いきなり子爵令嬢に平民と間違われて絡まれましたが知り合いが通りかかって助けてくれました
その後マイヤー先生は私達の配属クラスを教えてくれたが、私は1年E組だった。
まあ、皇子のいるA組ではなく、ベティのいるE組だったから良かったけれど、マイヤー先生が帝国の学園まで来たことに対して、私はとてもショックを受けていたので、その事はあまり考えられなかった。
お兄様は5年E組、エックお兄様は4年E組、フランツお兄様とクラウスは3年E組、お姉様は2年E組と全員が配属がE組だった。
「そんな、私がE組なんて……」
お姉様がショックを受けていたが、それよりも
「もう、最悪。何で苦手なマイヤー先生が帝国の学園にいるのよ」
私の愚痴は皆が適当に流してくれた。
その後は講堂に全員揃って始業式があった。
私はE組の席に適当に着いたのだ。
「世の中には基本的に、建前と本音というものがあります。
我が帝国の学園においても、学生である間は身分差関係無く皆平等と言うのがありますが、学園の生徒の皆さんは、この辺りはよく理解して頂いていると思います。ただ、留学生の中には若干名、それが良く理解できない方々もいらっしゃると思うので、その辺りは十二分に周りの皆さんが教えてあげてください」
学園長の挨拶は長かった。
私はせっかくマイヤー先生と別れられると喜んでいたのに別れられなくて、ショックを引きずっていたので、良く聞いていなかった。
最後に私の方を見て学園長が話していたのを私はよくきいていなかったのだ。
「勘違いしている転校生って私達の前にいる女よね」
「ちょっと、最初にわからせてあげた方が良いのではなくて」
周りの生徒達が私の方を向いてニヤニヤ笑っているのもよく見ていなかったのだ。
「では皆さん、教室に入って下さい」
司会の先生の声に皆立ち上った。
私はマイヤー先生の事でショックを受けていたが、取りあえず、教室に行かなければとベティを探そうとした。でも、ベティは探したが、見つからなかった。
やってしまった。教室の位置が判らない。
私は取りあえず講堂から出た。
先程マイヤー先生から教室の位置も説明されたような気がしたけれど、ベティに聞けば良いと思っていたからきちんと聞いていなかったのだ。
確か、グレゴールも同じクラスだと思ったけれど、グレゴールも見つからなかった。
資料はマイヤー先生からもらったから調べたら教室には行けると思うけれど、帝国の学園は古いので建て増しとかも多くて資料見ただけではすぐには行けそうになかった。
私が呆然とした時だ。
「ちょっと、あなた」
私はそれが私を呼んでいる声だとは理解できなかったのだ。
「ちょっと、そこのあなた!」
後ろから思い切り叩かれたのだ。
「ギャッ」
でも、叩いた女が悲鳴を上げてくれていた。
今日は久しぶりの朝練でお兄様の特訓があって、ゆっくりと始業式の前に行けば良いと思っていたのに、急遽1時間早めに来いと言われて制服の下に皮鎧を着ていたのだ。
どうやら、その鎧に当たったらしい。
「あなた、一体、何してくれるのよ!」
女が涙目で睨んできたけれど、
「えっ、叩いて来たのはあなたじゃない!」
私は少しむっとした。
おそらく彼女らは同じクラスの人間だと思うけれど、一応私も貴族の人間で名乗り合ってもいないのに、そんなに急に親しくなっては行けないはずだ。どこでマイヤー先生が見ているか判らないし。
「ちょっとあなた、ベルタにいきなり暴力を振るうってどういう事よ」
「振るってきたのは、そのベルタって女じゃない」
「まあ、あなた、属国からの転校生の分際で、ベルタをいきなり呼び捨てにするってどういう神経しているの? ベルタの家は一応準男爵家なのよ。学園長先生がさっきもおっしゃっていらっしゃったけれど、学園の原則は学生は皆平等というのがあるけれど、それは建前に過ぎないのよ。あなた準男爵令嬢のベルタに謝りなさいよ」
女が何か言ってくれたんだけど、あの、私、属国とはいえ、ハンブルク王国の公爵令嬢なんだけど!
思わずそう叫びそうになった。
そうか、帝国では公爵家よりも準男爵家の方が上なのか?
「何、ぼうっとしているのよ。あなたどのみち元々平民なんでしょ。担任が新学期になったら平民が転校してくるって言っていたわ。貴族に会ったら頭を下げることも知らない訳。これだから平民は嫌なのよね」
「本当よ。E組のとりまとめをしていらっしゃるコローナ・ヤーベ子爵令嬢様が先程あなたに声をかけられたのも無視していたでしょう」
「本当にいい度胸しているわ」
「コローナ様に睨まれたらこのクラスで生きていけないわよ」
女達は口々に言いはやしてくれるけれど、これは帝国の皇帝の考えてくれた新手の嫌がらせなのだろうか? そうか、マイヤー先生がどこかで私が余計な事をしないかどうか隠れて観察しているんだろうか?
マイヤー先生がこの学園にいることに私はショックを受けていたのだ。その怒りにまかせて怒鳴り散らした方が良いだろうか?
いや、そんなことしたらマイヤー先生に言いつけられてまた怒られる。
でも、子爵とか準男爵とかに馬鹿にされたと知ったらお兄様がキレそうだ。
それもまずい。
そう途方に暮れた時だ。
「ゲオルク!」
私は一学期に我がクラスに留学していたゲオルクを見つけたのだ。
「えっ、バインリヒ伯爵令息様」
女達は私がゲオルクを呼び捨てにしたことに驚いていた。
「ちょっと、あなた、バインリヒ伯爵令息様を呼び捨てにするなんてどういう事よ!」
ベルタが叫んでいたが、
「ユリアーナ様。ご無沙汰しております」
ベルタを無視してゲオルクが私の前に飛んでくるといきなり私に跪いてくれた。
「えっ」
「嘘!」
「何故ゲオルク様がこの女に跪くの?」
女達はその様子に度肝を抜かれていた。
「ユリアーナ様。帝国にいらっしゃったのなら、声をおかけ頂けたら参りましたのに! で、どうされたのですか? この女どもが何か失礼なことをしたのですか」
ゲオルクは女達をじろりと睨み付けた。
「ゲオルク様。何故、この女に跪いていらっしゃるのですか?」
「何を言っている。ユリアーナ様はハンブルク王国の公爵家ご令嬢だぞ。本来であれば俺など恐れ多くて話せないのに、このように気さくにお話しして頂けているのだ」
女達はびくりとした。
「しかし、公爵家とはいえ属国の公爵家ではありませんか」
コローナは反論してきた。
「その方は何を言っているのだ。ホフマン公爵家は元々我が帝国の皇弟殿下のお血筋で、皇族の方も何度も降嫁していらっしゃる名門公爵家だぞ。この帝国でも侯爵位をお持ちのはずだ。言葉遣いには気をつけろ」
「えっ」
「嘘」
「そんな!」
ゲオルクの言葉に女達は驚いた。
「ええい、無礼を働いたのならすぐに謝れ」
「も、申し訳ありません」
「知らずとは言え失礼いたしました」
「何卒お許しください」
女達はその場に跪いてくれたのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
次は皇子殿下と新聖女の登場です。
お楽しみに。