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[#81-裏切りの代償]

第八章、最終話。

[#81-裏切りの代償]


─────────────

「遅いわね。2人」

「色々と話してるんだろうな」

「何話してんのかな」

「姉妹だからこそ…親が介入出来ないことだよ」

「2人…ほんと、仲良いよね」

「見ていてこんなに幸せな事ないよ」

「今日さ、別に遠出する必要無いんじゃない?」

「…確かに…なんか…“遠出する”っていう事に拘ってた俺がちょっといるかもしんない」

「でも、んふふ…ウェルニは嫌がるだろうね」

「アハハ…そうだな。あんなに嬉しがってたしな、今から急遽変更だなんて、反感を食らうこと間違いなしだ」

「そうだよ!だから…ユレイノルド大陸、行こう」

「みんなで楽しめる施設とかな。そういうの中心に行ってみよう」

「うん!きっと楽しいよ!てか、楽しいこと違いない!」

「今まで、、出来なかったからな…」

「そうだね…色々あったけど…こうして安息の日々を送れてる…今、ようやく私達の生活は確保されてきたし…」

「大丈夫だ。セラヌーン家は絶対に大丈夫」

「ラバトスはいつもそう言い続けてるもんね」

「そうだよ、言葉にすることが大事なんだ」

「うん、ラバトスのプラス思考な所、好きだよ」

「ニャプテありがとう。俺も好きだよ」

「どこが好きなの??」

「そんな顔しながら聞くことか?」

「えぇ??なにぃ?」

「こんな時に2人帰ってきたらどうするんだよ」

「だいじょうぶ。直ぐ止めるから」

「そうか?だったら朝だけど…───?」


インターフォンの音が鳴る。


「誰だ?」

「2人…鍵忘れたのかな」

──────────────────


「『人生的に豊か…』はぁ?何それ…あんた!バカじゃないの?」

「ミュラエ…」

「気安くお姉ちゃんの名前言わないで!」

「落ち着いて。俺は2人を殺したくない。だがこのまま抵抗の意思を示すのであれば、そうせざるを得なくなるぞ?」

「………」「………」

2人は意思疎通を試みる。だが…

「残念。2人のマインドコミュニケーションを禁止させていただきました」

「てめぇ…⋯?何しやがった…」

ウェルニの攻撃表示はミュラエよりも圧倒的な迫力があった。

「俺には出来るんですよ。だから抵抗するのはやめた方がいい。俺の指示に従い、黙って言う通りにしろ」

「お前の言う通りとはなんだ」

冷静さを戻しつつ、一旦は相手の目的を引き出す事に専念しようと試みるミュラエ。しかしその様子を見てウェルニは不満気な表情を浮かべていた。

─────────

〈こんなやつとどうしてお姉ちゃんは、膝を曲げるような姿勢を表示しているの…どうしてよ…パパとママが…殺されたんだよ…〉

─────────


「ずばり、俺からの提案は一つ。俺の仲間に加わること。それが全てです」

「うん?クレニアノンくん、君の仲間では無いぞ?我々の仲間だ」

「そうですね…。はい…。“仲間”だよ、どうかな?この状態をもう一度考えてみ?君たちに言い分は無いと思うんだけれど、どうかな?」

「誰がなるか…お前⋯……ぜったいに許さない……これが解かれた瞬間、お前のことを殺しに行く…意地でも殺す…どこにいようと…戮世界のどこにいようとも必ず殺すからな…」

「ウェルニ、君の言い分は先程から汚泥を交えた言葉ばかりだ。この状況をよーく考えて見るといい。君たちにはもう、“勝負をする時間も残されていないんだよ”。このまま君とお姉さんを取り巻く物質が更なる攻撃を提供する。今はこの程度…痛覚への刺激になるようなものは提示していないけれど、これがあともう2段階上昇すると…」


「あああぁぁああ!!」「アアアァァァアアア!!!!」


ミュラエの赤紫色のバインドとウェルニを封じる結界が共に、異常発達を巻き起こし、攻撃を開始。それに苦悶の表情を浮かべる2人。苦悶では飽き足らず、クレニアノンは次の段階へと引き上げる。

「いいですね!もっともっとやってください!クレニアノン!」

アロムングの指示を受け、クレニアノンは2人へ発出させていた拘束攻撃を停止。

「あ、、、どうしましたか?クレニアノンくん」

「、、、これ以上やると生命維持に異常が出てしまいます。司教座都市に提出する素体なんですよね?」

「そうでした。失礼失礼…私とした事が大事な事を忘れていました」


「……はぁはぁはぁ……お前⋯許さないから…」

「俺は君には負けないよウェルニ」

「ウェルニだけじゃないから…、、私たち姉妹は、お前たちを許さない……地の淵まで追い詰めて…目玉をくり抜き…舌を引き出し、全ての部位を抉りとってから、喉を引き裂いて殺したやる…十分な悶絶の顔面を見せたところで、ゆっくりと最期を迎える事になるだろうな……最期に見る顔は私たちの顔だ…」

「そんな大層なこと、叶うわけありませんよ」

「いいや、叶うね。お前には姉の恐ろしさが分かってない。お前は厄介な女を敵に回したよ」

「あーそうですか。まぁ、、だいじょうぶ…だと思いますけどね。先ずはこの拘束を解かれなければ、俺に何の手も足も出せないですから。優位な立場にいることは説明するまでもない」


こいつの言葉は本当に性根が腐っている…今すぐにでもこいつの口を黙らせたい………ダメだ…こんなこと思ってるばかりだったら次なる一手への思考に働かなくなる。落ち着け…落ち着け……ウェルニが怒りを覚えるのはよくある事だけれど、あそこまでの沸点に達したのは今回が初めてだ。

そんなこと当たり前だ…何を思ってんだ…私は、、、……。

パパとママが殺された…。

改めてその現実を直視してしまった…。

なんでだろうか。こんな眼前に広がっていた光景なのに、中々視界に映される事が無かった。反射的に2人の遺体を見たくないんだと思った。だけどもっと本質的な部分に、視界から排除した理由があると、同時に思う。


私がいけないんだ…。

私がウェルニに『原色彗星を見に行こう』なんて言ったから、私とウェルニは家に居れなかった。私たちがいたら、状況は大きく変わっていたはずだ。ぜったいに良い方向に転がっていたに違いない…。

そんな過去への切望が叶うことなんて無い。

もう、今は、絶対に。

終わってしまった出来事なんだ…。私が全部悪い。クレニアノンとかいう、クソ裏切りアトリビュート…もうこんなやつアトリビュートでもなんでもない。

殺してやりたい…。

この裏切り者が、、、、殺した……ふざけるな…。

クレニアノンが放った、“障害を発生させるジャミング”。そんなアトリビュートの能力もあるのか。奴が放つ詳細不明のジャミング攻撃が、私たちのマインドスペースに障害を発生させ、コミュニケーションが取れない状態に陥っている。

これは、アトリビュートならではの攻撃と言えよう。

アトリビュートだったらこれぐらいの情報は掴んでいて、普通の事。そんなアトリビュートの技術論理を剣戟軍に提供したんだ。パパとママがどうやって殺されたのか…2人もアトリビュートだ。ママが元々超越者血盟だった事で、パパも超越者血盟に成り果てた。

─────────────

しかしながら、大人にもなるとその血は薄れていく。劣化していき、次第に絶命の一途を辿るのだ。

─────────────


クレニアノンのような若者と大人のアトリビュート2人。


……戦ったら、、、勝敗は、、、思いたくない。

大きな差をつけて負ける…とまでは思わないけど…、、、うん、、、そうだよね…多分…一生懸命戦ったんだと思う。その場所に居合わせられなかったのが、本当に悔しい。

こんなことで親を失うとは思ってもいなかった。

2人の顔を見れない。

ウェルニは依然としてクレニアノンへの殺意を剥き出し状態。私としては当該行為が良い方向に向かう予兆だとは思えない。自分の感情が先走って上手くいった試しがないからだ。

だがそんなことを伝えられないのが現状にある。だから、今、ウェルニの意思決定は完全に己の業へと委ねられている。

いや、私とのコミュニケーションが可能な状況下だったとしても、最終的なジャッジを下すのは彼女自身ではあるのだが…。

今回ばかりはそういう訳にもいかない。

どうしたらいい…この……認めたくもない…“絶体絶命”とかいう状況を打開する手立ては無いのか…。



「お3人さんそれぞれのアトリビュートとしての使命があるのですね。それは非常に興味深い内容です」

「あんたは何の用なんだよ私たちに」

「あらあら、急にそんな事を究明しに来るんですか?随分とまぁ、話の切り替えが雑な方ですねーミュラエさん」

「……」

「うーん、、、まぁ話しても無意味な事なんですが…どうしましょうか、、、あ、そういえば、クレニアノンくんにはこの案件、詳しくお話していませんでしたね」

「はい、俺は言われるがまま作戦に参加させられたので、全く当作戦の概要を知りません。ですが2人に話してもいい内容なのでしょうか?」

「うん?私がいつ、“話す”…と言ったのですか?」

「アロムングさんの顔を見たら直ぐに判明します。俺に隠し通せる事はありませんよ」

「あっはは、そうですね、やはりアトリビュートを味方につけるのは面白い。君は良い配下になりそうだ。まぁ、いいでしょう。特に上からの注意がある訳でもありません。まぁ先ず、問答無用ですが、アトリビュートである事から、あなた達は大陸の神“グランドベリートへの生贄に捧げられる優先順位の高い存在だ」

「そこにいるお前もアトリビュートだ。コイツも生贄に捧げるんだよな?」

「ウェルニさん、クレニアノンくんは特別なんですよ。彼は我々に協力してくれているアトリビュートだ。彼は正規ルートで剣戟軍に入隊を果たしている、れっきとした兵士なんです。だから彼は特別です。あともう一人いるんでしたよね?」

「はい、もう一人います。ですがそれは私の知り得る範疇内の者です。他の大陸を統括する剣戟軍にも俺と同じ志を持つアトリビュートがいるかもしれません」

「フン、こんなクソみてぇなアトリビュートが何人もいるんだな、腐ってるわ」

「こら、そんな口答えは許されませんよウェルニさん。…………話を戻しましょう。実は、問答無用の件よりも、重大な事案を、、そちらのウェルニ・セラヌーンさんが抱えているのです」

「………は?」「え?」「………」


「どうやらあなたはヒュリルディスペンサーで、『記憶』を献上品として差し出したそうですね。それは覚えていませんか?というか、ヒュリルディスペンサー自体覚えているんですか?」

「、、、、、その儀式があったことは覚えてる。ただ…」

「虚偽を言っても無駄な時間が流れるだけですよ。こちらには凄腕の脳内監視員がいますんで…あなたの嘘なんて直ぐにお見通しです。正直にものを言えばあなたに危害を与えずにこの場がスムーズに進行します」

「……クソが、、、ああ、、、そうだよ…でも、本当に覚えて無いんだ。儀式の内容は覚えているのに、私が差し出した物はぜんぜん覚えていない…」

ウェルニは素直に吐き出した。

「クレニアノンくん?」

「はい、ウェルニの言葉に嘘偽りは確認されません」

「正直に言って下さり、感謝をしますよ。最初からこのぐらいの気概で望んでくれればこちらは軍事手段を取ることは無かったんですから」

「……」「……」

『殺す』と言わんばかりの感情爆発が炸裂している。

「、、、、あなたは…『記憶』、これを献上したそうじゃないですか。よって、ええ?ウェルニさんの記憶には一部を除いて障害が発生し、記憶喪失になり掛けたそうですね。あなたが目覚めたあの日、あの時間、最初に視界に捉えたのは、ベルヴィー・ボイロンズ、ナリギュ・ペスタポーンの2人。この両名は、記憶を差し出す前までは“友人関係”にあったんですよ」

困惑するウェルニ。

「困惑するのも無理はありません。我々は全てを知っています。ベルヴィーとナリギュはとても困っていたようですね。何せ、『記憶』の献上を提案したのはベルヴィーらしいじゃないですか。ウェルニはそれを最初は否定していたが、その提案が脳の上辺に接着してしまっていた。ウェルニ、あなたも望んでいたのでしょう?『記憶』の献上…いや、『記憶の消去』を」


「ウェルニ…?」

「違う……何言ってんの…?そんなの……なに、、、、、ほんと意味わかんない…さっきから…本当に意味わかんないし、、諭し方が気持ち悪いんだよお前」

「最初、ベルヴィーに『記憶』の献上を提案された時、直ぐにそれを脳内から捨て去っておけば、あなたは『記憶』を献上されることは無かった…かもしれない。この動作も覚えてないのでしょう?そりゃそうです。ウェルニは一回、死亡寸前にまで陥ったのですから。そんなウェルニを動作したのが、ナリギュ、あなたの“旧記憶”の友達です。ナリギュはヒュリルディスペンサーによって獲得した『天根集合知ノウア・ブルーム』を祝福として授けられた。能力の名前は『傀儡操舵手』。傀儡のように指定人物を制御下に置くという、その時にピッタリの能力が祝福されたんです。七唇律は見ているんですよ。戮世界の時空全てを。ナリギュは形骸直前のあなたを動かし、脳内を洗った。するとそこには“『記憶』の献上”を望んでいる事が確認されたので友達両名は実行に移した。ちなみにウェルニへの天根集合知ノウア・ブルームは…『擬似ウプサラ導入蘇生』と言われているものだ。その名の通り、自身の生気を蘇らせる能力。もしや、熟練度を上げると“それ以上”の効力を発揮するかもしれませんね。しかしそれは叶うことはありません。私たち剣戟軍がここにやってきた最大の理由はここからです。ウェルニ・セラヌーン、あなたの身体の中には、『暴喰の魔女“レピドゥス”』がいます」

「私の…中に…?レピドゥスが?」

「レピドゥスの情報は記憶しているのですね。あなたの献上品『記憶』を暴喰する際、レピドゥスとあなたは何らかの深いコンタクトを図り、融合シークエンスに移行。儀式後、レピドゥスは臍帯を辿り母体である、『正鵠の魔女“テオドシウス”』改め、アリギエーリ修道院長・ノアトゥーンの元へ戻った。融合シークエンスの際、一部のレピドゥスの粒子がウェルニの身体に書き加えられた…と踏んでいる。ここからは不特定な情報が多い為、明瞭さを欠く情報だ。…そんな特異な存在を欲している人達がいるんですよ。なのでその方達の元へ、連行します。その後、ウェルニがどんな処置を下されるのかは、定かじゃないですね」


「生贄になるだけじゃ、彼女らは終わらないんですね」

「それはそうでしょうね。『連れて来るように』と言われていますから。『なるべく』ね。生死不問でしたので」

「……」「……」

「だから、一回か二回脅すような描写を含まさせていただきました。あれで少しは2人が脅しに屈するかと思ったんですが、計算が狂いました」

「……」

最早、描ける言葉も見つからないまでにアロムングの生態に飽きた。生理的に受け付けたくなくなる。ウェルニに至っては無視どころか、途方を向き、意識も上の空。

「ウェルニさん、あなたの話をしているんですよ?あなたの中にいる暴喰の魔女“レピドゥス”に裁きを下さなければならないのです。いったい何故、このような愚行を起こしたのか…儀式を執り行う中で、献上対象者に寄生・融合するなんて言語道断。今なら最高位も赦す事でしょう」

絶対嘘だ。最高位とかいう奴らの面前に立った瞬間、八つ裂きにされて私の体内に居るとされる、その暴喰の魔女を見つけようとする作業になるんだ。赦す?調子乗ったパチコキやがって、このクソ野郎が。

───────

「言葉に慎め」

───────

「あん?なんだ裏切り者」

「ウェルニの脳内は全て可視化されている。不用意な言動はやめた方がいい。無意味だし自身の品格を下げるだけだ。アトリビュートに生まれた身を誇りに思うなら、自身のプロデュースをもっと考えるべきです」

「裏切り者の告げ口なんて、私は聞かない」

「まだ理性を保ててるミュラエに対して言わせていただきますが、アトリビュートの存在を人間に預けるのは悪くないことですよ」

「どうして…生贄に成り果てるんでしょ?自分の命を軽く思っているの?」

「そりゃあそうでしょ。こんな低脳のゴミ、同類にされたくない」

「…ウェルニの言葉は綺麗に無視します。あなたの言葉には到底付き合いきれません。ミュラエ、俺は俺の命を軽んじた覚えは無い。俺はアトリビュートとして生きている。だが今は人間に力を貸した方が得策だと思っているんだ。何故か…?この世の『地中海』を見れるからです」

「『地中海』?なにそれ」

「戮世界テクフルの内部に存在する巨大機密機関です」

するとアロムングがクレニアノンの発言を静止する行動をとった。

「もういい、そこまでにしなさい」

「いいじゃないですか。彼女達はもうすぐ生贄になる。これから命の絶える者に何を言っても構わないと思うのですが…」

「クレニアノン、君にそんな権限は無い。今すぐ発言を訂正しなさい」

今までにない剣幕でクレニアノンに迫るアロムング。今が絶対にチャンスだと悟った2人。しかし残念な事に、2人の動きには制限が掛けられている。

クレニアノンのアロムングの意識が一瞬でもこちらに向けられなかった時間があり、そのチャンスを活かせなかった事に後悔する2人。意思疎通は出来なくとも、思考回路はほぼ同じ。だがそれも、どうせ、クレニアノンには知れた事なのだろう。

「⋯申し訳ありません。行き過ぎた発言でした」

素直に謝罪を行うクレニアノン。

「……失礼お二人共。仲間割れというのは認めたくないのですが…そういった時間が流れた事に謝罪を致します」

これがどんだけ気持ち悪い発言だったことか。アロムングのふざけた発言内容に、別方向から怒りがほとばしる。

「クレニアノンが言ったことは定かではありませんよ。ウェルニさんの事を、“気に入れば”生贄にはならずに、シンボルマークとして利用価値がある…と認識してくださるかもしれません」

「……」

「最早、無視はお家芸みたいなものですね。積もる話もありますから移動しましょうか。ね?もうこの光景に慣れたようですけど、流石に自分の親が血を流している現実を直視し続けるのは、健康面的に良いとは思えません。場所を移しましょう。さぁほら、クレニアノンくん、2人を移動させなさい」

「………」

クレニアノンが黙る。

「どうしました?クレニアノンくん、早く2人を拘引しなさい」

「…、、、、」

クレニアノンは無言を貫く。ミュラエとウェルニは彼へ異様性を感じた。アロムングは表情を変えることは無いが、口調に弱冠の不快さを滲ませていた。

「…クレニアノン、どうしましたか?何か問題が生じたのならすぐにこちらで対処しますよ」

文字面は安定性保っているように見えるが、実際は口を震わせていた。隠し切れない事情を抱え、ミュラエとウェルニはもう少し、この2人の軋轢に近しい状況を観察してみることにする。否が応でも、拘束されてる以上、そうせざるを得ないだけなのだが。


「……はぁ」

「疲れましたか?では能力だけでも維持している状態で構いませんので、兵士が2人を拘引します。最低限2人の行動に制限を掛けた状態で、よろしくお願いしますね」

アロムングの指示でミュラエとウェルニを包囲していた複数の重装備兵士が、銃の構えを止め、彼女達を取り囲む。


ミュラエとウェルニに接近する兵士。彼女達と兵士達の間が最接近した次の瞬間、包囲を指示された兵士達の身体が一瞬にして吹き飛び、家の壁に打ち当てられた。突然のエネルギーの発生源はミュラエとウェルニを拘束しているバインドと結界からのものだった。

残りの兵士とアロムングは驚愕のあまり呆然とする。

「こ、、、これは…………、、、何が起きたと言うんですか、、、」

「アロムングさん……」

アロムングに投げられた言葉の方向にはミュラエとウェルニを包囲する兵士以外の兵士がいた。その兵士が自身の名前を呼んでいたが、その声量に違和感を覚えたアロムング。

不気味な雰囲気を漂わせながらも…その発声元である兵士の方を向く。アロムングの不吉な予感は的中。兵士の腹部には大きな穴が…風通しの良さそうな穴が開放的になっていた。

「⋯アロムング…さ、、ん、、」

「おい……どうした……おい!」

腹部からは胴体から滴り落ちる血液と共に、内臓が露出。穴は非常に大きく開けられており、多様な臓物が見受けられた。アロムングの近く…つまり包囲に参加しなかった兵士も同じ目にあっていた。よってアロムングを除く剣戟軍は全て一瞬のうちに全滅。虐殺を受けた。


これにはミュラエとウェルニも目を引くものだった。

「、、、、、これは…いったい……」

今までのふざけた語り調はどこへやら。予想外の出来事発生に、困惑の最大限へ到達するアロムング。

「……クレニアノン…お前がやったのか…?」

「、、、、剣戟軍のやり方には少々面倒な要素を含んでいると思っています。更にはそれに付随する形で不快感さえ覚えるのも時間次第だ。俺はアトリビュート。剣戟軍側についた事で気を紛らわせていただけ。お前ら外道の行いには多少では済まされない怒りが溜め込まれて来た。もう、こちらの我慢も限界に達した」

「クレニアノン…貴様……何が言いたい…まさか…我々を騙していたというのか…、、、」

「騙す…?勝手にそう思い込んだお前達の責任だろう。俺は一回も信用してほしいだの頼んだ事無い。ただ自分の行動にある一定の評価をもらい、そこそこの自由と行動への幅をくれるだけで十分だったんだ。そっちが勝手に仲間意識を抱いていただけで、俺は何とも心に響いた記憶は無い。お前達の顔も覚えてないし、発言なんて思い出せもしない。その場その場でやり過ごしていただけ。ただ、剣戟軍には長居する必要があったから、仲間意識が芽生えてしまうような行動は取っていた。そっちが勝手に芽生えるものだけどな。俺は一回も考えたことは無い。思考に躍り出た試しも無い。お前らの言葉を本心で受け取った事など一度もない。いいか?俺はお前らの仲間になってなんかない。アトリビュートはお前ら大陸政府を許さない」

「貴様…、、、こんなことが許されると思うなよ…お前はここから地獄を見ることになる…それは・とても…とても…深い…深淵に叩き落とされる地獄だ…お前が、、今不敵な笑みを浮かべているその顔…口角を上げるのは、、今日で最期だ…お前に明日なんて訪れやしない…誰を…敵に回したか…判っていないようだな、、、」

「アロムングさん?あんたの言葉にはいちいちとうざったるい言動が目立ちすぎでした。地獄に堕ちるのはあんたらだ。アトリビュートをなんだと思っているんだ…?虐殺王の血を引く者たちだぞ?お前らなんかが倒せる相手じゃないんだよ……さぁどうする?ここから戦況を反転させられる算段があるなら喜んで相手をしよう。無いなら…あんたの人生はここで終わりだ。最終的には同じ結末を迎えるんだがな…何か言いたい事はありますか?」

「言いたい事…?フン………ウェルニ・セラヌーン!」

アロムングはウェルニの名を叫ぶ。ウェルニはそれに反応した。

「ウェルニの中にいる暴喰の魔女…レピドゥス。あなたの人生でレピドゥスがどんな影響を齎すのか…しかと見届けたかったですよ…あなたはこれから…、、、想像を絶する茨の道を味わうことになるのです……最高位の『血戦者』にその身を委ねた方が良い……私は断言出来る……、、私が合っている……私の意見を間に受ければ、自分の命を無駄にせずに済む……、、、私を信じればいい…きっと後悔する…必ずだ、、、必ず…」

「長い。きもい。臭い。うざい。怠い…。お前の言葉なんて聞かねぇよ。殺して…」

クレニアノンに視線を向けるウェルニ。ウェルニの視線と言葉を受けたクレニアノンは、アロムングに兵士と殺した時と同様の極エネルギーに相当する遺伝子能力解放攻撃を直撃させる。アロムングは抵抗虚しく殺された。


家の中は血腥い空間に包まれる。

ミュラエとウェルニが戻ってきた時、両親の死体だけだったのが、今や見知らぬ人間の死体までもが入り乱れたカオスを形成している。ミュラエとウェルニは真っ先にクレニアノンへの疑念を向けた。

拘束が解かれた。

ミュラエへの赤紫のバインド、ウェルニへの結界は完全に解かれ、身動きも通常時に戻る。

2人は、互いの身体を心配するよりも先に、両親の死体を眺めた。



「パパ…ママ……」

「ウェルニ…」

ウェルニが涙を流した。ミュラエは涙を我慢する。姉として、妹の昂る感情を受け止めるためだ。自分も泣いてしまったら、2人の受け皿となる人物が居なくなる。だから、ミュラエは泣くのを我慢する。もしかしたら、自分の方が泣きたかったかもしれない…彼女はそう思っているのであろう。

「お姉ちゃん…こんなお別れ…無いよ……」

「ウェルニ…こっち見て…もう見ない方がいい」

「いや…、、お姉ちゃん…大丈夫…、、もう少し見させて…、、」

ミュラエの静止を振り切り、ウェルニは両親の死骸にフォーカスを当てる。ここからどうやっても2人が生き返る事は無い。無いのだが…まだ見ていたい。見つめていたい。2人が…こうして、大量の出血に塗れて倒れている始末を、ウェルニは目に焼き付けたかった。こうした始末は目を背けたくなるのが常だろう。だがウェルニは目を背け無かった。妹の反応を見て、目を当てれなかったミュラエは心を改め、ウェルニと同じ行動を取る。


「パパ、、ママ……パパ…ママ…パパ…ママ…パパ…ママ…パパ…ママ…パパ…ママ…」

繰り返されるウェルニの嘆き。涙で溢れた顔面はぐしょぐしょに成り果て、2人への愛情を爆発させている。

「ウェルニ…」

ミュラエは彼女の背中をさする。そして何度も『大丈夫…大丈夫…』と繰り返した。ミュラエだって両親に思いを馳せたい。だがそれを止めてまで、今はウェルニの心に寄り添う方が適切だと感じた。これをウェルニが求めているとは思えない。だが現在のウェルニを、殺された両親を眼前に、号泣もされてしまうと…とても一人にさせてしまうのは気が引けた。

こんな妹を一人にさせるのは姉として失格だ。私は両親への気持ちを“表面上”は抑え、ウェルニの介抱に手を当てた。

「ありがとう…お姉ちゃん…」

「いいの…。大丈夫…大丈夫よ…こっち来て…」

「うん…」

2人は抱き合い、身体を密着させた。その姿を見るクレニアノン。

密着の時間は短時間で終わり、2人は一定の距離感になった。間近い訳じゃ無いが、決して“離れている”とは言えない距離だ。

しかし、空間としてこの現状を見ると、明確に…

『ミュラエ&ウェルニ』と『クレニアノン』

の2つの体制が取られている。


クレニアノンが口を開く。

「ミュラエ、ウェルニ…」

「……」「⋯…」

2人はクレニアノンの方を向く。

「こうして2人を騙すような手筈を取ってしまい、申し訳なく思っている。すまなかった。だが、こうまでしないと剣戟軍と大陸政府を欺けなかったんだ。だから許してほしい」

突然の謝罪。そうなるのも無理は無い。こうして3人だけの空間が形成された。その首謀者はこの男だ。

「お前……剣戟軍を殺した…。どうしてそんなことしたんだ」

ウェルニが問い掛ける。その言葉、一文字一文字に決してまだ信用していないぞ…という軸が伴っていた。絶対に揺るがないその信念のまま、ウェルニはクレニアノンに迫る。

「元々そうするつもりだった。俺はアトリビュートとしてこの世界の真実と理想に辿り着きたいと思っていた」

「『地中海』というものか?それは」

「そうだ。だがそれよりも自分の正義を貫きたかった。内部分裂を起こしたかったんだ。しかし、剣戟軍と大陸政府…更には七唇律聖教という戮世界テクフルを創成・統括する機関が予想以上の濃密なものだった。俺だけじゃ対処しようが無い事案だと判断した。俺は剣戟軍に帯同し、様々なエリアに出向き、アトリビュートの調査部隊として行動をしていた。そこで多種多様なアトリビュートと出会ったのだが、どれもこれも使い物にならない代物ばかり。そのアトリビュートは生贄として処理されたんだ。処理イコール、俺の見方に適合する存在じゃない。そんな作戦の毎日が続く中、君たちを見つけたんだ。去年の8月17日。君たちはあの場所にいた…そうだろう?」

「イーストベイサイド…」

「そうだ。運良く感染者がそこには現れ、難を逃れたそうだね。だが剣戟軍が現地に出撃した時の検知信号は、紛れも無い、ウェルニの遺伝子。ウェルニの遺伝子を検知したんだよ。そこに突如、感染者が発生し、検知信号にノイズが生じ他の反応を検知しなくなった。おかしいと思うよね。出来すぎたシナリオだと思うよね。そう、これは絶対にドリームランドが手を加え──」

❈──────────────❈

❈──────────────❈


「はー、うっさコイツ」

「お姉ちゃん、もうちょっと聞きたかった」

「もういいよ、コイツの話。マジでいちいちうざい…本当にうざい…ほんんんんっとうにうざい。長ったるい…マジで…マジで!!」

「お姉ちゃん落ち着いて!」

「ごめんごめん……ウェルニ、“本当に…大丈夫…?”とか言ってさ…ごめんね。そんな、大丈夫なわけ無いのに…」

「ううん、お姉ちゃんの“舞台演出装置”として上手く機能出来てたかなー?」

「うん、バッチしだよ。ありがとう」

「えへへ。嬉しい!もっとなでなでして?」

「ウェルニ、お前はそんな子供じゃないでしょ?」

「私……子供でいい!お姉ちゃんの子供でいい!」

「はぁ…もう…何言ってんだか…」

「お姉ちゃん…でも…実際は、、、うん、、あんままだ立ち直れないかも…」

「うん、そりゃあそうだよ。急すぎるもん…」

「パパとママ、、殺したの…こいつ?」

「ああ…そうなんだろうな」

「お姉ちゃん、にしても速すぎじゃなかった?すっごい速かったね!なんかもう…ビュビュッと目に追えないスピードで、家を駆けずり回り、一瞬でこの男の背後を取って惨殺しちゃってさ。もうカッコよすぎるよ!」

「もう、やめてよ。殺しの手口を褒められるなんて、あんまり嬉しい事じゃないよ」

「私、お姉ちゃんになら抱かれても良いと思った」

「言い過ぎだよ。あ……」

抱き着いてくるウェルニ。血溜まりの空間で2人は互いの愛を確かめ合う。

「お姉ちゃんが大好き。パパとママが居なくなっても…お姉ちゃんが居てくれれば…私はそれでいい。お姉ちゃんと一緒に居たい…ずっと居たい…。お姉ちゃん、絶対に私を守ってね、これからも」

「もちろんよ。私はあなたを守り続ける。ちなみにだけど、クレニアノンに向けてた殺意剥き出しの言葉…あれは…」

「ムリムリ!私!あんなの出来ないよ!あれただの演技だって!どう??上手かったでしょ?」

「うん、上手だったよ〜よしよし。でもね、これからは戦いの日々が続くと思う。現にこうして剣戟軍の攻撃を浴びることとなった。私達の親を殺された以上、今までの自分達ではいられないと思う」

「…ていうことは…どうすればいいの?」

「一皮剥けよう」

「一皮…?」

「自分の身体を守るために力をつけなければならない」

「力ならもう私達にはあるじゃん!アトリビュートの血があるんだから!超越者の血盟なんだから!」

「だが、剥き出しの感情が“演技”ということになると…話が変わってくると思うよ。感情に任せたまま行動していても、自身のステータスを上げる事は出来ない。物理的な段階をふむ事によって、進化するんだ。だから…訓練を行おう」

「え、、、うそ、、」

「マジよ。これはもう決定事項」

「お姉ちゃんが色々とやってくれていいじゃん!今みたいにさ、この男を惨殺したみたいにさ!殺っちゃえばいいじゃん!私の力なんか要らないよ!」

「気になる発言があったな。アロムングから。『暴喰の魔女・レピドゥスと融合した』…とか。もしかすると、アトリビュートとの力を併用させると強大な能力を携える事が出来ると、私は思ってる」

「そんなの…私、、よく分かんないよ…。そんなの気にしたこと無いし…感じたことも無いし…レピドゥス?それ……ノアトゥーン院長の暴喰の魔女だもん…。そんなのが何で私の身体にいるのよ…」

「アロムングが言っていた事が虚実入り混じる内容じゃなければ、素晴らしい遺言だったと言える」

「遺言のままでいいよ…」

「私は確認してみたい。ウェルニに宿るもう一つの力を引き出してみたいんだ」

「ううーん…」

「ウェルニ、この状況を見て」


両親、アロムング、クレニアノン、多数の兵士の死骸。

血だらけの家。兵士からは臓物の露出が。飛び散った臓物が壁に塗り付けられ、非常に血腥い空間だ。


「憎いと思わないの?パパとママが殺されたんだよ?」

「そんなの…思うに決まってるじゃん。殺したいよ。でも、お姉ちゃんの力だけで負かせられるもん。私、要らないもん。私はお姉ちゃんの舞台演出のための装置だけでいいから」

「そういう訳にはいかないよ。私は気になるな、ウェルニの体内に宿された魔女の力」

「うーん…」

「なんかないの?4ヶ月間あって、言動に違和感があったり、思考にノイズみたいなさ…」

「いやぁ…分かんないよ…そう言われてみれば……うーんなぁんか…そんなこともあったような…無かったような……うーん…分かんないよ」

「じゃあその、あやふやなノイズを明瞭にしよう。これはもう決定」

「…⋯…」


ジト目。


「なんその目。なんか文句あんの?」

「お姉ちゃんについて行くよ?ついて行くけどさぁ…ちょっと私の意見とか聞かなすぎじゃない?いや、お姉ちゃんの言ってることは正しいのかもしれないけど…なんかこのまま進めちゃうと、軋轢が生まれそうな気がして…ちょっと怖い…。いつか異能と異能が対立し合うビジョンが目に見えてくるんだよね」

「その、対立し合うビジョンってさ……自分の思考で落ち着いたやつ?」

「はぁ?お姉ちゃん…考え過ぎだって…私もこのぐらいの事は考えられるよ。そんなにバカな女だと思ってるの?」

「ごめん…でも…ウェルニってさ…12月1日。正にあの儀式があって以降、性格変わったよね?」

「そう?」

「うん、姉だから判るよ。絶対に変わったよ」

「お姉ちゃん…それが、魔女のせいだとも言いたげな顔になってるよ」

「……」

「めっちゃ図星じゃん。はぁ……判ったよ、お姉ちゃんの意見に乗ってみる。取り敢えずはね。お姉ちゃんの選択に間違った方向性なんて今まで無かったし、お姉ちゃんの方が、出来る女なのは違いないし…」

「ありがとう、ウェルニ」

「ううん、大丈夫。お姉ちゃんが私の訓練の相手?」

「そうしかないよね」

「……強お…い、、くはしないでね…?私のレベルに合わせた感じでおねがい、、、」

懇願するウェルニ。ウェルニは姉の力を熟知しているので、本気を出されたら…と思うと、とてもやる気になれない。

「ウェルニの殺意剥き出しの感情…あれを戦闘行動にもっていけたら…」

まるで聞いてないミュラエ。

「お姉ちゃん…本気は…出さないでね…?」

「ウェルニが真っ当に挑んでくれるのであれば、私はそれに応じてレベルを上げたり下げたりするつもりよ。ただ、意図的に貧弱なパワーまで落とすのは論外。もしそんな事をした時は………怒っちゃうからね?」

こういう時のミュラエが一番怖い事をウェルニは…“熟知”している。笑顔の中に隠れた彼女の恐怖政治。逆らう事は死を意味する。

「お姉ちゃん……なんか、、、凄いこと考えてない?」

「うん…色々とね、暴喰の魔女・レピドゥスを考えているの。ヒュリルディスペンサーの時に、ウェルニは『記憶』を献上し、それの天根集合知ノウア・ブルームとして蘇生が行われた。レピドゥスはその際…何をしたんだろうね。私は疑問に思ってるんだよ。ウェルニからは七唇律聖教の修道士シスターズについては聞いていたから、概要は把握している。レピドゥスはノアトゥーン院長の“暴喰の魔女”なんだよね?……それが、ウェルニの体内にいるって言うのが…どうも引っかかるのよ」

「私にはよく分かんない。ただ、疑問に思ってる事を掘り起こされた感があるのは…『私は儀式の時、どこを献上したんだ』っていうこと。私自身、記憶が消されたとも思ってないから、上手く説明がつかないんだけど…なんなんだろうね…なんか…胸騒ぎがするの…」

「それさ・本当に“胸騒ぎ”してるんじゃない?」

「どういうこと?“本当の胸騒ぎ”って」

「レピドゥスが反応してるんじゃないの?」

「えぇ?この会話に?」

「うん、仮にだよ?仮に…レピドゥスがウェルニと一緒にいたくて、体内に残った…と考える。どう?なんか…身体の中で、ザワザワして来ない?」

「…………あ、、する…なにこれ、、、、うん…凄いする…赤ちゃんがお腹にいる時、『お腹を蹴った感じがする』ってよく言うけど…なんかそれの劣化版みたいな感じ…」

─────────

「レピドゥスは、ウェルニを気に入ったんだよ」

─────────

「ええ?魔女がぁ?私を?」

「このクズ…アロムングの言い方によると…魔女の接触はそれ相応のものだと思えた。推測の域を出ないけど…可能性は考えられる」

「魔女が私を…認めた…?」

「そういう捉え方も出来るわね。気に入られたのよ、ウェルニは。居心地が単に良いだけなのか、外部に出ないなりの理由があるのか…それを見極める方法は判らないけど、これを上手く利用すれば、格段に現在のウェルニからパワーアップを図れる」

「魔女を使って…パワーアップ…?」

「そうだ。暴喰の魔女だろ?魔女の力とアトリビュートの力。2つの力を併用する存在なんて、想像すらも危ぶまれる」

「私…魔女と…一体化してる……そんなの、気にしたことないけど…お姉ちゃんからの言葉受けて…なんだか

意識し始めると…不思議な感覚に包まれる」

「それ、魔女が呼応してるんじゃないかな」

「魔女が…私に…?お姉ちゃんに…?」


「ウェルニには…『やっと気づいたか』。私には…『気づかせてくれてありがとう、待ちくたびれたよ…』的な事かな。身体にマイナスな異変は無いんだよね?」

「うん…特には…気持ち悪いとか…そういうのは無い」

「じゃあ、魔女はウェルニを待っているんだ。ウェルニが魔女の力を引き出す事を待ち望んでいるんだよ」

「レピドゥス…そうなの?」

「そうやって、魔女に語り掛けるといい」

「お姉ちゃん…いつの間に、七唇律聖教の修道士シスターズへなったの??」

「アッハハハ…違うよ。私はなってない。なろうともしてないし、なる気にもならない。ただ、愛する妹が七唇律聖教に興味を持った以上、姉として軽はずみな解釈は出来ない…と判断した」

「裏で…色々と動いてくれてたの?」

「『動いてた』…って、、まるで諜報活動見たいな言い方ね。まぁそうよ。あなたが色々と七唇律聖教の勉学を受けている中で、私も裏で調査・学習をしていた。そこで私は見つけたんだ。この…クレニアノンが言っていた『地中海』の存在を」

「地中海…そうね……戮世界は只者じゃない奴らが創成した世界」

「うん、私も次第に姉としての責務では無く、自分の欲を満たす為に、七唇律と向き合っていた。色々あるんだね、七唇律と戮世界テクフルって」

「そうだよ。でも…今日からはもう…修道院に行けないな…」

「家…酷いね…よくこんな状態で私達…会話出来てるよね」

「パパとママ…殺されてるのにね」

「ウェルニ、もうやめよう。2人を埋葬したいが…」

埋葬するにも…家から死体を運び込む訳にはいかない。2人の死体は部位欠損の酷い最悪な状態だ。こんな状態を見られたら……それに…。

「お姉ちゃん、ここ、剣戟軍が来るんじゃない?」

「応援部隊が来る可能性は……どうなんだろう、家の周辺に停めてあった車、あれ全て、ここにいる兵士が乗用していた車だとしたら…現状を把握している剣戟軍兵士はゼロという事になる」

「じゃあ…」

「うん、まだ隠蔽の猶予はある」

「でも…この家の感じを…見られたら…」

血の飛散。夥しい数の死体。部位欠損による足と手の切断。

「確実に終わるな。だがその時は、剣戟軍をまた潰せばいい」

「でも、それだと証拠を増やすだけ。隠蔽を果たすために費やす時間が伸びるだけだよ」

至極真っ当な正論をぶつけるウェルニ。しかしそんな事は頭の中にあったと余裕を見せるミュラエ。

「こんな時、あなたの、暴喰の魔女・レピドゥスはどうするんだろうね」

「え?、、ここで?もう?出番なの?」

「私、七唇律聖教についての調べ物をしてる時に、読んだことあるの。戮世界四大陸に点在する修道院院長には、必ず『暴喰の魔女』がいる。それでその暴喰の魔女は人間によって種類・特徴・特性・性格は異なるもの。その魔女のステータスは、母体である院長へ深く反映されるんだ…と。ノアトゥーン院長ってどんな人だった?」

「うーん…冷酷で、逞しくて、綺麗で、気品のあって、怖くて、弱味のない完璧なお姉さんって感じかな」

「要約すると、『凄い人』ね。うん、その影響はレピドゥスのステータスをノアトゥーン院長に、インストールしたから…私はそう思うな。…というか、ほぼ合ってると思う」

「ノアトゥーン院長の力は…レピドゥスのおかげもある…っ事?」

「そうだ、暴喰の魔女は複数存在する。今の特色を鑑みるに、相当高ランクな魔女だと言える。ウェルニ、あなた…もしや、けっこうな大物と付き合ってたのよ、多分ね」

「えぇー…そ、そうなのかな…」

ミュラエの推測に、ウェルニは引く。しかし、ミュラエの推測を本気で捉えようとはしていない。信じようとはしているが、そんな凄い人の元で勉学していた…とはあまり思えなかったからだ。どうしてだろうか。姉に言った事は本当なのに…本当に“凄い人”だと、認識しているのに。


「そんなノアトゥーン院長の『暴喰の魔女』が、ウェルニの体内にいる。暴喰って言ってるんだからさ、その力…儀式以外にも活用出来たり、しないのかな?」

「お姉ちゃん…?何言ってんのよ…、、そんなの……?」

「うん?どうしたのウェルニ」

「………、、判らない…なんか……、、、凄い…身体の中から熱くなる玉みたいなのを感じるの…」

「玉…?動いてる?」

「うん、、動いてる…これって…」

「ああ、魔女だよ。魔女が何かを伝えようとしてるんじゃない?」

ウェルニがその場にうずくまる。直立が出来ない程、足から力が削ぎ落とされていく。足が削ぎ落とされている事と、腰から上の動力は紐付けがされていないようだ。

上半身は自由な状態。それがまた気持ち悪い。下半身は一切動かないのに、上半身はいたって問題無い。うずくまっていた状態も直ぐに回復し、下半身以外はなんら問題ない身体となった。

「ウェルニ…大丈夫?」

「、、大丈夫なんだけど、下半身に力が入らないの…」

「下半身だけが…?太ももは?」

ミュラエはウェルニの下半身に直接手を当てる。

「うん、大丈夫。お姉ちゃんの手、感じる」

「…ウェルニ、目を瞑って?」

「なんで?」

「いいから」

「うん…」

「今私、触ってるんだけど、どこ触られてるか、当てて」

ミュラエはウェルニの“右足の脛”に手を当てる。


「どこを触られてる?」

「右の太もも」

「…じゃあ次、ここは?」

今度は“左足の太もも”に手を当てる。


「どこを触られてる?」

「…右の…太もも?」


「最後ね、、ここは?」

最後は、“右足の太もも”に手を当てる。だが次の瞬間…

「うぅわぁ!」

「ウェルニ…」

「あ、ごめんお姉ちゃん…目、開けちゃった…」

「いや、もう分かったから大丈夫。結論から言うと、一時的にウェルニの下半身は何者かの制御下に置かれていたようね。それは紛れも無く、レピドゥスよ」

「え、、、」

「ウェルニはずっと“右の太もも”…と答えていたけど、1回目、2回目は全く違う所に手を当てていた。右足の脛と左足の太もも…3回目、2回とも同じ回答をしていた“右の太もも”に手を当てた瞬間、ウェルニは立ち上がった。ウェルニの驚く様子を見て、ウェルニの意思決定によるものでは無い…と確証できる。何故、ウェルニが1回目2回目、『右の太もも』と回答したのか…それは、その時、レピドゥスが右の太ももに存在していたからよ」

「……え、、わたしの、、太もも、、に…??」

驚愕の事過ぎて、言葉にまとまりが無くなるウェルニ。

「3回目、最後に私が右の太ももに触れようとした途端、ウェルニは立ち上がった。力が戻った…というよりも、力が…」

「“解かれた”」

「ウェルニ、私もそう思うよ。解放されたように私も感じた。これは…レピドゥスだ。レピドゥスが、示している。気づいてほしがってる。だって、ずっと隠れていようもんなら、こんなあからさまな動きはしないはず。ウェルニの身体を体内から侵す様な事を目的としているなら、自身の存在をこんな分かりやすく提示しないわ」

「レピドゥス……あなた…何が目的なの…?私に…何を齎す存在なの…?」

─────────────

「ウェルニ…ウェルニをずっと見守っていた。お前が与えてくれた“わたし”の一人称。大切にしているぞ。わたしをどうやっても思い出せないだろうと思っていた。しかし、こうした出来事が起きてしまった。シナリオ上、看過できないものと考えたが…これも一つの終局への物語…。わたしはお前との融合を果たした存在だ。ウェルニは覚えてないのだろう。それを思い出すことも出来ないだろう。思い出した時は、お前が死ぬ時だ。対価を支払われた存在として、“儀式前の記憶を思い出す”イレギュラーなんて、許されないものだ。お前が旧記憶を思い出そうとする行為を起こした時、わたしはお前の思考を暴喰する。それはお前を守る為だ。わたしはお前の命にかけてみる事にした。新記憶のウェルニはわたしからの進言に対して、大きな疑問を抱く時間が長い事だと思う。だがわたしを信じてほしい。わたしはお前を極限の能力まで引き上げることが可能だ。姉のススメを引き受けろ。わたしが全力でサポート・フォローをしよう。お前のアトリビュートとしての力と、暴喰の魔女による力が融合した時、戮世界はウェルニの手中に収まったと言っても過言では無い。わたしを信じて、わたしを受け入れてほしい。それでは⋯」

「待って!」

「安心しろ。わたしはいつもお前を見ている。身体の中からな」

──────────────


「ウェルニ、今⋯」

ウェルニの目が白目になっていた。それを“異変”と捉えない者はいない。ウェルニに何があったのか⋯短い時間ながらも完全に、現実との乖離を果たしていたウェルニに、ミュラエは問い掛ける。

「ウェルニ大丈夫⋯?大丈夫だよね??」

「、、、、うん⋯お姉ちゃんの言う通りだった⋯わたし、、今⋯魔女と対話していた」

「そうか、、そうなんだね」

「だけど、まともに話してくれなかった。私が話し掛けようとしても、一方的に話していくだけで⋯全然聞いてくれなかった⋯でも、レピドゥスは私のことを好いてくれているようなの⋯、それだけは伝わった」

「どんな感じだった?」

「えぇ?うーん、、なんかね⋯純情だったよ。結構素直に気持ち伝えてくれて、“魔女”って言われてるけど⋯そんなイメージまったく感じさせなかったなぁ。可愛かったよ」

「外見とかさ、見た目は⋯」

「凄いお姉ちゃん気になるんだね」

「そー⋯だね⋯。こんな身近に特異な人がいると、どうも気になっちゃってさ⋯」

「そうなの??ンフンフフフ⋯ま、いいけど⋯、ウプサラの粒子だったよ、光と闇の」

「不思議な体験だね。しかもそれが現在進行形なんだ⋯」


「お姉ちゃん⋯私、やるよ。レピドゥスの力、引き出してみる。頑張るよ」

「その感じだと、レピドゥスから色々言われたようだね」

「凄いねお姉ちゃん⋯なんでも判るの?」

「だってウェルニ、ずっと私の意見否定してたのに、急な舵の振り切りなんだもん。レピドゥスからの助言があったんでしょ?」

ミュラエの突き刺してくるような言葉に、ウェルニは恥ずかしくなる。

「もう、恥ずかしくなるよ⋯そんなに私の頭、覗き込むようなさぁ、ほじくり返すようなさぁ、エッチな事しないでーー!」

「エッチな事じゃないでしょうよ」

「エッチだよ!エッチエッチ!レピドゥスはもっともぉぉぉっとエッチ!!私のことが好きなのかなんなのか知んないけど、身体の中にずっと居て⋯そんで⋯えぇ?私の下半身行ったり来たりしやがって!そんで下半身のエネルギー奪うような事も起こしやがって!この変態が!今、反論できるならやってみろよ!おい!」

ウェルニが自身の身体を殴る。特に下半身を中心に殴りまくった。この字体情報だけだと、激怒しているように受け取れるが、これはウェルニなりの愛情だ。それを理解したレピドゥスはこのような手口で応答した。


「ちょっと!!レピドゥス!やりやがったなー!てめえ!」

ウェルニの下半身から再び、動力の制御を奪った。ウェルニは叫び散らかした。

「レピドゥスう!!それズルいって!!⋯⋯ンンンんん⋯⋯、、ンンンんんーーらもお!」


「ウェルニ⋯あんた、なにやってんのよ⋯」

一人でゲラゲラと笑いながら、レピドゥスが仕掛けた技とじゃれ合っている。

「お姉ちゃん!レピドゥスがイジワルしてくるの!」

「満更でもないような顔してんな」

「そ!そ、そんなことない!!ぜったい無い!ぜったいに!!やだ!わたし!これ!やだ!レピドゥス変態すぎ!私が困ってる姿見て嘲笑ってんだよ!マジうざ!!」

この後もウェルニは楽しんでいるような姿でレピドゥスを罵倒し続けた。


5分後──。


「ウェルニ⋯⋯もう気済んだ?」

「ハァハァ⋯もう、済んだ⋯」

「すっごい疲れ果ててるね。相当楽しかったんだね。良い汗かいてるように見えるよ〜」

「お姉ちゃん、うざい。。。」

「アッハハハハ、でさぁ⋯私ら⋯イカれてない?」

「なんで?⋯⋯あ、、、」

「両親が死んでる前でさぁ⋯なにしてんのよ⋯、、私達⋯もう狂気だよ⋯」

「本当⋯よくこんな所で長居できるね」

「ウェルニ、レピドゥスにお願いしてみてよ。この死体の山を一気に暴喰出来ないか?⋯って」

「あ、お姉ちゃんもしかして、その為にレピドゥスの力を引き出そうとしてた系?」

「そうだよ。“暴喰の魔女”って言ってんだから、その力、現実でも活かせないのかなぁと思ってね」

「大胆なこと考えるねー。いいよ、レピドゥスに聞いてみる!⋯おいコラぁ!変態さんよ!?お姉ちゃんの言ってた事やれない??やれるんだったらやっちゃって」

「パパとママは別の扱い方してね」

「聞いた?取り扱い注意よ?剣戟軍と同じ扱いしちゃダメだからね?」


────────

「承知した」

────────


ウェルニにのみ聞こえたレピドゥスの声。『承知した』の文言にほぼ付随する形で、2人を包囲した剣戟軍、アロムング、クレニアノンが消失した。消失の際、ウェルニの腹部から粒子状物質が放出され、それが一つの“獣”を創造。

「これは⋯」

ウェルニには当然、粒子状物質が具現化されたものを可視化出来ていたが、ミュラエにもその姿は目視出来たようだ。ウェルニはミュラエには目視出来ない存在だと思っていた。

「お姉ちゃん⋯見えてる?」

「うん、、なんだ⋯こんなのがあなたの中にいるの⋯?」

『異形の存在』としか⋯説明のしようがないもの。だがその形態は間を置かずに、次なる形態変化を遂げた。


白い鎧を纏った人型の輪郭を形成。光輝くシルエットから黒翼が後背から伸び、黒のアンカーワイヤーが身体を纏った。白い鎧が形作られた後の黒翼生成からは、黒のラインを作るラインに移行された。

やがてシルエットが消え去り、頭部も可視化されるフェーズへ。頭部が目視可能な状態になると、先ず目立ったのが顎部から口元。人型を模していたので、通常人類のサイズ感が大きくなっただけかと思っていたがその予想はへし折られる。

具現化されたのは、桃色の巨大な舌。その舌というのも、ブツブツ模様と幾数にも枝分かれした触手のようなものだった。とても気安く見れるようなものでは無かった。

グロテスク。簡単に言えばそんなようなものだ。

その後に粒子状物質が生成したのは頭部。ここに特筆性のある情報は無かったため、割愛とする。ただ、眼球が無く、視覚機能をいったいどこで持ち得ているのか⋯そこは気になった。

舌の異常な発達が目立ちすぎて、他の部位は霞んで見える程だったので、眼球の有無の推測に時間を掛けれなかったのだ。

ミュラエ、ウェルニと同身長のレピドゥス。

ウェルニはそれに声を掛ける。


「レピドゥス⋯⋯あなた⋯レピドゥス⋯なんだよね?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「返事は無し。“黒翼さん”は喋んないのか?」

「お姉ちゃん、イジワルしないで。レピドゥス!聞こえてるんでしょ?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「レピドゥス⋯⋯」

「あなたの指示を待っているんじゃない?」

「私の⋯⋯指示を?」

「そう。ウェルニに好意を示している魔女なんでしょ。一回出してみれば?」

「判った⋯やってみる⋯」

ミュラエの助言を聞き入れ、私に好意を寄せている暴喰の魔女・レピドゥスへ、初めて⋯指示を出してみる。


「レピドゥス⋯、、お願い⋯死体を片付けて」


発言直後、レピドゥスの口腔が大きく開口。そこから発現される黒色エネルギーが家内部を包み込む。

「危ない!」

「レピドゥス!私たちも食べる気!?⋯⋯!」

黒色エネルギーがミュラエとウェルニをも抱擁しようとした瞬間、2人の元にバリアが生成され、2人はレピドゥスが発現した正体不明のエネルギーを受けずに済んだ。

「レピドゥスが⋯やったの⋯?」

ウェルニの問い掛けに表面上では応えないレピドゥス。

バリアに包み込まれた2人はレピドゥスが巻き起こす、パラノーマルな現象を目の当たりにした。


口腔から生み出された黒色が、レピドゥス自身を獣人化させ、家に残置された夥しい数の死体を喰らい尽くした。

綺麗な言葉で言うと『回収』。

状況をそのまま表す言葉を選ぶとなると『捕食』。

だが、そこに出血を確認させるシーンは一切無い。

更には家の中に飛散した多量の血、中には時間の経過で血痕に成り果てた液体をも、レピドゥスがゼロにした。

その中でもウェルニの願望通り、父・ラバトス、母・ニャプテへの扱いは落ち着いたものだ。

2人以外の、クレニアノンらへの対応は、時間をかけない⋯というポイントを優先的に考え、高速に実行されたもの⋯との印象を受ける。


家に残置された全ての死体がレピドゥスによって、消失。血液で汚れた部分も全てが元通りの空間になった。

「凄い⋯⋯」

「レピドゥス!すごいよ!ありがとう!」

ウェルニはレピドゥスの傍に立ち、感謝を伝える。しかし、レピドゥスからの返事は無かった。視線もこちらに向けること無く、レピドゥスは粒子状物質となりウェルニの身体⋯腹部へと戻っていった。

「レピドゥス⋯」

「恥ずかしがり屋、なのかな?」

「うーん⋯ありがとうって言っただけなんだけど⋯。まぁいいや」

ウェルニはレピドゥスが自身に戻った時の箇所に手を当て、2度目の感謝を伝えた。

「ありがとう⋯レピドゥス。あなたのおかげよ」

「今、レピドゥスは腹部に戻ってたよね」

「ええ、腹部というより⋯“おへそ”に戻っていった感じかな」

「⋯臍⋯⋯」

「臍⋯⋯!!そうだ。ノアトゥーン院長がレピドゥスを発現させた時、確か臍帯で繋がってた気がする」

「レピドゥスとノアトゥーン院長が?」

「うん⋯間違いないよ」

「暴喰の魔女・レピドゥス。この魔女とは長い付き合いになる。私達で魔女の力と向き合っていこう。暴喰の魔女は様々な形態変化を遂げる、異形の存在に該当する。中々痺れた日々になるだろうね」

「大丈夫!私とお姉ちゃんなら!」

自身の臍に手を当てるウェルニ。

「これからもよろしくね。レピドゥス。⋯⋯なんか妊婦さんみたい。赤ちゃんみたいに蹴ってくれたらいいのに」


【***】


「え、今⋯蹴った?⋯お姉ちゃん!今蹴ったよ!レピドゥスが反応した!」

純粋無垢なウェルニの笑顔がミュラエに弾け飛ぶ。

「ほんとに妊娠してるみたいだよ」

「ンフフフフ⋯レピドゥス、あなたの事は⋯私が必ず守るよ。まだあなたの方が全然強いかもしれないけど、私が強くなってあなたを守る。あなたがわたしを好きになってくれたから。ありがとう、わたしを選んでくれて」


「ウェルニ⋯取り敢えず⋯、、、なんか食べようか」



家には3ヶ月間は居た。

だけど、直ぐに家賃とかそういう大人が絡んでくる問題が発生し、子供だけじゃ対処できない事態に追い詰められた。

セラヌーン姉妹は、家を捨てざるを得なくなる。

そして、出会った仲間達。

志が同じだった事、セラヌーン姉妹への理解もあり、彼らとの友好関係を築いた。

だが仲間達は、作戦を展開する度に死ぬか、捕獲される。

作戦展開をせずに静かに暮らしたい。

セラヌーン姉妹はそう思ったが、この仲間と友好関係を締結させた以上、背ける行為は許されるものでは無かった。

そんな事もあり、段々と組織に溶け込んでいくセラヌーン姉妹。


『アトリビュート武装集団“ヴェルンド”』。


ヴェルンドの目的は、超越者血盟を利用した奴隷・捕虜の解放。穢れ切った戮世界の書き直し。



そして、1年後。

律歴5604年1月20日──。

『乳蜜祭Day.2』


ありがとうございました。

エアコンを本格的につける季節になりましたね。

そしてもうそろそろです。

『Lil'in of raison d'être』を提出します。

よろしくお願いいたします。

今、誰からも見られていません。

どうすればいいのでしょうか。


第九章もシームレスにフラウドレス編です。

しばらくは他のシナリオやれない気がします。

本当にシナリオ書いてるの楽しいです。


沙原吏凜(1A13Dec7)

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