[#75-肉は魔女へ、対価は朔神から]
どうしろというのか。
[#75-肉は魔女へ、対価は朔神から]
午後13時──。
お昼を食べ終えた私達は院長が組んだスケジュールに従い、“戒律の間”へとやってきた。先程、私はマイントスからケラールルにランクアップした。私はここでマイントスのみんなと違う受講カリキュラムになるのかな⋯と思っていたが、そういう訳では無かった。事前⋯というか、いつも通りの受講内容で午前は終わった。急遽のランクアップだから⋯なのか、ただ単に“ケラールル”のランクに相当する受講カリキュラムが、マイントスと同じ⋯って言うこと?
いやいや、そんな訳は無い。ハッキリと聞いたぞ。この耳でしっかりと⋯そば立てなくても100%の確率で院長こう言っていた。
『あなた達も頑張るのね』と。
こんなの私が一歩所では無い、2歩3歩それ以上もの大差をつけている⋯とみて間違いないだろう。
もちろん、判っているとも。こんな結果に浮かれるようなガキじみた思考は私の脳内には無い。残念ながらこれで、安息してマイントスのみんなを待ちながらダラダラと七唇律聖教を狂信するほど、私はバカじゃないんでな。ベルヴィーとナリギュには悪いが、お先にどんどんと進ませてもらおう。
⋯と思ったのだが、昼ご飯の後にもマイントスの面々と同じ受講カリキュラム。はぁ⋯ランクアップ制度ってなんなのさ⋯。急遽の対応が出来ないようじゃ、あんな朝っぱらから言わないでほしいなぁ⋯。
【ウェルニ・セラヌーンがランクアップの報告をノアトゥーン院長から受けたのは午前10時31分です。当該時刻を『朝っぱら』って解釈する人間が『バカじゃない』に該当するかは⋯⋯皆様の人生経験によって可決されます】
「では、これより午後の授業を始める。午前の部ではいつも通り、説法のやり方、発生コントロールの確認、瞑想、白鯨との向き合い方、ドリームウォーカーについての智慧と知識を身につけてもらった。本来なら午後にも同様尺度で異なった受講内容を⋯と参りたい所なのだが、今日は何の日だか判っているな?」
全員が頷く。
「そうだろうな。今日が何の日だか、判らない人間はこの大陸民⋯いや、戮世界の住人では無い。本日12月1日は朔式神族が戮世界に降誕した日だ。そこで午後の部は、予定されていた授業を全キャンセル。この日だからこそ行える特別授業を受講してもらう」
何となく⋯そうなんじゃないかな⋯と思っていた。今日この日を何もせずにいつもの時間が流れるとは思えなかった。けど、午後の部全時間帯を使ってやるのかな⋯。もし、そうなら⋯⋯っげ、、5時間以上やるつもりの?!まさかな⋯2時間⋯うん、、、さすがにそこで区切って、いつも通りの受講に戻るんだろう。だけど、特別授業終了の時刻って、毎回夜なんだよな⋯。、、、、、嘘でしょ⋯?
「院長」
「なんだ?アルディス」
「今夜は家族と一緒に朔式降誕日を祝うって決まってたんですけど、夜には間に合いますよね?」
「安心しろ。家庭の事情を優先してもらって構わない。ただし、その余裕があれば⋯だけどね」
院長の言葉に全員が慄く。それはウェルニの同様だ。
「一応聞くが、今夜家庭内で朔式神族降誕を祝うのはどのくらいいる?」
院長は一人ずつ聞いていく。
「シスターズNo.742、パレサイアは?」
「家族で祝うつもりです」
「シスターズNo.743、ネラッドは?」
「家族です」
「シスターズNo.744、ギィシャスは?」
「家族です」
「シスターズNo.745、マディルスは?」
「僕は特に予定組んでません」
「シスターズNo.746、フレギンは?」
「特に無いです」
「シスターズNo.747、ベルヴィーは?」
「私はお父さんとお母さんとの約束があるので」
「その約束というのは祝しの刻か?」
「あまり詳しくは聞いていません。もしかしたらそうなのかもしれません」
「シスターズNo.748、ナリギュは?」
「家族と一緒の予定でした」
「⋯⋯シスターズNo.749、ウェルニは?」
「姉と一緒に祝おうと思ったのですが、断られてしまったので、特に予定はありません」
「あなた達の夜の事情は把握した。各々予定がある者とそうでない者。若しくは予定があったのに無くなった者、相手に自分の提案が通らなかった者。8人も居れば、それぞれの定めがある。降誕を祝えないのはしょうがないことよ。しかし、七唇律聖教の御前では皆が平等性を保つ事を約束されている。よって、今回は降誕を祝えない者に主軸を置くとしよう」
「え、、嘘⋯⋯⋯家族との事情を優先してくれるんじゃ⋯?」
「ネラッド、申し訳ありません。皆さんの今後を先に聞いておくべきでした。ですがこれは私の失念にも値するものです」
「失念⋯?どういう意味ですか?」
「あなた達、特に家庭内で降誕を祝う人がいるとは、思ってもいなかった誤算なのです」
ノアトゥーン院長は何を言っているんだ⋯?というような視線が“今夜、家族と共に過ごす”子供たちを中心に向けられる。ウェルニ等の予定が無い子供達も一定の不快さを交えた視線が向けられている。
「良くもまぁ、アリギエーリ修道院⋯七唇律聖教の関係者だというにも関わらず、家族と?一緒に?一夜を過ごす?とんだ戯言を言ってくれるでは無いか。パレサイア、ネラッド、ギィシャス、ベルヴィー、ナリギュ。貴様ら5人」
ノアトゥーン院長は家族と一緒に一夜を過ごそうとしている5人を隔絶。外部とのネットワークを完全シャットアウトさせた一つの空間を5人それぞれに生成。その空間は5人全員の体格に合わせた形を成しており、個体差もある。円状の空間は透明膜。外側から5人それぞれの様子は確認可能。5人は常軌を逸した状況に理解が追いつかなくなる。
「院長!何を!しているんですか!!」
ベルヴィーが口を開いた。驚きをエネルギーに変え、現状への疑問を強く投げ掛ける。
「黙りなさい。修道院に通教しているシスターズとして有り得ない所業なのです。5人にはペナルティを課します。そのペナルティというのは5人が今後の生活で知る事となるでしょう。今は言いません。警戒心を保持させながら、その恐怖と向き合いなさい。私、《正鵠の魔女》からの5人へのギフトです。思う存分、味わいつくしなさい」
5人各々を抱擁する空間から“蛾素”が大量の蔓延する。決して広くない、人一人分が入るスペースに蛾素が充満し5人の身体を襲う。
「院長!これは危険なのでは⋯!?やめさせてあげてください!!」
「マディルス、貴様も私の蛾素を浴びたいのであれば、黙って状況を見届けろ」
「⋯は、、はい⋯⋯⋯」
どうにも出来ない。どうにも出来ようもない。ノアトゥーン院長の感情を読み取る事が出来ない。怒っているのか⋯どのような感情を抱いた上での蛾素噴出なのか⋯。
一時は狭い空間内に充満した蛾素に戦慄を覚え、恐怖のあまり意識を失う者もいた。だが蛾素の充満行動が終了し、空間内が元の透き通った世界に戻った。
そして、小空間の形成が終了。解き放たれた5人の姿に、先程とは違った生命の兆候が確認された。
「これは⋯⋯⋯院長⋯5人に何をしたんですか?」
私はこの光景を見た者が第一に思う当たり前の疑問をぶつける。
「5人は私の蛾素を浴びた。どうやら、成功したみたいね」
「ベルヴィー、ナリギュ、大丈夫?」
ウェルニが二人の元へ行く。
「うん⋯大丈夫だよウェルニ⋯」
「良かった⋯⋯ナリギュは?」
「⋯⋯ああ、、大丈夫だよ。ウェルニ」
「はぁ⋯良かった⋯院長⋯一応聞きますけど、今の5人に蛾素って、害のある物質では無い⋯ですよね?」
「そのように設定した。問題あるまい」
「何故⋯蛾素何てものを取り込ませたんですか⋯?」
「お前の『神曲の暗澹』を聞いて、私の蛾素と比較してみたんだ。ウェルニの神曲に込められていた蛾素は声域に乗じて、喜怒哀楽4つの感情の方向性に偶像を感じた。七唇律に偶像は無くてはならない事象性にとんだものだ。院長としてウェルニの蛾素は嬉しいもの。これを少しでも共有したかった。共有の対象として選定したのが、この5人⋯という事だ」
「⋯⋯っていうことは⋯単なる、、、見せしめ?」
「⋯?見せしめ⋯?うーーーんウェルニ、“見せしめ”という表現は頂けないな。“協力”してもらっただけだよ」
「はぁ⋯なあんだ⋯⋯てっきり、とんでもない罰ゲームが行われたのかと⋯思いました」
「ギィシャスくん、序盤に言ったことを覚えていないのですか?“ペナルティ”に関しては、本当に課していますよ」
「⋯え、、、」
「⋯ま、マジかよ⋯⋯」
ネラッド、ギィシャスが再びの地獄に突き落とされた。
「何度目のの“ご安心を”⋯かは判りませんが⋯、ご安心を。私の充満させた蛾素を吸入した者になら、きっと乗り越えられる壁でしょう」
「ノアトゥーン院長」
「何かなパレサイア」
「ペナルティは⋯いつ自身に降り掛かるんでしょうか?」
「寿命が朽ちるまで⋯よ」
「⋯そ、そうなんですね⋯」
「明日やってるかもしれないし、今、ここで突然に襲いかかって来るかもしれないし⋯それはあなた達が人生を歩む事で、見つけるべき、受け止めるべきミッション。降誕を家族で祝おうとしていただけなのに⋯という疑問は痛いほど判るが、七唇律聖教の関係者になった者としては、挑んでほしいものね」
いつやって来るか分からないミッション⋯。それは一体どんなものなのだろうか。そんな問いをした者がいるが、それ以降、ペナルティに関しての話をする事は無かった。
どんな内容のものなのか。とにかく気になって仕方が無い。
◈
「さて、ここから本当に午後の部を開始する。今までの私は“催し物”を解釈してもらって構わない内容だ。どうなる事か、私は、ここからの時間がとても楽しみなのだな」
院長、笑ってる。不気味に笑ってる。さっきとは雰囲気が一段と増して恐ろしい。魔女の間に入った時の院長とは全然違う⋯。
「今から、神組織肉解の儀式“ヒュリルディスペンサー”を始める」
ヒュリルディスペンサー⋯?
「君達の身体を、私にくれなさい」
「え⋯⋯身体を⋯?」
ベルヴィーが代表して、疑問を呈す。
「その言葉の通りよ。身体全身とは言わない。“身体の一部”でいいの。しかし《毛の一本》《爪》《瘡蓋》《歯》《第1皮膚膜》等といった、消失しても身体に悪影響を及ぼさない箇所はNGとする。《身体への悪影響》を第一とし、私に献上する事。生死的状態への移行や、精神の不安定を治療する等の回復蘇生措置は一切行わない。全て、自己責任で望むものとする」
「院長⋯まったくもって意味が判りません⋯身体を献上⋯⋯?」
「ウェルニ、お前は少しでもマイントスより良好な立場になったからといって、良い気になるのは早い気がするぞ?」
「いや⋯私は⋯そんなような真似は⋯⋯」
「もう少し言っておく事としよう。この儀式で必要なのは何よりも“気力と根性と精神”。全て、最終的には同じような意味を成す言葉だ。あなた達にはこの3つの言葉が結実するまでのレースを競ってもらう。悪影響を及ぼす肉体を、一体誰がより多く私に献上する事ができるか?肉体欠損による“悪影響の有無”は医学的な側面を考慮している、コンピューターが全てを統括してくれる。ここからはこの声も私と一緒に儀式を仕立て上げる」
【では、皆様。儀式の会場へ移動します】
どこから聞こえてきたアナウンスによって、聖職の間から時間経過をおかずに転移させられたウェルニとマイントスの子供達。
【ここはヒュリルディスペンサーを執り行う“受肉の間”。ここでシスターズの皆様には、儀式に参加して頂きます】
「では⋯⋯おっと⋯まだ質問があるんですか?」
手を上げるナリギュ。
「肉体の欠損に⋯順位はありますか?そして、その順位によって変動幅があるのなら、1位⋯つまり一番になった者にはどんな報酬があるのですか?」
「あなた、そのような反応から察するに、かなり⋯かけているようですねナリギュ。そのお顔⋯良いでしょう。本来ならここでそのような“内訳”なるものをお伝えするのは野暮なのですが⋯私は鬼ではありません。742から749のみんなは良い子だというのを考慮した上で、深い所までお話することにしましょう。よろしいですね?《ポンティオ》」
【確認しました。これより先の神組織解の儀式に関する擬似的データの開示を許可致します】
「では、順位変動幅に関する事から。先に申し上げますと、順位というものは存在するのかもしれません。ですが、こちらから『あなたが1位』だとか言うような真似はしません。それは後々、儀式が終わった時に、皆様の仲間内でやってください。やれるような空気であれば⋯。ナリギュ、若しくはみんなが思っている肉体箇所の献上⋯。勿論そうです。肉体の箇所によって価値は変わります。言ったように《毛の一本》等はNGですね。そのような戯言をした者は七唇律聖教の名において処罰の対象となります。処罰の対象⋯この大きなペナルティに言及しなかった理由は⋯当たり前、だからです。みんなに言わなくてもきっとそこまでの結末は目に見えているだろう⋯そう私が噛み砕いたからです。肉体献上の価値の話に移りましょう。肉体献上は大きくわけて二つに分けられます。《内側》と《外側》。内側というのは内臓です。驚くのも無理はありませんね。そうなんです。内臓を差し出す事も可能なのです。内臓はとても高価なものです。献上先は私になります。私が皆から提供された肉体を喰らい、ルーター化させ、七唇律聖教最高位にお届けます」
「七唇律聖教最高位⋯!?あのお方達が見ている⋯というのですか?!」
「フレギンがここに来て妙に食いついて来ましたね。えぇ、そうですよ。現在この儀式は七唇律聖教の鶏鳴教会と司教座都市“スカナヴィア”が目下監視中です。未来ある子供達の勇姿をとくと見ようとご所望しておりましたので、私の方から是非に⋯と」
フレギンの思いが昂り、口腔内に溜め込まれた唾液を一気に飲み込む。
「七唇律聖教最高位が監視中している⋯。この現象に慄くのであれば、やり切る事ですね。内臓の献上サイズは個人の自由です。欠片程度のものでも、人体への悪影響は考えられます。有効としましょう。仮に、“臓器丸々”といった剛腕な方がいた場合、それはもう素晴らしい成果です。この先益々のご発展が望まれることでしょうね。内臓といっても様々あります。小腸、大腸、肝臓、肺、心臓⋯。他にも明記されていない多種多様な臓器が私達、人間の中には存在します。もし⋯内臓を差し出すような勇者がいるのなら⋯今⋯手を挙げてください。さぁ⋯⋯どなたか⋯⋯、、、もし、いるのであれば⋯これはチャンスですよ。非常に、滅多に無いチャンスです。七唇律聖教の中核を成す人物が見ています」
【迷情する者を確認】
「私も⋯そろそろとお腹の空いてきた頃なんですよ。何かを食べなきゃこの先もやっていけないかもしれません。きっと、その“迷情”している者の内臓を食べれば、回復するのですが⋯⋯」
この人⋯イカれてる⋯。今まで院長が常人だと思った事は一度もない。ただ⋯この人から発現されるマイナスのオーラエネルギーは桁違いだ。人を恐怖に貶める。そして人の肉体を欲している。正鵠の魔女⋯?なんだその肩書きは。ただの暴喰の魔女じゃないか。そんなに混沌が好きなのかよ⋯。誰も手なんて挙げない。内臓なんて絶対にくれてやるわけない。⋯てか、今までにそんな事したやついるのかよ。
その後も、繰り返される院長の威圧ともとれる内臓献上。しかし手を挙げる者は出て来なかった。ようやくノアトゥーン院長に諦めがつく。
「、、、、、失礼。少々取り乱してしまいました。何せ、これから肉体を食べれるということに、快感を覚えてしまいまして⋯。身体がどうにかなってしまいそうでした。ここからは気を取り直して、みんなのみ開示される情報をお伝えします。一回言ったかもしれませんが、医学的に生命維持継続の危険域に達したとしても、こちらからは何の補償もありませんのでお気をつけを。ですがリスクを伴いますが、その危険行動は今後の七唇律聖教において優位な立ち位置につけること間違いなしです。これは私、ノアトゥーン院長改め、正鵠の魔女がお約束しましょう。皆様の内的宇宙ではこう思っている事でしょう。『内臓を差し出す奴なんているのかよ』⋯と。大半が⋯いえ、8人全員がそう思ったことでしょう。はい、実在しましたよ。一つの内臓を丸ごと献上したシスターズが」
嘘でしょ⋯⋯⋯そんな⋯そんなことって⋯。
驚愕する子供達。その中に、不敵な笑みを浮かべる者もいた。
──────────
『へぇ⋯そうなんだ⋯いるんだ⋯』
──────────
「男の子でした。とても必死だったらしいです。私が相手した訳じゃありません。もう何年も前に出来事ですから。その男の子は肝臓を献上したようです。『この中で一番いらなそうだから』という、何とも子供らしい理由でした。ですが、肝臓を無くした男の子には、人体欠損の異常状態へと突入、緊急手術に追い込まれる形となりました。言いましたよね?私は。『一切の補償をしません』と。それにこの儀式は戮世界の医学界でも知り渡っているものです。でも、さすがに内臓を差し出す⋯という症例は前代未聞。とてもじゃないですが、手に負えないと判断した医師チームは緊急手術を断念。ですがその時、奇跡が起きました。復活。復活したんです。生命維持の危険域に突入していた彼は、神からの祝福によって復活したのです。その後医師が彼の身体をスキャン、肝臓のあった場所には、“肝臓”が戻っていたようです。これは《朔式神族の模造品》とも呼ばれている現象。他にも、大腸の半分を差し出した男の子もいましたね。排泄に苦労する事を念頭に入れての献上行動でした。その時も朔式神族は彼の現行に“微笑み”で返します。彼の大腸は本来のものと結合する形で、模造品が締結されていた⋯というのです。このように、朔式神族は必ず見ています。そして微笑みで返します。みんなの行動は無駄じゃ無いのです。⋯⋯⋯⋯⋯また、取り乱してしまいました。続いては、《外部》についてです。話す内容は同じです。外部という事もあるので、身体的にもかなりの負担が掛けられますね。まぁ、内臓の方が乗り越える壁としては大きいような気はしますが⋯。簡単に、過去のシスターズが献上してきた部位のラインアップを紹介しましょう」
├───────────┤
・眼球
・舌
・鼻
・耳
・声帯
・乳首
・手
・指
・足
・生殖器
├───────────┤
「これと同時に“血管”と“骨”も外部パーツとして認識してください。無論、血管と骨は身体の中にあるパーツなのですが、内臓の項目でメモリがいっぱいなのです。ご承知を。要は“外部へ露出の可能性があるもの”という事ですね。」
と、いうことは⋯内臓を献上してきたシスターズはかなりいる⋯ということか⋯。そんなことって⋯信じられない。ていうか、骨は判るけど、血管が外に出ることなんて無いだろ⋯。
「特に注文の多かったのが、“指”です。指は人の身体に要らないほどありますからね。有り余りすぎます。20本あったら、1本2本の欠損なんて困ったものじゃありません。しかも指の献上の高値で買い取られます。きっと良い物をお与えくださることでしょう」
「あの⋯」
「はい、なんですか?マディルス」
「祝福とか、献上した後に起こる献上者へのギフト的なものは誰からのものですか?」
──────────
「⋯⋯幻夢郷ですよ」
──────────
その瞬間、辺りが騒然とした。軽い冗談だとは思えなかった。院長は本気で言っている。幻夢郷からの祝福⋯だと。
「本気で⋯言ってるんですか??幻夢郷が⋯あるんですか?」
「みんなはここに来て何を学んでいたというのですか?はぁ⋯刻々と時間が過ぎ去ってゆく⋯本来なら、とっくに儀式を執り行っているのですよ?要約すると、幻夢郷はありますよ、当然に。当たり前でしょう」
信じられない発言が立て続けに起こる。内臓の献上とこよりも圧倒的に驚いてしまった。これは個人差があるとは思う事象だけど、私は間違いなく、この発言に驚いた。幻夢郷があるだなんて⋯そんな事を言ってしまうのも罪なのに。そうだ、これは七唇律聖教最高位が監視しているんだ。それを判った上でのこの発言⋯。ノアトゥーン院長⋯この人は⋯只者じゃない。絶対に⋯確実に言い切れる。この人は⋯七唇律聖教の中核を成す“ニーベルンゲン形而枢機卿船団”の一員だ。という事は『正鵠』を司る枢機卿。では何故⋯修道院の院長なんてやってるんだ⋯。
◈
「幻夢郷の話なんて今はいいのです。さて、もう気はラクになりましたか?みんなの表情と内心を今、分析しました。正常心を保っているのは一人もいません。安心してください。これは普通です。ですがきっと、最初の献上者が現れると雪崩のように皆様が献上したいと詰め寄ってくるでしょうね。私には何となく、そういう気がしてなりません。さぁ、どなたか⋯いらっしゃいませんか?最初の献上者になるよー⋯との方はーー」
院長が8人に目を合わせる。ぐるりと一周、またもう一度、同じ目線ルートに向かおうとしたその時、一人が手を挙げる。
「あら、あなたが一番最初に挙手してくれるとはね。思ってもいなかったわ。さぁ、こちらにいらっしゃい」
「ナリギュ⋯⋯」
ナリギュが行ってしまった。ナリギュは私達に顔を見せる事無く、戦場へ行くように一歩一歩を踏みしめながら、シスターズの子供達から離れる。
「ナリギュ、こちらへ⋯」
院長に指定された位置に立つ。
「ここは受肉の間の中心地、献上の儀を執り行う、運命の分かれ道。さぁ、あなたは何を私に差し出し、神からの祝福をもらうのだ?」
「⋯⋯、、、、私は⋯指を与えます」
「⋯!!」
「ナリギュ!待ってよ!」
ナリギュが振り向く。その顔は偽りだ。決心をしたように見せて実際はとんでもない思考速度で物事を見極めている。未だに思い悩んでる様子が私のアトリビュートの能力を使用して判った。私以外のメンツならきっとここまでの理解には到底及ばない。それぐらい今のナリギュは“表面上”、決心を固めているのだ。これを院長は気づいているのだろうか。
「指か⋯その心意気は買おう。何本だ?」
なんだその悪魔的な質問は⋯勿論、一本に決まってるよね⋯ナリギュ⋯ダメだよ⋯⋯そんな、、まだ得体の知れない儀式なんだから⋯ほんとうに⋯ダメだよ⋯??
「4本お願いします」
「⋯ナリギュ!!」「ナリギュ!!」
私とベルヴィーが一斉に声を掛けた。それも大きく。現在の彼女の行動を停止させようとする声掛けだった。声だけの静止では収まりがつかなかったベルヴィーは、その場からナリギュの元へ駆け寄ろうとする。しかしその願いは虚しく散る事となる。院長とナリギュの立つ中心地には結界と思わしきバリアが展開され、ナリギュとベルヴィーは隔てられた。
更にベルヴィーの思いが砕け散る事が起きる。
「ナリギュ!ナリギュ!!指なんてダメだって!!ちょっと考え直そう!まだよく分かんないんだよ!この儀式!!」
「⋯⋯⋯⋯⋯ちょっと⋯!!ナリギュ!!どうしちゃったの!?ねえ!顔色が⋯ねぇ⋯!ウェルニ!ナリギュの顔⋯どうしちゃったの⋯!!なによ!あの顔色⋯⋯⋯」
「あれは⋯⋯⋯院長!!ナリギュに何をしているんですか!」
「儀式を執り行っているのだよ。私が彼女の中に入り込み、指定した部位を頂く。そのためには一旦、彼女の身体に私のオーラを微量、取り込まさせる必要性があるんだよ。簡単に言うと“下見”だね。キャンプとか行く時も、するじゃないか、下見。下見が無かったらちょっと怖いだろ?『ここ⋯本当に安全な場所?』ってさ。そんな不安材料を事前に把握するためにも一応やっておかなきゃいけない事なのさ」
「⋯ていうことは⋯まだナリギュは大丈夫なんですね?」
「ああ、意識はあるはずだ。だが⋯彼女の意識はとうの昔に消え失せてる。私が儀式についての話をしている時からずっとだ。取り憑かれたように聞いていたぞ。まったく、そんな崇拝力があるのなら、七唇律に向ければいいものを。何故今になって覚醒したんだろうな」
「⋯⋯なにそれ、、、、ナリギュ!ナリギュ!あんた!ナリギュ!!どうしちゃったのよ!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
ナリギュは無言を貫く。しかし執拗なまでに続く、ベルヴィーの嘆きに堪えたのか、ナリギュがベルヴィーの方をむく。そこには私もいた。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯強くなりたいんだ」
────────────────────────◇
「ほう?まさかそこまで心をついて来るとは。こいつァ⋯」
「おい、『正鵠』に繋げとけや?。もう少し彼女をクローズアップさせろっちゃあな」
「御意」
────────────────────────◇
「強く⋯?何よそれ⋯⋯戦士にでもなるつもり?」
「強くなれるんだよ、ベルヴィー。強くさ⋯強く⋯こんなんじゃだめだよ⋯ベルヴィー⋯、、あなた、ウェルニに負けたまんまでいいの?」
「はぁ?あなた⋯ほんとイカれてんの??指を失ってまでやることないじゃない!」
「あるさ。ベルヴィーはなんでそのまま突っ立ってたのさ。⋯⋯悔しくないの?ウェルニに先を越されたんだよ?ウェルニだけが独走状態なの。私にはそれが許せない。私にだって出来る。ウェルニだけが特別な存在じゃない。私だって特別。そう⋯特別なの。特別⋯⋯特別⋯に、、、、なりたいの。その為なら、私は代償を払う」
「その為って⋯⋯」
「私なんか、直ぐに追い抜けるよ!」
「⋯⋯?」
私の投げ掛けに呼応。なんだか久々にナリギュと目を合わせたような気がした。今朝はあんな普通にいつもと同じコミュニケーションを取っていたのに⋯。
何かが捻れた。
何かが壊れた。
『何か』⋯て、判っているのに、何で思わないんだろう。
思えない。
思いたくない。
判ってるよ。
そこまでの難題じゃない。
“友情”が⋯決壊した。
認めたくなかった。
でも、認めざるを得ない展開になってしまったんだ。
「⋯⋯普通にしてたら⋯無理だよ。だって⋯ウェルニはさぁ」
「やめなよ!」
「ベルヴィー⋯」
恐らく、ナリギュはここで吐こうとしていた。私が超越者の血盟であるという正体を。ナリギュの暴走をベルヴィーが阻止する。
「何考えてんのあんた。いい加減にしてよ。そんな事言っていいと思ってんの?それは⋯私とナリギュだけに教えてくれたことでしょ?」
「ベルヴィー⋯ありがとう」
「いいのよ、大丈夫。こんなことで私達三人の絆を崩壊させたくない。てかなんで?何でこんなことが起きてるの?⋯⋯意味が分からない。本当に意味が分からない」
────────
「なかよしこよしのお時間は、そう長く設けませんよ?」
────────
【ノアトゥーン院長の鴉素と蛾素、注入量が規定値を突破。これ以上の注入は注入先であるシスターズへの絶命に繋がる恐れがあります。直ちに注入作業を停止してください】
「判りました、“ロシス・ハシャナさん”。」
いつまで仮称で呼べばいいのやら⋯。
「もう、宜しいですか?9月組の御三人」
「院長、止めてください」
「ベルヴィー、あなた何でそんな事を言うの?そして、何故あなたに彼女の言動を止める権限があるの?今、私には疑問だらけなのだけれど。こんな無駄な時間にリソースを欠くなんて⋯ねぇ?ナリギュ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「ナリギュ?」
「院長、もっと対価の高い祝福は何ですか?」
「ナリギュ、もっと良い物を所望するつもり?」
「はい。私は、もっと対価の高い物が欲しい。指じゃそこまでの祝福を頂けないと考えました」
「ほう、あなたは非常に見込みがありますね。いつにしてそんな思考の域を拡げられたのか⋯とても興味深いです。今からでは遅くありません。良いでしょう、献上の部位を変更可能ですよ」
「では、指より対価の良いものは⋯私が強くなるには何を献上すれば良いのですか?」
「ナリギュ!!」「ナリギュ!!」
「黙って。ベルヴィーも今のうちに決めておいたら。献上の部位。献上するパーツにでもマーキングしとけば、私みたいに悩む時間を短縮できて、他のみんなに迷惑掛けずにショートカット出来ると思うよ?」
「ナリギュ⋯あんた⋯⋯本当に⋯⋯」
「⋯⋯院長」
「うーん、、そうですね⋯。指でも十分だと思いますよ?」
「指で⋯いいんですか?」
「ええ。全本数」
「⋯そうですか」
ナリギュは笑った。指全てを差し出せば、私は変われる⋯現在の自分にどこまでの不満点を抱いているのか、当人以外には判っていない。
「全本数、つまりは20本ですね。20本を献上する勇気があるのであれば⋯、、それなりの報酬としてきっと素晴らしい祝福が七唇律から付与される事でしょう。それはもう、素晴らしいものです。朔式神族の血を継承する、“私と同じ存在”になれるのです」
「⋯ンフフフフフフ⋯⋯」
「ナリギュ⋯ダメだよ?本当に⋯ダメだよ⋯?」
「ベルヴィー⋯もう、ナリギュには聞こえてないよ。私達の声なんて聞こえてない」
「ウェルニ⋯!!どうしてそんな事言うの!?」
「聞こえない⋯」
「⋯え?」
「聞こえないんだよ⋯。私達に向けられる、彼女の心の声が。人は必ず、心の中で誰かを求めてる。絶対にだ。どんな状況であっても他人を求める⋯。グループダイナミクス。人からの影響を受けると共に、集団へも自らのオーラを波及させる。私には判る⋯彼女からは波及オーラを感じない」
「⋯って、いうことは⋯?」
「彼女は私達を、集団仲間として認識から排除した」
「ウェルニ、それ、、、本気で言ってんの⋯」
「、、、、、、、」
私は無言になった。この先、何を言っても、ベルヴィーの反応は『何言ってんの⋯』に該当する関連ワードが、打たれ続けるだけだと思ったからだ。だったらここで、私の方から会話を避けた方がいい。こういう状況には、無視も選択肢の一つだ。
「ですがナリギュ?指を全部損失してしまうと、私生活においてかなりの障害が発生すると思われます。それでも宜しいのですか?」
「七唇律からの祝福で、手が再生される⋯というのは無いのでしょうか」
────────────
「ほほぅ、、、こいつァたまげたたまげた。アアアーたまげた」
「やりますね。この子」
「めっためったに調子に乗っとんなこのガキ」
「『手が再生されるんですか』あああーーあ???こいつァ舐めとんな」
「はい、舐めてます」
「めっためったに舐めてる!!」
「おい!こいつァにもっと色々吹き掛けてやれ!もっと言葉を引き出したい」
「御意」
────────────
「⋯可能性はあるね。ただし、身体への復元対価は⋯⋯七唇律のみぞ知る。私には、ここまでしか言えない。言えないし、知らない。言えるのは⋯指は何本もある。だから高価な取引は行えない。レアモンじゃないからだ。過去のシスターズからも何人もの指が献上され、修道院長を通じて神に献上された。すご〜く、可愛く言うと⋯⋯⋯何本も何本もおーーーんなじ、物品が送られてきたら、嫌でしょ?ずーーっとおんなじ味のケーキ、食べるの飽きるじゃない?神様はたぶん、今、そんな感じなんだよ。もうね、指、飽きてると思う。何本も何本も何本も何本も送られてきて、『え、またぁ??』ってぇ、なってる」
「じゃあ⋯朔式神族が喜ぶモノは何ですか?」
「この私の小芝居を見てある程度は予想がついてると思うけど、今までの献上ラインアップで“あんまり無いやつ”」
「その!あんまり無いやつを具体的に教えてください!」
ナリギュは語気を強め、院長に迫る。
「ふーん⋯」
────────────
「ンなもん、決まってんだろぉ?なァ??」
「はい、そうですね。アレですね」
「ぜったいぜったいアレ!!」
────────────
「性器でしょうね」
「⋯⋯⋯」
───────
「まっ、そりゃあ黙るよなァあ、、あーあ〜つまんねえツマンネェー」
「はい、つまらないです」
「悩んでる悩んでる!!見てみて!この顔!この顔!」
───────
「ナリギュ。あなたに生殖器を差し出す程の器があるとでも?」
「⋯⋯⋯」
「子供作る気無いのなら、差し出してもいいんじゃない?」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
なぜ、、なぜ悩む?さっきっから、あの女はとんでもない事を言っているんだぞ?女性器を差し出せ?なにそれ⋯⋯。ナリギュ、、、ねぇ、ナリギュ!!あの顔⋯ちょっと⋯嘘でしょ⋯?
「“子宮”でもいいわよ」
「⋯!」
「もっとも、これは内部カテゴリーに該当する献上品ね。子宮は歴代シスターズで中々いないわ。そうなのよ、いるのよ。言ってしまうと、献上されてない身体パーツ存在しな⋯あぁ、あったあった。唯一、ヒュリルディスペンサーで献上されてないパーツは⋯⋯“ハート”。心臓と⋯心。二つは似て非なるものよ。心臓を無くしたら、生命維持は終局するし、心を無くしても、人の自我境界が破壊され、バイタルの逆流が始まる。心が無くても、心臓はあるからね、その場合だと。生きようとする⋯。ンフフ、面白いよね、人間って。失礼、また変な話をしちゃった。まぁ要は心臓と心なんて、献上する方が馬鹿なのよ。だって、生きてられなくなるもの。意味が無いもの。だから、心臓と心以外のパーツはぜーーーーーんぶ、献上品として朔式神族に提供された」
「じゃあ、朔式神族が今、一番欲していりものは、心臓と心ですか?」
「ンフ、そうね。そうなるわね。でもさすがに朔式神族の皆様も判っていると思うわ。“人間にそんな事出来やしない”とね」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「さぁ、どうするの?もうあなたに何十分も使ってしまっている。切込隊長としては好意に値するわ。残りのみんなには、ここまでの時間を設けないからねー!早く済ませたいからー!ナリギュの言ってた通り、マーカーで印つけといてー!『ここでーす!』って元気に言ってくれれば、私がガブッとそのポイントに向けて食べに行くからー!」
院長の無邪気な笑顔で形成されたキューティクルなボイスが、混沌とした空間に不協和音として乗る。あまりにもこちら側の状況を無視した言動だ。嘲笑っているようにしか思えない。⋯⋯⋯私とベルヴィー、それに⋯⋯他のみんなを。⋯⋯え、、、フレギン?マディルス?パレサイア?ネラッド?ギィシャス?
「みんな⋯何その顔⋯どうして⋯?なんでそんな顔して、向こうの光景を見てるの?」
ウェルニの問い掛けに、ベルヴィーも後方に立つ他の皆の方を向く。
「お前には分かんないんだろうな」
「⋯え?」
「ウェルニ、どうやらお前は、高見を望んでいるようだな?その判断は早すぎやしないか?俺らは、この通りさ、儀式へ参加するよ。そしてそれなりの対価も朔式神族から頂く」
「何を献上するつもり⋯?」
「ふっ、ンなもん、俺の番になってからでいいだろ?せっかく院長が一人一人相手をしてくれるんだ。そう俺を急かすな」
「フレギン⋯⋯そこまでして、神からのお告げが欲しいの?自分の身体を削いでまでして!自分の身体より価値のあるものなんて⋯!」
「存在するわ」
「パレサイア⋯ダメだよ⋯」
「ウェルニへの対応が羨ましい」
「羨ましい⋯って、今日始まったばっかの事じゃないか!私だってまだ右往左往してる⋯七唇律聖教に関して分からない事だらけだ。みんなで一緒に解き明かしていこう!何も欠損なんてさせずに!」
「欠損しててもいいじゃない。あんたに何の関係があるの?私が指を失って、これからの信教に影響が出るとでも?何を虚妄しているのよ。私、パレサイアは⋯子宮を献上するわ」
「パレサイア!!!」
「だからさぁ⋯なんなのよ?私の身体から子宮が取り除かれて、ウェルニに何の悪い出来事が起きるの?意味わかんないよ、どうしちゃったの?なにか見えるの?正夢?幻夢郷からのお達しがありましたか?」
「普通に⋯おかしいじゃない⋯子供⋯作れなくなるんだよ?」
「ンなもん要らないわ。鬱陶しい。ガキなんていらないわよ。自由時間が奪われるだけ。なんの意味もない。いい事でしょ?こんな考えを持つ親の元に命を授かるより、初っ端から諦めてるのよ。“毒親”にならずに済んでるのよ。社会的に有難いじゃない」
「⋯⋯⋯⋯パレサイア⋯」
「ナリギュー?さっさと儀式を始めてー?院長ー!私ー、マーキングしときますねー!」
「はーーーい!いいこいいこしてあげる!パレサイアちゃん!」
──────────
「子宮ぅ⋯子宮ねぇ⋯⋯最近来てねぇなァ」
「速達で子宮が届いたケースはありません。かなり難易度の高い項目で、イーターの腕が試される部位になります」
「だいじょぶだいじょぶ!形而枢機卿を舐めたらイカンよ!彼女は『正鵠』だからね。やるとキメたら!トコトントコトン!キメちゃうオンナよ!」
──────────
私とベルヴィー以外のシスターズは、みんなが強くこの儀式を望んでいる。一体なぜ?あんな説明だけでどうしてここまでの意識に成り下がれる?誰かがマリオネットを操るように、シスターズを操作しているように思えてくる。そんな事は無いのだろう。
特にフレギンからは自我から芽生える強い反逆心を感じる。他のシスターズからも同等までは行かないが、個々の性質に見合ったエネルギーを内側に溜め込んでいる。フレギンはそれが表に露出してしまっているのだ。これは私にしか分からないもの。ノアトゥーン院長には見えているのかもしれない。
「ナリギュ、パレサイアがああ言ってるんだけど、どうするの?先はあなたの番だから、パレサイアの事は気にせずに自分の都合と勝手でイイのよ?あんな先行して挙手も出来なかった、微速のクソガキなんて相手にしなくていいんだから」
「⋯⋯」
ナリギュが院長と目を合わせる。ナリギュの眼光が院長を突き刺す。
「あなたは、あの子と同じクソガキの部類に属する子供では無いと思っている。違う?」
「⋯違います」
「なら良かった。あなたの思うがままに選択するといいわ。子宮も加味でね」
─────────
「同じやり取りのレンチャンでクソつまんねぇなァ。なんだこいつァらの会話。バカとバカがヤリ合ってんのか?」
「私もそのように思います。あのやり取りが延々に続くとなるとここから先のシナリオの動向に異変を与えたとしても、“それなり”のものとしか思えなくなり、ラスミスパラディンの出撃要請がアラートされる可能性があります」
「夢追い夢追い!ドリームランドが介入するってぇの!?イイなぁイイなぁ。マナコで観たいなぁ!」
「あん?ここに来て原色彗星か。色はァ⋯」
「“エクソダス”。『絶望』を意味する原色彗星です」
「今じゃん今じゃん!やっぱし、原色彗星スゴい!スゴい!」
もういっそうのこと、めちゃくちゃなシナリオにします。




