皇子と聖女が婚約者の友人を犯人扱いしてきたので、反論していたら、礼儀作法の先生がやってきました
「キャッ」
緑頭の甲高い耳障りな声が響いた。
第三皇子もずぶ濡れだ。
誰だろう?
こんな良いことをしたのは?
私は褒め称えたくて、周りを見渡したのだ。
でも、それらしい影は見えなかった。
おかしいな!
私が不審に思った時だ。
「だ、誰だ。俺様に水をぶっかけたのは」
ブルは激怒していた。
そして、皆をぐるりと見渡すと、
「貴様か!」
一目散にこちらに目がけて歩いてくるんだけど……
ええええ! 私はまだ、ブルと禄に話していないのに、何故、私を疑う?
「ベティーナ! 貴様だな! 私を濡れ鼠にさせるとは」
そう叫んでずんずん第三皇子がベティに近付いてきた。
良かった。将に魔術で水を頭の上から降らしてやろうとしたけれど、まだしてもいないのだ。
何故、私を目指してきた? お前はエスパーか?
と思ったけれど、ベティに向かってきたのか!
「まあ、なんということでしょう」
「聖女様だけでなくて殿下にも水をかけるなんて」
「不敬以外の何者でもありませんわ」
女達が噂しているけれど……
その中にはコローナもいた。
懲りない面々だ。辺境伯令嬢を悪し様に言うなんて!
私には許せなかった。
「いえ、私は何もしておりません」
ベティははっきりと否定しくれた。
私も横にいたけれど、犯人はベティではないと思う。
「嘘をつけ。貴様、俺様がパウリーネと親しくしていることに嫉妬してこのようなことをしたのであろう」
ブルは声高に主張するんだけど、状況証拠だけでベティを犯人にするなんて、これで本当に帝国の皇子なのか? そのレベルの低さに私は唖然とした。
それに婚約者のいるにもかかわらず、他の女と仲良くしていたのは皇子ではないか! 普通は婚約者に謝るのが基本なのに!
「本当に馬鹿みたい」
私は思わず口に出していた。
私の言葉に前にいたブルが目を見開いていた。
しまった!
静かにしているようにエックお兄様からは言われていたのに!
「おい、貴様、何か言ったか?」
ブルは私を睨み付けた。
「まあ、あの子、誰?」
「転校生じゃないの?」
「確か、ハンブルクからの留学生よ」
コローナ達が声に出しくれていた。
ここまで判っていたら仕方がない。挨拶は必要だろう。
「殿下、お初にお目にかかります。私はハンブルク王国のホフマン公爵家から参りましたユリアーナと申します」
私は一応カーテシーしたのだ。きれいに決まったと思う。
「ふん。貴様の挨拶などどうでも良いわ。貴様、今、俺様を馬鹿と言ったな」
ブルが青筋を立てて言ってくれるんだけど、帝国の皇子としていつもおだてられているから我慢できない体質なんだろうか?
普通は挨拶を返せよ!
これがクラウスがしたら、雷撃しているところだった。
帝国の皇子ともめ事はいけないと言われているからそうはしないけれど……
「いいえ、そうは申しておりません」
私は仕方なしに言い返した。
「嘘をおっしゃい。殿下に馬鹿者だと言ったでしょう」
横のパウリーネが口出してきた。
「いいえ、そうは申しておりません」
「嘘をつくな、そう言ったであろうが」
馬鹿に馬鹿と言って何が悪いのよと思わず叫びそうになった。
駄目だ駄目だ! ここはオブラートに包む必要がある。
「いいえ。私は馬鹿みたいに見えると言っただけで、馬鹿とは一言も申しておりません」
「な、何だと!」
「そんなの屁理屈じゃない!」
私の言い訳に二人は激高した。
「何が屁理屈なのですか? 宜しいですか! ここは帝国の由緒正しき学園です。本来、殿下の婚約者はこちらにいらっしゃるベティーナ様です。その婚約者がいる前で、破廉恥な淫乱聖女に胸を押しつけられて喜んでいる皇子殿下をなんとお呼びすれば良いのですか?」
私はこれでもオブラートに包んだのだ。
普通ならいい加減にしなさいと叫んで張り倒しているところだ。
「な、何だと貴様。俺様に逆らうのか?」
「逆らうも何も生徒の見本となるべき殿下が、学園の規律を乱して宜しいのですか? 本当に嘆かわしい。周りの側近の方々も何をしているのです?」
私は皇子の後ろに控えているでくの坊達をひと睨みした。
「な、何だと」
「高々、属国の公爵家の出のくせに」
「殿下に意見するなど許せん」
男達が何か言っているけれど、このホフマン公爵家の私に対してそういう口を聞くの?
皇子じゃなければ叩きのめしても良いよね。
というか、叩きのめさないと後でお兄様に叱責される。
ようし、やるか!
私が久々に手を出そうとした時だ。
「何を騒いでいるのですか?」
そこに閻魔の声もかくやというマイヤー先生の叱責の声が響いた。
ええええ!
このタイミングで出てくるか!
どの道なら私がやってから来てほしかった。
いやいや、それは駄目だ。また反省文10枚コースだ。新記録更新したらさすがにまずい。
帝国では静かにすると決めたのに!
「貴様は誰だ?」
ブルちゃんがなんか馬鹿なことを言った。
こいつ、マイヤー先生に逆らおうとするなんて、勇者だ。
でも、待って、私を巻き込まないで!
マイヤー先生が来た瞬間だ。
それまで、近くではやし立てていたE組の全員がさーーーーーっと引いたのだ。
さすがに痛い目に合っているから反応が早い。
私もそれに乗れば良かったのに、気付いたら周りにいるのはベティと馬鹿みたい皇子とその側近、それと緑頭だけになっていた。
皆めちゃくちゃ遠巻きにしている。
コローナ達が散々な目に合ったのを聞いているんだろう。
知らないのは馬鹿皇子だけだ。
まあ、所詮第三皇子だ。情報収集能力もないんだろう。
逆らって返り討ちに遭えば良いわ。
ただし、私を巻き込むのは止めてほしい。
私も逃げようとしてぎろりとマイヤー先生に睨まれてしまった。
ええええ! これは絶対に駄目な奴だ。
「殿下。この無礼者はマイヤーという新しく来た一年E組の担任だと思われます」
「そこのあなた。今私を何と呼びました」
ぎろりとマイヤー先生の目が光った。
「マイヤーと」
「黙らっしゃい!」
マイヤー先生の罵声が学園中に響き渡った。
私は思わず耳を塞いでいた。
「先生を呼び捨てにするとはどういう教育を受けているのですか? あなた、その顔はひょとしてガーブリエル・グートシュタイン侯爵の息子ですか」
「えっ、父をご存じで」
さすがの息子も口調を変えてきた。
「あなたのお父様にも苦労させられました。しかし、さすがのガーブリエル様も私を呼び捨てにするなどという事はありませんでしたが。あなたは勇気があるのですね」
ニコリとマイヤー先生は笑ってくれた。
「そうだろう。俺は父以上の剣術の腕があるからな」
胸を張って息子は言ってくれた。
こいつは馬鹿だ。
マイヤー先生が優しい口調になった時ほど怖いものはないのだ。
「それがどうしたのです? 昨日もE組の生徒達には注意しましたが、あなたにも注意する必要があるみたいですね。直ちにガーブリエルを呼び出しなさい」
マイヤー先生は後ろの研修生に命じていたのだ。
「き、貴様、相手は侯爵だぞ」
「それがどうしたのです。私は皇帝陛下から皇子殿下の教育を任されたのです。その側近からしてなっていないのであれば、保護者を呼び出すの当然でしょう」
「いや、しかし」
ブルはなおも抵抗しようとした。
無駄なことは止めてほしい……
私を巻き込まないで!
「いい加減になさい! そもそも殿下は側近に先生たる教師を呼び捨てにさせて、注意もしないとはどういう事なのですか? それで皇子が務まるとでも思っておられるのですか。そもそも側近のあなた方は何をしているのです……」
それから延々とマイヤー先生の叱責は続いたのだ。
私がまたお昼を食べられなかったのは言うまでもない……
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続きは明朝です








