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[#78-幻想の交錯と思想のすれ違い]

話したら聞いてくれなくて、

話そうとしたら、聞いてくれなくなる。

[#78-幻想の交錯と思想のすれ違い]


「院長⋯」

「うん?どうしてそんなお顔をしているの?」

「院長⋯⋯みんなをどうやって⋯⋯」

「その様子だと、私が無理矢理この子達のパーツをもぎ取ったとでも思ってるわね?違うわよ。ちゃんとみんなの意思からのモノよ?私は『何を献上するの?』と問い掛けただけ。そして指定された部位をレピドゥスが頂いたの。たったのそれだけ。いい?『たったの、それだけよ』」

「⋯⋯⋯痛みは?」

「⋯⋯個人差よ。無いかもしれないし⋯あったかもしれないし⋯それは個人個人の身体と精神の強度によるからさ。あんまり気にしなくてもいい事なのよ。だって、もう変えようが無いんだから。もう、今、ここで!やっちゃうんだから」

「あなたは⋯⋯」

「代替日は受け付けないよ?今日に儀式を執り行う事は元々決まってたんだから。あなたの都合で軸を惑わすのはやめてちょうだい」

「あなたは!自分が何をしたか判っているのか!?!」


〈ほう⋯〉


───────────────

「おい、こいつァのエネルギー⋯ウプサラでもなんでもねぇなァ」

「はい、別次元の存在に該当する能力を提示しています。現在表出中のエネルギーからは、アトリビュートに酷似したシグナルも検出されました」

「なんだって!なんだって!?それはとっても凄い展開になってきたじゃん!!」

───────────────


「ノアトゥーン院長⋯」

可視化は不可能。だがウェルニの身体からは、特殊エネルギーが表出され、見る者を圧倒するオーラを放っていた。

立ち去っていたと思われていた、ナリギュとベルヴィーはウェルニのこの姿を見て、嘆息する。

「それは何?怒りのようにも感じ取れるんだけど⋯」

「あなたは⋯私達の命をなんだと思ってるんですか?」

怒りでほとばしるエネルギー。ウェルニは判っている。今自分がとんでもない出来事を起こそうとしている事を。

一歩踏み外せば、確実に自分の能力が露呈される⋯。

修道院は破壊され、シスターズは全員が死亡。ノアトゥーン院長との戦闘が始まる⋯。だがその戦闘も直ぐに決着が着くだろう。当然、私の勝ちだ。


ダメ⋯ダメだよ⋯私⋯ダメだ⋯絶対に⋯約束したんだ⋯家族と⋯ここまで頑張って来たのに⋯こんなのがトリガーになってしまうなんて⋯絶対にダメ。耐えなきゃ⋯耐えなきゃ⋯でも、この女は⋯一発⋯ぶん殴ってやりたい!!!


「院長⋯」

「あなた⋯⋯少し違うみたいね」

「院長、、、私の正体を世間に明かした瞬間、あなたの喉を引き裂きます」

「⋯⋯」「⋯⋯ウェルニ⋯」

その発言を受けて、ベルヴィーのみが目を見開きながら反応。ナリギュは無表情。だがここで二人の絡みを見たいという意思表示なのか、椅子に背もたれを掛けた。

「⋯⋯⋯ンハハハハ、ウェルニ、そんな乱暴な言葉使っていいなんか許可出したかしら?」

「大人から許可されるまで使っちゃいけない言葉なんてこの世には無い」

「ほほ〜⋯なるほどナルホド⋯⋯うん、納得した。それは納得出来るね。それでもういいかしら?その態度。いい加減にした方が身のためよ?」

「院長⋯私の正体に気づいておいて、勝てるとでも思ってるんですか?」

「勝てる?まさか、今から手を加える絡みをしようとでも?」

「はい」

「ウェルニ、それは七唇律への反逆行為よ」

「関係ありません」

「関係あるのよ。あなたはシスターズ。未来ある修道士見習いよ。それに今朝、ランクアップを進言したばっかりじゃない。そんなものを一瞬で棒に振る気?」

「もういいんです。私が間違っていました。七唇律がまさか⋯人の身体を取り除くイカれた宗教団体だとは思いもしなかったんでね」

「まぁそれは言ってなかった私が悪いのかもしれないけれど⋯院長としての責務なのよ。ルールなのよ。それに、最初っから務めが判ってるのって、つまらないと感じない?」

「つまらないとかそういう問題じゃないでしょ。人間が普通に生きていて、神に自分の部位を捧げる⋯とかそんな腐った信仰が信じられないんですよ」

「そんなの⋯今になって始まった出来事じゃないんだから、今更あなたがとやかく言及しても意味の無い時間。あなたは七唇律聖教の一員になったの。永らく続く、歴史のレールを走行する事を“自分で”決断したんじゃない。私からは何も言ってないわよ?あなたの方から来たんじゃない。それなのに、何?ここに来て⋯」

「あなたは狂ってる。こんな頭のおかしい宗教に肩入れするあなたはイカれてる⋯」

「⋯⋯⋯あなたが一番イカれてるわ」

「⋯はぁ?なんだって?」

「ウェルニ・セラヌーン。もう一回言ってあげる。何度も同じことを言わせないで。『あなたが、一番に、イカれてるわ』」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「黙る?それはなに?なんの回答?なにへの解答?返事としては適切なものとは言えないな。あなたが『なんだって』と問い掛けたから、私はそれに応えてあげただけ。なのに、あなたは私の気持ちを踏みにじるつもりなのね⋯あなたを買いかぶり過ぎたみたいだわ⋯せっかく良い神曲を披露できていたのに、あなたには良い未来が待っていたといの──」


────────────────

「「「「「うるさいんだよ」」」」」

────────────────


院長とウェルニ。二人の間にイナズマが走る。そのイナズマは一瞬で光の軌道線を発現し、その軌道線上をウェルニが神速で駆け抜けた。軌道線上に乗る事でより素早く安定した舗装された神速回路を形成出来るのだ。軌道線上を神速で駆け抜けたウェルニは、自身の喋りでもあり語りでもあったノアトゥーン院長目掛けて、右ストレートをかました。ノアトゥーン院長の元には衝撃波が発生。ウェルニは直ぐ、軌道線上に乗り、元いた場所にルートアウト。役割を終えた軌道線は消失。それに伴って、衝撃波で発生した爆煙も収まりがつく。

「ウェルニ⋯あなた⋯」

「ウェルニ、どうしてそこまでのことをするんだ。院長は私達を新たな場所に連れて行ってくれただけだ」

ナリギュにはウェルニの当該行動が理解出来ずにいる。

対するベルヴィーは⋯

「あれが⋯あなたの⋯力なのね⋯」

感嘆した様子を見せる。


「⋯⋯⋯効かないか」

ウェルニは院長の画面に触れた直後に察していた。

『これじゃあ効かないか⋯』と。

ウェルニが神速で両者間に敷かれたルート、軌道線上を駆け抜け、ノアトゥーン院長の眼前に現れた時、院長は⋯笑っていた。私のこのスピードに追いついてリアクションを取るという落ち着きも確認できた。

何か言葉を発する素振りは無かったが、取り敢えずは私の行動についてきた院長の末恐ろしさに、只者では事を悟る。ウプサラを再現出来る時点で、只者では無い事は既に立証されてはいたのだが、それは表面上の話。

私からの『只者では無い』には多重の付属価値が存在するからだ。アトリビュートを唸らせる院長の能力。

「院長⋯⋯演技はもういいんで⋯本性を顕にしてくださいよ」

「ぐふふふ⋯あなた⋯やっぱりね⋯そうなんだろうなぁとは思っていたけど、まさか本当にそうなんだろうなぁが、現実になるなんて⋯思ってもいなかったよ」

院長の雰囲気がガラッと変貌する。

実は、先程から院長の雰囲気には変革が見え始めてもいたんだ。シスターズからの献上の原因なのか⋯。


「ぐふ、、いいんじゃない?うん、その姿勢、嫌いじゃないけど、お手手を上げるのは宜しくないかな。姿勢はいいんだけどね」

「⋯⋯⋯」

「ぐふふ、私とやり合うつもりなんでしょ?だったら先に言っておかなきゃいけない事がある。私⋯アトリビュート殺した事あるよ」

「⋯!!」

「もう遅いからね」

空間内には結界が張られた。発現者はノアトゥーンでもあり、ウェルニでもある。ノアトゥーンはこの施設を守るため。

ウェルニは、ベルヴィーとナリギュを守るため。

というか、なんであの二人はまだここにいるんだよ⋯。



「来る⋯!」

見合う両者。一見するとまったくここからの行動が察知出来ない状況だが、ウェルニには把握が可能。


【未来予測演算】

対象者を指定し、その対象者の行動を読み取る血盟能力。これにより相手の行動が瞬時に一切の時間経過を置かずに、視点映像と脳内に映し出され、反映が成される。


未来予測演算は、ノアトゥーンからの攻撃が来る事を解答。更に当該スキルは、特殊性能を混じえているもの演算された行動を可視化し、“空間立体式座標”を提示する。この“空間立体式座標”は未来予測演算と隔てられた別個体の独立したスキルなのだが、ウェルニはこの両方を持ち合わせ、現在に活かした。

ノアトゥーンの攻撃筋が二つのSSCアビリティによって完全に可視化された。ノアトゥーンは接近と共に、背後から“ウプサラの天輪”を発現させ、そこから数多の人型使者を投入しようとしてきている。それに加え、暴喰の魔女・レピドゥスが追い討ちを掛けに攻めてくるのだが、数多の人型使者を薙ぎ払い、最終的に私の眼前に訪れるのはレピドゥスのみであることが判明。

ウプサラの使者は空間に飛び散り、レピドゥスの傍若無人さが窺えた。

未来予測演算はここまでを提示。

よし⋯どうやらトリックスターな攻撃を仕掛け、私を戸惑わせようとしているみたいだけど、ざんねんです院長。私の能力の方が一枚も二枚も上手なんですよ。


未来予測演算通りの展開が訪れた。

「なに?!」

「残念でした」

「ウェルニ、お前は純血か⋯?」

「ンフフンフフ⋯。いんちょー、私を本気で怒らせたら、どうなるか⋯少しだけ見せてあげますよ」

「⋯⋯ちっ、舐めたことを⋯」

あの顔⋯相当私のことを舐めていたようだな。七唇律を用いても、私の習得アビリティまでは開示するに至らなかったか。七唇律もそんなもんだな。


────────────

「あの力ァ⋯」

「予想外の出来事が本格的に始まっています」

「ダメじゃね!?ダメじゃね!?ノアトゥーン終わっちゃうんじゃない!?」

「黙れ。あの修道院の名はァ?」

「はい、アリギエーリ修道院です」

「じゃあ問題無いな。あの女ァはあの程度どうってことねぇよ。なんでやられたようなフリしてんだろうなァ。まさかあれが虚偽では無く、本物のものなら⋯」

「アイツ殺したい!アイツ殺したい!俺にやらせろ!」

「処刑対象を繰り上がりにするか、グランドベリートへの生贄に捧げるか⋯どちらかに致しましょう」

「当然だ」

────────────


「ノアトゥーン、あなたは私に勝てない。それはあなたも分かってるはず」

「まだよ天まだ⋯終わってない⋯ゴホゴホ⋯⋯くそ⋯んんんんあぁあぁァ⋯」

ボロボロじゃないか⋯。結局本気を出してしまうとこんな事になってしまう⋯。

「来ないの?」

「『来ない⋯』?フン、笑わせる⋯現状、理解出来てる?次の一発で死ぬくらいの体力の減りようだと思うんですけど」

「勝手に決めないで⋯、、、」

「勝手にじゃないから。私には外敵の現在ステータスを表示する能力を持っている。私の攻撃で大打撃を受けたノアトゥーン。今のあんたにはウプサラを発現する力も残されていない。あんた、死にたいの?」

「はぁ⋯はぁ⋯はぁ⋯はぁ⋯優しくしてくれないのね⋯」

「私があなたに優しくするとでも?」

「ウェルニ、あなたは何も判っていない。その状態で良く私を殴れたわね。七唇律が黙っていないわよ」

またこれだ⋯七唇律聖教に関係する人間に関わり、少しの作法等の失敗に繋がるような無礼を起こすと、必ずと言っていいほど『七唇律への反逆』だとかを言ってくる。

『七唇律が黙ってないぞ』もたまに聞く。

七唇律への興味・関心が一気に冷めた。姉貴を勧誘しようとしていた私は、とうの昔。

少なくとも、姉貴がここにいなくてよかった。姉貴は絶対に私を庇うし、無茶もする。

妹の私に危険が生じる場面になると、彼女は自分を犠牲にしてでも家族を守る。

だから、姉貴は弱い。

自分よりも他人を守ろうとする。良いところでもあり、悪いところでもある。天秤の弱冠の傾きは後者。

⋯⋯まぁ、取り敢えずは私のみで解決出来る問題で良かった。


同空間──。


「ベルヴィーは左腕を献上したのね」

「ナリギュは右目を献上したんだね」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「痛かった?」「痛かった?」

「私は痛くなかった」

「腕が一本無くなったのに、痛くなかったの?」

「うん⋯痛くなかった⋯というか、あんまり覚えてない。今でも⋯腕が無くなったとは思えないんだ」

「それ⋯⋯私もそうなの」

「右目?視力あんの?」

「いや⋯⋯無い⋯。実際、左目のみが視覚的に機能してる状態で、左目を瞑ると、うん⋯真っ暗。なんにも見えない」

「そうか⋯それなのに⋯無くなった感覚が無いの?」

「うん⋯」

「じゃあ⋯私と同じだ。もしかしたら⋯」

「うん⋯他のみんなもそうなのかもしれない」

「他のみんなはどこに行ったんだ?」

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯

2人は黙る。


「なんで⋯私ら、ここに残ったんだろう⋯」

「ナリギュが残ってたから、私も残った」

「じゃあ、私は、、、なんで残ったんだろう⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯ウェルニ⋯⋯」

「⋯ウェルニ⋯」

「ウェルニしか無くない?」

「そうだね⋯」


二人は黙る。


「ウェルニ⋯なんで院長に喧嘩挑んだんだろうね」

「私らに酷いことしたーって言ってるよ」

「ベルヴィーは酷いことをされたと思う?」

「今のところは思ってない。でも、左腕まで失って挑む事だったのかな⋯とは思ってる」

「うん⋯」

「ナリギュは?その右目失ってまで“対価”とかいうやつが欲しい?」

「私は欲しい。ウェルニに負けたくないから」

「ウェルニは私達を置いてくようなことしないよ?」

「分かってる⋯分かってるよ⋯ウェルニは優しい⋯。だけどね⋯⋯突然、捨てられちゃいそうな気がするんだ。今もこうして、私達を置いてけぼりの状況に陥れてる」

「陥れてる⋯か。ウェルニは今、何を思いながら、院長と戦ってるんだろう」


本空間からは、退室出来る環境にある。

でも、何故か2人には退室の訳が無かった。



「ノアトゥーン、私はまだまだ戦えるよ」

「はぁはぁ⋯⋯、、、んぐぅ⋯はぁ⋯はー⋯んふあ⋯⋯」

まだやる気なのか⋯この人。

「勝ち目はどこにあると思ってるの?」

「⋯、、、、、、」

「私は儀式をしない。なんと言われようが何も差し出さない」

「、、、、、、、、、」

目線をこちらに向けず、私の攻撃に疲弊したのか、床へ視線を落としている。終わりか⋯そう思った時だった。


⋯⋯⋯!なに!?


未来予測演算でも早計が不可能な恐るべき神速で、迫り来る影。私がノアトゥーンとの間に引いた軌道線と良く似たラインが確認出来る。しかしそれを確認した時にはもう遅かった。その影から現れるレピドゥス⋯いや⋯違う⋯レピドゥスじゃない⋯これは⋯なんだ!?

どうしてこんなに早く戦闘表示ができる!?速すぎるぞ⋯⋯自動的に応対が発動するはずのアビリティが反応出来ていない⋯。やばい⋯本当に当たっちゃう⋯

得体の知れない者からの光線が⋯⋯もう眼前に⋯⋯ゼロ距離に⋯⋯!!!!!


突如、私の眼前に現れた謎の影。ノアトゥーンが忍ばせたものなのは間違い無い⋯ちっ⋯クソ⋯まだ隠し球があったのか⋯あれを複数回食らうと⋯⋯ヤバイかもしれない⋯!!!!

こうして光線攻撃を受けた直後に倒れ込んで考え事をしていた時間に使ったのは一秒にも満たない。それに光線攻撃によって吹き飛ばされた私はその際に、『追尾攻撃撹乱光熱弾』通称・デコイフレアを放出。

しかし、それを無効化し、再び私は光線攻撃を浴びせられる事となる。2度目の光線攻撃は、嵐のようなものだった。まるでシルヴィルモービシュの聖撃のように、地上に降り注げられるもののように思えてきた。


痛い⋯⋯いってぇ⋯⋯やばい⋯これは⋯やばい⋯次の攻撃⋯次の一手を考える隙も与えてくれないのか⋯視界も見えない⋯ノアトゥーンは⋯⋯他のウプサラを召喚した⋯というのか⋯レピドゥスの他に⋯⋯⋯、、、うわぁああアアアあだぁ!!!!


次々と撃ち込まれ続ける光線攻撃の嵐。嵐の中から怒号の響かせながら、あらゆる手を模索し、打開策を練っているウェルニ。その姿を見続けるノアトゥーン院長。


「この勝負、どうやら私、院長の勝ちのようだね」

「うわぁあアアアああ!!!いだい!!!ああああああああぁぁぁ!!!!」

「ぐふふふふ⋯笑っちゃうよ⋯。ごめんごめん、なんかすっごい勝った気でいたから⋯、、、そりゃあ少しは笑っていい時間作ってよね?じゃあいい?、、、、、、、、」


空白の時間 8秒。


「あはははははははははは。あはははははははははははは。あはははははははははは。あははははははひゃはは。あひゃはははははははひゃうひひひひひひひひひひ。あひゃはははははははひゃひはははへへへへへへへ。うはははははははははははは。なひゃひゃはははははへへへへへへへへへへぇへぇへぇははははははははははは」


「ハァハァハァハァやばい⋯笑う方が疲れるんだね。私、こういう時でも学習は怠らないよ。しっかりと様々な状況に応じて、その時に摂取出来る勉学と方程式を脳に入れる。これが私のモットーだからね。ええっと⋯」

今でも光線攻撃を浴びせられるウェルニ。もう声も聞こえて来なくなった。

「ええーと、予想以上に光線が強くてちょっとビックリ⋯殺すつもりは無かったんだけど⋯君が“そういう存在”だから⋯リミッター解除の指示を『プラエトリアニ』へ出したんだけど⋯これは⋯私の責任かもしれない⋯⋯まさかシスターズを殺す修道院院長が出てきてしまうなんてね⋯、、、これは⋯私も思ってもみなかった出来事だよ。さて⋯⋯」


未だに行われる光線攻撃。

「プラエトリアニ、もういいよ」

ノアトゥーン院長がそう呼称する、レピドゥスとはまた違う異形の存在。

「院長⋯」

「ベルヴィー、ナリギュ。あなた達は知っていたのね。ウェルニが、超越者の血盟を引いている事を」

「はい⋯」

なんの躊躇いもなく、ナリギュはそう応えた。

ベルヴィーはその応対に、驚く。

「そう⋯、起こってしまった事はしょうがない。あ、2人に紹介してあげる。この子は『座天使・プラエトリアニ』。先天使・ガルガリエルの後継天使だ」

「天界の者を召喚したんですか⋯?!」

「そうよベルヴィー」

「しかも⋯座天使って⋯上位三隊を⋯?」

プラエトリアニが今やっと、光線攻撃を中断させた。ノアトゥーンの中断指示を受けてから、64秒後の出来事だった。


「ウェルニ⋯⋯⋯⋯!!!」

ベルヴィーがウェルニの凄惨な姿を目撃する。ベルヴィーに遅れてナリギュもその姿を確認した。


光線攻撃を連続的に受けた彼女は瀕死状態にあり、生命維持も危ぶまれている可能性も危惧出来た。しかし身体的な面に於いて、外見への負荷ダメージは確認出来ない。

主に外部から確認出来るのは大量の出血によって、ウェルニの身体とその周辺に血が飛び散っている状況。どこかしらの部位に欠損が発生していたり⋯といった大怪我では済まされないダメージは無かった。

だがウェルニは一切の言葉を発すること無く、そのまま倒れ込んでいる。呼吸は出来ているのだろうか⋯。そんな心配をして、私は彼女が倒れ込む場所に駆け寄る。私に数歩遅れる形でナリギュもついてきた。


「ウェルニ⋯?ウェルニ⋯?ウェルニ⋯、、、大丈夫??」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

返事は無い。多量の出血にまみれた彼女。彼女の身体を起こすと無条件でその血液が私の身体に付着する。だがそんな事はどうでもいい。今は彼女の状態を⋯⋯まず、そもそも生きているのかを、確かめなければならない⋯。


私は⋯どうして、彼女の元に駆け寄ったのか⋯よく分からないまでもある。だって、あんな事を言ったんだ⋯。覚えてる。覚えてる。自分の意思じゃない。

何かバグってたんだ。

私の思考を何者かが邪魔をする。そのノイズなるものが、思考を蝕み、私では起こさないような友情性を欠落させた言動を起こした。


左腕⋯⋯⋯⋯これ、私じゃない⋯。


私⋯、、、、左腕なんか、、、、、失いたくない。


どうして、、、、私、、、、、、


、、、、、、


、、、、、、、、、


、、、、、、、、、、、、、、、、、、、


な、なにこれ⋯⋯⋯⋯⋯⋯



ちょっと待ってよ、、、、私、、、、なにしてんの。


ウェルニの身体を抱き起こそうとすると、彼女の身体が地面に落ちる。それはそうだ。

私に左腕がないせいで、抱き起こす行為がままならなくなっている。

彼女の心配をする事で、私の欠損に気づく。

彼女が居なかったら、私は片腕を失った状況を何とも思わなくなっていたんだ。

恐ろしくなる。

自分が怖くなる。

なんで⋯こんな狂った行動を起こしたんだろう。


私、、、取り憑かれたように、言っていたな⋯。


『左腕でお願いします』


ぼんやりとだが、そう言っていた気がする。


ここでも私は自分は怖くなる。


なんで直近の出来事を覚えてないんだろう⋯と。

私、、じゃなかった?

儀式の時⋯、私は私じゃ無かった?

じゃあ、誰だった?

私はなんだった?

なにだったの?

なにになっていた?



気がつくと私はもう一度、ウェルニの身体を抱いていた。

左腕の感覚がまだある状態で。

ウェルニの左側に座し、存在する右腕のみで抱き起こす。

その様を見るだけのナリギュ。


「ナリギュ⋯ちょっと、、、右の方、起こしてくれない?」

「うん」

素っ気ない返事で対応したナリギュ。

「ウェルニ⋯」

彼女は目を閉じたまま、こちらの呼びかけに反応を示さない。

「院長、ウェルニに何を⋯なんてことを⋯」

「彼女の方から飛び込んできたのよ。そんな事、見ていたあなた達にも判っていることでしょ?」

「院長のあの攻撃で彼女の敗北は確定していたかのように思えます。追撃の手を緩めるタイミングはいくらでもありました。攻撃を続行した院長に問題があると思います」

「そんな理論的に捲し立てるのはやめなさいベルヴィー。これはそういう問題域の話では無くなった。あなた達にも重い罪が乗っかってしまったのよ」

「⋯⋯、、、、はい?」


「当然でしょう?身の回りにアトリビュートがいるなんて事実を隠蔽し続けて来たんだから」

「ち、違います⋯そ、それは⋯」

「まともな理由があるとは、その顔を見るからに思えないのだけれど」

「院長⋯ねぇ、、、違うよね?ナリギュ、私たち⋯ウェルニの事を思ってのことなんだもんね?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「ナリギュ?」

ナリギュがずっと黙ったまんまでウェルニの瀕死を見続けている。顔色も表情も変えず、一切の感情を捨て去り⋯。

「ナリギュ?⋯、、、違うよね?私達は⋯ウェルニの⋯⋯事を⋯⋯ウェルニが、、私たちを信頼してくれて隠していたことを教えてくれた。私達はウェルニを思って隠し通してきた⋯殺されるって言うから⋯」

「そうね、殺されるかは分からないけれど、もう普通の生活は送れないかもしれないわね」

「⋯⋯⋯そんな、、、院長⋯ウェルニに赦しを与えてあげてください」

「⋯⋯⋯⋯⋯それは何故?」

何故か、、、、そんなの決まってる。決まってるけど⋯こんなに大雑把な理由がまかり通るのか⋯?でもこれ以上の理由が思いつかない⋯私は拒絶される気で心中で思った理由をそのまま、何の修正も行わずに、吐き出してみる。


「私達は⋯ウェルニの事が好きだから。友だちだから。ウェルニが酷い目に遭う事を想像したくないんです」

「彼女が先に攻撃してきたのだけれど、それは友だちとしてどう考えているの?」

確かに⋯⋯⋯そうだ。最初は一方的な攻撃だった。きっと彼女も余裕でこの戦いを終わらせられる⋯と思っての先手だったのだろう。しかし、いざ相対してみると、ノアトゥーン院長の戦闘力は凄まじいものだった。

『座天使・プラエトリアニ』。先天使をガルガリエルに持つ、後継天使の能力はアトリビュートの戦闘ステータスを凌駕した。

ウェルニのミスだ。座天使なんかに勝負を挑んでしまったのが運の尽き。彼女のミス⋯そう、、、そうなんだけど⋯、、私は⋯彼女を擁護しなければなるまい。

どんな厳しい議題でも、どんなに険しい審問でも、私達が⋯彼女を守らなきゃ⋯。


ウェルニの⋯アトリビュートである苦労体験を聞いてしまったあの日から、私はウェルニに感情移入している。

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

ナリギュ⋯あなた⋯⋯今、何を思っているの?

ウェルニへ色々と思う事があるのは判るけど、今更どうしたのよ。3ヶ月前に聞いたじゃないか⋯。


価値の高い人間なんだよ⋯ウェルニ・セラヌーンは。

私達とは違う、逸脱した存在なんだよ。

それを話してくれた場をしっかり設けてくれたじゃないか。そこで理解したろ?

ナリギュ⋯なんで今になってそんな顔を見せるんだ?

今ここで、ウェルニが目覚めて、一番最初に見る人の顔がナリギュの蔑むような様相だったら、彼女は何を思う⋯。

私は想像したくもない。



「友情。そんな簡単な事で片付けられるような事では無いのだけれど」

ナリギュはウェルニの瀕死を見物。

ベルヴィーは、その2人を見て、固まる。

心が震えても、身体は震えなかった。

「院長⋯彼女の儀式⋯まだ終わっていませんよね?」

ナリギュが久々に口を開いた。

「そうね、まだ終わっていないわ」

「儀式を始めていただきたいです」

「ナリギュ⋯?」

「⋯⋯そうですね。残すはウェルニ、彼女のみです。しかし⋯ウェルニの判断なしで献上部位を指定する事は許されていません。ウェルニの言葉で献上部位を指定しないと、儀式後の効力・祝福は贈られないシステムとなっていますので」

「心配要りません。私が何とかします」

「なんとか⋯?そんな簡単に物事を進められる事象ではないのだよ。何か策があると言うの?」

「はい。先程、“対価”を受け取りました」

「ほう、ナリギュに贈られたのか。もうその能力を把握したのかい?」

「はい」

「使った事は無いだろう?本当に大丈夫なのか?」

「問題ありません。マニュアルを提示した状態であらゆる側面に対処可能です」


ナリギュにもう⋯七唇律は何を彼女にもたらした⋯というのだ?


「ナリギュ⋯?あなた⋯⋯もう七唇律から?」

「うん、いただいたよ。特に何の報告も何しに突然身体にビビッと走ったんだ。こちら側から詳しく迫ろうともせずに、能力の方から私に近づいてきたよ」

「⋯⋯そうなんだ⋯」

「ベルヴィー、あなたももう届いているのかもね。あなたが気づいてないだけで」

「⋯⋯⋯」

「左腕を提供したんだから、それはもう素晴らしいものだろうね。私、楽しみだよ」

「そう、、、だね」


「院長、見ていてください私の⋯『傀儡操舵手』の力」

「⋯⋯やってみせて」


ナリギュの元から複数の吊り糸が発生。複数の吊り糸が発現されるとその複数の吊り糸は“一本”に纏められていき、頑丈で強靭な一つの吊り糸が完成する。その吊り糸がまた、コピーペーストされ、4本の吊り糸が発現。その4本は全てが全く同じ素材出来ているように見え、色は白色、元々が細い糸だったものが纏められた事で、精密が窺える。

そんなナリギュから発現された4本が、ウェルニの四肢に接近。

接近を遂げると、その4本の吊り糸が四肢との縫合を果たす。

次の瞬間、縫合を果たした足が動きを見せる。やがてウェルニの手も行動を起こし、直立を果たそうとした。

そして⋯ウェルニの目が開く。


「ウェルニ!」

私は思わず、大きな声を出し、彼女からの反応を待つ。

「、、、、、、、、、、、」

「ウェルニ⋯??」

しかし、彼女からの返事は無い。


ウェルニの目は死んでいた。

口を開くこともせず、ただただ直立を果たしたのみ。胴体、頭部に揺らめきは一切無く、手と足のみが動く。

まさにマリオネット、操り人形のような姿だった。


「ナリギュ⋯⋯何をしているの?ウェルニは⋯今、どうなってるの?」

「ウェルニが生き返った」

「えぇ⋯⋯」

────────────

「こいつァ驚いた。中々にシャレた使い方をしやがる女だ。こいつに贈って正解だったな」

「はい、ですが宜しいのでしょうか。折角、ノアトゥーンがアトリビュートを排除しかけたのに、このままだと蘇生幇助に値し、ノアトゥーンを院長の座から下落させる必要性があると思われます」

「いや大丈夫!いや大丈夫!このまま続行だよ!続行!とってもいいマテリアルになるからさ!もうちょっとこれを見届けようよ!」

────────────


「ウェルニ⋯生き返ったの!?」

私は一目散にウェルニの元へ向かった。

「ウェルニ!ウェルニ!はぁ⋯良かった⋯本当に⋯良かった、、、?、、ウェルニ?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

ウェルニから⋯⋯まだ声を聞いていない。それにこんな⋯眼前どころか、抱擁までしたのに、こちらに全く目線を合わせに来ない。凄く冷たい対応。明らかに様子がおかしい。単純に死寸前の狭間からの解放を遂げたようでは無いみたいだ。

「ナリギュ⋯あなた⋯いったい、、、何をしたの⋯?」

「私の能力、『傀儡操舵手』を使って、彼女の脳細胞とドッキングを果たしたんだ。それによって、今、ウェルニ・セラヌーンの人体行動は私の思うがままにある」

「それって⋯なん⋯なの⋯」

「言った通りだよ。ウェルニの次の行動は私の思考によって決まる」

「感情はあるの?」

「この顔を見て、感情が備わってると思う?」

、、、、思えない。ウェルニは生きてるけど、死んでる。ウェルニの誰にも勝るあの輝きはどこにも無かった。七唇律聖教の修道士シスターズになってから、彼女に急激な人間性の変革が訪れた。

その時の光明さを忘却する事は出来ない。


「思えない⋯これは私の知るウェルニじゃない⋯。感情を戻してナリギュ」

「それは無理。私が干渉できるのは運動機能のみ。感情に関連する機能への干渉は不可能」

「そんな⋯ねぇ、ウェルニ⋯、こっちを向いて⋯?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「ウェルニ⋯⋯⋯聞こえてるよね?お願い⋯一言でいいから、何か話して」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「喋れるよ」

「じゃあ喋らせてよ!!」

少々、怒りを混じえたトーンでナリギュに迫るベルヴィー。

「不必要な場面での能力消耗は避けたいんだよ」

「何それ、、、不必要⋯?今、、この状況が不必要だって言ったの??」

「ああ、そう言ったけど⋯何か間違ったことを言って⋯ああ、そうだったそうだった⋯ごめんね。私、どうしてウェルニにアビリティを使ったのか、説明して無かった。そうだよね、説明無しで、話を進ませ過ぎだよね、ごめんごめん」

何を自分一人だけの世界に浸っているのか⋯。私は彼女の長文に一切の顔色を変えず、傍観を貫いた。

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「説明も無しで、事を進ませちゃったら、そんな無言にもなっちゃうよねー」

「私が無言になったのはそんな理由じゃない」

「え?違うの?じゃあ、、、どうしたっていうの?」

「ウェルニの身体を起こした理由が⋯⋯『修復・再生を施した』では無いとでも⋯?」

「そこだよね、正しくそこ。院長」

「なに?もう友情ごっことやらは、そこまでにしてほしいのだけれど」

妖艶なオーラを漂わせるノアトゥーン院長からは、ウプサラの存在が複数確認出来た。それぞれがレピドゥス、プラエトリアニよりも圧倒的にサイズが小さい。

「ベルヴィー、あまりジロジロ見ないでくれる?恥ずかしいじゃない⋯この子達は、『ウプサラシリーズの幼生体』。これからの子達よ」

「プラエトリアニの成長前の段階⋯ということですか⋯」

「そうね。“幼虫”から“成虫”みたいなものね。但し、舐めない方がいいわよ。ウェルニみたいな結果を生む可能性があるよ」

「⋯⋯⋯⋯」

ウプサラシリーズ。

プラエトリアニ、レピドゥスの他にもまだまだ存在するという事か。そもそも、プラエトリアニとレピドゥスは同類に相当する存在なのだろうか。

私達から献上部位を取り除いたレピドゥスは悪、ウェルニを瀕死にまで追い詰めたプラエトリアニは光に見える。更に相対的なのは、魔女を冠するレピドゥス、座天使を冠するプラエトリアニ。

この2つを大枠で囲った、『ウプサラシリーズ』。

知らなくてもいい情報では無さそうだ。

ベルヴィーとナリギュ、そしてウェルニ。

3人の友情に亀裂が生じる。

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