獣人の隠れ里の長から自分の母親が帝国の皇女殿下だと聞かされました
そこから私達は獣人の隠れ里に向けて移動することにした。
獣人達の中で力のある者達に傭兵達の剣を持たす。
そして、私達は歩き出した。
道なき道を山の中を十キロ歩くのだ。
先頭は熊獣人のタピオと虎獣人のテイヨだ。その後ろに私がウサギ獣人の子供のアダを抱っこして続く。そして、女性陣で男性陣と続いて最後がお兄様だ。結構山道だけど、獣人達は人間よりも体力があるみたい。
帝国、建国の時に初代皇帝陛下は獣人の力も結構借りたみたいだ。
今の帝国の教科書からは抹消されているけれど、ハンブルク王国の教科書には抹消されずに載っていた。私の家庭教師でもあった歴史学のコルネリウス先生が帝国の圧力にもめげずに残したらしい。ゲオルクがこんな歴史があるかと怒っていた所だ。
権力者は都合が悪くなると歴史から抹消するらしい。
私自身、獣人のことをそんなに深く考えたことは無かったけれど、こんな酷い目に合わされているなんて思ってもいなかった。建国の時に世話になっていながら、こんな仕打ちをしていると知ったら獣人の先祖も怒りかねない。何しろ建国の功があったので、初代皇帝が国を興すことを認めたはずだった。その功を全て教科書から抹消するなんて……
今まで獣人のことなんて他人ごとだったけれど、私がよく間違われるクラウディアって人も都合が悪いから帝国の歴史から抹消されたんだろうか?
ふと考えさせられた。
そんなことを考えながら歩いていた時だ。
何の変哲も無い森の中で、
「ここです」
テイヨーが巨大な木に開いた穴に入っていったのだ。
私もその後に続いた。
どんな仕組みになっているかは判らなかったが、中に入ると大きく開けた広大な空間が広がっており、そこには沢山のツリーハウスが連なっているのが見えた。
「「うわーーーー、凄い!」」
私はアダと一緒にはしゃいでいた。
「貴様、人間だな、何故人間がここに来た?」
でも、そんな私が入ったところで獣人達に槍を向けられたのだ。
その獣人達の目は怒りに満ちていた。
人間の今までしてきた事に対する怒りだろう。
でも、その瞬間抜き身の剣を構えたお兄様が私の前に転移してきたのだ。
「止めろ、トニ! この方々は我々を助けて頂いたのだ」
テイヨが獣人達と私達の間に入ってくれた。
「何だと、この者達は地を探るために貴様等を助けたのでは無いのか」
トニと呼ばれた男は胡散臭そうに私達を見た。
「そもそもその女は皇族の印の銀髪ではないか?」
「帝国の間者じゃないのか?」
「絶対に怪しいだろう?」
男達が口々に言い出した。
「何だと!」
殺気立つお兄様といい、これは最悪だ。
これはまずい……どうしよう?
私が思案していた時だ。
「く、クラウディア様!」
後ろからやってきた男が突然私を見て叫んでくれた。
間違われたのはまただ。
男は目の前の獣人の男達をかき分けて強引に前に出てきた。
獣人の男達もお兄様も戸惑ったみたいだ。
「ご無事でしたか?」
今にも泣きだしそうな目で私を見ているんだけど……
「いえ、私はクラウディア様ではなくてユリアーナです」
私は否定した。
「そ、そんな、あなた様はどう見てもクラウディア様にそっくりです」
「いえ、人違いかと」
男は私を見つめてきたが、違うものは違うのだ。
「ユルヨ、宜しいですか」
その後ろから見目麗しい女の人が現れた。
「アリーサ様」
私に話しかけていた男は慌ててその女に場所を譲った。
「お客人。長がお会いしたいそうです」
アリーサと呼ばれた女の人がお兄様と私に話しかけてきた。
私達はそのままこの里で一番大きなツリーハウスに案内されたのだ。
「おお、ようこそおいで頂けた。私はこの地の長ヘルカと申します」
長は老婆だった。相当な年のようだったが、女の人の年齢はよく判らない。
「俺はアルトだ。こちらが妹のユリア」
お兄様が私も紹介してくれた。
老婆は私達に席を勧めてくれた。
「我が奴隷となった獣人を助けて頂いたとか。お礼を申し上げます」
老婆が頭を下げてくれた。
「人間を奴隷にするなど、許されないことだ。当然の事をしたまでだ」
お兄様の言葉に私は頷いた。
「おおおお、そう言って頂けるか」
老婆は感動していた。
「再びこの地に金の騎士様と銀の聖女様を迎えられるとは何という事じゃろう」
老婆は一人感動しているんだけど……
「ヘルカ様、金の騎士様と銀の聖女様と言われると?」
一緒に老婆の隣に座ったトニが尋ねた。
「初代皇帝陛下と聖女様じゃよ」
老婆は当たり前のように話してくれるんだけど……
初代皇帝陛下と聖女様がこの地に来たことがあるなんて私は初めて聞いた。
「お二人は奴隷になっていた獣人を助けてこの地に送って下されたのじゃ。妾はあまりの神々しさにその時のお二人に後光がが差しているように見えたものじゃ」
老婆はあたかも見てきたように話してくれたんだけど……数百年お前の話だ。
幾ら老婆でも生きていたはずはないだろう!
後でアリーサに聞くと、老婆の年齢は不詳で帝国建国時代から生きていたかもしれないとのことだったけれど……幾ら獣人が人間に比べて長寿だといってもそんなに人間とは大きくは変わらないはずだった。そんな昔から生きていたとは思えなかったんだけど。
「アルト様と言われると父上はホフマン卿か」
「父をご存じなのですか?」
驚いてお兄様が長に尋ねていた。
「妾は昔学園で教えていたことがあっての。その時の元気な男が貴様の父親じゃろうて。ハンサムな男で女どもからキャーキャー言われて喜んでおったがの。その中の一人にその方の母もおったが」
長は私を見て教えてくれたんだけど……
「お母様って?」
私は母のことはほとんど聞いて事がなかったのだ。
「ルードルフから聞いておらんのか?」
長は驚いたように私を見た。
私が頷くと
「クラウディア皇女じゃよ」
私は長の言葉に唖然とした。
クラウディア皇女?
皇女って言った?
私のお母様って平民じゃなくて帝国の皇女様だったの?
私はハンマーに頭を殴られたような気分だった。
ここまで読んで頂いてありがとうございました
ついに明かされたユリアの母の正体。
動揺するユリア。
続きは今夜です。
お楽しみに!








