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[#68-冒涜の際会]

原世界で戮世界の名を出すものじゃない。

[#68-冒涜の際会]


「なんだお前ら」

「なんだとはなんだ。全く…。やはり原世界の人間というのは学力の乏しい人間ばかりだと言うのは文献に記載されている通りのものなんだな」

「アァん??なんだテメェ…上にいてねぇでサッサと降りて来やがれ。殺してやる」

「そんな直ぐに蛮行走るのでは無い。己の心に問うてみよ。胸に手を当て、感じるのだ。きっと新たな自分が認識出来よう。どうだ…?感じるか?新時代を迎えよ」

「誰が胸に手ぇなんか当てるかよ。バッカじゃねぇーの」

「そこの真ん中の女性」

「私?」

「そうだ。さっきから突っかかってくる男よりはマシな口調だと窺える」

「アァはぁん??」

「真ん中の女性、名を名乗れよ」

「フラウドレス・ラキュエイヌ」

「姉さん!」

「なに?」

「見ず知らずの奴に名前を教えちゃダメだよ!」

「ほぉ〜なんとも、しっかりと学習の成された…あー………君達は…どういうことなんだ?守衛よ」

「燦爛の命に回答を提示する。この者達は幼児体型ながら驚異的な能力を有する異能戦士です。守衛は様々な彼等の能力を眼にて見届けて来ました。彼等の能力は本物です。白鯨の討伐に力を貸すとの言も先程受け取りました」

「え?何言ってるの?アルヴィトル?」

「それに、守衛ってなに?」

真ん中に浮遊している白装束の男が、ツラツラと丁寧な言葉を並べて言葉を畳み掛けてくる。そして、アルヴィトルに私達の詳細を伝えているのだろう。その際に、アルヴィトルに対して“守衛”という言葉を掛けた。まずそもそも、“守衛”と言っていた言葉が本当に“守衛なのかも不明。カタカナで“シュエイ”の可能性もあるし、私が知らないだけで他に存在する別読みの熟語があるのかもしれない。

ただ言えるのは“守衛”が指し示す方向にはアルヴィトルがいたし、守衛という言葉を掛けた後に、アルヴィトルが声を発した。

アルヴィトルの第一声に“サンランの命に回答を提示する”と言っていた。これも何かの名義なのか…。アルヴィトルが別名義として“守衛”としてこの白装束のメンバーに通っているのであれば、きっとこの“サンラン”も別名義の可能性がある。フラウドレスとサンファイアがアルヴィトルに素朴な疑問を問う。

「…」

アルヴィトルはフラウドレス達の問いを無視。一瞬は地上にいるフラウドレスに視線を向けたものの、直ぐに逸らし、“サンラン”と思われる真ん中の男に視線を戻す。

「君達…先程の白鯨との戦闘、ご苦労だった」

「やっぱりお前らの仲間だったのかぁ?俺らに何の用なんだよ」

「守衛が何を言ったのかは知らないが、白鯨は我々の仲間では無い。決して、誰の味方でも無い。守衛よ、お前は3人に何を言ったんだ?」

「燦爛、私は嘘を言っていません。白鯨の高周波に悶絶する姿を見ただけです。あの気性の荒い性格が余日に現れている男が勝手に白鯨を“仲間”だと決めつけているだけです」

「はァァァ???何言ってんだお前!!」

「知らないもーん。私、白鯨との付き合いがあるなんて、言ったかなぁ…」

“サンラン”に向けて放っていた口調とは打って変わって、一気に気の垂れた女子高生のような空気感を醸す。

「お前…ちょっと降りてこい。二度と浮けねぇような身体にしてやるよ」

「えぇ〜怖い怖ぁーい。こんな赤ちゃん嫌だよーーー」

「君達は一体、どういう生命体なんだ?」

「お前らに教える義理はねえよ」

アスタリスは怒っている。こんなこと言うまでもないが。

「私達はセブンス」

「フラウドレス!」

「姉さん!」

「大丈夫だから。私を信じて」

「姉さん…」

「…」

フラウドレスがどうして“信じて…”とまで言うほどに、この白装束軍団に詳細を話そうとしているのか…を理解出来なかった。

「私達の身体を見れば判るように、嬰児よ。それに私を除くこの2人はまだ産まれてから1年も経ってない。だけど計り知れないパワーを持っている」

「そうみたいですね。あなた方とやり合う予定はありません。金輪際、組みたくも無いですしね」

「俺はその女とやり合う予定はいつでも組めるぞ」

「アスタリス…でいいのかな」

「先ずお前の名前はなんだ。さっきっからお前とアルヴィトルしか喋ってねぇ。誰かの許可をもらわねぇと喋れないみたいなキマリでもあんのか??あぁ?」

「失礼。先程から申し上げている私は“ブリュンヒルド”と言います。そして…第2の疑問として上げられていた、“許可をもらわネェト…という事に関しては、“原世界の空気を吸引したくないから”との理由が適切でしょうね」

「………」

気味の悪い回答に無言を貫くアスタリス。

「その言葉が確かなら、あなた達は別の世界からやって来た訪問者という事になるが、解釈は合っているか?」

「ご名答ですよ、フラウドレス。フラウドレス、サンファイア、アスタリス。君達3人の思考はとても気になる回路を持っていますね。是非、解剖させていただきたくお願いするのだが…」

「断る」

フラウドレスがブリュンヒルドの台詞を断絶。

「まだ最後まで言ってないのだが…」

「途中経過までで十分、その後の発語領域は予測出来る」

「それも、、、セブンスの能力ですか?未来予知…?ですか?あまり、好ましく無いものですね。未来とは…知らぬ方が面白いと思います。きっとね。フラウドレスの未来予知能力が能動的なものであるなら、今すぐその能力を断ち切る事をオススメするね。……意志とは関係無く発動する暴走的な類のものなら………仕方無いです」

「“サンラン”と言っていたのは?」

サンファイアが次なる疑問を問う。先程にアルヴィトルが、ブリュンヒルドへの回答の際に一言目に発していたフレーズ、“サンラン”。これについて問う。

「あなた方には関係の無い事ですが…」

「教えられない事があるの?私達の世界に来たなら、私らのルールに従ってもらう必要がある。私達には勝てないよ。どう足掻いても、最終的には私達が勝つ。あんまり調子に乗らない事ね」

フラウドレスは更に追い詰める。強い口調と優しさを含みながらも、若干の悪意が入り交じっていた。その最後の台詞の途中で、フラウドレスの後背から十字架の杭が現れる。その十字架がブリュンヒルドに向けられる。平行に。今すぐ私の質問に対して適切な回答をしなければ、尖角側の下部がお前を刺しに行く…と視線で訴えているような眼光。

「………判った…。判ったから、その十字架を引っ込めてくれ。十字架は我々にとって特別なものだ。そんな無闇に攻撃の手立てとして扱うなんて、考えられない。フラウドレスもこれを機に十字架での攻撃を辞める事をオススメするよ」

「じゃあ、教えて。その…“サンラン”とアルヴィトルに言われていたのは何?そして、アルヴィトルの事を、“シュエイ”と称したのはなんだ?あなた達だけの呼び名か?」

一つの予想を相手に投げてみる。こうすることで、相手の言葉の境界を緩和させ、本音の吐露を狙いやすくなる。フラウドレスの予想が合っている可能性も少なからずはある。3人と出会ってから、白装束の9人は互いの名前…アルヴィとブリュンヒルドの名前を言い合っていない。

サンランもシュエイ。

それにアルヴィトルとブリュンヒルド以外の面々が一向に話そうとしない。本当にこれが気味の悪い。アスタリスの怒りが爆発寸前だ。このまま溜め込んでおくと、爆発した時の解放エネルギーが所構わずぶちまけられる。定期的に発散させなければ…。

というよりも、アスタリス、サンファイアそして、フラウドレスを怒らせるな。

これ以上、3人の心情に脈拍がうち喚く、素振りを見せるな。

─────────

「その質問には…答えられない」

─────────

ブリュンヒルドに向けられていた十字架の尖角が磔刑フォームに切り替わる。十字架の下が完全にブリュンヒルドを差していた。だがそのフォームが変更。真正面から見ると、イエス・キリストの磔刑を想起させるフォームだ。

尖角な部分が収められた事により、多少なりとも安堵の表情を浮かべているブリュンヒルド。だが、フラウドレスには白装束の軍団を安堵させるつもりなど1ミリも無い。

「あっそ。じゃあ…あなたの指図は受けない」

「まだ何も言ってないが?」

「まだ?何も?言ってない?アハハ…笑わせないで。私にはあなた達全員の“内側”が判る。ブリュンヒルド、私に何故そんなことを求めるの?」

「……君は…本当に面白い人間だね」

「褒めても無駄よ。多分だけど…あんた達の一人を今から殺すと思う。別にいい?」

「良いと言うわけが無いだろう?アスタリス以外にも野蛮な言動を行う者がいるとは…。少々失望しましたよ、フラウドレス」

「あなたみたいな愚かな機転と社会性を持ち合わせる男に好かれようとは全く思わない」

「こんな事を言っても、特に君のような強い女性には響かないと思うが…君は二重人格者だろ?」

フラウドレスは驚く。私と同じように、他人の深層意識にダイブする事が出来るようだ。果たしてこれが、ブリュンヒルド以外のアルヴィトルを含む8人も同様の能力を保持しているのか…。今はまだ判らない。

「……」

フラウドレスは無言になる。

「綺麗な図星が決まったようですね。そうなんですよ、フラウドレスと同じように、私にも人の意識を少しだけ覗き見ることが可能なのです。あまり使いたくありませんがね」

「私の中身を見るな」

「そんなご冗談を。片方だけ覗くなんて、不平等極まりない。フラウドレスが覗くなら、こちらだって同じような行動を取りますよ」

「姉さんとお前を一緒のカテゴライズとして認識するな。お前と姉さんとでも雲泥の差がある」

「どの能力値にですか?」

「全てだよ」

サンファイアが冷笑を混じらせた小声でブリュンヒルドとの心の距離感を急激に離す。離そうとするがその距離を詰めようとブリュンヒルドが執拗に言葉を掛ける。と共に、アルヴィトルも参戦し、サンファイアに憤りが募る。

「サンファイア、君達と一緒にいたけど、そこまでの能力差を感じる事は無かったと思っている」

「…ふーん。もういいよ。そういうの要らないから」

「お前ら、あんまりアタシを上からやめてよね。ウザイから」

フラウドレスからヘリオローザに切り替わる。その言葉通り…いや、その言葉以上にチェンジング。

もしかしたら、フラウドレスの人格を偽り、“ヘリオローザとして”もう既に、何分も前から切り替わっていたのかもしれない。と、なるとヘリオローザはこの数分間、フラウドレスの口調と台詞を代弁していた事になる。

ヘリオローザはそんな諜報的なプロトコルステータスをも得意とする。

ヘリオローザに貯蓄された怒気が、自ら発言した言葉の中で解放。異世界からの使者を屠るべく、邪魔者を消し去ろうと急激に間合いを詰める。

「それは、あまりにも突然すぎやしないか…。“闘志”」

高エネルギーを纏った超極音速滑空体・ヘリオローザが上空に滞空しているブリュンヒルド達9人に迫る。とてつもない音速エネルギーとなったヘリオローザは、自身の高速能力を最大限に引き上げるには“滑空体”となる必要がある。間合いを詰める際に、一つの滑空体であったヘリオローザは複数の滑空体を思念体として発現。ヘリオローザ母体の80%の能力ではあるが、母体が強力であるため相当な攻撃力を有した。これに抵抗の隙は見えないはず…だったが…。

「キミぃ…ちと早すぎだよ」

今の今まで、一切の口を開かず微動だにもしなかった一番右端の男が行動を開始。滑空体のヘリオローザを完全防御してみせた。その姿にヘリオローザは驚愕の表情を見せないながらも、僅かながら“何故だ…”と思わずにはいられなくなる。

──────

「これを防げるんだ…」

──────

「なんだ?ちと驚いちょる感じやんか。まぁそれもそうか…。『まさか…アタシの攻撃を受け止めるとは…』みちょーな感想かい??」

「フン、キッショい言葉を連なせるな」

フラウドレスの攻撃を防御したこの男。白装束全員が若い年齢を感じる中で、この男は最も若人感を感じる。

「君ぃ…一体何なのさ…。そんなちっこい身体から、どうして黒い薔薇を発現出来る?」

「お前の世界には存在しないのか?」

「あー、しないね。こんな小汚い能力よりも圧倒的に強くて、発展した最高峰の形があるからねん」

フラウドレスの攻撃が弾き返された。

「へぇ〜少しは、やるみたいだね。全然喋らないし動かない奴がいるから、声帯をもぎ取られているんかと思ったよ。一番の若年なのに生気しか感じない、私達に怯えたしょうもない未来の見えない阿呆だと錯覚していた」

「随分ともまぁ酷い言われようだなぁ…そーーんな罵詈雑言を言われるために、原世界に降りた訳じゃ無いんだよね。ちょっと!3人の中で一番まともな感性を持つ、そこの…僕らから見て左の子」

「…?」

サンファイアだ。

「君が一番に会話のし易い子だと思っている。セブンスと言ったな?ちとそれについて詳しくトークを、ハイ」

「……」

「……ちょっと…黙ってちゃ判らないよー。そんな…」

────

「──黙れ」

────

フラウドレスの攻撃を防御した男の発言が終わる前、終わろうともしていない、まだ言い足りない事があったであろう。前方の発言者お構い無しに、サンファイアが所定位置から瞬間移動、行先は滞空中の発言男。その男に向かってサンファイアが、ルケニアによる自然光と大地の力を使用した、高火力ブレスを繰り出す。その直撃距離、ゼロメートル。

フラウドレスの攻撃には対応出来ていたのに、サンファイアの攻撃へは全くの対処が不可能だった。この攻撃が男に直撃した事で、男の左側にいた残りの8人にも近辺より下がるようにダメージが伝染。ゼロ距離に直撃した男に最も近かった女が同等のダメージを受ける形となった。

「闘志。今のは防ぎようが無かった。諦めるのだ」

「燦爛、諦めキレねぇーよ。あんなちっこいやつに舐められたもんだな」

「耐えるのだ」

「ナゼに」

「我々では打ち負かす事は出来ない。みよ、三者の内面から浮き出る怒りとも表現し難い、不思議な感覚に抱擁された異界のイマジナリーを」

「ボクには分からんね」

“トウシ”と称されている男、サンファイアのゼロ距離攻撃を受けた男が3人の前に降下する。

「お前、すっげぇ殺られようだったな。だっさ」

嘲笑うアスタリス。

「そんな汚らしい言葉を並べるのはやめたまえ。アスタリス」

「お前ごときが、俺の名前を吐くんじゃねえ」

「ボクの名前は“グズルーン”。ハイ、ボクの名前言ったよ。君達の名前も言っていいよね?」

「うるせぇ黙れ。調子に乗るな。しゃしゃり出てくるな。気持ち悪い。吐き気がする。その白装束に目立つような鮮血を浴びせてやろうか?」

「それは…キミの流血という解釈で良いのだろうか?」

グズルーンの布告とも取れる宣言。これに対して易々と黙っていられるような細胞組織でアスタリス含める3人は構成されていない。この時間までにチャージされて来た、憤激に伝わりし白装束からの言葉の数々が、今この時、全解放された。



だがその刹那、暗黒の裂空であった空が晴れ晴れとした景色に一転。一切の輝きをも寄せ付けぬ、虚空の空が何かのスイッチが起動されたかのように、切り替わる。

「闘志」

ブリュンヒルドの掛け声により、所定位置であった右端への滞空態勢をリターン。

「降臨の儀を執り行わなければならない」

「あのクソが…逃げやがって…」

あの時、虚空から一転した時点で、何故3人の戦闘行動が一時的に停止したのか。3人にも判断がつかなかった。だが今現在は、このあまりにも無秩序な晴れ模様の原因を究明しなければ…。そう思った。そう、思わざるを得なかった。これは自分の意思なのか、判らない程に天空への疑問を解消させたくなった。誰かにコマンド入力させられてるような感覚に陥ったが、3人はそれぞれの感情の訴えだと認識している。

「…ぐ…、、なんだ…!?」

距離を一気に離された時、晴れ模様への疑問が湧いたものの直ぐに5秒前の自分へと戻る。グズルーンへの攻撃だ。

だがアスタリスの攻撃行動を邪魔するように、天空から幾柱かの聖撃が着弾。

「アスタリス、一旦離れるよ」

フラウドレスは大地に着弾した光の柱を危惧するべきものと察知。アスタリスへの攻撃中止を命令した。

「今より降りらん、聖獣の名のもとに、9つの司教が集合知へと誘う。あなたがどうであれ、必ずや原世界の理に従事させることでしょう。我、敵とならん光の援軍は、いつの時も必ずや聖獣の味方となり。今この時に、粛清すべき世界。穢れた魂が集いし、原世界の流血沙汰を終局に導く白鯨の降臨。七唇律が思想と幻想を夢幻のものと信じよう。4つの集合知、どなたが降臨致しましょうか?」

『***11*****1*****1*******1*0』

「執り行いは可決とされました」

聖撃によって身動きが取れずにいるフラウドレス達。フラウドレス達を包囲するように聖撃はサークル状となり、複数の聖撃が柱を形成。フラウドレス達はその柱で作られた結界に取り囲まれてしまった。

「姉さん…、なんだよこれ…!」

「判らないから、こうなっている…」

「防ぎようが無かったっちゅうことか?」

「残念だけどそうだね…、、お前が怒りのままに本能のままに動き出したからだ!!」

「お前は大事なタイミングで出てくんじゃねえ!」

ヘリオローザに切り替わり、アスタリスへの“正論”をぶつける。それが正論だとは、ヘリオローザにしか判らなかった。


「七唇律が白鯨の里程標を創成した。もう、上にいらっしゃる」

止まない聖撃の五月雨の中、再び黒の光輪が出現。

黒の光輪の中心、“内接”と称したらいいものか、融合を遂げた光輪の規模感は同等のものだ。光輪の中から2つの内接輪が発生。一つの光輪から2つの光輪が出現し、白鯨と思わしき、右半身と左半身が下降する。内接輪から出現した、それぞれの半身が、現実世界に現れ半身同士が合体シークエンスに移る。その際に黒の光輪からは周期的に自然災害への連動を思わせる事象が発生。秒単位の時が流れるにつれ、周期速度は加速化を遂げる。

吹き荒れる空間の中、ブリュンヒルドが口を大きく開き、フラウドレスにこう告げた。

────────

「もしかしたら…試練かもしれない。だがこれを乗り越えた時、君達の世界が新たな時代に突入するだろう。嫌だろう?もう、、先祖の贖罪を果たすのは」

────────

白鯨…その全像が明らかとなった。半身と半身が合体したその姿は、やはり“白鯨”という言葉が適切とは言えない完全な“白い巨人”。全長は30mは超えるその巨人の居様。

「七唇律に慈悲は無い。攻撃の表示は、白鯨のご意志のままに」

滞空中の白装束9人が白鯨登場に対して、迷いと不安と戦慄の感情を一切露わにしていない。

白鯨の登場により、聖撃の停止が確認された。聖撃は白鯨が光輪から登場する際のカーテンコールだと証明され、3人は戦闘態勢の改正を行う。

改正の時間は1秒にも満たない。白鯨への攻撃が開始。3人のルケニアが指向性レーザーの収束を始め、速射。三者三様のエネルギー源を供給させたオリジナリティなエネルギー粒子が、一斉速射。3人の指向性レーザーが一つに集約され、超極的なパワーを秘めた光子弾道が白鯨に直撃する。

──────

「燦爛、あのアタックスキリティは“ハスタティ”に効力を成すと思うか?」

「白鯨たる所以を忘れたか、“劇薬”」

「おっと、しつれーしつれー」

──────

白鯨の撃滅を目的とした一斉速射攻撃。白鯨に直撃したはものの、直撃の爆煙すら確認されない。つまりは…白鯨を守護するバリアが発生しているとみた。3人は距離を取った攻撃は無意味と判断し、一気に間合いを詰める。アスタリスがグズルーンへ迫った時と同様のデジャヴな展開となった。

だが、白鯨が3人の行動を簡単に許す事は無かった。何度か判らない、聖撃の雨。3人の所定ポイント周辺にクラスター爆弾のように無数の聖撃が降られる。攻撃力は今までのものと同等。数多の聖撃が白鯨より放たれるが、無差別的なものでは無いことは明白だ。

白装束9人には聖撃が向けられていない。白鯨との関係性が証明された中で、更なる証明材料を提示され、それを肉眼で確認する。速やかに白装束への報復をしてやりたい…この想いが3人にも宿るが、聖撃は彼等の思い通りにさせてくれない。

回答が出ているのに何分何時間経っても、政界として認めてくれない。何遍も正解へと連なる予測を立てているのに、見向きもされない。

足掻きようのない閉鎖的な攻撃を浴び、3人の心が決壊寸前に陥る。

そしてその聖撃が徐々に的を狭めてくる。サークルが小さくなり、中心に追い詰められるフラウドレス達。

「姉さん…このままだと…、、逃げ場が無くなる…」

「どうしたらいい…、、」

「フラウドレス!地面だ!下に潜って逃げよう」

「ああ、判った」

アスタリスの提案により、地中への退避を決意。上空からの攻撃が限界に到達。白鯨が所定を変えずに、聖撃の過激さを増大させている。その様を見つめたサンファイアは、すぐさま地潜りへの行動を取る。だがその時、地潜りポイントから聖撃が下から上へ出現。地殻の鳴動を察知したフラウドレスが2人を間一髪のところで地面からの聖撃を受けずに済ませた。

「そんなの無しだろ!!」

上からも、下からも放たれる聖撃。だがここで疑問に思ったのは、下からの聖撃が可能ならもう既にフラウドレス達は死んでいるはず…だということ。この推察が正しかった場合、白鯨はフラウドレス達を殺すつもりは無い…と断定できる。

しかし、何故?

その後、地潜りに再トライしてみるが、やはりその退避行動は地中からの聖撃によって無効化されてしまう。アスタリスとサンファイアにもフラウドレスの推察をインナースペースで伝達。

「姉さん僕もそうだと思う。白鯨は僕達を殺すつもりは無い」

「もし、そうならもうとっくに殺されてるぞこの柱に。ちぇっ、あのデカブツが…何を企んでんだ…」

2人も同じ事を思っていたようだ。


聖撃が檻のようなフォルムを形成。完全に3人は聖撃に囚われてしまう。3人のルケニアを顕現しようにも、ナノサイズへの形態変化は不可能。現在の状況で、ルケニアを戦闘態勢に向いた形態にさせてしまうと、聖撃の被害にあってしまう。聖撃の速射砲撃に対抗出来る程の能力は残ってない。だから、今は退避を選択するしか無かった。

止まない雨。降り注ぐ殺戮の雨粒。

光の柱が突然、停止する。形成されていた檻が無くなり、半拘束状態となっていた3人は自由の身となる。

「なんで急に…」

フラウドレスを含め、3人が同じような事を考えた時、白鯨の動きを封じ込めている、白装束9人の姿があった。

「何をやってるんだ…アイツら」

「白鯨を止めてる…」

「僕らを助けたってこと?」

白装束軍団は間違いなく、白鯨の攻撃を止めるために杖を使用した魔法攻撃を放っている。


白鯨の力が弱まる。白鯨を取り巻く鎖のようなものが目視にて確認できた。一時的な効力なのか、恒久的なものなのかは現時点だと判明がつかない。だがその内容がどちらにしろ、危機的状況を白装束軍団が救済したのは事実だった。白鯨は何も鳴き声等の抵抗をすることなく、虚無を貫く。これに関しても、一時的なものかどうかは定かでは無い。白装束軍団の行う所業など、判るはずが無かった。

一つ確実的な揺るがない事象として固まったのは…、

フラウドレス、サンファイア、アスタリスの命を助けた…ということ。

「燦爛が君達3人に失礼を頂戴する。大丈夫だったか?」

「…」

フラウドレスが無言で一瞬にして、白装束の一番左端に滞空位置していた女を刺した。黒薔薇の茎から発達した、荊棘の一種が刹那的な進化を遂げる。何十メートルにも離れていた距離感はどこへやら、ずっと隣に居たかのようにすぐ傍に接近。荊棘が左端の白装束女の腹部を抉る。腹部からは内臓が露出し、腹部を切り裂いた後は右腕に斬撃が当たる。荊棘の切れ味は抜群で、ケーキナイフがフワフワのスイーツを切るような感覚だ。サックリと切れ、ドボドボと内臓が腹部から落ちるところだが、滞空する。血液は地上に滴り、血痕となるのは時間の問題だ。斬裂した右腕の上腕部も滞空を成した。流血は地上へ落ち続ける。

内臓が滞空を維持するのは驚いた。どうやら、滞空中の身体は内部の生体器官にも効果を成すもののようだ。その理論ならば、血液も身体を構成する大事な役割を果たす液体なのだが…こんな事に時間を割き長考するのは馬鹿なので、ここまでにしておく。

何故、今、フラウドレスがここまでのどうでもいいような事を考える事が出来るかというと…、、私が速すぎて他の生命体が現状の処理に追いついていけて無いからだ。

「一体何が起きた!?“狂撃”!!」

ブリュンヒルドが今まで以上の声を出す。そして、この時まで一切の発声をしていなかった白装束の面々も声を上げた。特にフラウドレスが殺した女の隣の女は悲鳴を上げた。この驚きようから察するに、ここまでのグロテスクに耐性が無いようだ。

「急なグロテスクを申し訳なく思う。そして、白鯨からの攻撃を停止させてくれて有難う。一応、感謝は申し上げておく。だが…これ以上の言葉を掛けるのは、お前らが死んでからだ。屍に向けては思う存分言わせてもらう。今のお前らに掛ける言葉は何も無い」

「貴様…なんという事を…、、、せっかく助けてあげたというのに…」

ブリュンヒルドが崩れ落ちる。滞空が無力化した訳では無い。だがこれまでにない程の感情負荷を受けているのは間違いないようだ。

「我々はただ、3人の生存を確約させたかっただけ。何故にこのような行動を起こしたと言うんだ…、、答えろ!」

「フラウドレスは我慢の限界だった…。お前達の基準でいう人間年齢的に言うなら、こんなところか。俺らは“子供”なんでね。気が変わるのが早いんだよ。それに…」

「僕らへの怪音波に苦悩するそこの女のリアクションを何度も見た。僕は嫌気が差してたよ。それが今になってようやく救済…?今更なんなのさ、やめてよ」

「守衛の様相が気にならなかった…たったそれだけの理由で人一人をこんなにも惨殺してしまうというのか。それに全く関係の無い“狂撃”を…!」

「あ、狂撃って言うんだ。守衛、燦爛、劇薬…あとまだ他にいるけど…そのサブタイトルみたいなやつを知る前に全員殺すよ、多分。でもごめんね。私ちょっとやりすぎちゃって、そこまで関係無い女を狙ってしまった。狙うんだったら“守衛”だったね」

純潔の瞳。悪びれる気の無い純白の肌。素晴らしいまでに整えられた純真な紅唇。フラウドレスの全パーツを取っても、ゴア表現とは掛け離れた存在。だがそれをやってのけた。

「さぁ…この調子だったら、あとの8人も同じように殺せる。いや…お前、守衛・アルヴィトル。お前は殺さずにしといてやる。今はな。最後の最後まで残しとく。7人が惨めに殺される所をじっくりと見せてやる」

フラウドレスの発言中、ブリュンヒルドの右隣の男が不振な動きを見せる。

「うアアアァァあああ!!!!」

「劇薬!」

「今なんか変な事しようとしたよね…?」

“ゲキヤク”と称されていた男の不振さを鑑みて、荊棘が発動。今度は白装束軍団への最接近をせずに、距離を取った状態での荊棘を繰り出す。白鯨の光輪を使用した攻撃方法をラーニング。赤い光輪を発生し、荊棘の転移攻撃を実行。ゲキヤクへの荊棘攻撃対象は、尻に隠した左手だ。何をしようとしていたかは不明だが、不振な動きとして自己完結させた。その結果、フラウドレスの思考回路は“ゲキヤクと称されている男の不振に動いた左手を切断。左腕全体を切断するつもりでいたが、同じ状況はさっき見た。この3分の間に、断裂部分と流さるる血液量…同じような光景を見るのは楽しいとは思えなかった。だから、男には左手のみの切断とした。流血の状況は…狂撃の時と同じ内容量。断裂部分の肉の感じは…

「へぇ〜、面白いね。あーなってるんだぁ。ねぇねぇ見てみて!サンファイア!アスタリス!手と腕を切るとあんな感じになってるんだって!」

「そ、そうだね…姉さん」

「あ、ああ…面白いな…」

2人はフラウドレスの変わりように引く。

「痛い…!!ァァァアアぁあ…、、いたい…いたい…」

何の前触れも無く訪れた左手との別離。絶望という言葉では表現し切れない、失ったものが大きすぎる。劇薬にとって、左手は詠唱の際に必要な部位だ。劇薬は泣く。

「お兄さん、今何しようとしたの?」

「劇薬、今…」

ブリュンヒルドが“劇薬”の取ろうとしていた行動を把握した。

「封印解除…」

フラウドレスが当てる。ブリュンヒルドを始めとする白装束8人が驚きを隠せない様でいる。

「だよねそうだと思ったんだー。やめてよ聖撃けっこうメンドウなんだからさ。せっかくあなた達が止めてくれたんだから、なんでそんなことしようとすんのよ」

「貴様…いい加減にするんだ」

「いい加減にって…よくわかんないけどさ、他人に加減を操作される筋合いは無いんだよね、“燦爛さん”」

惨殺された“狂撃”と左手を失った“劇薬“。

「まだやる?」

ニーベルンゲン形而枢機卿船団は、3人の能力を見くびっていた。まさかここまでの惨い戦闘を繰り出してくるとは思ってもいなかったのだ。

「守衛、報告と素性は全く違うでは無いか」

「燦爛、私は…あの時の3人をそのまま伝えたのみです…まさかこのようなバイオレンスさを秘匿していたとは思いもしません…」

「こんなことなら、“伝令”に行かせるべきだった」

守衛・アルヴィトルに一任させる役割じゃ無かった…。ブリュンヒルドの遅すぎる後悔を鼻で笑うフラウドレス。一旦は距離を置いたフラウドレス。この間合いのバランスは一体何なのか。ブリュンヒルドを含めた8人には予測がつかない。

羽田空港滑走路は最早、形を成していない。この景観を作った要因は、紛れも無く白鯨によるものだ。しかし、このような事態が起きてしまうとなると、なんだかどちらが正義なのか、悪なのか…区分が撹乱される。

ニーベルンゲン形而枢機卿船団の目的は分からないにしろ、フラウドレスはただただ、自分達を傷つける奴らへの報復。これを踏まえると、フラウドレスが味方のように捉えることが出来るが、果たしてこうも簡単に“正義”へと直結させていいものなのか。誰がどの立場のキャラクターであるのか、全ての者に選択が迫られる。

───────

自分の行いは、合っているのか…間違っているのか…。

───────

動きが制限されていた白鯨。“狂撃”が行おうとした封印解除は白鯨の色目が、フラウドレスに向いていると判断したからだ。白鯨は憤怒している。原世界の異分子だと認識し、排除行動を取ろうとしていた。



白鯨メルヴィルモービシュは多次元世界の調律を支配する役割を担う者。戮世界への強い磁場と重力のアンバランスが確認された事で、白鯨は原世界の偵察を開始。多次元世界“デスターズセイン”のヌシ、メルヴィルモービシュ。その内の一体…“ハスタティ”。

原世界での世界戦争は戮世界に多大なる共有現象を起こしていた。その影響で戮世界の災害が多発。環境問題が多くを包み込む。

ニーベルンゲン形而枢機卿船団は、白鯨よりも前に原世界に来訪する予定だった。危機的状況となった戮世界テクフルの一因は間違いなく、原世界にある。枢機卿船団は原世界への船出に出た。所有するガレー船を使用、航宙技術を施し、飛行機能を構成した改装小型船。だが多次元世界での転移航行の際、白鯨との接触が発生。

まさか、ここに来て、白鯨よりも甚大な被害が想定されるものと遭遇するとは…ブリュンヒルド達は思ってもいなかっただろう。

多次元世界転移航行で異常が発生し、その時にアルヴィトルが多次元の旋風に巻き込まれ、消息不明に。運良く目的地である原世界に降り立ったは良いものの、どこかも分からない謎の地下空洞に入り込んでしまった。


アルヴィトルはこの時、仲間とのコミュニケーションを取れずにいた。だから自己処理を行った。アルヴィトルの当該行動が、フラウドレスという異常女の細分化を怠ってしまう。


「痛い?悲しい?辛い?苦しい?キツい?嫌らしい?汚らしい?みすぼらしい?……殺したい?」

フラウドレスの声が脳内を駆け巡る。こんなにも距離が離れているのに…フラウドレスは再び、所定位置に戻っていた。30mはある。フラウドレスの口は開いていない。

「魂に直接話してる。ねえ、花は好き?花、お花。みんなに平等に感想を話す権利がある。さぁ、答えて。花は好き?」

ブリュンヒルド達は回答を拒否する。顔や身体、外部にて表現しているのでは無い。脳内を駆け巡る彼女の信号に拒否を提示。

『花は好き?』という質問に対して、『回答の拒否』。これは質疑応答が成り立っていない。このことから、ブリュンヒルド達はフラウドレスとの繋がりを完全に断ちたい…と考えている事が判る。

「それは何?ねぇ…どういうことなの?どうしてそんな反応をするの?何故に?どうして?構ってくれないの…?渡しじゃだめなの…ねぇ…私が相手だと怖いの…?怖いから何も答えたくないの?答えてくれるだけでいいんだよ?好きなのか、嫌いなのかを。このふたつの言葉…イミ…知ってるよね?知らないはずないもの…。だって…私よりもぜんぜんにトシを食っているし…タクさんの経験をしてきている…ハズ…だよね…?」

「なんなんだ…お前は…どうしてそう、何人の人格を持ち合わせている?お前はフラウドレスか!?」

ブリュンヒルドが声を大にして、言う。これは現実に放たれた言質。

「うるせえ」

「お前らが今話しているのはインナースペースにて行われている。現実にて吐き出す、言は現状に於いて無いはずだ」

アスタリス、サンファイア。2人の声が現実にて放たれる。内外を行き交う、聴覚の持久。

───────

「こたえろ。花が好きかどうかを」

───────

フラウドレスの声が一瞬聞こえる。発言の割合的に、初言の二文字がフラウドレスの声色。それ以降の文字からは機械ノイズが混在した、気味の悪いホラー要素を含むボイスが届けられる。末文は、原型を留めていない。異形の存在というのが外見的にも、発語的にも感じざるを得ない。

「答えるな!全員が同じ行動を取れば、この道は違うベクトルを拓く!」

「燦爛!その根拠は!」

「“魔羅”。信じる心が灯火を照らす」

「信じる心が灯火を照らす」

─────

「信じる心が灯火を照らす」

─────

白装束8人が声を揃える。

白装束軍団の標語なのか、段々に言葉の音圧が増していく毎に、“8つ”の弩型オーラエネルギーが発現。

「信じる心が灯火を照らす…」

「信じる心が灯火を照らす…」

【中略】

僅かな乱れの無い、文字と音…全てが揃いも揃って全くの文章。文字が乱れる事が無いのは判るが、“音”の一切を統一化させているのは流石に気持ちが悪くなるぐらいに感動する。オーラエネルギーが一つのポイントに集合するのだが、フラウドレスが殺した“狂撃”と言われていた女からも他のメンバーと同様のエネルギーを発現させていた。しかしそのエネルギーがポイントに届けられていない。

「姉さん、アイツら…」

「もう殺そうぜ。次は何をしてくるか、分かったもんじゃねえ」

「そうだね。もういいよ。二人がやって」

「判ったよ姉さん」

「フラウドレスばっかりやりすぎだからな。ったりめえだ」

「信じる心が灯火を照らす」

「信じる心が灯火を照らす」

「信じる心が灯火を照らす」

「信じる心が灯火を照らす」

「信じる心が灯火を照らす」

「信じる心が灯火を照らす」

「信じる心が灯火を照らす」……

何回も何回も同じ音、同じ間隔、同じ抑揚、同じ感情を乗せて…吐き出される彼等の標語と思わしき文体。サンファイア、アスタリスがユニット技を繰り出す。双方のルケニアが互換性を発揮。互いの能力を共有し、その共有された能力が神経と神経に絡み合い、主流副流の二つのセブンス遺伝子細胞が覚醒。

「お前とこうして協力するなんてな」

「そんな事を言ってる場合じゃないだろ」

「なんだお前、危機感感じてんじゃねえだろうな」

「まさか…。僕は姉さんに言われたからやってるだけだ」

「じゃあなんで俺に頼るような攻撃をしようと決めたんだぁ?」

「…アスタリス!」

「イクぜ…」

二つのルケニアが手を取り合い、勝敗の決まりきった政局に最後の“報恩”という名の冒涜を放つ。冒涜は攻撃の極点に達し、人智を超えた世離れしたエネルギー砲撃が始まる。

二人は背を合わせ、サンファイアが右腕を、アスタリスが左腕を攻撃対象に向ける。エネルギー物量が両者の腕に収束。収束が陽電子砲をトランス。半具現化を遂げた陽電子砲から、レーザービームが放たれた。その対象となるのは、当然の如く白装束軍団。

だが、そのレーザービームにカットインする一本の聖撃。

「なに…!?」

「どうして…、、?」

予定外の事態に驚きを隠せない二人。その驚きは伝染するように白装束軍団も同じ表情を表していた。

「誰が…、、誰が…、、封印を解いた…?」

「燦爛、誰もやっていません。少しでもそんな動きをした瞬間、我々の手が引き裂かれます。あの女に」

アルヴィトルが冷静さを取り戻し、封印の解除は有り得ないと悟る。

「だがしかし…我々の目に映るアレはなんだ…」

「白鯨が…こちらに来る…、、」

「なんだと…?“伝令”、的外れな予測は控えるんだぞ」

ブリュンヒルドが“伝令”と口にした女。アルヴィトルの右に位置する者だ。“伝令”が白鯨の降誕を予知。

「燦爛、私が伝える事は全てが可能性の範疇にあります。その中で今回の物事に関して、ここまでのゲインが確認されるのは稀です。普通の降誕とは訳が違います」

「つまりは…、、、」

「怒ってます。自身の世界が穢された事への報復を執行しようとしているのでしょう」

「そのターゲットはどちらだ…?我々か?……フラウドレス達か…?」

「後者です」

「そうか…そうかそうか…、、」

ブリュンヒルドは笑った。ただただ、笑った。

笑うしかないから、笑った。

笑わずに済むなら、そうしたかったけど…笑いたいから笑った。笑ったら気が済まないから、笑った。笑った後にも笑った。ずっと笑っていたらこの先笑わないで済むと思っても、今を大事にしたい…だから笑った。笑う事で現在を非常に楽しめる事が出来ると思ったから笑った。笑う前から笑っていた。気が気じゃ無くなるぐらい笑いたかったけど、この感情を二度と体験出来ないと思ったから笑った。

「聖撃…?」

「おい…なんであのデカブツが動けてるんだ」

「姉さん…!」

「……何なの………私が気づかない内に、封印を解いたと言うの…?」

フラウドレスの逆鱗がマックスパワーのフル充填を開始。だがその行動に待ったをかける聖撃が白鯨から放たれる。

「ちィ…クソが…、、、なんで…?奴らの手は動いてない…白鯨の封印解除なんて…出来ないはず…」

「フラウドレス!」

ブリュンヒルドが大口を開く。

「今、あなたは思ったであろう。だがそれは事実に無い。白鯨はお前達を処刑対象者として認識した。これ以上の多次元世界への汚点を作ってなるものか…とな。危険因子は排除しなければならない。この世界に無駄なシンギュラリティポイントは不要だ。原世界の特異点兆候が、白鯨の意思に背き続けている。随分と遅い判断だったが、これでもうお前達は歯向かう事なんて出来るまい」

「さっきから何言ってんだアイツ」

「僕にも分からない。分からないけど」

「あっそ。じゃあ…殺るよ」

「ああ」「姉さん!」

白鯨が降誕。再び、その姿を原世界に見せびらかす。

フラウドレス達は、その場から離れず、白鯨の降誕そして、白鯨の次なる一手を待っていた。

「燦爛、あの3人、逃げないぞ」

「守衛、原世界を出るぞ」

「燦爛、原世界での仕事は…?」

「今はそんな事を言っている場合では無いだろう。どう考えてもこの状況に対処出来るのは白鯨のみだ。ハスタティを信じよう、我々は戮世界の住人だ。攻撃してくる事は無い」

光輪からの登場した白鯨だが、その登場の仕方も異様なものだった。先程に光輪から露出させていた両腕の前に、下半身から上半身を形成する粒子が光輪から放出される。その粒子が白鯨の全像輪郭を作り、仮の形を形成。その際にフラウドレス達が待機するはずも無く、一切の手を緩めずに白鯨降誕の儀式を邪魔する攻撃を繰り出そうとするが、白鯨が黙って外界の攻撃を受ける事は無かった。

白鯨降誕の儀が執り行われている、天空周辺から聖撃の嵐が発生。柱が一本一本の芯を太く持ち、従来の上下方向からの“浴びせ攻撃”では無い、天空から地上への“薙ぎ払い攻撃”として攻撃方法を転換。

今までの攻撃とは訳が違う、白鯨の意識改革とも取れる排除行動。白鯨の全像が発現する。

「111***11*****1****0*00000010」

「もうそれ、効かないから」

白鯨の怪音波。3人はそう呼んでいたが、ブリュンヒルドはこれを“高周波激音波・ヴォイスアウト”と呼称している。このヴォイスアウト、今までは現実世界に姿を現さずに咆哮していたが、今ようやく姿形を見せた中で披露された。威力はより一層倍増し、先程とは数段以上の効果が得られる…きっとこれで地に平伏す…ブリュンヒルドを含めた枢機卿がそう思った。ヴォイスアウトが繰り出された中で、フラウドレスが吐いた言葉には戦慄しか感じ無かった。

戦慄が走ると共に、もう我々では対処の仕様がない…と改めて思う。この先の全ての裁定は白鯨に任せよう。そう思った時、ヴォイスアウトをかき消すかのように、鋭い衝撃波がフラウドレスが発動。フラウドレスの周辺を周回する高速度円環がアスタリス、サンファイアのルケニアに接続されていた臍帯と結合される。2人の臍帯が、フラウドレスと繋がれた。フラウドレスは、ルケニアを顕現させていない。母体にルケニアの能力を注いだ状態。神経接続を行わずに、母体へのルケニア能力接続は、身体への過剰な心労と倦怠と汚染摂取に見舞われる可能性がある危険行為だ。

ルケニアの能力は臍帯との接続によって、効果が発揮される。フラウドレスが実行した当該行動は、白鯨と枢機卿船団への憤怒と憎悪を感じる。サンファイアとアスタリスに、フラウドレスの決断を否定する権限は無い。それに、フラウドレスは二人に相談の一切もしていない。自分だけで決断した事。彼女にはそれほどの強い遺志がある。

──────◇

「私の邪魔をする者は…誰であろうと許さない」

──────◇

サンファイア、アスタリスの臍帯が接続された円環から、三連バーストされる射撃弾。弾倉は二人のルケニアに備わる、遠距離攻撃をトレースしたもの。それが爆縮され、フラウドレスのフィルターを通し、二人の力を持ってしても創造し得ない“殺戮兵器”へ魔改造を致した。

枢機卿船団、白鯨に発射される。円環から何弾もの弾頭が飛ぶ。弾道はフィールドを大きく利用、散開。発射した際にはターゲットが捕捉されていないように思えた。弾道がやがて追従機能を成し、滑らかな曲線を描くようにターゲットである枢機卿船団と白鯨に接近。当然ながら、枢機卿船団は向かってくる弾道に対してそれ相応の防衛態勢をとる。しかしその弾道は突然にして爆発。ホーミング機能を有し、攻撃対象を設定されてから速度がパワーアップした直後での出来事だった

「**111111*11****1***01***1**1」

白鯨の咆哮が円環射出砲撃を撃ち落とす。いや、撃ち落とす…と解釈していいものなのか分からない。透明な壁に直撃し、全ての弾道が一斉に空中で爆発した。円環から散開砲撃された弾道は、枢機卿船団と白鯨に対して均等に接近していた時の事。

「なんだ」

フラウドレスが一言漏らす。生じた疑問が直ぐに解消される。

「じゃあ…お前から殺す」

円環を解除。サンファイア、アスタリスとの臍帯接続を切り、フラウドレス自らが白鯨に接近。円環弾道が一斉爆発した空中の場所は白鯨の所定位置から直ぐの場所だった。白鯨に対してはもう目の前の場所で、円環弾道が着弾するはずだった。枢機卿船団の面々にはまだ距離があったにしろ、その誤差は4mも無い。

白鯨は2cm。枢機卿船団は4m。

何度も何度も抵抗の意志を表す、白鯨にイライラうざいの一点張り。もう私達以外居なくなればいい…。そんな激情の思いが溢れに溢れ、最接近する時間を忘却させた。何かを思いながら、主軸を果たしていくのは…悪くない。同時間帯に並行して二つの事柄に打ち込む事が出来るからだ。



燦爛・ブリュンヒルドが魂の救済を願う。

「この地平に懸けて、因果の彼方にて待つ、新たな創世の行く末を…。命に交じりて、可能性を誓う。我々には対処の追いつきが出来ない、外敵との交流はここまでとなりました。祭壇にて待機する、残すは三体に我々の言葉と心の液体は届いているか。今も尚、念頭を待ち望む。返答は不要だ。不要な上に、行動を待っている。我々を救済しろ。救いを求める者への御加護を与えるのが七唇律では無いのか。この度、七唇律の加護を必要とする場面に出会した。悪魔だ。悪魔の末裔だ。私達がそうであったように、原世界の住人はテクフル以上の災厄を内蔵されている。容認すべき事態では無い。お願いです。七唇律の存在を否定する者への裁きはもう不要です。“盈ち虧けの天使”でも構わない。素晴らしき安寧を齎す、神殺しよ…どうか、御力を」


フラウドレスが最接近し、“狂撃”に下された斬裂が執行されよう時、フラウドレスの頭上に光輪が出現。フラウドレスはいち早く、光輪の出現を察知。回避行動をとる。しかしその回避行動を行った先に待つ光輪の影。光輪からの回避を図ったのに、その回避した先には別の光輪が待ち構えていた。サンファイアとアスタリスにも同様の行為が見られた。

「ちっ、まずい…!」

「姉さん…!」

「二人とも!!」

アスタリス、サンファイアが光輪の餌食となった。回避と回避の末、行き場を失った二人の精神が閉塞感を呼び覚まし、回避という今まで容易にとっていた行動を制限したのだ。二人はフラウドレスの視界から姿を消した。

「フラウドレス」

「…お前…何しやがった!!??」

フラウドレスが怒気を上げる。

「私が下したのでは無い。白鯨メルヴィルモービシュが、君たちに裁定を下したのだ。君達は原世界に不必要な存在だとな。君達は夢幻の彼方に飛ばされる。それが何処かは、白鯨しか知らない。二人はもうそろそろその場所に行き着いている頃では無いのかな。フッハハハハアヒヒハ!!最初から我々と一緒に思いを馳せておけば、こんな事には無かっただろうに。まぁ、白鯨の赴きは誰にも判らない。白鯨の選択を覆せるのは白鯨のみだ」

ブリュンヒルドとの会話中も、白鯨が繰り出す光輪の魔に惑わされる。逃げても逃げてもその先に待つのは漆黒に塗られた世界が見える光輪。

「いつまで逃げられるかな」

必死で光輪から逃げ切るフラウドレス。

「ハスタティ、早く…早く…このままじゃフラウドレスが本当にこのまま逃げ切ってしまうぞ…」

「燦爛、ご心配無く。ウチがヤッてやろうか?」

「“提唱”。いいだろう。お前の力が存分に発揮されるシチュエーションだな」

「ハーイ、なんかもうウズっちゃってえ〜。もうソロかなぁって思ってたとこ」

ブリュンヒルドから“提唱”と呼称された女が、自ら名乗りを上げ、フラウドレスと白鯨の光輪による戦地に出向く。

「あのぉー…すんませーん」

「しね」

「…!」

光輪から逃げている中、自身の領域に侵攻して来た“提唱”と言われていた女を八つ裂きにするため、瞬間転移で“提唱”への烈火斬裂を繰り出す。

「ちょ…トォォオ!!!あっぶないことすんネーほんとにィィ…」

「……!クソ…」

“提唱”へのもう一つ手を加えようとした瞬間に、左方向から来襲する光輪。フラウドレスが回避を余儀なくされる。油断していた“提唱”としては、かなり危険行為だと自覚。その事を誠心誠意伝える。フラウドレスに。

「ねぇ〜?リングちゃんから逃げてる所悪いんだけどさァ、ウチの相手もして欲しいんだなぁ…。あなた、仲間失って悲しいでしょ?嫌でしょ?今すぐ殺したいでしょ?ウチらのこと。でもね、それ、思っちゃあダメダメな事なんだよね。消え去るのはあなた達の方だよ」

────

『うるさい。二人の事を二度と言うな』

────

「そのさぁ、白鯨みたいな訴え掛けてくるやつやめてくれない?急にビックリしちゃうってー」

「お前らを絶対に許さない」

「へぇ〜、そんなに白鯨からの攻撃に回避するので精一杯なのに、まだ余力あるってぇの?」

「お前…いちいち言い方がムカつくんだよ」

「あなた凄いね。どういう身体してんのさ。あんたら、幼体だよね??」

「…」

「あ、やっと息切れてきた?その顕現はなんなのさ。教えてよ。意味わかんないんだけど…。“セカンドステージチルドレンの正統進化さん”?」

「…セカンドステージチルドレン!?お前…ぐっ!」

女の発言に驚いた。そこに生まれた空白の一秒を光輪が見過ごすはずも無く、一点集中を受ける。多方向に発生した光輪が一斉にフラウドレスへ動線を引き、取り込んだ。多方向と表現したが、正確に言うと全方向。最早、逃げ道を探す余裕すらも無い。白鯨のパーフェクトゲーム。

「燦爛、フラウドレスどっかいっちゃった。私、名前教えようと思ったのに」

「やめておけ。幻夢郷に喰われるぞ」

「いっけね。忘れてた忘れてた」

「燦爛、フラウドレスらは何処に?」

「守衛よ、我々の知るような場所では無いだろう。知る由もない。次元の彼方、誰も知らない世界だ。万物をも寄せ付けない罪人のみが、行く事を許される“ヴィアドロローサ”。あの三人に、ヴィアドロローサを耐えうる精神があるかどうか。もう、三人の顔を見る事が無い以上、詮索する時間は意味の無いものだ。帰るぞ」

「狂撃…」

「“揺籃”よ、泣くでは無い。狂撃の死を明日に繋げるのだ。遺骸を聖墳墓教会に連れて行く」

「燦爛、あれは…」



白鯨の舞。光輪の全面展開によって、原世界に不必要な異物を三体も消去した事で、白鯨に歓喜が訪れる。

「これは…」

「白鯨の感情が最大限に達した時、頂点となった感情のリミットを解放する儀式だ。白鯨の行動は多岐にわたる。それに多次元世界での長時間の監視はそれなりに疲労を伴うものだ」

「燦爛、簡単に言って」

「守衛よ、ただのストレス発散だ」

「神だってストレスとか溜まるんだァ」

「提唱よ、神だって生きているのだ。我々生物との乖離性はあっても、元を辿れば同じ卵から生まれたんだ」

「アレ、いつ終わんの?」

「知らないな。知った瞬間、その者の生涯は破滅する」

「うわ〜なにそれ。怖んわ」

「我々は戮世界に帰還する。白鯨の舞を見物したい者は…」

「何その質問」

「提唱、“魔羅”と“揺籃”が白鯨の聖典に興味があるんだよ」

「守衛、はァ?何言ってんの二人とも」

「……」

『悪いか?』と言わんばかりの表情を見せる“魔羅”。

“揺籃”は、“提唱”に見向きもしていない。

「燦爛、なんなのこいつら」

「そうだな。二人とも、今日の見物は中止だ。中止中止」

「魔羅、揺籃、中止だってさ。ハイハイ、いったいった」

ニーベルンゲン形而枢機卿船団は戮世界への帰還シークエンスを実行する。

「…んん?…、、、、」

「燦爛、どうしたんだ?」

“劇薬”がブリュンヒルドの異変に気づく。

「おかしい…帰還シークエンスに“エステルの毒車輪”が入り組んでる…」

「燦爛、それって…」

「劇薬よ、帰れない」

帰還回廊に異常が発生した。戮世界への帰還ルートは多次元世界の回廊“デスターズセイン”しか無い。その回廊へと繋がる異空間突入口が開かれないのだ。

「なぜだ!どうしてそんなことが起きる!?」

“魔羅”が語気を強めてそう口にする。

「なんだ“魔羅”、お前、ちゃんと帰りたいんだったら初っ端からそういう雰囲気出しといてくんない?」

「黙れ、“提唱”。それとこれとは話が別だ。“燦爛”、帰還不可能とはどういう事だ」

全員の視線がブリュンヒルドに向かうが、彼は首を斜めに傾げるしか返事の余白が無かった。

「何よそれ…どういう事よ…あの女達がいなくなってせいぜいしたのに…なんで…なんで私らもそんな目にあうのよ…」

“提唱”が感情を錯乱させる。

「落ち着け…いいか?落ち着け…。これには理由があるはずだ」

「理由?理由って何よ?ねぇ…なんなのさ、、、“闘志”」

「白鯨がすぐそこにいる。白鯨が関係している可能性がある」

“闘志”が現在の異常事態と白鯨の関連性を仮定する。

「“闘志”、なぜ白鯨が我々、枢機卿船団を帰す手段をシャットダウンさせる?」

ブリュンヒルドが冷静さの中に、焦りを残す中、仮定に対してのもっともな反論を述べる。

「フラウドレスが何かした…?」

“闘志”がそう呟くように言った。ブリュンヒルドの反論から数秒の空白も作らずに、まるで元々この意見を述べたかったかのように即答した。

「フラウドレスが…?」

「燦爛、それしか考えられない。アイツは光輪の取り込まれた際、白鯨に仕掛けたんだ。何かとは判らないが…」

“劇薬”も“闘志”と同類の方向性を発する。もしそれが本当の事ならば…枢機卿船団はまだまだ彼女の力に翻弄されていた事が証明されてしまう。

「最悪の置き土産だ」

息を殺した…というよりも、息をする余裕も無いぐらいに追い込まれた様子でアルヴィトルが現状を最も適した言葉で言い表す。その時、白鯨の行動が再開。光輪の中にフラウドレス、サンファイア、アスタリスを取り込んだ。順番的には今述べた名前の逆の順番である。



光輪の最終対象者のフラウドレスを取り込んだ直後から、行動を停止させていた白鯨。サンファイア、アスタリスを取り込んだ時は、一切の現在の様子は確認されなかった。フラウドレスを多方向の光輪で“ようやく”取り込んだ瞬間から、白鯨の絵画的停止が発動。

この時から白鯨の異変は感知していた。だが深く捉える事はせず、枢機卿船団の帰還ルートの確保に事を急いでいた。

二人は気づいていたのだろうか。

先程の発言から察するに、白鯨の様子を注視していた二人ですらも確認出来なかった…と見ている。黙っていたとなると問題だが、そんな行方も判らない、正当か不当かを判断する材料も少ない中で、余計な議論に頭を使う暇がそもそも今は無い。

「白鯨、今、あなたの中で…何が行われているんですか…」

続けざまにブリュンヒルドが皆に合掌を執り行わさせる。

「我、ニーベルンゲン形而枢機卿船団、燦爛司祭・ブリュンヒルド。肉体より届きし我が声を神々の七唇律に乗せ祀る。どうか、聞こえていたら鼓動のタイミングを我々と合わせてほしい」


【1****0】


「感謝を申し上げる。まさか白鯨ご自身が返事を下さるとは…。話が早くなることを心から感謝する。我々には時間が無い。残されていない。手短に事を話す。白鯨“ハスタティ”が原世界への降誕ルーティングを図った事を確認し、兄弟世界“ブラザーワールド”の戮世界住人9人が原世界に降りた。しかし様々な事に直面し、戦闘が発生した。ハスタティの千里眼は間違っていなかった。ハスタティが異物を排除。その直後の異変を白鯨が対処してほしい。あなた達にならできるでしょ?お願いだ」


【11********1*0】


全員の耳にヴォイスアウトが届く。疑うとはこの上ないものだ。

「知らない…だと…?」

そして切られた。合掌が終了する。

「燦爛、どういう事…?」

「守衛、自分達の管轄外の事は…白鯨には聞いてはならないのだ…」

「じゃあ、なに…白鯨と回廊との関連性は無い…そういうこと…?」

「ただ単に、多次元世界突入口が開かれない…そう言いたいのか…?」

“提唱”と“闘志”が疑問に思って当然の事を言う。ブリュンヒルドは目を見開いたまま、彼等の問いに答えることは無かった。

「この先…どうして行けばいいんだ…何かを、言いたそうな雰囲気が伝わるのは気のせいか…?」

ハスタティが回廊を塞いだのは間違いない。これには絶対的な理由がある。そうでも無きゃ、こんな状況に陥るはずが無い。

何が目的なんだ…何をしてほしいんだ…?

白鯨は多次元世界の番人。

戮世界と原世界の規律と調律を守護する者。

それを踏まえて何個かの仮説を立てるとする。一番ブリュンヒルドの中で、有力視されたのは…“ニーベルンゲン形而枢機卿船団に原世界での異変を解消してほしい”というのが一番、有り得なくは無いものだ。だがこれは白鯨に深く関係している出来事。最重要案件。これが“関係の無い、切り捨てるべきもの”としてハスタティ以外の白鯨に認識されているのであれば、この先の多次元世界の規律と調律に亀裂が生じる事になる。

この亀裂が何を意味するのか…兄弟世界の均衡は破滅し、共有現象も消失。世界戦争の悪影響を戮世界が受ける事が無くなる…という点ではメリットとして考える事が出来るが、戮世界にとって原世界は無くてはならない存在なのだ。

絶対に二つの世界を切り離すことなど許されない。

その監視の為に、白鯨メルヴィルモービシュは地位を築いている。白鯨メルヴィルモービシュが自ら地位を放棄するなんて、有り得ない事。

ハスタティは独立化させた自身のサーバー内で、我々ニーベルンゲン形而枢機卿船団に訴え掛けているのだ。

────────

だから、戮世界の住人を帰還させる訳にはいかない。

────────

「我々には…まだやるべき事がある」

「燦爛、私らはもう帰すだけっしょ?」

「いいや“提唱”、違うよ。ハスタティが我々をここに留めた。やるべき事があるのだ」

「白鯨に…任せればいいじゃないか」

「じゃあなぜ、我々はここから出れない?回廊が開かれない?白鯨に成せない事だからじゃないのか?それを任せられたんだ」

「うん??任せられた?白鯨に?」

“伝令”のただただどういうことかよく分からない、理解に困った説明を受け止めるが、全くの色を変えずに思ったままの気持ちをブリュンヒルドに向ける。

「みんな。合掌の時に聞こえただろ?白鯨の声が。あの声をよく思い出せ。あれは…戮世界テクフルの人間にしか判らないものだ。ここはどこだ?原世界だ。我々にしか伝わらない言語で話す意味が大ありなんだよ。フラウドレス達には勿論、聞こえていない。三人を光輪に取り込んだ状況下で、我々にしか理解の出来ない伝達方法が成されたというのは…」

「この世界に…まだ生存者がいる…?」

「そうだ“劇薬”。原世界、見るからに悲惨な事が行われたと推測出来るが、ここに生存者がまだいる。仮に白鯨が原世界との共通言語を発していたとしても、流石の近辺には生存者はいないとは思う。これは白鯨のやりすぎな配慮だ」

「どこかに…いる…戮世界に悪影響を及ぼした原世界の連中が…」

「そうだ、我々はその異分子を淘汰する為にやって来たのだ。しかし予想外の強さを見せつけられた…。セカンドステージチルドレンの進化を舐めていたな」

「燦爛、ハスタティはどうなる?あのまま停止したままなのか?」

「判らない…白鯨の身に何が起きているのか、分かったもんじゃない」

「燦爛、とりま今は、無視しようよ。時間が経ってからまたこいつに会いに来ればいい」

「そうだな“闘志”」

「ンでえ、どうするよ燦爛。こっからは二手にでも分かれるか?」

“魔羅”のアイデアに肯定の意思を送るブリュンヒルド。

「あ、いや…本気で言った訳じゃ…」

「じゃあ私、“魔羅”と一緒のチームぅ!」

“魔羅”に抱きつく“提唱”。

「判ったから、離れてくれ…恥ずかしいって…」

「なに??照れてんのー?」

「良いだろう。魔羅、提唱、揺籃、燦爛の“チームアリス”。闘志、劇薬、守衛、伝令の“チームアトム”に分ける」

「やったぁ!ありがと燦爛!」

「燦爛、二人を同じ班にしていいのか?」

「大丈夫だ、私と魔羅、お前がいる。枢機卿船団としての務めが果たされない限りは彼等を神々の面前に於いて処刑する」

「怖いこと言うな…急にお前は…」

「お前と私を逆撫でする呼び名を言うで無い」

「フン、ちょっと大司祭になったからっていい気になるなよ、燦爛さん」

「魔羅、雲泥の差を見せた夜を忘れた訳では無いだろう」

「二人ともぉー?私らが仲良いからってアンタらもその気になっちゃってる感じ??」

“提唱”はこういう事になると、直ぐに“魔羅”の元へと行く。身を寄せる。ダメな行為という訳では無い。だが七唇律の見据える状況で、交接の数歩手前に及ぶ行為は適した者とは言えない。“提唱”にはもうちょっと、枢機卿船団としての身構えを補ってほしいものだ。

「チームアリスは私が。チームアトムは“伝令”に任せる」

ブリュンヒルドの命でチームアトムの統率者を“伝令”に選定。“伝令”はブリュンヒルドと肩を並べる程の実力者。枢機卿船団への加入は歴史が古い。これだけ並べると統率者としてはもってこいの人選と言える。だがブリュンヒルドにとってこれは多少なりとも、挑戦的なものと言えた。


実際、“伝令”の統率者選定に否定の声が上がった。

「“伝令”ぇー?あっそ…」

「“レギンレイヴ”がやるのー?うーん……なんか私は反対かも」

「守衛としてもあまり支持は出来ない選定だな。どうしてだ?」

“劇薬”、“提唱”、アルヴィトルが統率者としてレギンレイヴを選定したブリュンヒルドに苦言を呈する。

「“提唱”、その名は原世界に相応しいものでは無い」

ブリュンヒルドが“提唱”の苦言に、訂正する内容を含んでいるとし怒りを滲ませる。その対応に、“提唱”の今までの能天気な表情が一気に冷める。

「目的は一つ。今、眼前に降誕せし白鯨・ハスタティの叶わぬ夢。幻夢郷とのリンクを見せつけ、新時代の到来を予感させるビジョンだった。その未来予想図はその図面に書き表せ無かった“魔術”が発生した。白鯨と幻夢郷の力を持ってしても、果たせなかったイレギュラーな展開。我々枢機卿船団に課せられた事。白鯨との友好な関係を継続させ、七唇律の信仰を最大の発展とさせる。これまでに無く壮大な七唇律を巻き添えにした計画となるだろう。原世界の異物を全て消去する。チームアリスが、北上。チームアトムが南下。二つの方角から攻め込み、混沌の世界に未だ棲みつく“蛆虫ども”を淘汰。戮世界への悪影響を完全に無くす。何度でも言えよう。これは白鯨が成し得なかった事だ。簡単に行くものでは無い。原世界は“悪魔の末裔”の巣窟。カオスに終止符を打つぞ」

白鯨の行動が停止した中、ニーベルンゲン形而枢機卿船団は二つの班にわかれ、白鯨・ハスタティからの使命を受け原世界の危険因子排除に向けた行動を開始した。

この先ブリュンヒルド、レギンレイヴに待ち受ける全てに於いて“最果て”とも言える超常の数々をこの時はまだ知らない。

ありがとうございます。

フラウドレスとニーベルンゲン形而枢機卿船団が激突しました。そして天空の白鯨。多くの現象が起き、これまでに無いストーリーの拡大化が見込めるものになりました。

この作品がいつ終わるのか、分からなくなりました。プロットがとてもあります。ものすごくあります。時間が惜しいです。見たいものも読みたいものもあるのに。今進行中の全てのパートにプロットが完成しかけています。ですが、それに関係した本で知識を深める必要のある濃厚なシナリオです。安易に手を出してはいけないもの。時間が無い。どうしよう…。

今私生活も順調では無いです。どうなるんだろう。本当に判らない。今の自分に「Lil'in of raison d'être」を創作出来る脳みそがあって良かったです。


それではまた5日後か…一週間後か…

生存確認をしますので。

また。

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