鉱山に転移した私は奴隷の獣人の女の子を鞭で殴ろうとした男を殴り倒していました
翌日だ。
私は訓練するためにダンジョンにも行くなと言われていたし、やることないので今日はのんびりしようとふて寝していたのだ。
ニーナにも今日は寝ると伝えていたし、ピーちゃんを抱き枕にして寝ていた。
ピーちゃんは温かいのだ。
私が久しぶりにゆっくり寝ていると、
「ドンドン!」
でも、皆が学園に出た頃だ。いきなり扉がノックされたのだ。
この叩き方は絶対にお兄様だ。
「どうしたのよ、お兄様。今日くらい寝させてよ?」
私は夜遅くまでお兄様の夜間訓練に付き合わされていて、まだ寝ていたかった。
寝ぼけ眼の目をこすりながら扉を開けると、迷彩服と大きな荷物を背負ったお兄様がいた。
「ユリア、いつまで寝ているんだ? 行くぞ!」
「行くって、エックお兄様にダンジョンには絶対に行くなって釘刺されていたじゃない」
お兄様に反論すると、
「帝都の傍のダンジョンは止めろという事だろう。遠くのダンジョンなら問題ないはずだ」
お兄様は当然のように言ってくんれるんだけど……
「えっ、遠くなら良いの?」
私は少し考えた。
あまり目立つ行動はするなとエックお兄様からは釘を刺されていたような気がするけれど……
「でもお兄様。遠くにはどうやって行くのよ?」
毎日夜にはエックお兄様とお姉様の皇帝と金色の魔女賛歌の反省文を書かないといけないのだ。何であんな人を犬にして喜ぶような金色の場所におべんちゃらを書かないといけないんだか……今から憂鬱だ。この一ヶ月間でお陰で嘘のヨイショ作文を書くスピードはものすごく速くなった。嘘をつくのがうまくなってどうすると思うんだけど、嘘も方便だとエックお兄様とお姉様に言われては反論できなかった。遠くに行ったら帰って来れないんじゃないかと私は不安に思った。
「そんなの俺の転移で行くに決まっているだろう」
「でも、お兄様私を連れて遠くまで行けるの?」
私はお兄様を心配した。確かあまり遠くまで転移が出来なかったと思ったんだけど……
「ユリアは軽いから全然問題ないぞ。俺も日々進化しているからな。遠くになれば多少は到着点がぶれる程度だ」
その多少が怪しいんだけど、転移で行って帰って来れるならば、夜の作文の時間には間に合うだろう。
「判った、すぐに準備するから」
私はそう言うとニーナと部屋に戻ったのだ。
「あまり遠くに行かれると困るんですけど」
ニーナが私を迷彩服に着替えさせてくれながら呟いてくれた。
「お兄様がいるから大丈夫よ。四天王以外には負け知らずだし」
私が安心させるように言うと
「そこが心配なんですけど。アルトマイアー様とユリアーナ様が何かされれば被害が倍増しそうな気がするのです」
「大丈夫よ。お兄様が暴発しそうになったら私が止めるから」
私は胸を叩いて保証したのに
「それが不安なんですけど」
失礼な事をニーナが言ってくれた。
「えっ、私では止められないって言うの?」
むっとして私が聞くと
「ユリアーナ様が率先して飛び出す可能性もありますから」
ニーナは本当に失礼だ。
「ピーーーー」
ピーちゃんまで頷いてくれるんだけど……
エックお兄様からも自重するように言われているんだから、暴走する訳ないじゃない!
私が着替えて廊下に出ると、
「アルトマイアー様。くれぐれもユリアーナ様の事よろしくお願いいたします」
ニーナがお兄様に頭を下げてくれるんだけど、私は暴発したりしないから!
「ユリアのことは任せておけ。夕方までには戻るから」
そう言うとお兄様は私を抱き上げてくれたのだ。
「行くぞ、ユリア」
「えっ、もう?」
私がそう聞き返した時にはお兄様は転移していた。
「きゃっ!」
私はお兄様にしがみついた。
まあ、お兄様にさえしがみついていれば問題ないだろう。
次の瞬間私達は真っ暗な中に転移していた。
私達は洞窟のようなところに出ていたのだ。
お兄様が明かりを魔術で灯してくれた。中は本当に洞窟だった。
「ええええ! お兄様いきなりダンジョンの中に転移したの?」
私は驚いた。
いつものことだけど、一応ダンジョンに潜る時は私も心構えがいるのだ。
「いや、洞窟の中だが、これはダンジョンではないのではないか? 人工的に掘り進められたみたいだ。鉱山か何かだと思う」
洞窟を見回しながらお兄様が指摘した。
確かにつるはしかないかで掘られた跡があった。
「どこの鉱山なの?」
「うーん、ビッグキャッスルのダンジョン目指したんだが、その近くの鉱山かな」
私はお兄様に手を繋がれて歩き出した。
「ええええ、数百キロも離れているじゃない。お兄様、そんな距離転移できるんだ」
私は驚いた。
「まあ、俺様も日々訓練しているからな。当然成長しているさ」
お兄様は嬉しそうに言ってくれた。
「私も転移できるようになるかな?」
「もう少し大きくなってからだな」
「ええええ! 今でも大人なのに!」
お兄様の答えに私が文句を言うと、
「俺でも四年生になってからだったからな。四年生になったら教えてやるよ」
「ええええ! そんなに待つの?」
私はむっとした。
「転移できるようになったら、お兄様と別れ別れになってもすぐに会えるのに」
私が言うと
「何を言っているんだ。ユリアは俺が一生涯守ると言っているだろう。別れ別れになることなんてないさ」
お兄様はそう言ってくれるけれど、確かにお兄様は強いけれど、帝国四天王にはまだ勝てない。
学園に四天王を次々に派遣してくる帝国の動きが私は少し不安だった。
「しっ、声が聞こえる」
何か言おうとした私の口をお兄様が塞いだ。
耳を澄ませると確かにその先から声がした。
でも、女の子が泣いているような声がするんだけど。
私達はそちらの方に近付いた。
お兄様が陰から様子を見る。
私もそのお兄様の下から見た。
「えっ、なんなのこれ?」
私は目を見開いた。
中では獣人らしい者達がみえた。
皆足に鎖が繋がれている。
獣人達は鉱山で働かされているみたいだ。
それを鞭を持った男達が監督しているようだった。
ビシ!
「キャッ」
その鞭を受けて女の子が悲鳴を上げて転んだ。
まだ八歳にもなっていないと思う。
「おら、何を休んでいる。さっさと働け」
男が叫んでいた。
「止めてください。娘に鞭を使わないで」
母親とおぼしき女の人が娘を庇おうとした。
「煩い!」
男は女の人を張り倒していた。
「キャッ」
頬を押えて女の人が倒れていた。
「つべこべ言わずにお前も働け!」
男はまた、鞭を女の人に打ち付けていた。
ビシ、ビシ
何回も打ち下ろされる。
「や、止めて、お母さんをぶたないで」
最初に打たれた女の子が男の足にすがりついていた。
「じゃかましい!」
男は今度はすがりついていた女の子を引き剥がして蹴倒していた。
「ギャッ」
女の子が地面に叩きつけられる。
男は怒りのあまり、鞭を振り上げていた。
私はもう見ていられなかった。
「ゆ、ユリア」
お兄様の制止の言葉なんて聞いていなかった。
バシーン!
身体強化して加速して飛び出した私は、男の顎を思いっきり殴りつけていたのだ。
いきなり飛び出したユリア、お兄様よりも早くも暴発です。
でも、大人しくしているするようにエックお兄様に厳命されていたのに、良かったのか?
飛び出したユリアの運命や如何に?
続きは明日です。