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[#73-肉に這い寄る預言]

【七唇律聖教教皇からの聖言を頂きましたのでこの機会にお届けいたします】

言葉を無くした途端に我々人間は全ての気力を無くすと言われている。だがその気力というのは果たしてその者にとって有益なものなのだろうか。自分がそう思っているだけだろう。きっとそれは自分が勝手に思っているだけだろう。はい、以上です。もうこんなところで済ませてよいか?ああよいか?そうか、じゃあもうよいとする。

[#73-肉に這い寄る預言]


同日。午前11時52分──。

ユレイノルド大陸北方地域 ティレーズスクワーチ。

剣戟軍 総合指令本部。


「大佐」

「いい加減な情報はもう勘弁してくれ」

「安心してください。これは正確な情報です」

「いいたまえ」

「はい。ラティナパルルガ大陸での汚染物質濃度が着々とパーセンテージをアップされています。現在通常時よりも8%上昇」

「ふっ、そんな事今年の1月ぐらいからずっと発生している事じゃないか。何を今更そんなものに触れようとしている」

「ですが、大佐。この観測データをご覧下さい」

「これは⋯」

指令本部オペレーターは、観測衛星ランドサット7Mark.4より伝達されたラティナパルルガ大陸の大地を侵食するSSC遺伝子汚染物質が規定値よりも、プラスアルファの演算方式を提示している。

「これは一体⋯どういうことだ⋯」

「分かりません。今年の1月に入ってから、この数字は一定値をマークしていましたが、今日になってその数字が微変動を起こしています。これは今までとは異なる状況になった⋯と換算して間違いない事象だと思われます」

「そうか、分かった。大至急ラティナパルルガ大陸に現地隊及び、調査隊を派遣しろ」

「了解。いつ出発すれば宜しいでしょうか」

「決まっているだろ。今だ」

「了解」



同日 午前12時16分──。

中容量輸送用観測認証ヘリコプター“カーゴブーア”。

機内。


「昼飯⋯食べたか?」

「いいや、食べてない」

「お前は?」

「俺もだ」

「ここにいるみーーーんな食えてねぇよ」

「はぁ⋯まったくだぜ⋯訓練が終わってから、この時のために俺は生きてるっちゅうのに⋯なぁんで!!ここに来て調査隊の出動命令が出るんだよーー!」

「よりにもよってラティナパルルガでの調査とはな⋯」

「どうせなんもねぇ所なのによー」

「それに、この前調査隊が行ったばっかりだろ!」

「んな!」

「それ、俺、参加したぞ」

「俺もだ」

「俺も」

「俺も」

「俺も」

機内の待機輸送ドックに着座する35名の調査隊メンバー殆どがそう言った。

「はぁ⋯ランドサット7は何を捕捉したんだよ⋯」

「おい、誰か調査概要の詳しい内容を知っている者はいないか?」

静まり返る機内。

「そんなもの知っているわけないだろ?」

「俺たちは命令のままに動く」

「認めたくないが、まぁロボットみたいなもんだからなぁ」

「剣戟軍は七唇律聖教に報告するだけ。あとは奴らが事を荒立てずに処理してくれるんだ」

「俺らはただの傀儡だ。七唇律聖教が全てをコントロールするこの世になっちまったあの日からな」

「フン、何をお前、ストーリーテラーみてぇな口調で言ってたんだ」

「え、俺今、そんな感じだったか?」

「ああ。間違いねぇ。お前はそのポジションを狙っているなぁ。さては⋯剣戟軍から芸能界入りを狙っているとかか!?」

「いや、それは無いよ」

「はー、無いのかよ」

「俺は、今の剣戟軍を変えたいと思っている」

「いやいや、無理だろ」

「そうだぞー、新入り」

「え?」

「いいか?お前が剣戟軍に憧れを抱いている事はよーく知っている。この前だってウチの班に喧嘩を売ったらしいしな」

「⋯⋯」

───────────────

いつかの、剣戟軍総合指令本部内 訓練所



「先輩」

「あん?どした?」

「さっきの訓練でのあの態度⋯なんなんですか?」

「はぁん?なんだよお前」

「待ってください」

「うるせぇなお前⋯離せよ」

「武器交換からリロードまでの空白の時間がありすぎです。あのままじゃ敵から直ぐに隙を取られて、戦場では死んでしまいます。それにあの空白で指揮系統の損失と作戦に逸脱が生まれます」

「あああああ!!ウルッせぇな!テメェ!なんなんだよ!!」

殴られる。

「いいか?お前が夢見ている剣戟軍は遠の昔に朽ち果ててるんだよ」

「いいえ、朽ちてなんていませんよ」

「テメェ、、、いい加減にしろよ?」

「いいえ、あなたがいい加減にしなくてはいけません」

「うるせぇんだよゴチャゴチャと!!」

俺は先輩のストレートを直で受け止める。

「なにっ!?」

驚いている内に俺は、先輩を気絶寸前に追い込む程の反撃ストレートを決めた。男に直撃した当該攻撃は相手から多量の出血を確認する羽目になった。嫌だ。とてつもなく嫌な血を浴びた。地に倒れ伏した男は仰向けになり、ブツブツと文言を発している。少しの時間、耳を傾けてみると、それはもう⋯本当に大人なのか⋯と疑いたくなる言葉の乱打。幼稚、小学生が下ネタを覚えてクラスの中心で叫んだり、女友達相手に急に発狂したりするシーンを想起されるな。年齢からしてみてもぶん殴った対象の男は30オーバー。そんな俺より10以上の上の年齢の男が、未だに幼稚さを引きずっているこの無様な光景。笑いたくても笑えない、台風の目的展開。

こうして男への考察行動が捗っている中で男はまだ言い足りない事がある様子。本当にその語源は神から受け継がれてきた⋯正確には原世界からだが⋯、原世界との共通語だとは思えない。しかし、こんなお馬鹿さん、他の共通語を覚える程の知能指数は無い⋯と、この姿を見れば思うだろう。男に唾を吐くように、最期の台詞を言い放とう。

「だから、言っているでしょう?あなたには“隙”がありますって。それに今回はマンツーマン。しかも銃撃戦ではありません。近接攻撃においても尚、このような事象が確認されるのであれば、あなたはもう、剣戟軍を辞めるべきだと主張します」


「おい!お前達!!何をやっている!」

「これは⋯」

剣戟軍幹部がやってくるとは⋯。そこまでの事をしたつもりは無いのだが⋯。

「おい、“クレニアノン”」

「なんでしょうか」

「はぁ⋯これ、どうしてくれるんだ?」

「知りませんよ。この方が俺に突っかかって来たんで⋯、その報復をしたまでです。この程度で済んだことを光栄に思え⋯そう、逡巡しています」

「残念ながら、お前の意見がまかり通るほど、俺達はマトモじゃない」

「それはどういう意味での発言と受け取っていいものですか?」

「現行動を許すつもりは無い。そういうことだ」

「あー、そういう事ですか。でも、俺の力を行使すれば剣戟軍の発展にも繋がると思うんですが」

「フン、この時代でお前のような力を必要とする場面なんて訪れようはずが無い。剣戟軍が関与するよりも“ハイビショップ”の出動で全てをリセット出来うる。お前の能力は不要だ」

「じゃあ、雑用で構いませんのでまだ居させてください」

「雑用?」

「そうです。雑用。どこでも何でも。御指示のままに動力源を充填させておきますので、全ての雑作業を遂行してみせます」

「お前⋯どうしてそこまで剣戟軍に固執する⋯?」

「俺は⋯“奴等と違う”という自問自答を繰り返す日々に終止符を打ちたいんです」

「お前のその願いは遠に叶ったのでは無いか?」

「先日の七唇律聖教に出向いた件ですか?いいえ、あの時は正確な回答に属する“神算”を獲得するに至りませんでした」

「クレニアノン、神算を求心したというのか⋯、、」

「はい、随分と大変な信仰である事は把握していました。予想外の方角から遺伝子能力を削ぎ落とされたのは一苦労しましたが、思考回路の停止は阻止出来たんです」

「なんだと⋯」

「はい。なので、私に“大陸の神”と“アインヘリヤルの朔式神族”は微笑んでくれました。朔式神族を肌で感じた瞬間は、形容し難い程に愉悦に浸ったワンシーンです」

「分かった。雑用はやらせん。ただし、これ以上の問題行動は強制退役を命ずる可能性がある」

「分かりました。ですが⋯、現状維持とは言わず、本当に雑用で構いません」

「お前は⋯本当に何を目的に動いているんだ⋯」

「何度も言わせないでください。何度も言う台詞では無いのですよ。なので⋯」

「分かった、分かったよ。その、、、俺らの思う“雑用”でいいなら、それに該当する任務をお前に遂行してもらう。指示を待て」

「はい。分かりました」

─────────────────


「お前がどんな覚悟を持ってして、ここに来たのかは知らねえが、もうお前の思い描く剣戟軍はとっくの昔に消え去った」

「そうだぞー新入り。お前の夢は消え去った。それが嫌なら今すぐにでもこの場から立ち去れ」

「ああそうだ。なんならドック開けてもらって、こっから飛び降りちまえばいいんだよ」

俺、以外の兵士が笑う。ほぼ全員で笑う。笑っていない所が逆によく目立った。俺はそんな男と目線が合う。

「そうそう!こっから落ちちまえばいいんだー!」

更に笑う。

「おい!ちょっと待て!せっかく飛び降りるんだったら、ツインサイドに飛び降りろよ!」

「お!いい提案すんじゃねえか!!」

「だろぉ〜?お前が実験体となって立入禁止区域に飛び込め!ただ死ぬのは意味がねえからな!」

「こういうのー⋯、、、原世界では何て言うんだっけぇ?」

「神風特攻隊だ!」

「そうそう!それそれそれ!神風特攻隊になりやがれ!そして生きてる俺達に少しでも価値のある報告を頼むぜ」

気色の悪い最悪のジョークで機内がカオスになる。まるでここが飲み屋かのように、言葉の狂乱は留まることを知らない。

「原世界での行動を知っていますか?」

「あぁん?」

俺の問いにほぼ全員が聞き返す。先程、俺をいびって来なかった男は聞き返してはいないが、視線はこちらを向けている。

「原世界での特攻部隊というのは、戦争の際に他国の駆逐艦を初めとする戦艦に向けて、航空機ごと突撃をした兵士の事を言います」

「そんなこと知っている。原世界からの共有現象が活発になった時、“戦争”に関連したデータファイルがインフィニティネットワークに嫌でも多く発生するからな」

「そう。知ってて当たり前の存在を脳内に溶融していたとしても、そのような考えに至るのだから、とても会話の着地点に困る方達ですね」

「何言ってんだお前」

一人の男がそう言うと、更に追い討ちを掛けるように様々な罵詈雑言が俺に飛ぶ。これが大陸政府の認めた軍事機関の兵士だとはとても思えない。

「もういいわ。コイツに構っててもぜんぜん時間減らねぇ進まねえ」

「何かしねぇ?」

「何すんだ?」

「あのよ、最近入隊した女の新兵知ってるか?」

そこからは反吐が出る程に酷い言葉の数々で筆紙に尽くし難いものだった。これ以上、この者らの会話を聞くのは私のコンプライアンス判断として、聴覚のシャットダウンを実行した。



戻り、イーストベイサイド──。

午後2時3分──。


なんだかんだで海水浴を楽しんだ私達。いや、私。案外楽しめるもんだったな。ベルヴィーとナリギュの賑わい度合いといい、私といい、なんともなバカ騒ぎを見せびらかした。

恥ずかしさなんてものは遠に捨てた。それは二人も当然。バカ騒ぎの内容を理解出来るのなんて私達だけ。私達三人以外が介入しても全く楽しめない内容だ。

こんなの当たり前じゃん⋯────。

そう思っているのも分かる。

だけどね、ベルヴィーとナリギュで紡がれた海水浴バカ騒ぎは、“筆舌に尽くし難い”内容。

本当に⋯ただただバカ騒ぎ。何度言ってもバカ騒ぎ。

あーあ、バカ騒ぎ。バカ騒ぎ。


書き記すとなるとショボイように感じられる、

ビーチフラッグ、

ビーチバレー(人数奇数の為、トライアングルフォーメーションにてボールの受け渡し。結構激しめのやつ)、

砂浜絵画展、

再びの海の家にてご飯(2回目という事もあり、店員が反応してくれて大盛りサービスしてくれた。どうやら私の食べっぷりを見ていたようで、物凄く好感を持たれた様子。2回目はその店員の目線が脳裏を過り、集中して食えなかった。チラッと見たら実際にみてたし)


と、まぁこんなの“当たり前の海水浴での楽しま方”と思われるかもしれないが⋯戦場だった。これは、、、戦場だ。

如何にスケジュールの管理に追われながら、多種多様なアクティビティにアクト出来るか。まるで海水浴場からの挑戦状のように思えた。

波の変動によって、海への遊泳を優先的に楽しんだりしなきゃいけないしね。色々と“遊ぶ”って概念は楽しむにも思考を働かせなければならない非常にリソースを欠くコンテンツなのよ。

何事もタイミングが重要だということを理解⋯。なんか、上手いように纏まったのか、そうでも無いのか⋯振り返ってみても⋯いや、そんな深く考えることでは無いだろう。今は本来では無く、欺きの姿で思い出を綴るとしよう。


“綴る”って⋯。

なんか夏休みがもう終わったかのような言い方ね。まだ二人と一緒にいるんですけど⋯。んふふ。変な笑みが零れてくる。これは本来の私も笑っている⋯と解釈していいのかな。

はぁ⋯

だからさ、もう深く考える事はやめにしよう。

あ、二人が私を呼んでるよ。

「ウェールニ」「ウェルニ!」

「ん?どしたの??ナリギュとベルヴィー」

「あのさ、今!今ね、今、思ったんだけど⋯」

ベルヴィーがかなりの疑問をぶつけようとする深刻さで私に詰寄る。

「え、ど、⋯したの?」

「ウェルニって、、、“名前”、沢山呼んでくれるよね」

「え?なにそれーどゆこと??」

当然、無意識的行動では無い。だが一応、ワンクッション置いてみる事にしよう。もしかしたら、彼女達が気づいているかもしれない。上から目線になるが⋯二人を試そう。

「いや⋯なんか⋯普通に⋯ね?」

「うんうん、名前呼んでくれるのはスゴいすごい嬉しいんだけど!ウェルニは沢山私たちの名前呼んでくれるなーと思って!」

「そ、そうかなー」

「そうだよ!ねえ!何か理由とかあるの?」

ナリギュもそのような表情を示した。どうやら、その名前を良く言う理由については解けなかったようだ。そこまで難しく考えるものでは無いのだが⋯。別に隠すつもりは無いし、隠すほどのものでも無いので、この機会に言うとしようか。

「あの⋯⋯」

ジーーーーッと凝視する二人。『あの⋯』と言うまいか迷っている素振りをして、再び二人に視線を向けた時の発見は私を“本当に”驚かせた。

「うん、あるよ理由。それはね⋯」

「うん」「うん」

─────────────◇

「二人を、忘れたくないから」

─────────────◇

この刹那に訪れた二人の瞳の輝きを私は忘れない。忘れたくない。

「ウェルニぃーー!!」「ウェルニ!!」

「ちょ、ちょ、やめてよ⋯!」

私に抱きついてきた二人。あくまでも水着。二人はそんな露出度の高い姿でも尚、私との密着を求めた。

「ちょーっと⋯!二人とも恥ずかしいって!」

「なぁにを!そぉぉんなこと言っちゃってっ!」

「ウェルニにあんなこと言われたら、私もこうやって答えるしかないでしょうが!」

「いや、そんな事無いと思うけど⋯!!」

密着。最初は慣れないもので肌の肌が擦れ合う感じは、少々不自然な感じがあったのは否めない。しかしこういうのが、人と人との友情の確かめ合いなのか⋯と思った。

「これが友情を確かめ合う儀式なのね!」

「うん?」「ぎ、しき?」

「あ、、、、、、、」

やべ、、、、こっちの私とあっちの私がゴッチャンコになった⋯!!あーあー、やったやったあーあー、やったやった。もー知ーらんね。あーあー、何が“儀式”だよ⋯。


「二人ともありがとう!でもちょっともう恥ずかしいからやめよ!ほら⋯⋯他の人見てるし⋯⋯」

実際、本当に他人が私達の密着姿を見ている。

「んん?そう?私には見えないけど〜」

「私も〜〜〜ウェルニぃ気のせいじゃなぁ〜〜い?」

この子達ったら⋯⋯なんちゅう強靭なハートを持ってるんだ⋯。

「ベルヴィー⋯ナリギュ⋯⋯」

「えぇ???なぁに〜?ウェルニちゃん」

「ベルヴィー?あんた、、私の事、ちゃん呼びしないよね⋯?」

「今はそういう気分なの!」

「⋯あウェルニちゃん〜??」

「真似しなくていいのよあんた」

「ええ〜ベルヴィーが、許されたんだから私も“ちゃん呼び”してもいいじゃん」

「いつわたしがぁちゃん呼びの許しを出したんや!!」

「“や”?」「“や”?」

「あ、、、、、、」

「ウェルニってたまにカッコいい所出すよねー」

「うんうん、私も分かる!なんだか⋯その、、イケメン?っていうか⋯」

「い、いけめん!?」

この二人は一体、私をどうしたいんだ⋯。気が抜けたら出てしまう“本来の姿”に“カッコいい”と言われてしまう始末。更にナリギュは“イケメン”とまで称してきた。

「そう!イケメン!カッコよくて可愛い女の子!アイドルとヒーローの融合だね!」

「ベルヴィー⋯もうやめてよ⋯⋯私、そんな存在じゃないもん⋯普通に生きたいよ⋯」

「いいいいいやぁ!!!」

ベルヴィーの開口から吹き荒れる大否定の暴風。飛沫無しの怒声が下げテンションの私を晴れ散らかす。

「ウェルニはもう!そうなってしまったのよ!」

「ええ⋯」

「そうよ!ウェルニに拒否権は無い!“カッコ可愛い”を突き詰める女の子になってしまったのよ!」

「私⋯そんなのになりたく⋯」

「ヅァァァって聞けぇぇぇ!!!!」「黙って聞けぇぇぇ!!!!」

「えぇ⋯⋯」

さっき私の語尾の「“や”」に反応した女の子よね?もう少しであんた達から出そうな雰囲気なんですけど⋯。特にベルヴィー⋯。あんた、ただの輩よ。

「じゃあ明日からウェルニをカッコ可愛い女の子にするためのレッスンをしよう!」

「はぁー??」

「それいい!ベルヴィーに賛成!めちゃ良い!」

「いやい⋯⋯」

いや、もうダメだ。デジャブを何回も引き出す事になる⋯。ここはもう私の方から諦めるしかないか⋯。はぁ、どうしてこんな展開になるんだよ⋯。

「先ずは、、、化粧だよね」

け、けしょう!?

「化粧!?私そんな無理だよー!出来ない出来ない!この顔でいいよー⋯」

「もお!おっくれてるぅ〜!」

ナリギュの抑揚を効かせた脳天気な言い草に、私は呆れてしまう。

「ええ⋯」

「あのね、よーく聞いて?結局のところ、女っていうのは偽るものなのよ」

「ナリギュの言う通りよ!今私達は子供だから、まぁこの顔のまんまでやりくりは出来てるけど、成長していくと女の顔面なんて廃れていくもんなのよ」


【ベルヴィーの個人的な見解によるものです】


「え!?そ、、、そうなの、、、?」

それは⋯私も知らなかった⋯。

「そ!だから先ずは外見を整える所からスタートね。もう明日からスタートよ!」

「ナリギュ⋯私、まだあんま乗り気じゃないんだけど」

「えぇ〜ノリわルゥーーー」

「ルゥーーーーーーー」

「ルゥーーーーー」「ルゥーーーーーー」

この子達⋯確変に突入しやがった⋯。こうなってしまったら元に戻るまで相当な労力を使うな。何となく分かる。3ヶ月の付き合いだけど、二人の人となりは理解してあるつもりだ。にしてもここまでの“変貌”を遂げるとは思ってもいなかった。⋯と、いうことは私はまだ、二人の真髄を紐解けていなかったんだな。早い段階で人間を理解なんて到底出来ようが無いことを、私は身に染みて感じた。

「はいはい⋯、、、化粧ね。分かった分かった」

「ヤッター!」「いぇーーい!そう来なくっちゃ!」

「その代わり!あんた達もやるのよ」

「何言ってんの?」

ベルヴィーが急にマジな顔になる。

「え?」

「当たり前でしょ?」

ナリギュの素っ頓狂な顔。私⋯そんな訳の分からん事を言ったのか⋯?

「せっかくウェルニが可愛くなるんだから、私らも参戦よ!」

ベルヴィーのヤル気は満々のようだ。当然、ナリギュも。


「さてと、、化粧の手配は済んだ」

いやナリギュ、まだ“手配”は済んで無いだろ。

「どうする次は?」

「え、、わ、わたし!?」

私に聞くな、ベルヴィー。あんたらが決めんじゃないのかよ⋯、“勝手に”!!!

「んそ!ウェルニの要望を叶えてあげる!てか、叶えてあげたい!」

ベルヴィーは私をどうしたいんだ⋯。私は別にこのまんまでいいのに⋯。私にどんだけの可能性を抱いてんのよ。

「ええ、、、、」

こりゃあ何か、突拍子も無いことを言わんと会話は次のステップに進まんな⋯。もうこの“ウェルニステータスアップグレードプロジェクト”に関する意見案の提出とそれに対する当人の解答のステージは飽き飽きしてるだろ?私もだ。化粧の時点で、最悪と憂鬱な時間が流れていたのに彼女達は、まーーーーーだ当該プロジェクトの話を進めている。はぁー、何か⋯何か⋯何か⋯無いかな⋯、、生憎と私は家族から閉鎖的な生活を強いられてきたから外界の情報にほとんど関心が無い。だから焼きそばもソフトクリームもたこ焼きもetc⋯楽しめた。どうしよう⋯何か⋯。

姉貴⋯、、何か無いか??

あ、そうだ。姉貴が“道化師”にハマってるとか言ってたな。私も見せてもらったし、その後に自分で調べたりもした。どこに好奇心を持たせる性質があるのか、私にはよく分からなかったものだったので、これをぶつけてみよう。どういう展開になるか分からないが、二人に混乱が生じる事は間違いない。

道化師、ピエロ。

まさかこんな返答が来るなんて思ってもいないだろう。これで私への関心が薄れ、話が無かった事になる。

うんうん、良いシナリオの完成だ。

たまには幻夢郷からヘルプを頂きたいものだ。

──────━━━━━

そんなもの、いないけどね

━━━━━━━━━━━━



「ピエロとか好きかなー」

「ぴ、ピエローー??!!」

ベルヴィーは驚くが、ナリギュにその兆候は見られない。なぬ⋯、、まさか驚いてないとでも言いたいのか。

「えぇぇぇぇええ!!!」

よっしゃあ。やったあ。私の勝ちだ⋯。二人は仰け反った。これで二人のステータスアップグレードプロジェクトのビジョンから大きく外れただろう。ピエロに興味がある女なんて、アップグレードさせても仕方が無いだろう。

笑われるだけだ。

『ピエロなんて、なぁぁにがいいのよ〜〜!』

っんてな。まぁそんなようなことを言われるのがオチだろう。これで彼女達からの束縛されそうになり掛けた危機ある未来から解放された。私の未来は自分で決める。二人に決めてもらっちゃあさすがに困る。言っておくが別に二人が嫌いなわけじゃない。

ただ単に二人も、自分のことを考える時間を沢山当ててほしい⋯と願っているだけだ。私なんかに時間を当てなくていい。今からでも色んなことに挑戦出来るし、私の成長化計画なんて⋯⋯そんな⋯⋯⋯気が狂うでしょ⋯。

───────────

「良いじゃん!ピエロ」

───────────

【ウェルニの思考能力停止。再開にはそれなりの時間を必要とする。しかし聴力への問題は確認されていない。ここからのベルヴィーとナリギュの発言はウェルニに聞こえているが、反応の素振りを一切見せないため、弱冠、歪な会話となる事をご了承頂き、次のシーンカットをお楽しみください】


「え、そう?」

「ベルヴィー、ピエロよピエロ!」

「いや分かってるよ。ピエロが好きなんだねウェルニは」

「うん!なんか私、凄くいいものを思いついた気がする!」

「ナリギュ、、、、ピエロで!?」

「そう、ピエロで!」

「えぇ⋯いや、でもさすがにぃーー女の子とピエロなんて⋯どういう掛け合わせ?」

ナリギュは相当な自信を見せている。

「いい?ベルヴィー。“だからよ”」

「え?」

「一見すると、不気味で何かをしでかしそうで、ふざけたメイクをして拍子抜けして、ひょうきんな振りをして笑いを取るピエロ。だけどね、もし、このピエロが⋯めっちゃくちゃにイケてたらどうよ」

「めちゃくちゃに⋯⋯イケてたら⋯、、?」

「そ!更に男がやるんでは無くて女の子が!特にその女の子が可愛くて、カッコよかったら⋯どうよ!普通のピエロだと見向きもされないような姿だけど、女の子が着装するとまったくの別物になるのよ!」

「で、でもさぁナリギュ、どうせメイクしたり衣装に着替えるんだから、中身が変わってもあんまり意味は無いんじゃない?」

「フン、もっと深く、そして遠回りせずに考えて欲しいなぁ〜」

「え?」

「ウチの“名手”がやるのよ?」

「そっか⋯、、名手かぁ⋯」

「そう!私らが自信を持って世に送り出す、カッコ可愛い正に!ヴァルキリープリンセス・ウェルニ!ウェルニがピエロをやってるとその立ち振る舞いで、直ぐに人気に火がつき、噂が出回り様々な媒体から取材が来る」

「んで!その時に身ぐるみをとってネタばらしするのね!」

「いいや!ベルヴィー。その段階はまだ早いわ」

「え、そうなの?」

「そうよ。こういうのは溜めが大事なのよ。『この人中身はなどういう人なんだろう』『どんな人が入ってるんだろう』。そんな好奇心をファンに与え続けるの。その際に、ウェルニにはピエロらしからぬパフォーマンスで更なる人気獲得へと繋げ、フルマックスの文化的価値財産を目指す」

「歌もいいんじゃない?」

「いいわねベルヴィー!歌が歌えるかどうかは分からないけど、もう後付けでいいわ。てか、きっとウェルニなら出来るだろうし。ね!?ウェルニ」

「─────────────────────────────────────────────────」

「あれ、、、どしたの」

「大丈夫ー?」

二人の会話は聞こえていた。本当だったら会話の途中で、強制停止を行うつもりだった。こんな眼前に気絶している女がいるのに、良くもまぁこの二人はそんなのお構い無しで喋り続けられてるわね⋯信じられないよ二人のハート。私⋯、、半分気絶してたんだよ⋯?

「だいじょうぶよーだいじょうぶーだいじょうぶー」

「ウェルニ!ピエロって⋯」

「嫌に決まってるでしょうが!!」

「あ、、、聞こえてたのね⋯?」

あ、、、この二人、私が半気絶状態になっていることを承知で話を続行させていたんだ。ピエロ⋯あんたらが一番、お似合いなんじゃない?



同日 午前2時22分──。

剣戟軍SSC遺伝子汚染エリア混成調査部隊。

カーゴブーア機内。


「ラティナパルルガ大陸現着」

「よぉーし、パッと見てパッと調べるぞー」

「隊長、現着って⋯さっきっから、とっくにラティナパルルガには着いてたじゃないですかー」

「お前、まさか知らんのか?調査規則を」

「遺伝子汚染エリアでの任務は何回も経験しています。ですが、ラティナパルルガ大陸での調査任務は今回が初めてなんです!なのでーー、あんまり⋯」

「はぁ⋯⋯お前ってやつは⋯知らないものを知らないままで済ませていいわけがないだろう」

「すみません!」

「いいか?ラティナパルルガ大陸というのは律歴4119年に発生したツインサイド戦争の影響で大規模な放射能汚染物質が蔓延し、大陸全体がメルトダウン現象が起きた。大陸は全面閉鎖され、長い間禁足地として指定されていたんだ。1000年以上経った今では、立ち入り禁止区域の制限域は緩和され、北方地域のみ民間人の居住や生活等のライフライン設備が許可されている。だが南方地域は完全アウト。その汚染濃度は現在も平行値。俺達が今から行く所は民間人の入行許可が得られている北東地域・グリーズノートスケールのイーストベイサイド」

「イーストベイサイドって⋯確か、、海浜公園があるところですよね」

「そうだ。大陸民と観光客に向けて解放されている施設だ。ラティナパルルガ大陸は、放射能汚染の影響もあってリスクを伴う場所だ。その代わりに物件とかの生活基盤が安価。住みやすさがあるみたいだからな。人気のある場所だ」

「それで⋯なんで一回ラティナパルルガ大陸をぐるっと一周したんですか?」

「その話だったな。少し冒頭が長かった、失礼。放射能汚染の危険域として指定されているツインサイド周辺を取り囲む南方地域。あそこは、地獄だ」

「地獄⋯」

「まぁ当然だろうな。あの区域に入ると“現代”の人間は問答無用で絶命宣告を受ける。“サングイネート”。そう呼ばれているよ。あそこは大陸であって大陸じゃない。一つの大陸“サングイネート”として管理された区域。だから、政府はラティナパルルガ大陸として容認はせず⋯

◇───────────────◇

【ラティナパルルガ大陸】

❈---------------❈

【サングイネート(ラティナパルルガ大陸 旧ツインサイド周辺領域及び南方地域)】

────────────────◇

“分裂大陸”と銘打ってるんだ」

「大陸政府の許可⋯」

「お前⋯そんなに冴えた答えが出せるのに、どうして白々しい質問をしてきた?」

「え、うそ、、合ってました?」

「正しくその通りだ。お前、名は?」

「“グロフォス”です!」

「お前、アイツと同じ新兵か」

「先程同期がすみません⋯。んで!合ってるんですね!」

「ああ。大陸政府からの降着許可が下りないと、大陸の地を踏めない。サングイネートを管理しているのはラティナパルルガ大陸政府であり、多くの検査を受けてようやく大陸に足を踏めるんだ」

「俺たち、そんな検査⋯あ、」

「気づいたか?その急に冴える脳みそで」

「はい!カーゴブーアに乗り込む前、“ケアリング”を受けました⋯でもあんなんでいいんですか?」

「ダメだな。だが、良しとしている。これには俺たち剣戟軍が甘いのか、それとも大陸政府に“甘やかされてる”のか。どっちなのか分からねぇ。まぁどちらにしろ、俺らみたいな下級クラスがどうこう出来る問題じゃねえ。だから、今俺が言ったことは忘れるんだな。そして、、、深く考えるな新入り。これを、あの生真面目なアイツにも言っておけ」

「は、はい⋯わかりました⋯」

大陸政府からの許可が得られた事で、グリーズノートスケールへの降着許可が下りた。カーゴブーアは待機を命じられ、操縦士ら4名が残った。

剣戟軍はSSC遺伝子汚染信号が検知された調査範囲を行進する。しかし検知された信号は行進中、数値として確認されなかった。

「隊長」

「不要な報告は要らんぞ」

「了解」

緊張感のある時間が続く。ここから多少離れた先は、ツインサイド周辺領域に相当する立入禁止区域。調査部隊の面々は、そんなリスキーな場所の近くいることを脳の片隅に置き、行進。

まるでバリアでも張られているかのように、ツインサイド周辺領域からの汚染濃度反応は無い。それが不思議で仕方無い。超高濃度な放射能汚染が検知される前に、未だに反応の無い調査対象範囲から、小粒だと思われる遺伝子汚染を探そうとしている。何とも馬鹿げた話だ。

そして、不思議な大陸だ。


目的座標最終地点、イーストベイサイドまでやって来た。

その時、遺伝子検知信号に【ONLINE】が表示される。

「これは⋯」

「間違いない。隊列を再編!イーストベイサイドを完全封鎖!現時刻をもって、イーストベイサイドの出入りを一切禁止する。エリアの何処かに遺伝子汚染を持った人間がいるはずだ!探せ!!」

隊長の掛け声と共に、兵士はイーストベイサイドは封鎖。海水浴場でアクティビティを楽しんでいた民間人はパニックに陥る。兵士が一人一人、民間人を招集し、剣戟軍が指定したワンポイントフィールドに集めた。およそ100名の利用者は互いに不安を募らせる。

「皆様、皆様、お静かにお願いします。我々は剣戟軍調査部隊です。現在、イーストベイサイドに遺伝子汚染が確認されたとの検知情報が発生しました」

この台詞で利用者は大パニック。

─────────────────────┤

「え、、嘘でしょ⋯この中に⋯」

「おい!早く名乗り出ろ!」

「そうだ!誰が感染したんだ!」

「お願い!名乗り出て!わたし!まだ死にたくないです!」

「俺もだ!!頼む!」

「分かってるんだろ!自分では!!た、体調が悪いはずだ!感染者は体調が悪くなりそこから超越者へと変貌する⋯!」

「じゃ、、じゃあ身体を調べろ!」

「そうだそうだ!剣戟軍!さっさと怪しそうなヤツの身体を虱潰しに調べやがれ!!!」

「こんなところで死ぬなんてごめんだ!!」

「やっぱり⋯やっぱりここに来るなんて自殺行為だったんだわ⋯!!!」

「お願い!!みんなが生き残る為に!!この中にいるんだろ!!セカンドステージチルドレンが!!!」

─────────────────────┤

「分かっています。皆様の健康が何よりも優先されるものです。お一人ずつ順番に身体検査を行って参ります。なので、皆様もご協力をお願いします」

「何分かかんだよ!!」

「それまでに感染が広まったらどうしてくれんだよ!!」

「生憎と超越者検知システムは一基しかございません。ですが、性能は確かです。確実に感染者を特定する事が可能なものですので、ご安心ください」

剣戟軍調査部隊に同行した、科学研究班所属の“アロムング”が混乱中の利用者を落ち着かせようと宥める。隊長共々、クセのない普通の40おじさん。そんな普通の言葉でなだめられた方が利用者としてはまだ、楽なのかもしれない。しかし、二人の奥に秘めたる潜在意識は誰にも理解出来ないものだ。


『必ず、超越者をあぶりだす』


その想いが胸に込み上げられ、内側から外側へぶち破けそうになる。そんな『あぶり出す』という行き過ぎた表現方法は内側に抑制しつつ、一人一人、検知作業を開始。



「ねぇ⋯これからどうなるの⋯かな」

「分からない⋯私達⋯今日帰れるよね⋯?ねぇ、、、ウェルニ」

「う、うん⋯大丈夫だよ⋯絶対⋯うん、、うん、、大丈夫⋯⋯」

やばい⋯剣戟軍だ⋯どうして⋯なんでここに剣戟軍がいるのよ⋯この大陸にはもう来ないんじゃないの?違かったの?あれはただの盲信?なんで⋯⋯なんでよ⋯やばい、、言われるがままに兵士に連れられて、行列に入ってしまった。まだ⋯90人ぐらいは前にいる。運が良かったのは私達が列の最後な事。しかし、それにほぼ意味は無いだろう。恐らくは⋯いや⋯多分⋯⋯その確率は高い。

──────────────

剣戟軍は私の遺伝子を検知したんだ⋯。

──────────────

そうとしか考えられなかった。仮に⋯もしそうじゃなかったから私以外の血盟がイーストベイサイドにいる⋯という事になる。可能性としては考えられるが、それは稀だろう。

はぁ、、私は警戒心が薄すぎた⋯。まさかこんな所で⋯家族にも何も言えずに⋯みんなの元を去ることになってしまうのか⋯。短い人生だったな⋯。

二人にもこれから、迷惑を掛ける時間が発生する。

血盟者と一緒に居たんだから、事情聴取だって無限にされる。ベルヴィーとナリギュの自由時間を搾取してしまう⋯。

本当にごめんなさい。

何度も何度も謝っても恨まれるだろう⋯。

でも、こうするしか私には出来ない。

本当に、ごめんなさい。

本当に、ごめんなさい⋯。

「ウェルニ?」

「⋯ハッ⋯⋯」

「どうしたの?」

「あ、、、いや⋯なんでもない⋯」

ここで二人に『実は⋯』と言って、罪が緩和されるんだろうか。いや無理だな。私から他人に遺伝子感染が起きる事は無い。そういった面では安全は確保されているものだ。

私はあくまでも、“血盟”であって、超越者の純血を後継した存在じゃない。だから体内に備わっている遺伝子は薄い。だが⋯アトリビュートである事には違いは無い。

剣戟軍は私にあの、“デバイス”を当て、変異体物質の規定値が満了される⋯。

その後は⋯確保されそうになり、私はそれに抵抗し、イーストベイサイドは更なる大パニックへと連なる。そうなってしまうともう止めようがない。私はここにいる人間達を殺さなければいけない。これは親から言われた“緊急事態行動のマニュアル”。

───────────────

自分の身に危険が生じた判断した場合、その周辺で自分の存在を観測した人間達を全て皆殺しにすること。

───────────────

これは決定事項。家族との約束。姉貴も了承していた。だから私も迷うこと無く、頷いた。

自分達の命を守るため。

皆殺しにした後は、すぐさま家族に報告し、居住地を変更。今までの居住変更は“皆殺し”に相当するケースは無かった。ただ単に、バレる危険性を察知した為の居住地変更。

だが今回は⋯⋯⋯これは⋯、、、最悪のケースに該当する事案だ。

次々に検知作業を終えていく。円滑に進む時もあれば、機械のトラブルなのか故障なのか、進行が一時的に停止する場面もあった。それでも尚、発生したトラブルは解消され、また一人また一人⋯と検知作業が遂行されていく。

逃げるなら今だ⋯。今しか無い⋯。だがこんな海浜で逃げようにも遮蔽物が一切無い。海の家前に列が形成され、蛇のようにウネリウネリと等間隔に列が曲がる事で、およそ100人の列は成されている。ここから出るのは⋯至難の業と言えよう。

どうしよう⋯抜け出したとしてもどうやって二人に話せばいいんだ⋯。どうやってベルヴィーとナリギュを納得させられるんだ。

「私⋯怖い⋯」

「ナリギュ⋯」

「ここに⋯⋯アトリビュートがいるの⋯?」

「ベルヴィー⋯」

─────────

「名乗り出てほしい⋯」

─────────

ベルヴィーがそう言った。血反吐が出るような尖った言葉だった。首元に突き付けられたナイフが喉元を引き裂き、多量の出血を出しながらも、首の中⋯断面図を確認し、食堂へと連なる器官をも破壊する。ベルヴィーが言った事に間違いは無い。

当たり前のことだ。こんな無関係な民間人が急に寄せ集められ、自由を奪われている。

迷惑以外の何ものでもない。

「ウェルニ?どうしたの?凄い、目、開いてたけど」

「う、ううん⋯大丈夫だよ⋯そうだね⋯」

「うん?“そうだね”ってなにが?」

ナリギュの問い詰めが心の奥底に眠らせている“秘匿性”を帯びたものへの干渉を思わせる。彼女にはそんなつもり1ミリも無いだろうに。勝手に私がそう思ってるだけだ。何も気にするものじゃない⋯。

普通に会話すればいいんだ⋯普通に会話を⋯すれば、、、いいんだ。

「いや⋯⋯早く⋯⋯遊びに戻りたいなぁってさ」

「だよね〜⋯本当にダルいよー。私達の至福のときを奪ってんじゃねぇよッてんだぁ!」

「ほんそれ」

├───Humans Side:Assault Weapon Army───┤

「はい、こちらアロムングです」

剣戟軍総指令本部から、ビーウォーク中尉の着信。アロムングは少々迷いつつも、デバイスを手に取り嫌々な感じで連絡を受けた。

「まだ見つからないのか?」

「はい。今、イーストベイサイド利用者全員への遺伝子汚染検知作業を順調に進行中ですが、お目当ての信号を検知するような素体を確認出来てはいません」

「そうか、なるべく早めに済ませろ。そこで遺伝子汚染が検知されたのは間違いない。もし、イーストベイサイドで感染者が確認出来ないのなら、何処かに移動した可能性がある」

「ご心配無く。イーストベイサイドまでの道中で遺伝子汚染反応は検知されませんでした。感染者がいるとしたら⋯ここです」

「手短にな」

「了解であります」

電話を切る。


「本部からか?」

「そうですね。そうでした。隊長」

「なんだ?」

「当該調査部隊隊長“ペトライズ”さんとしての見解を聞きたいのですが、感染者を発見した場合、該当人物をどうするつもりでしょうか?」

「そんなの、俺に聞かないでくれ。俺は何も知らん。これからどうなるのか、見つけたとてそいつをどうするのか⋯。まぁ、一般公開されてる情報を“鵜呑み”にするのなら、七唇律聖教への生贄提供だろうな」

「本当にそうでしょうか?」

「なに?」

「私は“アインヘリヤル”を信じているのです」

「朔式神族をか?そんなのを信じるなんてな⋯」

「珍しいことではありませんよ。私のように何人もの人がアインヘリヤルの皆様のお言葉を受けて現今を生きています」

「アインヘリヤルが?何を言ってんだよ」

「“トネリコの預言書”をご存知ですか?」

「いいや、なんだねそれは知らないぞ」

「“黄金”、“乳香”、“没薬”。アインヘリヤルの朔式神族が律歴3999年以前に戮世界テクフルに降り立った際に、七唇律と共に持ち込んできた聖遺物の一部だ」

「そんなもの、初めて聞いたぞ」

「メジャーなものでは無いですから。私のような特殊部隊に配属された人物ですら、興味の抱かないエクストラルートだもんで。私は⋯ちょっと変わった人物だというのは、ご存知ですよね?」

「当たり前だ。ゲッセマネプロトンを可能なまでに復元させたのだからな」

「残念ながら、私は先人達の記憶を辿ったのみです。それに未だに完全体としてサルベージ化された訳でも無いので、ゲッセマネプロトンの最終復元はまだまだ何年も掛かりますよ」

「んで、ゲッセマネプロトンのステージアップ功労者・アロムングくん。聖遺物というのは?」

「それについて話そうと思っていたところでしたが⋯」

その時、検知信号機に振動⋯つまり変異物質のシグナルを受信した。

「では、目的の者を拝みに行くとしましょうか」

├──────────────────────┤


「ん?どうしたの?」

「なんか、止まったね」

「そ、そうだね⋯」

止まった⋯?まだ70人ぐらいは列を成している。というか、私は最後尾。遺伝子汚染は私じゃないの?どうした⋯?列の前で一体なにが起きたんだ?


3分後──。


「あ、動いた⋯」

「ん?なんだったんだろうね」

「⋯⋯⋯⋯⋯」

私以外に⋯アトリビュートが⋯⋯⋯?



「どうしたんだ?」

「はい、どうやらこの方に遺伝子汚染反応を検知したようです」

調査部隊隊長“ペトライズ”が兵士の元へ。

更に、信号を検知した受信元の利用客に迫る。

「わ、、、わたし?ち、違うよ!違う!何かの間違いよ!」

「ですが、遺伝子汚染を検知したのは間違いありません」

ペトライズの後ろからアロムングが姿を現し、受信元の女に不敵な笑みを浮かべながら、そう言う。アロムングはこのシチュエーションを楽しんでいるようだった。

「違うよ!私⋯⋯私⋯普通に海で遊んでただけだって!!」

「ですが、信号を検知したのには違いありません。この数値に間違いはないのです」

「いいや!ウソっぱちだね!コイツらは騙してるんだよ!」

するとその女の友人達がアロムングに強い憤りを見せる。

「そうだ!もし“レイノーズ”が感染しているなら、俺らだって感染しているはずだ!」

「レイノーズとは同じ行動範囲だった。さっき俺らには何の問題も無かったんだろ?じゃあなんでレイノーズだけが感染する羽目になるんだよ!」

レイノーズの友人グループを代表して二名の男が、剣戟軍に、アロムングに物申した。この二人の憤激と共に、後方に並んでいるイーストベイサイド利用者達からも批判の声が上がる。

「いつまで待たせんだよ!」

「早く終わらせろ!」

「いい加減にしろ!こっちは暇じゃねぇんだよ!」

多種多様、人が違えば、人それぞれの過去を想起させる低能な言葉が列挙される。だがそこに言葉の違いは無い。“多種多様”というものに該当するのはその“発言の仕方”のみ。簡単に言うと言い方だ。剣戟軍に暴投される言葉を活字にすると、酷似した内容は数多確認する事が出来るだろう。

アロムングはこの状況を笑い、前方にて広がる暴投者達を一気に黙らせた。

この笑い、アロムングとしては黙らせる気など一切無い。


「あなた、レイノーズさん?」

「な、、なに⋯⋯私、感染してないわよ」

「そうそう、感染していない。失礼致しました。これはとんだ間違いだったようです。本当に、本当に、大変に、大変に、失礼しました」

「、、、、、なんなのよアンタ」

「気色の悪いジジイだな」

「レイノーズ、行こうか」

「うん⋯⋯」

男二人は、気負いのレイノーズを列から外れ、その場から離れようとした。しかし、その行く手を遮る剣戟軍の兵士。他の道を選択しようにもそこには別の兵士が。やがて、三人は八人の兵士によって包囲された。

「ちょ⋯⋯⋯と、、、」

「おい!お前ら!なんの真似だ!」

「感染してねぇんだろ!このオッサンが言ってたじゃねえか!」

「感染していない。はい、私はそう言いましたとも」

「あぁん?テメェこのおっさんラリってんじゃねえの?」

「いいえ。至って健康的ですよ。自慢じゃないのですが、今まで健康診断で引っかかった経験がありません。なので貴方の戯言には全力で訂正させていただきます」

「⋯はぁ?」

「何こいつ⋯マジでイカレてんじゃん」

「⋯⋯⋯あの!もうなんなんですか!これが剣戟軍のやる事ですか!?これが大陸を守る者の務めなんですか!」

剣戟軍がマークしたレイノーズが、まるで今言い放っている台詞が“正論”かのように、自信満々で言い切った。

「はい。今、“務め”を果たしているのですが⋯⋯」

「はぁ?」「はぁ?」

そして、呆然とするレイノーズ。

「“感染していない”。私はそう言いました。そうですともそうですとも。確かに完全に上手いように100%の確率で⋯そう、言いました。そう言うと貴方達は直ぐにその回答を鵜呑みにし、私から逃れようとしましたね」

「はい、しました。だって、感染していないんだか⋯」

─────────────

「それが、感染しているサインなんですよ」

─────────────

「え⋯⋯な、、何を言ってるんですか⋯⋯」

「聞こえませんでしたか?まぁそうでしょうそうでしょう、そのはずです。もうそろそろ貴方の思考能力は極端に低下します」

「え、、何を言ってんのン⋯⋯でシか」

「凶兆の発生を確認。兵士の皆様、射撃態勢に移行開始」

アロムングの掛け声で八人の包囲兵士が射撃準備態勢をとる。その行動が列を成す利用客の前で行われると、途端に利用客らはどよめきの声が上がる。

「な!な、、なにを⋯!!」

レイノーズが一気に戦慄。ここで彼女の心が急激に狭まった事を確認した。それは顔面に浮き出る感情の定まら無さと、手先の動揺が十分な材料となる。

「おい!いい加減にしろ!」

「お前ら!これが剣戟軍のやることか!!なんなんだよ!」

「だから仰っている通りですよ。務めを果たそうとしているのです。今からレイノーズを殺します。そして残念ながら、そこの男性二名、あとレイノーズの背後に並んでいたそこの女性、あ⋯そうですね、レイノーズの背後に並んでいたそこの女性、そう、そこの貴女。私から目を逸らすのはやめなさい。貴女は特別検査です。場合によって貴女の友人も検査対処となりますので、少々お時間をお願いしますね。さて⋯問題は君達だ」

この三人、もう喋っていない。抵抗することを諦めたのか、全く知らないおじさんから急に『殺す』と言われたからなのか⋯状況をまだ飲み込めていないようだ。

「感染しているのは事実です。虚偽ではありません。七唇律聖教への冒涜は、私達剣戟軍は絶対に犯してはいけない反逆行為ですからね。⋯⋯⋯失礼。私、七唇律聖教の元教徒ですので、敏感なのですよ。⋯⋯⋯失礼。諧謔が過ぎました。『殺します』と言ったのは訂正しません。本当に今から、御三人を殺めさせて頂きます」

「どうして⋯どうして!!!なんでよ!!!私は!普通に!!休みの日を楽しんでいただけ!!なのに⋯!!急に⋯!こんなの無いよ!!」

「申し訳ありません。私から発された無駄話が長すぎたがあまり、貴女達への“ダスローラー処理”に関する説明時間が無くなってしまいました」

「はぁ⋯!?ちょ、ちょっと待ってよ!!」

「十の懲罰が4に掛けられた⋯。割礼の楽園へ」

──────────────────────◇

『割礼』

──────────────────────◇

剣戟軍兵士全員が復唱。

包囲した兵士が三人を処理。騒然となる利用客。

八人が包囲した形状はサークル。中心地に処理対象者を取り囲んだパターンをとった。このまま射撃をすると貫通した弾丸が、その先に位置する別の兵士に直撃する可能性が考慮される。

しかし、その不安を抱く必要性は無い。少なくとも、この者らを処理する時は。

「やはり、私の予見していた通り。感染者の肉体硬直は想像以上の成長っぷりを見せていますね。これは研究が捗ります。兵士の皆様、ささ、この三人を回収してください」

「おいアロムング。この三人は⋯」

「言われずもがな、理解しております。しかしこれが教皇様の御前まで通される代物かは、分かりかねますがね」

「一応だ」

「承知しましたよ」


困惑する利用客はそっちのけに、事後について話を続ける剣戟軍。利用客のリアクションなんて全く気にしていない。もう用済みかのような対応だった。

「殺した⋯のか、、」

利用客を代表して男が一人出て来た。

「ああ、そこの先程のレイノーズの後ろに並んでいた貴女。検査の方に参りましょうか」

「おい!聞いてんのかよ!!」

「は、はい⋯。ビックリしますので、急な大声はやめていただきたいものですよ」

薄ら笑い、利用客を蔑むかのように心にも無い言葉を述べるアロムング。

「えーそうですね。今、皆様が疑問に思っている事は⋯薄々ですが理解出来ます。ですが⋯えー⋯そうですね。なんだかその疑問というのが、あまり宜しくないようにも思えるんです。それは皆様のお顔を覗いても判断出来うるものですし、お顔を見なくても、胸の高鳴りで判断出来ますね。中々に彷彿とさせるものを感じます。何から聞きたいのでしょうか?」

無言になる利用客。アロムングに聞きたい事が山ほどある利用客。だがそんな疑問をぶつけられない利用客達。アロムングの思考は完全にとち狂っている。

この男に、もう絡みたいと思えないのだ。

話しかけたくも無い。

その気色の悪い判断が可能な声を聞きたく無い。

今すぐにでもここから立ち去りたい。

全員の脳みそに統一化された感情の一部。

憤怒に塗れた人間的衝動の頂点行動。

だが、こんな軽装備で剣戟軍に立ち向かえない事ぐらい、ガキでも分かること。やるせないこの想い。

また何かを言おうとしている。

まだ利用客を困惑させるつもりか⋯。


「今、レイノーズの背後に並んでいた方の遺伝子汚染検査が終了しました。分析結果は⋯⋯問題ありません。良かったですね、処理対象者として認識はしません。ですが、服薬指導に付き合ってもらいます。それと共に、この方の友人の皆様にも協力してもらいますよ?この方を⋯失いたくないでしょう?」

「⋯⋯分かった⋯⋯だから、、、殺さないでくれ」

レイノーズの背後に並んでいた女の友人が、慈悲を慟哭する。

「そんなそんな!私達は殺人鬼じゃありませんよ。慈悲を嘆くような素振りは止めてください」

怒りを滲ませる者。残酷な洗礼を受け止めきれない者。

とてもじゃないが、テクフルを守る政府直属機関としては思えない常軌を逸した言動の数々。

「どうして殺した!!!」

利用客を代表し、先程とは違う男がアロムングへの怒りが乗じる。そして発言された言葉がこれだ。如何にも剣戟軍への敵意が感じられる言葉。

「マトモな事を言えよ?ふざけた言い回しはすんな」

「⋯⋯⋯分かりました。この“言い回し”は直せませんが、なるべく、努力します」



剣戟軍が感染者レイノーズを含めた計三人の処理を実行する6分前──。


「ねぇ⋯何が起きてるの?」

ベルヴィーの疑問は皆が思っている事だ。特に後列。前列の様子を肉眼で目視出来ないような連中は、強く思う。

「なんか⋯さっきよりもザワザワしてない?」

「⋯⋯⋯⋯⋯」

私はずっと⋯どうすればいいのか困っていた。悩んでいた。私のせいで⋯最悪の休暇になってしまった。でも、確かにこの騒々しい雰囲気はなんだ?まさか⋯本当に⋯⋯“感染者”が現れたとでも⋯?

イーストベイサイドは、汚染区域に指定されていない。もし感染者が確認されたとするならば⋯ここは⋯⋯嘘でしょ⋯⋯まさか⋯ここに⋯⋯遺伝子汚染の進行が⋯?

───────

「ウェルニ」

───────

背後から私の名前を呼ぶ声。この声⋯え⋯なんで⋯。

「お姉ちゃん!?」

姉貴!?

「え?」「うん?」

「大丈夫ウェルニ?」

「お姉ちゃん⋯!?ど、どうしてここにいるの?」

「話は後。さ、ほら早くここから出るよ」

「ちょちょっと待ってよ」

「何がちょっと待ってなの!?ウェルニここにいたら死ぬんだよ!?」

「⋯⋯うん、分かった」

「ウェルニのお姉ちゃんですよね?」

「えっと⋯ベルヴィーとナリギュよね。覚えてるわ」

「お久しぶりです、お姉さん」

「ええー久しぶり。ちょっとウェルニはもうここで失礼するから」

ウェルニを二人の元から、そして列から、引き離そうとするミュラエ。

「うん、、ありがとう。でも待って」

「なに?早くして、ここに居たら危険なの」

「お姉ちゃん、少し、時間を⋯お願いだから」

「⋯⋯早くしてね」

ミュラエはベルヴィーとナリギュの方を見る。ウェルニが二人に何を話すのかは分からない。だが、無駄なことを話すような妹だとは思っていない。姉として、妹の行動をここは信じる事にしよう。


「二人とも⋯一緒に来て」

「え?」

「一緒に⋯て?」

「ウェルニ!」

「お姉ちゃん、お願い。この二人も一緒に⋯」

「⋯⋯」

ウェルニ⋯⋯そんなにこの二人が大事なのね。

「分かった。2人も行くよ」

「え⋯」

「な、、、なに⋯⋯ほんとに⋯え、、、」

二人はミュラエとウェルニに連れられるがまま列から離れた。その姿は、剣戟軍の目に一切入ることが無かった。

「え、、うそ、、、」

「ど、、どうして⋯!?なによ⋯⋯、、これ」

剣戟軍の視界に絶対入っている。

ミュラエ、ウェルニ、ベルヴィー、ナリギュ。

この四人が列から外れる行動を取っている。この様を見て見ぬふりをするような、低脳人間は剣戟軍に入れない。なのに、剣戟軍は四人の行動に一切の不自然さを感じていない。ベルヴィーとナリギュは、剣戟軍に対して、不自然さを感じた。

当該行動を先導するミュラエとウェルニ。ベルヴィーとナリギュはそんな二人について行く。⋯というより、半強制的に帯同。二人の理解が追いつかないまま、事が運ばれていった。

「ウェルニ⋯どういうこと?」

「どうして⋯⋯私達⋯⋯いとも簡単に、列から離れられてんのよ、、、兵士の目の前を通ってたよ⋯??」

「なんで気づかれなかったの⋯⋯」

「ごめん二人とも。話はあと。今はここから離れるのが最適解だ」

ミュラエがウェルニに代わって、反応。二人は更に困惑する。


ラティパルハーフサークルライン ベイサイドステーション──。


四人はイーストベイサイドを離れ、隣接する駅まで走った。ベイサイドとは目と鼻の先だが、ここに剣戟軍の姿は無かった。どうやら周辺地域を警戒するほどの事態では無いのかもしれない。

「あの⋯」

ベルヴィーの視線はミュラエに向いている。

「二人ともごめんね。今日はもうおしまい。二人はそれぞれの時間で帰りなさい。ベルヴィーが先で、ナリギュが次。安心して。ナリギュには次のダイヤまで不可侵透明膜を張っておくから」

「あ、あの⋯ウェルニは⋯?」

ミュラエとウェルニ。

ベルヴィーとナリギュ。

二組の間には、線引きがされていた。それは紛れも無く、ミュラエが引いたもの。実際、線引きがされているのは感覚的な問題ではあるが、ベルヴィーとナリギュはウェルニに近づけない状態を肌感で感じた。

ミュラエが、ベルヴィーとナリギュからウェルニを遠ざけている。そのように感じ取れた。

守っている⋯。

そう捉える事が出来たら、“かっこいいお姉ちゃんだなぁ”で済む話。しかし事が事だ。イーストベイサイドから、駅前まで一切の事情を話すこと無く、『帰りましょう』と言われる始末。ベルヴィーとナリギュにとって、脳内がパンクするのも無理はなかった。


「ウェルニ?大丈夫?」

「ごめんね、ベルヴィー、ナリギュ。私のせいだ」

「ウェルニ?」「ん?どういうこと?」

「ウェルニ、もういいから。さ、ほら、帰るよ。二人ともごめんね。ウェルニはちょっと体調が優れないみたいなんだ。今日も家から出る時に、体調が悪かったんだよ。でも“二人と遊びたい”って言うから許可を出したんだ⋯。これは姉である私の責任よ。ベルヴィーとナリギュも帰りなさい」

「で、でも⋯」

「いいから、帰りなさい」

ナリギュの思い虚しく、ミュラエの言葉に玉砕する。二人は言われた通りホームへと歩いた。

「ウェルニ、また遊ぼうね⋯」

「うん⋯ごめんね⋯」

そう発したのはベルヴィーだけ。ナリギュから別れの挨拶は無かった。ウェルニは二人が遠くに行ってしまうのを感じる。それは物理的なものと同時に意識的なものであり、精神的な面を持つ複合マインド。

二人の言動から齎されるマイナスのイメージ描写。関係性が壊れることを示唆するような、予知が私を支配する。

怖かった。怖い思いをした。

二人が⋯私の傍から離れていく。

もう二度と⋯⋯会えないような⋯。会えたとしても、何から話せばいいのか⋯。何を話しても、不要な感情が乗じ、正当な会話にノイズが発生してしまう。

なんだろう⋯この感じ。

私、姉貴に⋯人生壊された。


二人が駅へと歩き、ミュラエとウェルニは駅から離れる。離れた先は海浜から少し先に位置した海浜公園。そのベンチに座った。姉妹二人、横になって。二人の間には僅かな溝が生じていた。

「お姉ちゃん⋯」

「あなた⋯⋯」

「何してんのよ⋯なんで⋯なんであんなことしたの!?ベルヴィーとナリギュになんて事言ったのよ!それに、なんでここにいるの!!」

「ウェルニを一人で外出させると、本気で思ってたつもり?私はウェルニを追っていた」

「なんでよ⋯!なんでそんなことするの?」

「心配だからに決まってるじゃない。それ以外に何があるの?」

「心配されなくてもいいの!もう私はそんな子供じゃない」

「本当だったら、本格的に三人について行こうと思っていた。三人の友情関係にノイズが走るけど、致し方ない⋯。だけど、ウェルニの顔を見ると⋯三人の空気を邪魔する訳にはいかない⋯。そう思ったんだよ。でも、ウェルニの行動を監視する必要がある」

「お姉ちゃんの遺伝子、一切分からなかった」

「そういう面も含めて、あなたはまだまだ子供なのよ。それにウェルニ。あなた⋯剣戟軍に見つかる所だったのよ。もし私があの場に居なかったら⋯あなたは確実に殺されてた」

「私は大丈夫!大丈夫なの!お姉ちゃんの力が無くても絶対に何とかできたもん!」

「⋯⋯たった今、剣戟軍が感染者を殺した」

「そんな⋯」

「運が良かったね。私ら以外にも遺伝子反応を検知する素体がいたみたい。だけど私達とは違う、“感染者”よ。結果的には、本当に⋯運が良かった」

ミュラエが涙を流す。一滴の涙を確認すると、今までウェルニに走っていた、ほとばしるエネルギーが収束。複数に発現されていた外部へ放出されうる原料が、感情直結を停止。“怒り”が収まる。

「⋯⋯⋯お姉ちゃん」

「あなたが⋯本当に⋯、、心配だったの。心配で心配で、ずっと見ていた⋯。あの二人とは本当に良好な関係のようね。本当に嬉しいよ。その時間の邪魔をしてごめんなさい。でも⋯本当に⋯心配した。あなたが殺されるんじゃないかって⋯。前列に感染者がいたのには驚いた。剣戟軍が来た時、間違いなくウェルニの遺伝子を検知したんだと思ってた。感染した女性には申し訳ないけど、ウェルニは生きてる⋯。私にはそれで十分⋯」

「お姉ちゃん⋯」

ミュラエの想いが伝わり、ウェルニは言葉を無くす。それは失望による産物では無い。ミュラエの愛情を身に染みて感じ取った、寵愛への回答だ。

「私達は、違う道で帰ろう」

「うん、分かった⋯お姉ちゃん⋯⋯」

「まさか⋯こんな所で感染者が発生するなんて。もしかしたら、遺伝子汚染が拡がっているのかもしれない。早くここを出よう」

「うん⋯⋯」

「ウェルニ、本当にごめんなさい」

「いいのよ、お姉ちゃんは私が大事だから⋯こういうことをしたっていうのは伝わったから。もう大丈夫」

「ベルヴィーとナリギュには、後日私から話すよ」

「ううん、私も一緒にいるよ。お姉ちゃんだけだったらあの二人、怖がっちゃうよ」

「怖がる⋯か。そうだね⋯驚かせちゃったもんね」

「きっと今も、驚いてるよ。お姉ちゃんの能力を纏わせてるんだから」

「アレで⋯遺伝子汚染と自身を襲う外敵からは目を欺ける」

「お姉ちゃん凄いね⋯そんなのどこで覚えられるの?」

「ウェルニと違って一年早く産まれているからよ」

「たったの一年で?私⋯そんなの一切無いんだけど⋯」

「能力覚醒の兆候はいつ訪れるか分からない。一年後に発現出来るかもしれないし、もし出来たとしても私とは違う別のスキルかもしれない。ただの個人差よ。気にする問題では無いわ」

「そうなの⋯?」

「そうだ。ウェルニも私と同様、セカンドステージチルドレンの血盟だ。そしてこの力を屠る奴がいるのも事実」

「ミュラエ、帰ろ」

「うん、そうだね。帰ろう。パパとママに報告しなきゃ」

「待って」

「ん?」

「ミュラエ⋯」

「ウェルニ、パパとママに言わなくてもこの噂はきっと直ぐに広まる。あんなに多くの者が目撃したようだ」

「目の前で⋯?殺したの?」

「そのようだ」

「そんな⋯なんてことを⋯」

「100人以上の人間が証人として台に立てる。全ては七唇律聖教だ。大陸政府と剣戟軍は七唇律聖教には勝てない。七唇律聖教は戮世界に於いて危険因子だと判断した者は、容赦無くそいつを殺す。それが戮世界の為だから。剣戟軍も大陸政府も、七唇律聖教の駒に過ぎない」

「七唇律聖教⋯。覚えておくよ」



その夜、両親に話すよりも先に剣戟軍がラティナパルルガ大陸に降着した事についての話が展開された。


『イーストベイサイドに遊びに行ってくる』


両親に伝えていたせいで、かなり心配させてしまっていたようだ。両親はミュラエがウェルニの後をついて行くのを知っていた。それを聞いて私は『まぁだろうな』とは思ったが驚く素振りを見せる。私が私であるように、家族にはそう振舞った。別に家族にだけじゃないけど。

両親も姉貴同様、私のことを心配してくれた。


「良かった⋯⋯本当に良かった⋯」

「ウェルニが殺されたんじゃないか⋯と、、心配で心配で⋯」


これ以上は内容的に誤差はあるものの、意味合いは同等のものなので割愛する事にしよう。私は愛されている。それが、嬉しかった。父の強く抱き締める手のひらを背中で感じ、その手に寄り添う流れで、母の手を感じる。

なんというか⋯どう表したらいいのか⋯⋯私はまだ、生きていいんだ⋯⋯ってそう、思えてきた。何かに虐げられたりしていた経験は無い。だけど生活の制限を受けていたのは事実。

今日だってまさか外出許可が下りるとは思ってもいなかったから。でも、これのせいで今後当面は外出許可が下りなくなってしまったな。まだそんな話をする時間も無いほど、両親からの愛情を受けているが⋯。恐らくは外出可能な範囲が狭まるか、今回のように姉貴が同行する形となる。はぁ⋯⋯また、規制のある毎日。

私から自由を奪った日。

そんな紆余曲折な一日が終わるを迎えた。

ベルヴィーとナリギュ。二人と話さなきゃ。



時間は遡り、イーストベイサイド──。

処理執行後──。


「良いでしょう。皆様に今回の事案発生について少しだけお話するとしましょう」

「アロムング」

「分かっていますよ隊長さん。伝えても無意味な内容を口にするだけです」

パトライズとアロムングの密談が終了。アロムングは再び、利用客に向けての言葉を放つ。

「感染者を殺すのは至極真っ当な行動。それはお分かりですね。皆様が疑問なのは、“遺伝子汚染を一旦は否定した”、という所でしょうか。それについて説明したいと思います。感染者に正確な判断なんて出来ないのですよ」

「なに⋯?」

「レイノーズさんに言ったその言葉は、感染の有無をアナログ式で確かめる最終ジャッジ。それをしたまでです。ここでそぐわない回答が出せれた場合、剣戟軍は容赦無く感染者を葬らなければなりません。だって、感染しているのだから。悪魔の血が拡大するのを止めなければ。なのに、レイノーズの友人さんら二名は、感染者に近づき肌の触れるにまでのコミュニケーションを取った。これはダメですね。実にやってはいけない行動です。自ら、殺されにいっているようなものですから。私達も処理を楽しんでやってなんていませんよ。皆様のお目目にはどう映ってるのか、判断しかねますが、それだけは分かって頂きたい。私はイーストベイサイドでの感染拡大⋯クラスターを引き起こすのを阻止したまで」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「無言というのは、ご理解頂けた⋯と受け取って宜しいのでしょうか」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「どうやら、言葉にするまでも無いほどに、私達を憎んでいるようですね。ですがこれが世の常。大陸政府が定めたルールです。⋯⋯七唇律聖教への反逆ですよ」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯!」

利用客らにようやくのリアクションが浮き出る。

「最初からその名を出しておけば良かったのですね。レイノーズさんと他二名の友人方、まだいらっしゃいますのでしょう?」

感染者レイノーズの友人は、まだ四名いた。

「あなた方に問題はありません。急に友人を無くして意気消沈としていると思うのですが、感染拡大を阻止できた⋯とご理解頂けると幸いです。わたしたちも⋯⋯ほんとうに⋯⋯殺めたくはありませんでしたので」

とてもじゃないが、アロムングに台詞からはその言動“本来の意味”が乗っかっていなかった。いちいち鼻につく言い方で鬱陶しい。そして利用客を馬鹿にするかのような陰鬱なトーン。彼のマッドサイエンティストさが余日に出ていた。

「彼女達のご家族には、後ほど剣戟軍と大陸政府が直々に連絡を繋げます。割礼金も十分なものを御用意する予定であり、七唇律聖教からの聖言を承りましょう。朔式記念日と同等の内容でね。それはまぁきっと、甘美な“サクラメント”になる事でしょうね。夢幻の勇士“ラスミスパラディン”が詠う名残歌のようだ⋯。疎ましくもあり、羨ましい限り⋯。他に何を願い望むとでも?」

「⋯⋯⋯⋯」

無言なことに変わりは無いが、先程よりも表情に綻びが表れていた。納得した⋯とこちらの都合で勝手に解釈するアロムング。

「その反応を待っていました。七唇律聖教の葬送方式にて、執り行います。ニーベルンゲン形而枢機卿船団が責任をもって葬送の帯同と“シスターズ”からの恩叙を。ここにいる者は証人です。私は言いました。葬送の手配を、済ませます。皆様、聞きましたね、入れましたね。よろしくお願いします。では、アクティビティを楽しんで。あ、遺伝子汚染の危険性はありませんので、ご安心を」


剣戟軍がイーストベイサイドを立ち去った。

「⋯?」「⋯?」

遺体は剣戟軍が回収。飛散した血液も清掃が成され、“処分”が済んだ場所だとは思えないほど、綺麗になった。

「⋯?」「⋯⋯⋯?」

「気になるんだったら行ってきたらいい」

「君の方こそ、相当気になっているようだけど」

「命令だ。“退却”とな」

「へぇ〜、こんなところでは優等生ぶるんだー」

「これが俺だ」

「ふぅーん、機内でのやり取り見てたよ?」

「グロフォスとは目が合ってた。そんな報告要らない」

「僕と君は同じだ。それに、あの子達もね」

「何故、見て見ぬフリをした?」

「それは僕も聞きたいことだよ」

「面倒な作業になるのは分かってる。早くここから出たい。その一心だ」

「真面目な雰囲気出しといて、案外単細胞なんだねクレニアノンって」

「最初の信号が、レイノーズとかいう女感染者の検知シグナルだと思うか?」

「まっさかー。んなわけ無いじゃん。しかも途中から“増えてた”し」

「どうやら、助けを呼んだみたいだ」

「或いは、助けられた⋯か」

「おもしろいことになって来そうだ」

「うん、なんかワクワクしてきたよ」

「アトリビュートが、剣戟軍のすぐ近くにいたんだな」

「どうする?アトリビュートが真ん前に現れたりでもしたら⋯」

「俺は⋯⋯何をするか分からない。分かり合おうとするのかもしれないし、手を加えるのかもしれない」

「へぇー、お人好しー」

「グロフォスはどうするんだ」

「僕は、すべき事をする」

「同じ運命を辿る血族なのに?」

「それは王朝時代のでしょ?何年前の話だと思ってるわけ?」

「今でもその形跡はある。それがあの名残歌だ」

「フン、アルシオン王朝時代のシナリオなんて嫌いだね。大っ嫌いだ。自分勝手な独裁政権でとんだサイコ野郎だ!十二使徒が言えばよかったのに、矯正もされなかった⋯。だからアトリビュートは虐殺の歴史が拭われない」

「虐殺の歴史など拭われようが無い。ツインサイド戦争から始まった伝説を、この時代にどう書き換えれるんだろうか」

「それを果たすために僕達は産まれたんじゃないの?」

「アトリビュートの名の元にか?まぁそうだろうが⋯もっと違う形で産まれたかったな」

「逃げたアトリビュートは?後を追う?」

「もういい。いつかまた逢える。近いうちにな」

「僕、すぐに逢いたいなぁ。女の子がいいなぁ⋯。男だったら殺したい」

「お前の殺意に興味は無い。男嫌いという付加にも理解が出来ないし、究明の価値も無い」

「相変わらず辛辣だなぁクレニアノンは。まっ、それがいいところだけどさ。んてぇ、いつの間に着いちゃったね」


カーゴブーアに到着した剣戟軍。隊列のまま乗り込み、ラティナパルルガ大陸から飛び立つ。

「グロフォスと話してると直ぐに時間が無くなる」

「それは僕との会話が楽しいってこと?」

「⋯⋯」

「いや、、、そういう事だよね?ねぇ?なんで恥ずかしがってるの?え?だって『直ぐに時間が無くなる』なんてそれ以外にある?ねえ?ねえ?」

「⋯⋯⋯⋯そうだよ」

「直ぐに認めればいいのにー。かわいい」

「⋯⋯⋯⋯」

「その怒ってるサイン。僕には丸分かりだよ?クレニアノンは怒ると無言になっちゃうんだよ。しかも顔を見ても何を考えてるのか分からない。それが怖くもあり、僕からしてみれば不思議な感じで、けっこう楽しいんだぁ」

「グロフォスはさっきから何を言っている」

「とぼけちゃってー」

「本部に着いたら、また付き合ってもらう。修練場に来い」

「いいよ。その湧き上がるエネルギーを僕にちょーだい!」

「二度と無駄口叩けないようにしてやるからよ」

「怖ァーい」



利用客達はその場に立ち尽くし、口を開く者はいない。残酷な仕打ちをまざまざと見せつけられたのだ。

彼等はその後、思い思いの行動を起こし忘却への街道を歩く。


舌が痛い。ヒリヒリとする。話したくも無いし、笑いたくも無い。小説の書ける頭があって良かった。気が狂いそうになるぐらい痛いです。

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