボコボコにされるお兄様を見ているしか出来なかった……
朝食が出来たとアリーサが迎えにやってきた時には、お兄様はボロボロで立っているのもやっとの状態だった。
それを見たアリーサは驚いて棒立ちになっていた。
「お兄様!」
私は慌ててお兄様に駆け寄ると肩を貸した。
「ユリアか。見ていたのか。全然だったな」
お兄様が肩を落として言うんだけど……
「ううん、お兄様は凄いよ。長のあんな攻撃耐えられるなんて」
私が感心すると、
「四天王達はあの攻撃を四方向から喰らって躱せるそうだからな。俺はまだまだだ」
お兄様は首を振ってくれた。
「そうか。赤い悪魔はあれを四方向から受けて躱せるんだよね」
私も遠い目をした。
私も一度赤い悪魔と対峙したことがあったけれど、あんなのは赤い悪魔にとって遊びみたいなものだったんだろう。お兄様でも一方向からの攻撃でも避けきれないのだ。私なんてもっと駄目だ。
駄目だ、私ももっと頑張らないと。
そうでないと、赤い悪魔に一撃も浴びせられない。
対峙したは良いが、遊ばれて殺されたのでは死んでいった両親にも申し訳ない。
やるからにはせめて一撃でも浴びせられるようにならないと……
私も志願して食事の後から長に訓練をつけてもらった。
私は一方向からお兄様は二方向から長は攻撃してくれた。
長の杖からは機関銃のように次々にボールが出てきて私達に向かってくるんだけど、その数の凄いこと凄いこと。長がいかに魔術の扱に優れているかはそれを見ただけで判った。
私にはあそこまで大量の魔術の塊のボールを出すことなんて無理だ。
私は必死にボールを斬って赤い球を避けた。
でも、飛んで行った赤い球が返ってくるんだけど……
「えっ?」
ホーミングになるなんて聞いていない。
やむを得ず斬ると
ドカーン!
爆発して私は黒焦げになったのだ。
それを何度か喰らうとさすがの私も気絶してしまうんだけど、そうなるとアリーサさんが癒し魔術で治してくれた。
今も気絶したお兄様を膝の上に乗せて癒やし魔術をかけているんだけど……ええええ! お兄様を膝の上に乗せるって何なの? 温厚な私もさすがにむっとした。
そちらに気がむいていたので、その後ろで獣人達が話している声は全く聞こえていなかった。
「長老、帝国四天王になるとあの攻撃を四方向から受けても躱せるって本当ですか?」
「それは無理だろう。あの帝国を建国された初代皇帝陛下ですら二方向からの攻撃を躱すので精一杯だったとのことだからな」
「じゃあ、あのアルトって人は初代皇帝陛下並みってことですか?」
「ま、あと少しかな」
そんな会話がなされているなど全く知らなかった私だった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
長はほら吹き婆さんでした…………
続きは今夜です。
お楽しみに!