[Chapter.5:introduction“Karagül”]
フラウドレス・ラキュエイヌ
サンファイア・ベルロータ
アスタリス・アッシュナイト
聖祭アルヴィトル『守衛』
[Chapter.5:introduction“Karagül”]
私は一人。いつも一人。
だけど仲間が出来た。仲間という言葉に囚われない、大事な友達に昇華できる存在だ。
友達に昇華するに値する存在と認識した。
そうやって私の人生は2人の影響を多分に受ける。
恐らくは2人の人生にも、私の影響は強く受けている事だろう。
フラウドレス、サンファイア、アスタリス。
3人はセブンス管理施設マーチチャイルドのみなとみらい支部局にて収監生活を送っている
自由を奪われた3人。その生活はなんの前触れも無く、終わりを迎えた。
世界戦争真っ只中、日本帝国に爆撃が開始。
その爆撃に対し、日本帝国は全くの受身を取れなかった。
日本列島は甚大な被害を受ける。その中でも最も酷い惨劇を浴びたのは首都圏エリアだ。能力者が多数発見された富士樹海エリアの周辺領域である首都圏エリアが重点的爆撃のターゲットとなった。
多くの民間人、兵士が死亡。
だが、フラウドレスを中心に、サンファイアとアスタリスは生き残った。セブンスによる防衛本能とルケニアが母体であるセブンスの身体を守護した…と解釈しているが、そうなってしまいと合点がいかない事案が発生する。
それは、この3人以外のセブンスが全て殺された…という事だ。フラウドレス達がいたマーチチャイルドには当然、3人以外のセブンスも収監されていた。
マーチチャイルドに勤務していた通常人類が、爆撃によって死ぬのは理解出来るが、セブンスが死ぬのは理解出来ない。
一体どうして、死ぬセブンスと生存したセブンスがいるのか。
2つに区分されたセブンス。
だが生存のセブンスは3人のみ。
死んだセブンスは何十人といる。
ということは、フラウドレス達は稀有な存在と認識するのが妥当。3人は自分達のセブンスとしての地位を高いものだと認識。
そしてこの先、どうして行くのかを考える。
3人は取り敢えず、惨劇を受けたみなとみらいを離れる。神奈川県を北上し、川崎方面へと進行。
辺り一面、瓦礫のだったり爆撃の影響を受けた地殻変動による大損害が余日に現れた景色。そんな一向に終わる気配の無い、惨劇を前にして3人はただただ歩き続ける。
胸の内に秘めた爆撃を仕掛けた敵国への報い。
必ず殺す…。
その思いを胸に、3人は北上。ただただ歩く。行く宛ても無いのに、歩き続ける。
どこに向かえばいいのか、分からないのに歩く。
北上を続け、川崎へと突入したその時。フラウドレスの身体…いや、口調と言ったらいいものなのか…。言葉当たりに不信感を抱かせる事象が発生する。
いつもとは違う口の当たり方に、サンファイア、アスタリスは怪しんだ。そしてフラウドレスに隠されたもう一つの人格が現れる。
彼女の名は…“ヘリオローザ”。
ヘリオローザは、代々、ラキュエイヌ家の血盟に存在する遺伝子情報。腟内射精を行った際に、男のラキュエイヌだったら精液、女だったら卵子に遺伝子情報が書き加えられる。その加筆修正に施されるのが、交接した男女の遺伝子と、ヘリオローザだ。ヘリオローザは受精卵となった生命の誕生直前に、介入。こうして、ヘリオローザの血が入植。後継されるシステムではあるが、“入植”という言葉の通り、“感染”という意味では無い。つまりは先代には一切のヘリオローザ情報が残らなくなる。
フラウドレスは、母・ロリステイラーがラキュエイヌだった事から卵子に住み着き、精子を迎えた。今までのラキュエイヌと大きく異なる点は、フラウドレスがセブンスだと言うこと。
フラウドレスとヘリオローザの人格。互いに真逆な性格。ヘリオローザは気性の荒い性格で、男のような口調。戦術的な特徴で言えば、とにかく攻撃を最優先に実行。相手への罵倒も厭わない。さらに、ヘリオローザには各時代に住み着いてきたラキュエイヌの記憶がある。
そんなヘリオローザに備わる価値観がサンファイアとアスタリスに向けて爆発。今までそんな口調と言葉を向けて来なかった“フラウドレス”に対し、2人は怪しがる。
「お前は誰だ?」
まさか、いつも頭の中でではあるがメッセージを交信していたフラウドレスから想像もし得ない誹謗中傷の連打が続いた事で、アスタリスはフラウドレスにそう告げた。
フラウドレスの第2人格を疑った2人は戦闘を開始。ヘリオローザはフラウドレスに備わった異能を多分に活用。制御を完全に乗っ取り、ルケニア“黒薔薇”も顕現。アスタリス、サンファイアも“ニーズヘッグ”、“ラタトクス”を顕現し、対抗。
人間年齢的には、フラウドレス母体は3歳。
サンファイア、アスタリス母体は0歳。
嬰児幼体同士の戦闘ではありながら、実際に争いを実行しているのは、それぞれに顕現されたルケニア。母体とルケニアは臍帯で繋がっており、神経接続を行う事で指示が可能。
ヘリオローザにとってフラウドレスが受けた祝福である“セブンス”の異能力は、自身の強さを見せつける最大のオプションとなった。そのやり場の無いエネルギーは、フラウドレスの友達である2人に向けられる。突然のフラウドレスの暴力に為す術なく沈黙する。
しかし、ヘリオローザの内的宇宙…インナースペースにて対話をする事が出来た、当該身体本来の主であるフラウドレスはヘリオローザの感情を受け止め、自身との融合に成功。ヘリオローザを今後もこの身体に永住させることを約束し、争いは終焉。サンファイアとアスタリスには多大なダメージが与えられる結果となってしまったが、救急蘇生もありデフォルトに戻す事が出来た。
◈
そんなヘリオローザという第2人格を携え、実質的には“四人体制”の旅路が始まったフラウドレス一行。
川崎に突入しようかとなっていた時、フラウドレスからヘリオローザの人格になる。
ヘリオローザは今までのラキュエイヌの記憶を保持している。歴代に棲んできたラキュエイヌの記憶がこの地形を目視した事で鮮明になる。
レミディラス・ラキュエイヌ。
彼女はこの光景を愛していた。
神奈川県の東京湾沿い。所謂、京浜工業地帯と言われているこの光景。果てに見える工業地帯を愛していた。
更に映されたのは線路。この線路を辿れば京浜工業地帯に行ける。ヘリオローザの強い願いで、2人は行かざるを得なくなる。
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どうせ、行くところも無いし…。
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線路を伝い、歩行。景観に変わりは無い。だがこの廃線となってしまった鶴見線の駅舎は何故か、現存されていた。鶴見線のホームがどういうことか、爆撃の影響を全く受けていないのだ。辺りを見渡してみても、爆撃を受けて全壊に朽ちた光景なのにも関わらず、我関せずのようなムードを漂わせる駅舎。
誰かが守ったとしか思えないようなものだった。
線路を伝い、次第に京浜工業地帯の中枢へと入っていく。線路を歩いていく中で、様々な駅に出会うが、全てが現存している。更なる違和感を覚えさせる光景が3人の前に広がる。
駅舎の真横にある建物は瓦礫と成り果てているのに、浜川崎駅の駅舎がノーダメージ。一切の傷一つすら確認出来ない。異常な空間だった。
鶴見線を伝い、終着駅である扇町駅に訪れた。ここで謎の匂いを検知したアスタリス。その後、フラウドレスとサンファイアにも匂いが伝わり、あまりにもな匂いの正体を究明するため、一行は歩みを進めた。匂いに敏感なフラウドレスは匂いの正体は“水江町”という場所から出ている事を探る。
扇町の真隣に位置する水江町に訪れ、匂いの場所を特定。だがその匂いは水江町からでは無く、また新たな新天地へと誘われているようなルートの拡大化を承認させられる事となった。
◈
水江町の末端にある海底トンネル。この先に匂いがある事は確実視された。ここまで来たのなら天という事で、3人は海底トンネルを歩く。その先には一人の白装束の女が横たわっていた。その女は呼吸もせずに、死亡…と解釈するのが普通の状態であった。だがおかしな点が複数個浮かび上がる。
この女…海底トンネルで何をしていたのか?
何故、一人なのか?
もし爆撃から避難してきた…と推察するなら、この女だけがここにいるのはおかしい。もっと人間で溢れていてもおかしくないはず。しかし、ここにいたのはこの女のみ。
怪我ひとつ無し。争った形跡も無い。絞殺の跡無し。死因不明。
この女には疑惑の目が向けられる。
可能性として考えられるのは、敵国。つまりは世界戦争にて日本帝国と争いを行っているどこかの国の女。
日本人と考えるのはあまり適当なものでは無い。ここまでみなとみらいから歩いて来て、一切の生存者と遭遇した事がない。こんなところで、海底トンネルで、生存者と遭遇する…とてもじゃないが有り得ない。敵国の女と断定するのは一番に優先される疑惑の材料。
取り敢えずはこの女には聞きたいことがある。海底トンネルに放置せず、連行する事にした。抱え込んで連れていく。
白装束の女が倒れていたのは、トンネルの末端。地上からの光の射し込みが発生していた所だ。トンネルを抜けた先も、周辺は瓦礫と生い茂る緑の世界。ポストアポカリプス。終末の世界。海底トンネルを抜けた先も、全く変わることの無い統一化された光景。最早、視覚にも慣れが生じる。元々がどうなっていたのか分からないが、海底トンネルに入る前の水江町と扇町などといった、工業地帯がイメージされる瓦礫の材質区分。
高架道路もある。高速道路だ。崩れていたり、形が遺されていたり、遺構化した世界が広がる。
彼女を抱え、この匂いの特定に勤しんでいると公園と思わしき場所に出た。そこは先程までに広がっていた荒廃とは打って変わった崩壊無き平行の空間。決して広いとは言えない。すぐ傍には海面が見える。その先には最早こちらの方が安心感の湧く、遺構の世界。
そして、見える…遺構未遂の羽田空港。
白装束の女が目覚める。
彼女はアルヴィトルと自身を名乗り、ここよりも広い土地を探していた。3人が同時に頭に浮かばせた疑問は、その広い土地に向かう道中で聞くことにした。
匂いの特定も出来ていないが、明確な目的であるものでは無いため、フラウドレス一行は彼女が目指す場所を向かうことに。彼女が言うには、羽田空港はこの惨劇の避難所として機能しているらしい。
にわかには信じがたい事ではあるが、考えられないことでは無い。矛盾点を多く生む事象は、これまでも多く体験してきたことだ。目の前に訪れた不安を葬り去るのは簡単なものだ。今更問題視する事案では無い。
彼女が目指す羽田空港へとやって来た。
しかし、どこへ行っても避難所はおろか、人もいない。
彼女への不信感はフルマックスに。
その時、3人の脳を揺らすような怪音波が発生する。その怪音波は留まることを知らず、3人を地獄に突き落とす。
フラウドレスからヘリオローザへ、人格移行。攻撃力に特化したヘリオローザが怪音波の異変を察知。セブンスの特殊能力を最大限に活用、引き出す力を会得したヘリオローザ。
生命種としてフラウドレス以上に長く生きた経験値からなのか、ヘリオローザにはセブンスの力を高速的にマスター化する熟練さがある。
◈
その怪音波が発生した時、アルヴィトルの姿が消えた。アルヴィトルの姿は今いる空港発着ロビー施設内では無く、目の前にある滑走路にその身を移動させていた。
一体いつの間に…。
彼女と怪音波の関連性は謎だが、一つだけ確かなことがある。それは彼女が怪音波の影響を受けていないという事だ。
この事実が、3人の逆鱗に触れるきっかけとなった。彼女がいる滑走路へとやって来た。定期的に訪れる怪音波に悩まされながら…。
黒の裂空と白の円盤。
次第に訪れるこの世界の理に対するアンチテーゼ。
様々な非現実的な事象が最終的には繋がり、災厄が結ばれる。
光輪から出現する9人。
白い巨人にしか見えない、“白鯨”と呼称される存在。
フラウドレス、サンファイア、アスタリスの前に来訪する、異形の生命体。
闇に取り込まれた世界を屠る、戒めの軍団が遂にその全貌を露わにする。
続劇。




