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[#71-境界は表裏を彷徨う]

七唇律『暴虐』

それは人の心を抑えつつ、怒りに身を任せながらも、己の業を貫く意志を高める。誰かに昂られて相手の思うツボへと戦闘状態へ陥ると、兵士は自我を失う。自分間でコントロール出来ていると錯覚するのだ。暴虐を鍛錬するのは自制御を許す事になる。各セクションに於いて、“人間”をどうあしらうか。能力の基盤である力の源はこの七唇律から携わる。


[#71-境界は表裏を彷徨う]


午前7時45分──。


「おい…これ、、、」

三人で朝食を取っている最中、デボッチさんがテレビをつけた。そのテレビの内容にデボッチさんを初め、レリーゼさんも驚愕の色を示す。

◇──────────────◇

「昨夜、帝都ガウフォンの教会にて凄惨な虐殺事件が発生、教会の虐殺と同時に、北東側チェックポイントの警備兵二名の所在が不明の事態も確認されています。教会での被害者は七唇律聖教教会出身の司祭三名と、教信者複数名。犯人は目下のところ不明ですが、“アトリビュート”が事件に関与している事は間違いないと見て良いでしょう。現在、帝都ガウフォンでは“乳蜜祭”が開催中です。本日がDay.2となり、最終日。昨夜のような事件が起きないよう、剣戟軍が警戒態勢をレベル6にまで引き上げ、不審者への対応・処理を徹底的に実行。ガウフォン各方角に設置されたチェックポイントへは、不審物検査と身体調査によるハイスピードリサーチを敢行。車体ナンバーの管理と記録を行います。乳蜜祭最終日の安全を確保し、事件性の無いクリーンな日になるよう全力を上げて注意する…との報告が、剣戟軍統幕長より進言されました」

◇──────────────◇

「アトリビュートのクソ共が…」

「知らなかったな…教会って…」

「まぁ…遠くは無いのぉ」

「すみません、この事件が起きた教会ってどこにあるんですか?」

「教会はガウフォンの海側、北東に位置する場所やな。ゲートからも離れているから、人通りは少なくて、閑散としている場所。アトリビュートはそこを突いてきよったんやな…しょうもない、ダッさい連中やでコイツら」

「外出…危ないんじゃない?」

「安心せぇ。剣戟軍にまかせー。初日から剣戟軍に警備を任せれば良かったんや。今日は大丈夫なはずやろ」

「デボッチ、剣戟軍にやたらと信頼置いてるよね」

「当たり前や。ワシのダチがおるからな。アトリビュートなんてちょチョイのチョイや」

「もしかして、デロストのおじさんもいる?」

「せやな。最近だとブラーフィ大陸のここら辺を巡回してる班をやってるって聞いてたから、今日はガウフォンに回されるやろな。“嫌々”」

「じゃあ伝言しといて。レリーゼちゃんが頑張ってって言ってたって」

「りょっかい、後で伝えとくわ。まぁ多少なりとも警備の活力にはなるやろうな」

「多少どころじゃないでしょ?デロストおじさん、私の事大好きだったんだから」

「せやな。アイツ、レリーゼをムッチャ可愛がってたわ」

二人の間柄は私が想像してた以上のものだった。今の会話でそれは存分に伝わって来た。なんだか、凄く…微笑ましいな。お互いを十分に理解し合ってるからこそ、何でもリミッターフルカットで乱射できる言葉の応酬。

そういう関係性、羨ましいかも。サンファイアとアスタリスって…そういう関係にまで構築されてたっけ。そんな掛け合いした事ないけど、きっと二人みたいな会話を繰り広げても違和感の無い時間が流れる…はず、、だよね。

「食べてる?バタイユちゃん?」

「……あ!食べてます食べてます!ご馳走様でした」

「じゃあ、歯磨きしたら…上の階に来て。服選んであげるから」

「レリーゼさんありがとうございます!」

「バタイユちゃん」

「なんですか?デボッチさん」

「無理しないでイイからね?君の思った通りに行動すればいいんだから」

あ、、、

「はい…!わかりました…」

今まであんな気性の昂りを見せられた後だから、今さっきのデボッチさんの方言無し台詞は…けっこう……クルな…カッコよかった…。


歯磨きをして、レリーゼさんの待つ、2階に上がってきた。2階に来てみたはものの、どの部屋に入ればいいのか、取り敢えず一声掛けてみよう。

「レリーゼさん?」

「あーこっちこっち」

こっちこっちと言われても、右左に一つずつだったらそれで判断出来るけど、左右対象に3つはあるぞ。ドアの1回や開けてくれればいいのに。そう思った時、右奥のドアが開いた。

「あ、こっちこっち。ゴメンね…だいぶあるでしょ部屋」

「はい…館みたいな家ですね」

「理由は直ぐに判るわ。さっ、入って」

レリーゼさんの誘導で、私日右奥の部屋に入室。するとそこは大量の服がコレクションされている部屋だった。“コレクション”と銘打ったのは、保管方法にある。

ただハンガーに掛けるだけでは無く、ビニールで梱包もされている。その梱包が一つ一つ全ての服に施されていた。

「これ…凄い…量ですね」

「凄いでしょ?他の部屋も見る?」

「はい!」

他の部屋も案内してくれた。この感じだと後の部屋も大量の服が保管されているんだろうな…と思っていた。だけど…そういう訳じゃ無かったな。

「帽子、革靴、スポーツ靴、スーツ、スポーツ用品、サブカルチャー内訳:CD、円盤、フィルム、撮影機材」

まぁ、八割方ファッション系統ではある。だけど…サブカルチャー部屋には驚き桃の木山椒の木。

「レリーゼー!時間見ぃーーーーーーー!」

「うわぁぁぁ!!いっげえねええええ。もう8時10分じゃーーーん!!んってぇ、大丈夫だいじょぶ。まだだいじょぶだから」

時間を確認した後の台詞から、声のトーンが大幅ダウン。時間なんて気にしないキニシナーイ…と息巻く彼女の様子に弱冠心配になる。

「ドォクォォガアだいじょぶだいじょぶやねーーーーん!!」

「うわ、やば。後半聞き取れてたって事?やばくね、あのジジイ」

「ああははははは」

このターンを逃げ切るには乾き笑いしか無かった。この人がイカレてるのか、1階からあの大幅トーンダウンが聞こえたあの人がイカレてるのか。

まだこれ朝ッスよ?



「じゃあさっきの部屋戻って…服、着替えよ」

「仕事用の、ですか?」

「んそ。仕事用」

最初に紹介してもらった右奥の部屋に再び入室。そこでレリーゼさんは、一着の服を私に『ジャン!』と見せてくる。コレしかない!…と言っているようだった。

「これ!着てみて!」

ほぼ同じことを言った。

「あ、、はい…これ…ですか…」

私は、着た。

「黒のワンピースに、、黒革のジャケット…これ私に似合い…ますか?」

「うん!似合ってる似合ってる!バタイユちゃんはやっぱり黒が似合うね。昨夜着てた服も奇抜でカッコいいけど、これもイイ!あとさぁ…ちょっとお願いがあるんだけど…」

「なんですか?」

「髪切ろ!」

「え!今!ですか?!」

「そう!今!さっ!はよやるよ!」

「えっえっ…ちょちょ…ちょ、ちょっと……」

拒否権は無かった。でも、なんで私もここまで躊躇しているのか判らなかった。別に拘りも無いし。何でもいいや…。レリーゼさんがどういう意図で髪を切ろうという、半強制的な提案をして来たのか…それは、髪を切っている際に更新される情報…じゃ無かった。

ただただ髪を切られる時間が流れる。時間大丈夫なのかな…と思ったけど…

「レリーゼさん、上手ですね髪切るの」

「まぁね。髪の毛は人を象徴する七唇律の権化だからね。私みたいな職業の人間は髪切りのスキルを備えていた方がいいのよ」

「あーーそうなんですね…私がやる仕事って…」

「七唇律聖教の教徒。人手不足って訳じゃあ無いんだけど、今日乳蜜祭最終日だからね。かなり忙しくなるのよ。だから今日は教徒の仕事を。モチロン、私がバックアップとかするから何にも下準備ナシでおっけーよ。でもぉ、大体は知ってるでしょ?七唇律聖教の仕事」

「…………」

「(ウソ…この子…知らないの…?このリアクション…知らない感じのリアクションだよね?え、そのリアクションなに?なんで?すごい顔してる。頭パンパンに膨らんでる。どう答えればいいか分からないんだ)」

「(とんでもないクエスチョンをぶち込まれたな!ウヒャウヒャウヒャウヒャ!いやこれは笑うだろ!フラウドレスガンバれぇい)」

────────

「知らないの?」「分かってますよ!」

────────

「あ………」

「う………」

さっきまで鏡反射で顔を合わせて会話していたのに、レリーゼのクリーンヒットで、視線を合わせなくしたフラウドレス。

「バタイユちゃん、無理してる」

「いや…」

「バタイユちゃん、いいのよ。嘘つかなくて。分からないんでしょ?」

「あー…それって変ですよね…私…あんまり…色々と覚えてる事が少なくて…」

「判った。バタイユちゃんは私の義娘。これからはぜーーーんぶ、あっしに任せんしゃい!」

経緯は何でもいい。レリーゼさんからこの街の事情を聞き出せればそれでいい。長居するような流れは避けよう。『義娘』なんて言われてしまった…。なんだか要らぬ、要素は含ませる展開を歩んでしまったかもしれないが…これも私のシナリオを完了させる為のヴィクトリーロードとして素直に受け入れる事としよう。


「どう?思い切ってショートにしてみたよ」

こういうのって私の意見聞いてからやるやつじゃないの?まぁいいけど。

「長い髪だと仕事の支障が出るとかですか?」

「ううん」

「んえ」

「冗談よ。アハハ、そんなカワユイ顔して睨まないの」

「レリーゼさん、私に少しは言ってくださいよ…」

「ゴメンゴメン!でもさ、ショート可愛くない!?」

「ンまぁ…悪くは…無いですけど…仕事との関連は」

「一切ナシ」

「ンンンンンンンンン」

「猫かあんたは。そんなゴロゴロさせながら睨むんじゃなーいの。さっ、用意した服着て!大聖堂行くよ」



と、まぁカオスな朝から今日一日が幕を開けた。よくよく考えてみれば…よくよく考えなくても良いが、昨日から妙な出来事が立て続けに怒っている。第2の人格を知って、白い巨人を“白鯨”と呼ぶ白装束の奴らと相対して、その白鯨によって見知らぬ土地に転移されたと思いきや別次元の世界線に飛ばされたり…虐殺事件が起こった場所の近辺に居たり…て、もう…なんなの本当に……あ、もうこういう事聞いても怪しまれないかな…。さっき私、記憶喪失みたいなフリしてたけど、その選択は間違ってなかったと思われる。ヘリオローザが提案した“悲劇のヒロインぶれ”の助言を私は鵜呑みにした。

ヘリオローザの意見はあんまり尊重できる案が提示される事は少ない。だけど、私達は2人で1人。彼女の事を認めつつも、油断は禁物。いつ制御を取られるか判ったもんじゃないからね。

て…もう…レリーゼさんに聞きたいことあるのに、またこうやって別の事に焦点を当ててしまう。私の多角的に分析しようとするクセ。もうやめにしたい。こういうのはサンファイアがやって……はぁ…もうやめよ。二人を捜すのはちょっとタンマ。今はレリーゼさんとデボッチさんに答えなきゃ。

だけど、絶対に忘れない。一定の感謝を伝え終わったら、直ぐにここから出よう。二人だって、関係値の低い女が長居し続ける事を不審に思うだろうし。“義娘”だなんて……どうしてそんな言葉が簡単に出るんだろう…。

こっちはまだ完全に信じてなんか無いのに。


「おお!バタイユちゃんええやんか!レリーゼがやったんか!?」

「うん、そうだよ。センスバッチし!バタイユちゃんのスタイル最高なんだよねー」

二人が凄いジロジロと…合ってるかな…この擬音…ずーっと見てくる。恥ずかしい…。

「あの…恥ずかしいので…あんまりマナコ飛び出させて見るのはやめてください」

「『マナコ』?アッハッハッハッハッ!面白い言い方するなー!マナコか…あっはははは!!」

「バタイユちゃんはユーモラスね!」

「そうですか…ありがとう…ございます……」

「彼女なら、きっと教徒に向いとんな」

「うん、私もそう思う」

「このショートヘアも、黒服の感じもピッタリや!シスターと教母が泣いて喚くで」

「“教徒”って…何をするんですか」

「七唇律の御加護を信仰してぇ、大陸の神からお告げと洗礼の二つを受け止める。シスターが大陸の神から二つの聖言を受諾するから、教徒達はそれを大陸民に分散させるんだよ。安心せぇ、初日からでも神からの聖言には初心者待遇があるからな。バタイユちゃんみたいな存在でも、安心して望めるはずや」

「バタイユちゃんは、七唇律に助けられたって事あるでしょ?たとえば何があった?」

「え…」

「何でもええねん!言うてみ言うてみ!」

「え………」

何それ…信仰宗教から助けられた経験?そんなの……無いし、そもそも七唇律なんて、、知らない…。やっば…これ……なんか答えなきゃ…終わらないやつだ…。あ、そうだ…!

「もう!じかん…じゃあ、、ないんですか、、、ね?」』

「んえ?うわぉあああああ!いっけねええええ!」

「お前!!はよ行ってこいや!!乳蜜祭やろうがぁぁ!!」

「もう!!サイアクスギだあああああ!!さっ!ほら!バタイユ!行くよ!!」

「あ、はい…うわぁぁぁ…」

腕もぎれるそうになるぐらい、引っ張られて私は家を後にした。そういや、外の景観、昨日は暗かったしな。あったり前の話だけど明るい。明るいな…。私、こんな所にいたんだ。やっぱり…違う世界なんだ…。


車で移動…じゃないんだ。家の横に車があったからそれに乗って行くのかと思った。いや、電車かな。それとも、普通に近いから徒歩?

「レリーゼさん、大聖堂は近いんですか?」

「ううん、大聖堂はガウフォンの中心、こっからは2キロはあるかな」

「に、にきろ!?」

「大丈夫、徒歩で行かないから。ローバー使うよ」

「ろーばー?」

「知らないの?」

「ああ、ああ!知ってますよ!!便利ですよね!」

「うん、今からそれを取りに行くから」

ローバーって、あの…有人月面着陸の計画時に使われた、あのローバー?『便利ですよね!』と言って、『じゃあどんな形してるっけ?』なんて問い質されたから、私は終わってた。今の彼女の顔を見るに、私を問い詰めるような素振りは見せて来ないだろう。


「【Rental Rover:step step shop】。ステップ…ステップ…?」

どうやらここがローバーを借りる場所のようだ。私がいた世界で言うところの、レンタルサイクルだな。でも…レンタルサイクル屋さんだとしたら、多くの自転車が店前に置かれているはず。なのに、その“ローバー”とかいう物は、姿かたちすら見えない。あるのは……【ローバー売り出し中!】【必須の色覚カットゴーグル!乳蜜祭リミテッドエディション】と広告された掲示物のみ。こういう初見モノって、実物を初めて見て驚くリアクションのパターンだけど、私…もう見ちゃった…。新鮮なリアクション無くなっちゃったね。あーあ…でも…このゴルフカートみたいなやつ、あ、ローバーか。どこにあるんだ?店の奥かな。

「バタイユちゃんは、ローバー乗ったことある?」

どうしよう…ここは…“初体験”に全振りしてみるとするか。

「はい、ローバー乗ったことなくて…レンタル料高いじゃないですか。親があんまり乗せてくれなくて」

「高い?500円だけど…」

「…」

余計なことを言うもんじゃない。

「あははは、なぁんて!あはははは。普通に乗せてもらえなかっただけです。私、歩くの好きなんで!」

「アソウ?だから、バタイユちゃんはいい身体してんのね」

「そうですか?そうよ、あ、すみまーせん!すみまーせん!」

伸ばすところおかしくないか?

「お、レリーゼちゃん待ってたよ。ちょいと待っててね。お?」

奥から現れたここの従業員と思われる男。二人の会話から察するに、レリーゼさんはここの常連のようだ。

「まっ、こういう事だから、二人乗りを頼むよ」

「任せとけい!」

「おじさんは今日、乳蜜祭行きます?」

「当然だろー?大陸の神に捧げられる儀式を見ずして、終われるかってんだ」

「だよねー。私も大聖堂での洗礼受けを終わったら、直ぐに見に行くんで。まぁ見に行くといっても、大聖堂から見れるんでね〜」

「イイよなぁ、“シスター”達は、特権だよなぁ」

「実はこの子もシスター候補なんですよ」

「へぇ〜名前は?」

「バタイユちゃん!可愛いでしょ!」

「おお!可愛いな!そのショートヘア、白鯨もきっと喜ぶぞ」

「昨日から、枢機卿船団が居ないのって…」

「ああそうだな…いつ帰って来るんだろうな…」

「今日までに帰ってきて欲しいよね。じゃ!ありがとう!」

「おうよ!じゃあな!」

「え…」

ローバーは?あれ?今……金銭のやり取りをしただけに見えたんだけど…。レリーゼさんは店から出た。しかし何にも車のキーなど持っていない。

「あの…キーとかは」

「キー?そんなの無いよ」

「え」

「ここにあるよ。ローバーは」

ちっこいちっこい正四角形の立方体。黒いサイコロ?なにこれ。

「フフーン、じゃあ…見せてあげるね!」

レリーゼさんが立方体を上空に向けて投げた。下投げだったけど、その振り方は弱いものでは無い。かなりの力を振り絞っていた。だけどそれはただのパフォーマンス。私への演出に過ぎないものだと直ぐに理解。彼女の表情を見れば直ぐに分かる。

上げられた立方体が変形。

「凄い…」

手元に乗っかるサイズだった形から、想像もつかない姿へと変わる。閃光に包まれたシークエンスを肉眼で確認する事が出来ず、瞼を閉ざしてしまう。瞼を閉じたままでも、赤白く照らされる隠された世界の情景。わたし…本当に目え、閉じてるよね…。めちゃくちゃに眩しい…。こんな演出にいつも耐えてるっていうの?レリーゼさんは。

閃光が消え、赤白く照らされた世界が消失した事に気づいた私は、開眼させる。

するとそこには、四輪の自動車が置いてあった。いや、置いてあった…んじゃない。あの立方体が変形した姿。これがローバーなんだ。

「眩しかった…レリーゼさん、いつもこんなのに耐えてるんですか?……てぇ、レリーゼさん!!!」

「ゴメン!バタイユちゃんにこれ着けさすの忘れてた…ゴメン」

レリーゼさん、ゴーグルを装着して、あの閃光に対しての耐性を組み込んでいた。

「もう!ビックリしましたよ!視力終わったかと思いました……ズルいズルい!」

「ゴメンゴメン!さ!これがローバーだよ助手席乗って?」

「はい」


ローバーでのドライブ。ここでもビックリしたのがローバーは自動運転技術が使用されているという所。この街の文明と科学の発展を感じる仕様だ。

ローバーに乗って感じられるものはやはり景観だ。初めて見たもののような気もするし、そうじゃない気もする。後者の方は、ただ単に昨日ゲートを超えた後の景色と似ているから?との受け取り方も出来るが、そんな簡単に解決しそうなものでは無いと思う。とても違和感のある作り。まるでここが私の故郷のように、懐かしい気分にさせる。

「綺麗ですね、この街は」

「そうね、奴隷帝国都市ガウフォンの創設はそこまで古くは無いからね」

「今日って1月20日、ですよね」

「そうね、1月20日」

「無人運転凄いですね」

「そうね、凄いよね」

「人、いっぱいいますね」

「そうね、人、今日は特にいっぱいいるね」

無言の時間が続く。

「バタイユちゃん」

「はい?どうかしました?」

「あのさ……ガウフォンの人じゃないんだよね?」

「はい…そうですね…」

「何処から来たの?」

「ええっと……」

「ごめんね、教えたくないんだね。判ったよ」

「ごめんなさい」

「でもこれだけは判っといて。私とデボッチは本当に心配してるんだよ?ホントだったら剣戟軍に繋いでもらってもいいと思うんだけど、私、あんまり剣戟軍は信用ならない組織だと思ってるからさ」

「剣戟軍…そうですね…信用ならない…」

「バタイユちゃんもそう思ってる?」

「うーん…どうでしょうね……頑張ってるなぁとは思いますけど」

剣戟軍…軍って言ってるからにはそういう事なのかな。警察組織に言う前に、軍に私の存在を伝える気もあったんだ。いやもしかしたら、警察組織がその“剣戟軍”の一部なのかもしれない。『頑張ってると思いますけど…』の回答は合ってるだろうか。

「私も頑張ってるなぁとは思うけどね、でも……毎回毎回負けてばっかりじゃない?アトリビュートに。それに歴史上で剣戟軍と能力者の争いは多くあるけど、勝利を収めた実戦は、1500年以上も前なんだよ?それからというものの、ツインサイド戦争で蔓延した高濃度遺伝子放射能汚染でこの世界は地獄を味わった。今では最小限に留められたけど、ラティナパルルガ大陸は危険地域として指定された場所も数多く存在している。当然、旧王都ツインサイド領域は爆心地として全面封鎖。こんな何の功績も遺さずに、何が軍だって話しよ…折角超越者達の動きも無くなりかけてたのに、また昨日みたいな事が起き始めてさ、剣戟軍の対処も全然だし……ってえ…」

「……」

「ゴメンね!ゴメンゴメン!子供にこんな事言っても判らないよね!酷い話だよね戦争なんてさ…ましてや子供の前で…」

「いいや、大丈夫ですよ。私、能力者には興味があるんで」

「あ、そうなの?実はね、私も“セカンドステージチルドレン”の歴史には興味があってね。文献を読み漁ったり、先人が遺した記録がインフィニティネットワークにあるから、それを読み解いたりしてるの。趣味の範疇だったんだけど、今ではそれを仕事の生業としている」

「七唇律とセカンドステージチルドレンが関係しているんですか?」

「そうよ、七唇律における七つの神学とセカンドステージチルドレンは密接な関係があると教皇は発言している」

「アトリビュートというのは…」

「セカンドステージチルドレンの子孫達」

この台詞の後もレリーゼさんは喋り続けたが、私の耳には届かぬものとなる。

“セカンドステージチルドレン”。

どうして…なんでこの世界の歴史にそれがあったの。


私はその後も彼女からの衝撃的な正史の数々に驚かされた。SSCに興味がある…と言ってしまったからには、その驚きを表示させることは出来ない。『知ってて当然』のような顔をしながら、レリーゼさんは話していたからだ。

内面、私は驚愕の感情しか持ち合わせていない。

本当にこの世界には、セカンドステージチルドレンがいた。そして、子孫達は“アトリビュート”という生命種となり、今も尚、生きている。

そんな二つの世界が同期している虚実のような話を聞いていると、昨日訪れていた大聖堂に辿り着く。

「話はまた後で。さ、ほら着いたよ。今日から教徒として動いてもらう“ガウフォン大聖堂”。横に広いのよね」

「私以外にも教徒の方はいらっしゃいますか?」

「居るけど、バタイユちゃんは私と一緒にいよ?特別に許可貰いに今から教母様の所行くから」

「教母…様……」

大聖堂と言ってるからにはそんなのもいる訳か。



ローバーを“収納”し、私達は大聖堂の中へ。

「時間は…いっけね、あと2分じゃん」

「9時ですか?」

「そよ!やっばいわね…怒らせると……」

─────

「遅いわよ」

─────

「ンヒィ…!」

「??」

「ダレ?その子、レリーゼに子供なんていたかしら。もし隠し子なんていたとするならば…それは聖教への間違った定めよ」

「違いますよ!この子は私の子供とかなんじゃありませんよ!」

「あらそうなの?じゃあなんで連れてきたわけ?」

何処から声出してんだ?私はまだ、レリーゼさんが相手をしている人の肉体を見ていない。大聖堂に反響して聞こえてくる。仕様でいうと、私とサンファイアとアスタリスのマインドスペースのようなもの。まさかそんな事が通常人間にも出来るというの?

「あ、あの…ワケあって…この子を保護する事になったんです」

「親は?」

「ええっと…ちょっと問題があったんだよね?」

「【頷く】」

「あの…教母様、良ければ…顔を見せて頂いても…宜しいでしょうか?」

「先ず、あなたは私にしなければならない事があるでしょう」

「あ、あの…すみません、遅れました…」

「遅ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおぉぉぉぉ!」

イカレてんのか!このおばさん!!耳に釘でも刺されたんか言うぐらい、とんでもない音量が襲いかかった。

「すみませんんんんんんん!!!」

「レリーゼ!私はいつもいつもいっつもいつもいつもいっつもいつもいつもいつもいっつも!言っているはずよ。人との繋がりは“約束”で始まり、“約束の崩壊”で終わると。幾度となく言っているわよね」

「ハイ…」

「まったく…レリーゼって子は、どうして他の司祭のような行動を取れないのかしら。えぇえ?言うてごらんなさいよ」

「……ええ、、、と、、、なにを、、ですか」

「あなた…あなたって人は…!!」

あーこの人、バカだ。すんごいバカだ。教母さんの言っている事が正当なものなら、レリーゼさんは全然遅刻に関して悪びれてる様子は無かった。手馴れだ。しかも、私の髪の毛までカットしていたし…。レリーゼさんへの印象、なんだか変わったな。ちょっと下に見てもいいのかもしれない。てか、教母さん、ぜんっぜん姿現さない。


「そこのあなた。ダメダメの女を保護者にしたそこのあなた」

「はい」

私だ。私に声を掛けて来た。

「名をなんという、申せ」

「バタイユと言います」

「バタイユ…薔薇の名前か?」

「あーよくご存知で」

「ご両親が好きなのか?薔薇」

「はい、そうみたいです。なので小さい時からずっと花に囲まれた生活を送っていました」

「そうか、おい!ダメダメ女。お前には罰を与える。大聖堂の清掃とインフラ整備、帝都全域の監視に加えてカウンターの職を任せる」

「うええぇえ…ちょっとー!教母様…!それは……」

「当たり前じゃろがい!!反抗しようとするんじゃないよ!」

「そんな……あ!乳蜜祭への参加は…」

「“カウンター”と言ったでしょ?参加者のカウンターよ。監視カメラで確認して、そこから乳蜜祭を見届けなさい。ま、乳蜜祭のメインステージが監視カメラに映されるとは、限らないけどね」

「おわった…おわった…あーーおわった………」

「レリーゼさん!」

ヤバい、レリーゼさんぶっ倒れちゃった。

「大丈夫よ、安心しなさいバタイユ」

奥に備わっている扉から、一人の女性が現れる。そう、この人こそが教母様だ。私と…同じ服装だ。なんだか、この服装で合ってるのか、疑問に思ってしまう。だって、レリーゼさんが思ってもいない以上の天然だと知ってしまったから。間違えて教母専用衣装を着させているのかと誤解してしまうよ。だが教母様の次の台詞で、その不安は解消された。

「バタイユ似合ってるわね、そのシスターファッション」

「あ、ありがとうございます」

嬉しかった。だって…この人、めっちゃ綺麗だから…。美麗。可愛いとは表現出来ない、“美しい”に振られた女的ステータス。

「大体把握出来ました。レリーゼは、バタイユを教徒にさせたいのね」

「え、分かるんですか?」

まぁ、そりゃあそうだろう。こんな教母様と同じような衣装を着ているんだ。だが今はガキのオーラを演出するために、トンチキな返答でもしておく。

「ええ。あなたもそんな子供じみた返答を態々考えるのはやめなさい」

「……!」

「あなたが子供の振りをしていることなんて、簡単に見分けがつきますよ」

嘘…バレた?セブンスってやっぱり…この世界でも存在するの?…可能性としては十分有り得る。この人…。

「冗談よ」

「あーあははは。そう…ですか」

「でも、あなたの考えてる事、不可思議な回路を作成しているのは私には分かるわよ」

「…!」

教母様って言われてるだけあって、人の心を読み取れる…そういうこと?いやてか、宗教の教母ってそういう能力を持ってる人??あんまりイメージ無いな。

「ま、私の前で嘘をつくことは避ける事ね。“欺瞞”の名のもと、虚偽を貫くのは一生涯の恥として、後背に憑くものよ」

「はい…分かりました…」

この人…ちょと怖いかも……さっきから、凄い圧で言葉を捲し立ててくる。仮にも私、13歳の格好してるんだよ?

「レリーゼさん…」

「レリーゼ、さぁほら、あなたの職務は伝えました。自分の持ち場所に着きなさい」

「私はなんでここにいる私はなんでここにいる私はなんでここにいるそうよ私は見たかったのよ見たかったんだよだから今まで頑張ってきたのにもう本当に嫌だよどうしてよなんで私こんな結果を招いてしまったのよ私だって一生懸命頑張ってたって絶対に頑張ってたってなんでそんな私が乳蜜祭に参加出来ないそんな誰にもみられないやりがいのない場所で…」

「教母様、レリーゼさんが…ずっと小声でブツブツ言ってますよ!」

「唯一の解決方法は、時間だ。ずっと唾液を使わせておけばそのうち声帯が引きちぎれて、何とかなるもんなのよ」

声帯が引きちぎれるまで…!?教母様…この人を怒らせるのは面倒な事になりそうだな…。

教母様が紙を手に取り、何かを記入し始めた。『なにを書いているんですか?』と問おうと思ったが、内容を少し覗いて把握した。記入していたのは、先程レリーゼに進言していた“カウンター”等の業務内容。

「教母様、優しいですね」

「この子は世話がやける。今はこんな感じだけど、時間が経てば遂行してくれるのよ」

「そうなんですね」

笑顔無き教母様。その凛々しき瞳と勇ましい顔立ちから、数多くの修羅場をくぐってきたと思われる。カッコいい女の人って、嫌いじゃない。

「時間は便利よね。止まることが無い、悠久の流し。時間が止まる時って、この世界の全てが止まると思う?」

「いや...」

『いや...』というか、言ってる意味が理解出来なかった。だから私は顔で誤魔化してやり過ごす事にした。教母様は鋭く尖らせた目線で、私の解を待っている。『いや...ちょっと勘弁してほしいです』なんて、言えないほどにだ。

微振動を働かせるまでに、私を圧した所で教母様の台詞が再開。

「答えは止まらない」

考えてみれば、『止まらない』を選択するだけで良かったんだ。そこから理由を問い質されれば......まぁ...ノープランだけど...。

「時間が止まっても、この世界の空気は止まらない。その空気に乗じて、個体それぞれの穴から、魂が漏れ出る。魂が踊り狂うのよ。だから止まらない。戮世界は止まらない」

「教母様、そういう感じの事を教徒は学んでいくんですか?」

「私は窮極よ。教徒は七唇律のたたき台。大聖堂の教母として持ち合わせているだけ。無学でも安心しなさい」

「あーあはは、分かりました...」

言い回しがキツイな...結局...なんなんだ?キュウキョクも“究極”の方じゃなかったし、『世界は止まらない』という理論に関してはまだ分からなくて良い...という事か。.........じゃあなんで、んな事聞いたんだよ。聞くだけだったら...って言うわけか。相手するの難しそうだなぁ。

“戮世界”か...。最後まで聴力を研ぎ澄ましといて良かった。



レリーゼさんを置いて、私と教母様で大聖堂内部へと向かう。『もう中に入ってるんじゃないんですか?』という疑問は直ぐに教母様から弾き返された。どうやらレリーゼさんに連れて来られた場所は、まだまだ大聖堂の入口のようだ。“エントランス”と教母様に言われた。“入口”でも良いのに、“エントランス”と執拗に言ってくるので、一応その表現も記録しておく。


内部に入る。

中はというと...とても言葉では表せない...美しい彫刻が成された空間が形成されていた。

「凄い...」

こんな簡潔な言葉しか出て来なかった。教母様の方に顔を向けると、一切の笑みを零していない。え、なに...感動しちゃダメなんですか?わたし...13歳だよね。戮世界では大聖堂への知識なんて当たり前なの?だから大聖堂の彫刻を見ても何も感動しない子供が多い中、変な感動をしている私に謎めいてるってわけ?もぉ...めんどくさいよ!ヘリオローザ!!

────────

「アッシに任せんな。オマエガヤレぇ⋯」

「お願いだよ!一緒にいて!見てて。そんで⋯教母様から難解な質問来たら即座に考えて!」

「イヤァヨウワァァイヤイヤ⋯アッシもうムミィカラ⋯」

「お願い!本当に⋯!本当に!」

「変なお願いされてきたら⋯⋯ルケニアでコロシチャえ、、、、、」

「んな事出来るわけ無いでしょ!」

「、、、、、、」

「え、ちょっと!ヘリオローザ?ヘリオローザ?」


【Shutdown-Offline:Sleep Mode“okosuna”】

────────

ヘリオローザぁぁ⋯そんな⋯お願いよ⋯。

「バタイユ?どうかしましたか?」

「え、いやいや!大丈夫ですよ」

「感動⋯するの、結構珍しいね」

「私、ゴシック建築に興味があるんですよ。だから宗教関連の施設には造形がありまして⋯」

何となく、それらしい事を言ってやり過ごす。ガウフォン大聖堂はパリのノートルダム大聖堂と建築様式が似ている。マーチチャイルドで無数の図録を読み漁っていた時に、学習した一部が宗教関連の資料。

「へぇ、年齢の割に良い趣味してるのね」

「ありがとうございます」

弱冠引かれたかな⋯。もうちょっと学習した能力を見せびらかしてみようかな。

「このステンドグラスに描かれているのって聖母と大天使・ガブリエルの受胎告知ですか?」

「へぇー、よく知ってるのね」

どうやら、キリスト教の宗教文明が反映されているようだ。だが簡単にそう解釈していい問題では無い。七唇律がキリスト教との関連性を帯びている現象。不怪対象としては十分なレベルに値する。

「ステンドグラス、美しいですよね。なんだか⋯昔の人達って凄いなって思うんですよ。教会の装飾が過去の様式美をこれでもかと訴えてくる。歴史を感じます」

「ガウフォン大聖堂が完成したのは律歴4386年。歴史の深い建築物だ」

「凄い、1000年以上もの歴史があるなんて⋯。それに全然古臭くなってない。施工ケアをしっかりと行っている証拠ですね」

「これまで数多の七唇律聖教を崇拝する人々に守護されてきた。その務めは伝統として後継されている。日常化、所の話ではなく、これは果たすべく神からの手引書」

「この絵は⋯」

ステンドグラスが大半を占める大聖堂。上を見渡すとこれまたたいへん大きな彫刻画が大聖堂に足を着く人間達を見下ろしている。

「かつて行われた、『ツインサイド戦争』と呼ばれる大戦。人と超越者の戦争を描いた作品だよ。作品名は“血戦の大地”。分かりやすいネーミングセンスね」

「ツインサイド戦争⋯」

「でも、教母という役職に就いている私からしたら、ツインサイド戦争よりも彫刻画にすべき争いがある」

「それは⋯」

「フェーダとアルシオン血盟が内乱を起こした⋯」

──────

「教母様!」

──────

私と教母が話している際、教徒が急ぎ足で間に介入して来た。私とは勿論、初対面だが彼女には私の姿が見えていないかのような感じだった。私になんて構ってる暇が無いほど、大変な事が起きたと推測できる。

「ん?どうしたのだ?」

「“原色彗星マゼンタ”が高速飛行中です!帝都を旋回し、周期的な行動を取っています」

「ほう⋯」

「教母さん?一体何があったんですか?」

「良い機会ね。ちょっと、探訪は後にしようか。来なさい。見応えのあるものを見せてあげる」


と、言われ、彫刻画の間から退出。大聖堂を上階し、更なる高さを誇った天蓋がホールとなって形成された広々とした場所にやって来た。だがそんなホールに用は無いみたい⋯ホールのデッキスペース。つまり、大聖堂から帝都を眺望出来る空間に招待されたのだ。どうやらその“原色彗星マゼンタ”というものを見させてくれる様子。

だが、教母様からの教えも不要な程に原色彗星マゼンタの姿は直ぐに察知。ルケニアが誇大反応を見せている。と同時にヘリオローザも反応。

私の内臓⋯主に心臓を触り私への『変われ』アピールを止めない。ちょっとビクッとするから心臓触るのやめて欲しいんだよな⋯。他の器官だったらいいんだけど。教母様が原色彗星を紹介するのは、私が原色彗星の存在に気づいてから、10秒後。私は『なんですか?どうしたんですか?』と、子供らしい子供のフリを続けた。もう眼中には抑えていた原色彗星。感想を多く語るのは、教母様から原色彗星の概要を聞いた後にしよう。

「バタイユ、あそこに見えるのが原色彗星マゼンタ。見た事はある?」

戮世界で原色彗星というのがどれほどのレアものなのか。分からない。

広場、建築物の窓⋯確かに人集りができている。でも⋯昨日の乳蜜祭での人集りと比較するとそこまでの多さでは無い。100人⋯⋯そのぐらいしか広場にいない。昨日の乳蜜祭ではもっと埋まっていたからな。

さっきの教徒の焦り具合から察するに、相当価値のある物質だと解釈できよう。それに教徒が教母様にあそこまでの口調で、話し掛けられるものなのか。まだここに来て時間が浅いが、レリーゼさんへの教母様の対応が記憶に新しい私。教母様と教徒に、ある程度の距離感があると私は見た。レリーゼさんは大司祭らしいけど。

んでぇ⋯どう答えよっかな⋯。レアなのかな⋯。

「あんまり見た事無いです」

こういう時は“あんまり”というアヤフヤな言葉を用いて、答えを述べる。

「珍しいものだから当然よ」

良かったあああああああああああ。合ってたあああああああ。

「特にマゼンタが見られるのは稀。あなたを歓迎しているかのようね」

「歓迎?」

「ええ。あなた、戮世界の住人じゃないでしょ」

「え」

「気が付かないとでも思った?私が。いつまでも嘘をつくのはいけないものよ。そろそろ自分で言ってくれるものと思っていたけど、私に待機の概念はないの。これでも待った方。何故、いつまで虚偽の姿勢を貫くつもりだったの?」

「え、、、あの⋯私が⋯どうして⋯そうだと、、思ったんですか?」

「あなただけが、そういう存在じゃないからよ。“次元宙域”を時渡りして来たのは、あなたが選ばれた人だからよ。今、原世界は大変なんでしょ?」

「原世界⋯」

「あーそうね。原世界というのはあなたが居た世界の事。戦争が起こってるわね。双界によるシェアワールド現象が、戮世界にどれほどの悪影響を及ぼしているか、バタイユ⋯あなたに理解が出来る?」

「あ、あの⋯⋯⋯すみません⋯よく分からないです⋯」

「当然よ。それにあなたの本名を教えてくれないかしら」

「あ⋯はい⋯」

本名を教える⋯。この人、危険じゃ無いかな。私が戮世界の住人じゃない事を見破ったりと、外見以上に抜け目のない女性なのは十分に承知した。この人は⋯信じていいかもしれない。逆に。

「フラウドレス・ラキュエイヌ。私の名前です」

「ラキュエイヌ!?」

「ん?どうかしました?」

「あなた⋯ラキュエイヌなの?」

「はい⋯⋯そうです」

「まぁ⋯いいわ。今話すには場所も時間も適していない。変な気持ちのままにさせて申し訳ないけど、この反応は一旦忘れて。原色彗星について話すわ」

「⋯はい」

いや無理なんだけど。絶対、、何このムズムズする気持ちの悪い感情。勿体ぶってないで説明してよ⋯。

─────────────

「知りてぇか?」

─────────────

「ヘリオローザ⋯あなた⋯何か⋯知ってるの?」

「まぁ⋯な。ラキュエイヌは⋯ここに来た事がある。一人のラキュエイヌが戮世界に迷い込んだという伝承があるんだよ。それは何千年も前の話だから、アタシもまさかとは思ってたけど⋯教母のお姉ちゃんのあのリアクションで最後のピースがハマったよ。ずっと前、ラキュエイヌは戮世界に来た。その子孫が⋯何処かにいるかもしれねぇな。アタシの方でまた固まった事があったら報告してあげる」



「⋯という事だから、この原色彗星をマゼンタと呼称している。他にも“ビオレット”、“シアン”、“ヴォルト”、“ベークライト”、“ハイリーフ”。各原色彗星にもマゼンタと同様の意味合いが込められている。乳蜜祭最終日をマゼンタが祝しているのかもしれないな」

「⋯へ、へぇ〜そうなんですね!」

全然聞いて無かった⋯なに?マゼンタの出現理由を言っていたのか?あ⋯やってしまった⋯何か凄い重要な事項を聞きそびれた感が凄い。もう一回聞きたい。そう思い、意を決して『one more time』の意思表示を見せようとしたその時の事。


「じゃあ、現世界からお越しのフラウドレス。こっちに来なさい。あなたが原世界の住人だということを知った以上、私は教母としての宿命を全うします」

「あ、ああ⋯はい⋯分かりました⋯」

「あなたを七唇律聖教の大司祭にします」

「んえ?」

「教徒なんかで済ますには勿体ない。あなたは“双界の使者”。ブラザーワールドを渡り歩く選ばれし者なのです」

「え、いや⋯あの⋯わたし⋯⋯ここに長居するつもりは⋯」

「え?なに?なんですか?何か要求があるのですか?ああ、レリーゼには原世界の事は伝えませんよ。原世界を悪く思う人間も少なく無いですからね」

「そうなんですね⋯」

「乳蜜祭が開催される一因は原世界の世界戦争にあるのよ」

「え⋯⋯戦争が?」

「あなた、体験してきたのでしょう?戦争の産物を」

「はい⋯」

どうやら、“セブンス”である事は見破られていないようだ。私が3歳だとも思っていない。まだ私は教母様から全ての皮を剥がされた訳じゃないってこと。

┌───Froudless:Evolutionary process───┐

Lv.1

“人間”

Lv.2

“セカンドステージチルドレン”

Lv.3

“セブンス”

└──────────────────────┘

┌──Unknown World:Evolutionary process──┐

Lv.1

“人間”

Lv.2

“セカンドステージチルドレン”

Lv.3

“アトリビュート”

└──────────────────────┘


今の私が描写している模様を図表にて形にしてみた。構成していく中で分かった事だが、途中までは一緒。うーん⋯じゃあ最後だけ『Lv.3“セブンス”≠“アトリビュート”』と記入すれば良かった。


「原世界の戦争が戮世界に汚染物質を出現させている」

「え、、、どういうこと⋯」

「言ったでしょ?シェアワールドって。原世界と戮世界は同期されているの。特に原世界から戮世界への共鳴現象は強く、逆に戮世界から放出される共鳴現象は弱い」

「世界戦争の引き金が、戮世界による影響だということは有り得ないのでしょうか?」

「ゼロイチは原世界よ。こちら側に非は無い」

「そう、ですか⋯」

「気にするな。お前が生まれる1000年以上も昔の事だ」

「はい⋯」



結局、私は原色彗星の事情をほぼ聞かずじまい。ただただ彗星を眺めさせられ、正体が半分バレた状態となった。教母様⋯一体何者?私って何か特別なオーラとか出てる系?レリーゼさんとデボッチさんからは何も言われなかったけど。実は二人も気づいていたりして⋯。二人が何も言及してこなかっただけ⋯だと思いたい。

教母様が言っていた。『原世界をよく思わない人もいる』

。仮にレリーゼさんとデボッチさんが、原世界をよく思わないだったら⋯私は⋯どうなってしまうんだろう。殺り合えば勝てるとは思う。いや絶対に勝てる。

でもその際に邪魔になる感情が芽生えてくる。手を加える争いにとって一番不要な感情だ。私を救ってくれた事実がある限り、レリーゼさんとデボッチさんを危険な目にあわす訳にはいかない。私を⋯殺そうとしてきても⋯私は⋯私は⋯二人を⋯、、、⋯。



午前9時30分──。


そんな教母様との彗星観察(身ぐるみ剥がし)は幕を閉じ、本来の教徒としての職場に案内された⋯のだが。

「先程も申した通り、原世界の住人には特別なカリキュラムを受けてもらう事にする」

「これは七唇律聖教の歴史とかそういう前例があるんですか?」

「教母である私の勝手な判断だ」

「え⋯⋯」

「安心しろ。私がついている」

「んは⋯」

横に立つ教母様が私の両肩に手を置き、ガッチリとホールド。私はなんだか⋯ドキドキしてしまった。こんなの私じゃない⋯!女だぞ⋯?相手は女だぞ⋯、、どうして⋯⋯私は“トキメキ”を覚えたんだ⋯。汗出てきた。汗出てきた。汗出てきた。汗出てきた。汗出てきた。

「教母様⋯?」

「そういえば、“教母さん”と言っていたわね」

「あ、え?」

「フン、どうやら無意識のようね。まぁいいわ。どちらでも構わないけど、教徒がいる前では“教母様”に固定なさい。私、教徒から慕われているから」

「それって単純に言うと⋯嫉妬⋯ですか?」

「そうよ、フラウドレスに“嫉妬”するのよ。それはもうネチネチと面倒なまでにね。だから“教母様”でお願い。私はどちらでもいいわ」

「あ、、、いや⋯じゃ、じゃあ教母⋯様で」

「そ」

え、何今の⋯愛想つかされた?折角こっちの方から近づいてあげたのにってこと!?教母さんって言えば良かったの!?もう⋯全然分からない!私、こんなんじゃ無かったのに⋯、、戮世界に来てから振り回されてばっかだ。

はぁ⋯二人に会いたいよ⋯。

「遅くなってしまったわね。行きましょうか、白鯨の元へ」

「え?」




同日 午前7時11分──。

ブラーフィ大陸 北方地域。

港湾都市ディーゼリンググランドノット──。

その近くの山小屋。


「んわァー⋯⋯ねむい⋯⋯」

「起きなー!おーい!おーーーーい!起きなー!」

「ンもぉ」

「はい、そんなエロい声出さないの。男どもが反応しちゃうでしょ?」

「だって⋯もう昨日は疲れる事しかしなかったから⋯」

「もお、服着て!⋯⋯そんな姿で二人の前に顔出さないでね、変な気にさせちゃうんだから」

「そんなこと無いってぇ⋯もうズコーし⋯ネザゼテぇ」

「ダーメ!起きる!」

二度寝を絶対に許さない女は、寝込む女を無理にでも起こす。そんな行動に抵抗の意思を示す女。女と女の大戦。全ては、その曝け出された神の作りしありのままの姿を見せぬため。あー違う⋯早く起床してほしいため。

「ミュラエ!起きなさい!」

「ハイハイ⋯起きますよ⋯ハイハイ⋯」

「さ!早く起きて。二人とももう支度済ませてるんだから」

「ンエェ!もう終わらせてるの!?朝のトークぅトークぅ」

「アァンタが早く起きねぇからでショーが!!!」

爆風が口腔から発生。ウェルニの爆風を手刀から発現された遺伝子ブレードで相殺。

「朝からなんだよお前ら⋯」

「ちょっと!!アッパー!待って!!」

「早くしろぉー、、あ⋯⋯」

ミュラエとウェルニが殺し合いの前兆にもなる喧嘩を起こす部屋に入室するアッパーディス。入室した先で待ち受けていた光景、それは男が一度は妄想する戯れの最上位。ハーレムとは正にこれを具現化したもの。しかし、何故にウェルニも裸体へとなっているのか⋯そんな疑問は今のアッパーディスには不要だ。そんなものに思考を埋める空白は無い。

そんな古の神話絵画を想起させる景色は一瞬にして破滅する。入室したアッパーディスに繰り出されるウェルニの遺伝子攻撃。カタストロフ級の攻撃系統。その最低位が直撃。この攻撃はウェルニの匙加減次第で、大陸一つを滅亡させる力を持つ。

「アッパーディス!なんで入ってくんの!」

「ご、、めん、、、」

「ありがとアッパーディス。アッパーのおかげで、私、ゲンキマンタン!」

「そ、、、そう、、か、、、あはは」

「ウェルニぃ、アッパー死んじゃったよ」

「バカじゃないの?こんな事で死ぬわけ無いでしょうが」

気絶中のアッパーディス。きっとこれは直ぐに起きる。

はい、起きた。

「相変わらず強ぇな」

「私は昨日からピンピンなのよ。もういてもたってもいられない状態なの。ハイなのよ!ハイ!」

「おいトシレイド、処理したんだよな?」

「処理したよ。みんなが先に寝ちゃうから」

「もう私、くっさくてくっさくてたまらなかったあああ⋯」

「おい!折角起きたのに寝るな!ウェルニ!」

「ミュラエ、あとは頼んだ」

「え!ちょちょっとぉ!私も行くって!てか、ウェルニも行くから!」

「いやー、僕は置いといた方がいいんじゃない?って思うよウェルニ」

「ええ〜⋯⋯うう〜、、、んん、いやぁ⋯でも⋯⋯二人だけで大丈夫?」

「安心しろ。俺たちだけでやってみせる」

「うん、僕も大丈夫だよ。だから、二人はここにいて」

「うん⋯⋯分かった⋯本当に⋯⋯!」

「ミュラエ!大丈夫だから!それに⋯二人じゃない。多くのアトリビュートが集まるぞ」

「え、、、、本当に?分かるの?」

「いや分からんよ。俺達には“スレッドコール”の力は失われてるからな」

「あんな事件を起こしたんだ。きっとこの報せは四大陸全体に伝播されているはず。それを見て聞いて、無視するような軟弱な血筋じゃねぇよ」

「うん、アトリビュートは必ず集まるよ」

「⋯⋯⋯うん⋯分かった⋯⋯ウェルニと⋯待ってる」

「おう、ゆっくり休ませとけ」

「何かあったら⋯⋯ってぇ、伝達方法は無かったね⋯」

「じゃあ、夕方4時にもなって帰って来なかったら、私とウェルニでガウフォンに向かうよ」

「【酷いイビキ】」

「あー⋯ウェルニぃ⋯⋯二人行っちゃうよー⋯」

「安心しろ、必ず帰る」

「待っててね」

「うん、じゃあね」

二人は行ってしまった。昨夜、私達が起こした虐殺事件で剣戟軍の警戒がより強固なものになったのは確実視出来よう。それに関しては不安材料では無いのだが、問題なのは“奴隷解放”。奴隷が未だに“SSC遺伝子”を多分に保有している場合、二人だけじゃ抑制出来ない可能性がある。そのためには多くのアトリビュートが奴隷解放に出た方がいい。


昨日は、沢山の人を殺した。別に久々な訳じゃ無いけど、ウェルニはこんな状態だ。眠気だけとはとても思えない。

「【酷いイビキ パターン2】」

こんな感じだけど⋯昨日のウェルニは参っていた。気持ち的にも精神的にも、七唇律聖教を目前にして、虐殺を起こすのは非道でもあり、信仰的には適切とも言える行為。七唇律が唯一、矛盾点として抱えている“暴虐”。

戮世界より来たりし、律歴4000年以前の“アインヘリヤルの神族達”。七唇律を崇拝している人物からしてみれば、虐殺というのは正しき選択なのか、不正なものなのか分からないのだ。

ウェルニ⋯⋯もうそろそろ、決断してくれないか?

七唇律への信仰を⋯止めてほしい。簡単に出来ないことなのは重々承知。これが簡単に出来るものなら、もうとっくに決断している。どうか⋯お願いだから⋯七唇律から離れてくれ⋯。


二人⋯本当に大丈夫かな。私は不安だ物凄く不安だ。アッパーディスが言っていたけど、アトリビュートの仲間の集結する確率は低いと思っている。その考えに辿り着く訳は単純だ。

もう、いないと思っているから。

アトリビュート。

いや、セカンドステージチルドレンの血統が激減した。その要因は奴隷制度にある。私達はこれが許せない。仲間達が大陸の神への捧げ物として生贄にされているんだ。理解が出来ない。セカンドステージチルドレンだって生きている。生物なのだ。

─────────────◇

私達のような超越者を制圧する兵器が新たに開発された原因も、原世界からのシェアワールド現象と見て間違いない。

─────────────◇

原世界⋯許さない。元はと言えば、原世界での小惑星落下で全てが変わった。多次元世界に特異点兆候が発生し、戮世界“テクフル”が創成。この世界は悪魔が作り出した悪魔の世界。私達の祖先が人類への反抗として起こした大規模な戦争、ジェノサイドフェーダ。

時には様々な衝突があったことも伝承されていたな。中でも、超越者同士の内乱として通常人間にも広く知られている神話の戦争“超越の帝劇”。セカンドステージチルドレンの純血一族“アルシオン”の夫婦が対立し、人類反抗組織が二つの派閥に分離した。

父・ニーディールを支持する者を“玉唇派”。

母・エレリアを支持する者を“桜唇派”。

結果としては玉唇派が勝利を収め、桜唇派の中心メンバーであるアルシオンの子供達と母・エレリアは死亡。数多くのSSCも戦死した⋯と言われている。この超越の帝劇は、戮世界でも数多くのメディアで取り扱われており、作品として非常に利益のあるIPである事が窺える。セカンドステージチルドレンの子孫である“アトリビュート”としては、複雑な気持ちだ。

讃美歌として謳われているケースもあれば、ただの身内の内乱⋯夫婦喧嘩として扱うドメスティックな展開だらけの作品として昇華される場合もある。後者の方が多いのは確かだ。

正味私だって、後者だと言える。アルシオン同士なのにどうして、仲間内で争うのか⋯私には理解出来ないからだ。そして戦争にまで発展している。一体何があったのか。

知る由もない事だが、真実は知ってみたいと思う。それは現代に生きる者として、セカンドステージチルドレンの血盟として、使命だと思っている。

夫婦で対立⋯か。面白い対立構造ではあるけど、ドロドロだなぁ⋯。


「【酷いイビキ パターン3】」

はぁ⋯もお⋯起きないか⋯。しょうがない。何か取りに行くか。近くには港湾都市がある。パクってくるか。

「おーい」

最後のチャレンジ。無意味を承知に一声掛けてみた。

「んんんん〜いっ、、、、⋯⋯っんパイ⋯、、ソコ、、に⋯⋯⋯ないか、、あぁん」

そうやってエロい声を出してる内が華だな。でも頼むからその声は私だけのものにしといてくれよな⋯妹よ。


私は山小屋から出て、港湾都市に向かう事にした。昨夜、山小屋に住んでいた人を殺す前に港湾都市の情報を聞き出していた。そしてこの山小屋を漁っているとどうやら、港湾都市で働く人間だったのだ。山小屋には沢山の食糧があり、少なくとも4日は食い繋いでいけそう。拠点を転々とするのは⋯ウーンまぁ⋯人を殺めるのは得意だ。決して嫌な方法では無い。だが、ウェルニが⋯ウェルニの気が逸脱する事に発展しては事態終息に多くの時間を要する。

実際問題、今こうして私の足止めを食らっているからな。

爆睡している妹の姿を長時間見続ける気は無い。悪い意味じゃない。爆睡している妹に対して何にも手を出せないからだ。

⋯?ん?

⋯え?

なんか、、おかしいこと言ってない?

違うよ。

べ、別に⋯寝ている妹が可愛いからってぇ、襲っちゃいそうになるからってぇ、山小屋から出ていた方がいいって思ってるだけぇ⋯なんだからぁ⋯⋯⋯

⋯⋯

⋯⋯え?

いやいや⋯そんなわけない

⋯え、、、?なんなの⋯、、私⋯、、

ウェルニ⋯

いや、何今の言い方⋯。

完全にイッてる女じゃん。

やめてよ⋯どうすんのよ⋯ウェルニが寝ているフリをしていてえ、起きてる事なんてあったりしたら⋯

「【酷いイビキ⋯だが、ミュラエの愉悦を刺激する内容に転換】」

はわァァァァァんんん!!カワユイ!!!!

ウェルニぃ⋯ウェルニぃ⋯ウェルニぃ⋯ウェルニぃ⋯ウェルニぃ⋯ウェルニぃ⋯ウェルニぃ⋯ウェルニぃ⋯。

て、【酷いイビキ】ってなんだごらぁァ!!そんな紹介すんじゃねぇぇぇわい!!!パターンも重ねやがってえ!!


あ、やっべぇ⋯。

ウンウン、大丈夫大丈夫。ウェルニは大丈夫。私は、港湾都市に行くとしよう。山小屋の食糧は保存食ばっかり。つまらん。とってもつまらん。新鮮な野菜とか、肉とか!ウェルニが喜ぶ姿を想像するだけで、鼻が折れる!

下見していた時に、確認出来た食糧はとんでもない量。さっすが、港湾都市と銘打ってるだけある。それにしても夜なのに、沢山の人間が勤務していたな。“夜だから”っちゅう事か?

朝。どんくらいいるんだろうな、人。多ければ隠密に事を済ませた方が良い。少数ならば殺す。私の行動の邪魔をするなら殺す。それが私のモットーだ。

じゃあ行こうか。

「ウェルニ、行ってくるよ」

「【?????】」

「もお、イビキかも分かんないや。んフフカワユイな。行ってくるね」

こんな山奥だ。人間なんてやって来ることは無い。

山小屋から出る。森林地帯。昨夜、山小屋を襲撃した際は遺伝子より発現されし、光源体を照明ライトとして使用。聞こえてきた人の笑い声と、どう見ても作られた人工照明が数キロ先から観測出来た。

───────────────◈

昨夜 午後22時47分──。


私達四人はその山小屋を仮拠点とし選定。

「よし、ウェルニ行け。頼むぞ」

「アッパー、了解」

ウェルニが一人、山小屋へ行く。辺りは真っ暗。どうしてこんな所に山小屋がポツンと⋯と思ったが、近くに広がる港湾都市の存在を確認し、何となく予想出来た。作戦終了時、港湾都市の近くにある理由が港湾都市に勤務している事を知る。

「あの⋯」

一人の男が現れる。山小屋の扉が開く。扉が開くと同時に、騒がしい声が一瞬にして外に漏れる。

「ん?どうしたんだい??こんな夜中に」

「お父さんとお母さんと⋯はぐれちゃって⋯⋯⋯私⋯何処にいるのかも⋯どうしたらいいのかも⋯分からなくて⋯私⋯」

「あー分かった分かった!おーい!ちょっと!皆!」

「おん?どうしたんだ?」

「おい、誰だい?その女の子は?」

複数の男が現れる。女は⋯今の所居なかった。

「この子、迷子になっちゃったみたいなんだよ⋯」

「親と一緒にいたのかい?」

「⋯うん⋯⋯」

鼻水を啜って、涙目にもなったウェルニ。着々と舞台が完成されてゆく。

これ以降の台詞は、男達の卑劣とも所業にして、最低最悪の会話。小声でウェルニに聞こえないように話していたが、ウェルニには容易に伝わっていた。そして神経伝達物質を通じて、3人にも伝播された。

「どうする?剣戟軍に言うか?」

「⋯⋯いや、家に入れよう」

「⋯おい⋯お前⋯まさかよ⋯」

「女だ。きっと金になる。それに⋯ブスじゃねえ。これは未来が楽しみなパターンのやつだぞ」

「おう、分かった」

「まさか、こんなタイミングで運命のターゲットに巡り会えるとはな」

「取り敢えず、中に入れよう」

「地下には入れるなよ、他のガキが居るからな」

「でも、もう死んでんじゃねえのか?」

「おい、なんで捨ててねぇんだよ!」

「だって後で捨てようとしてたんだよ!」

──

「あのぉ⋯」

──

もうこんなゴミみたいな会話を聞きたくなかったので、ウェルニがカットイン。

「ああ!ごめんね!さぁー入って入って!」

中に入ると、言及していた死体臭を直ぐに感知。何重にもなった扉の先にある事も判明した。勿論、私が死臭を感知している事など、男達は微塵も思っていないだろう。

それにしても、このハイテク時代にもなって“山小屋”とは⋯趣味がいいな。

「君、名前は?」

名前を問われた。言うわけねぇだろキショい。

「おじさん⋯私⋯怖い⋯コワイ⋯こわいの⋯」

「ちょちょ!どうしたの⋯!泣かないで!ほらー大丈夫だよ。大丈夫ぅ。おじさん達が居るからさ」

6人の男。こんな貧弱な身体で『居るからさ』なんて戯言やめてよ。本当に気持ち悪い。

「おじさん⋯⋯みんな⋯⋯私の⋯ミカタ?」

「ミカタ?うんうん!勿論味方だよ?」

「本当に⋯?ほんとにほんと?」

「ああ。だから⋯明日の朝になったら、親御さん捜してあげるからね」

「ほら、もうこんなに暗いんだから、今捜しにはいけないだろう?」

「そうだよー、だから今夜は⋯おじさん達といようね」

「うん⋯ありがとうおじさん⋯。私、嬉しい。私達、嬉しい」

「うん?私⋯たち?」

「うん、私達、、、嬉しい」

「え?私⋯じゃないのかな?」

「ううん、“私達”うれしい」

「君は⋯今、一人なんだよ?確かに“僕ら”も君と出会えて嬉しいけどさ」

「ううん、おじさん達は含まれてないよ。“私達”うれしい」

「おい、なんだこのガキ⋯」

「小声、聞こえてるよ」

「え?」「え?」

「奥で話しても無駄。デバイス間で連絡を取りあっても無駄。おじさん、私達は嬉しい。すっごく、すご〜く嬉しい!」

「おい!なんなんだお前!」

「おい!やめろ!」

私のふざけた言い回しに怒った男を制する別の男。

「君、大丈夫かい?ちょっとおかしくなっちゃったよね、だってこんな暗い所で一人でいたんだからね。さっ、ほら、お風呂入ろうよ。お風呂。お外寒かったもんね⋯1月は寒いからねー⋯」

────

「お風呂にあるのは女の子の腕?足?」

────

私を別の部屋に誘導した男が、ナビゲートの手を引く。

「⋯⋯!」

「どうして?どうしてそんなに驚いているの?」

「仕方無い⋯おい、このガキを捕らえろ」

ボスと思われる男が他の男五人に指示。ウェルニを拘束しようとする。

「“私達”、嬉しいよ。こんな⋯ゴミを処理する機会に立ち会えて」

私を取り巻こうとした五人の両腕に、斬撃の刃が走る。もれなく五人の腕は切断され、大量の出血で部屋は血だらけになる。断裂部分からは骨と血管が分かりやすく露出しており、綺麗にスパッと実行することに成功した。

「いてぇぇぇえええええぇええぇ!!!」

五人は同じ感想を発した。

「お、お、お、おい⋯!!お前⋯⋯なんなんだ!!!まさか⋯お前⋯超越者か??」

「今から死ぬ奴に何か言う事があると思う?」

「おい!待て待て⋯!待ってくれって!」

まだ一切の攻撃の手を加えていない男が許しを乞う。

「すまない!申し訳無い!」

「この五人、殺したいんだけど⋯いい?」

「おい!頼む!すまなかった!正直言うと、君を襲おうとしていた⋯正直に言う⋯すまない!本当に申し訳無い!!」

「あのさぁ、私、質問してるんだけど⋯この五人、殺してもいい?」

「⋯構わない」

「ちょっと!⋯⋯」

一人殺した。

「殺す事はねぇだろ!!!!」

「だって、この人が『殺していい』って言ったんだもん」

コイツ⋯まだ、手をちょんぎられていない男。恐らくコイツは賭けているんだ。謝罪を受け入れてくれる方に。私は、そんな事全く考えてない。それに、私は殺害のカウントに制限などは無いので、結局の所、最後に現状無傷男も殺す。

まぁ段取りとか面倒だから、この四人は直ぐ殺す事にしよう。


「そんな⋯⋯おい!殺す事までやらなくていいだろうが!」

「あんた⋯良くそんな事言えるね。この臭い、気づかないとでも思った?」

「⋯⋯俺らが良人だったら、殺して無かったのか⋯」

「いや殺してるよ」

「⋯⋯⋯おまえ⋯」

「あ、さっき言ったよね。“私達”って」

山小屋の扉が開く。

「あーあーウェルニ、、」

「ウェルニやってんなァ」

「ウェルニ!大丈夫!何もされてない!?」

「うん、大丈夫だよ」

「ウェルニを犯そうとしたのは、このクソジジイ共でいいんだな?」

アッパーディスに頷くウェルニ。

「ラストも、ウェルニに任せるとしようか」

「アッパー、いいの?」

「ああ、お好きなように」

「じゃあ遠慮なく」

山小屋の壁に取り付けてあった大鎌を手に取る。

「おい⋯おいおいおい!頼む!許してくれ!頼む!頼むよ⋯!お願いだ⋯!!」

男の悲鳴と共に吐き出される慈悲の叫び。それを掻き消すように大鎌が男の右足に振り下ろされる。

「あああああああああ!!!!」

「あーゴメンゴメン。振り下ろす箇所間違えちゃったあ」

「あああああああああ!!!」

「うるさいなぁーもう決めるから、ちょっと⋯黙っててよっ!!」

ウェルニは一発二発で、絶命させず、最後の獲物への審判をとことん楽しんだ。

「あー、なんか⋯イモムシみたいになっちゃったね」

「⋯⋯⋯⋯」

四肢を切り落とした所で、男の慈悲を願う叫びが完全に消え失せた。

「この人、相当、生きたかったんだろうね。残りの左腕一本になっても尚、声が途切れる事が無かった」

「タフだな。勿体無い勿体無い」

「その力を別にものに使えば良かったのにね。僕だったらそうするな」

「ウェルニ、何もされてないね?」

「うん、大丈夫だよありがとう」

「このゲス野郎共が」

「普通に山小屋を襲おうとしたら、こんなハズレ宿を引き当てるなんてね⋯私達ってほんとにツイてないね」

◈───────────────


大鎌を振り翳すウェルニの表情。殺戮を楽しむ姿を十分に表現していたが、その反面、殺した遺体に弔う姿がとても印象的だった。

「どうしてこんなヤツらを弔うの?」

殺戮を終えたウェルニに、ミュラエはそう聞いた。

「人だから。生きてるから」

ウェルニは何も返さず、困惑した。さっき⋯あんなに楽しんで殺していたのに⋯。四本の手足を切断したのよ?そんな奴が言う台詞なの?

『人だから、生きてるから』

それに文言もおかしいし⋯。

『生きてるから』じゃなくて、『生きて“た”から』が適切だと思える。

これが七唇律を崇拝している者の末路。

自分の感情を失い、次第に心を蝕んでいく狂信だ。私達はそんな七唇律を滅ぼす為に乳蜜祭の“生贄の儀式”をピンポイント指定、七唇律聖教者を抹殺しに行くのだ。

奴隷帝国都市ガウフォンは、テクフル四大陸随一の協会都市。大陸の神への儀典“乳蜜祭”も開催されるベストタイミング。標的としてはこれ以上無い理由が揃っている。


と、まぁ10時間前の不安を直ぐに拭える訳もなく⋯しかも肉親だ。そんな妹を一人にさせるのは可哀想だが、あの眠りだ。直直帰すれば問題なかろう。

ん?

なんだ⋯?何か⋯⋯誰だ⋯。

私と同じ⋯⋯同じ感じがする。

トシレイドでも、アッパーディスでも無い。

違う感覚が神経を刺激していく。

私は木に隠れ、私に刺激を与えてくる対象を待つ。

まさか⋯アトリビュートか?だがもしアトリビュートなら、相手も私と同じ行動を取っているはず。なのに刺激受信信号はどんどん接近。相手は⋯私に気づいてない。

そして、その刺激を齎す相手の容姿を確認した。

「⋯⋯え?⋯⋯⋯⋯何あれ⋯」

肉体を感じない。あの肉体はパチモンだ。肉体を装具している。あの男⋯一体何者だ?


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「Lil'in of raison d'être:Chapter.6“Bishop”」

I'm lonely. know that's selfish of me.

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第六章、完結。

フラウドレス編が戮世界と繋がりました。

ここからは今までのリルイン・オブ・レゾンデートルとクロスオーバーする展開が多数出てきます。こういう系統のシナリオを作ってしまったので、宿命だと思っています。

なので⋯もうあんまり新設定は作りたくありません。ですが作らなきゃやっていけませんのでやります。

やるったらやります。


最近の沙原吏凜。

「転スラ」にハマりました。面白いですね。

イッキ見っていいですね。


第七章は⋯本当だったらフィルムレスストレージ編を執筆するつもりでしたが⋯どうしましょうか⋯ここまで来ちゃったので⋯フラウドレス編を⋯、、乳蜜祭終わりまではやろうかな⋯、

10万文字のシナリオを半月に一回更新出来ている自分には唯一褒めたいと思っています。

よくやってるよ。自分。このあとがきって自分で後から見るんですよね。だから、色々と書き残して起きます。


では、また一週間以内に。

1A13Dec7・沙原吏凜

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