皇子が決闘を申し込んできたので仕方ないから受けてあげたら、何と自ら戦わずに厳つい代理の者をたててきたんですけど……
今日二回目のマイヤー先生の説教だ。
最悪だった。
何故一日二回も説教を受けなくてはいけないのだろう?
それにハンブルク王国とは違って、ここは私に取って敵地の帝国の学園だ。ツェツィーリアを謹慎させた私は睨まれているはずだ。
私の周りには、私に好意的でない学園長を始め、皆白い目で見てくれた。唯一、私が昔から知っているマイヤー先生は激怒しているし……
「マイヤー君。聖女様を雷撃で攻撃するなど、由緒ある帝国の学園始まって以来の事なのだよ。どうしてくれるんだ」
学園長はとても激怒していた。
「学園長、初代皇帝陛下は聖女様と喧嘩したときに、聖女様に雷撃されたと歴史書に載っておりますが」
マイヤー先生が指摘した。
「何を言っておる。それは聖女様が攻撃された例で、逆だろう。今回は崇高たる聖女様が攻撃されたのだぞ」
「崇高たる皇帝陛下が攻撃されたのは同じです」
激昂する学園長にも平然と言い返すマイヤー先生はさすがだった。
「いや、まあ、それはそうだが、剣術の先生を気絶させるわ、聖女様を気絶させるわ、その女は問題だらけではないか? どう責任を取ってくれるのだ?」
学園長は怒り狂っていた。
「文句ならばユリアーナさんを召還された陛下におっしゃってください」
「……」
マイヤー先生の言葉にさすがの学園長も黙ってしまった。
「そもそも、生徒に一撃でやられる教師もどうかと思いますが」
マイヤー先生はじろりと復活してきたドレーゼ先生を睨み付けた。
「いや、私は油断しただけで」
「油断したただけで、やられるものですか? 私は先生がユリアーナさんを担当する時にお話ししたはずです。この子は強いですよと」
「いや、まさかこれほど強いとは思っていなかったのです」
「ユリアーナさんは、三歳にして、武のホフマン公爵家の試練を乗り越えているのです。下手したら、いずれは帝国の四天王と同程度の力を持つようになるかもしれません」
「はああああ? 何を言っているのです。そんなわけはないでしょう」
ドレーゼ先生は反論したが、
「では、何でもない生徒に先生は一撃で倒されたのですか?」
「……」
マイヤー先生の言葉にドレース先生は口を開いたり閉じたりしたが言い返せなかった。
私はアウェーの雰囲気の中、唯一の味方であるはずのマイヤー先生に延々と怒られたのだ。
先生の叱責が終わった時は、6時間目の授業の終了のベルがなった時だった。
私は疲れきって、職員室を出た。
「ユリア、大丈夫だった?」
疲れきって教室に帰ると、ベティがグレゴールと待ってくれていた。
「全然大丈夫じゃないわよ! 延々とマイヤー先生に怒られるし、学園長には睨まれるし、もう最悪よ」
私は疲れきっていたので、自分の椅子に倒れ込むように座ったのだ。
「ごめんね。ユリア、私のために」
「何言っているのよ。自分のためにやっただけだから」
「でも、私のために、聖女と殿下に水をかけてくれたんでしょ」
「だから、あれは私じゃないって!」
「本当に? でも、殿下にあんなことができるなんて、ユリア以外に考えられないんだけど」
「いや、私は違うから」
ベティはそう言ってくれるけど、私が犯人じゃないから!
「それよりも、ユリアーナ様は訓練場に行かなくて良いのですか? アルトマイアー様が、決闘されるのではないのですか?」
「そうだった。忘れていた」
私は慌てて、お兄様の所に行こうと教室を出たのだ。
「こんなところにいたか、転校生!」
私がベティ達と連れだって、訓練場に向かうと、そこに怒り狂った、第三皇子が側近達を引き連れて待ち構えていたのだ。
「ハンブルクからの転校生、よくも私が愛しく思っているパウリーネを傷つけてくれたな」
この皇子、婚約者のベティの前で何を言ってくれるのだ。私は呆れた。
ベティが沈んだ顔をする。
「よって貴様と決闘を申し込む」
ええええ!、私、帝国の皇子様から決闘を申し込まれたんだけど、これはひょっとして、不味くない? 帝国とはできる限り問題を起こすなと言われていたのに!
でも、私の友人の為にもこのどうしようもない皇子を許す訳にはいかなかった。
ベティの悲しそうな顔を見るのはもう嫌だ。
仕方がない。ベティの為に、戦うことに決めたのだ。
「良いわよ。二度と立ち上がれないように叩きのめしてあげるわ」
私は自らやる気満々だった。
「よし、じゃあ、こちらに来い!」
皇子が偉そうに先頭に立って歩き出した。
「ちょっとユリア、決闘なんて、私のために戦ってくれなくていいわよ」
ベティが止めようとしてくれたが、
「ベティ大丈夫よ。二度と他の女に手が出せないように叩き潰してあげるわ。女の敵は叩き潰すべきよ」
私は自らの考えを伝えた。
「いや、でも、ユリア、あなたが危険だわ」
「何言っているのよ? 私はあんなひ弱そうな皇子には例えお日様が西から昇っても負けないから」
私はドンと胸を叩いて、言い切ったのだ。
訓練場ではお兄様とボブが戦いの前の準備体操をしていた。
そして、既に多くの見物客が来ていたのだ。
「ボブ!」
皇子が何故かボブを呼んだのだ。
場所を空けろって言うんだろうか?
私はお兄様とボブっていう本日のメインイベント後で良いんだけれど。あまり多いと無様に負ける皇子が可哀相だと私は親心を見せようとした。
後でまた、お姉様とかエックお兄様にぼろくそ怒られるのは確実だけど、私は友人に悲しそうな顔をさせる皇子を許すつもりは毛頭なかった。
「はい。何ですか、殿下」
ボブは慌てて飛んで来た。さすが四天王の息子。皇族に良く飼い慣らされているように見えた。
「俺は聖女パウリーネを雷撃したこの転校生を許せないと決闘を申し込んだ。俺の代わりに戦え!」
呆れたことに皇子はボブにそう命じていたのだ。
「えっ?」
私は一瞬皇子が何を言ったか理解出来なかった。
ええええ! 決闘は皇子自ら私に申し込んできたのに!
この皇子、自分で戦うんじゃなくて、自分の代わりにこんなクマみたいながたいのデカイ奴を、見た目が華奢でか弱い私にぶつけようというの?
一体どのような皇子教育を受けているのよ?
私はあきれ果ててしまったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
次はキレるユリアです。
お楽しみに