卑怯な皇子を審判諸共聖女の元に吹っ飛ばしました
私達がクラスの控え席に帰る時に丁度フィリベルトがアナスタージウスが打ち合っていた。
「アナスタージウス様!」
「私のアナスタージウス様!」
「キャーーーー!」
「頑張って下さい!」
大歓声がアナスタージウスに対して起こっていた。
「フィリベルト!」
「頑張れよ」
男達が応援するが焼け石に水だ。
フィリベルトはアナスタージウスに押されていた。
アナスタージウスが次々に打ち込む。
フィリベルトは必死にそれを受けていたが、次の一撃を受けなかった。
そのまま剣が真下に振り下ろされるが、それを間一髪でフィリベルトは躱していた。
そして、横殴りに剣を振った。
それがアナスタージウスの胴に入った。
「キャーーーー」
女どもの悲鳴が聞こえるが、そのままアナスタージウスは倒れた。
「やったー」
「勝ったぞ」
女達の黄色い悲鳴の中で我がクラスは大いに盛り上がった。
喜んでフィリベルトが剣を振り上げていた。
「よし、あと一人だ」
誰だろうと私はA組の方を見た。どのみちもう雑魚しか残っていないはずだ。
「続いて一年A組大将ブルクハルト殿下」
ブルーム先生が皇子を呼んだ。
「えっ? 敵の大将は皇子なの?」
私は驚いた。私との決闘ですら代わりの者を出したのに、本当に本人が出るのか?
私はA組の控え席を見ると、なんと本当に皇子が出てきたのだ。
ケバケバしい金ぴかの鎧を見せびらかすように皇子が出てきた。
「キャーーーー!」
「殿下、素敵!」
「殿下、頑張って下さい」
「ブルクハルト殿下!」
やらせでは無いのかといぶかしげるほどの大声援が起こる。
「はっはっはっは。下々の剣術競技というのがどのようなものかと思えば、なるほど皆に応援されるのは気持ちの良いものだな」
皇子は笑っていた。
その気持ち悪い笑顔を地面に叩きつけてしまえ!
私は口に出さずに心に思うだけにした。
「頑張って、フィリベルト!」
「任せておいてください。一撃で叩きのめします」
私の声にフィリベルトが答えた時だ。
「ほおおおお、その方、皇子を叩きのめして、騎士団に入れると思うのか」
皇子がニタリと笑ってくれたんだけど……
「えっ」
フィリベルトがその瞬間固まってしまった。
「始め!」
そこに教師の声がする。
「行くぞ!」
ガキン
皇子が打ち下ろした剣をフィリベルトが受ける。
ガキン
ガキン
ガキン
皇子が打ち下ろす度にフィリベルトは下がった。
「フィリベルト!」
「何しているんだ」
「いや、だって、騎士団への就職が」
フィリベルトは青い顔になっている。
「訳のわからない事に迷わせられるな」
「そうだ、はったりだぞ」
私とエアハルトが叫んだ時は遅かった。
ピーーーーー
笛が鳴ってフィリベルトの足が場外に出ていたのだ。
「凄い!」
「殿下!」
「ブルクハルト殿下!」
大歓声が起こる。
「何しているのよ、フィリベルト。皇子の卑怯な手に載っちゃって
帝国の騎士団に入れなかったら、ハンブルクの騎士団に入れてあげるわよ」
「申し訳ありません」
帰ってきたフィリベルトは顔色が悪かった。
「グレゴール、頑張ってね」
「はい。この剣をベティーナ様に捧げます」
グレゴールがそう言うとベティに跪いて剣を差し出していた。
「許します」
ベティはその剣でグレゴールの肩を叩く。
ヒューヒュー
口笛が飛んで、
「グレゴール!」
「頑張れよ」
男どもが叫んでいた。
今回のグレゴールなら大丈夫だろう。
「ほおおおお、今度はベティーナの騎士か」
面白そうに皇子がグレゴールをみやる。
そして、二三何か呟いた。
その瞬間グレゴールが目を見開いたんだけど。
「ちょっと、あの卑怯者、今度は何をグレゴールに吹き込んだのよ」
「始め」
私が憤った時に試合が始まった。
皇子が次々に打ち込んで、グレゴールが下がって行くんだけど……
「ちょっと何やっているのよ」
「グレゴール。どうしたのよ! 私はどうなっても良いから、脅しなんかに負けないで!」
ベティが悲鳴に近い声を上げる。
その声を聞いて、グレゴールははっとしたようだ。
「ほおおおお、やるのか? 陰気なベティの為に身を犠牲にするのか」
皇子が何か叫んでいた。
「煩い。ベティーナ様の悪口を言うな!」
グレゴールが叫んだ時だ。
ピーーーー!
笛が鳴ったのだ。
「なんだ?」
「どうしたの?」
私達は何が起こったか、判らなかった。
「グレコールさん、反則負け」
ブルームが何か言っているんだけど、私には判らなかった。
「反則負けって何よ?」
「殿下に対しての暴言について反則負けを適用させて頂きます」
魔道具で大きくした声でブルームが説明してくれたんだけど、
「何ですって」
「そんな馬鹿な」
「殿下!」
「凄いです!」
私達の怒りの声は大歓声にかき消された。
聖女は喜びのあまり、皇子に抱きついているし……
何なの? この茶番は?
私は完全にキレてしまった。
「次、ユリアーナさん」
私が呼ばれたのだ。
「ほお、礼儀知らずの田舎者のユリアーナか」
皇子が口を開いた。私を馬鹿にしたような蔑んだ目で見てくれた。
「俺様が傷ついたらハンブルク王国など滅ぶかもしれんな」
ぼそりと皇子が呟いてくれたが、そんな脅しに私が屈する訳は無いのだ。
私は反則を取られないように、口を継ぐんだ。
怒りの全てを剣にのせるつもりだ。
「殿下! その無礼な女を沈めてください」
「パウリーネ、任せておけ」
皇子は緑頭に手を振っていた。
こいつは余裕みたいだった。
「始め」
ブルームの合図とともに私は動いた。
私は完全にキレていて、後先考えていなかった。
そして、皇子とブルームと聖女が一直線に並んだ時だ。
私は剣を一閃させたのだ。
その剣は鎧を着た皇子を跳ね飛ばしてブルーム諸共観客席の聖女目がけて一直線にぶっ飛ばした。
「ギャーーーー」
聖女の悲鳴が会場中に響き渡ったのだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
できる限り皇子と争わないようにしていたのに、ぶつかってまた説教部屋行きは確実な? ユリアでした。
続きは今夜の予定です。
お楽しみに