[#67-救世主の胎動]
「色情狂の醜美」続劇作品。
[#67-救世主の胎動]
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生年月日:西暦3700年1月7日
収監日:西暦3703年1月10日
セブンスコードナンバー:369
本体名:タイダリザン・ヴォーフレイ
生年月日:西暦3700年1月9日
収監日:西暦3703年1月10日
セブンスコードナンバー:375
本体名:アイオーニス・メゲニアン
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「お前、何を確認している?」
「え?いや…これですよ」
「あー、優秀者リストか」
「はい。この中から新たな軍事転用に回される子供がいるんですね」
「ああ、そうだ。ここ箱根支部局は優秀な子供が多いからな。お前が確認していたこのリストは…うん、優秀の更に上をいく“エリートランカー”の集いだな」
「あ、そうなんですか…」
「何だ、お前そんなものを知らずにこのリストを眺めていたのか?」
「はい。てっきり…あれ?少ないなぁ…とは思っていたんですよ…」
「全く…お前はもう一回研修に回した方がいいか」
「いや!ちょとちょっと!何もそこまでしなくても…」
「このリストの見方が判らないようじゃ、お前にこの施設の管理担当職を一任させる訳にはいかん」
「いや…!!本気で言ってんすか?…、、、」
「ああ。俺は本気だ。いつに無く本気だ」
「そんな…、、、」
「まぁそんな研修に回すほど今は時間が無い。それにお前の研修席を用意する隙間すらないのは現状だ」
「てことは…」
「実践して学べ」
「ありがとうございます!」
「お前は…本当に時と運に助かっている事ばかりだぞ、“アチュネ”」
「僕だって頑張ってるんですから…それに…、、ここは…セブンスが多すぎますよ…100人は普通に超えてません?」
「100人なんて簡単に超えてるな。その理由は…」
「ええーーっと…爆心地がすぐそこだから…ですよねぇぇーーー? …」
「爆心地…まぁ合ってるちゃぁ合ってるが…それだと我々人類の爆撃が影響だと考えてしまう。デキる奴の回答としては…セカンドステージチルドレンの遺伝子、“SSC遺伝子搭載の小惑星が富士樹海に落下し、そのSSC遺伝子が日本列島に蔓延した。その近辺地域である箱根等が落下から1603年が経過しても尚、未だに大地に根付いている。特に富士山周辺はな」
「長いですね…、、、」
「このぐらい詳細に回答しなければ適切だとは言えない。お前はどうやってここの施設員になったんだ」
「ちゃんと国家資格取りましたけど」
「お前が受験したその日の問題は、よっぽど甘めに作られていたんだろうな。そんな余裕も無いし」
「どー言うことッスかぁ?」
「フン、お前…運が良かったな。人件費をそんな国家資格に使ってる余裕はこの国には無いって言うことだよ」
「あー…なるほど…、、、シェリアラージュ戦争、いつまで続くんでしょうね…」
「そんなもの…誰も知る由もない。争いを続けることが当たり前な世界になってしまった。日常化してしまうということは、絶対に起こってはならない事なのにな。だがこの戦争は今までの世界戦争と比較しても、次元の違う話になった」
「セブンスですね」
「それもある。だが…セブンスの他に不可解な現象が多発している」
「不可解な現象?それはなんですか?」
「溝」
「溝…?」
「ああ。溝と…渦。主にそれは戦争中に突然発生するものだ。最初は自然災害と区分されていたが、もうその仮説は破棄されている。一番に有力なものとするならば…何者かの戦争介入」
「セブンスの可能性は…?」
「セブンスは戦争に集中していた。溝と渦が発生した際に参加したセブンスはな。ルケニアの顕現で判別がつくことだ。臍帯のうねり具合がルケニアの動作に影響する事から、セブンスには不可解な現象を発生させた事案が無いらしい」
「ということは…セブンスでは無い…何か…」
「“セブンス”という存在…そして過去に…1600年以上も前に発生した歴史を踏まえると、また新たな“外敵”が出現している…と考えるのは全く不思議なものでは無い。何者かが、我々の世界を攻撃している。溝と渦の発生により、戦争の停止と多くの死者を生んでいる。これを良い事と捉えるのは、現在の上位地球人には考えられない事だ。溝と渦を発生させた奴、第三者の参戦。果たして第三者の目的は何か…。今、世界戦争で最も注目されているのは、これかもしれないな」
「国と国との戦争よりも…現象が牙を剥く…」
「間違いないからな。これが災害では無い…という事は。有り得ない頻度だ。戦争中にそれは発生し、戦争の起きてない時は一切顔を出さない。まるで戦争を起こしている我々を陵辱しているかのようだ」
「止めている…というのはありませんか?」
「止めている…?戦争に割って入っているって言うのか?」
「はい」
「じゃあ何故、兵士を殺すにまで至らせる」
「それは…、、、」
「明確に殺戮の目標を感じずにはいられない。報告書にある通り…だとするならな。地上の戦争だと巨大ハリケーンが。会場での戦争だと海を割き海溝を作る」
「一体誰が…」
「まぁ、こんな事を話していても我々には関係の無い事だ。ここが戦地になろうはずが無いからな」
「そうですね…あ、そうだ。科学部隊の友人から話を聞いたんですけど、みなとみらいに箱根を超えるレベルのセブンスがいる…と聞いたんですが、ホントですか?」
「そうらしい。3人いると聞いた。その中でも一人の能力はズバ抜けて素晴らしいとの噂だ」
「やっぱりそういうウワサって本当な事が多いですよね」
「この世界に隠し事なんてものは不可能だ。透明だと思っていても、その壁は不透明」
「なんか嘘つくのが難しい時代になったんですね」
「今まで人は容易に嘘をついていたな。だがもうその時代は終わった。みなとみらいの情報もそうだが、至る所からそういった情報は入ってくるぞ」
「え、そうなんですか…?」
「ああそうだ。熱海の方からも、優秀なセブンスが来たことはもうこちら側に届いている。更には沖縄で特殊な訓練に励んでいる機動部隊が用意されている事も昨日明らかになった」
「いや…それは別に伝えた方が良い事じゃないんですか…?今までの、『優秀なセブンスが入ったあ』とかなら、理解出来ますが…それは別に良い情報じゃないですか」
「………」
「図星ですね。先輩。僕に負かせられるようじゃ、先輩もまだまだですよ」
「うるせぇ。とっととチェックリストの項目にサインして、その用紙を本部に送れぇい!」
「はぁい」
──西暦3703年7月28日。
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西暦3704年1月18日──。
米国空軍大型航空爆撃機“トロイアトロン”5機。
米国空軍ステラ級攻撃戦闘機“アショッター7”6機。
合計11機の航空機が日本列島全域を爆撃、空襲攻撃を開始した。
米国はこれを“クロスファイア作戦”と命名している。
日本が受けた爆撃は米国の想定していた以上の結果を生む。それは元々、ここまでの規模を想定して爆撃を行う作戦立案では無かったからだ。
一人の独裁者による、身勝手な指揮が日本列島を戦果の嵐で追い詰め、関係の無い民間人まで巻き添えにしてしまった。米国としては許されざる行為として、当該行動を執った指揮官を厳重注意。だが独裁者の答弁が米国誌一面に取り上げられ、大々的に報道。たちまち時の人となる。
その指揮官の名は“ハーべラント”。ハーべラントの答弁内容はいたってシンプルなもの。
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「セブンスの元凶である日本列島を火の海にする」
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だがこれを決定するには多くの上位政府関係者から、許しをもらう必要がある。ハーべラントはその壁を実戦で完全無視。自身が指揮を執るクロスファイア作戦は、自らが作戦立案とフォーメーション編成を担当。更にはハーべラントの今までの戦闘経験と功績が評価され、最高責任者のランクも国家政府により付与された。
ハーべラントはそんな独裁権利を自ら立案した作戦に、これでもかと運用。誰の指図も受けないハーべラントの理想郷を作り、日本帝国への攻撃を開始。
クロスファイア作戦参加部隊が、ハーべラントの命令を受け入れたのはハーべラントの意思を尊重した者が少なかった事が窺える。きっとハーべラントの想いというものに、多分な影響を受けた者が存在し、その暴悪が枝分かれする形で、兵士に蔓延。“主幹ウイルス”とも呼ばれる、独裁者の思想が善し悪しに関わらず、発生。
人は限度以上の他人が齎す感情に大きな触発を覚える場合がある。それがクロスファイア作戦の起因だ。
ハーべラントが独裁力を屠り、日本帝国の崩壊を確認した。道程はどうであれ、結果は見るからに米国の勝利。日本帝国という“セブンスの墳墓教”を荒地にしてみせた、クロスファイア作戦に参加した面々は、米国にて軍神と崇められる事になった。
この世界は、結果が全てだ。勝利を手にしていれば、道中の内容などはなんだっていい。全てが上手くいくとは限らない。ハーべラントの選択は間違っているのか、合っていたのか。政府関係者の意見と国民の意見で、相違があるのは事実。
この生じた相違、軋み合わさった歯車を溶け合わせたハーべラントの統括力。破滅的大敗の結果がハーべラントの正義に何物の篩が掛けられるのか。
彼の動向は今後の世界戦争終焉に向けて、更なる力が振るわれる。
◈
西暦3704年1月21日──。
「だからどうなったっていい。とにかく今は生存者を探すことが先決なんだよ」
「いいや俺は反対だ。沖縄でゆっくりと何事も無くくらしていきたい。もうこれ以上の戦争の被害にあいたくないんだよ!」
「そうやって、思ってる内が危険なんだよ!実際3日前に起こった出来事が全てだ。こんな惨劇を鵜呑みにしなければ行けない。日本は負けた…」
「日本は…負けた…」
クロスファイア作戦から3日後。
日本 沖縄県嘉手納町 在日米空軍嘉手納飛行場
現状を受け入れるのに要した時間は永久。今も尚、この惨劇を受け入れられない者が多くいる。
「沖縄…もし…この惨劇が他の場所と比べて、小規模程度なものだったら…」
そんな事を提示してきたのは、“グレネイト”。在日米空軍嘉手納飛行場のトップに立つ、若き軍司令官だ。しかし、そんなグレネイトの思いを簡単に聞き耳欹てる者は現れない。軍司令官という権力を用いても、今の日本帝国には主従関係が崩壊していたからだ。
たったの数分で世界は変わってしまった…。だがグレネイトには沖縄の受けた攻撃規模が少ない…とにらんでいた。
理由は単純だ。沖縄の爆撃範囲が惨劇というには値しない規模のものだったからだ。
人はこの有り様を“惨劇”と訴えてはいるが、軍の人間からしてみれば、この様は沖縄の指揮機能を低下させるレベルの事態では無い。沖縄は今まで世界戦争の戦場として扱われたことは無い。沖縄民は戦争とは隔離された世界を生きてきたのだ。
ただし、沖縄軍は別の話。何度も世界戦争に参戦したことがある。グレネイト以外も当然、参戦した事がある。
グレネイトには沖縄に落とされた爆弾による攻撃が、待避に余裕のあるレベルだったと推察している。
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沖縄は爆撃範囲外…。
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グレネイトは強く、それを言い続ける。
そんなグレネイトの提言は、“独善的”として人々の怒りを買うことになる。
「じゃあなんでウチの子は死んだのよ!!」
「私のお父さん……死んだ理由はなにぃ!?」
「説明してよ……ねぇ!説明してよ!!」
「弟が巻き込まれたの…。あなたにこの気持ちが分からないのよ…勝手なこと言わないで!」
人々が怒るの無理もない。沖縄にも爆撃の被害が甚大な区域があったからだ。そんな遺族の無念を放っておいて、軍人が放った無責任な一言。
グレネイトは諦めずに、沖縄の生存者達を振り向かせようと努力した。人々の輪を広げ、多種多様な人への協力を要請。今までの人生では経験し得なかった異ジャンルの人とも交流を深くした。全ては信頼回復のために。
自身の夢想を実現させたい。グレネイトは沖縄からの全生存者の脱出を図っている。使節団“メイカーズファスタ”を設立させ、日本列島本土にて待っているであろう、助けを求める者たちの元へ向かう。それがグレネイトの企みだ。
「沖縄の被害は少ない。列島本土はこれ以上。いや、比較にならない程の規模だと思っている。だから、みんな…協力してほしい。皆が一つになれば不可能だって可能になる。今は争っている場合じゃない。お願いだ…俺を信じてついてきてくれ。沖縄よりもっと被害を受けている人々のために…。日本人全員で助け合わなきゃ生きていけない世界に突入したんだ。そうなってしまったんだ…。我々よりも…怒りや苦しみ…憎しみを体感しているはず…本土に行こう」
グレネイトが今まで信頼を寄せてきた理由はこれだったか…。皆がそう思った。一見してみると、“この長々しい何度目かも判らない説得のために付き合わされてきた”と思いがちな事もあったが、グレネイトの声明は生残者の心に響いた。人々はグレネイトを信じ、列島本土への救済の旅路を決行する事に。
グレネイトを始めとする、“在日米軍”の生存者。米軍と記載されるのはもう外した方がいいか…。沖縄が爆撃範囲から外された要因は、これが最も適切なものだと推測している。当然、世界戦争が始まった時には在日米軍の米軍駐在兵士は本国に帰還。
仲間がいた…。仲間が敵となった…。かつては仲間だった兵士も、世界戦争という名目の下では関係が無くなる。両者は本国の勝利のために奮闘した。罪悪感は無い。感じられなかった。こんな事になることは予測していたのだろう。こんな話は1000年以上前の話だ。いつまで戦争が続けられるんだろうか。この日本への空爆が何か世界戦争終焉のきっかけとなってくれたらいいのだが…。
広島と長崎に落とされた原子爆弾。米国が朝8時に落とした…と文献にて記載されていた。現代の人々にとって戦争は隣合わせな存在。稀有な現象だとはとてもじゃないが思えない。米国の落とした原爆によって日本帝国は、ポツダム宣言を受諾。そこから長らく、大規模な戦争が発生する事は無かった。日本が参戦していないだけで、世界各地では内戦と地域紛争が勃発していたのは確かだ。
ポツダム宣言受諾から80年後。世界の軸は徐々に捻れてゆく…。平和と安寧を願った時代はどこへやら…軋轢が軋轢を生み、解決した事象の果てに待ち受けるのは再びの争いの火蓋。もう誰が合っていて、誰が間違っているのか…。それを裁定する方法は力により圧政しか無かった。最初は圧政で済んでいたものの、その力に対抗する国が現れ始めた時、抵抗の旗印は他国からも名乗りが上がる。
次第にそれは伝播され、世界全体に拡がる。この流血上等の流行の波に、乗らない国は存在しない。
“勝利”、“福音”、“制圧”、“希望”。
全てが同一の志しを掲げた。そうなってしまうともう始まるものは始まるしかなくなる。
いつ終わるのか判らない。果ての見えない世界戦争の始まり。人類は何度同じ出来事を繰り返せば学べるのか。
いや、違うのかもしれない。過去の過ちを憂いているからこそ、この時代に起きた戦争を在るべき姿へとエスコートしている。この思想が一体どれほどの国が持ち合わせている事かは…分かろうはずもない。
◈
西暦3704年1月21日。沖縄民間人と日本帝国軍沖縄駐屯基地配属部隊全局、総勢5239名が大型航空輸送機“フォードレイザー”に搭乗。
沖縄からの救世主として、日本本土に生存しているであろう民間人や兵士の救出活動を行うべく、フォードレイザーに搭乗したコミュニティネーム“メイカーズファスタ”が行動を開始。メイカーズファスタは在日米軍基地にて、試験運用中だった特殊作戦兵器“電脳殺傷兵器”を回収。
嘉手納飛行場、伊江島飛行場、北部訓練場、普天間飛行場、そして那覇空港。フォードレイザーが日本本土へ向かう前に、電脳殺傷兵器の全ガジェットリンクを回収するため、軍人経験のある者が混成ユニットを組む。4つの回収ユニット部隊が4つの飛行場&空軍基地へと中型艦載機を飛ばした。嘉手納飛行場の電脳兵器は回収済みのため、残りの主要回収ポイントという事になっている。
無事、電脳殺傷兵器を回収することに成功した全部隊。だがこの“電脳”という言葉とは裏腹に、想定していたものと掛け離れている…との願望が多く寄せられた。
「グレネイト大佐。これが本当にその…電脳殺傷兵器とかいうやつですか?」
メイカーズファスタ幹部の退役軍人が言う。電脳殺傷兵器の内容について知見が無い人間だ。多くの人間はグレネイトを含む軍人しか、電脳兵器については知らない。よって、電脳兵器については回収作業を始める前から数多くの質問が殺到していた。
「そうだ。これが電脳兵器だ。かつてはセブンスの能力も搭載する必要性がある兵器として試作開発されていたが、予想以上の出来になり、セブンスの能力は不要だとされた。人間がゼロイチで生み出した科学兵器だよ」
「いや、なんか…“電脳”という言葉に惑わされていました…。かなりのスチームパンクな作りなんですね」
「そうだな。電脳と謳っているのは、元々の開発段階でコンピュータナノマシンが搭載された事実があるからだ。実際に今でも中に備わっているはず。だがある時を境に、このような蒸気機関を有しているであろう見た目に変わってしまった。見た目がこうなってしまった以上、戻す必要性も無くなり、より一層の君の言うスチームパンクな素体構成になった…という訳だ」
「後ろに背負って使うんですよね」
「ああ、そうだ。“アーマード・ディアテーケー”。日本帝国軍の科学研究部隊の中では“アームドD計画として銘打たれていたな。このベルトを両脇に回して、胴体と固定する。最初はこの重力に慣れが必要だな。そしてこの背面に背負われたディアテーケーから2つのディーゼル機関を有した即撃射出装置が突出。これを両手で握り締めると、そこからはもう鍛錬が必要になるフェーズだ」
「鍛錬…ですか?」
「ああ、そうだ。ほら、見てみろ。ディアテーケーを手馴れた手つきで扱っている男がいるだろ?“ウェスタゴール”。日本帝国軍で様々な戦いに出向き、勝利を導きてきた誇り高き兵士。俺の友人だ。彼に多くを聞いてみるといい。きっとアーマード・ディアテーケーについて、深く知見を得られると思うぞ」
「分かりました。“ブレードズ”、意地に掛けて、ディアテーケーの技術を即座に習得し、メイカーズファスタのお力に添えるよう励みます!」
「頼んだぞ」
◈
西暦3704年1月23日──。
昨日に行われたアーマード・ディアテーケーの回収作業。4つの主要旧在日米軍空軍基地に行き着いた際、回収目標物と共に、とある遺物を発見していた。それは全ての空軍基地にて確認された。それが判明し、回収作業中に空挺にて待機中であったスーパーサブの兵士が急遽、ディアテーケーの置かれていない空軍基地に向かった。
しかし、ディアテーケーの置かれていない沖縄の空軍基地には発見物と同様のものは確認されなかった。
グレネイトは何か共通点があるとして、発見物を回収。滞在中であった嘉手納空軍基地にも同様の遺物を発見。ディアテーケーとの関連性は不明だが、【ディアテーケーの置かれていない場所にはこの“遺物”が無かった…】というのは、とても偶然とは思えない。
この遺物というのは…数値化された“7層のプロトコルスタック”。物体では無い。沖縄の全空軍基地にはネットワークサーバーが有してある。それは至極当然の事なのだが、5つの回収対象空軍基地では、何故か電力が途絶えていなかったのだ。これには不可解としか思えない感想がメイカーズファスタ全員に走る。
嘉手納空軍基地にて、それを発見したグレネイト。4つの回収作業に出向いていた部隊から、同様のプロトコルスタックの発見通達が届き、グレネイトは全部隊への、兵器との回収を指示。
そして本日、23日。フォードレイザー機内。
プロトコルスタック全7層の非カプセル化をコンピューターネットワーク班が実行している。
しかし、問題が発生
「まだ無理なのか?」
グレネイトがネットワーク班の人間に問う。
「ああ、大佐。そうですね…中々に解析するには手の施しいようがある難敵ですよ」
「これ…一体なんだと推測している?」
「関連性は深いと思います。電脳兵器との」
「その可能性は強いか…」
「必然的にそうなりますね。やはりおかしいですもん…、5つの兵器回収ポイントのみ、電力があったなんて…」
「しかしそこにも疑問が生じないか?電力が発動していたから、基地の遺物を確認できたのか?念の為に出動した、他の空軍基地にも電力が復旧していたら、このデータを獲得出来ていたのか…」
「それは定かになることは無いでしょう…もう電力が復旧する事はありません」
「どうしてそう言い切れる?現に我々は電気を使って航空機を動かしているじゃないか」
「じゃあ…なるべく使わないようにしなきゃ…ですね」
「遺物の詳細を早く知りたい。解析作業に注力してくれ」
ネットワーク班の言っていることは正しい。だがこの電力の問題も、俺が掲げた“生存者捜索”同様の案件だと考える。
探せば、絶対にある。電力も。物資も。
1月23日から本格的に始まったフォードレイザーでの救出活動計画。基本的には沖縄から北上、九州をスタート地点とし四国中国地方、近畿、関東、東北、北海道と、日本列島全土を目標に向けて飛行を開始。
飛ぼうと思えば、沖縄から関東地方にだって行く事は可能だ。だが、今は近場の九州地方を目指す。関東地方にだっているかもしれない。助けを求める人が…。しかしそれは日本列島全土で生き延びている生存者全員に等しく与えられる者だ。
首都圏エリアの国民、“セブンス・メインコアフィールド”を優先する声は多少なりともあった。俺はその声は不適切なものとして、意見を蹴る。
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セブンスが必要
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この絶望的な状況の中で、大きな可能性を秘めた存在は“セブンス”だということは全員が心に思っていること。
言わないだけだ。一人がその障壁を解放すると、皆がこぞって吐き散らす。まるで、最初からそんな意見がまかり通っていたかのように。
九州地方だ。
先ずは近場での救出活動。
◈
同日。
“ニネヴェ計画”第一次生存者救出作戦開始。
九州地方のメインターゲットに、鹿児島県、宮崎県、大分県、長崎県、熊本県、福岡県、佐賀県、7つのエリアを区分化。7つの救出部隊を投入し、ニネヴェ計画が始動。
フォードレイザーは、無駄な燃料&電気の消耗を抑える為、地上に降着。
「フォードレイザーが着陸出来るような広い場所があって、良かったな」
「こんだけ綺麗さっぱり建物が無かったから、可能なんですよ。こんな感じだともはや生きてる人間なんてゼロでしょうけどね」
「口に気をつけるんだな。生存者は必ずいる」
「どうだかねぇ」
グレネイトの指揮系統には、半ば強引なものもある。ニネヴェ計画に対して非協力的なメンバーも中には存在。
グレネイトは把握済みだ。全員が自分の意見を尊重してくれるとは一切思ってない。とは言ったものの、自分が正しい事をしている…とは理解してほしい。ニネヴェ計画が最終局面に到達、つまりは北海道だ。北海道での救出活動が終わった時、最終的に皆がどう思っているのかを問う。そこで皆が、グレネイトの思いを理解してくれればそれでいい。取り敢えず、今は、非協力的なメンバーが過半数を占めるほどの人数に達していなくて本当に良かったと思う。
さすがのさすがに、半分以上が反対意見であることはしんどい。そのために信頼回復運動を行って来た。ここに来て自らに課してきた数多の試練を誇らしく思う。
『よくやって来たな…』
そう自分の中で落とし込む。
今回の第一次救出作戦は、7つの部隊を編成。隊長は世界戦争にも参戦した経験のある実地の内容も把握している日本帝国軍のメンバーが務める。グレネイトは鹿児島県へと飛んだ部隊の隊長を担当。
救出作戦の内容を記載してしまうと長ったらしくなってしまうので、割愛する。
そうだ。割愛するには割愛するなりの理由がある。先ず単刀直入に言うと、生存者は見つからなかった。一切の人影も発見出来ない。爆撃による大地の荒廃。瓦礫すらも存在しない、粉々に破壊されていたのだ。粉々になったであろう建造物の粉塵が舞に舞う。強風が吹き荒れる度に、視界を襲う嫌悪感の権化。
ゴーグルを持参してくるべきだったと反省している。
「大佐…あ、いや…たいちょう…」
「どちらでも構わない。キツいか?」
「はぁーぃ…、、、ちょっと…目にゴミが……、」
「目を隠しながら進むぞ」
「目を隠しながらって…」
「それじゃあ前が見えないじゃないですか!」
「じゃあこの粉塵をどう切り抜けようと言うんだ?」
「1回戻りましょうよ」
「だめだ。時間が無い。生存者が待っている」
「こんな…真っ平らな地形…見た事無いっすよ…、、マジで…、、」
「山脈がどうしてあんな近いように感じるんでしょうねーーーー」
「遮蔽物が無いからな。当然だ」
「そんな…、、冷静に言わないで…くださいよ…、、」
やはり練度不足な人員を連れてくるべきでは無かったか…。7つの部隊を構成するのは、隊長に、戦術分野に特化した2人の兵士、応急処置者、この4人には電脳兵器を制御できる学識がある。他に10人以上が一つ一つの部隊に編成されているが、殆どが戦闘経験の無い、実地初心者の者たち。
メイカーズファスタは5000人以上の生存者を抱えている。なのにも関わらず、これだけの人数しか実地に投入する事が出来ない。いや、させたくない…というのが適切な表現だと言える。
第一次救出作戦に参加したい…と志願した若者は多くいる。この心意気は買った。だがその感情は本物なのかどうか…。まだ爆撃の状況を飲み込んでいない若者が中心となって、このような発言を軽はずみに発している。グレネイトを始め日本帝国軍の戦場経験者たちは、一般人…所謂、戦場未経験者に対して“実戦あるのみ”と踏んでいる。だが一人の意見をきっかけに状況が変わった。
『ロストライフウイルスの充満を危惧した方がいい』
爆撃に際して、ロストライフウイルスが使用された事を考慮した場合、セブンスか、セカンドステージチルドレンか…はたまた、新たな異分子の誕生か…。敵国が攻撃をしてくるとなると、セブンスとなりうる正規進化は考えづらい。
SSCへの進化は危険だ。敵国がこうも簡単に薬を渡すはずが無い。
攻撃の意図は、日本人のSSC化…。そんな最悪の事態を提案されると、この作戦はただの救出作戦として機能させない方がいいのかもしれないという判断に至った。本来ならば大勢の若者を作戦に投入し、少しでも肉眼で目に焼き付けてほしい…改正された攻撃手への怒りを胸に、努力と覚悟を忘却すること無く…。
事情が変わった。作戦参加メンバーは最小限に抑え、救出作戦を決行。軍人ライセンスを持つ者以外の作戦参加メンバーには、SSC化への配慮を伝えない事とした。定まり切っていない仮説状態のものを無駄に拡大化させない方がいい…との総意だったからだ。
この考え。グレネイトは最後まで納得がいかなかった。なぜなら、最小限に人数を抑えたと言っても、人間が参加するのには変わりない。それにロストライフウイルスを考慮した上で参加する我々、軍人の身にもなってほしい。ロストライフウイルスの恐ろしさを知った中で、この惨劇の大地に足を踏み入れる勇気。
何事も無くて、本当に良かった。
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“ロストライフウイルス”。
世界戦争に使われた、無差別殺戮兵器の名称だ。全世界が核ミサイルを主に、兵器に装填。世界のありとあらゆるエリアに着弾し、大規模な攻撃が行われた。一つの国がロストライフウイルスの搭載攻撃を行うと、多段式に他の国も使用。
無差別殺戮兵器の乱れ撃ち。
しかし、この兵器が新たな生命進化のトリガーとなる。
セカンドステージチルドレンから進化したセブンス。セカンドステージチルドレンの弱点を克服した究極の嬰児として誕生したセブンスは、軍事転用されるにはそこまでの時間を必要としなかった。
───────
こうして始まったメイカーズファスタの日本列島北上の旅路。沖縄県と比較しても圧倒的に被害が酷かった事から、グレネイトの予想は当たったとみて良いだろう。
この事実が、グレネイトへの更なる信頼に繋がる。
この先、生存者と出会う日が来るのか…。
この地獄とでも言うべき、変わり果てた日本を舞台に繰り広げられる救世主達の過酷な物語。北上が終わった時、どれほどの人間がこの旅路に思いを馳せているのか。
何を思い、何を願うのか。
何を信じ、何を語るのか。
人々の幻想は果てなき、夢へと不還するのか。
ありがとうございます。
特に話すことはありません。溜まったら吐き出す場として活用しているのですが、ほら、この前に更新したばっかなんで。




