私に側室になれと傲慢に言いよってきた皇太子に対して怒りのお兄様の剣が一閃しました
「赤い悪魔の息子も大したことはないの。辺境の貴族風情に負けるとは」
私は皇太子が呟くのが聞こえた。5年A組の控えは私の隣だった。対戦順に向かい合わせになっているらしい。悲しいことにお兄様は反対側だったけれど……
「ふんっ、やむを得ん。こんなところで出るとはな」
皇太子は立上がった。
「キャーーーー」
「皇太子殿下!」
「素敵です!」
「アレクサンダー様!」
女達の大歓声が上った。
お兄様の応援は相変わらずほとんどゼロだ。
私は少しむかっとした。
「お兄様! 頑張って!」
私は出ていこうとする皇太子の横から叫んだのだ。
「その方、帝国の銀の髪を持つのに、何故、属国の貴族を応援するのだ?」
出て行こうとした皇太子が振り返って聞いてきた。
「えっ?」
私はいきなりまた皇族に話しかけられて硬直していた。
皇族とはできる限り付き合うなと言われていたのに!
「何故かと聞いておる」
男は私の方に近付いてきたのだ。
見た目だけは麗しい黒髪が……
「お兄様だからですわ」
私が答えると
「ほおおおお、その方がアルトマイアーの妹か。父が呼んだ小娘か?」
皇太子はニタリと笑った。
「よく見れば可愛い顔をしているではないか。俺様の側室にしてやっても良いぞ」
「そくしつ?」
私はぽかんとした。
そくしつ? そくしつって何だ?
部屋か何かか?
本当にその方面では純粋培養な私は、一瞬皇子が何を言い出したのか判らなかった。
そもそも私は帝国には側室制度かあるなんて知らなかった。
ハンブルク王国は一夫一妻制だったし……側室なんて知らなかったのだ。
もっともそれまでは帝国でも一夫一妻制で、側室なんてなかった。あったのは精々愛人くらいだった。
それを現皇帝が制度として作り上げたのだとか……そこに自分が殺した反対派の妻を何人も側室として入れたと後で聞いて呆れかえった。
「第二夫人とか第三夫人の事よ」
横からマリアが教えてくれた。
「俺には婚約者がいるが、貴様はきれいな銀の髪をしている。俺の側室にしてやろう。属国の貴族が皇太子の側室になれれば嬉しかろう」
そう言って私に手を伸ばそうとしたのだ。
その瞬間だ。
私と皇太子の間にお兄様が転移してきたのだ。
「痛い!」
皇太子は手をお兄様に振り払われて押えて叫んでいた。
お兄様は私を抱き寄せて庇ってくれたので私はぎゅっとお兄様に抱きついた。
「殿下、我が妹に何をしてくれるのですか?」
そこには怒り狂ったお兄様がいた。
「ほう、その方の妹か。そうじゃな。今の剣筋も良かったぞ。
その方の妹を俺様の側室に寄越せ。辺境の貴族風情が皇太子の側室に妹を差し出せるのだ。嬉しかろう」
傲慢な皇太子はお兄様にそう言ってくれたんだけど、この激怒しているお兄様にこんな上から目線でそんなことを話せるなんてこの皇太子、余程勇気があるのか、それとも余程の大馬鹿野郎なのか私はよく判らなかった。
私は即座にお兄様が皇太子を殴り飛ばすのではないかと慌ててお兄様が動かないように抱きしめたのだ。
「お兄様!」
激怒するお兄様をなんとか抑えようとする。
「なんだ? その方らえらく仲が良いではないか? ひょっとして妹と禁断の仲なのか」
この糞皇太子何を言い出すのだ。
「な、何を!」
これはまずい。お兄様は爆発寸前だ。
「本当ですな」
「実の妹とできているのではないか」
下卑た笑いがA組の中から起こる。
こいつら馬鹿か?
お兄様の強さを見たはずだ。こんなへなちょこの奴ら瞬殺されるのに!
何をとち狂っているのよ!
このままではまずい。
私は大声で笑おうとした。
「あはあはあはあは」
私は高笑いをしたつもりだった。
でも周りからはいきなりー変な声を出した狂人に見えたそうだ。
皆少し下がってくれた。
「ユリア、大丈夫か?」
お兄様まで心配してくれたみたいだ。
何なのよ! 一体!
まあ、お兄様の激怒モードがなくなって良かったけれど。
「殿下。私、弱い男は嫌いですの! そう言うふざけた事はお兄様に勝ってから言ってください」
「な、何だと」
私の言葉に皇太子はさすがにキレたみたいだ。
「女! 良く申した。俺が今からこのアルトマイアーを倒してやるわ。その後貴様をひれ伏せてやるからな」
そう叫ぶと皇太子は試合会場へ歩き出した。
「お兄様、頑張ってね。やり過ぎは厳禁よ」
仕方ないから私はお兄様をぎゅっとすると釘を刺したのだ。
怒り狂ったお兄様がやらかすと皇太子を殺しかねない。
「任せろ」
お兄様はドンとおなかを叩くと皇太子に続いて試合会場に歩いて行った。
いや、お兄様の任せろという言葉ほど信じられないものはないのだが……
まあ、最悪ピンク頭に頼もう。
真の聖女様とかなんとか言えばヒールしてくれるだろう。
玉の輿狙いみたいだし、皇太子はクラウスに比べても上だ。ピンク頭の狙いがクラウスから皇太子に移ればお姉様も幸せだし、言う事無いのでは。
おそらくピンク頭なら側室になっても頑張れるだろう。正室を毒殺しかねないけれど、それは帝国の事だ。そこまで私が心配する必要もないはず。
「アルトマイアー、その方に俺様の護衛騎士を任せてやろう。嬉しかろう? ここは負けよ」
何か皇太子がぼそぼそ呟いているのが見えたが、読唇術の使えるマリアが解説してくれた。
「あの皇太子、馬鹿なの?」
私は思わず叫んでいた。
「しーーーー」
マリアが慌てて私の口を押える。
周りから白い目で見られたけれど、私はそれどころではなかった。
そんなのお兄様に通用する訳ないでしょう。怒りに油を注ぐようなものだ。
私は後ろにピンク頭がいるのをしっかりと確認した。
もう皇太子は終わりだ……
「ふざけた事を。皇太子殿下は乱心されましたか。我が始祖初代皇弟より賜りし我が家の力とくとお見せいたしましょう」
「えっ、何をするのだ?」
皇太子は慌てだしたけれど、もう遅い。完全にお兄様はキレていた。
「始め!」
教師の合図とともにお兄様が剣を横殴りに払ったのだ。
剣は顔ではなくて皇太子のおなかを直撃した。少しは遠慮したんだろうか?
ズコーン!
皇太子は文字通りお兄様によって吹っ飛ばされていた。
ドシーン
そして、特設会場のフェンスに直撃していたのだ。
そこには唖然とする観客と顔を腫らしてピクピクけいれんする皇太子が横たわっていたのだ。
怒りのお兄様の一閃でした。
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皇太子にこんなことして良かったのか?
刻々と迫る兄妹の危機。
続きは今夜です。
お楽しみに!








