お父様達に見送られて帝国に旅立ちました
それから出発までは準備に結構大変だった。
何しろハンブルク王国のホフマン公爵家の子供五人全員が帝国に留学するのだ。その準備だけでも大変だったが、普段あまり使っていない帝国のホフマン侯爵家の屋敷を使えるようにするのも大変みたいだった。
元々ホフマン公爵家は帝国の皇弟が初代ハンブルク国王が建国する時に力を貸して公爵に叙爵されたのが始まりだ。帝国の時の皇帝もその弟の功を称えて帝国のホフマン侯爵位をその皇弟に授与したのだ。最も帝国のホフマン侯爵家は形だけだったから、ほとんど領地は無かったけれど……帝都に立派な屋敷はあった。
その屋敷を使うのは我が家から帝国の学園に留学する時や、やむを得ず当主等が帝国に滞在する時に使うしか使い道が無かった。一番最近はお父様が帝国に留学した時に使ったのが最後だそうだ。
急遽帝国にあるホフマン侯爵家の屋敷を住めるようにするとのことで家令のセバスチアン等が先行して準備に行ってくれた。最終的にこの屋敷の三分の一の者を連れていく事になった。
その移動の準備等もあったのだ。
お父様は一人になるのでとても寂しがっていた。
「父上、本当に全員で帝国に留学して宜しいのですか?」
お兄様が珍しく食事の席に帰ってきたお父様に確認していた。
最近お父様はほとんど帰ってきていなかった。いろいろと王宮の方でもドタバタしているらしい。
「何でしたらフランツくらいは残して行きますが」
「ちょっと兄上、それはないんじゃない! 俺もユリアの兄だよ!」
「そうだぞ、アルト。このままハンブルクにフランツを置いておいたら訓練をサボって楽するフランツの将来像しか見えんわ」
お父様が言ってくれた。
「ちょっと待ってよ。そうか、兄上がいないということは訓練がサボり放題だったのか! 失敗した」
フランツお兄様がしまったという顔をしてくれた。
「ちょっとフランツお兄様。私と一緒に留学してくれるんでしょ」
私が慌てるフランツお兄様に怒って言うと、
「当然だろう! 俺もユリアの兄だからな」
フランツお兄様は胸を叩いて笑ってくれたが、絶対に後悔しているのは確実だった。
「何だかな」
私は首を振った。
「でも、お姉様も良かったの? クラウスをほっておいて。絶対にピンク頭が手を出してくると思うけれど」
私が心配して言うと、
「何を言っているのよ。クラウス様も留学するのよ」
「えっ、そうなの?」
私は初耳だった。
「殿下はどこに住むんだ?」
エックお兄様が聞くと、
「宮殿の離宮に住むそうよ」
「まあ、ツェツィーリア様もそうだったからな」
お姉様の言葉にお父様は頷いていた。
いつも寡黙なお父様は珍しくよく話していた。
食事の後に皆別々にお父様の執務室に呼ばれた。
私は最後だった。
「ユリア、来たか。まあ座れ」
お父様は私に応接の椅子を指し示した。
「ユリア、お前も大きくなったな」
お父様が珍しく感傷的になっていた。
「そうかな。まだ胸は無いし」
私が自分の気になるところを引き合いに出すと、
「まあ、そこは追々だろう。それにそんなに気にしなくても良いのでは無いか? 小さくても良いという奴もいるしな」
お父様が慰めてくれたが、出来たらお姉様くらいは欲しい。
「今回の帝国への留学の件だが、出来れば俺は止めたかった。帝国とも色々交渉したのだが、出来なかった。俺の力不足だ」
お父様が少し頭を下げてくれたんだけど、
「何言っているのよ。お父様には感謝の言葉しか無いわ。身寄りのない私をこの屋敷に引き取ってくれて、ここまで育ててくれたんだから」
そう言うと私は姿勢を正した。
「本当にここまで育てて頂いてありがとうございました」
私はそう言うとお父様に頭を下げたのだ。
「何をしているんだ、ユリア。今生の別れでも無いのに、大仰な」
お父様がそう言ってむっとしてくれたが、
「ううん。一言お礼が言いたくて」
私は首を振った。
「ふんっ、そういう事は嫁入り前に言ってくれ。俺はまだお前の婚約を認めた訳では無いからな」
お父様が少し怒って言ってくれたけれど、
「相手がいればでしょ」
私は首を振った。
口より先に手が出るとか、可愛げが無いとかフランツお兄様達に散々言われているのだ。まあ、私はまだ13歳になっていない。前世で言うところの中一なのだ。婚約者なんてまだ決めるつもりは全くなかった。
「うーん、帝国なんかに行かせたくないのだが、帝国の皇子達は手が早いそうだからな。十分に気をつけるように。まあ、アルトがいる限り問題はないと思うが」
お父様が心配そうに私を見てくれた。
「冗談はさておいてだ、ユリア。お前はこのホフマン公爵家の娘だ。
アルトが強引に公爵家の試練をさせて公爵家の騎士となっているのもあるが、お前のことはお前の母からも我妻コンスタンツェからも重々よろしく頼むと頼まれている。何かあったら俺を頼れ。この地にいても即座に助けに行くからな。我がホフマン家の精鋭は1万を超える。何があってもお前に味方するからな」
お父様が何かあったら全面戦争も辞さずって言ってくれたんだけど、
「えっ、何かお父様の方がものすごく仰々しいわよ」
私は驚いてお父様を見た。
「まあ、そうだな。ただ、言える時に言っておかないとな。まあ、何もないと思うが、念のためだ」
お父様は冗談ぽく誤魔化してくれた。でも、私はお父様が何故こういうことを言ったかよく理解できていなかったのだ。
「判った。心配してくれて、ありがとう、お父様」
お父様があまりにも真面目に言うので私はお父様にお礼を言ったのだ。
翌日私達は数台の馬車を引き連れて王都を出発したのだ。
お父様を先頭に屋敷に残る者達皆が見送ってくんれた。
私はこの時は数ヶ月経てばこの地に帰ってこれると楽観していたのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
お父様はとても心配していました。
いよいよ帝国学園編です。
明朝 お楽しみに