剣術の授業でいけ好かない担当の先生を一撃で倒してしまいました
私達は延々マイヤー先生に怒られたのだ。
それだけではなかった。
「何だと貴様、ユリアーナにそんなことを言ったのか!」
私が適当に誤魔化そうとしたのに、付いてきたマリアンネがアダムが私が平民の出身でアダムの方が身分が上だから話しかけてくるなと言ったと本当のことを話してくれたのだ。
もう、アダムはお兄様の怒りのオーラの前にタジタジだった。
お兄様がこれだけ怒ったらボーケナ伯爵家もただではすまないかもしれない。
まあ、私に対してあんなこと言ったんだからアダムはどうなっても良いけれど、ボーケナ伯爵家が潰れたら可哀相だなとこの時は思いもしたのよ。
まあ、我がホフマン公爵家がボーケナ商会を使うことは二度とないだろうけど……ボーケナ商会にとっては大きな損失だと思った。
今回の罰は平民の出だからと差別したアダムとそれを踏み台にしたと暴力を振るったことになったお兄様が反省文となった。
すごすごとアダムは帰っていったが、お兄様は慣れているのか平然としていた。
私は何故アダムに反論しなかったんだとお兄様には怒られると思っていたんだけど、
「これからも困ったことがあればすぐに呼べ」
とお兄様は上機嫌で去って行って、私は拍子抜けした。
「兄妹仲はとても良いのですね」
驚いてマリアンネが私に話しかけてきた。
「まあ、悪いことはないと思うわ」
私は少し胸を反らして自慢したのだ。大貴族は兄弟間が仲が悪いところも多いところもあると言うから養子の私と兄が仲が良いのが不思議だったのかもしれない。
「ところでマリアンネさんは転生者よね」
私はズバリと聞いてみたのだ。
「はい? 何の話でしょう」
マリアンネはとぼけてくれた。
「まあ良いわ。放課後教えてね」
私はニコリと笑って頼んだのだ。
「放課後?」
「あなたを助けたんだから少しくらい付き合ってくれても良いわよね」
私が言うとマリアンネは逡巡したみたいだが、
「少しくらいなら」
仕方なしに頷いてくれた。よし、これで情報を仕入れられる。私が悪役令嬢だってマリアンネもピンク頭も言ってくれたけれど、いつもお姉様やマイヤー先生に虐められている私は絶対に薄幸のヒロインのはずよ!
そう思った時に授業の開始の鐘が鳴って私達は慌てて教室に向かったのだった。
その日の六時間目は私が今まで一度も受けられなかった剣術の授業だ。何故か実技系は午後からの授業に多かった。私は大体マイヤー先生の2時間以上のお説教タイムだったから受けられていなかったのだ。今回のお説教が昼休みの間に終わって良かった。
私は少しウキウキして着替えて訓練場に行ったのだ。
女の子達はあんまり嬉しそうではなかった。
訓練場に行くとそこには何と昔王妃様の前で一瞬で弾き飛ばしたフリッツ・レームスがいたのだ。子供の私に負けたので、可哀相にすぐに王妃様の騎士は解任されたそうだ。今から思えば適当に手を抜いてあげれば良かったと少し後悔した。今は王立学園の教師で隣の1年B組の担任をしているそうだ。
フリッツは私を見た瞬間にやりと笑ってくれた。
「これはユリアーナではないか。久しぶりだな」
この感じは絶対に恨みに思っているみたいだ。
「以前は、油断して貴様に一本取られて恥をかかされたが、今度はそういう訳には行かん。今日は俺が稽古をつけてやってもいいぞ」
フリッツはいきなり私に申し出てくれたのだ。
「先生、先生の手を煩わせるまでもないですよ。ここは私がやります」
やんちゃそうな男の子が言い出してくれた。確かダミアンという名で、レームス伯爵家の息子だ。
家は騎士を代々出していると聞いていた。主に王都騎士団か。今の当主も元は王都騎士団にいたはずだ。
入試のために必死に私は領主のこととかも勉強したのよ。
「おい、ダミアン、お前、ユリアーナは6歳で王妃様の騎士を吹っ飛ばしたんだぞ!」
その横のボンズ・コールマン子爵令息が止めろと言い出した。
「ふんっ、高々形だけの近衞騎士に勝っただけじゃないか。実戦を経験している普通の騎士ならやられるはずはないだろう」
この2人はその吹っ飛ばされた張本人を前にしてよく言うよと私は呆れてしまった。絶対に知らないんだ。私ならこの2人は今の言動で落第点をつけるところだけれど、先生は人間が出来ているんだろうか?
何も言わなかったけど、まあ、この手の手合いは陰で怒ってマイナス点をつけていそうな気がするが、私自身も昔の事を根に持たれていたら大変にまずい。
「それに、俺は少なくとも親父から剣筋が良いと言われているんだ。ホフマン家の直系ならいざ知らず、どこの馬の骨とも判らない平民の養子なんかに負ける訳はないだろう」
こいつもお兄様が聞いたら激怒しそうなことを平気で言ってくるんだけど。まあ、確かに私はどこの馬の骨とも判らない平民かもしれないけれど、一応公爵家の試練をくぐり抜けているんだけど。
「どうする、ユリアーナ?」
能面顔でフリッツ先生が聞いてくれた。
「問題ないですよ。手加減しますから」
「何だと、手加減するのは俺の方だろうが! 公爵家で周りにちやほやされているからっていい気になるなよ!」
ダミアンがいきり立ってくれた。
別に本気でやってもいい、いや駄目だ。絶対に死人が出る。
私はお父様にも近衞騎士団の面々にも絶対に本気を出すなと釘を刺されていたのだ。
「では両者、位置について」
先生が指示してくれた。
「おおおお、ダミアンが女相手にやるのか?」
「相手は公爵令嬢だぞ」
「お前、生徒会長の妹を怪我させたら生徒会長に殺されるんじゃないか?」
皆好きなことを言ってくれた。
「ようし、行くぞ」
ダミアンが剣を構えてくれた。
私も一応構える。
カキン!
いきなり大上段で打ち込んでくれた。
私はそれを軽く受けた。
「ほお、少しは出来るじゃないか」
ダミアンは笑ってくれた。
「あなたもね」
私はまだ全然余裕だった。
お兄様とは比べようもなかったが、フランツお兄様に比べても全然だった。
「じゃあ、行くぜ」
ダミアンは次々に打ち込んでくれた。
私は次々に軽く受けながしてた。
「くっそう!」
幾ら打ち込んでも私に打ち込めないのでいい加減にダミアンは焦りだしてくれた。
「ダミアン、そろそろ本気を出して良いんじゃないか?」
「そうだ。そろそろ本気を出せよ」
周りはそう煽ってくれるが、おそらくダミアンは既に本気だ。
周りに言われてダミアンもとても焦りだしたみたいだ。
「喰らえ!」
力攻めで攻撃してきたが、お兄様に比べたら全然だ。全く私は動じていなかった。
そろそろ潮時だ。
「少しだけ本気出しても良い?」
私はそう言うと、打ち込んできたダミアンの剣を躱して、横薙ぎに払ったのだ。
ダンッ
「ギャッ」
叫んでダミアンは物見遊山で見ていた男達のまっただ中に吹っ飛んでいったのだ。
「えっ」
男達は唖然としていた。
ダミアンは完全に白目を剥いてダウンしていた。
「ふんっ、少しは強くなったみたいだな」
フリッツ先生が言ってくれるんだけど……
昔に比べたら確実に私は強くなっているのだ。
「なら、ユリアーナ。俺様が稽古をつけてやろう。以前は油断してやられたが、二度とやられることはない」
フリッツ先生が言い切ってくれたのだ。
そんな時だ。
グーーーーー
私のおなかがいきなり鳴ったのだ。
「な、何だ、貴様はふざけているのか?」
それをきいて、フリッツ先生は怒り出したんだけど……私の方が恥ずかしいわよ。
これも全てお昼食べる時間くれなかったマイヤー先生が悪いのだ。
さっさと終わらせて、間食でもしようと私は思ったのだ。
「では俺から行くぞ」
フリッツ先生は上段から剣を思いっきり振り下ろしてくれた。
というか、こいつは学習しないのか?
私はおなかが減っていたので、もう受けなかった。さっさと終わらせるに限る。
その剣を横に逸らして躱すとふところに飛び込んで薙ぎ払ったのだ。
「ギャッッ」
そのまま、フリッツ先生は飛んで行ってダミアンの上に落ちたのだ。
前回と全く同じ結果だったんだけど……
でも、これってまた怒られるパターンではないか?
案の定私はマイヤー先生に呼び出されてしまったのだった……
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
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