乾杯した後聖女が苦しみだして、私は聖女に毒を盛った犯人にされました
「ハンブルク王国の王立学園の生徒の諸君。今君たちは前期を終えてほっとしているだろう」
学園長が壇上に上って挨拶を始めた。頷いている生徒がいる。
「特に一年生は初めてのテストを終えてほっとしていることと思う。私もほっとしている。特に今年はいろいろと問題を起す生徒も多く、私は疲れた」
その言葉と共に皆私達の方を見るんだけど、絶対にお兄様よね!
「ユリアに決まっているでしょう」
呆れたようにエックお兄様の横にいるマリアが呟いてくれたんだけど、お兄様も変わらないはずよ!
「テストは出来た者も出来なかった者もいるだろう。でも、結果はもう出た後だ。今更悔やんでも仕方が無い。それに喜んでほしい。明日からは皆の待ち望んでいた夏休みだぞ」
学園長が全員を見渡した。
「そうだ」
「夏休みだ」
皆期待に目を輝かせている。
「せっかくの夏休み、思いっきり羽を伸ばしてほしい。一学期間ご苦労様。夏の間に鋭気を養って後期からの授業に備えてくれたまえ」
珍しく、学園長の話は短かった。
皆一斉に拍手していた。
「では続いて国王陛下よりお言葉を頂戴したいと思います」
司会のラーデ先生の声に皆、グランドの観客席に作られた保護者席をみた。その真ん中の来賓席に国王陛下の姿が見えた。
「王立学園の諸君、一学期間、勉強に学園の行事にご苦労だった。この国の未来を引っ張る諸君の頑張りに私は拍手を送りたい」
保護者席から一斉に拍手があった。
今日は結構な保護者が観客席にいた。私の父親は相変わらず陛下の後ろに立っていたが。
「特にこの前期は、私の後ろに立っているホフマン公爵家の子供達の活躍が目立っていた。1年生のユリアーナを筆頭に我がクラウスの婚約者のリーゼロッテ、我が息子のクラウスを押えたフランツ、エックハルトの4人が主席をだし、一番上のアルトマイアーは成績こそ2位だったが、競技大会で剣術部門での優勝と大活躍だった。よく頑張ったと言いたいが、私の息子を始め、他の者にもより一層の努力を期待したい」
陛下の話に皆頷いていた。
ちょっと陛下、皆を煽るのは止めてよ! マリアがやる気になっているじゃ無い。私は一点差なんだから今度は負ける気しかしないんだけど……
その後も陛下の話の中に二回ほど私の話が出たような気がするが私は無視することにした。昔出会った小さい女の子が騎士を倒して驚いたとか、そんな子供がもう一年生にいるって私しかいないじゃ無い! 皆こちら見て笑っているし……私の黒歴史を話さないでほしい。フリッツ先生が私をきつい視線で私を睨んでくるし、これ以上剣術の成績が下がったら絶対にマリアに負けてしまうんだから!
「では今日は帝国からブッシュバウム枢機卿がいらしているのでお話し頂きましょう」
陛下の話の後で、司会のラーデ先生が枢機卿を指名した。
「王立学園並びにその保護者の皆さん。私は帝国というよりもこの大陸全ての国々で信仰されている教会の枢機卿です。此度は世界で久々にこの地に現れた聖女様のご様子をお伺いしにわざわざ帝国にある公国からやって参りました」
何か枢機卿の挨拶は前置きが長かった。これは長くなりそうだ。私はうんざりした。
「皆さん、聖女様はこの世界にとってとても尊いお方です。神から認められたお方なのです。その聖女様が少し蔑ろにされているという噂が流れて教皇猊下もとても心配なされております」
いきなり枢機卿はとんでもないことを言い出した。
すわ、これが断罪への序曲なのかと私は身構えた。
「学園の皆さんには出来ればもう少し聖女様を大切にして頂ければと思い苦言を述べさせていただきました。ところで皆さんは…………」
そこから枢機卿の長い話が始まったのだった。聖典に準ずる話として過去の聖女様とこの国の王との愛の物語を延々と話してくれたのだ。10分以上も。
私達生徒はうんざりした。
枢機卿としては聖女は王太子とくっつくべきだと言いたかったのだと思うけれど、生徒達の大半はうんざりして聞いていなかった。
「ということで私は聖女アグネス様の活躍を期待しております」
やっと長い枢機卿の話が終わった。
何に期待するのかよく判らなかったけれど、お姉様を押しのけてピンク頭がクラウスの婚約者になるということをだろうか?
より一層、私が頑張らないとと私は肝に銘じたのだった。
その後全員に給仕によってジュースが配られた。
「では乾杯の挨拶を生徒会長のアルトマイアーさんからしてもらいましょう」
その声に皆が私の隣のお兄様を見た。
「諸君。前期、ご苦労様。後期も頑張ろう。乾杯」
お兄様はその場で大声で叫んでいた。
「「「乾杯!」」」
皆大声で唱和した。
そして、私はそのジュースを一気飲みした。
バリン!
その時だ。誰かがジュースのコップを地面に落とししてわれる音がした。
そちらを見ると、ピンク頭が喉を押えて苦しんでいるのが見えた。
「キャーーーー」
「聖女様!」
「何事だ?」
「大変だ」
「聖女様が毒を盛られたぞ」
その声を聞いた途端に観客席の外から聖騎士がなだれ込んできた。
「動くな!」
聖騎士達は剣を抜いてたちまち私達を取り囲んだのだ。
私はそれを驚いて見ているしか出来なかった。
「ユリアーナ・ホフマン! その方、聖女アグネス様に毒を盛ったな」
騎士の一人が私を指さして叫んできたんだけど……私は何を言われたかとっさに判らなかったのだ。
ついに聖女に毒を盛った犯人だと名指しされたユリアの運命や如何に?
続きは今夜です。
お楽しみに!