お兄様に公爵家の試練の間に連れて行かれたら竜が襲ってきました
「ギャオーーーー!」
私の目の前にはいきなり、巨大な金色の竜が現れたのだ。
ええええ!
なんでこうなった?
私は絶句していた。
私はユリアーナ・ホフマン。ホフマン公爵家の養女だ。
私は3歳の時にお母様が亡くなった。
どういう理由でお母様が亡くなったか、大変なことがあったというかすかな記憶はあるんだけれど、何があったのか詳しくは覚えていない。思い出そうとすると頭が痛くなるのだ。
その時、今のお父様に私は助けられたのだ。お父様は母を亡くした私をとても哀れんでくれた。
「行くところがないのなら、我が家に来るか?」
お父様は私を誘ってくれたのだ。私は頷くことしか出来なかった。
そうしてお父様はどこの馬の骨とも判らない私をこの由緒正しきホフマン公爵家の養女にしてくれたのだ。
今思えば私はお父様には感謝の言葉しか無い。
もっとも当時はそんなことは全く判らなかったけれど……
でも、いきなり私が現れて、兄姉達は驚いたみたいだった。
お父様の奥様は3年前に亡くなったみたいで、公爵家には私の四つ上のアルトマイアーお兄様を筆頭にエックハルトお兄様、フランツお兄様と年子が続いて、一つ上のリーゼロッテお姉様の4人の兄姉がいた。いきなり私が引き取られてきたので、すわ隠し子が発覚したとお姉様達はとても塩対応だった。
私もとても人見知りで、皆とはすぐに打ち解けるなんて絶対に出来なかった。
普通、物語の中ではこういう時は、養女が虐げられて、ご飯もほとんど食べられずに雑用をさせられたり、メイドをさせられたりするんだけど、さすが公爵家はそんなことはなかった。
何しろこの公爵家にはアルトマイアーお兄様略してアルトお兄様がいたのだ。もっとも一番上の兄はお兄様とだけ呼ばれることが多かったが。
「名前はユリアと呼んで良いか?」
最初は皆から相手にされなかった私だが、そんな中でアルトお兄様がニコリと笑って私に声をかけてくれたのだ。私はこくりと頷いた。
お兄様は金髪碧眼でとても凜々しい見目をしていた。
その姿は私が大好きだった絵本の中の王女を守る白馬の騎士にそっくりだったのだ。
お兄様は私にその絵本を読んでくれた。将に私が大好きだったその白馬の騎士の出てくる絵本を読んでくれたのだ。私はその時に決めたのだ。
絶対にお兄様に私の白馬の騎士になってもらって守ってもらうんだと。
「ユリアは三歳を越えているんだろう! じゃあ、一度ダンジョンに行ってみるか?」
「うん」
私はお兄様の言葉に何も考えずに軽く頷いてしまったのだった。それが間違いの始まりだった。
ダンジョンには8歳のアルトお兄様を先頭に、エックお兄様と及び腰のフランツお兄様も来てくれた。
リーゼお姉様は、「生きて帰ってこれたら良いわね」と笑って見送ってくれたんだけど、私は意味が判らなかった。
ダンジョンってこんな怖いところだとは想像だにしなかったのだ。
ダンジョンに入ると恐ろしげな魔物が次々に私達に襲いかかってきた。それをお兄様がバッサバッサと斬り殺していくのだ。本当にめちゃくちゃ強かった。
そのお兄様をエックお兄様を火魔術で援護して、取り逃した雑魚をフランツお兄様が倒していた。
素晴らしい連携プレイだったんだけど、ダンジョンに入るのが初めての私は、意味もわからず、真っ青になって震えていた。本当に生きた心地もしなかった。
リーゼお姉様が生きて帰ってこれたら良いわねと話してくれた意味がやっと理解できた。
でも今更判っても意味はないわよ!
そして私はそのダンジョンの最奥の部屋に連れて行かれたのだ。
なんでもここは公爵家の男子が三歳の時に受ける試練の場所だそうで、
「フランツでも乗り越えられたのだ。ユリアなら、大丈夫だ」
と言う訳の判らない言葉を残して、お兄様達は私を置いて去って行ったんだけど……
ちょっと待ってよ!
私は男ではないし、お父様の隠し子でもないんだから、試練なんて無理だって!
私があまりの事に唖然としている間に皆いなくなって、文句を言う暇もなかったけれど……
あれよあれよと驚いている間にお兄様達が外に出て、扉を閉めてくれたのだ。
私は試練の間に一人ぼっちで残されたのだ。
この時ほどお兄様達を恨んだ事はなかった。
そして、冒頭の場面に繋がった。
「ギャオーーーーー」
ここに出てくるのは、能力に合わせた魔物だってお兄様が言ったのに!
出てきたのは巨大な竜だったのだ。
フランツお兄様の時はゴブリンだったのに!
なんで、私の時は竜なの?
お兄様でもサラマンダーだったのに!
絶対に変じゃない!
「ギャオーーーー」
巨大竜は咆哮するとその鼻息で私は吹き飛ばされたのだ!
壁に叩きつけられた!
メチャクチャ痛い!
もう、ダメだ。
私に向かって、ノシノシと巨大竜が歩いてくるんだけど……
もう終わりだ。
竜が巨大な口を開けて私に襲いかかってきた。
もう終わりだ!
食べられる!
私が恐怖の絶頂を向かえた時だ。
「いやあーーーー!」
私は大声を上げた。
その瞬間だ。
私のからだの奥底が熱くなって渦を巻いた何か大きな力が私を包んだのだ。
それが魔力という物だとは私にはその時はよく判らなかったけれど、私は沸き上がってきた熱い塊全てを竜に向かって叩きつけたのだった。
「ギャオーーーーーーーー」
ドッカーーーーン
竜の断末魔のような咆哮と凄まじい爆発が起こって、私は気を失ったのだった。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
今日はあと2話更新予定です。
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