助けた獣人を連れて獣人の隠れ村に行くことになりました
男は壁に激突して動かなくなっていた。
私は幼い子供に鞭をあげていた男を許せなかった。
完全にぷっつんキレていた。
「アダ!」
女の子は倒れ込んでおり、その子に母親が慌てて駆け寄っていた。
「き、貴様、何奴だ!」
周りの監督官達が慌てて鞭を構えて駆けつけてきた。
「貴方たち、小さな女の子に鞭打ちするなんてそれでも人間なの?」
私は周りの男達を睨み付けていた。
「はああああ! 奴隷をどうしようと俺達の勝手だろうが」
「奴隷? こんな小さい子を奴隷として扱っているの?」
私は更に頭に血が上った。
「そうだ、小娘。獣人は奴隷として扱えっていうのがこの国の皇帝陛下の方針なんだよ」
「貴様こそ、皇帝陛下のお考えに逆らうというのか?」
男達の声で、私はいやらしい笑みで私を見つめていた皇帝のことを思いだしていた。
彼奴は人間としても最低だった。
「何の罪もない子供達を獣人と言うだけで奴隷として扱っているというの?」
私は元々前世日本人だ。
私のいた日本には当然奴隷なんていなかった。
元々帝国に奴隷制度があるのは頭では歴史で習って知っていた。
でも、現実を見て私は到底耐えられなかった。ここにいる皆は鎖をつけられてこの鉱山で働かされているみたいだった。
そもそも帝都では私の見る限り奴隷なんていなかった。
獣人は今の帝国の人間からは忌み嫌われる存在なのかもしれない。
しかし、見た目は人間とほとんど変わらない。尻尾があって耳が獣耳になっているだけだ。
それだけの理由で奴隷にするなんて許せない。
それにそもそも初代皇帝陛下と聖女様が当時奴隷とされていた獣人を解放して獣人王国を建てさせたのだ。それを奴隷にするなんて初代皇帝陛下と聖女様に対して冒涜することになる。
私は許すことが出来なかった。
前世の記憶があるからか、あんまり王侯貴族とかも私は苦手だったんだけど、奴隷だけは生理的に許すことが出来なかった。
「ふん、今頃になってしでかしたことに怖じ気づいたのか」
男がにやりと笑ってくれた。私が黙っていることを変に捕らえたみたいだ。
「見た感じ感いい顔しているじゃねえか」
「じっくり皆で可愛がってやろうか」
男達が下卑た笑みを浮かべて近付こうとしてくれた。
その瞬間だ。
私の真後ろから衝撃波が飛んで行った。
「「「ギャッ」」」
ドッカーン!
それは男達を一瞬で壁に叩きつれていた。
「貴様等、俺のユリアをいやらしい目で見るな」
そこには怒り狂って剣を構えたお兄様がいたのだ。
「こ、殺される」
ピーーピーー
残った男達が我先に逃げ出して呼び笛が鳴らされた。
わらわらと傭兵達が駆けつけてきた。
でも、そんな奴らが私達に敵う訳はなかった。
傭兵達が全員地べたにひれ伏すのにそんな時間もかからなかった。
「せ、聖女様!」
それまで呆然とそれをみていた獣人の一人が私を見て声を出してくれたんだけど……
聖女って言われて私はピンク頭と緑頭を思い出した。
あいつらと混同されるのは嫌だ。
私はとっさに拒否しようとした。
「ほ、本当だ」
「銀髪の聖女様だ」
「我らの守り神が復活されたのだ」
全員が私を拝みだしてくれたんだけど……
私は呆然とするしかなかった。
彼らの話を総合すると十年前の政変で皇帝になった前皇帝に反感を持っていた獣人王国に、帝国軍が侵略したそうだ。それは酷いもので、村々を蹂躙、何万人もの獣人が虐殺されたそうだ。歴史にはそこまで載っていなかった。皇帝に逆らった獣人王国を制圧したとあっただけだ。帝国四天王がここぞとばかりに活躍したらしい。獣人王国にも強力な戦士がいたが、太刀打ちできなかったらしい。生き残った者達も奴隷として鉱山送りや人夫、あるいは娼館送り等にされたらしい。
私は聞いていてムカムカした。
到底同じ人間がやったこととは思えなかった。
私には許されなかった。
そんなことを同じ人間に対して行った皇帝と四天王を許せなかった。
獣人達は百人以上いた。
辺りの鉱山には更に千人以上がいるとのことだった。
取りあえず、周りの千人のことよりもまずはこの100人をどうするかだった。
このままここに残しておけば帝国軍が襲ってくるのは必然だった。これ以上残酷な行為をさせる訳にはいかない。この100人をどこか安全なところに隠す必要があった。
それにあまり遅くなるとエックお兄様達が心配する。出来たら彼らを安全なところに匿って取りあえず家に帰りたかった。
「聖女様、この鉱山から十キロほど奥に入ったところに昔の獣人の隠れ村があります」
一人の獣人の男が教えてくれた。
「タピオ、それを人間に教えていいのか?」
「テイヨ。聖女様になら教えても良いだろう。聖女様は俺達を助けて頂いたのだ」
「しかし……」
「テイヨ! 俺等が生き残るためには、ここにおはす聖女様のお力にすがるしかないのだ」
最年長ぽい老人に言われて、テイヨと呼ばれた男は下を向いた。
「テイヨ。ここはお前らを安全なところに移すのが先決だ。俺達が入れないのならば入り口まで送って行って俺達は別れる」
お兄様がテイヨを見た。私はそれが一番良いと密かに思ったのだ。
「そんな剣聖様。我らを見捨てないでください」
「「「剣聖様!」」」
今度は皆がお兄様にひれ伏さんばかりに祈りだした。
私はお兄様と顔を見合わせた。
こうなれば乗りかかった船だ。
最後まで面倒見るしかないだろう。
私はこの日帰るのを諦めたのだった。
そして、私は二度と屋敷に帰ることはなかったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
ユリアが暴走して新たな展開に話は進みます。
続きは今夜です。
お楽しみに!