パーティーの前に枢機卿が仕掛けてきましたが、お兄様が保護者席に追い出してしまいました
馬車が動き出して、お兄様がなんか赤くなっているんだけど、どうしたんだろう?
「ウホン!」
エックお兄様が咳払いをしてくれた。
お兄様がその音で顔を真面目な顔に戻す。
「教会がリーゼとクラウスの婚約を無くして、聖女とかいうゴキブリ女をクラウスとくっつけようとしているのはお前らも知っての通りだ。父上もとても気にしている。今回の学園でも何やらきな臭い動きがあるのをエックが掴んでくれた」
「教会側は何をしてくるか具体的にはまだ判らないが、帝国と組んでいる可能性が高い。狙いはリーゼとユリアだろう」
エックお兄様が私達2人を交互に見てくれた。
「ふんっ、教会が色々策動してるみたいだが、我がホフマン公爵家が負ける訳にはいかん。まあ、聖騎士などと言う張りぼてが100騎来たところでエックなら片手でやっつけてくれるだろう」
お兄様は笑って言ってくれたが、
「俺が一人でやるんですか? 兄上は?」
「俺はユリアを守る」
驚いて声を上げたエックお兄様に、事もなげにお兄様が宣言してくれた。
「ユリアなんて護衛は必要ないと思うけれど」
フランツお兄様が変なことを言ってくれるんだけど……私も凜々しい護衛は必要よ。何しろ私は絵本の中のか弱いお姫様なんだから! まあ、お兄様以外の立派な騎士が良かったんだけど、この国で最強クラスのお兄様だからここは我慢だ。
「誰がか弱いって? ユリアはもう一度一から言葉の意味を覚え直した方が良いんじゃ無いか?」
私の呟きに、フランツお兄様が反応してくれたんだけど、
「何ですって?」
私が叫んだ時だ。
「ユリア! 良いか?」
お兄様の声が聞こえた。これはこれ以上騒いではいけないやつだ。私は黙り込んだ。
「フランツはリーゼにつけ」
「ええええ! 一番弱い俺が一番危ないリーゼに着くの?」
フランツお兄様が悲鳴を上げてくれた。
「お兄様。私もフランツお兄様では不安です。せめてユリアをつけてよ!」
お姉様も言ってくれるんだけど、
「心配するな。クラウスとその側近がリーゼには付いてくれる」
「えっ、クラウス様が! 本当なの?」
お姉様は現金な者でクラウスがエスコートしてくれると言われてあっという間にクラウスモードに入ってしまったんだけど……でも大丈夫なんだろうか?
「大丈夫だ。奴らはここしばらく徹底的に鍛え直した」
お兄様はそう言うんだけど、本当にあの4人でピンク頭を本当に防げるのか?
まあ、もしもの時のフランツお兄様。ゴブリンフランツもお姉様を逃がすくらいは出来るだろう。
最悪、私とお兄様がお姉様に合流したら、帝国の四天王が出てこなければ大丈夫だろう。
力勝負はお兄様が頭脳戦になればエックお兄様がいる限り負ける訳はないし……
そう思うと、気は楽だ。
私達を乗せた馬車は学園に着いたのだ。
馬車の外には何とクラウスが待っていた。ピンク頭は見えないし……相当クラウスはお兄様に絞られたみたいだ。
未来の近衞騎士団長と未来の国王陛下を比べた場合、本来立場は国王陛下が上のはずなのに、お兄様に怒られているクラウスしか思い浮かばないのは私の気のせいだろうか?
「キャーーーー」
「王太子殿下よ」
「誰を迎えに来られたのかしら」
「聖女様?」
「何いっているのよ! あの馬車はホフマン公爵家の馬車よ」
周りの女達が何か噂していた。
「ユリア!」
クラウスが私に手を振ってきたけれど、迎えに来たのはお姉様でしょ!
私がお姉様を指さすと慌ててお姉様に笑みを浮かべて手を差し出していた。
こんなので本当に大丈夫なのか?
お姉様は満面の笑みを浮かべてクラウスにエスコートされて歩いて行った。
その後にフランツお兄様が側近達と続く。
「キャーーーー」
「エックハルト様よ」
「エックハルト様」
「私と一緒に参りましょう」
「ちょっと止めてよ。私よ」
「私でしょ」
たちまちエックお兄様を巡って凄まじい争奪戦が起こりだしたんだけど、
「ああ、君たちごめんね」
そう言ってエックお兄様は並み居る女達をかき分けて、遠くで待っていた青髪の女の子に駆け寄ったんだけど……
ええええ! あれはマリア? 嘘ーーーー!
エックお兄様のエスコート相手ってマリアだったの!
私には信じられなかった。
「待たせたね」
「いいえ、大丈夫です」
とかなんとか言っているんだけど。
「ええええ!」
「あれは誰なの」
「一年の子爵家の女の子よ」
「何あれ信じられない」
女達はブーブーだった。
「じゃあ、ユリア、いくか」
そう言うと、お兄様は私を抱き上げて馬車の外に連れ出してくれた。
「ああああ!」
「アルトマイアー様」
「ちょっとあれ何よ」
「こぶ付きよ」
「信じられない!」
「ユリアーナちゃん!」
「アルトマイアーは退け!」
私に対しての凄まじいブーイングと何故かお兄様に男達のプーイングが聞こえるんだけど……
気のせいだろう。
お兄様は私を降ろすと今日はちゃんとエスコートしてくれた。
私は腕を差し出してくれたお兄様の腕に手を添えて歩き出しのだ。
そして、私達が会場のグランドに入った時だ。
「クラウス様!」
クラウスに駆け寄るピンク頭が目に付いた。
いつもはそのままクラウスに抱きつくのに、今日はクラウスの側近のランテードルフ達が前に立って邪魔してくれた。
「ちょっと、貴方たち、私を通しなさいよ」
ピンク頭が文句を言っているが、
「いくら聖女様とはいえ、今日はリーゼロッテ様以外の女は近づけるなと殿下に言われていますから」
「何ですって! 私はこの国の聖女なのよ。王太子殿下とご挨拶したかっただけなのに、それを門前払いするなんて」
大声でピンク頭が言いだした。
これは早速何かの罠か?
「いかがされたのですか、聖女様?」
そこにゴテゴテ頭を飾った帽子を被った聖職者と思われる者が近付いてきたのだ。
「誰だ、あいつは?」
「あれが公国から派遣されてきたブッシュバウム枢機卿です」
お兄様の質問にエックお兄様が答えてくれた。今日のためにわざわざ帝国の公国から派遣されてきた枢機卿だそうだ。
「ブッシュバウム様。私が王太子殿下にご挨拶しようとしたのに、あの女、リーゼロッテが邪魔してくれるんです」
「まあ、なんと言うことでしょう。婚約者の地位を利用して聖女様を蔑ろにするとは」
ピンク頭が必死に枢機卿に訴えている。
皆ざわざわし出した。
面倒事が起こったと私は思った。
ランドルフ等も思わぬ大物が現れたのでオロオロしている。
「ランドルフ。その部外者を叩き出せ!」
その時お兄様の大音声が会場中に響いたのだ。
「「「えっ?」」」
みんな、慌ててお兄様を見た。
「この中に入れるのは生徒と教師のみだ。部外者は例え国王陛下であろうと中に入ることは許されない。警備の騎士達は何をしているのだ!」
「「はっ」」
お兄様の大音声に騎士達が慌てて飛んで来た。
「な、何をするのだ? 私は枢機卿だぞ」
「枢機卿だろうが何だろうが、保護者は保護者席からご覧下さい」
騎士達は強引に枢機卿を外の閲覧席に追い出してしまったのだ。
「おのれ! あの男覚えていろよ」
枢機卿が何か叫んでいるが、お兄様は全く無視していた。
ピンク頭もお兄様の大音声にびっくりしたのか、それとも後ろ盾が近くにいなくなったからか静かになった。でも、私を燃えるような視線で睨んでくるんですけど……
私は今日もこれで終わるとは到底思えなかったのだ。
協会側のまず一手はお兄様の大音声によって防がれました。
次の手は?
続きは明日です。
お楽しみに!








