皇弟の娘視点 ユリアーナをサマーパーティーで姉諸共断罪して始末することにしました
ユリアーナは私の目の前でアルトマイアー様の片腕に抱きかかえられて馬車に乗ってくれたのだ。真っ赤になったその姿を見て私には許せなかった。
私はアルトマイアー様に運ばれる時はいつも肩に抱えられていた。荷物みたいに。
アルトマイアー様は騎士だからこういう運び方しかしないと思っていたのだ。
なのに、あのユリアーナは片手で抱き上げられて運ばれていたのだ。それもユリアーナはアルトマイアー様の首に抱きついたり平気でしていたし……
何なのよ、この差は!
私はもう絶対にユリアーナは許せなかった。
王宮の離宮に帰ると私はバルトルトに命じたのだ。今度は必ず消して欲しいと。
そして、今日、その決行の時が来たと言われて、私は側近達と図書館の一階にいたのだ。
一応教科書を開いてこの国の歴史を学んでいる振りをしていた。私は皇族で帝国の歴史は完璧だったが、属国の歴史まではまだ手が回っておらず、この国の歴史もあやふやだった。それを教科書片手に、勉強していた。
ただし、私の心は完全に上の空だった。今日図書館で行動するために、影が4人、潜り込んでいた。
ユリアーナがこの図書館の二階で勉強しているのは掴んでいた。バルトルトはトイレで始末すると教えてくれていた。まあ、まだ12歳と幼いのに可哀相だが、この皇女様をここまで虚仮にしてくれたのだ。絶対に許せなかった。
私は今か今かと事が起こるのを心待ちにしていた。
「やあ、ツェッツィ、どうしたんだ。こんなところで」
私を見つけて歩いてきたアルトマイアー様を見て私は驚いた。アルトマイアー様がこのようなところに居るなんて……そうか、妹を迎えに来たのか!
私は歯ぎしりした。
「この国の歴史か」
「そうなのよ。初代皇帝陛下とこの国の王の関係が今ひとつよく判っていなくて」
私はアルトマイアー様に尋ねていた。
「そこは俺でもよく知っているぞ」
そう言うとアルトマイアー様は自分のペンを取り出して、書き出してくれた。
この国の初代国王を助けるために、初代皇帝陛下の末の弟が協力したらしい。そして、その末の弟と国王の娘が結婚してその息子が初代ホフマン公爵になったという話だった。
「そうだったのですね。では私とアルトマイアー様も遠い親戚ですね」
私が微笑んで頷くと、
「まあ、我が家と皇家はそれからも何度か婚姻を結んでいるからな。ツェッツイとは親戚と言えば親戚だ。そもそも母上がツェッツイの母上と従兄妹だったはずだぞ。それで昔ツェッツイが我が家に滞在したと聞いている」
「だから、ユリアーナさんは銀色の髪色なんですね」
私は頷いた。皇家の血を継いでいるものを殺して良いのかという話しもあるが、皇家との遠い親戚など帝国に帰れば山のようにいるのだ。
「いや、ユリアは養子だからな。皇家とどのような関係かは聞いたことはないが」
やはりユリアーナはアルトマイアー様とは血が繋がっていないらしい。
そういう事は私とアルトマイアー様との婚姻に邪魔だった。私はバルトルトに指示して正解だったと思った。その憎たらしいユリアーナも今日限りだ。
そうなればアルトマイアー様が私の物になるのも時間の問題だろう。
そう思うと私は少し嬉しくなった。
その時だ。爆発音がしたのだ。
「キャーーーー」
「何事だ?」
皆騒然とした。
「ユリア!」
「アルトマイアー様」
アルトマイアー様は私の止める声も待たずに転移していったのだ。
後にはアルトマイアー様のペンだけ残っていた。
私はそのペンを握りしめると筆入れの中に入れていた。
殺す方法はバルトルトに任せていたが、魔術で攻撃するなんて、なんて目立つ方法で攻撃してくれたのだろう。私は後で注意しようと思ったのだ。
私はその時はユリアーナの抹殺は絶対に成功したと信じ切っていたのだ。
「何ですって! ユリアーナを始末するのに失敗したですって!」
私は離宮でバルトルトから結果を聞いて憤慨していた。
「何をしているの? 高々属国の公爵家の娘一人始末するのに何回失敗したら気が済むのかしら?」
声高に叫んでいた。
「申し訳ありません。ユリアーナは強力なお守りを持っていたようでして、ナイフで刺殺しようとした男達は二人とも事切れてしまいました」
「帝国が噛んだと言う証拠は残していないでしょうね」
私は爪を噛みつつ、確認した。
「そこは抜かりがございません」
バルトルトは保証してくれた。
魔物討伐訓練と図書館の二階も失敗するとは帝国の影も能力が落ちたのではないの?
私はとても不満だった。
「で、これからどうするの?」
私が聞くと、
「その点ですが、帝国の本土からユリアーナにこれ以上手を出すなと指示が来まして」
申し訳なさそうにバルトルトは伝えてくれた。
「はああああ? 帝国の影が失敗したから止めるというの?」
「申し訳ございません。属国でこれ以上公に動くのはまずいという判断でして」
「ではどうするのよ? このままアルトマイアー様とユリアーナがくっつくのを指を咥えて見ていろと言うの?」
私が憤って聞くと、
「そうは申しません。教会は今聖女様と王太子殿下の婚約を水面下で進めております」
「最近はうまくいっているとは聞いていないけれど」
最近は王太子の側近が聖女と王太子の接触をよく邪魔していて、聖女は王太子に接触すら満足に出来ていないようだった。
「その点ですが、教会もメンツがございまして、教皇猊下から強い指示も出ております。今までの聖女と王族の婚姻の実績を盾に強引に事を行う様です」
「どうするのよ?」
「サマーパーティーで、聖女様がリーゼロッテやその取り巻きに陰日なた関係無しに虐められていたと断罪する方向で、計画しているそうです。その中にユリアーナを入れて、二人を修道院送りにするのが良いのではないかと」
「そのようなことが出来るの?」
私がいぶかしげに聞くと、
「その点は大丈夫です。何しろ、ユリアーナは皆の目の前で何度も聖女様を魔術で攻撃しておりますから。証人には事欠きません。それを教皇様自ら断罪文をお書きになって事を起こすようです」
「教皇様御自ら断罪文を出されるの?」
私は目を見開いてバルトルトを見つめた。
「はい。いくら王国が反対しようが、教皇様まで出てくれば、聞くしかありますまい。これで邪魔なリーゼロッテとユリアーナがいなくなれば、教会も帝国も喜ぶ展開に繋がりますし、ツェツィーリア様の望みは叶うかと」
「出来ればユリアーナは始末したいわ」
私はこれまでされた屈辱を思い出していた。
「修道院に送れば後はなんとでもなりましょう。途中で始末するなり、何なり自由に出来るかと」
不敵な笑みを浮かべてバルトルトが教えてくれた。
「そうね。あの女には散々辱められたから、楽に殺したくは無いけれど」
「そこもお任せ下さい」
「判ったわ。よろしく頼むわね」
「はい」
私は恐怖に歪むユリアーナの顔を思い浮かべて溜飲を下げたのだった。
ついにゲームの断罪に進みます。
回避できると信じていたユリアの運命や如何に?
続きは明朝です