次兄の策略によってなんとか無事に会場から逃げられました
「ユリアーナさん、アルトマイアーさん!
貴方方は崇高な学園で何と言うハレンチな事をしているのですか!」
形式的に抱き合うことになった私達にマイヤー先生の悲鳴に近い叱責が降り注いだのだ。
ギャーーーー!
これは最悪では?
私が気付いた時は遅かった。
怒り狂ったマイヤー先生が、私達二人の真ん前で両手を腰に当てて激怒していたのだ。
私は慌ててお兄様から離れようとしたが、お兄様は離してくれなかった。
いや、ちょっと待ってよ! マイヤー先生がいるから!
焦ったけれど、びくともしない。
元々お兄様にキスして正気に戻せって言っていたのはエックお兄様だ!
私は関係無い!
と逃げ出したかった。でもそんな訳にはいかなくて、
「いや、先生、これはお兄様が精神……」
私が理由を説明しようとした時だ。
「申し訳ありません。マイヤー先生。実はアルトマイアーとユリアーナはこの残暑に当てられまして、少し参ってしまったのです」
エックお兄様がいきなりいい加減な言い訳を始めた。
はああああ!
暑さって、私もお兄様も40度でも、大丈夫よ! お兄様の死の特訓には灼熱の砂漠の中でもさせられているんだから!
「ウホンウホン!」
更に言い訳しようとした私を咳でエックお兄様は黙らせてくれた。
「そ、そうなのですか?」
エックお兄様がとんちんかんな事を言っているのに、あまりの訳の判らない言い訳に動揺したのか、マイヤー先生が納得してくれたんだけど……
嘘! こんないい加減な言い訳で通用するの?
私はエックお兄様を見直した。
さすが、悪巧みさせたら兄妹一のエックお兄様だ!
これからはマイヤー先生への言い訳は全てエックお兄様に任せようと私は心に決めた。
「俺がユリアの傍にいたらな!」
エックお兄様が、言ってくれたけれど、確かにエックお兄様はいない事の方が多い。というかいつも突然にマイヤー先生が出てくるのが悪い。どのみちだったらエックお兄様にはマイヤー先生の傍にいてほしい!
そう言ったら思いっきりエックお兄様に叩かれてしまったんだけど……
これ以上どうでも良いことで迷惑をかけるなって事らしい。
マイヤー先生はどうでも良いことではないと私は思うんだけど、帝国の皇帝に比べたら確かにどうでも良いことのような気もした。
「反省文は後程届けさせますから、取り敢えず、家に連れて帰って宜しいでしょうか?」
「まあ、体が参っているのならば仕方がないですね」
あのマイヤー先生がが許してくれた……私は信じられなかった。
「せっかく皇帝陛下が、ご観覧されておりますのに、申し訳ありません。それではここで失礼させて頂きます」
エックお兄様は適当に皇帝陛下にも頭を下げると、私とお兄様、それとフランツお兄様と、お姉様を連れて、馬車に向かおうとしたのだ。
「えっ、ユリアーナ様は帰られるのですか?」
エアハルト達が慌てたが、私も返りたくなかったけれど、絶対に従えというエックお兄様の目がものを言っていた。こういう時に逆らうと碌な事は無いのだ。
「ゴメン、後はエアハルト達の善戦を祈るわ」
私は仕方なしにそう言うと、何故かお兄様に抱き上げられてそのまま馬車に連れて行かれたのだ。
「すぐに屋敷に!」
エックお兄様は馬車に乗る前から御者に命じていた。
馬車の中で私は相も変わらずお兄様の膝の上なんですけど……
「ユリアーナ、良かった、どこに行ったかととても心配だったぞ」
お兄様が変なことを言ってくれたが、
「何言っているのよ。ずっと同じところにいたでしょう」
私がむっとして睨むと
「いや、エックハルトが攫おうとした」
「「「「はい?」」」」
私達4人が一斉に声を上げた。
「兄上、俺は兄上とは違うんです。ユリアに興味はありませんから」
「そうだよ。兄上。ユリアなんて凶暴な奴に興味持つなんて物珍しい趣味があるのは兄上くらいだよ」
「絶対に、お兄様の趣味はおかしいと思うけれど」
なんか3人にぼろかすに貶されたような気がしたんだけど……
「ちょっとお兄様方。何か言った?」
私がむっとして睨み付けると
「そうだぞ。お前らこんな可愛いユリアが人気ない訳はないだろう」
お兄様も一緒に怒ってくれた。
「しかし、本当に考え無しにあの最悪の皇帝に喧嘩売っているんですよ。命が幾らあっても足りませんよ」
「そうだよ。俺のデザートを奪うことしか考えていないし」
「クラウス様に対する態度も全然なっていないじゃない!」
エックお兄様達はさらに酷い事を言ってくれたんだけど……
「ユリア、大丈夫だぞ、あのエロ皇帝からは絶対に守ってやるからな」
お兄様がそう言ってくれるのは嬉しいけれど、四天王は中々手強い。
お兄様でも難しいのではとつい思ってしまった。
「兄上。そういう事は四天王に勝ってから言ってください」
「そうだよ。兄上。今日も金色のお化けに化かされていたしさ。どう転んでもエック兄上がユリアなんかに興味持つことないのに」
「そうよ。ユリアなんて人気ないのに、金色のお化けに化かされるなんておかしいんじゃないの」
お姉様まで言ってくれるんだけど……
「お姉様、それはないんじゃない! そもそも今日もお姉様の婚約者に欲望まみれの視線で見られたんですけど……お姉様がもう少しちゃんと教育してよ!」
私は怒って言い返したのだ。
決して私が悪い訳ではない。元々言いだしたお姉様が悪いのだ。
しかし、その瞬間だ。
お姉様の纏う雰囲気ががらりと変わったのだ。
怖い方に……
「ユリア、今、何か言った?」
お姉様が笑顔で言ってくれたんだけど、これは顔で笑って目が怒り狂っている奴だ。
やばい!
「おい、ユリア、まずいぞ」
エックお兄様がそう言ってくれたが、私も危機感を感じた。
その瞬間、私は慌ててお兄様の背中に回ったのだ。
「ちょっとお兄様、そこ退きなさいよ」
「お兄様、助けて」
私はお兄様の背中に抱きついたのだ。
「まあまあ、リーゼ、そう言うな」
お兄様が庇ってくれた。
「ちょっとユリア、あなた後で覚えていなさいよ」
恐怖のお姉様からの視線を私はお兄様に背中で抱きついて隠れたのだ。
こういう時にお兄様の広い背中は便利だ。
私達がふざけている間も陰謀が着々と謀られていたのだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
九死に一生を得たユリア達でした。
まだまだユリア達の危機は続きます
続きは明日です
お楽しみに








