[Chapter.8:introduction“Cruelty”]
ミュラエ・セラヌーン、ウェルニ・セラヌーン
ベルヴィー・ボイロンズ、ナリギュ・ペスタポーン
ノアトゥーン・フェレストル
アロムング、クレニアノン
???、???、???
[Chapter.8:introduction“Cruelty”]
ねぇねぇ、レピドゥス。
どうした?
私の事さぁ⋯好きだから私の所に留まってくれてるんだよね?
そうだな⋯。そうなるとわたしは思っている。
でもね、私⋯そうなる経緯をまったく覚えてないんだよ。どうやってレピドゥスは私の元に留まるようになったの?
それは⋯そこまで長くもないが⋯決して短いとも言えない物語になる。それでもいいのか?
うーーん⋯あんまり長いのは好きじゃないけど⋯レピドゥスが分かりやすく構成してくれたら、きっと⋯⋯多分、、、大丈夫だと思う。
承知した。なるべく何人にも理解が出来るような説明で話を紡ぐことにしよう。
うん、お願い!
◈
『神組織肉解の儀式“ヒュリルディスペンサー』。儀式を執り行う人数が段々と減っていき、ラストのウェルニとなった。
ウェルニはノアトゥーン院長から発現された、座天使・プラエトリアニの壮絶な攻撃によって瀕死状態となってしまった。
ちなみにこの座天使・プラエトリアニは、暴喰の魔女よりも高位に値する恐ろしい異形の存在と言える。これに立ち向かおうとしたウェルニは、それだけでも価値のある人物として記録されているだろう。
瀕死状態となったウェルニを救う為、儀式による『天根集合知』によって蘇生に関連する祝福を受ける必要性があった。
ウェルニの記憶にナリギュが迫る。ナリギュに朔式神族が祝福として提供した天根集合知は『傀儡操舵手』。
対象に指定された者の自由を奪う特殊能力だ。
この力を使って、ナリギュはウェルニの内部に迫る行動を起こした。それは脳内まで達することの出来るもの。
ウェルニの脳内を視察するとそこには『記憶』の消去に合意する⋯という不可思議な情報が残置されていた。
これはウェルニが献上品として『記憶』を差し出している事を意味していた。
これを提案したのはベルヴィー。
ウェルニはこの意見に真っ当から反対出来るほどの硬い意思は無かったようだ。
彼女をどこまで追い込んでいたのかは分からない。
ただ、そんな気持ちを作るにまで至らせてしまった事は⋯何かしらの障害的な側面が私生活においてあったんだ⋯と思わざるを得ない。
『記憶』の献上によって、ウェルニは生き返る。ノアトゥーン院長はそう約束し、記憶の献上を行った。
ウェルニの意識は戻らないままなので、それの了承をするのはベルヴィーとナリギュ・友だちである2人だ。
2人が記憶抹消の証人となる。
◈
ここからは私が⋯。
覚えてない⋯。
なんにも覚えてない状態でわたしは目を覚ました。するとそこには見知らぬ女の子が2人、私の顔を覗き込んでいた。
最初、2人の顔にはすごくビックリしたの。
本当に⋯結構、ビックリしたんだ。
だって⋯
「誰?」
っていう感想しか無かったから。
その後、ベルヴィーとナリギュとかいう女っていういうのは分かったんだけど、特にベルヴィーから言ってくる文言にはいちいちと、意味のわからない⋯理解に苦しむ内容が続く。
「友だちよ⋯。私とナリギュはあなたの友だちよ」
いや⋯そんなん言われても⋯⋯
『記憶』がゴッソリと無くなっているらしいけど、そんなの一切分からない。イマイチぴんと来ない。
まぁ記憶を献上してる以上、簡単に戻ってしまったらあまり意味の無い事なんだろうけど⋯。
その後もベルヴィーが私の元を訪ねてきた。その迫りようと来たら⋯中々に痛い女だなぁと思ってしまう。
誰!?ってなってんも全然離れないし、諦めないんだよね⋯あの人⋯。
そこまで私に振り向いてほしい理由が⋯うーん⋯⋯しかめっ面で返しちゃうよね。
学校は同じだし、目覚めた時から、あれぇ?って思ってたけど、同じ修道院に入教してるシスターズである事も同じ⋯まぁこんだけの偶然が重なってりゃあ彼女の気持ちも、昂るわけか。
だからといってさ、ここまで私に詰め寄ってくるのは流石に引くかも⋯うん、引いてる。私は私の友だちを作って、一人でいるのを避けた。そこには入って来なかったな。
せいぜいしたけど、同時に『そんな程度だったんだ』とも思った。
なんか、私⋯彼女を求めてるフェーズに突入してない?嫌だ⋯気持ち悪い。誰かも知らない人となんて一緒にいたくない。けど、いざその人が離れるとなると違和感が芽生えてくる。これは当然の事じゃないんだろうか。
◈
姉と原色彗星を見に行った日のこと。
だいぶタイムジャンプをするけど、それは許してほしい。私にも記憶の限度ってもんがある。にしても、無さすぎやしないか⋯?儀式があった日から、お姉ちゃんとの原色彗星の時間の幅は、たかだか5ヶ月程度。
それでも、あんまりこの5ヶ月間のことをあまり覚えてない。断片的にではあるけど、覚えてないんだ。
友人とか、そういう毎日一緒にいる人とかの事はよく覚えてる。けど、あの人と⋯この人と⋯なになにして⋯あーだこーだして⋯とかは全然覚えてない。これも記憶が無くなった事への副反応なんだと、現在は理解している。
原色彗星の日。
お姉ちゃんに連れられ、わたしは観測のために朝から家を出た。
せっかく見に行ったのに、飛来してきたのは黒色の原色彗星。名前は『エクソダス』。
絶望を意味する、あんまり朝っぱらから見るものでは無い色の原色彗星だった。
この先、私にどんな絶望が待ち受けているのか⋯そんな疑問は案外早くに片付けられることとなる。
原色彗星の観測から戻り、家に帰ってきた。
しかしそこには、見た事のない黒い車が複数並んでいる。何か⋯嫌な予感がする⋯私達は急いで家に入る。その時⋯敵が仕掛けた罠にハマってしまう。
私とお姉ちゃんは身動きが取れなくなり、奴らの支配下に置かれてしまった。眼前に現れたのは、剣戟軍と、まさかのアトリビュート。
クレニアノンと名乗った彼はアトリビュートであるものの、自身の思想が人間側に寄っていたこともあり、剣戟軍に力を貸す存在になっていた。
いや⋯私からしたら、“成り下がっていた”と称しておこう。
ふざけやがって⋯アトリビュートがアトリビュートの仕掛けにはまる⋯。まさかこんなことが起きようとは思ってもいなかった。
剣戟軍の複数兵士に包囲される私達。
そこには見覚えのある顔もいた。
あの日⋯8月17日、イーストベイサイドにいた、アロムングとかいう男。
この男が、私の抹消された記憶と、それに付随する形で付与された『暴喰の魔女・レピドゥス』についての概要を説明した。こうして改まってみると、アロムングは重要な情報を残して死んでいったな⋯と思った。
そう、アロムングを含める剣戟軍兵士は突然と死に追いやられていったのだ。
それを仕向けたのは、クレニアノン。
なんと剣戟軍への裏切り行為に及んだ。
私達に実行していた遺伝子能力を使用した、拘束を解き、自由の身となった。
家は血だらけ。夥しい死体で埋め尽くされてしまう。
その中には、パパとママの死体もあった。
これは私達が来る前に残置されていたものだ。しかしこれは、クレニアノンが殺した⋯と直ぐに判断出来るものだった。
アトリビュートが発生させる遺伝子能力攻撃には、特異な粒子を蔓延させる副反応効果がある。
これは律歴4119年のツインサイド戦争による、汚染物質と酷似した内容だ。
──────────
『ウェルニ、よく聞いて?アイツがパパとママを殺した。私が能力を使って、このクソを殺す。ウェルニは何もしないで。いい?何もしないでよ?』
『判ったよお姉ちゃん』
『その代わり、もっとオーバーな演技して』
──────────
互いの身体が自由になった事よりも先に、私は両親の死体に近づいた。
そして、お姉ちゃんは⋯クレニアノンを殺した。
こいつが殺したんだ。
パパとママを殺したんだ。
剣戟軍を裏切り、私らを助けても、そんなの⋯許しにはならない。
こいつからもある程度の目的を聞くことが出来た。
『地中海』
この言葉が、新たな私達の座標へと連なる。
暴喰の魔女・レピドゥスとウェルニの関係性。
レピドゥスがウェルニを好んでいる⋯。
儀式の中で、献上部位を暴喰することが可能なら、現実でもそれが可能なのではないか⋯。試しにウェルニは暴喰の魔女・レピドゥスへの指示を行ってみた。
すると腹部からレピドゥスの粒子が放出され、ノアトゥーン院長から発現された姿とはまた別の雰囲気を纏った姿かたちが形成された。
◈
わたしはウェルニに好意を寄せている。彼女を信じてわたしは彼女を選んだ。こんなこと例にある事なのか。
許される行為では無いと分かっている。わたしがウェルニの体内にいる事で、このような事態を招いてしまった。本当に彼女には申し訳無いと思っている。
わたしは彼女を信頼することで場所を見つけた。正鵠の魔女が本来の場所だったが、わたしには居心地の悪い所だった。
多くの素体を本体へ残していったのに、こんなにも軽く判明されてしまう⋯となると、わたしが予測している以上に、大陸政府と七唇律聖教が絡んだ事案だと考えられる。
これによってわたしは大罪を背負うこととなった。
それと共にウェルニ、姉のミュラエも追われる立場となった。これは不本意だ。
わたしのせいで2人を危険な目にあわせた。それでは収まらない、、取り返しのつかない最悪にも発展した。
この贖罪は済まさねばなるまい。
2人が大陸政府への抵抗に挑むと共に、わたしはわたしなりの方法で、贖罪を全うする。
抵抗と贖罪の道行。
始めようか。薔薇の再演を。
第九章、開始。
遂にシナリオが交わります。




