上級生に絡まれているクラスメートを助けようとしたらいきなりお兄様が現れました
結局その日は怒り狂っているお兄様を家に連れて帰ったのだ。
怒り狂ったお兄様を抑えるのが本当に大変だったのよ。
何故か二人しかいないのにお兄様の膝の上に乗せられてお兄様はブツブツ文句を言っているんだけど……
「まあ、お兄様、そう怒らないで。ピンク頭も王太子殿下にも雷撃を浴びせておいたから」
「それはそうだが、あのホイットニーのやろう、何か言われなかったか」
「何かって別に私は別室で待機していただけだから何も言われていないわよ」
私のことを凶暴な魔物に例えていたなんて余計な事は怒り狂ったお兄様に言わない方が良いだろう。下手したらとって返して首を取るとか言いそうだし……
「まあ、でも、ユリアが無事で良かった」
そう言うとお兄様は私を馬車の中でぎゅっと抱きしめてくれたのだ。
「心配してくれてありがとう」
私はお兄様に親愛のキスをほっぺにしてあげたのだ。
お兄様は大きく目を見開いて何故か真っ赤になってくれたんだけれど……
まあ、おとなしくなってくれたからよしとしよう。
お兄様は帰るまで昔のように私の頭をなでなでしてくれたのだ。
「私が注意しようとしたのに、ユリアが勝手に雷撃したんじゃない!」
屋敷に帰ったら帰ったで、今度はお姉様はととてもお冠だった。
「だってピンク頭が私の胸がないって言うんだもの!」
私はむっとしてお姉様に言い返した。
「ユリアは胸について気にしすぎよ。あなたに胸があろうがなかろうが関係無いでしょ」
お姉様は他人事だと思ってめちゃくちゃな事を言ってくれた。
「酷い、お姉様! 自分が少し胸があるからって自慢してくれて」
私が怒って言い返すと、
「何言っているのよ。あなた胸が無くても好きにやっているだけなのに、とても人気があるじゃない!」
お姉様も怒って言ってくるんだけど。
好きにやっているって事は無いと思う。私は人に好かれる為にお姉様と違って毎日とても努力しているのよ!
そう言いたかった。もっともそんなこと言ったら後が怖いからあんまり言えなかったけど……
お姉様は最後までいやがったけれど、結局、お父様からも陛下に苦情を言ってもらうことになったのだ。王家と教会に!
この国のトップの大司教にも文句を言うとお父様はとても息巻いていた。
そして、翌日になった。
私は今日こそ、友達を作ろうと張り切っていた。相も変わらず、お姉様の化粧が遅くてまたギリギリになってしまって、朝はマリアンネと話せなかった。
四時間目が終わってお昼休みだ。私は学園開始から2日連続で学食の食事が出来ずに、マイヤー先生のところにお呼び出しを喰らっているという面目ない記録を作っていたので、今日こそは静かにしていようと思った。
また今度は地理の先生の授業の後片付けを手伝わされていたので、食堂に行くのが遅れてしまった。
列に並ぼうとしたら、その当のマリアンネが上級生の男に絡まれているのが見えた。
私は慌てて近付いた。
「フルート子爵令嬢。どうだろう? そろそろ諦めて俺の婚約者になってくれても良いだろう」
男は嫌がらせをしているのかと思いきや、思いっきり求婚していた。
こんな学園の皆の前でやるなよ! 私は思わずそう突っ込みそうになった。
でも、言われた方のマリアンネは嫌がっているようだった。
「だからその話はお断りしたはずです」
凜としてマリアンネが断っていた。
「おい、いい加減にしろよ。このボーケナ商会の跡継ぎでボーケナ伯爵家の令息のアダム様がここまで譲歩してやっているんだぞ。普通は二つ返事で頷くところだろう」
男が強制しようとしているみたいだ。ボーケナ商会は私も聞いたことがある。我が家とは付き合いはなかったが、最近王都にも進出してきた今伸びている商会だ。少し強引なところもあるとなじみの商会からは聞いたことがある。ボーケナ伯爵家は王都から離れた東部の片田舎にある伯爵領だ。田舎では領主の息子として崇められるかもしれないが、ここは王都だ。伯爵令息なんて掃いて捨てるほどいるんだけど……
マリアンネも嫌がっているみたいだし、あんまり問題を起こすなと言われているけれど、ここは助けても良いわよね。
「ちょっと、私のクラスメイトが嫌がっているじゃない! 止めてくれない」
「な、何だと! 小娘、貴様は……公爵家の……」
アダムは一瞬、私を入学式で見たことを思いだしたみたいだ。
片田舎の伯爵令息にしてはよく見ている。しかし、その後が良くなかった。
「はああああ! 貴様はたまたま公爵家に養子に入れてもらっただけで、元々は平民だと父上からは聞いているぞ。俺は由緒正しきボーケナ伯爵家の嫡男だ。言葉には気をつけろ!」
私はそんなことを言われるなんて思ってもいなかった。
一瞬張り倒してやろうかと思ったが、それでは昨日の二の舞だ。
危ない、危ない!
ここは我慢だ。
遠くに、また、クラウスがピンク頭に抱きつかれているのが見えた。お姉様は何しているんだろう?
お父様が王宮で陛下に苦情を言っているのは今日だと思うし……
まあ、丁度良いや。こういう権威主義のやつは王太子くらいを呼べば良いだろう。
「キャーーーー、痴漢よ!」
私は大声を出したのだ。
「えっ?」
さすがの俺様男も私の言葉にぎょっとしたみたいだ。
私は近くにクラウスがいたから飛んで来てくれると思ったのだ。
王太子が出てくればいくらアダムが馬鹿でもひくだろう。
しかし、次の瞬間、私はがっちりと抱きしめられていたのだ。
「お、お兄様!」
驚いたことに私はお兄様に抱きしめられていた。
どこから来たんだろう? 近くに見えなかったけれど……
と言うか、これはやばい! 伯爵令息風情に難癖つけられたくらい自分でなんとかしろと説教される未来しか見えなかった。
「ギャーーーー」
そして、当のアダムは現れたお兄様に踏み台にされていた。
「貴様か? 俺のユリアに手を出したのは」
そこには氷のように冷たいお兄様の声が響いたのだ。
「いえ、手など出しておりません」
お兄様に更に踏みつけられてアダムは悲鳴を上げていた。
ふんっ、いい気味だ。
私が少しそう思った時だ。
「何をしているのです!」
そこに怒髪天のマイヤー先生が立っていたのだ。
「また、貴方たちですか?」
先生は私とお兄様を睨み付けてくれた。
「取りあえず、職員室に来なさい」
マイヤー先生の冷たい声が響き渡った。
「えっ、先生、私はまだ食事が」
「食事どころではありません」
私は三日連続で食事が食べられなかったのだ。
こんなんだったら、あっさりとアダムを張り倒しておけば良かった。
私は後悔したのだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
三日連続食事抜きのユリアです。マリアンネと仲良くなれるのか?
続きは今夜です。








