お父様に邪魔されて赤い悪魔を退治は出来ませんでしたが、顔に傷をつけてやりました
「お、お兄様!」
私の目の前でお兄様が赤い悪魔に斬られた。
私は頭の中が真っ白になってしまった。
この家にお父様に連れられてきた時だ。兄や姉たちは皆私がお父様の隠し子だと思っていて、私には塩対応だった。
そんなギスギスした空気の中、お兄様だけが私のために絵本を持ってきてくれたのだ。
そして、お姫様を助ける白馬の騎士のお話を読んでくれた。
私はそれがとても嬉しかった。
そして、私はお兄様にお願いしたのだ。
「お兄様!」
「どうした、ユリア」
私がそう呼ぶとお兄様は嬉しそうに聞いてくれた。
「お願い。お兄様。私、このお姫様みたいに良い子になるから、私の白馬の騎士様になって!」
と、精一杯お願いしたのだ。
「判った。俺はユリアの白馬の騎士になってやるよ」
お兄様はそう頷いてくれるとニコリと笑ってくれたのだ。
それから公爵家の試練とか、お兄様の死の特訓とか本当に大変だったけれど、私がここにいられるのは全てはお兄様のお陰だ。
今までの想い出が走馬灯のように蘇ってきた。
お母様を思って1人寂しくベッドで泣いている時もお兄様が来てくれた。
「どうした? ユリア。何かあったのか?」
お兄様は私が皆に虐められたと勘違いしたみたいだった。
この家でお兄様が私の白馬の騎士になってくれると宣言したのに、私を虐める愚かなものなどいる訳無いじゃない。
「ううん、お母様のことを思いだしてしまったの」
私が言うと、
「そうか。ユリアの母上のことか」
お兄様も少し悲しそうな顔をしてくれた。そう言えばお兄様も自分のお母様を亡くしていたのだ。
「俺がここにいてやるから、そうすれば寂しくないだろう」
お兄様はそう言うと私の布団の傍に座ってくれたのだ。
「お兄様」
私が手を伸ばすと、お兄様は私の手を握ってくれた。
そして、私が寝るまで傍にいてくれたのだ。
本当に私に取って優しいお兄様なのだ。
そのお兄様が斬られた。
絶対に許さない!
私はピキンとキレてしまった。
私が怒り狂ったのが隣で見ていたフランツお兄様にも判ったみたいだ。
それまで傍にいたのが、瞬間的にさあああああっと下がってくれたのだ。
「絶対に許さない!」
「おい、ユリア!」
エックお兄様が止めようとしてくれたが、もう遅かった。
私は急加速すると一気に訓練場の中に入ったのだ。
「ゆ、ユリア!」
驚愕したお父様の顔が見えた。
「何だ、小娘!」
そこには余裕のある赤い悪魔がいた。
「ウォーーーーー」
私は叫びながら魔力を片手に貯めたのだ。
そのまま急激に赤い悪魔に近寄る。
「止めろ! ユリア」
何故かお父様が私と赤い悪魔の間に入ってくれたのだ。
それも両手を広げて完全無防備な形で私の前に立ち塞がってくれたのだ。
何故何故私の前に立つの?
私は怒り狂っていたが、私を野垂れ死にそうな私を拾ってくれたお父様を攻撃する訳にはいかない。
私の渾身の魔力攻撃はお父様が前に出てきたから出来なかった。
でも、私は許さない!
「死ねーーーーー」
ダーーーーン!
しかし、赤い悪魔を攻撃しようとした私はお父様の張った障壁で捕まっていた。
すさまじい衝撃が私を襲う。
目の前のお父様を攻撃する訳にはいかないので、仕方なしに、私はお父様の横から魔力を打ち出したのだ。それもお父様がいるから力を落としてだ。
私の一点突破の魔術がお父様の障壁の端を打ち破って赤い悪魔に向かって飛んだ!
だけど力が足りない!
「な、何を!」
驚愕に満ちた顔で私の魔力の攻撃を赤い悪魔は首を振って避けた。
グサッ!
赤い悪魔の頬をかすった魔力攻撃は地面に突き刺さっていた。
赤い悪魔はぎょっとした顔をした。でも、それだけだ。
お兄様が傷つけた頬の傷が少し大きくなっただけだ。
こんな傷でお兄様を斬ってくれた赤い悪魔を私は許さない!
気勢をそがれたが、接近戦にもっていくまでだ。
私が再び赤い悪魔に襲いかかろうとした時だ。
「双方それまでだ」
お父様が叫んでいた。
私と赤い悪魔の間に強力な障壁が張られていた。
私は射殺しそうな目で赤い悪魔を睨み付けていた。
赤い悪魔は驚愕した視線で私を見ていた。
「ユリア、アルトは怪我しているだけで命に別状は無い」
「えっ?」
お父様の言葉に慌ててお兄様を見た。
確かにお兄様は血を流しているが、息はある。
「お兄様!」
私は慌ててお兄様に駆け寄ったのだ。
「お兄様! お兄様! お兄様!」
私はお兄様に思いっきり抱きついていたのだ。それと同時にほっとしたのか涙が大量に出てきた。
その時には慌てた騎士や癒やし魔術師やお兄様達が飛んで来ていた。
私はその後のことはよく覚えていないが、後で皆が話してくれた所によると、お兄様を癒やし魔術師が治療するために私をお兄様から引き剥がすのが大変だったらしい。
お兄様が命に別状が無くて本当に良かった。
私がそう言えば赤い悪魔はどうした? と気付いた時には赤い悪魔はいなくなっていた。
「ユリアを恐れて逃げ出したんだ」
フランツお兄様がしゃれにならないことを言ってくれたけれど、絶対にそんなことは無い。普通にやっても今の私では勝てないだろう。
でも、次にあった時は絶対に倒してやる!
私は心に誓ったのだ。
そして、お父様の手元には皇帝からの学園への留学するようにと言う命令書だけが残っていたのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
渾身のユリアの一撃はお父様に阻止されました。
しかし、ユリアの一撃はバルヒェットの顔に傷跡を残す事になったみたいです。
四天王対ホフマン家の一回戦は最強のお兄様が赤鬼に負けたので、ホフマン家の負けです。
ユリアは帝国に留学することに決まりました。
ここから留学編です。
今夜更新予定です。
ユリアは1人寂しく留学生活を送れるのか?
次からは帝国留学編です。
お楽しみに!








