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[#69-双界]

白鯨が表示する、真理の行方。

[#69-双界]


判らない。

私が今、どこにいるのか判らない。

なぜここにいるのか…私がどうやってここに入ったのか…。

入った?

自分の意思で?

誰かに命令されて?

いや、私は命令されるような器じゃない。

二人も“命令”という類のものは私に口にしない。

二人…?

そうだ…、私には友達がいる…。

名前…、、

ええっと…

名前…

名前…

名前…

名前なんて、、、、あったっけ…

私の名前…、、、あれ…名前って…

名前なんてある存在だった…私って…、、、

私の周りに名前のある人物なんていた…?

私はどうやって生まれたの…

、、、どこから現れたの…?

女の腹から。

そんな事は判ってる。

じゃあ何故、疑問が浮き彫りになるの?

そう思ってたんじゃないの…?

私に名前が無いと、この世界に名前が無いと勝手な都合と解釈で片付けていたんだ。

苦しいいいわけね。

そんなわけないのに。

見苦しいいいんけね。

そんなわけないのに。

…、、、、…やめて…忘れそうになる…。

私の肉を削ぎ落とさないで。

虚飾。

神々が創りし、ありのままの身体。

その上の虚飾が施され、人間が完成した。

なによ…なんでそんな文書に書かれたような書き言葉を言っているのよ…、、、

私はそんなもの…知らないのに…

花しか知らない…。

花と…二人…、、

誰だろう…ぼんやりと…輪郭が浮き出る…

本当にこれは自分の記憶なのか…?

虚偽の虚飾。

私って…そんな小さな存在だったの…?

初めてだと思う。

私が私の過去を見たのは。

そんな経験出来る人間なんているのかな。

セブンスは有り得るか…。

お願い…二人だけでも…いい。二人しか要らない…。

二人の存在にだけでも光を当ててほしい。

私にはそれしか無いから…どう足掻いても二人を失ったら…その足掻きが…、、私は本当に…本当に…、、

本当に、、、

本当に…何をしていたのか不明瞭になる。

元々不明瞭だったのかもしれない。

さっきっから…私は自分に対しての質疑応答を繰り返しているが、どうも当て時を感じさせない。

私が全てを支配する。

二人よ…

二人がほしいの…

ほしい?

自分のモノ?

自分が作ったモノ?

自分が生きていくためのモノ?

自分は二人がいなくなったらだめな…モノ?

自分は…、、私は…、、、アタシは…、、

自分の力で…ここまでやって来た…、、

でも二人の力が乗じて、たくさんの困難に打ち勝ってきた。

私にはもう…生命としての尊厳が無い。

人として…生きる資格が無い…。

自分の人格さえもあやふやになってしまう生命体に、誰が手を貸してくれると言うんだ…。

二人には酷い事をしてしまった…。

ヘリオローザの人格を私はどう思っていたの。

今まで、ヘリオローザの存在に気づいていなかった事がどれだけ愚かな事なのか。

今になってようやく理解出来ている。

遅すぎる。

私は色んな物事に於いて、判断が遅い。

判断が遅い割に、明確な回答への導きに欠陥がある。

二人の指導者には向いていない。

二人が私に付き添ってくれて本当に感謝している。

上位互換があるならば、今すぐにでも感謝の言葉を訂正し、その言葉に書き換えたいものだ。


ここ…

…私は…どうしたらいい。

どうすればここから抜け出せる…

白鯨の光輪に逃げ切れなかった…二人もそうだったはずだ…きっと私と同じ空間に取り込まれたはず…。

この光臨の世界。世界といっても何の変哲もない暗黒に満ち満ちた世界だ。余計なものが一切無く、これ以上でもこれ以下でもない、虚無を貫いた静寂な世界。一点の灯りが現れると、そこに行きたくなる。そのぐらい、行くあても感じさせない、深海のような場所。

なのに…進んでいるような感覚に包まれるのはなんだろうか…。

白鯨が何処かに連行しようとしている…?

どこだ……、、どこなんだ…

どこに連れていく気なんだ…

嫌だ…いやだ…会わせてくれ…会わせろ…、、、二人に…会わせろ…!!

名前は判らないままでいい。今はそれを追求する気は無い。

名前を忘れてしまうこと自体、恥の窮極だ。

「***************」

これは…白鯨の怪音波。違和感を覚えるのはこの世界にいる事が一因となっているのか。

全くの害を感じさせない。

“違和感”を感じるというのは己への害悪では無い。

「こんなもの…だったか…?」

この世界には自身の声が反響するシーンとそうじゃないシーンがある。

動きを取り入れても、今自分がどこにいるのかは当然判らない。

試しにルケニアを顕現させてみる。

すると暗黒に染まっていた世界に幾数の色素が混在する。「何…私のルケニアに…反応を示している…?」

ただ単にルケニアを呼び起こしただけだ。臍帯への神経接続もまだ果たしていない。母体からの覚醒で、直接的な顕現を果たした迄だ。実際にはこちらの方が時間も掛けずに済む。だがあまりリスキーなモーションをこの未知の世界で取りたく無い。

母体からのルケニア顕現には臍帯の介入をショートカットさせる事で、それ相応の負荷がかけられる。枢機卿船団と白鯨に起こした臓物を露出させるまでの攻撃極地点に行動は、フラウドレスの感情とルケニアが最大リンクした賜物。簡単に起こせるものでは無い。

世界の鳴動を感じる。

揺れ動く世界。

その揺れがルケニアの顕現後から時間をかけるにつれ、振動の尺度を変えてくる。

「なんだ…何が起こっているんだ…」

外部から伝わる異質な肌触り。こちらから触りに来ている訳でも無い。世界が狭まっているのか…いや…そうじゃない。世界の方から私に近づいてきている。するとそこからは内部にも深く影響を与えてくる。でもそれは痛覚的なものでは無い。優しいものだった。先程から“害はない”と言っているように、この世界からの身体の内外を問わない侵入には、生命の素質を奪い去るような残酷な痛みが無い。

これが本当に私を取り込んだ白鯨が実行している事とは思えない。

白鯨は私の敵では無い…?

そんなことは…考えたくない。

敵だ…そうだ、敵だよ。

白鯨は私と…二人を切り離した。

これを敵と言わずなんと言えばいい…。

「*************10」

なに…なにを言ってるの…。

どうして私は白鯨が“何かを言ってる”と決めつけているの。

どうして白鯨を理解しようとしているの。

気持ち悪い。

とても気持ち悪い。

こんなの望んでない。

なのに…………自らの意思と反して勝手に思考が白鯨寄りになる。

「**11111**1111110」

「なんなんだよ…!!お前は…!!!」

「****10100011000」

「いちいち突っかかって来るな!お前が私をここに連れてきたのだろう!殺すのか?私を地獄にでも連れていく気か?どうなんだよ…、、、どうなのかハッキリ言えよ!そんなん彷徨みたいなもんをやめてさぁ!!」

「1111111111110000000000*」

種類を変えてくる。法則性の見えない、謎の連番。私が言葉を返す毎に、自分と同じ……え……、、なに……、何その気持ち悪い考察…、、私と同じ台詞の音色を奏でている…?何それ…意味わかんない…だから…どうして私は…白鯨寄りになってしまうのよ…、、、本当に嫌だ…

「111****111**11*0001111」

「だからそれは何なんだよ…!!お前が毎回違うシフトで決めてくるから、無駄な勘繰りをしてしまうんだ!何も無いんだったら黙ってろ!殺すんだったら直ぐに殺せ!地獄に連れていくのか?だったらそうしろ。その時、私を地獄に連れて行った瞬間に、光輪とお前に繋がった操演線量を切り刻んでやる」

言葉を投げるも対象物が明確にならない以上、自分の今が馬鹿馬鹿しく思えてくる。

何をやってるんだ…私は…。

──────────◇

「1111****0000」

◇──────────

「なに、、、あの光は…」

あの光…なんだか…海底トンネルを抜けた時のような…暗闇からの解放を感じる…。

なにこれ…デジャブ?

なんかもうほんとに…意味がわかんない…なにあの光…別に近づいてるわけでも無いし…、

動く…っていう感覚も無いから、あの光の正体を突き止めることも出来ない。

突き止めようとも思ってない。

突き止めようと思っている。

…………なんだ…これ…、、、私は………こんなにも自分の意識を逸脱させる脆弱性の高い生物だったんだ…。

私はどうにかして、現在の自分を否定し続ける。

否定を継続させていると、自分が生きていることさえも、否定していくことになっていく。

違うよ…、、違う…そういうことでは無い。

別にそこまでは考えなくてもいいの。

自分を追い込むのは結局のところ、逸脱の原因に連なる。

逸脱から“虚脱”へ…。

己の突き進む方向性を勘違いし、別の進路が解放されるとまるで元からその方向を進んでいたかのように錯覚してしまう。

自分の道を無理に把握するのは、虚脱への優先的な進路。

虚脱はやがて、逸脱の概要を併せ持つ存在となり、白鯨が見せるビジョンとの整合と合理で、身体をコントロール。

主幹の中に宿し、曖昧な境界との繋がりを果たした後、それは自分の身体とオーラに最も適した丁度のいい器へと変換を遂げる。

厳しくも無く、辛くも無く、虚ろでも無く、苦くも無い。

私が現在に思うベクトルを意識の理に無駄の無い範囲で堅固なものとさせる。

それが私にはどれだけ、気持ちのいいものか。

とてもじゃないけど、快楽の果てを思い知った気…だった。

私の愉悦に浸った時間は途切れる事の無い。

途切れさせる気になれない、悠久の時間を希望させる。

如何にも、それは白鯨の思惑であることを理解しつつ。

白鯨の思惑を理解した中で、私の境界に白鯨のマインドを赦す。

形だけ、表面上だけでの赦免はもう済んでいた。

白鯨は『していない』と言っているけど、私的には感じ取れたんだ。

『自分』と『私』。

本当はどちらがどっちだったっけ。

『アタシ』もあったけど、これは…『**』じゃないから、無視することにする。

その中に入るのは誰?

「11111*****0000000*****」

言ってる。また、いつもと違う事を言っている。

「111112****00000008*****」

何それ…なんで……、、いつもと…違いすぎる…、、

光が大きくなる。

光って思ったけど、色は“光”っぽくない…。

光が突き刺す。

光が突き刺すその先は、『私』だ。

本当は私じゃないんだろうに…。

だって…私を突き刺す前に、この世界を見渡してるモーションがあったから。

私を、探していた?

そして…見つけた…?

だから私を突き刺し続ける…。

その光に乗せられる白鯨の祝福と呪い。

私には理解が出来た。

理解の及ぶものと及ばないもの。

二つの区別がここに来て、抽象的なまでに可能となる。

私は白鯨に応える事は無い。

私達をこのような目に遭わせた“異形”を許さない。

胸に突き刺される光が、喉元をスルーし、顔面と来て、辺縁に伝わる。

今までは異なるエネルギー質量に若干の驚きを見せたのは事実だ。

誰の目にも入らない世界とて、偽善を成す意味が無い。

光は時を刻むにつれ、不穏な空気を醸し出す。

脳幹に直接的な訴えを始めたのだ。

私に言う。

それは私には理解不能なメッセージ。

地獄への通達か、ただただ嘲笑の見せつけか。

どちらにしろ、私にとっては凶報であることに違いは無い。

ここで終わりか…、、、私の人生は。

“人生”と言っていいものなのか。

ロクに人生を謳歌したような憶えがない。

二人には最後、感謝の言葉ぐらい伝えたかった。

これで終わり…そう思いたくない。

だけど、そう思ってもいいような状況に落とされた。

これからの私がどうであれ、二度と人との…生命との対等関係を築けるような安定の成形は約束されない。

私は…終わった…、、

決心をする。


光が…消え…、、、、る。


辺りが…、、、黒から…白に…、、赤に…緑に…青に…、、、茶色…、、紫…黄…、、それと…、、、何色??


私が…、、消えていく…、、この世界から…、、消えていく、、


どうしても……そうはなりたくない…、、ないけど…気持ちがいいの……



だから止められなくなる………


止まらない…


気持ちいい…


気持ちいい…


気持ちいい…凄く気持ちいい…


やばい…こんなの初めて……


おかしくなる…


これが本当の私…。


私の本当の姿。


本来の姿。


私ってこんな一面あるんだ…


なんか………悪くない…。


悪くないけど…私にはとても似合わない。


似合わない………似合いたくなかった。


似合う者って…もっと人らしい人なんじゃない…?


私にもこういうの味わってよかったんだ。


え、、、、、


終わるの?


まだしたい…


もう終わり…?


まだヤリたい。


まだしたい。


ねえ…お願い…終わんないで。


終わったら…また私…ここで何も無く…終わっちゃう…


お願い…お願い…お願い…お願い…お願い…


止めないで…私が私でいれる唯一の手段。




「…、、、、、、、、はぁ…ああ…んん……、、なに…、、、これ…、、どこ?……ん?」

木…、、緑に囲まれた…私。漆黒の世界から解き放たれた事実。これを虚構と願うには、人格を大いに痛がる必要性がありそうだ。

「どこ…ここは………」

白鯨の中に、、、私はいた。“中”だと断定出来る材料が少ないが…“光輪の中”と呼ぶ事にしよう。

「森林…、、どこ…」

先程から同じ言葉しか吐けない。それ以外に心を蝕む感情が無いからだ。これ以外の感情が芽生えたとするならば…二人を見つけた時だ。

「どこ…、、、ねえ!…あの…、、、その…二人…!!二人ーーー!どこにいるの!」

“二人”なんて………名前が思い出せないんだから…こう言うしかない。私の声であちらに気づいてもらうしかない。仮にあっちが私を…覚えているとするならの話だが。

光輪の中に取り込まれたのは、二人も同じ事だ。だから…私の事を…覚えていないかもしれない。白鯨との接触が、対象物の記憶を奪う機能を有している“改竄者”であるならば…、、私と二人は相当厄介な化け物に戦闘を仕掛けていた事になる。

とても…とても…とても…面倒なことになった…。

記憶が失われた事に関して…、今は優先すべき事では無いと思う。二人を思い出すのは大切だ。だけど、二人の情報が無い。当たり前のように備わっていたはずなのに…ゴッソリと抜かれたこの…感触すらも感じない気分。

元々、私には周辺見渡しても、誰もいなかったような気持ちになる。

いたのに…絶対に…いたのに…。


優先度を上げようにも…『二人を知っている』という断片にも程がある情報しか所持していない。

今は、私個人に降り掛かった出来事への解決法を探る事にしよう。

それにしても…芽生える感情としては同じだ。

取り敢えずは…歩こう…。

歩く。

音が無い。

道無き道。

羽田空港にいた時の服装は維持されている。服装って言っても、ルケニアと常装の融合体。現在この大地を踏みしめているのは本当の私では無い。

私だけど、私じゃない。黒薔薇のエネルギー量を母体に注ぎ込み、幼体から少女の姿を仮面として着飾っている。

母体は3歳だが、推定年齢は12歳を設定した。

私がルケニアを顕現させたのは、単純な警戒心によるもの。

私は12歳の身体で森林を歩く。


景色の変わらない時間が30分。

飽き飽きしていた頃、木々の隙間から陽光が見え始める。

もうこれに酷似した事に直面するのは何回目なんだろうか。その時に二人は…いたんだよね…、、だったらその記憶を思い出しさえすれば、二人の存在を思い出せる。

、、、、思い出せない。


今度の光。“陽光”と認識できたのは、光輪の中で視認したものより、二人と一緒にいた時…トンネルで視認したものに似ている光だったから。

私はその光が射し込む場所に向かった。

「………………あれは…街…?凄い広い…、、、」

この問題を解くには、現実から目を背けない方がいいようだ。

都市。

それも物凄く広大な都市。

とてもじゃないが、日本では無い…というのは直ぐに判った。

私がいたあの場所しか日本が受けた爆撃の様子は分からない。だが日本列島全域に同等の爆撃が行われたのは確定で判る。私の前に広がる都市が爆撃の影響を受けても尚、この規模を維持できたとは思えない。

「外国…?どこだ……、、」

外国への関心と知識は無い。

私が今、日本にはいない。

その事実だけは判明した。これだけでも十分な収穫。白鯨は私をどこに連れて来たんだ…。


都市目前までやってきた。

巨人でも入るのか、あまりにも大きすぎる門の前。20mは超えるゲート。そのゲートの前には警備員と思わしき男が二人。二人の服装に違和感を感じる。

「なんだ…なんか…凄い…ハイテクだな…見た事ない銃に…見た事ない防具」

私が今までに傍受してきた情報とは異なる内容。日本帝国軍では無い事は明らかとなる。もう少し踏み込んだ情報が欲しい。ここが日本では無い事は分かりきった事なのだから、もっと私の気が晴れる情報が欲しい。そのためには…

「行くしかないか…、、、だけど…これ……大丈夫…なのか…??」

すると、私が目線を向けるゲートに一台のトラックが現れる。荷台付きのトラックで、何かしらの紋章が記載されていたが、それに心当たりは無い。

トラックから人が出てきて、ゲートの警備員と話している。

まぁ…当たり前だが、こんなところにいてはゲート前にいる人間達の会話は聞こえるはずもなく…

「よし…やるか…」

母体からルケニアを抜き、本来の顕現方法である、神経接続を行う。ルケニアが透明状態となり、ゲート前に最接近。これでゲートでの会話を傍受する事が出来る。

トラックの男が、ゲート前にいた男二人を会話するそのさまを、途中から傍受する。ここに現在の私が優位な状態になれるデータを獲得出来ればいいのだが…。


「今日は何人だ?」

「今日はだな…子供が4人、大人が3人。老人が1人だ」

「ほぅ〜中々に豊作じゃないか。どこでそんなにも確保出来たんだ?」

「北部だ。北部には未だ開拓されていない場所がある」

「そこに行ったのか?危険だっただろう?」

「ああ、抵抗してきたが、直ぐにやっちまった」

「ということは、もっと候補者が多くいた可能性があった…という事か?」

「そういうことになるな」

「全く…何をやってるんだお前は…」

「すまないな。だが…荷台を見てみろ」

「お前が殺したのは抵抗の意思を見せたやつだろ?」

「てことは、荷台に積まれた奴らは弱い奴らだ。教皇は弱い者に興味は無い」

「いや…一回見てくれないか?せっかく北部にまで行って連れて来たんだ」

「…はぁ…、、、どうする?」

「………荷台を開けろ」

「どうだ?」

──

「……!!なにあれ…信じられない」

────────────┨

遠方に距離を置き、視覚的にはルケニアを通さず、母体として奴らの会話を確認。トラックの男が荷台を開けると、そこには老若男女問わない統一感のない人間が縄で拘束状態のまま、横たわっていた。拘束された人間達は一人一人が仕切られており、口には猿轡がされていた。

「なにあれ………さっき言ってた…人の数と…一致してる…」

私は状況を疑った。

「……まさか…セブンスの…捕獲?いや…でも……セブンスがあんな縄ごときの拘束で…ここまでになる…?」

そうだ、拘束状態の他にも荷台に積載された彼等がセブンスだった場合、適合しない遮蔽状況がある。

完全に殴られた痕跡がある。会話上、積載した人物に暴行を加えたとは言っていなかったが、『やっちまった』という言葉には引っ掛かる。

人間がセブンスを拘束するにはそれ相応の科学兵器を使用する必要性がある。私もそうだったから…だから、マーチチャイルドから逃げられなかった。


荷台を確認するゲート警備員二人。

「あーあ、こりゃまた不良品だな」

「そうだな…あんまり…こーいうのはタイプじゃないんだよ」

「フン、お前らに何がわかる。たかがゲートの警備兵ごときが」

私の解釈は間違っていなかったようだ。

「俺らは数々の“奴隷貿易”を見て来た。確かに北部の人間は価値がある。純血が入っている可能性があるからだ。だがこいつらには一切のそれを感じさせない。ただの臭ぇ奴らを帝都に入れる訳にはいかん。それにまだ今日は一台来るしな」

「これ以上の抵抗は七唇律への背教となり、処刑にあたるぞ」

「………判ったよ…。判った判った」

「じゃあ、このままにしておけよ」

「……ああ…分かったよ、今離れる」

トラックの男が渋々とその場から離れる。荷台から少し離れた所に位置。警備兵が荷台に乗った。拘束状態の人々は彼等の動きに怯えている様子だった。声を出そうにも、抵抗する事も出来ない。何とも地獄のような光景を確認する。そして…荷台に積載されていた人々を警備兵が射殺した。

「ギャーギャーうるせぇんだよな。おい、もう二度とこんな不良品を連れて来るな。教皇は秀でた奴にしか興味無い。こんな下等は奴隷にすら値しない」

「まぁ、あんまりこの類の人間を連れてくることは進めない。あなたの立場的にも安泰とは言えないパターンも視野に入れておいてくれよ」

「…………ああ、判った」

なんなんだ…?ここは…“奴隷”という言葉がやはり引っかかってしまうな。でも…まぁ…世界は広いし、私にだって知り得ない世界の事情だってある。奴隷制度のある国が存在する事だって、考えられない事では無い。普通の人間…そうか…セブンスだったら奴隷制度の対象となるのは判る。奴隷と称された憶えは無いが、それに近しい経験はしてきたからだ。

普通の人間も、奴隷としてこき使われる時代なんだな…。世界戦争が今、どのような局面に立たされているのか。そしてここはどこなのか。何となく分かっていたが、トラックの男と警備兵が、戦争と自国について話すシーンはやって来ないか…。

世界戦争は最早、日常化している。戦争について平民が話すのは、それが終わった時だ。



射殺。驚きはありつつも、この国の風習や文明が色濃く反映された一コマと認識。“奴隷”として積載されて来た人間達には弔辞の意を込める。命を捧げて、私に数少ないデータを授けてくれた人達に感謝する。

「奴隷制度があり、“教皇”と呼ばれる奴にそぐわないレベルの人間なら、切り捨てられるのか…。中々に野蛮な国だな。北部…そう言ってたな。北部……北部…世界で北部と言ったら………うーん、、、そんなもの…検索したら無限に存在するぞ…先ずはここの地名だ。地名さえ聞ければ、直ぐに国名が断定出来る。じゃあ…」

トラックがゲート中に入る。警備兵はその様子を見届け、再びゲートが閉まった。

「さて…こんな…ナリで…、、行けんのかよ」

久々にヘリオローザを意識。

「おい、ここ…フラウドレスはどこだと思ってんだよ」

「ううん、わかんないから困ってるんだよ。てか、急に現れて…今まで何してたのさ」

「アタシもごっちゃごちゃになって意味わかん無かったんだよ。気持ち悪くてとてもじゃないけど、ここに来てようやくだよ。外部にアタシを露出させることが出来た」

「露出って…あなたの言葉の表現にはいつも変な部分があるわよ」

「うっさいな。こんな状況で説教なんかすんなよ。てか、アイツら、なんなんだよ、人間射殺してたよな」

「うん…奴隷に見合わないって言ってて…」

「なんだそれ。奴隷に段階とかレベルなんか価値とかそんなもんねぇだろ」

「いや、あるんじゃない?女性と男性の奴隷だったら女性の方が奴隷的な価値は高いもんじゃない?」

「それは買い手によるだろ。買い手が女だったら、女を奴隷として使うと思うかよ」

「そうだね…確かに…買い手によってだね」

「ンでぇ、どうすんだよこっから」

「勿論、目の前に広がる大都市に潜入する」

「潜り込むか?そのガキのまんま」

「それしかないでしょ?大人になるにはもっと母体としての身体に歳月をかけないと」

「どうする?」

「ヘリオローザ、あんたも考えなさい」

「あぁ?お前、アタシの事必要ないんじゃないのかよ」

「んん?被害妄想激しいねヘリオローザは。私はそんなこと言った覚えないよ?」

「なァんかフラウドレス、良い女になってきたな。過去にこんなのがいたよ」

「レミディラス?テラドミオン?」

「いいや、もっと前だよ。ずっーーと前のラキュエイヌ。名前が……ええっと……、、ああーーーああ…」

「………」

「お前…待ってんのか?」

「……うん……」

「そんな力強い言い方すんな、きんもい。ほら…もういいよ、お前みたいなクレバーな考えをする奴がいたってだ〜け!名前は…ええ、、今度思い出すから!」

「はーーい。じゃあ…警備兵の真ん前に行こか」

「お前シンキングタイムの概念無いのか?」

「んふ、何博識ぶってんの?考えても何も始まらない。私と同じ意見のはずよ。あなたも」

「まぁ…そうだな。フラウドレス。警備兵殺すか?」

「いいや、そんな殴り込みを掛けることは無い」

「じゃあ…どっかから抜け穴を探すか?」

「そんなの、ハラハラドキドキしないじゃない」

「ほぉ〜、だったらどうすんだよ」

「さっきの、トラックあったでしょ?」

「ああ・・・おい・・・お前…マジで??」

「乗っちゃおうよ」

「いやいやいやいや・・・いやいや」

「面白そうじゃない?」

「面白さとか要らねえって・・・」

「言ってたよね。『まだ今日トラック来る』ってさ。その荷台に私が乗っかるの」

「お前、この身体がその“教皇”とかいう奴の価値に見合ってるとでも?」

「当然でしょ。セブンスだよ?」

「確かにな…普通の人間に興味が無いなら、セブンスを差し出せば…振り向く可能性は無くはないな…」

「そうよ、そゆこと」

「ンでぇ、肝心の荷台への潜入方法は?下手したら、それが一番難しいんじゃねえーの」

「それは・・・・・・・・・」

「ウソっしょ・・・?」

「・・・」

「・・・え・・・見切り発車もいい所だな」

「だって・・・絶対いい案でしょ!?」

「お前さ・・・荷台の奴らに見つかってそっから大声上げられて、運転手に異変気付かれて、バレる事ぐらい予測出来なかったんか」

「・・・・・・・・・うーーー・・・・・・」

「なんだそれ・・・」

「・・・・・・あ」

トラックがゲート前にやって来た。

「全然聞こえなかった・・・」

「コレぁタイミング逸したな」

「いや・・・諦めるにはまだ早いよ!」

「え・・・・・・?」

「行くしかないでしょ!」

「はぁ・・・ここで殺り合いは流石のアタシも望んでないからな」


フラウドレスは木々から身を解放。ゲートの傍に置いたルケニアの元へと瞬間移動する。ゲート前、トラック車体上部にゆっくりと降着。一切の緩みも許されない隠密行動。少しの歪みで荷台への振動が伝わってしまう。警備兵には勿論、運転手にも、バレてはならない。荷台に積載されているであろう奴隷候補者にはバレるのがオチ。奴隷候補者が拘束されていてテンションの浮き沈みが激しくない事を祈る。先程見た荷台の奴隷候補者・・・所謂、射殺された人間達は落ち着いた様子だった。もう、この身が他人の物になる事を覚悟しているような面持ちだった。

このことから、私は奴隷制度が警備兵らの言及していた“北部人”には少なくとも話が通っていると窺える。

奴隷候補者がこの都市に回されることが珍しくない。フラウドレスは、自分達といる国の文化を思い知る。

「どうしよう・・・こっから・・・」

「なんだフラウドレス、ここで諜報活動は終わりか?トラックの上だぜ?」

「ちょっとうるさい・・・!黙ってくれない?」

「なんだ今更、別に言葉を口にしてる訳じゃないだろ。アタシらの声が外部に漏洩してる訳じゃないんだし」

「集中出来ないの・・・!黙って・・・!」

「ハイハイ」

フラウドレスはトラックの上に隠れ、下で行われている会話に耳を傾ける。今度は母体が会話に直接近づいた事から、さっきよりも鮮明に話し声が聞こえる・・・という訳では無い。ルケニアオーラが近づいた時と同等の聴力を確保して盗み聞きした。


「うん・・・うん・・・うん・・・悪くないな」

「どこでこれを?」

「これは・・・北部です」

「北部のどこだ?」

「・・・ブルーノンティのブレックバロック」

「ほう・・・何故隠すような真似をした?」

「・・・聞き入れてくれないかと思って・・・」

「奴隷候補者を見せる時には必要な情報だ。最終的に運搬場所は問われる。そんな事を知らないはずが無いだろ」

「・・・」

「何故黙る」

「・・・・・・」

「・・・うわ」

警備兵と相対していた運転手が二人の首を掻っ切った。突然の出来事だった。急に・・・なんの前触れも無く、一切の悪性を発していなかった。無言となり警備兵が喋るターンが幾つもあった事から、それが“悪性”に繋がる・・・とここに来て判明。無言の時、“女”の表情を見ても、首を掻っ切るようなモーションを起こす表情では無かった。

攻撃表示は急ハンドル。

「・・・・・・」

女は再び無言となり、警備兵の死体を見つめる。

「おい・・・こいつ、こんな所で人殺しなんてして、警戒心無さすぎだろ」

ヘリオローザの言う分はその通り。だが人通りはあまりない。だからといって、こうして交通網がゼロでは無い場所。今初めて見ただけだから、このゲートの交通量を完全に把握出来ている訳では無い。ただゼロでは無い事だけは判る。この女・・・死体をどうする気だ?

「あ・・・・・・」

「・・・・・・・・・はぁ・・・そうか・・・」

女が死体二つを食った。綺麗にまん丸と食べた。何の肉片も残さずにしっかりと食べた。荷台周辺に飛散した出血は、水で誤魔化した。

「犬のションベンみてぇな処理方法だな」

「ヘリオローザちょっと黙って」

「ハイハイ」

「凄い・・・・・・人を食べた・・・食べたよ・・・ヘリオローザ、、、」

「ンなもん見れば判るよ」

「どういう事・・・?この世界に食人族がいるの?セブンス?」

「・・・全然わかんない。キモすぎるって」

「人を食べる・・・人を・・・?食べ・・・そんなの・・・セブンス以外に有り得ないよ」

「警備兵も結構問い詰めてたな。あの感じから察するに、さっきのトラックに積載されていた人間達とは明らかに違う人種のようだな」

「“ブルーノンティのブレックバロック”」

「それが北部なのかどうかは分からないな」

「うん・・・いったいどういうことな・・・」

荷台に積載されている人間達と先程警備兵を殺した奴が、会話を始めた。そういえば、荷台の扉は開いたまんまだった。惨殺の現場を見た事で、それをすっかり忘れていた。

異様な空間だった。だって、荷台に積まれている人間達が、一切の雄叫びを発していなかったから。普通、こんな光景を見たら声のひとつぐらい上げるはず。なんか・・・その光景に慣れている・・・そう受けとってもおかしくない彼等の反応。その謎は私の疑問解消に時間を与える事無く、アッサリと解決する。

────────────

「3人とも、もういいよ」

「はぁ・・・厳しかった」

「もう・・・これ喋りにくいよ」

「“ミュラエ”、遅いぞ」

「ごめんごめん、ちょっと・・・楽しんでた」

「お前が楽しんでる・・・か」

「なんか・・・珍しいね」

「うん?そう?“アッパーディス”に見せた事無かったっけ?」

「そうだね、僕は見た事無いかな」

「俺はあるな。ミュラエのそういう、血の付着した不気味極まりねぇ顔」

「私は無い。ミュラエに限らず、そんな顔・・・あんまり見たくない。人間は除いて」

「さっ、私の付着鑑賞タイムは終了。扉閉めるから、もう少し、奴隷のフリしてて」

「ミュラエ、気をつけて」

「うん、ありがと」

────────────



トラックが動き、ゲートの中へと入る。私は未だにトラックの車体上。こうでもしなきゃバレてしまう。だけど、これ・・・上から見られたら完全に終わり。中々にデカいトラックだったから、地に足着く人間からの視野には入らない。まぁ・・・良かった。早目にこのトラックと高さが平行な建造物に乗り移ろう。

「なんなの・・・この人たち」

「どうやら・・・結構面白れぇのに遭遇したんじゃねえの」

「うん・・・そうみたい・・・でもこんな事を見物するよりもさ、早くここを知りたいのよ・・・」

「こいつらに着いていけば何とかなるんじゃないの?」

「何とかって・・・ヘリオローザ、もっとまとも回答を提示してよ・・・あんた、ただ私の中にいるだけだったら困るからね」

「ただいるだけじゃねえだろ。こうしてあんたの世話役を仰せつかってるんだから」

「私から許可は下りていません」

「下りてマース。あんたの両親がセックスした時からもうあんたの許可は下りてるんデース。残念ね」

「あんたって・・・本当、そういうとこムカつく・・・あの・・・、、ええっと・・・あの二人と一緒に殺しとくべきだった」

「二人って・・・サンファイアとアスタリスの事を忘れたのか?」

「・・・あ・・・、、、そうだった・・・そんな名前だった・・・」

「はぁ・・・?フラウドレス、マジで言ってんの?可哀想ー、あーかわいそー。なんでこんな事忘れられんのさ」

「私だって・・・判らないよ。光輪に取り込まれて以降、二人の名前、全然思い出せなくなって・・・私は今まで誰と一緒にいたんだろう・・・ってずっと考えてたの」

「じゃあアタシがまた必要になるかもな。アタシは記憶面に関しては絶対に忘れないから。過去のラキュエイヌ、全員のメモリーをファイル化させている。永久に忘れることは無い」

「ヘリオローザの良いところ、やっと見つけれた」

「やっとってなんだアバズレが」

「“アバズレ”ってなに?」

「馬鹿な顔してんじゃねーよ」

「ヘリオローザはもうちょっと女の子らしい口調にした方がいいね。私が矯正したいぐらいだよ」

「アタシの細部にまで触れなくていいの。アタシはアタシが全部自己管理するの。あんたはそこに介入して来なくていーの!おっけー??」

「・・・」

「おっけー??」

「・・・よいしょっと」

トラック車体上に位置していたフラウドレスは、走行中にトラックとの車高が平行な建造物を発見。なりふり構わず、その建造物に避難した。その際も足音を一切立てずに、周辺の警戒をしつつ誰にもその姿を見られること無く実行した。荷台にいる人間達が、首を掻っ切った奴の仲間だという事を知った以上、より警戒心を強める行動となる。ゲートをくぐった以降の都市の景観はというと、主に住居エリアだと推測。ゲートから都市の中心地区は確認出来なかった。

森林地帯から眺望した景観は見るに、大都市が広がっているのは確認済みだ。そこまでトラック上に居座っていると、上からこの姿を見られる可能がある。何となく・・・そう感じた。あんな“ゲート”なんて関門として設置してあるぐらいだ。それなりの軍事国家だという事なんだろう。

奴隷制度を設けているしな・・・。

私の決断を間違っていない。

そう、思った。

「急に・・・動くんじゃねえよ」

「ヘリオローザ、ちょっともう本当に黙って。あとは私が全部決めるから」

「・・・それは“ハイハイ”案件とは言えないな。これはアタシの身体でもあるんだ。お前に身体の動作を決める権限は無い」

「じゃあなんで私は今、動けたの?あなたの発言途中に動いたよ」

「だからだよ。アタシはアタシの提案に夢中だったの。ちょっと耳を貸してほしいものだ」

「ふーん。まぁ回りくどい事はよく分かんないから、取り敢えずは私の言う通りにして。私の決断にどうしても、待ったを掛けたいのであれば!・・・・・・なんなりと」

「クソ生意気な」

ヘリオローザの人格が奥に消えた。

「フン、出来んじゃん。さっさとそれをやればいいのよ」

よし展開ここからは私が全てを決める。サンファイアとアスタリス。二人の事を忘れるところだった・・・。きっと二人もここにいるんだよね・・・。忘れた原因は・・・間違いないけど・・・一応、口にしておこう。

白鯨・・・。

あの・・・白い巨人だ。

それに、ニーベルンゲン形而枢機卿船団。

白装束の男と女の軍団。

まずは近場から、情報収集だ。この感じで人々が振り向いてくれるのか・・・?12歳の少女という設定なんだが、もうちょっと年齢は高めにした方がいいのかな。といっても、これ以上の年齢を設定する方法が判らない。今の私に解放された年齢設定は最高で13歳。試しに1歳上げてみよう。


「かわらん」


変わんない・・・。まぁそっか。小学六年生から中学一年生に外見上の変化はほぼない。あるとしたら内面だもんね。内面は別に変わらなくてもいいのよ。兎に角私が求めるのは外見。なるべくだったら男が吸い付くような、気品があって、色気があって、可愛くて、カッコよくて、スマートで、良い匂いがして、子供感が抜けているTHE・オトナ。

19歳ね!

19歳を希望している。ルケニアにそれが対応出来るかどうか。

「ええっと・・・どう、すればいいのかな・・・。あのさ、黒薔薇?もっと年齢を上に設定したいんだけど・・・・・・ムリ?」

何言ってんだ私。ルケニアが応えてくれるわけ無いじゃん。

生きてないんだし。


「君・・・」

「・・・!」

「こんな所でどうしたんだい?」

やばい、見つかっちゃった・・・どうしよう・・・まだ顔は見せてない。顔面を見られる事は・・・大丈夫・・・なのかな。この街が顔パスとか、そういうので入出が成立してるんであれば、確実に今ここで検挙される。私に声を掛けた男がどうであれ、子供の姿を見られたんだ。それに今の心配よりも不可思議の方にベクトルを向けている感情の乗った言い方。私の素性がハッキリと判ら無い限り、警察にでも連れていく気なのか・・・やばい・・・どうしよう・・・。

「大丈夫かい?一人?こんなところで一人は危ないよ?知ってるだろ?」

「・・・あ・・・はい、、・・・ごめんなさい・・・。ちょっと・・・寄り道をしていまして・・・」

「あんまり見ない顔だね。それに・・・あんまり見ない服装だ。君、12歳とかそんぐらいでしょ?奇抜な服装が好きなんだね」

「あーー・・・これが・・・キバツ?」

「うん、大人が着るような服だなって思うよ。いやいや、そんな事はまぁいいとして・・・親御さんは?迷子でしょ。こんな所を迷うなんて有り得ないよ」

「え、、、そうなんですか?」

これはチャンスだ。上手く会話を進めていけば、ここの地名を引き出せる。

「あの・・・えっと・・・」

「大丈夫か?」

『ここはどこですか・・・?』なんて言ったら、怪しまれるだろうか。怪しまれるだろうな。関門が設置されているような都市だ。高台から見ても相当な広さ。この都市で産まれ、育った・・・という設定を貫かねば。察するに、この都市の名前を聞く人間なんていないだろう。

「もうそろそろ始まりますね」

「・・・あーそうだな。うん、もうそろそろ“そんな時期か”」

やっぱりな。人が賑わっている。私は何かここで“大祭”が行われるんじゃないかと思っていた。あからさまに盛り上がっている様子。

暖簾とか、出店、売り出しの押し文句・・・そんなのがこの道の先に、続いていた。トラック車体上部から建物に乗り移った際に、それを視認。

「君は楽しみかい?」

「・・・えぇ!もうすっごく楽しみですよ」

「そうか!俺も凄く楽しみだ。“アインヘリヤル王朝”の新たなる時代が始まるんだからな」

「あ、あれは・・・」

私は男の視線を先の方に見える、都市の中心地へと移す。

「あれか?あれは気になるなぁ。またすんごい催し物があるんだろう」

ちっ・・・この男・・・全然まとまった事を言わない・・・。もう・・・ホントにムカムカする・・・。なんだよその発言。全部がムカつく。さっさと“名称”を言えよ。良かったよ、この男が言う“祭り”というのが、蛮行を働く殺伐のイカレたものじゃなくて。ギャンブルが一応、功を奏した形。唯一引き出せたのは、“アインヘリヤル王朝”というもの。

“王朝”・・・?世界は広い。未だに支配の時代をこの言葉で形容する国があるんだな。

「そうですね、今年は去年以上の賑わいかもしれませんね」

「え、3ヶ月前にもあったと思うが・・・」

「あーーー!忘れてました!そうでしたそうでした・・・あははは」

あんまり調子に乗るのはやめにしよう。男の注意を払いつつも、ここの情報を手に入れる。何遍も何遍も、そう思っていながらもこの男は本当に何も言わない奴だな。

「見ろ。あそこに聳える塔に、これまで以上の奴隷が隊列を成す予定だ。奴隷の多くは能力者」

「能力の無い普通の人間は・・・」

「“普通の人間”?、最近はそういう言い方はしないんだが・・・まぁ普通の人間は奴隷としての価値は低い。普通の人間はもっと違う形で聖教の役に立ってもらう。勿論、俺達人民もな」

「失礼します」

私はこの男の元を離れた。急いで離れた。死角を使い、裏路地を通り、姿を消した。

建物の天蓋へ、この身を転移させる。

男が言っていたな。

能力者の存在・・・。

やはり、セブンスがこの都市に。

「おい・・・どこ行ったー!おーーい」

「はぁ・・・話からの収集は無理か。建築物から行くか」



元々、都市の建築物等に掲示されている看板からこの国の素性を探ろうとしていた。男と出会したのはイレギュラーな展開。会話から引き出そうもんにも、こんなガキの姿じゃ、名称なんて言ってくれるようはずが無い。

大人は子供対応用の語録を使う。その中でも“アインヘリヤル王朝”という単語は、大人向けでも子供向けの言葉でもない。と、なるとこの国に住む人々にとって、その“アインヘリヤル”というのは珍しいものじゃない。知っていて当然の知識。そういう事だな。

「ヘリオローザ、今までの話、聞いてたでしょ?」

「・・・ァァァん、シラねぇシラねぇ。アインヘリヤルなんてシラねぇよ」

「あっそ。熟睡に身を投じて入れば。これからもね」

「あんたがもう用は無いとか言ったんだろ?」

「もう一回、記憶メモリを巡ってみたらどう。受精卵バトンタッチちゃん」

「それをもう一回言ってみろ、お前の腸を引き裂いてやる」

「その前にお前を外界に追いやってやる。器の抜けたヘリオローザなんて、ただの霊素。“オーブ”ね」

「・・・ネル」


ヘリオローザとの協定関係に綻びが生まれている。小さい小さいイザコザから、様々な問題へと枝分かれしてきた。イザコザなんてものじゃ無かったのに、双方の思想が捻れ、和平合意が未決へとなった。

天蓋から裏路地へと舞い戻る。地上を歩く。

木造建築で作られた家々。住宅街だとは思う。都市の中心地を眺望した高台からは、見られなかった光景だ。ゲートの城塞はそこまでの高さでは無かったのに、いざこうして都市内部へと入ると、外縁からは見えない光景が広がった。

それはとても、軽視して見れるようなものでは無い。簡単に言えば、スラム街。長居するにはゲロの一つや二つ、覚悟を必要とする異臭の絶えないエリア。中心地区は視認している。ここよりも良品な光景は把握済みだ。

あまり人との交流は避けつつ、中心地へと移動しよう。



「作戦第一段階はクリア」

「当たり前だ」

「このまま協会都市へと向かっても構わないがどうする」

「私はこのまま行ってもいいけど・・・ウェルニがやりたい事があるんじゃない?」

「うん・・・殺さなきゃ・・・」

「ウェルニ・・・今はこのままトラックで協会都市に向かった方がいい。船団無き今、奴らを葬り去る絶好の機会だ。僕はそう思う」

「俺もそう思う。だがウェルニの言い分も理解出来る。こうして四人が無事に“ガウフォン”へ潜入出来た。折角なら、ひと暴れしたいしな」

「アッパーディスはやり過ぎる面がある。その反面、僕なら程度を理解して、安心安全に事をやり切る事が可能だ」

「トシレイドには覚悟が足りないんだよ。お前のナニはマーガリンに使うナイフぐらいの大きさだ。そんなモンで俺の虐殺に物を言うな」

「二人ともいい加減にして。私はウェルニの意見に賛成よ」

「おい・・・」

「おいおい・・・ミュラエ・・・本気で言ってんのか?」

「私は常に本気。私らが一緒にいればどんな事だって想像Lil' Infinityを超える成果を上げられる」

「ミュラエ・・・本来の目的は・・・」

「判ってる。・・・判ってる。“乳蜜祭”の件は一旦置いとこうよ。ウェルニの家族を皆殺しにした奴らを許さない」

「ありがとう・・・ミュラエ」

「いいのよ。男チームはどうするの?そのまま喧嘩でもして、ナニの喩え我慢比べでもして荷台に居座る気?」

「バカ言ってんじゃねーの」

「当然、一緒に行くよ」

「よし、ウェルニ。予定通り修道院の立駐に止めよう。そこからは徒歩で移動よ」

「ンンフフ、“徒歩”って・・・」

「ミュラエ、こういうのは形から入るもんなんだよ。俺だったら・・・」

「進化人類最上位モデル“アトリビュート”。我等は、罪業を撃つ」

「キメたな、ウェルニ」


ミュラエ、ウェルニ、トシレイド、アッパーディス。女二人、男二人で構成された謎の四人グループ。彼等は自分らの事を“アトリビュート”と言った。

そんな謎の四人グループが修道院の駐車場にトラックを駐車。

主となる目的を一旦捨て、ウェルニの目的を繰り上げた。

「ここだよ教会」

トシレイドが先行し、都市を歩く。彼のナビゲートで三人は優先された目的地、ガウフォン教会へ到着。

「入るよ」

ウェルニの身体は震えていた。そんなウェルニの震えを紛らわせようと、ミュラエが手を掛ける。

「大丈夫、私達がいる。それに、ヤツがここにいるとは限らない。居なかったら、直ぐに作戦へと移ろう」

「うん…ありがとう…大丈夫だよ」



教会の扉を開ける。

七唇律聖教の教信者達が着席と立席を繰り返していた。この場合の“立席”はその言葉通りの意味合い。座ったり立ったりを繰り返す、とち狂った行動。だがこれは七唇律を信仰しているこの世界の住民には当たり前の光景。珍しいものでは無い。言ってしまえば、いつでも見られるもの。

「麗しの七唇律を束ねる神の賛美歌。全ての生命に等しく単一な心情を与え、全ての心に寄り添い、安寧と調和を齎す唯一無二の新教。七つの教信を信じる者こそが、大陸の神より、“眼”を授けて下さる。皆の者、信じよ。大陸の神は必ずこちらを向く。いつか大地と天空が裂ける時、大陸の神は我々の咆哮に従って、祝福を吐き散らす」

七唇律聖教の大司祭。大司祭が信仰者の相手をしている。この光景も特段珍しいものじゃない。大陸中、いや、テクフル全ての大陸で確認出来るイベントだ。

「大司祭、時間をいいか?」

「おお、、これはこれは……アトリビュートの面々じゃないか。どうしたんだい?乳蜜祭はもう明日だ。君達は大陸の神…“グランドベリート”の生贄となるのでは?ここにいたら、まずい。さぁ早く、大聖堂に行きなさい。君達が来るのは教会では無いぞ」

「私は、グランドベリートの生贄にはならない」

ウェルニが言う。

「それは君が決める事は不可能。君達の運命は嫡出の時点で決まっている。生贄になるという未来がな」

「今日、私達はその未来を変えに来た」

「お前らの言いなりにはならない。俺らは俺らの道を行く」

「邪魔するんだったら、僕が容赦しない」

「邪魔…?ジャマ…とはどういうことか。邪魔というか…七唇律に背く行為は反逆罪だ。邪魔などといった幼稚な思考で済まされるような事態では無いのだよ。この口論が続くのであれば、我々は枢機卿船団に一報を入れなければならない事となるぞ」

「ニーベルンゲンか?どうぞ。やってご覧よ」

「…」

大司祭が笑う。

「知っておるようだな。枢機卿船団が今、戮世界にいないという事を」

「フン、当たり前だ」

ウェルニがそう言った途端、信仰者達が怖気付くような反応を見せる。今までそんな反応を一切見せて来なかった。圧倒的な信頼が信仰者にはあったのだ。それが、大司祭であり、その上の存在である“ニーベルンゲン形而枢機卿船団”。

「お前らが信頼を寄せる枢機卿は、原世界にて目下白鯨の代理活動中だ」

アッパーディスの発した事は虚偽では無い。だが信仰者達は怒号を上げ、アッパーディスに大反論。

「お前!アトリビュートのくせして白鯨の意向に背く違反行為だ!」

「大司祭!今すぐこいつを縛り首に!“罪の道”を歩かせましょう!」

「うるせぇなこいつら」

「私らアトリビュートは、七唇律の間違った聖教を正しに来た。お前達が行っている奴隷制度にも抵抗の意志を示す」

「ウェルニ、それに…ミュラエ。君達なら、理解してくれると信じていた…それなのに…何故なのだ。何故判ってくれない。君達が身を捧げてくれさえすれば、テクフルの平和はより一層の華金へと繋がる。原世界からの汚染ウイルスも…パァーだ。白鯨が動いてしまった以上、カウントダウンが始まったも同然。テクフルは破滅の刻を進んでいるのだよ」

「もうさ…黙ってよ」

「……よせ…それはやめろミュラエ…ここは…七唇律の教会だぞ…、、大陸の神がこれをどう思うか…」

「知ったこっちゃない」

ミュラエに発現される能力の具現化。エネルギーは次第に、ミュラエの身体周辺を回転し、刃の形状を成す。深紅を染色させた鎌がミュラエの指示の元、行動を開始。回転によって生まれた運動エネルギーとは関係無しに、単純な鎌による薙ぎ払いが、信仰者全員の首を切った。大司祭の喉元の傷口はまだ浅かった。

「ミュラエ、痛ましい事をするねー」

「トシレイドもこういうの好きでしょ」

「まぁ、、、そうだね」

「おま…え、、たち、、」

喉元を抑え、出血を止めようとしている大司祭。もう生き永らえる事は無いのに…まだ生存しようとしている。選び権利なんて、こいつの傷口を見るに無いのに。

大司祭が立ち上がろうとする。仰向けのまんま倒れ込み、まだ何か言おうとしていた。だがその音声は非常に小さい。これ以上の声を上げると、傷口が開き、喉が裂けそうになるからだ。だったらもう諦めて私達が教会から去るのを眺めてたらいいのに…そう思ったミュラエ。

胴体を起こそうとする大司祭の肩部を踏みつけるアッパーディス。

「もう諦めた方がいいだろ、大司祭さん」

「最後に一つだけ、言っておく。私ら、アトリビュートはお前らに“叛逆”する」

ミュラエの言葉をもって、大司祭にトドメの一撃を食らわした。

「行こうか、みんなありがとう」

そう言い、ウェルニが教会を後にするとそれに続いて、三人も順番に縦となって、この場から去った。教会には血液が散乱し、争いの形跡は一切残すこと無く、一方的な虐殺と解釈するには十分過ぎる内容となった。

沙原吏凜です。

様々な可能性を模索し、新天地へと踏み進めるフラウドレス。

フラウドレスは、サンファイアとアスタリスと離れ離れになってしまいました。

戮世界です。原世界にいたフラウドレスが戮世界に…。

この戮世界。

今はまだ何も言いません。

誰も読んでないのに、このような表現方法を用います。

カッコつけ。

でも、まだ言いません。

沢山の秘密を散りばめていきます。この戮世界。


「Lil'in of raison d'être」

フラウドレス編 新シナリオ突入。

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