辺境の聖女が真の聖女と呼ばれて高笑いしていました
そして、ついにベストエイトの試合が始まった。
最初は我が一年E組とあのボブのいる五年B組だ。
会場はいきなりざわめきだした。
「ねえねえ、あれが四天王の息子のボブ様なんだ」
「ああ、子供の喧嘩に親を呼んできたボブ様ね」
「えっ、何なの、それ?」
「あなた知らないの、あんな巨体なのに、一年の属国の女の子に負けて、悔しいからって親の四天王呼んで仕返しさせたそうよ」
「えっ、そうなの?」
「最低よね」
「本当に最低だよな」
女達の声に男の声も混ざる。
「お、おのれ!」
それを聞いてボブは体を震わせていた。
私がボブの親にボコボコにされた後でボブ自ら来て、
「いや、申し訳ない。ただ、本当に俺は親の教師の件は何も聞いていなかったんだ……」
と散々言い訳していったけれど、
「結局、親が来てユリアーナ様に酷い事をしていったのは事実だよな」
「子供の喧嘩に親を連れだした結果になったのは同じだし」
エアハルト達は容赦が無かった。
「ようし、子供の喧嘩に親を出した卑怯なボブさんのクラスなんて敵じゃないぞ」
「そうだ。俺達で叩き潰してやる」
エアハルトやフィリベルトはやる気満々みたいだけど、相手は五年生だ。そう簡単にいく訳ないだろう。
「ちょっと、お前らな、相手は優勝候補の一角だぞ」
グレゴールが窘めてくれた。
「ふんっ、五年生だろうが卑怯な奴らは許せない」
「そうだ。俺達もボブさんのお父さんには散々な目に合わせられたんだ。今こそ仕返ししてやるんだよ」
確かに、エアハルト達も私と同クラスだったから、私が倒れた後に黒い死神にボコボコにされていた。その恨み辛みがあるみたい。でも、相手は騎士志望もたくさんいる5年B組だ。普通は勝てないだろう。
私は仕方なしに五年生の五人を弾き飛ばすつもり満々でいた。
しかし、しかしだ。
何と先鋒のオットーとエアハルトで4人を倒してしまったんだけど……何で?
後で聞いたところでは私が緑頭を気絶させてしまって、それをピンク頭が治さなかったから、治療要員が足りなくて、五年B組は戦力的に大変苦しい状況に陥ったらしい。
ピンク頭にも看護室に入ってくれるように頼みに来たみたいだけど、
「真の聖女様って貴方たちが呼んでくれたらやってあげても良いわ」
と上から目線で言ったものだから、周りの面々も教会のメンツもあってピンク頭を連れ出せなかったみたいだ。
聖女をダウンさせた私とそれを治療しなかったピンク頭のお陰だとは知らなかった。
「ユリアーナ様。次はあの子供の喧嘩に親を引っ張ってきた卑怯なボブさんです。必ずや、ユリアーナ様の仇は取りますから」
エアハルトは胸を張ってくれた。
「いや、相手は四天王の息子よ。そう簡単に勝てないから」
「卑怯ものには鉄槌を下してやりますよ」
エアハルトは私の忠告を全く聞いてくれなかった。
「小僧、ここまで勝てたからと言って調子に乗るなよ」
巨体のボブとエアハルトは向き合った。
「ふん、自分が完敗したからと言って親を連れてきた卑怯なボブさんには負けませんよ」
「はああああ! 貴様、ふざけた事を言いおって」
「始め!」
審判の先生の合図で、試合が始まった。
「ウォーーーーー」
ボブは雄叫びを上げて、剣を振り下ろす、
「ギャーッ」
剣で受けようとして失敗して文字通りエアハルトは瞬殺されてしまった……
いや粉砕か……
顔をガンガンに腫らしてエアハルトが担架でこちらに運ばれてきた。
ピンク頭の前に。
「ええええ! 何で私がこいつの治療をしなければいけないのよ」
ピンク頭が文句を言ったが、
「真の聖女様、よろしくお願いします」
オットーがそう言って拝むと、
「まあ、仕方がないわね、ヒール」
話す片手間にピンク頭が手をかざすと金色の光が出て、エアハルトは一瞬で治った。
ピンク頭は単細胞だった。
「さすが」
「真の聖女様は違うわね」
クラスの面々が驚いて言う。
「おいおい、あのピンク頭の女の子が一瞬で重症者を治したぞ」
「うそ、聖女様よりも凄いんじゃないの」
「聖女様の時はヒールしてもらうまでに30分くらいかかったのに」
「今の一瞬だったよな」
「おいおい、あっちが聖女様ではないのか」
外野から声が聞こえた。
ピンク頭は自慢げにうんうん頷いている。
「いや、そんなことはないんじゃない」
「そうよたまたまよ」
「うーん」
半信半疑の子らもいるが、まあ、ピンク頭の方が能力は上だ。性格の悪さはどっこいどっこいだったけれど……
次のフィリベルトも瞬殺された。
ボコボコにされた体をピンク頭は一瞬で治していた。
「なあなあ、聖女様はあんなに次々にヒールした所なんて見たことあるか」
「いやあないぞ。いつも30分以上は待たされる」
「でも、あの女一瞬で治したぞ」
「それもむ二人連続だ」
外野のざわめきが大きくなる。
ピンク頭はほくそ笑んでいた。
どのみち頭の中はこれで緑頭を蹴落とせるとか、良からぬ事を考えているに違いない。
そして、次の戦いだ。
副将のグレゴールは再びベティにこの剣を捧げると跪いてボブの所に向かった。
「ふんっ、辺境伯の騎士見習いか。一撃で倒してやるわ」
「ふんっ、親は助けてくれないぞ」
皆余計な事を言わなければ良いのに……
その瞬間ボブは瞬間湯沸かし器のようにぷっつんキレていた。
「始め!」
教師の合図と同時にボブの剣が一閃してグレゴールは吹っ飛ばされていたのだ。
仮設フェンスに直撃する。
「グレゴール!」
ベティが飛んで行った。
グレゴールに抱きついて揺するがフェンスに直撃したグレゴールは本当に虫の息だった。
「ああああ、ボブを怒らせるからこうなる」
「本当にいい気味ですわ」
そこに現れなくていいのに、第三皇子と緑頭が現れた。
緑頭はやっと起き出したみたいだ。
「ベティーナ、私のいないところでいつもパウリーネに辛く当たっているそうではないか。ここでパウリーネに謝れば、俺からパウリーネにその者を治すように頼んでやっても良いぞ」
第三皇子は恩着せがましくベティに言った。
しかし、ベティは皇子を睨むと二人を無視して
「真の聖女様。お願いします。グレゴールをお治しください」
ピンク頭の所に行って頭を下げたのだ。
「ちょっと、どういう事よ。私が真の聖女よ」
緑頭が叫んだが、
「見る人が見ると誰が本物か判るのよ」
ピンク頭は顎を振り上げて自慢した。
「何ですって!」
緑頭が髪の毛を逆立てて怒ったが、
「自分が聖女だと思うならすぐに治しなさいよ。偽聖女様」
「あなた、私が黙っているからって好きなこと言って」
「お願いします。真の聖女様、今すぐにお治しください」
ベティはピンク頭にすがったのだ。
「ちょっとまたなさいよ。私が治す……」
「はいはい、ヒール」
ピンク頭が緑頭の言葉をぶったぎってあっさりと詠唱した。
金の光がグレゴールにかかって一瞬でグレゴールは治ったのだ。
「嘘!」
「やっぱりあの女が真の聖女様だぞ」
「全然能力が違う」
「本当ね。片手間で治したぞ」
「能力の違いが一目瞭然だな」
周りの声に緑頭がブルブル震えていた。
「見る人が見れば判るのよ、あはあはあはあは」
ピンク頭は緑頭の前で高らかに笑ってくれたんだけど……
それを射殺すような目つきで緑頭は睨んでいた。
まあ、性格の悪さはどっこいドツこいだけど、能力だけは私はピンク頭を信頼していた。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
悪役令嬢の二人の争いでした。
性格の悪いのは緑頭も同じです。
ピンク頭は無事に済むのか?
続きは今夜です。
お楽しみに








