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“俗世”ד異世界”双界シェアワールド往還血涙物語『リルイン・オブ・レゾンデートル』  作者: 虧沙吏歓楼
第九章 全曝し!!薔薇の暴悪ヘリオローザ/Chapter.9“Sacrifice”
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[#83-千年の血統]

[#83-千年の血統]


3人がコテージで戮世界と原世界の交錯を言葉にし、思い思いの表現を図る中、上空には一筋の光輝く“原色彗星”が飛来していた。

原色彗星“ベークライト”。『革命』を司る彗星だ。

──────────

「ねぇねぇ⋯」

「うん?どした?」

「あれさぁ⋯⋯原色彗星だよね?」

「ああ⋯俺、、久々に見たなぁ⋯」

「僕もだよ⋯いつぶりかな⋯⋯」

「いつぶりって⋯お前、見た事無いだろ?」

「嫌だな⋯非常に嫌なことを言うね⋯原色彗星ぐらい見た事あるよ」

「どうせお前が見る原色彗星なんて “マゼンタ”だろうが」

「違いますー。緑色の原色彗星でしたー」

「緑色の原色彗星って何を意味してんだ?」

「えっと⋯『成長』だよ」

「へえ〜珍しいね。原色彗星でも預言が的中しない時ってあるんだな」

「おいおい、それ、どういう意味なんだよ」

「トシレイドが怒るとすーぐ、顔赤くなる。それ、直した方がいいと思うぞ?」

「じゃあアッパーは、何色を見た事あんだよ」

「俺はだな、“ビオレット”、『秩序』を司る原色彗星を観測したことがあんだよ」

「フン、秩序じゃなくて、アッパーには『無秩序』がお似合いだよ」

「それに関しては俺もそう思ってる」

「あれ、なんだか気が合っちゃったね」

「合っちゃうと⋯これまたつまんないんだよなぁ」

「そうなんだよねー、ってさぁあれ、『革命』を司る“ベークライト”ってやつだよ」

「赤いな。血が空を滑空してるみたいだ」

「ここからあそこまでの距離的には⋯セラヌーンのお2人にも見えてるんじゃないかな?」

「トシレイドは、2人をどう思ってる?」

「“どう”?どうっていうのは、、、ど、どゆこと?」

「だからよ⋯あいつら⋯⋯七唇律聖教に関わってた過去があるんだろ?」

「ああー、それは妹のウェルニだけでしょ?」

「妹が関わってたなら、姉の方だって考えられるだろ?」

「ちょっと⋯アッパーやめようよ⋯同じアトリビュートなんだから、信用しなくちゃ⋯」

「トシレイドは警戒心が無さすぎるんだよ。もっと俺達の状況を見つめ直せ」

「そんな事やっても⋯この世界は変わらないよ。こっちから動かないと⋯変革は起きない⋯だから今は、信じるしかない。それに⋯セラヌーンの2人は強い。僕達が彼女達の強靭さを知る証人だ」

「お前はそこまで⋯だいぶセラヌーンに興味を持ったようだな」

「“興味”とかそんな部類じゃないと思うけど⋯でも、セラヌーン姉妹とだったら、乳蜜祭を⋯阻止することが出来るかもしれない。⋯ううん、、やれるよ、絶対に」

「そんな、トシレイドくんが愛してやまない2人は今絶賛コテージにて待機中だ。これはいったいどういうことだよ」

「仕方ない⋯ウェルニは前例の無いアトリビュートの中でも特異な⋯“異形の存在”に相当する一人」

「“ティーガーデン”。アトリビュートでも無ければ、暴喰の魔女を宿すものでも無い⋯だからといってそれ以外の生命体とも限らない⋯奴らのことを指す⋯」

「ウェルニが“ティーガーデンである可能性は十分にある。彼女もそうだし、そんなウェルニと同血のミュラエも仲間でいた方が絶対に良い」

「⋯なんだか⋯俺⋯ティーガーデンの事を思い出すと付随するように色んなのを考える」

「アッパーは真面目だからね」

「そういう問題じゃねえんだよ⋯。オリジナルユベルに落ちた小惑星が、地球から遠く離れたハビタブルゾーンからやってきたって言うじゃん⋯?セカンドステージチルドレンって、宇宙の何処かで普通に生きてるんだよな⋯」

「そんなの、“当然”だよ。地球人だって、ハビタブルゾーンに住む人達からしたら“宇宙人”なんだから」

「原世界で、アルテミス計画っていうのがあったろ?」

「結構前だよね?ええっとーー⋯⋯」

「西暦2025年、こちらでいうと律歴3925年」

「1000年以上前だね。そんな前なのか⋯」

「まるで最近のように戮世界に“共有”された⋯」

「メルヴィルモービシュが⋯」

「それか若しくは⋯七唇律聖教が手を回したか⋯」

「七唇律聖教って、白鯨のシェアワールド現象にも介入してくるの?」

「ああ、できうる可能性はある」

「もう、なんでもありだね。アイツらって」

「だから俺達は七唇律聖教を叩き潰さなきゃいけない。それなのに⋯」

「大丈夫だよ、セラヌーンの2人は裏切ったりなんかしないよ。絶対に大丈夫。じゃあ⋯⋯アッパー、僕を信じて」

「トシレイド⋯」

「うん、僕を信じてくれるなら、セラヌーンも信じれるでしょ?」

「、、、、、そうだな。わかった」

「うん!⋯⋯ってぇ、色々と懐かしのワードも出てきましたけど⋯着きましたね〜」

「ああ⋯帝都ガウフォン。昨日はアクシデントで、思う存分暴れられなかったが、今日は簡単には引き返さねぇからな」

「セラヌーン姉妹に連絡は?」

「いや、連絡はしないでおこう。剣戟軍⋯或いは“ノウア・ブルーム持ち”が阻害電波の壁を隔てている可能性がある。それに引っかかたりしたら⋯」

「そこで終わり?」

「いいや、終わりじゃない。戦争が始まる。アトリビュートと天根集合知ノウア・ブルームの大戦だ。それを起こすには未だ兵力が劣っている。アトリビュート側のな」

「あら残念」

「だがご安心あれ⋯。乳蜜祭には多数のアトリビュートがやってくる」

「呼んでもないのに本当に来るのかなぁ⋯僕、ちょっとそこには疑問点なんだよね」

「大丈夫だ。アトリビュートは繋がってる」

「アッパーさんを、“信じる”よ」

「ああ、信じとけ」


13時3分──。

ブラーフィ大陸南東地域ホースベースフィールド 奴隷帝国都市ガウフォン──。

到着。

────────────


11時9分──。

戻り、コテージ。


「だいたい話したでしょ?お姉ちゃん」

「そうね⋯あ、お姉さんの件、ウェルニに話しても大丈夫?サンファイア」

「うん、大丈夫だよ」

「何よ」

「サンファイアのね、お姉さん、もしかしたらこの世界にいるっていう話⋯なんだけど、私らも捜すの助けてあげようっていうね」

「そんなの当たり前じゃん、ラキュエイヌに会いたいもん」

ウェルニが顔色一つ変えずに、了承した。ミュラエも内心、拒否するはずが無い⋯と思っていたので、このリアクションにはそこまで驚いては無い。まぁ、だろうな⋯という感じだ。

「ありがとう、ウェルニ」

サンファイアが感謝を述べる。

「いいのよ、帝都ガウフォンにいる可能性は無い?」

ウェルニが大胆な予想に出る。

「うーん⋯どうだろう⋯」

「白鯨ちゃんのその日の調子によるけど、サンファイアがブラーフィ大陸に転移させられたのなら、フラウドレスとあと⋯アスタリスだっけ?2人も同じ大陸にいるんじゃないかな」

「ウェルニ、多分そうよ!」

「まぁでも⋯頭で言ったけど、“白鯨の調子によるからね”。それに⋯白鯨が故意的に戮世界へ転移させたっていう仮説も立てられるし」

サンファイアは驚く。

「“可能性として”よ?これは⋯だけど⋯普通はね⋯光輪に取り込まれた者は⋯多次元宇宙の塵屑になるの。身体はバラバラになって⋯痛みを感じること無く衝撃的な速度で絶命する。だから何度も言ってるけど、あなたが生きてるのは奇跡なのサンファイア」


「メルヴィルモービシュは原世界も監視している。セカンドステージチルドレンの後継であるセブンスを、戮世界に放り込む事で、新たな時代の流れを作ろうとしているのか⋯はたまた、“ラキュエイヌと同じ構図”を作ろうとしているのか⋯」

ウェルニは頭を悩ませる。一つの物事に理解を深めようとすると、またもう一つのテーマに意識が向けられる。それを解決しようとすると、また新たな議題が提出される⋯。終わりの見えないエンドレスな自問自答。

「原世界から召喚された存在、ラキュエイヌ。フラウドレスに会ったら、判明する謎が沢山あるかも⋯。サンファイア、絶対に見つけよ、あなたのお姉さん」

「うん、、、ありがとう⋯」

この2人が話している事は半分以上が理解に苦しむ内容。


姉さんを欲している。


ラキュエイヌと同じ構図⋯。

日本が⋯原世界と言われるところで、あの白鯨が“メルヴィルモービシュ”。その白鯨がラキュエイヌを過去に取り込んだ事がある⋯ということだよな⋯。それが、戮世界に送還され、それが2人の知るラキュエイヌ。


僕は⋯姉さんの名前を⋯黙っていた方が良かったんじゃないか⋯と思ってしまった。なんだか、嫌な予感がする。

姉さんの身に、何も起きなければいいけど⋯



「お姉ちゃん、ダラダラと話してていいのぉ??」

「元はと言えば、あんたがダラァと寝まくってたのがいけないのよ」

「うっさいわねー、レピドゥスと頑張った賜物なんだからねー、このコテージの綺麗さは」

「はぁ⋯そうね。レピドゥスにも感謝しなきゃね」

「そうよ、ほら、レピドゥス、出てきて」

ウェルニの腹部から粒子が放出され、人型を模様した“何か”が現れた。

「⋯⋯!」

言葉を失うサンファイア。それは先程、攻撃を加えられた相手⋯という再確認によるものでもあるが、思考を占めるのは“異形”すぎる⋯という単純な感想だった。


「レピドゥスも反省してるから、サンファイアも許してあげて?」

「あ、ああ⋯大丈夫だよ。誤解なんてよくある事だ。大した問題じゃないよ」

「申し訳無かった。わたしはウェルニを守護する。ウェルニに害のある事象が発生したと認識すれば直ちに防衛・攻撃行動に移行する。それが故の拘束プロトコルだった」

レピドゥスが喋った。機械的なノイズと聴覚を刺激するような美しい音の連弾によって、神々しい雰囲気を感じ取れる。

「ねぇ、レピドゥスぅ?ラキュエイヌについて知ってる事ある?」

ウェルニが問い掛ける。まるで普通のただの人間を相手にしているように。傍観者的な立場で見ると、明らかに異常な会話の始まりだった。ウェルニとレピドゥスは相当な絆で結ばれている⋯と判断出来る。

「ラキュエイヌに関する情報は殆どが抹消されている。恐らくは大陸政府かテクフル諸侯による画策。都合の悪い事象は真っ先に消す。それが戮世界だ。律歴4067年8月22日以降、歴史が鮮明になっている人物がいる。“カルミリア・ラキュエイヌ”。何故か、彼女とそれを取り巻くラキュエイヌの歴史だけ、抹消されずに遺っている」

「何それ、消し忘れ?」

「そんな気の抜けた事をする連中じゃないでしょ⋯テクフル諸侯が」

このミュラエの意見に賛同するレピドゥス。


「ね、サンファイア、あんたはフラウドレスの⋯家系について聞いた事ある?」

「⋯⋯いや⋯、、それは聞いた事ない⋯ただ、僕達セブンスは、親とのトラブル等によって施設に送還されるのが常だった」

「セカンドステージチルドレンと同じね」

ミュラエの発言を受け、息を吸い⋯大きく吐いた。


「姉さんもそうらしい。両親を自分の手で殺したんだって⋯」

「⋯え」「⋯そうなの、、、」

ウェルニ、ミュラエがそれぞれの言葉で反応を示す。言葉は違っても、表情は同じようなものだ。目を見開き、開いた口が塞がらない⋯とはまさにこの事。そして、自分達の記憶と多少被るシチュエーションでもあった事で、より深く脳内で映像化が可能だった。

「僕が姉さんから家族に関して聞いたのは、それぐらい⋯あとは⋯」

「うん、そうだよね、、、聞けるわけないよ」

ミュラエがサンファイアに肩を寄せる。

「フラウドレスは、ただ殺した⋯ってだけじゃ無いだろうね。きっとそこには多くの感情があったはずよ」

ウェルニもサンファイアの隣に行き、身を寄せた。


───────────

「あんた、ちゃんと女心判っててエラいじゃん」

───────────


「そうね、サンファイアはえらいよ。そこから家族に関して聞かなかった⋯。普通は気になって聞いちゃうだろうけど、そこには触れなかった⋯かっこいいね、、、、⋯⋯!!」

「え⋯」

思わず、心の内に留めておいた“本音”を露呈させてしまった事で、ミュラエの顔は一気に赤面となる。聞こえているようで聞こえていないようにも思える“かっこいいね”の一言。ミュラエは何度も何度も思い返し、『聞こえてないよね⋯聞こえてないよね⋯聞こえてなかったよね⋯そうだよね⋯違うよね⋯あの反応はただの私へのビックリだもんね⋯そうだよね⋯、、』と往復。その様子も、サンファイアの視界には映っている。


「ミュラエ?だい、、じょ、うぶ??」

「ヒィっ!!うん!うん!だいじょぶ!だいじょぶ!」

あまりにもなハツラツとした発声に、弱冠ながら引いてしまうサンファイア。

「そ、そう?だったらいいけど⋯凄い汗出てるから⋯急に」

「お姉ちゃん、、?どしたの?」

「だ、だいじょぶ⋯うん、、だいじょぶだいじょぶ⋯」


─────────────

お姉さんが羨ましい⋯こんな女の子の気持ちも理解出来るなんて⋯サンファイア⋯最高すぎ⋯超格好良い⋯大好きになっちゃう⋯⋯絶対見つけよう⋯フラウドレスの事!うん!よし!

─────────────


「じゃあ、行こう、ウェルニ、サンファイア」


こうして僕は、セラヌーン姉妹と共に行動を開始した。姉さんとアスタリスが何処にいるかは分からない。ただ僕がここを転位させた⋯ということは近くに2人が転移された可能性が十分に高いみたいだ。

更にはミュラエとウェルニが、姉さんの名前に強い反応を示した。これにはいったいどこまでの深い意味が隠されているのか⋯。

ラキュエイヌという家系がこの世界にも存在“した”。そういえば、2人はラキュエイヌについて“現在”の事に言及していなかった。

レピドゥスは過去のラキュエイヌ⋯“カルミリア”について触れていたが、現在は一切⋯パンドラの箱のように思えてくる。


そんな不可思議な出来事と、彼女達の反応を受けて、僕は一つ重大な姉さんの情報を開示しない事にした。


ヘリオローザだ。


ヘリオローザに関して、僕は一切触れていない。

それは何故か⋯。過去のラキュエイヌともあれば、ヘリオローザが体内にいた可能性は十分に有り得る。

ヘリオローザは性行為を果たし、産まれてくる子供に転移する。

これは、ヘリオローザ自身が僕とアスタリスに伝えた内容だ。だがこれだと辻褄が合わなくなる。

律歴4067年⋯戮世界と原世界には1900年の差があると言っていた。これで言うと⋯律歴4067年は西暦2167年という事になる。

仮に西暦2167年以降にラキュエイヌが、原世界から戮世界へ転移される出来事が起きていたとして⋯じゃあそのヘリオローザと母体ラキュエイヌはどうやって原世界に戻ってきたんだ⋯となってしまう。

なんでもありな状況を踏まえると、“白鯨が元の世界に戻した”との解釈が可能ではあるが⋯。


カルミリア・ラキュエイヌ。

親なのか⋯はたまた、それより前の血族が戮世界に転移させられたのか⋯そして、いったいどこで原世界にリターンをし、フラウドレスが産まれる事になったのか⋯。

確か、フラウドレスの“母・ロリステイラー”に、ヘリオローザは棲みついていたんだよな。

ロリステイラーより前のラキュエイヌが⋯原世界に戻って来たんだ。そしてまた、ラキュエイヌが戮世界を訪れている⋯。


という事は⋯ヘリオローザが⋯⋯“戮世界の過去”を熟知している可能性は大いに有り得る。

こんなこと、無闇に話せられない。

『ヘリオローザ』なんて存在を他人に喋れない⋯。これはフラウドレス、ヘリオローザと契りを交わしてる訳じゃ無いけど、僕自身の判断でセラヌーンの2人には話さないでおこう。

ヘリオローザの扱いには十分な注意が必要だ。



もし姉さんが戮世界に居るのなら⋯きっとヘリオローザが道を示しているはずだ。ヘリオローザがどれだけのラキュエイヌを母体にしてきたのか⋯まずそもそも、カルミリアに寄生した過去があるのか⋯疑問が疑問を生み、新生の歴史へと踏み込んでいくのを肌で感じる。


姉さんに⋯何も無ければいいんだけど⋯。

ただ僕はそれを祈るのみだ。



同日

午前9時45分──。

ブラーフィ大陸南東地域 奴隷帝国都市ガウフォン。

ガウフォン大聖堂。



「白鯨って⋯⋯」

「あなたの知ってる白鯨はここには居ないわよ。あなたが世話になった白鯨・メルヴィルモービシュは多次元宇宙を住処にしている戮世界と原世界の管理者。現実で直視なんて滅多にない事よ」

“滅多に”って言うことは⋯あるにはあるんだ⋯ってか、私達は実際に見たし⋯あの気持ち悪い白い巨人をさ。

「今から会ってもらう“白鯨”っていうのは、大聖堂で七唇律聖教の勉学に励むシスターズ達の白鯨よ」

「え、、どういうことですか?」

「そんな問いが無くても最初っから言及するつもりだったよ」


何よ教母さん⋯いちいち意地悪してくんだけど⋯


「七唇律聖教の関係者⋯云わば、修道士シスターズには一人一人に“白鯨”が守護聖鯨として帯同する。修道士と同じような位ではあるけど教信者には、守護聖鯨はつかない」

「その違いはなんですか?」

「簡単よ、修道士シスターズの方が社会的地位は上なの。大陸政府とテクフル諸侯に顔向けが上手く出来るのは修道士。要は教信者は“セミプロ”って事かな」

「宗教にセミプロとか存在するんすか?」

「あら、これでもれっきとした仕事よ。私達は大陸政府とテクフル諸侯と七唇律聖教の御恩のままに働いている。しかも昨日と今日は、その働きっぷりを遺憾無く発揮する特別な日⋯乳蜜祭の開催日だからね」


長ったるいな⋯教母さんの話⋯、、、長々と聞いていたら、流れるように時間が過ぎていく⋯なぁぁんてかるーく読んでいたけど⋯⋯⋯あーあ、どこまで続くんだろうか⋯


─────

「──という事になるの。分かった?教信者はそっちの道程を辿れば、シスターズと同様の“異形の生命体”を獲得出来る」

─────


なんか、めっちゃ重要な話あったっぽいけど全然聞いてなかったあー!!もおおお!こんな時に限って私は自分の世界に入り込んでしまうんだー!!!⋯あ、そうだそうだ。こんな時の為にアンタがいるんでしょーおーぅがッ!


〈アーシ?〉

ご名答!今の教母様の話、ヘリオローザちゃん、聞いてた?

〈知らねえー〉

は、、、

〈ンダァから、知らなぁい⋯聞いてないよぉ〉

もぉ嘘でしょ⋯

〈あ、これだけは補足説明しておく。“アソとガソ”って言葉が出てきたら、注意してその話を聞くように〉

何よ⋯その⋯アソとガソ⋯って、、

〈はぁ⋯フラウドレス⋯あなたカタカナで言ってるでしょ〉

カタカナも何も⋯アソなんて漢字の読み方する言葉ある?ガソだったらまぁ⋯“画素”とかあるけど⋯。

〈⋯⋯⋯〉

ってちょっと!まだ絶対話終わってないでしょ!そんな字体も分からない言葉を教えて勝手に眠りにつくなー!

〈⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯〉



ダメだ⋯完全に眠りについてしまった。眠りについたのか、自分が本当に分からない⋯都合の悪い問題だったから⋯?まぁどうであれ、ヘリオローザが睡眠タイムに入った事に変わりは無い。しばらくは自分で物事を解決させなければ⋯。

ここに来てからと言うものの、自分が自分じゃなくなったかのように動いている。教母様の言っていた事がその通りなら、私は“原世界”と呼んでいる世界から離脱してしまった。

白鯨め⋯。あの⋯姿かたちは完全なるデカくなった人間なのに、“鯨”って⋯。アイツが、私をこの世界⋯“戮世界”と言っていたか⋯ここに置き去った。

取り敢えず、お前出てこい。私がお前を説教してやる。お前には言いたい事と、ぶち込んでやりたいルケニア攻撃がある。そんな白鯨がここにいるって⋯??どゆことなの⋯光輪が⋯⋯?出てくるのか⋯、、怪音波がまた私を襲うのか⋯アレには慣れた。同じ音域で繰り出されるのなら、対処は十分に可能だ。違うソースを荷重してきた前例の無いものだった場合⋯怪音波への対処経験値は降り出しに戻り、また何度も何度も受けながら“慣れていく”しかない⋯。教母様、私をここで潰す気なの?



「⋯聞いてる?」

「、、、、んぇ?あー、はい⋯大丈夫ですよ」

「そ?なんか、うべぇっとダレル顔面になっていたわよ」

「“ダレル”?」

「うん、ダレる」

「あー、、、、すみません⋯」

戮世界での共通用語なのか⋯意味も理解出来ず、そのままスルーをした。

「フラウドレス、あなたの正体はもう見切ってるのよ?なんでまだ、色々隠そうとするシーンが出てくるの?」

「え、、、、いや⋯まぁ⋯そうですけど⋯別に私は、ここに長居するつもりはありません。“大司祭”なんて肩書き要らないですし⋯友達を見つけたら、直ぐに“原世界”に戻るつもりです」

「戻り方、知ってるの?」

「⋯⋯⋯⋯⋯そんなの⋯分かる訳無いじゃないですか、」

「当然よね。シルヴィルモービシュに連れて来られたんだから。あなた達が原世界に戻れるきっかけ作りは、シルヴィルモービシュにしか無理よ。そんな“異形の生命体”を簡単に召喚出来ると思う?」

教母様がフラウドレスに詰め寄る。フラウドレスの顔が引き攣る程の“マジな顔”で美しい端整が更なる磨きをかけている。


「⋯⋯⋯⋯あの、白い巨人がどのぐらいこの世界で重宝されているのか⋯神様みたいな表現してますけど、私は戮世界の人間じゃありません。ここに未練も無いし、友達を見つけたら、直ぐに帰ります。方法なんて知りませんけど⋯帰ります」

「戮世界にいた方が絶対良いのに⋯。今の原世界なんて、戻りに行っても何の意味も無いじゃない。どうせまた、ブラブラと彷徨うだけなんじゃないの??」

─────────

「私⋯教母様にそこまで話しましたっけ?」

─────────

「だいたい予想つくわよ。枢機卿との邂逅は、あなたにとってどこまでの刺激を与えたんでしょうね」

「は⋯?教母様⋯何を言ってるんですか?」

「それは⋯あなたが大司祭になれば、判ることかもしれないわね」

「⋯⋯⋯」

理解の出来ない文言。別に理解するに値しない文言なのかもしれない。だが⋯なんだかあの言い方だと⋯“教母様はこの世界に私が来ることを知っていた⋯”、みたいな感じを思わせるんだよな⋯。この人の喋りは回りくどい。正解を直ぐに言わないタイプだ。ヒントを言って、“あとはお前達で答えを導き出せ”、という指揮官でたまにありそうなタイプ。

さっさと答えなんて言えば、あーでもないこーでもないの無駄な時間を極力避けれたのに⋯。こういう人は本当に、部下を弄ぶんだよ。⋯あんまり好きじゃないかな。

はぁ、、嘘でしょ⋯“大司祭になりたい”なんて、本気で思ってるの?

“大司祭になった方が良いのかも”⋯でしょ?

“大司祭になりたい”は、私から進んで志願してるみたいじゃない。


「教母様⋯」

「なに?」

「大司祭になれば、白鯨に理解を深められるんですか?」

「何その、丁寧な言い方。そうね、あなたの思惑は一連の流れから察するにまぁ良く判る。うん、それを踏まえた上で⋯“理解を深められるわ”」

「分かりました。私、やります。大司祭になりますよ。それで白鯨を召喚して、原世界に戻ってやりますよ」

やる気十分の勢いを教母様に見せる。その様は、希望に満ちているような顔だが、一度、フラウドレスの瞳を数秒覗くと彼女の深淵に宿される、もう一人の人格が確認できた。ヘリオローザが白鯨について、何か言いたそうな雰囲気は、フラウドレスも感じ取っていたが、差程、強い制御で自由を奪って来る事は無かったので、無視をした。


「分かった。私からの提案だったけど、まさか本当に大司祭を受けてくれるとは思っていなかった」

「え?教母様、そんな軽い気持ちで勧誘してきたんですか?そんな簡単な職業ってことなんですね??」

「ううん、普通に⋯“あ、原世界の住人が戮世界の住人と対人関係を結ぶ事が出来るんだ”と思ってさ。大司祭への勧誘はその始まりになればいいなって思って言っただけなの。でもまぁ、あなたの帰還への強い気持ちは伝わったわ。そんなに帰りたいのね」

「世界戦争とか関係無しに、普通に戮世界が私にとって窮屈なんで」

「原世界の方が圧倒的に窮屈でしょうがぁ」

「教母様の意見はいいんで。ほら、白鯨を見せてください。⋯えっと、、修道士?でしたっけ?教信者は違うんでしたっけ?もう、あんま良く覚えてません、、、、」

首を傾げ、教母様に甘えた表情を抜かす。


「では⋯こちらへ、いらっしゃい」



教母様に連れられ、ガウフォン大聖堂の階段を上る。

「エレベーターとか、、ないんですか?」

「ディーゼル機関による上下運動が可能だった昇降機なら、ちょっと昔にあった。だけどここに回す程のものでは無い⋯と言われ、廃止になった」

「それ、、酷くないですか?こうやって働いてる人がいるのに。それを言ったの、誰なんですか?」

「テクフル諸侯よ」

「諸侯⋯貴族ですか?」

「そうね、大司祭になるんだから、テクフル諸侯の内情も知っておいた方がいいのかもしれないね。“テクフル諸侯”は、大陸政府と七唇律聖教⋯この2つと同じ権力を持つ戮世界を統治する機関の事よ。今いる帝都ガウフォンは、ブラーフィ大陸。他にも3つの大陸がある。ラティナパルルガ大陸、ユレイノルド大陸、トゥーラティ大陸。その全ての統括・管理を行うのがテクフル諸侯」

その割って入るフラウドレス⋯いや、ヘリオローザ。

「あのさぁ⋯もうそんな話イイから、さっさと白鯨見せてくれよ」

「あなた⋯ヘリオローザね。まさか本物を見れるとは思わなかったよ」

「あん?知ってんのか?」

────

え、、ちょちょっと⋯⋯ヘリオローザ⋯何してんの、、────

「悪ぃな、突然制御奪っちゃって。ちょっくら貸してもらうぞ。アタシ、テクフル諸侯と大陸政府には、色々と文句があってなぁ⋯」

「その話、フラウドレスがいる前で話しちゃってもいいのかな?」

「あんたのその感じ。⋯まさに七唇律聖教の関係者って感じだな。余計にイライラするんだよ」

「フラウドレスは、今、ビックリしてるんじゃない?」

「フン!この女には後でアタシの方から言っておく。焦点をずらすンじゃねぇ」

「言っておくけど、あなたが戮世界にいたのは律歴4081年から4619年。私がその時代に生きてるわけない。だから、あなたは色々と勘違いしてるようだけど、私はあなたを迫害した当人じゃない」

──

迫害⋯?ヘリオローザ⋯もう変わって!

──

「はぁ⋯、、、そんなこと分かってる。アタシは馬鹿じゃない。お前らの寿命など100年弱だろ?アタシは1600年以上生きてる。⋯⋯お前に本気になったアタシがおかしかったよ。もう疲れた」

ヘリオローザが引っ込み、身体制御がフラウドレスに戻る。


「教母様⋯ヘリオローザは⋯、、、」

震えるように問い掛ける。

「今ここで、決心できた。フラウドレス、あなたには正式に戮世界の住人になってもらう。ヘリオローザの記憶が戮世界と原世界を繋ぐキーマン。フラウドレス、あなたはとんでもない“オーパーツ”を携えながら、生きてきたのよ」

「え、、、」

教母様の表情に一点の曇りが無かった。この様子から、虚実が入り混じった状態では無い事が判る。そしてヘリオローザという存在を重く受け止めていた。

『戮世界と原世界を繋ぐキーマン』

彼女のことをキーマンだと思った事が無い。なんなら、私にとって荷物でしか無い⋯と思っていたぐらいだ。さっきみたいに急に割り込んで来るし、私の人間性イメージを180度変える程の口調や言葉の選ばなさ。あんな気品の無い言葉、私は喋らない。

“脅威”だと判断した相手にとっては別。


「ヘリオローザについて、どのくらい知ってるんですか?」

「あなたはヘリオローザを意識しだしたのは、いつ?」

「、、、昨日⋯です」

「じゃあ私の方が知ってる」

「それは⋯ヘリオローザが原世界に来た事がある⋯と述べているように思えるんですが⋯」

「その通りよ。でも、その言い方だと、“ヘリオローザが戮世界にやってきた”ってなっちゃう。実際は⋯あなたと同様、母体に帯同して転移して来たの」

「私と⋯同じ⋯白鯨ですか?」

「それ以外に考えられないんだけど⋯その“彼女”というのが、白鯨について話をした資料が何処にも無いのよ。まぁ、白鯨の光輪によって戮世界に転移したのは間違い無いんだろうけど⋯」

「さっき、ヘリオローザと話してた⋯律歴4081年って⋯」

「その年に、“カルミリア・ラキュエイヌ”という、一人の少女が戮世界に転移した。カルミリアはヘリオローザを帯同させていたらしい。ヘリオローザに聞いてみればいいんじゃない?ヘリオローザはきっと憶えてるわ」

「⋯⋯⋯」

あまりにも時空を飛び越えたエピソード過ぎて、眼球しか動かせなくなる程、驚愕する。教母様の促しで、ヘリオローザへの問い掛けを実行した。


「うん⋯憶えてるよ。カルミリア、良い子だったよ。だけどパッとしない雰囲気が漂ってる女でね⋯。アタシが魔改造を施してあげた。するとね⋯学校での成績はトップクラスにまで成長を遂げ、多才な学生として人気を集めたんだ。これはアタシの力。カルミリアとの思い出はそれからというもの、一気に増えていった。カルミリアもアタシに感謝してた。『ありがとう⋯ありがとう⋯本当に、ありがとう』ってずっと感謝される毎日だった。だから、悪い気はしなかったんだ。そん時、セカンドステージチルドレンとの邂逅を果たした」

「戮世界で?」

フラウドレスがヘリオローザに語り掛けると、ヘリオローザの素体粒子がフラウドレスの身体から外部に溢れ、人型の生命体を形成。

「こうした方が喋りやすいな」

ヘリオローザが一人の人間として、現実に具現化されたのだ。確かにあのまま話を続行させていると⋯

─────────────

フラウドレス

×

教母様

×

フラウドレス(中身はヘリオローザ)

─────────────

という何ともシュールな構図は出来上がってしまう。フラウドレスの負担を無くす為にも、ヘリオローザは一人の人間として、話を続けた。


「そうだよ、戮世界でセカンドステージチルドレンを発見した。私もビックリしたよそんでもって、彼に接近してみたんだ」

「“彼”って言うことは⋯男?」

「そだよ、フラウドレスのだーいすきなオトコの子」

「別に私⋯男好きな訳じゃ無いし⋯」

「えぇ?でもアスタリスとサンファイアと仲良くやってるじゃなーい。アタシ、もうちょっとエッチな展開見れるかもぉ!って結構内心ドキドキムギュムギュが止まらないの!」

「何言ってんのよ⋯あんた⋯」

ヘリオローザが、“生命体”として外部に具現化したからなのか、ヤケにアンストッパブルなトークを行う。

「だってー!アタシ!こうやって自分だけの身体で外界に姿を露出させるの久々だもん!それに⋯戮世界!いやぁー!久々だなぁーー!まぁ、色々と変わってるけどさぁ、流石に。帝都ガウフォン⋯うーん、奴隷制度ねぇ、まぁ“アルシオン王朝時代”からは何も変わってないね」

「ヘリオローザ、アルシオン王朝の帝政時代も憶えてるのね」

「当然でしょ?あんな鬼畜な時代、二度とゴメンよ!このアタシにも散々な目に遭わせやがって!⋯⋯ねえ!教母!アルシオンってまだ生きてんの!?生きてたら、全員殺したいんだけど!フラウドレスの身体を使えば、絶対に勝てる」

「ヘリオローザ⋯⋯あなた、本気で⋯アルシオンを殺したいと思ってるの?」

「当然でしょ!あの時代に生きたアタシ達を地獄に落とし続けた悪魔ども⋯。許せるわけ無いでしょ⋯。ただただ普通に生きてただけなのに、住む場所は奪われ、奴隷と家畜とされ⋯アルシオン王朝の貴族共に使われる毎日⋯。もう無いんでしょ?アルシオン王朝」

「ええ、アルシオン王朝による統治はとっくの昔に終わってる」

「500年前?」

「いや、そんな前じゃない」

「じゃあ最近じゃない⋯生きてんのね?どこにいんの?殺しに行くから」

そう言うと、ヘリオローザは素体粒子になり、私の体内へ戻っていった。そして、制御をフラウドレスから奪おうとする。しかしフラウドレスは頑なに拒否する。

「フラウドレス!アタシに代わって!」

「嫌だ。まだ私にはアルシオンがどういう存在か分かんない」

ヘリオローザが再び、外部に現れ、素体粒子の具現化を始める。

「フラウドレス!聞いて!昔、戮世界にはアルシオンっていう貴族がいたんだけど、本当に最悪だったの⋯さっき言ったのが全てなんだけど⋯本当に⋯酷かったの⋯アタシ達、庶民には目もくれないで、自分達の事しか考えない。政治も一切機能してなくて、ただただ蹂躙する毎日。こんなのを聞いても⋯アタシを止めるの?」

ヘリオローザの具現化形態が徐々に明瞭になっていく。秒数単位でヘリオローザが別人の姿へと変わっていく。いや、別人では無い。ヘリオローザの“本来の姿”が、顕になっていくようだった。



「フラウドレス、これが本当のアタシ」

黒翼と白翼を後背から広げ、ミニスカートと肩幅の広いテーラードジャケットを着装、服は黒一式で染まっている。

「銀髪エルフ、可愛いでしょ??フラウドレスは黒でぇ、アタシは銀パ⋯あー、対になるから、ここは“白”ってことで!」

「今までその姿を晒して来なかった理由は?」

ヘリオローザのおちょけた雰囲気を壊すように、フラウドレスが迫る。

「本当のヒロインは⋯あとから来るのよ!」

「はぁ⋯⋯ほんと、あんたって呆れた人ね⋯。ずっと私の中にいたらいいのに⋯」

「アタシもそのつもりだったんだけどぉー、、、おい!アルシオンいるのか!??教母よおお!?おい!ホントに生きてんのか?!」

教母様に迫るヘリオローザ。

「ああ、生きてるよ。だけど⋯王朝帝政時代ほどの力は無い」

「へぇー、落ちぶれたんだぁー。そりゃあそうよね、バチが当たったのよバチが!」

「アルシオンは⋯アトリビュートと呼ばれる存在で現在の戮世界に広く知られている。アトリビュートは⋯乳蜜祭での生贄最優先候補だ」

「⋯⋯⋯ふーん、まぁ⋯」

ヘリオローザの口が止まる。今までの威勢が嘘のように、ビタっと停止した。

「ヘリオローザ、どうやら⋯あなたが思っている存在じゃ無いみたいよ。アルシオンは」

フラウドレスが諭す。

「そんなの⋯関係ねえ⋯。血統は同じなんだから、そういう運命にあるんだよ」

「ヘリオローザ、ちょっと勢い無くなったじゃん。何か自分の中でも、思い描いていたビジョンと違ったって事でしょ?その進路を信じてみよ。多分、それが合ってるの」

「⋯⋯⋯⋯⋯そう?」

「うん、そうだよ」

ヘリオローザの感情が安定。

「⋯分かった。“フラウドレスを”、信じる」

鋭い眼差しでフラウドレスに迫る。

「ありがとう」


「⋯、、、、ンヒィ、どお!?アタシのこのフル装備!カッコイイでしょ!?ねえ!ねえ!」

黒翼と白翼を交互に見せ、自身のお気にポイントを見せつける。フラウドレス、教母様は対応に困る。

「可愛くない!?どお?結構気に入ってるんだぁ!アタシ的にはぁ、もっと髪伸ばした方がカワイイかなぁって思ってるけど⋯アタシ的にはこのぐらいのね!ウルフかなぁ?ショートかなぁってぐらいがチョードイイ感じ!でねでね!アタシはもっと可愛くなりたいからぁ、こういう時に!女心を分かってる⋯ヘリオローザ⋯あ、違う違う!フラウドレスだった!アタシってばぁアタシの事好き過ぎて、自分の名前言っちゃったぁ!!あーあもぉ、可愛すぎるからー!どうなっても可愛いもんねぇー!でねでさ!⋯」この後も続くヘリオローザのアピール。

──────────

「人が変わったようだな⋯」

「はい⋯私にも⋯ヘリオローザの事はよく分からないんです⋯でも⋯本当に⋯人が変わったように⋯ギャーギャーと騒ぐようになりました⋯」

──────────

「フラウドレス!どお!」

「え!?うん⋯可愛いよ。うん、普通に可愛いと思う」

「でしょでしょ!アタシ史上最も可愛く仕上がったの!これは、、、フラウドレスのおかげよん」

「え?私?」

「そ!その私!“私”のおかげでアタシがグレードアップしたの!ちょっちぃ、セブンスの力、使わせてもらっとります」

「あ、そ、そうなの、、、」

『なんてことしてくれたの!?』とか言う所なんだろうけど、別にそれで私に悪影響が出てる訳じゃないし、ヘリオローザが満足しているのであれば、別に良いか⋯と思った。ただ⋯

「でもヘリオローザ?黒薔薇を無断で使うのはやめて。使いたいんだったら私に許可とること。良い?」

まるで母親みたいな叱り方だった。

「⋯はぁーい、、、」

「あのさぁ、そこまで人格って変わるもの?ヘリオローザ」

「えぇ?別にアタシ変えたつもり一切無いんだけど⋯まぁ、そうかもね!あんたの体内にいた時はもぉ!窮屈で退屈で⋯なぁんか弾け飛んだ出来事でも起きなきゃ楽しく無いのよねぇ〜⋯。フラウドレス!あなたもっと日常を楽しみなさいよ!日常を!」

「これの何処が“日常”なんだよ!全く知らない未知の世界で、一夜過ごしただけでも凄いと思え!ってか、戮世界に来た時から『ここ知ってる』ぐらいは言いなさいよ!なぁにが“日常”じゃボケェ!!!」

今までにない怒声でヘリオローザを圧倒する。ハイパーボイスによって仰け反る程の威圧がヘリオローザに伝わり、これ以上の反論をする事は無かった。

「⋯ぶぅー、、フラウドレスのケチ⋯」

「ケチで結構、ヘリオローザの人となりが十分理解出来ました。あなたは思ってた以上に幼稚なようね」

「待ってよ!“思ってた以上”ってどゆことよ!まるで前から思ってた⋯みたいな言い方じゃない!」

「“前から”というか⋯ヘリオローザを認識してから直ぐにそう思ってたけど」

「がーーーーーーーーーーーん、、、、、そんな、、、、あたし、、、そんなにガキで写ってたの、、、そんなに、、そんなに、、、」

綺麗に後背から広げられていた、黒翼と白翼がシワシワになる。ピーンと神々しい煌めきを放っていた両翼は、フラウドレスの一言によって失墜する事となった。

「えぇ、、あんた⋯ほんとにヘリオローザ?人格変わりすぎでしょ⋯そんなに私の体の中って退屈だった?」

「⋯⋯⋯⋯⋯、、うえん」

泣き出しそうになるヘリオローザが、今あるエネルギーを全て口に込めて言い放った一言。

『、、うえん』。

覇気は無かった。


「教母様、失礼しました。色々お目汚しのある舌戦をお見せしてしまいまして⋯」

「、、まぁいいわ。私自身、本物のヘリオローザに会えたこと、誇りに思ってるから」

────────────

ヘリオローザちゃん、ピキーン!【ガン開き】

────────────

「教母!そうかそうか!アタシのファンだったかぁ!」

「ええ、そうよ。ファンよ。あなたの事は伝説になってるもの」

「え?伝説?」

『どうだぁ?』と言わんばかりに、フラウドレスに自慢顔を見せる。

「そうよ、ヘリオローザは七唇律聖教の元シスターズよ。その証拠が⋯」

教母様は、両翼に目線を向ける。

「ンヒィ!」

また自慢気な顔をするヘリオローザ。

「その黒翼と白翼は、ヒュリルディスペンサーと呼ばれる戮世界の儀式によって朔式神族から与えられた“対価”よ」

「え、な、なに?なんなの??」

また訳の分からない世界観を持ち込んでくる要素が現れた。これについてこれてないのは⋯私、フラウドレスだけのようだ。

「七唇律聖教の教母様なら、分かって当然って事ね」

「伝説は本当だったんだ。私は今⋯凄く興奮してるよ」

「え?全然そうは見えないんですけどーーー」

「私は七唇律聖教の“教母”だ。感情コントロールなんて容易いもの。だが意識して抑制行動を行っていないと、危ないラインまで感情が昂りそうになる」

「へえー」

流すヘリオローザ。教母様の言い訳に納得がいっていないようだった。

────

いや、そんなのどうでもいいから、素直に興奮したりしなさいよ⋯。

────


「じゃあこの黒翼と白翼がどれだけ凄いことか⋯分かってくれるよね?」

「当然だ。『冥翼』と『光翼』。ヒュリルディスペンサーでいったいどんな対価を支払ったと言うんだ?」

「その時の人はね⋯足だったかな。右足だった気がする。アタシが失う訳じゃないから、平気で献上する事が出来た」

「母体の意見を無視して⋯か?」

「まさか、そんな鬼畜な事はしないよ。しっかりと許可を取って、献上部位を指定させてもらったんだぁ。右足を

差し出す⋯って言ったら、暴喰の魔女は喜んでくれて、朔式神族へのフォローアップも実行してくれた。それによって、“足を失ったから”との理由で、『冥翼』『光翼』の2つの天根集合知ノウア・ブルームを祝福の対価としてくれた。更にその天根集合知ノウア・ブルームは、母体では無く、“アタシ”に引き継がれていった。よって、天根集合知ノウア・ブルームが増え続けていく。歴代のラキュエイヌから献上部位を差し出して、アタシの能力値増加に繋げた。これが⋯アタシの伝説だよね?教母様」

「本人から聞けて嬉しいよ。その両翼以外にも天根集合知ノウア・ブルームがあるというのは⋯本当なのですね」

「そうよ!本当よ!凄いでしょー!しかも、フラウドレスのセブンス特有スキル“ルケニア”っていう生命種顕現の特殊能力もある。⋯⋯アタシはもう無敵だよ。誰も勝てないよ。誰にも負けないよ。せっかく戮世界に戻ってきたから、アルシオンを殺したいと思ったけどさぁ⋯⋯フラウドレスを嫌な気持ちにさせたくないから!やんない!⋯だけど⋯“今は”だからね。なんかアルシオンについて、嫌な出来事⋯気に入らない動きがあったら、私もそれに参加して⋯裁きを下す。それでいい?フラウドレス」

純粋無垢で小悪魔的な表情を見せる。一見するとふざけているような物言いだが、“素体粒子が一個人を形成して”から、“今”までで⋯一番凛とした面持ちだった。レベルの違う本気度を窺えたので、私は彼女の意見を受け入れる事にした。


「分かったよ。ヘリオローザを信じる」

「やたぁ」

「ただし、約束は絶対に守ること。いいね?」

「はい!あ、あと⋯たまにフラウドレスの身体に戻るから」

「なんでよ。解放感あって気持ちイイんでしょ〜?」

嫌味ったらしく言うフラウドレス。

「ぐ⋯そんな口調してると男が寄ってこないよー」

「大きなお世話じゃ」

「そんなことどうでも良くてぇ、たまにフラウドレスの身体!戻る事になるからね。なんでかっていうのは⋯あくまでもアタシは“遺伝子情報”だからってこと。アタシはフラウドレスの中にいるから生きられてる。ラキュエイヌの血を感じていないと⋯どうにかなっちゃいそうになるの。だから、フラウドレス、アタシはあなたをとっても大事にしてる。あなたが死んだら⋯アタシも死ぬの」

「ニコイチ?」

「そう!ニコイチ!フラウドレスとアタシはいつも一緒。絶対約束してね!」

「うん、わかった」

なんだかヘリオローザらしからぬ可愛らしくもあり、固い意思を感じ取れる発言でもあった。

『フラウドレスが死んだら、ヘリオローザも死ぬ⋯』

興味深い発言が何個もあったが、それよりもやっぱり、“ヘリオローザと話している”という現実がまだピンと来てない状態にある。流石にもう慣れてもいい頃合いだとは思っている。けど⋯慣れない⋯。これがまた飛びっきりに慣れないんだ。その原因というのは、今まで私の身体に住み着き、用事があると私の許可無しに突然と制御を乗っ取る⋯という独善的スタイル。これが私の知っているヘリオローザ。

しかし、素体粒子がヘリオローザ具現化形態を形成した事によって、明らかに人格への変化が生じていた。天真爛漫ら⋯と解釈していいものなのか⋯、私には前例と経験と見物の情報が無いので、“天真爛漫さ”に該当しているのかは、素直に明言出来ない。

ただ言葉通り⋯読み漁ってきた文献等と照らし合わせていくと、“天真爛漫さ”に該当するような気がしてきた。

そんなの、私の体内に居た時は微塵も表してなかった表現方法だ。

彼女が『解放感』と述べていた。

窮屈で退屈で何も無い、虚無な世界に、一人でポツンといる状況。それが彼女の本性を閉鎖的にさせてしまったいたのか。彼女がそう言うのなら、間違い無いのだろう。


ちょっと早すぎますが、言及する事にします。

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