国境で私が不審者だと言われてお兄様と一触即発の事態に陥りました
馬車は順調に進んでいた。
まあ、私達だけならば馬に乗って突っ走れば一週間で着けるけれど、馬車の旅はのんびりなのだ。
王都から川を下って2日。そこから山越えに2日。そして、今日はやっと国境を越えて帝国に入るのだ。
ハンブルク王国の国境審査はお兄様の顔パスであっさりと出国できたが、帝国の国境の警戒は厳重で例え貴族と言えども審査があった。
長い列になっていたが、貴族はさすがに別物で別のところに馬車ごと案内された。
国境審査の建物は小さいが一般用の機能重視と違って、貴族用になっていて少しこぎれいな建物になっていた。そして、その一室の真ん中に水晶が置かれていた。
周りに帝国の騎士が見守る中で身分証を出して水晶に手をかざすのだ。
お兄様が身分証を出して水晶に手をかざす。
水晶は青く光った。
「宜しいです。次の方どうぞ」
係官の言葉にお兄様の次に並んでいた私が向かった。
身分証と書類を差し出す。ピーちゃんは胸に抱えていた。
「えっと、その黄色いのは子竜だと?」
国境の審査官は唖然としていた。
「いや、そう見えるだけだろう。なんかの鳥だろう」
その横にいた偉そうなおっちゃんが馬鹿にしたように言ってくれた。
「ピーちゃんは子竜なんですけど」
「はいはい」
男は私も馬鹿にしたように見てくれた。
私はむっとしてその男を睨み付けたが、
「ユリア、別に良いだろう。それで。ここで取り上げられたらどうするんだ」
後ろからエックお兄様に言われて私ははっとした。
竜なんて危険だから入国はならんとか言われたらしゃれにもならない。
「あっ、それで良いです」
私は慌てて頷いた。
「うん? ホフマン公爵家には次女なんて載っていないが」
大きな年鑑らしきものを見て偉そうな男が私を睨んできた。
「養女です。9年前にお父様と養子縁組したんです」
私が言うと
「帝国にも届けてもらわないと判らないんだが」
ブツブツ言いながら男は隣の審査官と目で合図していたが、
「まあ、良かろう。この水晶に触れてみろ」
偉そうに男に言われて私はむっとしたが、ここは我慢だ。
私は水晶に手をかざす。
その瞬間だ。水晶が真っ赤に光ったのだ。
「えっ?」
私は唖然とした。水晶が真っ赤に光って警報らしきものまでなりだしたのだ。
「おい、直ちにこの女を拘束しろ」
男が騎士達に指示した。
騎士達が私を拘束しようとした。
「ユリアに近付くな!」
お兄様が戻って来て、騎士達の前に立ってくれた。
私の後ろにはエッサクお兄様がいる。
「ええい、何をしている。この水晶が赤く光ったということは犯罪人ということだ」
偉そうな男が叫んでいた。
「ふざけるな。ユリアはハンブルク王国のホフマン公爵家の次女だぞ。それを犯罪人にするなど、我が公爵家に喧嘩を売るのか?」
お兄様が叫んでいた。今にも抜剣しそうだ。
「何を言っている。ハンブルク王国の公爵家だろうが何だろうが帝国の法は法だ。高々属国の公爵家風情が偉そうにするな」
男が叫んでいた。
「何だと!」
「お、お兄様!」
激高しているお兄様を私はなんとか止めようとした。お父様からはくれぐれも問題を起こさないようにと注意を受けているのだ。帝都に着く前の国境なんかで問題を起こしていたらしゃれにもならない。
「ほおおおお、我がホフマン公爵家は帝国では侯爵位を授かっているのですがそれでもそう言われるのですか?」
後ろから不敵な笑みを浮かべて、エック兄様が言ってくれた。
「帝国の侯爵家だと」
いきり立っていた騎士達が戸惑った。
「今回このユリアーナは恐れ多くも帝国の皇帝陛下から学園に留学するように推薦されてここにいるのです。貴方たちは皇帝陛下に逆らうと言われるのか?」
「へ、陛下の推薦だと」
責任者らしい男と係官は驚いて私とエックお兄様を見比べた。
「信じられないのならば、問い合わせしてくれたらよかろう」
お兄様が少し落ち着いて言ってくれた。
良かったお兄様が落ち着いて。でないとこんなちゃちな国境警備の建物など一瞬で消滅するところだった。
「しばし待たれよ」
係官はそう言うと、私達はそのまま別室に通されて待たされたのだ。
「どういう事だ? 何でユリアが犯罪者になるんだ」
「そんなの判らないわよ」
お兄様に聞かれて私が答えた。
「本当よね。お兄様が凶暴だからとアラームが光るのは判るけれど」
「リーゼ。俺は凶暴では無い」
したり顔で言うお姉様にお兄様が反論したが、
「何言っているのよ。今も周りの騎士達を吹っ飛ばす気満々だったでしょ。お父様からはくれぐれも問題を起こすな、大人しくしていろって注意を受けているのに、国境で問題を起こして送還されたなんて事になったら笑い話にもならないわよ」
お姉様がブツブツ文句を言う。
「本当ですよ。兄上。少しは押えてください」
エックお兄様まで言いだした。
「本当だよ。兄上。国境で暴力事件を起こして帰されたなんてなったら恥ずかしくて誰にも言えないよ」
「お前が言うな」
調子に乗ってそう言ったフランツお兄様はお兄様に頭を叩かれていた。
「痛いよ、兄上」
フランツお兄様は涙目だ。私みたいに黙っていたら良かったのに!
口は災いの元なのだ。
「ホフマン公爵家のアルト様ですよね?」
そこへ扉の前で私達を見ていた一人の騎士が声をかけてきた。
「そうだが」
不機嫌そうな声でお兄様が返事をすると、
「私、トム・ドンモリーと申します。曾祖父が西部のドンモリー男爵家の出身でして」
「ああ、我が公爵家の配下にいる」
エックお兄様が横から教えてくれた。
確かホフマン公爵家の西部にある男爵家だ。代々騎士の家柄だ。
「そうか、今は帝国にいるのか?」
「はい。我が曾祖父は次男でしたので、家から出るしか無く、王都の騎士学校から推薦を受けて帝国の騎士学校に入って帝国の騎士になったのです。私はアルトマイアー様には昔里帰りした時に、訓練をつけて頂いたことがあります」
トムが話し出した。
「そうだったか。何年前だ?」
「3年前の夏です。その時はコテンパンにやられまして、ユリアーナ様になら勝てるだろうと挑戦して、一撃でやられました」
騎士は笑って言ってくれた。
「ああ、あの夏の異様に暑い日の時だろう」
横からフランツお兄様が言いだした。
「はい。フランツ様には1分間粘りましたが、力及ばず弾き飛ばされてしまいました。さすが試練をくぐり抜けられている方々は違うと実感した次第です」
男は懐かしそうに言ってくれた。
「そうそう、普通は試練をくぐり抜けるのも大変だからな。くぐり抜けられたら凄いことなんだぞ」
フランツお兄様がそう言って自慢するが、
「何を言っているんだ。公爵家の男なら当たり前だろう」
「当然の事を自慢するな」
「女のユリアでも通っているのよ」
「フランツお兄様の相手はゴブリンだったじゃない!」
フランツお兄様は私達四人の集中砲火を浴びていた。
「あ、あのな。ユリアの相手はピーちゃんだろ。ゴブリンと変わらないじゃないか」
「何言っているのよ。ピーちゃんは強いんだから」
「ピーーーー」
怒ったピーちゃんが私の胸から飛び出して嘴でフランツお兄様をつつきだした。
「痛い、痛いから」
フランツお兄様は必死にピーちゃんから逃げ回っていたのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
無事に一同は国境を通れるのか?
続きは今夜の予定です。
お楽しみに








