怒り狂う教会関係者のいる部屋に、これまた怒り狂ったお兄様が乱入しました
それからがまた大変だった。
慌てた先生方が飛んで来て、気絶したピンク頭とクラウスは保険室に運ばれていった。威力は当然弱めてあるから気絶する程度だ。私でも、そこはちゃんと考えているのだ。
「学園内で雷撃するなど何事ですか? それもあなたは王太子殿下の婚約者の妹ではありませんか!」
私はまたマイヤー先生の元に連れて行かれて延々二時間怒られ続けた。
此度は学園長も一緒だ。職員室ではなくてそのまま学園長室に連れ込まれた。もっとも学園長はただいるだけで、つまらなそうにマイヤー先生の話を聞いているだけだったけれど……
「良いですか、ユリアーナさん。教会は王太子殿下の婚約者に聖女を据えようと虎視眈々と狙っているのです」
「マイヤー先生!」
さすがに学園長がマイヤー先生を止めようとしたが、
「学園長、ここははっきりさせておかないと行けません」
マイヤー先生は学園長を抑えて更に話そうとした。さすがマイヤー先生、これではどちらが偉いのか判らない!
私は不埒なことを考えていた。
「先生、大変です!」
そこへノックもなしに、1年C組の担任で数学のデニス・ラーデ先生が飛び込んできたのだ。
「どうしたのですか、ノックもなしに!」
マイヤー先生が非難を込めた目でラーデ先生を睨み付けた。
「教会から大司教代理のホイットニー様がいらっしゃったんですけど。何やらたいそうお怒りのようで」
ラーデ先生はマイヤー先生の視線も気付かないくらい慌てていて、学園長に報告していた。
「大司教代理のホイットニーとはまたやっかいな者が来たな。じきに王妃様もいらっしゃるかも知れんな」
頭を抱えて学園長が言い出した。
「大変ですね、それだけ大変なら私はこれで……」
私が他人ごとよろしく呟いて、これ幸いと逃げだそうとしたら
「誰のせいでこうなっていると思っているのですか?」
マイヤー先生に睨まれてしまった。やっぱり私に対しての抗議らしい。
「ユリアーナさんはそこで座って反省文でも書いて待っていなさい」
マイヤー先生が学園長室の応接の椅子を指さして指示すると、3人はそのまま出ていった。
「これはこれは大司教代理様。今日はどうされたのですか?」
となりの部屋が応接室だったようで、声が丸聞こえだった。大司教代理って確か教会ではこの国ナンバーツーの人だ。何しに来たんだろう?
「学園長! この学園には共謀な魔物を飼っていらっしゃるようですな!」
魔物なんていたっけ?
私は反省文を書きながら、現実逃避をしていた。
「魔物なんて、生物科では一部飼っているかもしれませんが、そのような狂暴な物などおりませんよ」
「はあ、そうですか? しかし、私が報告を受けた所では、2日続けてわが国の至宝と尊ばれているはずの聖女様が攻撃を受けたのですが」
それを聞いて、私が魔物に例えられたのが判った。元から教会なんて、人の信心を飯の種にしている寄生虫くらいにしか思っていなかったが、自分を魔物に例えられるとさすがにむっとした。
「ホイットニー大司教様、わが校の生徒を魔物に例えるのは止めていただけますかな。彼女も陛下の大切な生徒の一人なのです」
私はまさか学園長に庇ってもらえるなんて思ってもいなかった。学園長を長々と下らない事を話すつまらない男だと認識していたのを取りあえず取り下げた。
「しかし、2日連続魔術で攻撃されたのですぞ! 1日目は水魔術で、今日など雷撃されたと言うではありませんか。凶暴な魔物と言わずして何というのですか?」
「私も報告を受けておりますぞ。2日連続で婚約者のいる王太子殿下に恥も外聞もなく抱きついていた者がいると。教会は聖女様にどのような教育をしていらっしゃるのですかな?」
なんと学園長はホイットニーに反撃してくれたのだ。私は感激した。学園長は強きになびく風見鶏ではなかったんだ。
「な、何ですと、学園長は聖女様が悪いとおっしゃるのですか?」
ホイットニーは色をなして詰問した。
「王立学園の生徒として模範になっていないのは事実でしょう。聖女様が学園の秩序を乱されるのは困ります」
私は拍手喝采したくなった。学園長がこんなに私を守ってくれるなんて思ってもいなかった。
「な、何だと、学園は聖女様と王太子殿下を攻撃した危険な女を庇って我が教会の教育が悪いとおっしゃるのか?」
ホイットニーが激怒しているのが私には判った。
「当然、彼女にも反省文を書かせます。しかし、アグネスさんにもキッチリと反省文を書かせて下さい。昨日の反省文が提出されていないのはアグネスさんだけです」
「しかし、被害者の聖女様に反省文を書かせるなど」
「元々婚約者のいる王太子殿下に抱きつくなどという学園生にあるまじき破廉恥な行動に出たのはアグネスさんです。これ以上我々どもの言うことを聞かないというのならば、陛下に申し上げますが……」
今度は学園長は逆に脅しだしてくれたのだ。
私はこの瞬間、学園長のファンになったのだ。
「しかし、魔術で攻撃するのと好意が溢れかえった聖女様を同じ罰にするというのは」
「それが始祖様からの学園の方針です。学園の方針にこれ以上口を挟まれるならば、教会の教育方針にも口を出させて頂きますが」
「何ですと、そのようなことは許される訳はなかろう」
その時だ。
「ユリア、無事か!」
ドカーン
大きな音とともに扉が破壊される音がした。
あれはお兄様だ。
「アルトマイアーさん、何をしているのですか!」
マイヤー先生の怒り声が聞こえた。
「すみません。ユリアが教会関係者に虐められていると聞いたもので!」
お兄様の平然とした声が聞こえた。
「これはホイットニー殿、お久しぶりですな」
獲物を見つけたドラゴンのようにお兄様の喜々とした声が聞こえた。
「あなたはアルトマイアー殿……」
ホイットニーの声が緊張しているのが判った。
「教会は王太子殿下の婚約者が我が妹、リーゼだと知っているにもかかわらずわざと淫乱聖女を王太子に抱きつかせたとか。それも一度ならず二度もしたとか。これは我が公爵家に対して宣戦布告したと同然ですな」
「アルトマイアーさん。いきなりなにを言うのです。少し落ち着きなさい」
マイヤー先生が止めようとしたが、こんな事でお兄様が止まる訳はなかった。
「マイヤー先生。我が公爵家としても、ここまで売られた喧嘩は買うしかあるまいと父も怒っておりました。教会から明確な謝罪がないというならば、今ここでホイットニー殿の首を頂いても良いのですが」
ドシン!
あれは絶対に剣を地面に突き刺した音だ。
私は慌てて、応接室に入ったのだ。
「お兄様。取りあえず、聖女とクラウス殿下には私から雷撃を浴びせましたから」
私はお兄様にそう言うと、応接から連れ出そうとしたのだ。
「そんなのは当然であろう。俺は教会からの明確な謝罪が欲しいのだが」
「まあまあ、お兄様。教会もすぐに謝るというのは難しいものがありましょう」
私はそう言いつつ、学園長とマイヤー先生に合図したのだ。
マイヤー先生は仕方なさそうに私を見て、頷いてくれた。
「お兄様。取りあえず、今日はこの辺りで帰りましょう」
「しかし、謝罪が」
「まあ、お兄様。教会を攻撃するのは後でも大丈夫でしょう。その前に当然ホイットニー様が謝罪文を我が公爵家にいただけますよね」
お兄様の鼻息の荒さにホイットニーはもう倒れそうだった。
私の言葉に思わずホイットニーは頷いてくれたのだ。
私は謝罪するという同意をホイットニーから受け取ったのだ。
「ほらね。お兄様。それではもう帰りましょう」
私は強引にお兄様を連れて帰ったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
傍若無人なお兄様の前に教会関係者もタジタジです。
続きは明朝です。
お楽しみに








