何とか入国できましたが今度は何者かに襲撃されました
「おい、まだなのか?」
私達はそれからも、ホフマン家出身の騎士達か代わる代わる挨拶に来て時間を潰したが、さすがに、2時間経っても威張った男が戻って来ないのにはお兄様がしびれを切らし出した。
トムは恐縮して、色々確認に行ってくれたが、
「申し訳ありません。上司に確認しているのですが、中々返事が返って来ないそうです」
そのたびにトムは平謝りに謝ってくれたが、このままだと宿に着くのが夜になってしまう。
まあ、お兄様さえいてくれたら、別に野宿しようが何しようが全然問題はないが、帝国は初めて来たから、出来たら宿に泊まりたい。
いい加減に私も少し焦りだした時だ。
「遅くなりました」
そこに黒髪の美少女が入ってきたのだ。
「あなたはメンデルスゾーン辺境伯令嬢」
トムは驚いて少女を見た。
確か、メンデルスゾーンはこの国境に隣接する辺境伯家だと記憶していた。
でも、どう見ても私と同い年くらいの少女だ。そんな少女がどうしたんだろう?
「ホフマン公爵家の方々ですね」
少女が一番偉そうなお兄様に声をかけた。
「いかにもそうだが」
お兄様は少し戸惑っていた。
「私、ベティーナ・メンデルスゾーンと申します」
「俺がアルトマイアー・ホフマンだ」
お兄様は相変わらず不機嫌そうだ。
「帝国の警備システムの不具合で警報が鳴ったとか。遅くなって申し訳ありません」
「本当に遅いな!」
「お兄様!」
文句を言いそうなお兄様に私は注意した。
「いやあ、兄が短気で申し訳ない。俺はフランツ。兄はいつも不機嫌なんだ。それよりも何故君のような可愛い女の子がここに来たの?」
いつもは不機嫌なお兄様の前では静かにしているフランツお兄様が、いきなり話し出して私達は驚いた。
「それが辺境伯の祖父は体を弱らせておりまして、今は伏せっており、私が代わりに来させて頂いた次第です。すいません。若輩者で」
「いや、俺たちも若輩者は変わらないよ、ねえ、兄上」
「ああ、入国さえできれば良い」
フランツお兄様に振られてお兄様も頷いていた。
「係の者とは話をつけて参りますので少しお待ちください」
お兄様の言葉に直ちに護衛騎士を従えて、ベティーナは出ていった。
「辺境伯には今はあの子しかいないのかしら」
「もう一人弟がいるはずだが、更に幼くなるからな」
お姉様の質問にエックお兄様が答えていた。
「あの子、可憐で可愛いよね。いくつなのかな」
「ユリアと同じ学年の一年生だと思うぞ」
「そうか、俺の2つ下か。丁度良いよね」
何が良いのか判らないが、そう独り言を呟くと、手伝いに行くのかフランツお兄様が慌てて出ていったのだ。
「何をしているんだか!」
エックお兄様が呆れていた。
「彼奴では無理だぞ」
「えっ、でも、帝国の辺境伯の娘さんなら、フランツお兄様でも釣り合うんじゃないの」
エックお兄様の呟きに私が驚いて聞くと、
「ユリア、お前、俺が渡した帝国の人間関係図、全然見ていないだろう」
エックお兄様が呆れて言った。
「えっ、そんなことないわよ」
私は口では反論したが帝国に行くまでの道中の暇な時に勉強しようと思ってまだほとんど見ていなかった。
「嘘つくな。俺が折角作ってやったのに! 全てに目を通しておけよ」
「判った。頑張るわ」
私はあの大量の資料を読むのかと嫌になった。
「頑張って!」
「リーゼお前もだ。将来王妃になるつもりなら、ユリア以上に読め!」
「ええええ!」
お姉さまが嫌そうな顔をしたが、
「帝国との関係は大切だからな。お前のためにも全て読め!」
「判ったわ」
お姉さまが諦めたみたいだ。エックお兄様がこう言ったら聞いた方が良いのだ。
私も頑張ろうと思ったのだ。
それから、
「えっ、そうなんだ」
私は知らなかった。王子殿下の婚約者ならフランツお兄様は無理だ。
「フランツお兄様には言わなくていいの?」
「紙は渡しているんだ。読んでいない彼奴が悪いだろう」
エックお兄様があっさりと言ってくれた。
でも、それからベティーナが帰ってくるまで更に半時間近くかかった。
「遅くなって、申し訳ありません」
平謝りに謝るベティーナに
「君が悪いんじゃないから、気にしなくても良いよ」
フランツお兄様が、必死にフォローしていた。
「本当にあのガマガエルむかつくよ」
フランツお兄様が、馬車の中で文句を言った。
一緒に行ったところで、あの偉そうな役人が中々入国を認めなかったらしい。
「まあ、良いじゃない。泊めてくれるってて言うんだから良かったじゃない」
私が言うと、
「お前は図々しすぎるんだよ。普通泊めてくれると言ってすぐに頷くな」
「だってお腹空いたし、あの子は私と同学年みたいだから今から友達になっれるし」
私が言うと、
「お前は食い意地しかないのか」
エックお兄様に呆れられたが、
「それまでだ。何か来るぞ!」
お兄様が、声を上げた。
馬の走ってくる音がした。
襲撃みたいだ。
私達は何者かに襲撃されたのだ。