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[#76-レピドゥスの嬌声]

第七章、最終話。

[#76-レピドゥスの嬌声]



「院長、決まりました」

「もう決めましょうか。あんまり時間を使うと⋯ほら?今なにか見えた?“見えた”⋯じゃないわね。何かが⋯“通った”と言うのが適当かしら。原色彗星よ」

原色彗星?ここは屋内だ。原色彗星が流れようとも、この空間内を指す現象では無い。ここへの関与は有り得ない⋯はずだ。

原色彗星はその色を確認できる状態にあるシチュエーションへの人物に効果を与える。原色彗星を確認出来さえしない、こんな屋内の人間達には原色彗星が現今に流れようとも意味を成さない。これは朔式神族から伝わる七唇律聖教の律法書に記載されている戮世界の倫理観と環境を示すもの。

原色彗星を確認出来るのは外部にいる人間のみ。そしてその原色彗星の効果を得られるのはそれを観測した人間のみ。⋯⋯何をこんな当たり前の事を言っているんだ⋯。だけど、院長はそんなこと露知らずで、原色彗星について触れた。


「色は⋯“エクソダス”。黒ね。黒は…『絶望』を意味している。この状況、絶望だと思っている子はいる?」

院長がシスターズ全員を見る。結界の外にいる全員の顔を。

「あなた達二人だけじゃない⋯ウェルニ?ベルヴィー?」

「⋯⋯」「⋯⋯」

「この子は、壁を越えた程の事をした訳じゃない。普通の事をしたまでなの。それは分かっているわね?」

「はい、院長、判っていますとも」

「ナリギュは偉い。偉いよ。けど、あたりまえだ。もう一回言うよ?あたりまえだ。あなた達はシスターズランカー・マイントス。一人を除いて」

「⋯⋯⋯」

ふざけた顔でこっちを見てくる。決してブサイクなツラをしていないから余計に腹が立つ。美人が人を嘲笑している姿がこの世の人間の現行の中で、一番に嫌いだ。


「原色彗星がこの空間を彩るはずなんだけど、真っ黒に染まっているみたいね」

「院長、どうして原色彗星が見えるんですか?」

「あんまりこちらの世界に入り組まない方がいいわよウェルニ。あんたの鴉素と蛾素で太刀打ち出来る世界だと思ってるわけ?」

「何ですか?院長、急にマジになって。顔、力入ってますよ?」

「お姉さんに対して、嫌な物言いね。あなた、上がいるんでしょ?そんな事言わないでしょうよ」

「それと今、なんの関係があるんですか」

「つまらない女ね。剥奪しちゃおうかしら」

「⋯⋯」

「冗談よ。私の言ってる事だいたいが冗談だから。本気にしない事ね。本気になると、せっかくの白鯨が台無しよん。無駄な感情は白鯨に毒よ。あなた達の身体なんて正味、どうでもいいのよ。白鯨は私が授けたんだから、責任持った行動を慎む事ね」

「⋯⋯⋯」

「院長、幻夢郷と朔式神族からのギフト、どちらか⋯」

「朔式神族よ。前に言った幻夢郷はぁー⋯うそ。幻夢郷なんて関与していないわ」


──────────

「あの女ァ何嘘ついてんだァ??」

「可能性としては“冗談”という道化を働かせたのかと」

「乗ってる乗ってる!この女!調子に乗ってる!ちょっとちゃんとしっかりと殺さなきゃいけない人かもしれない!!」

「おい、もう済ませろと伝えろ。おメェら言葉交しに付き合ってるヒマなんてねぇわ」

「御意」

──────────


「⋯⋯承知致しました。時間だ、選択しろ。私に差し出すパーツの名称を言いなさい」

「⋯⋯」

「どうした?」

「⋯⋯⋯」

「まさか今になってビビってるとでも言うのか?それはそれは、とっても中々に厳しい物言いなのだが⋯」

「⋯」

私達の方を向いたナリギュ。大丈夫だ。ナリギュは正気になっている。なりつつある。もしかしたら、、、そうだ、そうに違いない。私はベルヴィーに小声で伝えるべき思考の到達を話す。

「あの様子…今までとは違う雰囲気がある」

「そう?……私には…分からないけど…でも、うん…そうなのかも…ウェルニが言うなら…私は信じる」

「ありがとう。だけどごめん、ナリギュは恐らく今から…部位欠損に至る例の儀式に挑む。この意識ベクトルは拭い切れなかったようだ」

「その言い方だと、ナリギュは誰かに操られてるってこと?」

「そう思いたいから、こうやって言っただけ」

「そう…そうね。うん、彼女の意思じゃない事を祈りましょう。そうだったら、私達にまだ、彼女を救済する余地があるからね」

「うん……」


だがその後、ナリギュは迷うこと無く、献上する部位を院長に伝え、儀式が執り行われた。

「良いのだな?それで」

「はい、お願いします」

「そこは……うん、中々に良いチョイスと言えよう。しかし、ここから先の私生活には…ふん…すまない。そういうのは“野暮”って言うよね。失敬…。さて、では頂くとしようか…『左目の眼球』」


「ナリギュ!ダメだって!!」

「お願い!!院長!!ナリギュは今!危険な状態です!見てください!彼女の顔色を!!」

「ヤーヤーヤーうるさいな」

私とベルヴィーは、結界を叩きつける。叩いて叩いてとにかく叩き続けた。その際に私とベルヴィーの力差が歴然と見て取れてしまった。2人の圧倒的な叩きの力差に院長は微笑んでいた…。

────monologue────┤

「やはりか……私の能算に狂いは無かった。お前、アトリビュートだな」

──────────────┤

「ジャールヴィ、レスクヴァ、二人を止めなさい」

院長の掛け声と共に、空間内から鴉素と蛾素で生成された、“ジャールヴィ”と“レスクヴァ”がウェルニとベルヴィーを襲撃。


「何…!!これ!!」

「鴉素のジャールヴィ、蛾素のレスクヴァ。鴉の素体エネルギーと蛾の素体エネルギーで造られた《司教兵器》。七唇律聖教を司る中で中央、セントラルポジションを不動の地位としている鴉と蛾をモチーフに朔式神族の血も統合して造られた、言わば“神の模造品”。さぁて、二人の守護白鯨にこれが止められるかな?」

「ちょっと!!ベルヴィーには何もするな!」

「へぇ〜、自分には何をやってもいいって言うこと??それってぇ、ウェルニがベルヴィーと“違う存在”だからってこと?」

「…!?」

「自分だったらこの攻撃に逆らえるからってこと?それ………どーいう意味?しっかり教えてほしいなぁ、いつか」

この人…バレてる…?さすがにあの叩きはやりすぎてしまったか…?結界にヒビでも入ってたのかな…。それともあの結界が受けた衝撃が、発現元である身体に痛覚を与える…?もう、、、考えてばっかだ!考えてばっかだし、ずっと答えを導き出せないままだ!こんなの全然楽しくない!いっそうのこと、解放しちまえばいいんだ。そうだ…そうだよね…血盟の力使えば、こんなの余裕だもん…。


「止めて!院長!!もうやめてください!!」

「ベルヴィー!!」

ベルヴィーが攻撃を受けてる。ナリギュの間違った意志を正当な方向に戻したいだけなのに…。クソ……私…こんなのに余裕で勝てる…。今はベルヴィーの白鯨が守護してくれてる。だけど…コイツら…飛行形態になったり通常形態である地上歩行を成したり、二つの形態をインターバル無しで速度感覚で移行させている。

これは…ダメだ!私達の白鯨でも太刀打ち出来ない!まだ攻撃的な側面が成長していないんだ。白鯨は最初のうち、召喚したシスターズを“守護する天使”としての役割を担う。白鯨から攻撃を仕掛けれる行動パターンは備わっていないし、反抗もしない。成長を遂げる事で、多次元空間の監視者のようにビッグサイズへ進化。並行して全体的な能力も向上する。

私達の白鯨は小さい姿。全長2m程度の大きさ…。対する司教兵器は高さ4mを誇っていた。それが二体だ。数的不利な状況では無いものの、こちらから仕掛ける事は一切無いし、主である人間の指示を聞くことも無い。


司教兵器には院長の根源が宿っていた。遺伝子能力を使用し、司教兵器と院長に繋がる“何か”を感じた。あれは…なんだ?……薄い色で二体と院長が繋がっているんだ…。院長の元を辿っていくと、その繋がりの先は……ヘソ?……臍か。…っていうことは…“臍帯で二体は繋がっている?”。ノアトゥーン院長は通常の肉眼では視認出来ないような、“オーラ状の臍帯”で戦闘行動の指揮をとっているんだ。そんなこと……いや、可能なんだろうな。

七唇律と朔式神族の系譜を受け継ぐ者には、それが可能なんだ。人知を超えた理解不能な非科学的現象。

こんなのまるで、私の祖先じゃないか…。


ジャールヴィは鴉特有の飛行とスナイプ的な一部分を集中攻撃するパターンを散見。レスクヴァは…蛾といっても…蚕か。カイコガ特有の繭を生成する際に解き放つ糸を吐き出す事で、私達の白鯨の動きを停止させる状態異常を狙い定めたパターンが散見された。その時、白鯨の主である私達はというと、白鯨と一体化している。だが、先程も記述した通り、主の言う事を聞いて戦闘行動に移せる成長度合いでは無いため、単純に身を守るシェルターとして使用している。

「お願い…白鯨…力を貸して…アイツらを倒して…このままじゃ…ナリギュが本当に目玉を献上しちゃう…」

「ベルヴィー、落ち着いて…」

「落ち着いてなんかいられないよ!!!お願い…白鯨…私達に力を貸してよ…白鯨だったらあんな鴉とカイコガなんて余裕にぶっ倒せるでしょ?」

「************」

白鯨が叫ぶ。これはベルヴィーの想いに呼応した咆哮なのか…それは定かじゃない。何せ、私とベルヴィーに白鯨の《ウプサラ語》は判らない。

「なんて言ってるの?ねぇ、、なんて…きゃあああ!!」

ベルヴィーの白鯨に、ジャールヴィの尖鋭としたクチバシが突き刺さる。白鯨からは出血が確認され、大きなダメージを負ってしまう。

「ベルヴィー!だいじょ…アアぁあ!!!」

完全に気を取られてしまった。存在を忘れていた私への報復とも取れる、レスクヴァの糸吐きが私の白鯨から自由を奪う。

「クソ…動かない…やられた……ベルヴィー!ベルヴィー!大丈夫??」

「んふはぁ…んふんふふぅふぅふぅふぅふぅはぁん…はぁんんふぅんふぅん…」

「え、、、、なに…してるの…ベルヴィー…」

ベルヴィーから喘ぎ声に連なる、快感を覚えた時に出る音が聞こえてきた。

「気持ちい……いいの…なに…これ……んふぅんふぁはんんふんふぅんふぅふぅんふはぁ…」

「何をした…何をしたんだ!ノアトゥーン院長!!」

「知らないわ。司教兵器に聞いてごらんなさい」

「………………」「……………」

「この子達に喋る機能なんて無いわよ。気に入られたみたいね、ベルヴィー。司教兵器がフェティシズムの対象として捕捉したの。ベルヴィーをね。女性が最も輝く瞬間は、快楽に溺れている時よ。司教兵器は彼女に好意を抱き、犯したくなっちゃったのね」

「なんだよ…それ……七唇律ってなんなんだよ!」

「そんな根幹な部分、ウェルニに教えてあげるわけないわ。それにこれは、七唇律じゃない。朔式神族の文明によるもの」

「どっちにしろイカレてる…」

「でも、ほら。彼女の姿。今まで一番輝いてるように見えない?」

ベルヴィーの白鯨が弱まる。弱体化を遂げた白鯨から、ベルヴィー本体が、空気の粒子によって可視化され、白鯨とデータリンク状態にあるベルヴィーが姿かたちとなって再現された。その様は異様。

ただただ快楽に溺れ、情欲に浸っている“女”の姿。

足を拗らせ、つま先を伸ばしたり引いたり、股を広げ、何者かをソコに誘っている。今まで見た事ない、ベルヴィーの妖気な姿がそこにはあった。

「彼女は今、司教兵器の思念体と擬似的な性行為に及んでいる」

「は……?」

「鴉素と蛾素によって生成されたそれぞれの思念体が、彼女の肉体に入り込み、性感帯への着床を開始。彼女が毎日のように“攻めているオキニ”の箇所を重点的に犯しているのよ」

「は、、、意味わかんない…」

「怒らないで。別に死ぬ訳じゃ無いのよ?思念体も彼女に楽しんで欲しくてやってる訳だし…、、ほら、当の本人のリアクション見てみなよ!」

「……!」

イってる。今までの喘ぎとは比較にならない程の快楽の頂点に達した事をサインする声のボリューム。オーガズムだ。彼女の…こんな弱った姿を見る事になるなんて…彼女に、こちら側の反応を確認出来ていないようだ。確認どころか、彼女にはそんな素振り一切見せて来ない。彼女の意識は思念体とかいう物質に向けられているからだ。現実を逃避し、具現化されていない異形の存在との性行為を楽しんでいる。彼女の喘ぎ声が私の身体を妙な違和感で包み込む。私も…アレに憧れている…?そんな…そんな訳ない……てか、こんな状況で見物客もいて…良くもまぁそんな……“吐息混じり”の名目じゃ許されないような、本格的に女が男へ、弱った時に出す声域を出せるな…と思う。

彼女に引いているんだ。

当たり前だよ。こんな……みんなが見ている中で、どうして快楽に浸れるのよ。

「ダメ……はぁはぁはぁはぁ…だぁめ…はぁはぁんんあぁんんはぁんふぁんははぁあぁんはぁいくい…い…はんふぅん…」

「ベルヴィー!…ぐ!」

私を襲う、二度目の糸吐き。白鯨からの離別も不可能になった。白鯨を主観に友だちの喘ぐ姿を見届け、もう一方の友だちは自身の眼球を差し出そうとしている。

終わった。終わってしまった。何だ、この地獄は…。

強欲への塗れと情欲への爛れ。



「いいじゃない。あなた達、とても女の子になってるわよ。特にベルヴィーね」

未だに快楽に浸るベルヴィー。この時にも、何回目か判らないオーガズムを確認した。確認したくないのに、聴覚が研ぎ澄ますように、耳をそばだてる。身体が反応しているんだ。私は…ベルヴィーの喘ぎ声で欲求が満たされている…とでも?嫌だ…そんなこと…信じたくない。

「どう?友達でしょ?二人とも。一人は司教兵器に犯され淫乱な姿を曝け出している。生々しいリアクションしちゃってー。あのままだと思念体も本気になって、貪り尽くしちゃうわよ。あまりにもな彼女の受け入れ態勢に、院長である私も引いてるわ。まぁ情欲の剥き出しはリアリティがあって好きだけどね。もう一方は、あなたへの嫉妬心で受肉を削ぎ落そうとしている。でもこれは儀式内の話。特に目立たせる話題では無いわね」


「……」

返す言葉なんて無かった。その余力すらも私には残されていない。絶望した。

──────────

「あの女ァ、すげぇナカミしてんな」

「はい、可能性を捨てきれずどうしたらこの危機的状態を脱せるかのみを模索するに当たっていましたが、今ではあの通り。戦意を損失した抜け殻のような状態にあります」

「くだらなくだらな。あーあーくだらなーい。鶏鳴教会の連中に言って、あの女の子の肉も削ぎ落として来てよ!」

「いや待て。あの女がァ自分の口から言うまではこっちから動くことはしねぇ。自らが動かねぇ肉にはなんの味も付いてねぇからな。そんな肉をくれたところで俺らの欲は満たされねぇ」

「同じく、私も、自らが自己主張を広げた肉を頂きたい所存であります」

「お肉食べたいお肉食べたい!!それが叶えばなんでもいい!なんでもいい!!」

──────────


私とベルヴィーは院長の司教兵器に蹂躙する運びとなった。抵抗する者が居なくなり、これにて儀式の執行が始まる。


「永らくお待たせをしました。では、これより…ヒュリルディスペンサーを執り行います。シスターズNo.748、ナリギュ・ペスタポーン。あなたは何を献上品として七唇律聖教に差し出しますのですか?」

「はい、私は右の目玉を差し上げます」

「ナリギュ、よく言いました。初めてにしては上出来な提案です。これにはきっと、七唇律聖教も大喜びであります」

「……な、、り、、、、、ぎゅ……」

私はもう見届けるだけ。道から外れた彼女を正気に戻すには、まず自分を取り戻すことからだ。しかし、それが儚く散っていく。ダメだ……もう、、、諦めよう…彼女は彼女の人生を歩むんだ。それに、眼球が一つ無くなったからといって、私達の友情が破滅する訳じゃない…。

そうだよね?ナリギュ…、、、目玉を差し出した後、私と普通にいてくれるよね?私は大丈夫だよ?何故、あなたがここまで私に嫉妬しているのか判らない。私がアトリビュートである事に憧れを抱いていたの?

彼女は、何になりたいの?


「ナリギュ、私の目の前に来なさい」

「はい」

「もっとです。もっと…もっと…もっと…そう…。ここ」

ノアトゥーン院長の方から『来なさい』と言ったのに、何故か数歩離れる院長。

「やはり、この距離感がいいみたいですね。では…」

ノアトゥーン院長から力が発生。それは今までの受講カリキュラムで披露した事の無い、極点に達するパワーだ。収束と解放を繰り返し、徐々にそのパワーが可視化されていく。アトリビュートの視点では院長の極点は目に見えていた。逡巡したパワーが拡大し、通常人類にも可視化が可能となったのだ。私とベルヴィーを犯していた、司教兵器・ジャールヴィとレスクヴァが、ノアトゥーン院長の力に呼応する。鳴き声を発している訳じゃない。そう感じるんだ。

先ず、視線を院長に向けて、見惚れるような眼差しを向ける。人型の造形を模様していた司教兵器は、分かりやすく院長への好意を主張。すると司教兵器から、鴉素と蛾素が院長に集約される。鴉素と蛾素の原料によって、原型を留められなくなった司教兵器はその場で朽ちてしまう。ようやく“欲求の彼方”から解放されたウェルニとベルヴィー。

「…最低……あの女……」

どうやらベルヴィーは意識を失ってはいなかったようだ。司教兵器の目交いを受け入れているように、見えていたのだが、それは単なるその時だけの事。情欲に溺れていたのはただのパフォーマンス。彼女なりに、事をどう良いように運べばいいのか、“欲求が満たされながら”考えていたのだ。

「ベルヴィー……」

私も当然、司教兵器から解放された。ベルヴィーと目が合う。しかし、友だちのエクスタシーを間近で見させられたのだ。気まづくならないはずが無い。

「ウェルニ……見すぎ…だから、、、」

「…ごめんなさい」



「お二人はそこでしかと見届けなさい。お友達の勇姿を」

司教兵器からのエネルギー源を集約し、言わば巣へと回帰した鴉素と蛾素。両者が母体を認識し、彼女の認知行動に反応を示す。反応を示した二つのエネルギーは、多種多様な品々に変貌を遂げながら、ノアトゥーン院長の周囲に纏わる。

ダガーナイフ、ギャラルホルン、ランス、カイトシールド、クロスボウ、トレビュシェット、破城槌、十手、磔刑に使用する杭…。これらは全て、朔式神族が戮世界に持ち込んだ兵器だ。その際に朔式神族へ魔力を与えたのが、鴉素と蛾素。この両者の素体エネルギーにも“持ち主”が存在する。だが朔式神族にその姿を見せることはなかった。

そんな朔式神族と深い関係性のある兵器群に姿を変え、院長に力を与える鴉素と蛾素。これはもう先程、ウェルニとベルヴィーを犯した時の司教兵器の面影は一切無い。まったくの別物として認識した方が思考の都合が良い。

“私達を襲撃した時”と、“院長への魔力収束”。関連性がまったく見えないからだ。あんなに人型を維持していたのに今では、こうもトランスフォームを連続的に行う。まるで私達、シスターズにパフォーマンスでも行っているようだった。


姿かたちを変えながら、徐々にその姿が統一化されていく。一つ、また一つと姿が一定のあるモノに揃えられた。

「ねぇ、、ウェルニ…あの群体…どんどん同じ形になっていってない?」

「…うん、、少しずつ… ゆっくりと…同じ形だ…アレって…」

「これは、暴喰の魔女。私のは“レピドゥス”という子よ」

「レピドゥス…」

「私ら七唇律聖教の上位信教者には、《暴喰の魔女》の称号が与えられる。暴喰の魔女に順位は無い。皆、それぞれが思い思いの暴喰へと成長させる事が出来る。使い道はそこまで無いわ。七唇律聖教の軍事兵器との解釈も可能だけど、私には戦争を起こすも、参加するの意思は無い。使用どきは今、ヒュリルディスペンサーよ。この子は全てを喰らう。肉は勿論、心も、感情も、さがも、意識も。レピドゥスは特に食欲旺盛なの。お腹ぺったんぺったんで、『お腹空いたあお腹空いたあ』って私の中で、ずっと喚いてた…。ごめんね、レピドゥス」

「鴉素と蛾素から構成されたようですね」

「ええ、そうよ。朔式神族からの受け売りだから。コピーライトはアッチ」

『アッチ』と言い、院長は天蓋を指した。その天蓋には彫刻画が描かれており、そこには律歴3999年以前の出来事を描写した“消された伝説”があった。

「“ユグドラシルの為政者”なんて、よく言ったもんだけど、結局は誰にも見つけられなかった。この世界を書き換える唯一の方法であり、最後の希望だったのに。ねぇ…司教座都市のみなみなさん?」

──────────

「俺らかァ?」

「はい、私達に言っています。黙らせますか?」

「なんか少し!なんか少し!ムカついた!」

──────────


【シスターズランカー・マイントス、No.748、ナリギュ。献上部位を脳内にてイメージしてください】


空間内に流れる神々しいボイス。最終決定の時が迫る合図だ。


【捕捉完了。イマジナリーポイントをインナースペースへ送信します。暴喰の魔女・レピドゥスは執行プロトコルを『肉体』に移行させ、儀式を再開させてください】


「了解でーす」

ノアトゥーン院長を取り巻く、暴喰の魔女・レピドゥス。小人精霊のような姿をしてはいるものの、そこから漏れ出る悪性物質はとてつもない覇気を纏っていた。これはアトリビュートでは無くとも、通常人類以上の生命体が視認できた。

「レピドゥス、さぁ…ひとつになりなさい」

ノアトゥーン院長に呼応、レピドゥスが院長の周囲を飛んでいた行動パターンから、一つずつ停止行動に入る。一つのレピドゥスが停止すると前が詰まり、後方に位置するレピドゥスが停止状態になる。だがそれが儀式再開の合図となった。

院長の周囲を円状に描くよう飛行を続けていたレピドゥスは、一つの行動停止によって、その停止情報と化したレピドゥスに重複される。停止状態に集う、後方を飛んでいたレピドゥス達。やがて停止状態にあったレピドゥスは肥大化、大きさは10mを超え、今までの異形な存在…司教兵器を凌駕する巨人が完成した。その姿は多次元空間の監視者に成り果てた“四騎士”にそっくりな見た目だった。

「白鯨……」

「アレだ……“マルチバースフィールド”の裁定者に似ている……」

「マルチバースフィールド…そうね。だけどウェルニ、あまりその名を軽はずみに使わないことね。これは講師としての忠告であり、テオドシウスからの警告よ」


白鯨…。その名前を冠するには、それなりの説明が伴うものだ。この白い物体は“初潮の巨人”と言われている多次元空間の監視者だ。

「完成よ…これがレピドゥスの本当の姿。私の七唇律魔術に補われた鴉素と蛾素…。さぁ、頂くとしましょうか」

「はい」

「待たせてしまってごめんなさい。あなたの覚悟は十分に伝わっています。上の方もお喜びになっているはずよ。では……気を入れ直して…」

院長とレピドゥスが臍帯で繋がっている。あの臍帯と母体の繋がりを断絶出来さえすれば、まだ勝機はある。だけど…これが…本当に望まれる結末なのか。私達の傲慢なのかもしれない…そう思えてきたのだ。なぜなら、私達と司教兵器の争いに、ナリギュは一切の興味を示していなかったから。

『こんなことどうでもいい』

『何故、構う?』

『私は?』

『私の番じゃないの?』

『散れ』

『またあの女』

『あーまただ』

『どうして、この時なの?』

『今は私のはず』

『急にいなくなる』

『みんなが私の方を見る番』

『裂けろ』

『今まで一緒だったのに』

『都合のいい女』

『なのにどうして』

『黙ってればいい女』

『どうしてよ』

『ヤリ捨て』

『どうしてなのよ』

『引き裂けろ』

『あの子は嫌い』

『嫌だ』

『寄ってきやがって』

『全然おもしろくない』

『好きじゃない』

『無表情』

『好きになれない』

『好きになろうとしない』

『置いていかれる』

『好きってなんだろう』

『大事にされたい』

『自由意志』

『みんなが離れる』

『滴る煌液』

『考えるのも時間のむだ』

『灰になれ』

『そんなに良い子かな』

『裏の顔』

『その子の悪口を言う』

『仲良くなった後に悪口を言う』

『裏切りの味』

『理想の女』

『無意味な愉悦』

『知りたくない真実』

『思い込みの激しい理想』

『赤黒い空間』

『鉄の味がした』

『しにたい場合』

『それは理由を作る必要が有るか否か』

『私が光を当てられる番よ』



血盟の遺伝子能力を使い、彼女が形成する“幻夢郷”を覗いた。すると彼女からは計り知れない程の、承認欲求の言葉数が墓標を取り囲む形で祀られていた。彼女の思いから察するに、“承認欲求の墓標”はこれからの彼女の未来までを想像した里程標だ。

これまでに“思った言葉”と、これから“思うとされる言葉”。

私は、彼女の深淵に眠る偶像に畏怖し、当該行動を中断した。

──────monologue────

「あなたが一番えっちなことしてるじゃない…んふ、可愛い子」

───────────────


「レピドゥス、肉の刻よ」

レピドゥスがナリギュに取り憑く。物質的な面が確認されていたレピドゥスはナリギュの身体を一気に飲み込む。レピドゥスの身体はナリギュを取り込むと同時に半透明化。

鴉素と蛾素で生成された魔女は、そのエネルギー源の名称通り、鴉と蛾…主にレピドゥスはカイコガを中心に、それぞれの特性が魔力統括される事で、暴喰のプロセスを発動。

司教兵器で見られた尖鋭なクチバシ、カイコガ特有の糸吐きをベースにあらゆる面で力がアップグレード。とは言っても、この儀式に必要性のある能力では無い。ヒュリルディスペンサーに求められる暴喰の魔女の力は、献上品を喰らう事。それのみ。


レピドゥスはナリギュの指定した献上部位『右の眼球』を狙う。ナリギュ全身に喰らいついたレピドゥス。レピドゥスの魔力掌握によって、ナリギュの身体はこの世から消失。ナリギュの身体は、レピドゥスの運命と匙加減に委ねられる。


レピドゥスの空間。そこは何物にも代えがたい儀式の依代を鑑定する場所。絶無な空間。そこに直立するナリギュ。今のナリギュはただのレピドゥスの言いなり。

『ここに座れ』と言われたらそうしてしまうぐらい、暴喰の魔女に心酔している。

彼女も望んでいる。早く私の運命を変えたいから。このままだと何も始まらない。そして終わりの予測できる展開が待っている。そんな人生は嫌だ⋯だったら、突拍子の無い事を起こして、未来を変えてやる。自分の判断に誤りは無い。この⋯暴喰の魔女・レピドゥスが定めを変えてくれる。


「お願いします、私の眼球を食べてください」


【これはシンギュラリティポイントに相当する時空結節の事案です。直ちに特異点兆候発生に該当する行動を停止させなければ、シェアワールド現象の発生⋯原世界からの戦争余波がテクフルを襲う可能性があります】

──────────

「アァん?なんだと?」

「はい、その言葉通りです」

「やめちゃうの!?やめちゃうの!?ヤダヤダ!イマ、すっごいいいところなのに!」

「そうだ、止めるなァ。その処理は形而枢機卿に任せる」

「御意」

──────────


【マルチバースフィールド。現状維持。オリジナルユベルが原世界と戮世界の同期に発動した“マグネットパルヴァータ”と酷似した物質量が感知されています】


「朔式神族、七唇律の名のもとに、受肉が安置されました。私はこれを喰らい、あなた様に全ての処分を委ねます。彼女は相当な対価を所望しています。味方をするつもりではありませんが、可能であればそれ相応の対価を支払って頂きたいです。これは、正鵠の魔女としての希望と受け取って頂いて構いません」



現実世界から姿を消したナリギュとレピドゥス。

目を瞑ったままのノアトゥーン院長。


「⋯⋯何が⋯起きてるんだ⋯⋯」

「ウェルニ、あなたの力でこの結界、破れないの?」

「それが出来たら、とっくにやってるさ」

「違うでしょ?“やれなかった”んじゃなくて、“やんなかった”でしょ?」

「え?」

「あなたは自分の力を隠したいから、やろうとしなかっただけ」

「ベルヴィー⋯、私だって力を使いたかった⋯。使ったんだ⋯使ったんだよ⋯遺伝子能力を。でも、ダメだった⋯」

「それ、、、最初っから使ってれば⋯もしかしたら結界破れた可能性ってないの?」

「⋯⋯⋯」

「その様子だと、有るみたいね⋯。はぁ⋯⋯段々と結界は強くなっていってたってわけ?」

「そう、、、だね⋯⋯」

「何してんの⋯?」

「ごめん⋯」

「ねぇ、、、あなたのその力、あの時使わなくて、いつ使えるのよ⋯友だちがあんな事になってて、私は“強姦”されて、あなたは何もせず、私の快楽を見届けてただけ?なんなの?あんたって」

「なに⋯⋯、、なんなの?⋯何その言い方⋯私が⋯⋯何もせずに突っ立ってて、あなたの喘ぎを見て楽しんでたって言いたいの?」

「よく理解出来てるじゃない。そうよね、あなたは血盟の血が流れてるものね。私達とは違う存在なんだもの」

「やめて⋯ねぇ、、どうしたの?ねぇ、、やめて⋯ただでさえ、芳しくない状況なのに、異物な感情を持ち込まないで。今はナリギュの心配を⋯」

「心配って⋯ナリギュは今、レピドゥスに取り込まれて、新生命の誕生を今か今かと待っているのよ!」

「新生命の誕生?そんな大々的に掲げるようなものじゃない!自分の肉体を捧げて、何が新生命の誕生だ。笑わせるな」

「あなたには分からないのよ。ナリギュは苦しんでたのよ。キツかったのよ。あなたにいつも大差で負ける日々がね」

「ベルヴィーは気づいていたの?」

「⋯⋯⋯いいえ」

「じゃあ私と同じ立場ってことね。そんな人間こそ、中立に、対等な者でいる必要があるんじゃないの?」

「私はナリギュに気付かされたのよ。ナリギュの心を感じた。これが七唇律聖教に入って良かった⋯と思える事ね」

「ダメだよ⋯だめ、、狂わされてる⋯あの女に狂わされてるって⋯」

「それはあなたでしょ?」

「違う」

「違わない。あ、そうだ。ウェルニの献上品を提案してあげるよ!」

「いい加減にして」

「ウェルニはねぇ、、、『記憶』を献上したら??」


沙原吏凜です。

第七章、今まで以上に早く終わりました。12万文字を7日で書けました。けっこう頑張りました。頑張ったと共に、スラスラと書けたので全くの休息ナシ。事前プロットとは違う展開を持ち込めたので脳みそを舐め回したいです。

なかなかにキワドイ感じも含んでみました。七唇律の幅を効かせたストーリーです。


暑いですね。もうそろエアコンの効いた空間で優雅にシナリオを書ける季節ですね。良いですねえ。最高ですねえ。

まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだリルイン・オブ・レゾンデートルは終わりません。あ、あのーあと、、、【タイトル】って⋯どうしようかな⋯【転生】とかつけた方がいいんすかね?本当にビュー数増えないんですよ。色んな人に読んでほしいのに、、、


まぁでもシナリオは進みます。ぜんっぜん浮かんでくるので。

では、第八章です。

フラウドレス編⋯です。一応この物語はフラウドレス編に該当します。

よろしくお願いします。


沙原吏凜・1A13Dec7

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