とある冒険者の独り言 兄妹冒険者に帝都の周りのダンジョンは全て制圧されてしまいました
俺はセド、この冒険者グループ『バスターズ』のリーダーだ。
俺達はこの帝国の帝都の冒険者ギルドに所属していた。
帝都の周辺には多くのダンジョンがあって、俺達はそこを拠点に活動していた。
俺達は今日もその一つダンジョンの一つのレッドドラゴンで活動していた。
「セド、最近魔物の数が減っているんじゃない?」
仲間の魔術師のキャロラインが文句を言ってきた。
「そうか、そこそこ出てくると思うが」
俺はキャロラインの文句を聞き流した。
こいつは文句を言い出したらきりが無いのだ。適当に聞き流すに限る。
「やはり、キャロラインもそう思うかい」
よせば良いのに、ゴーレム遣いのエイブがキャロラインに頷いてくれた。
キャロライン一人に適当に話させておけば良いのに!
「何でも最近帝都周りのダンジョンの攻略が増えているらしいぜ」
情報屋のトムがその話に加わってくれたんだけど……
本当に止めてほしい。
「ダンジョンが攻略されたから、このダンジョンに潜る冒険者達が増えているそうだ」
「冒険者の数が増えたから狩られる魔物が増えて、魔物の数が減っているってこと?」
キャロラインは不満そうに言った。
まあ、今日ダンジョンに潜って既に2時間経つが倒した魔物がゴブリン二体とスライム1体というのも確かに少なすぎた。
「昨日が北の森のダンジョン、一昨日が南の森のダンジョン 3日前が西の谷のダンジョンとこの3日間に限っても3つのダンジョンが完全攻略されたんだ」
「おい、それってペースが速すぎるんじゃ無いか? どこのチームがやったんだよ」
「砂漠の虎か、赤い閃光か、それとも谷底の妖怪か」
おれとエイブが聞くと、
「なんでも、金髪の男と銀髪のかわいこちゃんの兄妹ペアという話だ。名前は何だったかな、確か森の兄妹とか言うふざけたチーム名だったと思うぞ」
「おいおい、銀髪のかわいこちゃんって何だよ」
「ちょっと、セド、あなたが気にするところってそこなの」
剣呑な表情でキャロラインが口を挟んできた。
こいつはどこでも自分が一番可愛くないと気に食わないらしい。
「違う。銀髪ってのが気になったんだ」
「あなた銀髪が好きだったの?」
「何を言っている。銀髪って皇族の姫様の髪の色だろうが」
「そう言えばそうね。皇族が護衛騎士とダンジョン制覇を楽しんでいるって言うの?」
驚いたようにキャロラインが聞いてきた。
「まさかな、皇族のお遊びでダンジョンに潜るなんて事をする訳無いだろう」
トムが否定してくれた。
それはそうだ。
皇族様がダンジョンに潜ったなんて聞いたことはなかった。
あるとすれば、
「金髪の初代皇帝陛下と銀髪の聖女様ってか、建国物語じゃないか」
俺は呆れて声を出した。
初代皇帝陛下と初代聖女様がダンジョンの奥で竜と対峙してそれを倒して子分にして帝国内を跋扈していた魔物達を退治して帝国を建国したというあれだ。
この話からすると帝国を始めた二人は冒険者だったそうだ。
「そのお二人があの世から蘇って、ダンジョン制覇に乗り出したってか? そんな話がある訳ないだろう」
俺がそう呟いた時だ。
ドシン!
「ギャ!」
俺はいきなり何かに引っかけられて地面に叩きつけられていたのだ。
「痛てえな!」
俺が顔を押えて立上がると
「ご免なさい」
俺の目の前に銀色の髪のとても可愛い女の子が立っていたのだ。
俺は唖然とした。
輝く銀の髪をたなびかせた、大きな目がくりっとしていて目鼻立ちのとても整った女の子だった。
あと数年もすれば絶世の美女になるだろうと思える容姿をしていた。
その上、その子は建国の初代聖女様にとてもよく似ていた。
俺はあまりのことに呆然自失していた。
「大丈夫ですか? 怪我は無いですか?」
「いや、こいつは体が頑丈なのだけが取り柄だから」
「そうそう問題はないですよ」
何故か俺とは関係の無いエイブとトムが俺の代わりに話してくれたんだけど……
「おい、ユリア、何をしている?」
その時だ。突然、剣を抜いた大男が俺達とその少女の間に現れたのだ。
「ご免なさい。お兄様。少し失敗してしまってその人を引っかけてしまったの」
少女が兄と呼んだ男に謝った。
「だから言わないことじゃない。俺が抱き上げていた方が確実だろう」
「でも、それじゃ、私の訓練にならないじゃない!」
女の子が膨れてくれた。
「ふんっ、そうしていたらこのような屑冒険者を引っかけることも無かっただろうに」
男は平然と俺達バスターズを屑と呼んでくれた。
「おい、貴様、俺達を屑呼ばわりするのか」
俺はいきり立った。せっかくきれいな女の子と話していたのに横から出てきた男に俺はキレたのだ。この男が容姿端麗な男だったのも気に入らなかった。髪は金髪だったが、俺は無視することにしたのだ。こいつが初代皇帝陛下なんて事はあり得ない!
「邪魔をするな。俺達は先を急いでいる」
「お兄様。こちらの方を引っかけたのは私なんだから。そんな風に言わないで」
かわいこちゃんは俺を庇ってくれた。
「小僧。これは迷惑料だ」
そう言うと男は無造作に大きな魔石を俺に放ってくれた。
「えっ?」
俺は唖然とした。この魔石の大きさはダンジョンのラスボスクラスを倒した時にしか出てこない大きさだ。
「それで文句はあるまい」
男はそう言うと女の子を脇に抱き上げたのだ。
「ちょっとお兄様。私は一人で走れるわよ!」
「また、冒険者を引っかけたら困るだろう」
男はそう言いつつ、女の子の頭を撫でていた。
なんかとても甘い雰囲気なんだが……
「でも、私も訓練したいのに!」
「俺の腕の中でやれば良いだろう」
「ええええ!」
「今日のデザートもやるから」
「うーん、2個くれなきゃ嫌だ」
「判った。判った。では行くぞ」
「ご迷惑をおかけ……」
女の子の言葉は最後まで聞こえなかった。
男達はあっという間に俺達の視界から消え去ったのだ。
そのダンジョンが完全に制圧されたのはそれから1時間後だった。
やることをなくした俺達は帝都の酒場で今日あった事を吹聴するしか無かった。
こうして帝都周辺のダンジョンが初代皇帝陛下と初代聖女様の幽霊によって次々制圧されているという噂話は更に広がったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
自宅謹慎中のユリアとお兄様でした……
謹慎中なのにダンジョンなんて潜っていていいのか?
続きは明日です。
ちなみに冒険者は『傭兵バスターズ』です