閑話 お兄様は昔私に白馬の騎士と王女様の絵本を読んでくれた時に、私の騎士になろうと決心してくれたそうです
私は白馬に乗った金髪の騎士がお姫様を守る絵本が好きだった。
私のおぼろげな記憶の中で、優しいお母様が何回も読んでくれたお話だ。
お母様にはこんな騎士様がいたそうだ。私のお父様がそうだった。
「私もそんな騎士様が守ってくれたらいいな」
「いつかユリアにもそんな騎士様が必ず現れるわよ」
私の言葉にお母様がそう保証してくれたけれど、でも、その二人とも私の前からいなくなってしまった。
そんな私を引きとってくれた公爵家に、金髪碧眼のお兄様がいた。
お兄様は本当にその絵本の白馬の騎士にそっくりだった。
そんなお兄様が読んでくれたのが私の大好きなその絵本だった。
そう私の前に本物の騎士様が現れたのかもしれない!
私は有頂天になって、お兄様に纏わり付いたのだ。
お兄様はそんな私を邪険にせずに面倒を見てくれた。
「お兄様。私の騎士様になってほしいの!」
私が頼むと
「任せろ。ユリアのことは一生涯守ってやる」
お兄様は頼もしく請け合ってくれたのだ。
それからお兄様はその誓いを守ってくれていた。
私が襲われた時は必ずお兄様が現れてその襲ってきた奴らをやっつけてくれたのだ。
私にとってお兄様は本当に白馬の騎士だった。
でも、私も王立学園に入る年頃になると、さすがにいつまでもお兄様に守ってもらうことは良くないだろうと思い出した。
お兄様ももう17になろうとしているし、そろそろ婚約者の話も出てくるはずだ。
いつまでも、私の我が儘に付き合わせる訳にはいかない。
「お兄様、婚約者の話なんだけど……」
「何だ、ユリア! お前、ひょっとして誰か、お前を好きな奴でも出て来たのか?」
お兄様に婚約者の話をするとお兄様はとても慌ててくれた。
「何言ってるのよ、お兄様! 私なんかを好きになってくれる人なんている訳ないでしょ。私はお姉様と比べて胸も無いし、顔も平凡なんだから」
「何を言っているんだ、ユリア! 確かにユリアは胸が無いかもしれないが、とても可愛いぞ」
お兄様が言ってくれたが、胸が無いことを強調しなくても良いと思う。気にしているんだから。それとシスコンのお兄様が言う可愛いなんてひいき目に違いない!
「そうそう、食堂のおばちゃんに比べればとても可愛いぞ」
フランツお兄様は後で覚えていなさいよ!
60前のおばちゃんと比べて可愛いと言われても全然嬉しくないんだから!
「私の事はどうでも良いのよ。お兄様の事よ。私と違って、お兄様には婚約者のお話とかが色々来ているんでしょ!」
「何を言っているんだ、ユリア。ユリアは俺と結婚してくれるって言っていたじゃないか」
お兄様がそう主張してきたんだけど……
「それは小さい子供の時の事でしょ。そう言う事を言う年頃だったのよ」
私は全然悪くないと思う。小さい子供がよく父とか兄に言う言葉だ。
「それに私はまだ13だし、私が卒業して成人になるにはまだ6年もあるわ」
私が現実問題で難しいと言ったのに、
「俺はユリアが学園卒業するまで、待つのは問題ない」
平然とお兄様が断言してくれるんだけど……
「そんなことしたらお兄様が結婚するのが遅くなってしまうわ」
私がそう反論すると、
「その時はユリアに責任取ってもらって嫁になってもらうから問題ない」
お兄様はにべもなく言ってくれるんだけど……それ本心なの?
「私で良かったら責任はいくらでも取るけれど」
私はそれを冗談のつもりで言ったのだ。
「約束だからな」
でも、にやっと笑ってお兄様が念押ししてきたんだけど……
ふざけるのもほどがある。
「もう、どうなっても知らないからね」
私はふんっと顔を背けた。
そんな中、お兄様は帝国の皇弟の娘の皇女殿下のツェツィーリア様からの婚約の申し出があったみたいだ。でも、お兄様はそれを断ったんだけど。何で、相手は皇弟の娘だし、これほど良い縁談なんて中々無いのに!
「ユリアを悲惨な目に合わせようとした奴と婚約なんてする訳無いだろう」
お兄様は言い訳していたけれど、それ断った後に判明した事よね。
そもそもこの後どうするつもりなんだろう?
本当に昔の私とした約束を覚えていて、それを実行するつもりなんだろうか?
私にはよく判らなかった。
そんな中、夏休みになって我が家はお父様以外は領地に帰ってきた。
本日は、私はお兄様と一緒に慰問で領都の孤児院に来ていた。
お兄様が子供達に剣術を教えている間に、私は女の子達に絵本の読み聞かせをしていたのだ。
最後に読んだ本は、私の大好きな白馬の騎士がお姫様を助けにくるお話だった。
「どうだった?」
読んだ後、皆に意見を聞くと、
「私も結婚するならこんな騎士様がいい」
「私もこんな騎士様が迎えに来てくれたら良いのに」
「私も」
女の子が皆、口々に感想を教えてくれた。
「ねえねえ、お姉ちゃん、お姉ちゃんには騎士様はいるの?」
そんな中で、ませた感じの女の子がいきなり聞いてくれた。
「えっ、それは、なんでそんなこと聞くの」
私はとっさになんて答えていいか思いつかなかったから聞いていた。
「だってお姉ちゃんはきれいな銀の髪の毛しているし、この絵本のお姫様そっくりなんだもの」
「ああ、本当だ。お姉ちゃんお姫様みたい」
「本当にきれいだし」
女の子が口々に言ってくれた。
お兄様が言うよりも子供達は正直だって言うからこれは喜んでいいのだろうか?
私は子供達にお姫様みたいって褒められてとても嬉しくなった。
「そう言えばさっきここにいた金髪のお兄ちゃんはこの絵本の騎士様にそっくりだったよ」
「あっ本当だ」
「あのお兄ちゃんも絵本の騎士様そっくりだ」
「それにお姉ちゃんと仲よさそうだったし」
「お姉ちゃんの騎士様はさっきのお兄ちゃんなの?」
子供は言うことがストレートだ。
「えっ、いや、ちょっと、そんなことは」
私は何故か赤くなっていた。
「あーーーー、お姉ちゃん赤くなった」
「本当だ」
「お姉ちゃんの騎士様はお兄ちゃんだったんだね」
「いいな」
子供達が好き勝手に言いだしてくれたんだけど、
私が否定しようとした時だ。
いきなり私は抱き上げられたのだ。
「えっ?」
驚いて私は抱き上げたお兄様を見た。
「あっ、金髪のお兄ちゃんだ」
「ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはこの本の中の騎士様みたいにお姉ちゃんの騎士様なの?」
ませた子供がもう一度、聞いてくれるんだけど、もうやめてほしい!
私は更に赤くなっていた。
お兄様には否定してほしかったのに……
「そうだよ。お兄ちゃんは昔、この絵本を読んだ時に、このお姉ちゃんの騎士になろうと心に決めたんだ」
「えっ、お兄様、子供達に何を言うのよ」
私が慌ててお兄様を見ると
「だって事実だからな。ユリアにもなってほしいって言われたし」
お兄様は笑ってくれた。
「キャーーー」
「凄い」
「熱々だ」
子供達が騒ぎ立てるんだけど……
ちょっと、こんな事は子供達の前で言わないでほしい。
恥ずかしくて二度と来れないじゃ無い!
私は恥ずかしいから降ろしてとお兄様にお願いしても、お兄様は中々降ろしてくれなかった。
子供達にはわいわい言われるし、本当に恥ずかしかった。
でも、少しだけ嬉しかったのは内緒だ。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
夏休みのお兄様とユリアの1ページでした。
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