やられて落ち込んでいたお兄様はを励ましたらその場で訓練を始めると言い出して止めるのが大変でした
「ユリア! あなた、何やってるのよ! いくらお兄様が心配だからって、お兄様でも勝てなかった赤い悪魔を攻撃するなんて、なにを考えているのよ。死にたかったの?」
あの後、落ち着いてから、お姉さまに散々怒られた。
「そうだぞ、ユリア、あそこは俺みたいにじっと我慢するところだ」
フランツお兄様まであきれられるんだけど、
「何言ってるのよ。そう思うなら、フランツお兄様はなぜユリアを止めなかったの? お兄様は、ユリアが切れたその瞬間、ユリアから逃げたよね」
お姉さまが今度はフランツお兄様に切れ出した。
「いや、リーゼ、プッツン切れたユリアを俺が止められるわけないだろう! 俺もまだ死にたくない!」
「何言ってるのよ! フランツお兄様も公爵家の試練乗りこえてるんでしょ。止められなくて、どうするのよ!」
お姉さまがフランツお兄様の言い訳に更にきれ出したんだけど……
「リーゼ! 俺は試練がコブリンだったけど、ユリアは古代竜なんだぞ。そもそも格が違うんだよ!」
「何威張って言っているのよ! ユリアの相手は所詮ピーちゃんでしょ。コボルトと変わらないじゃない!」
「ピー!」
お姉さまの言葉にピーちゃんは怒ったけれど、怒ったピーちゃんも可愛い!
「ほら、ピー助も怒っているぞ!」
「フランツお兄様に呆れているのよ!」
お姉さまはフランツお兄様を睨み付けた。
「そもそもユリア! あなた、赤い悪魔が今まで何人殺していると思っているのよ。目の前で笑ったむじゃきな小さな子供が気にきらないと悪魔の前で惨殺されたのよ! あいつは何するかわからないんだから」
「そんなに酷い奴だったの! じゃあ、退治すれば良かった!」
お姉さまの言葉に私が言うと、
「「「はああああ!」」」
「あなたじゃ勝てるわけないでしょ!」
「そうだ、ユリア、お兄様でも勝てなかったのに、お前じゃ、まだ、無理だ」
「死にたければ俺たちを巻き込むな!」
三人して、言ってくれるんだけど!
ちょっと酷すぎない?
「判ってるわよ! 頑張ってもっと訓練するから」
私はそう言うと、お兄様を見た。
お兄様が目を瞬いていた。
「あっ、お兄様、起きたの?」
私はあわてて、お兄様の側に寄った。
「お前らが俺の枕元でこれだけ騒いでくれたら、普通は起きるだろう」
不機嫌そうにお兄様が言った。
「お兄様が、赤い悪魔に負けるからでしょ」
「そうだ。負けた兄上が悪い」
「そうですよ。コテンパンに兄上が負けるから、ユリアが飛び出したんですから」
お姉さま達は容赦がなかった。
「もう、お姉さま達はうるさい! お兄様は精一杯ユリアの為に戦ってくれたんだから、もういいでしょ」
「いや、負けた俺が全て悪い」
お兄様がボソリと言ってくれた。
「ユリアの騎士としては失格だ」
お兄様が反省して言い出すんだけど、確かに私は無敵の騎士になってねとは言ったけれど、いつも勝てるとは限らないじゃない!
「良いのよ、お兄様は私のために死力を尽くしてくれたんだから。いつでも逃げ出せるように構えていたフランツお兄様に比べたら、さすが、私のお兄様よ」
「何言っているんだ、ユリア! 俺は勝てない戦はしない主義なだけだ。全員がやられたら、駄目だろう。いつかユリアの仇は取ってやろうと思ってはいたぞ」
フランツお兄様は自慢して言ってくれるんだけど、今の言葉の中にどうして自慢できる言葉があるのよ。
「それで1人だけのうのうと生き残るつもりなのね」
私が目一杯嫌みったらしく言うと、
「何を言うユリア。それが俺の役目だ。俺の代では無理でも、それの子供や孫の代にユリア並みの子供も生まれるだろう。そいつらに仇は討たせる」
フランツお兄様はとても格好良く言ってくれるけれど、
「それって結局フランツお兄様は何もしないってことでしょ。最低!」
私が言うと、
「いや、そんなことはないぞ!俺もだな……」
「もう良いわ。ここは私がお兄様の面倒を見るから皆は出ていって!」
私は何故かお兄様の病室で私を怒っていたお姉様とエックお兄様を追い出したのだ。それと余計な事ばかり言うフランツお兄様も。
「ちょっと、ユリア。私はまだ何も話していないわよ!」
お姉様が怒って言うけど、
「話はまた今度ね」
そう言うと全員を強引に追い出したのだ。
そう、私はこの後帝国に留学するのが決まってしまった。
だから少しでも長くお兄様と一緒にいたかったのだ。
「お兄様。気分はどう?」
私がお兄様に聞くと、
「ああ、だいぶましになったかな」
お兄様が答えてくれた。
あれからお兄様は3日3夜高熱を出して寝込んでくれたのだ。
やっと昨日熱が収まったのだ。今日は寝たり起きたりしていた。
「すまん。ユリア、お前がずっと面倒を見てくれていたのか?」
「そうよ。当然じゃない。何しろお兄様は私の代わりに赤い悪魔と戦ってくれたんだから」
私はお兄様に言い切ったのだ。途中で何度かお姉様とか侍女長に代わってもらったのは内緒だ。
起きている間は必死に看病したし……そう言っても良いだろう。私は起きている間はできる限りお兄様と一緒にいたかった。夏が終わったら私は帝国の王立学園に留学しなければいけない。お兄様ともお別れだ。お兄様は今まで本当に私のために色々やってくれていた。
だからこの休みの間もできる限り一緒にいたかった。
「ユリアのために戦ったのに、そのくせ負けていたら世話無いな」
お兄様が力なげに呟いた。
何それ。お兄様らしくない!
「お兄様。勝負は時の運よ。負ける時もあれば勝つ時もあるわよ。次に勝てば良いだけじゃない!」
私はそう言って珍しく落ち込んでいるお兄様を励ましたのよ。
「それはそうだが……そうだよな……次に勝てか」
お兄様はブツブツ言いつつ、私を見た。
そして、目を爛々と輝かせ始めたのだ。
「確かに、次にあの悪魔に次に勝つためにはこうしてはいられないな!」
お兄様はそう言うと立ち上がろうとしたのだ。
「ちょっとお兄様、何しているのよ?」
私は驚いた。
「お前が言ったんだろう。次は勝てと、こんなところで寝ている暇はない」
お兄様はそう言って起き出したのだ。
「いや、ちょっと待ってよ!まだ、傷は塞がっていないって! お兄様! 訓練はまだ早いから」
私は落ち込んでいるお兄様を元気づけようとしただけで、まだ傷も完全に塞がっていないお兄様がいきなり訓練を始めようとするなんて思ってもいなかったのだ。
「ちょっと、皆! 大変よ!」
私は大声で追い出した皆に助けを求めた。
そして、皆して強引にお兄様をベッドに戻したのだ。
後で皆に散々怒られた。
だって、少しお兄様が柄になく大人しかったから、元気付けようとしただけなのに!
「それでなくてもお兄様は脳筋なんだから、元気のない時くらい大人しくさせておきなさいよ。お兄様が動き出すのなんて判っていたでしょ!」
お姉さまに愚痴愚痴怒られた。
私はここまで早くお兄様が訓練を始めるなんて思ってもいなかったのだ。
そして、お兄様は翌日から私達が止めるにもかかわらず本当に訓練に入ってくれたのだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
お兄様も二度と赤い悪魔に負けないように訓練を始めました。
帝国に留学するユリアは少しでも長くこの家族の皆と一緒にいたいと思っていました。
次は帝国への留学です。








