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[#65-不審極まりない女と跫音の裂空]

フラウドレス編、核となるストーリー劇的進行開始。

[#65-不審極まりない女と跫音の裂空]


あのさ、みんなは“強さ”ってなんだと思う?

力の強さ?

精神の強さ?

心の強さ?

皮膚の強さ?

皮膚は無い…?いや、そういう面でも強さっていうのはあると思うよ。

強さは自分が強いと思えばどこにだって存在するもの。

これは“強さ”だけに限ったことじゃない。

強さ以外のパラメータにおいても、自分がそう定めたものは全部が正当性のあるものだ。

例えば、“私はこれを見たら…聞いたら…感じたら…必ず泣きます”と言ったように、自らで決めつけた事を他人がとやかく言う権利は無いということを言いたい。

自分が言ってるんだもん。

自分が言ってるのに、なんで他人が否定したりするの?

別にあなたの人生に何の影響も無いものだよ?

そりゃあ、世界が崩壊することを決めつけて大衆に向けて発表…“みんな早く逃げろー”って言ったら、それは他人の人生を大きく変える出来事になるし、確実性のあるものとは言えないから、大変な迷惑になる。

でも、全く迷惑が掛かっていない。

そんなものに、他人が何故“強さ”を持って反論したりするの?

いいじゃない。

自分が強いと言っているんだから。

勝手に否定しないでよ。

勝手に批判しないでよ。

勝手に批難しないでよ。

勝手に罵倒しないでよ。

話が少しズレてしまった。

“強さ”についての話。

私にとって“強さ”というのは、力では無い。

精神と心。この2つだと思っている。

この2つって似ているようで似てない。

心は表に出るもの。

精神は表に出るけど、偽れないもの。

人間は道化師よ。

曲芸を司るものにして、最も蛮行を厭わない生物。

自分が上手いように転がれば、何でも出来る生物。

頭がいい生物。

力なんて強さに入んないんじゃないかな。

私からしてみれば、力なんてものは全生命体に備わっているものだから、特別視する意味が無い。

精神と心。

これが同時展開され、姿を見るだけで把握出来るのは人間のみ。

“強さ”。

それは自身のトレーラだ。



結局、3人は鶴見線を歩き続ける。他に目指す場所が無いからだ。あったような気がするが…忘れたのか…その部分だけ切除されたように全く思い出せないから、この道を歩み続ける。ヘリオローザの言っていた感動を何となくは、理解してきた2人。風景に変わり映えは無い。

緑、緑、緑、崩壊建造物、緑、緑、崩壊建造物…。

「ンでねぇ、浜川崎駅ぃー!」

「あー…」「いつの間に…」

「あ?」

2人が気づかない間に、ヘリオローザの人格がフラウドレスから現れた。その、浜川崎駅という場所に反応して現れたのか…とにかくまた、彼女に振り回される紀行が始まった。だがこれは自分たちが選択した結果だから、今更愚痴を言うものでは無い。仕方無しに2人はヘリオローザへの相手を再開させる。

「サンファイア!アスタリス!、私、ここ凄い好きなんだよね。今、ヘリオローザと話したんだけど、どうやらここ、今は緑で生い茂っていたり、建造物が廃れていたりしてるけど…元々は2つの路線が繋がってた小規模の隣接駅だったんだってー。元の姿、見たかったよね…」

「…!!」「姉さん!」

「…え、あーー、うん、私私」

「良かった…」

「なんだか久々だな」

2人には直ぐに判った。今相手をしているのは、マーチチャイルドから共にしているフラウドレスだ。ヘリオローザの介入があってこそ、完成するフラウドレスという個体生命。本当の彼女が戻って来た事がどれだけ嬉しいか。ヘリオローザの存在を知った今、2人にはその重みがズドンと心に伝わる。


それからというもの、フラウドレスを先頭に…といってもサンファイアとアスタリスが護衛でもしているかのようにフラウドレスを取り囲み…

【サンファイア】【フラウドレス】【アスタリス】

この3人がほぼ横並びとなり、フラウドレスを障害から守るフォーメーションが両側の2人によって組まれた。

「私…そこまでされるほどの器じゃないと思うんだけど…」

「いいや、姉さんは僕らにとって必要不可欠な存在だ」

「そうだ。それにフラウドレスが居なきゃ俺ら2人じゃ空気が持たん」

「え、ヘリオローザと会話してる時もそこまでの雰囲気じゃ無かったと思うんだけど…」

「いいか?フラウドレス。ヘリオローザをもう出すな。お前の人格とヘリオローザの人格が混合したお前の相手をしたい」

「あーー…うん…、、判った」

フラウドレスは少し思い悩んだが、ヘリオローザと2人の会話を見ているに、何となくはアスタリスの気持ちも理解出来る。ヘリオローザ…もうちょっと2人とは対等に向き合ってよ…そう思わざるを得ないフラウドレス。だが、心做しか、2人が取り合うように私を守るその姿勢に、惚れ惚れしてしまう自分がいたのも記憶しておきたい。


やはり鶴見線の線路のみは廃線と成り果てているにも関わらず、ずっと続いている。歩いても歩いても途切れることの無い線路。若干の緑は地面から、傍に隣接している崩壊した建造物から現れていて、線路の障害とはなっているものの、通れる程度のレベルに収まっている。こんなにも現存している状態なら、鶴見線走破も容易いと判断し、3人はどんどん鶴見線の終着駅へと足を踏み入れていく。

「扇町駅、ここが終着駅。鶴見線の主線ルートではね」

「あー」

「あー…」

「……リアクション困る感じだね…」

せっかくここまで来たのに、視界に映されたのは線路上から見てきた光景とは大きくかけ離れた殺伐とした風景。崩壊建造物も今まで以上の出来。それほど、周辺には建物が立ち並んでいたのだろう。

「ここは、工業地帯の中枢区画。幅広いレパートリーを取り扱う、ファクトリーだったから素材が蔓延してしまったのもこの風景に悪影響を与えているのかもね」

「この匂い…って…」

「鉄だな。あとは…血の香りもする…」

「え?」

「…アスタリス…血の匂いするの?」

「ああ…、、、おい…それって…、、」

「嘘でしょ…?」

「おいおい…そんな訳…」

───────

「サンファイア、アスタリス。その匂いの場所を特定したよ」

───────

有り得ない。ここまで歩いて来て、血の匂いなんて1ミリも感じて来なかった。それがここに来て急な反応。ということは…この辺りに…最近…血を流した者がいる。爆撃からまだ1日しか経過していないんだ。と、いうことは、数時間前に…ここ、扇町駅周辺に…誰かがいた。アスタリスが反応した血の匂い。サンファイアには判別がつかなかった。だが、フラウドレスは検知に成功。

「場所は扇町駅の辺りでは無いみたい」

「だがこの駅に来てから血の香りは感じたぞ?」

「私が特定したのは発生源だね。アスタリスが感じたのは発生源による副粒子的な産物だよ」

「アスタリス…大丈夫?」

「何がだよ」

「アスタリスはそんなに匂いに対して敏感なんだっけ?」

「俺も考えた事無かったけどよ、急に違和感を感じたんだよな」

「取り敢えず、気になるね。その発生源の場所に行ってみよう。扇町駅からほんの少し離れるみたい」

「んえ、どこ?」

「運河を超えた先にある水江町」



扇町駅を離れ、3人が向かったのは水江町。扇町駅とは池上運河を超えた直ぐ近くに隣接している京浜工業地帯の一端だ。先程の扇町は幅の普通な二車線道路が敷かれており、その両側に工場ラインが立ち並んでいた…のであろう。見物したのは崩壊体。瓦礫の残存状況を踏まえて考察したまでの空論だ。

水江町を進んでいると、明らかに異なるのは扇町よりも圧倒的に道路の横幅が広い事が窺えた。言わば、産業道路と言うべきに相応しいもの。両側には立ち並んでいたのであろう工場ラインの崩壊物が残っていた。いかにも精密な機器が使用されていた事も、見ただけで判断がついた。もうありとあらゆる建物の終わりざまを見てきた。嫌でも、建造物から“最盛期〜爆撃後”の破壊ロードマップを考えられる。3人には浮かび上がって来るのだ。視界に映された物体の生死を分けた境界線を。


「水江町、奥までやってきたよ」

「ここが?フラウドレスの特定した場所ってえのは」

「姉さん…奥って言っても…ここは…、、、行き止まりじゃないか…」

扇町から水江町、決して近いとは言えない距離を徒歩でやって来た。ルケニアを顕現させれば、こんなの運河を飛び越えれば直ぐに到達出来た。だが3人はルケニアの力をフルに扱う事を拒み、4km以上はあった道程を果たし、水江町の末端にまで足を踏み入れていた。

「2人とも、こっちだよ」

「でもて …姉さん…」

「いや、サンファイア。こっちで合ってる」

「ええ…」

サンファイアが疑問を抱くのも無理は無い。フラウドレスが指し示した方向は最早、森林地帯。瓦礫と大樹が混合し、この先の進行を一切禁じているかのような、バリケードを見せていた。大樹から極太に生えている根が、辺りの破壊された建造物に纏わりついている。まさにポストアポカリプス。ここはもう、世界戦争が始まったよりもっと以前に廃墟となっていたのであろう。何かがきっかけなんだとは思うが、大体予測できるのは“人と人による交流の決壊”。プロジェクトが終わり、不必要となった水江町のロジスティクス機能。そんな終焉からの時の流れが大樹の成長度で強く伝わる。

3人は日光をも寄せ付けぬ森林を駆け抜け、10分をかけてようやく匂いの発生源であるポイントを目視した。

「姉さんこれ…」

「これ…というか…、、、」

「うん、トンネルだね」

「トンネルはトンネルでも姉さん、下に行ってるよ…」

「海底トンネルか…」

アスタリスが3人の総意を口にした。

「どこに繋がってるのかも判らない謎の海底トンネル…」

「お前、そんな霊まがいがいるようなテンションで言ってんじゃねえよ」

「本当に、霊まがいがいないとは限らないでしょ?」

フラウドレスがアスタリスの意見を制するように否定的な言葉で彼の考えを覆った。

「行くよ」

「…、、、」

「行くよ、アスタリス」


「光…?」

光源が確認できた。海底トンネルには、電気が未だに通っている。こんな一つの事象に対して、こんなにもの不可思議な感情が募ることは無い。

「電気が…通っている…というの?この海底トンネルには」

「意味がわからない…姉さん…、、、」

「うん………でも、考えられるのは…電気を制御している人間がどこかにいる…ということだよね」

「まぁ…そういうことにはなるが…」

「信じられないけど…まだ僕ら以外にも…」

「うん、生存者がいる。もしかすると、この先に別世界が広がっているのかも」

「だけどよ、さっきの扇町から遠くの景色、見れただろ?別に俺らがいた鶴見線沿いの景色とほぼほぼ変わらんかったじゃねえか」

「見た目は…だったら?」

「そんなサイエンス・フィクションな世界があるって言うのか?」

「じゃあ僕らの存在はなんなのさ」

「それとこれとは別だろ。俺らは…、、、」

「ンまぁ…私達もシナリオ上は、SF的な立ち位置の存在だとは思うよ」

「だよね。アスタリス、僕らは普通じゃないんだよ」

「んあーはいはい!わかったよ。お前らが2人になって俺を責める時は、面倒な絡みの順当になるのは目に見えてる。もうやめてくれ」

サンファイアとフラウドレスは笑う。その笑い声は、海底トンネルに響音。その音の拡がり方で、海底トンネルの果てが、まだ先であることが判明。

「どこまで続いてんだよ…」

「姉さん、黒薔薇の力でどうにかならない?」

「うーん、、、そうだなあ…なんかね…あんまりこの海底トンネルに入ってから、シャキッとしないんだよね…ほら、ヘリオローザだって自我を出さずにわきまえてるでしょ?」

「確かに。さっきっから、出しゃばりが無いなとは思っていたんだよ」

「出しゃばりが少ないとはなんだゴラァ!!!」

「…んぐ!!」「…!」

「……あははは」

乾いたように笑うフラウドレス。

「ごめんね…油断しちった」

「イカレ女の生存確認出来てよかったよ」

呆れた声でフラウドレスを慰める。そこには一切の気持ちが乗っていない素読みな上に、いつもの尖りを消し去った別人格のアスタリスがいた。


歩く。

歩くが、今いる地点が海底トンネルのどの位置なのかが、判らない。終わりの見えないトンネル。灯りは点いてるのに不安に駆られる。匂いの発生源はここであるはずなのに、未だ原因の特定には至らない。

「姉さん…もう、いいんじゃない…?ここおかしいよ」

「だな…サンファイアの言う通りだ。灯りが先にもずーーーっと続いてる。道がまだ続いてるからこそ、もう諦めよう。この匂いの一因を見つけたとしても、そこから何が起きるか…」

「アスタリス、それ言うとしたら逆じゃない?ここまで来たなら、もう果てまで行くしかないでしょ。多分もう少しだよ。さっき見た向こうの島、扇町から見えた場所。橋があったじゃない?多分その付近まで続いてると思うの。だから、もうそろそろ終わりだよ着くよ」

鼓舞するようにフラウドレスは言葉をかけた。意思は固い。

「うーん、、、」

「はぁ…、、、」

2人は顔を合わせる。母体である2人の心情がルケニアに伝わり、そのままの出し惜しみ無しの100%果汁でお届けされた。

「あら、随分と嫌な顔をするのね、2人とも」

「あたしらが言ってるんだから、お前達は言われた通りに動きゃアいいんだよ!」

先頭を歩く、フラウドレスが後方の2人へ、ヘリオローザを提供。これはフラウドレスの許可があっての行動だと2人は認識した。2人は呆れてものを言えなくなる。

「…だってさ!」

勢いよく後方を振り返り、片手ピースを決める。そんな姿を見てしまったら、何も言い返せなくなる。3人は前進する。


「ずーーーーーーーーーーーーーっとおんなじ!!」

のまま、外界の光が射し込む曲がり角にまでやってきた。

「フラウドレス、何にも無かったじゃねえか」

「アスタリスはホント、答えに行き着くのが早いよね。まだ答えじゃないかもしれないじゃん。この海底トンネルを抜けた先に、何かがあるんだよ」

「…」

「それをまるで、この海底トンネルに全てが隠されているんだ〜って抜かしちゃってさ。そんなの面白くも何とも無いよ。本命はあの先!光の射し込む曲がり角を越えた先にあるに違いない!」

「姉さんの言ってる事は一理ある」

「サンファイア…」

結局はフラウドレス側に着く。

「ほら、もう少しだよ。自然光!」

「“しぜんこう”て…」

もう少しとは言ったが、実際はまだ2km以上先にある景色だ。海底トンネルの灯りは薄明かりで、いつ消灯がなってもおかしくない光量だった。そんな中で、果てに見える自然光は明確な光の強さに違いがあった。確かに、テンションが上がるような事案ではある。自分がトゲトゲしすぎだったかな…と微量たる反省の色を示す。2人には気づかれないように。自分世界の中で、2人への出過ぎた真似を謝罪した。外部にこれを表現出来ないのは、まだ彼に“自分は間違ってない”と正当性を保持させておきたいからだ。



曲がり角にまであと100mといったところで、フラウドレスは異変を感じた。

「2人とも…」

先頭を歩く、フラウドレスが2人の足を停止させる。

「どうした?」

「どうしたの?」

「しー」

2人は頷き、フラウドレスの顔で事態を図った。

──────

曲がり角の先に何かがある。

──────

外部から突き刺す、陽光が何かにスポットライトを当てているような光景をサンファイアはイメージ。そのドローイングは、フラウドレスとアスタリスにも描かれているだろう。

「2人とも、私の後ろにいて。すぐ後ろよ。そこから絶対に離れないで。アスタリスは後方を確認」

「わかった」

「姉さん、僕も姉さんと同じ方向を警戒しておけばいいの?」

「サンファイアは、トンネルの外郭を確認しといて。誰かがすり抜けて来るかも」

「……わかったよ」

「うん、ありがとう」

曲がり角にまでやってきた。そこにあった異変の正体。それは…正体不明の白いコートを着装した女。海底トンネルから地上に出ようとしているその境界線の位置で、彼女がうつ伏せになって倒れているのを発見した。フラウドレス達は恐る恐る、その女の元へ近づいていく。

「姉さん…」

「フラウドレス、大丈夫か?」

「大丈夫。私を信じて」

足音を出さず、そろりと近づく。何故、ここまでサイレント状態になって女に近づくのかは、“敵の可能性”がある

…という抽象的な事しか言えない。国内の人間には見えない。異国人の可能性を視野に入れて考えた。

「服が新しい。怪我も確認は出来ない。ここに来てからそこまで時間が経ってない」

「爆撃は一昨日だぞ」

「…ここに逃げてきた?」

サンファイアの提示に、フラウドレスが頷く。

「爆撃から身を守るにはその方法が一番適切だ」

「だが…何故、この女だけなんだよ。もっと多くの避難民がここに駆けつけてもおかしくないだろ」

「アスタリスの言う通りだね。確かにこの女の子だけっていうのは物凄く怪しい。仮にこの海底トンネルを防空壕のように利用したとして、彼女がここから退避しない選択を取った…となれば…?」

「自殺か…」

「そうなるね。何かを伏流したのかもしれない。オーバードーズか、毒性のある劇薬。確かめるにはこの子の身体を裂かなきゃだね」

「おいおいおいおい、嘘だろ…?」

「冗談よ。でもこの子、息をしてないから、死んでることは事実よ」

「姉さん、取り敢えずは、ほら、もうすぐそこだよ地上」

「うん、この子は…」

「俺が抱えていこう」

「お願い、アスタリス」

ニーズヘッグが両腕で彼女を抱える。陽光が射し込む場所へ。灯りが搭載していたトンネルなのに、外界へ抜けようとすると陽光の強さで視界が真っ白になる。それほどトンネルの灯りには光量が無かったのだ。

彼女の容態を調べるため、彼女の扱いには慎重になりながらも、どこか安息できる場所を探す。

「どうやら、ここも鶴見線沿線と同じように工業地帯みたいだな」

「うん、だけど密度的には今いる所の方が、高い。きっとここは工業地帯の中心地だよ」

「東扇島」

「…?」

「ヘリオローザがそう言ってる。ここは東扇島っていう所なんだって。ここは一般人は入ることが出来ない禁足地」

「禁足地?」

「そう、工業地帯に勤務している関係者しか立ち入りは認められてないんだって。だから、今私達がいる所は、普通の人間は入れなかった場所。きっと、あそこも、あそこも、これも、これも、至る所に物作りの拠点があったんだろうね」

「でも、鶴見線のように守られては無いね」

「そうだな、あの廃線がやたらと気持ち悪くなる案件だ」

「アスタリス、彼女、起きる感じある?」

「いや、、、起きるっていうか…え?なんだその言い方。こいつ息してないんだぞ?」

「私は…彼女、生きてると思う」

「はァ?」

「姉さん、この人、息してないんだよ?」

「うん…そうだけど…、、、あんな所に一人で倒れててさ、私達よりも、人間年齢的には上でしょ?多分、、、15歳とかだよね。何か別の陰謀があると思わない?」

「別のぉ?爆撃以外にか?」

「うん」

「もうこれ以上は相手にしてらんねぇよ…ヘリオローザでも十分、腹いっぱいなのに…また敵作らされんのかよ…しかもその敵を介抱しようとしているってことか?」

「そういう事になるね」

「その子が“起きるまで”、この東扇島を道なりに歩いてみよ。この子が何故あそこにいたのか…その手がかりがあるかもしれない」

「いやいやいやいやいやいや…」

「アスタリス、行こう。同じ景色を見るのはもうウンザリだろ?」

アスタリスはサンファイアの指差した方向…海底トンネルを見つめる。

「…、、、、、もおおおおおおおおおおおおお。わぁーた、はぁぁ…」



ルケニア・ニーズヘッグが正体不明の白装束の女を抱え込み、一行は東扇島を歩く。東扇島も鶴見線沿線同様の散らかり具合。最早、語らなくても十分に伝わっているだろう。再び同様の景色を視界に入れながらの旅路だ。

謎の匂いを感知し、発生源である場所を特定し、そのために海底トンネルを進み、地上へ出る際に謎の女性を見つけ、女性を抱えながらまたどこかへ歩みを再開させた。匂いの発生源探索はいつの間にか、フラウドレス達の中で幻の目的となっていた。海底トンネルを抜けた時点で、この女性の存在に注力してしまったからだ。とは言っても、匂い自体を忘れてしまった…ということは、東扇島に匂いの特定材料が無かったから…とも判断出来る。

────────

『2人とも…完全に血の匂いのこと、忘れてる…』

────────


「あれ、なんか景色変わった所に出たね」

先頭を歩くフラウドレス。

「ここは…公園か?」

「姉さん、ヘリオローザに聞いてみて」

「わかった。………“東扇島東公園”…だって」

「どうりで瓦礫が無いわけだな」

「それでさ…あそこにあるのって…、、、」

サンファイアが公園よりもっと遠方に見える光景に視線を向ける。

「空港だね。羽田空港」

「空港か…空港の建物…見えるね」

「俺らが今いる公園と、空港の間に、まだフィールドが広がってるな」

「本来の形を維持していたら、ここから空港の景色は見えてないんだろうね。工場が立ち並んでたんだろう」

「いやサンファイア。この公園から羽田空港の景色は堪能できたみたいだよ」

「そうなんだ…、、じゃあ…そこまであの場所の建物は背高くないんだね」

「それで…アスタリス。その子の様子はどう?」

「どうって…息が無いんだから、吹き返す要領もねえよ」

「………そっか、、、」

「こいつもう、落としていいか?」

「だめ」

瞬間的な速さで応答するフラウドレス。

「じゃあこっから何するんだよ!」

「匂いを探しに来たんでしょ!?」

「あ、、、」

「やっぱり…アスタリスはホントに…目の前に与えられた事象にしか対応出来ないんですかァー?!!?」

「お前…ヘリオローザ出やがったな…」

「何それーーーええ、出やがったな…じゃねえんだよ。サンファイア!あんたは匂いを探しに来たこと、忘れてないよね!?!」

「うん」

「見てよ!この顔面!めちゃくちゃ道化に振り切ってるよ!」

「……」「……」

「あんたら…何忘れてんじゃキィいいいいィ!!!こんな辺境の島、とぼとぼ歩きに来たんじゃねえだろうが!!私、めちゃくちゃ正論言ってるんだけど!ねぇ!?そうだよね!フラウドレス!」

「う、うん…そうだね…なんか2人とも完全に目的見失ったかのように歩いてたけど…ンフフフ。なんか笑えてきちゃうなー。ねえ?ヘリオローザあ」

「笑えるかぁ!どこが笑えるんだよ」

しばらく、“2人”の問答は続いた。一人二役の舞台を観劇しているかのように、黙って終わりを待つ観覧客のサンファイアとアスタリス。

「……」「……」

「全部あんたらにも言えることだからな!」「全部2人にも言えることだからね!」

───────┤

「んん……………」

───────┤

「ん?おい…ちょっと待って…、、」

「なによ!」「なに!?」

「フラウドレス!」

「…、、、どうしたの?」

ヘリオローザを内側に押し戻す感情整理の作業を終え、アスタリスに視線を向ける。

「…今…、、、んぐぅって言ったんだよ…」

「うん…判った…アスタリス、彼女をここに置いて」

「地面にか?」

「草原って言いなよ」

「えーーーと…ここ。ここに彼女を」

「判った…」

「よし…じゃあ…ちょっと…やってみる…、、」

フラウドレスは力を溜める。ルケニアを再顕現。次第にフラウドレスから開放されるエネルギーの付与。アロマセラピーは彼女の身体を多重に渡り、入食していく。吸い込まれていくように見えるが、実際はフラウドレスのパワードローズから放たれる対象物蘇生救急処置。赤、青、緑、黄、黄土、灰、白。7つの全く異なった一切の近しい色を混ぜない、独立した原色的な色彩を使用したこの能力。黒薔薇の異名を持つフラウドレスのルケニアから発動される能力とはとても思えないのが、面白いポイント。

果たしてこれは、ルケニアによる能力なのであろうか…。

「よし…これでどうかな…。息があるなら…私のこれが効力を成すはず…」

フラウドレスの能力を多分に含んだ白装束の彼女。瞬きの時間も必要とせず、彼女は次なる生存のコールサインを見せる。

「誰…?」

一言、発した。

「大丈夫?あなた、自分を覚えてる?」

「う、、うん…わかるわ…てか…、、、なによ…それ…、、、黒い薔薇に…竜…?…それに…、、なによこの小動物は…」

「助けてやったのに礼もなしかよ」

「ぇぇぇっっ!??ドラゴンが…しゃ、喋った…てか、、、ドラゴンちっさ」

「このサイズは今用、もっと大きくなれるっつうの!」

「あんたらなんなの本当に…、、何者…?」

「それはこっちのセリフでもある。あなたは海底トンネルで倒れてたんですよ?それを覚えていますか?」

サンファイアが丁寧に女性に語りかける。

「なに…あなた…ネズミ?」

「…、、、」

「愚問なのね…いいわ。そうなのね…私…、、、海底トンネルに倒れていたのね…それで、あなた達に助けてもらったってわけ?」

「そうよ。外傷も無く、ポツンと倒れてただけだから、とても心配する案件だったよ。だって息してなかったんだから」

「それもそうよね。息、してるわけないもん」

「え?」

「あーううん。なんでもない。んでぇー、私をどこまで連れていく気だったの。ここ、海底トンネルからは随分と離れた所よね?私をどっかに連れていく気だったんじゃないの?」

「いや…それがだな…、、、」

「目的地は特に無いんだ」

「え、、目的が無いのにここを彷徨っていたの??」

「無いことは無いんだけどね」

「どゆこと?」

「今いるこの場所…」

「東扇島でしょ?」

「知ってるのね。ここから向こうの陸地…」

「水江町でしょ?」

「……あなた、海底トンネルで何をしていたの?」

「私は…、、、判らない…」

「判らない…?何故?」

「分からないの…突然、足を失って…行くあてもなく…気がついたら…トンネルの中に入ってた…」

「あなた…名前は?」

「《アルヴィトル》」

「アルヴィトルね、判った」

「というか…あなたらは、なんなの?どういう生き物?」

「どういうって…」

「セブンスだけど。知らないの?」

この世界にセブンスを知らない者がいるのか…。サンファイアとアスタリスには疑問の顔が浮かび上がる。

「うん…私、、こんなの初めて見た。その動物みたいなものを通して話してるの?中身は?」

「中身は僕ら、0歳なんだよ」

「え、、、、ちょと待って……は?え、、、どういう仕組み?」

「フラウドレスは3歳の年上だけど…え、本当に知らないの?僕らの事からかってる?」

「いや、からかってないって。本当に知らないのよ」

「セブンスを知らない地球人なんていんのか?」

「あ、あーー、、まぁあの…世間の状況とか知らずに今まで生きてきたからかなー…」

「世間を知らずにって…シェリアラージュ戦争はこの星に生きる者が全員知ってて当然の問題よ。この現状だって、日本が大敗した結果なのよ?」

「あーー」

アルヴィトルに信念が無い。偽りの仮面だ。こんなもので私を偽れるわけが無い。セブンス、世界戦争の戦況を知らない?そんな人間がこの世界にいるわけが無い。もし、そんなものが本当なら…あなたはどこからやって来たって言うの?何故、そんな偶像を背負ってまで自身の背景を語らない?私達には有益で無い情報だから?単純に言うまでの関係性では無いから?こんな時にプライバシーに配慮している暇なんて無い。“なるべく”では無い。このカオスを生き延びるためには、共有出来る情報は全員に知らせておきたい…とは思えないものか…。まずい…2人が警戒心を強めすぎて、私からの攻撃の合図を待っている。確かにこの女はかなりの要注意人物。“怪しい”と一言で片付けられない程の底知れぬ、闇が見え隠れする。


「ここは、私に任せて。2人は…」

「広いところに行こう」

アルヴィトルは場所を提示。名称を述べず、そのフィールドの面積にこだわった。

「んて言っても…ここは公園。海底トンネルを抜けた場所よりかはまだ広さはあるところだろ」

「いいや、もっと広いところに行きたいの」

アスタリスの提案を却下。

「はァ?この公園よりも広い所なんてもう、この近くにはねえよ」

「ある」

サンファイアが言う。

「そうね、あるわ」

「あー、、空港か?」

「…、、空港があるの?」

フラウドレスの提案に少しの沈黙を空け、反応するアルヴィトル。

「そうね…確かに空港だったら面積は広い。高層建築物も周りには無いし、邪魔になるような遮蔽物は無いと思うけど…」

「私、ちょっとそこに行くことにするよ」

「そうか…じゃあ俺らとはここでお別れだな」

「いいや、あなた達も一緒に来るのよ」

「え?」

「アルヴィトル、どうして私たちも行かなきゃならないの?」

「…行くとこ無いんでしょ?あなた達」

「まぁ、アルヴィトル言う通りだね」

そう返すしかないように、追い込まれた表情がルケニアに伝えられた。

「それに3人のこと、もっと知りたいしね。これは一体どうなってるの?0歳児?意味がわかんない…」

「特にお前に話すことなんてねぇよ」

「でもさあ、お願い!ていうかまだ、名前も知らないしさ!」

「はァ…、、、どうすんだよ…フラウドレス」

「いいんじゃない?別に。アルヴィトルについて行ってみよう」

「姉さんなら…そう言うと思ったよ」「…そう言うと思ってたよ」

「私から紹介するね。私はフラウドレス。こっちはサンファイア。んで、こっちがアスタリス」

「お姉ちゃん呼びの弟っ子サンファイアくん、オラオラ荒々のアスタリスくんね」

「くんって呼ぶんじゃねえよ。俺ァ、そんなガキじゃねえ」

「いやいや、アスタリス、流石に君はガキすぎるよ」

「アァん?なんだこいつ…」

「取り敢えずさ、、、その、怖ぁーい竜しまってくんない?」

アルヴィトルは、少女だ。年齢的にはやっぱり15歳という予想は変わらない。よくいる普通の中学生と高校生の狭間の人間。ん?なんで私がこんな短い人生なのに、世間の普通…少年少女の階級を知っているかって?それは…簡単に言えば、私の両親デュピローとロリステイラーが未来の私をビジョンしてくれていたの。その際に、私は学校という学習制度を知った。親からの進言は全て海馬に記録されている。長期記憶として全てがバックアップを取り、いついかなる状態に於いても、アウトプットが可能。マインドトポロジーによる複数端末の配線が私にはある。この詳細を語る時は、まだ先であってほしいものだ。



「空港に行くには…この道かな」

フラウドレスが一つの道を見つけた。その道路にアスタリスは絶句する。

「は、、、、また、、トンネル!?」

「…、、、、」

冷静沈着に対応出来るサンファイアも、流石に冷静さを決壊させた表情に変貌。

「ここからしか、行けないんだよね。じゃあしょうがないね、弟くん?アスタリスくん?」

「からかうのはやめて。アルヴィトル」

「ンフーン」

「ちょっとあっち行ってて」

フラウドレスがアルヴィトルを向こうに追いやる。フラウドレスはサンファイア、アスタリスとの3人の空間を作った。

「姉さん」

「俺とサンファイアで、あいつ殺していいか?」

「やめて」

微笑みながらそう答える。

「俺が、あいつの肉体を食いちぎって」

「ラタトクスでその肉を食う」

「俺とサンファイアの最高のコンビパフォーマンスを見せてやるよ」

「やーめーて。やめて」

「なんだよ…フラウドレス。あいつの口から出る言葉がいちいちムカつく事…俺らよりも一番イライラしてんのはお前だろ?」

「…はぁ、、、さすがだなぁ…アスタリスは。そうだよ。私は2人をバカにするヤツは許さない。少しでも変な気を起こしたりしたら、迷わず殺す。だけど今は、生かしておくよ」

「姉さん…なんでよ」

「怪しいからだよ。何遍も言うけど…あんな所に一人で倒れ込んでて、怪我もひとつせず、外界の様相を全く知らずにいる。嘘をついてる可能性も考えたけど…、、、何故か彼女の心に侵入する事が出来ない。読み取れない…」

「じゃあ今はあいつの行動パターンを見て、隙を見せたら殺すって事か?」

「殺しはしない。今までより酷い言動を取れば殺すけど、あの程度のモノなら我慢して。いい?アスタリス」

「…、、、、んあー!つまんねぇの。わかったよ」

「ありがと。サンファイアもいい?」

「もちろんだよ、姉さんがそう言うなら」

「うん、ありがと。じゃああの道、空港に繋がっているから…また、、トンネルに行こうか」

「また潜んのね…」

「俺、、、最早、あの女よりもトンネルの連打にイラついてるのかもしれん…」

「サンファイアとアスタリスは、私達と少し距離を取ろっか」

「え?」

「おい、どういうことだよ」

「どうせ、あの人と一緒にいても、どんどん怒りのボルテージが上昇するだけでしょ?私は彼女と会話してステータスを出来る限り引き出してみせる。そこから逆算して明らかに私達の敵…つまり日本帝国との戦争中の相手だと判ったら、直ぐに拘束する」

「拘束したら、どうすんだよ」

「政府に連れて行くの?」

「こんな状況で政府が機能していると思う?神奈川がこんな状況なら、東京はもっとのはずでしょ?」

「んて、言うことは…、、!!」

「アスタリスが大好きな時間の突入かな」

「フラウドレス…判ってんじゃーん」

「じゃあ2人は先頭を歩いて。私達とは距離をとって行動しよう」

「了解」

「りょーかい」



〈59.14*86ep.10Thankyou/fromNextapproach〉


首都高速湾岸線 川崎航路トンネル──。


アルヴィトルの目的地、羽田空港。そこに引率する形でフラウドレス達も向かうことにした。

行くあても無いから…というのが表向きの理由だが、2人との意思疎通で回答が統一された。

─────────┤

正体不明の女、アルヴィトルへの詮索。

何故、広い場所を条件に上げたのか。

海底トンネルにいた本当の理由。

─────────┤

彼女には沢山の疑念が湧いている。それは私にもそうだし、サンファイア、アスタリスにも当然あるもの。それに私とサンファイアとアスタリス、考えてる事は一切違う。2人には変態的な行動になってしまうけど、2人が脳内で形成している全ての思考は、私に同期されている。ヘリオローザは本当に、変態な事をしたな…とつくづく思う。だけどこのシステム、変態は変態ながらもとても興味深い内容で神経接続をヘリオローザに直結させると、視点映像にピクチャインピクチャされる形で右下、左下に2人の思考が描写される。2人の考えと、私の考え。それぞれを照らし合わせてみると面白い結果が次々と現れる。

サンファイアは、表面上に露出させている性格が脳内でもそのままに能力として発動されている。対するアスタリスは、かなり思い悩んでいるようだ。言いたくても言い切れない…。引っかかる事が沢山あるにも関わらず、中々物申すタイミングを逸している…。いや、、、表面上でも十分色々と気にせず吐き散らかしてると思うけど…面白いねアスタリスは。こんな2人の内面を熟知してしまうと、アルヴィトルと一緒にさせてはならない…と当然ながら思う。なので、ここからは私とアルヴィトル、2人による対話を紡ぐことにしよう。ちょくちょく2人が前方から私を気にかけていてくれているのか、一瞬、一瞬、2人が交互に後ろを向いてくれる。そんな姿が可愛かった。あ、勿論、ルケニアを顕現させた状態でね。


「それで、ここまでして私と話がしたい訳?黒い薔薇の女の子さん?」

「あなたと2人を一緒にさせるのは危険と判断したためよ。あなただって私に聞きたいことがあるんだから、対話の障害になるようなものは、避けたいでしょ?」

「あなた、仲間の事を“障害”と喩えるのね」

「なに?何か引っかかることなの?」

「…、、まあいいわ。こんなことを話していたら、目的地に着きそうだから。どっちからクエスチョンを投げる?私からでいい?」

私に選択する余地を与えず、アルヴィトルは自身のペースに持っていく。

「どうぞ、あなたの問題に応えたら、私の番。それを順番に繰り返していきましょう」

「やけに丁寧だよね。あなたは3歳なの?本当に」

「それは質問一投目と捉えていいのかしら」

「めんどうな女の子だね。私、目上の人間なんですけど」

「この世界にはもう、生物のランクなんて無いんですよ」

「あーー、そう…まぁいいわ。じゃあ一投目ってことでいいわよ」

これで少しは私の空間、私の軸となるトークゾーンを作ることが出来た。目上というワードに若干ながら引っ掛かりを覚えた私が咄嗟に引き合いに出した“ランク”。この世界には、本当にランクなんてものは存在しない気がしている。生者が死者よりも強い。恵まれている。神に選ばれた。そんな2進数で合理的な考えを携えていた私が、アルヴィトルからの一投目になんの躊躇いも出さずに堂々と答える。

「3歳ですけど」

「3年前に生まれた3歳?」

「何を言ってるの?3歳は3年間生きたって意味に決まってる」

「…、、、」

そんな顔をする意味が判らない。何故、戸惑う必要性があるのか。やはり、この女は何か違う…。セブンスを知らないなんて、そんなことが有り得るわけが無い。どんだけ、今までインドアな生活を送ってきたんだ…。

「私からいい?」

「そうね、いいわよ。薔薇ちゃん」

「あなたはどこから来たんですか?」

「それは…さっきにも言ったと思うけど、戦争から逃れてきたのよ。爆撃があったじゃない?それから逃げてここまでやってきたの。何度聞かれても答えは同じよ」

「どんな爆撃でしたか?」

「どんな爆撃?」

「私達は、施設にいた収監者なんです。セブンスなので当然の始末です…よね?」

「そうね、セブンスだったらそうなる運命ね」

この女、、言葉を巧みに扱おうとしてセブンスを元々知っているように見せつけて来ている。いつまでこれを続ける気なのか…じっくりと幾つもの質問を重ねる中で、紐解いていくことにする。

「マーチチャイルドにいたんで、爆撃の様子を知らないんです。アルヴィトルは爆撃が来る前に避難に成功したんだよね?じゃあどのような編隊を組んで爆撃をしたかぐらい、説明出来るはず…だよね?」

「…そうね。爆撃は…北と南からの両端から攻撃が開始されていたわ。それで徐々に中心地であるこの川崎にも爆撃機が近づいていた。北と南、それぞれの空襲内容は随時、電波通信を通して情報を入手していた。もうすぐ来る…もうすぐ来る…と恐怖を募らせながら…とうとうここにもミサイルが放たれた。酷かったよ。その惨状はあなたも見たでしょ?元々、この地域は古くから利用されていなくて、廃墟同然の世界が広がっていたけど、ミサイルによって廃墟すらも無くなって、今はあの有様だよ。この区域の居住者だよ私は。戦略兵器から身を隠すには、地下がちょうどいい。…………どう?これが私の回答だよ」

「なんでそれを目覚めた時に言ってくれなかったんですか?」

「君達の存在が怪しかったからだよ」

「怪しい…ですか…」

「そうよ、私なんかよりも圧倒的に怪しいわよ。…セブンスと急に出会って、私に何かするんじゃないかァって色々と考えちゃうじゃない」

「セブンスは国民に攻撃なんてしませんよ」

「私が敵国の兵士だったら?」

「殺しますね」

「でしょー?」

「分かりました、では次の質問をどうぞ」

「あのね…ええっと…」

「なんですか?もう質問は無いんですか…?」

「いや、まあそうだね…うん、私からの質問はもう無いかな」

「そうなんですか」

アルヴィトルは無闇に質問が出来ない籠城となっているのであろう。この女は間違いなく、日本帝国の人間では無い。寧ろ、この世界の人間では無い…可能性もある。信じられないが、そう捉えるのも無理は無い。さっきまで言っていたアルヴィトルの発言は全てが嘘。大赤にまみれた大層な嘘。

変に誤魔化したり、野暮な質問だったりをしてしまうと自分に置かれた立場があやふやになってしまう。彼女も気づいているはずだ。私が、あなたの存在を強く不審に思っていることを。だから彼女は相当に言葉を選んでいる。隙間を埋めて、なるべく事細かに列挙しているのだ。恐らく、海底トンネルでの会話は聞かれていた。彼女はわざと死んだフリをしていたとも取れる。実際、アルヴィトルを見つけてから目を覚ましたまでの時間はおよそ、28分間。果たしてそんな時間もの間、呼吸を止めることなど可能なのか。いいや、可能なわけが無い。そんな不可能を可能に出来る存在など、この世には一つしかない。

──┴┴┴┴┴┴┴

彼女も、セブンスだ。

─────────

私は更なる警戒心を強める。そして、ヘリオローザに神経接続を果たし、前方の2人に会話から導き出した現在のアルヴィトルに関するデータを数値情報として並べた。

2人は決して、後方を振り向くこと無く、黙って静かにその通達を受け止めた。


「じゃあ私から質問をさせていただきます。私が質問している最中に、次の質問を考えておいてください」

「はい、どうぞ」

「何故、広い場所を目指しているんですか?」

「戦争の避難民が集会所として扱っている可能性があるとしたら、空港みたいな広い場所で行うと思わない?それに空港には高層ビルは無いし、埋立地なんだから、草木も生えてないでしょ。だからよ」

「空港の名前…言えますか?」

「…羽田空港でしょ?」

「そうですか…」

1回だけ、私とサンファイアとアスタリスで口にしていた空港の名称。1回口にした以降は一切フルネームでは言わずに、“空港”とだけ言葉にしていた。前述していた通り、彼女に意識が戻っていて私達の会話を聞いているとしたら…羽田空港を知っていても不思議では無い。仮に本当のただの避難民だとしたら…いや、もう既にこの仮説は捨ててもいいだろう。彼女へ100%の疑いの目を向ける。

「今、同時に2つ質問したでしょ?」

「え、空港のやつ?カウントになってんの?」

「なってるに決まってんじゃん」

「3歳児なんだから、もっと手加減してよ」

「あんたらのことを子供だとは思ってないわよ」

「じゃあ私達の事はなんだと思ってるの?」

「…セブンスよ」

「さっきからなんか、ワンテンポ返答が遅いのは何か理由があるの?」

「ワンテンポ?別に普通の速さで答えてるけど?“普通の速さ”っていうのもおかしな話だけど」

「何か言葉を選んで答えているようにも思えるんだけど」

「別にそういう訳じゃないよ。ただね、あなた達が…」

「あなた達が…なに?見た事無いの?私達のような存在を」

「あったりまえじゃない」

「当たり前なのかなー…私達みたいな存在が、ニュースにならない日なんて、100年200年300年以上無いと思うんだけど」

「え…、、、」

「そうよ。だって私達は日本帝国の直属軍事転用兵器として使用されていた特殊部隊の一員だもの。当然知ってるよね?」

もう、勿体ぶるのはやめにして、ここで仕掛けてみることにした。あの毎回、話す前に訪れるワンテンポの空白。ここが妙に私の中では気持ちの悪い空白だった。会話の流れを断ち切るような、目立つ空白では無いものの、彼女のテンション的に空白が生まれるシーンというのは、かなり目立つのだ。

「勿論、そんなの、知ってるよ…」

「じゃあまだ質問してもいい?」

「ちょっと待ってよ。私の質問のターンを無視して行くなんて…」

───────

「もう無いでしょ?」

───────

「………」

「もう無い…でしょ?もう無い…というか、もう質問“出来ない”が適当かな」

「……なに?その言い方」

「いい?質問しても」

「どうぞ」

「あなたは、どこから来たの?」

「日本よ」

「『どこから来たの?』…に対する回答が『日本』…?なんだか質疑応答が出来てない気がするのだけれど」

「……なに?」

「なに…じゃないよ。どこから来たの…?って私が言ったのよ。少なくとも私はあなたが日本人では無いと断定出来ている。それでもあなたは“日本”と言い続けるの?」

「根拠が無いのに、よくそんなことを言えるね。ガキのクセに調子乗らないで」

「セブンスをガキだと判断する日本人は、もういないんですよ」

「…え」

「セブンスのことを子供扱いするのは、外国の人間だけです」

「……」

彼女の顔色が一気に変わった。何かを決心したかのように、強ばった表情が垣間見えた。

「セブンスは知育的な面での成長速度が速いんですよ。身体成長速度も著しい速さです。小学生の年齢、7歳を超えた辺りから、身体面での変貌は大きくなっていきます。それを知らない人は日本おろか、全世界の誰もが知っている常識。今、あなたの表情は私が言ったセリフを全て聞き入れている。つまり初耳…ということですね」

「…、、」

前方にいる2人からマインドスペースにて連絡が入る。

「姉さん、いつでもこっちは大丈夫だよ」

「フラウドレスの合図で直ぐに戦う」

「うん」

2人にも私とアルヴィトルの会話の内容は把握させている。

「その無視…?はなんなんですか?考える必要性があることを言っているとはとても思えません。考えるも何も常識ですから」

「…、、、」

彼女は無言を貫く。次の一手を出す気が無いようだ。果たしてこのまま彼女はトンネルを抜けるまで、空港に辿り着くまで、これを維持し続ける気なのか。恐らくはそこまで辿り着くことは無いだろう。私と2人が、全ての材料が整い次第、徹底的に交戦を仕掛け、殺す。

「もう一度、聞くわ。どこから来たの?」

「………答えたくない」

「何故?日本以外の国の名前を言っても良かったのに、どうしてそれすらも行わずに、無回答どころか拒絶を選ぶの?」

「私は………、、、言えない」

「誰かから、止められている…そう捉えてもいいみたいだね」

「…あなたって…、、、」

「他の質問をするわ。答えられる範囲のものを答えてください」

「…え、、、」

答えられる問題…。そんなものをするつもりは無い。更なる追い詰めになる問題を提示し、その時の状況把握を受けての顔面と精神を観察し、沢山のデータを産出。この凹凸としたコミュニケーション履歴をサンファイアにアップロード。データ分析のエキスパートであるサンファイアから最終ジャッジを下してもらう。サンファイアにはもう既に《ジャッジメント》、制裁までの方式を進言済み。

───────

「用意しといて」

「姉さん、もうとっくに準備してる」

───────

「あなたはずっと今まで、起きていた。そして、私達の会話を聞いていた」

「いや起きてない」

「私達のことを脅威だと認識している」

「脅威?何にも思ってない」

「トンネルを抜けた先で、誰かが待っている」

「いるわけないでしょ」

「空港に、アルヴィトルのことを待っている仲間がいる」

「あのさ…フラウドレスは、私に何を言わせたいの?」

「今、聞いているのはフラウドレスじゃない」

「……は?」

「フラウドレスはもう要らない。こっからはあたしがあなたの内側に押し込んでる闇をあぶりだしてやる」

「あなたって結構面倒くさいタイプの子供なのね」

「子供子供ってその扱いするのやめてくんねぇかな。お前って…」

───────◇

「ちょっと…!」

「なんだよ…」

「ヘリオローザは黙ってて!今あともう少しで、彼女の隠し事を引き出せそうだったのに…」

「あたしにはそんなの関係ない。あんたらがどんな作戦を企てているのかは知っている。ただ、もうそんなのにウンザリ。まじキモイ。もういいじゃん。殺せば。どうせ訳のわかんねえ女だろ?セブンスの可能性も入れてたけど、こいつァ、セブンスではねぇよ」

「ヘリオローザ、セブンスじゃなかったから彼女はなんなの?」

「幻夢郷」

「…え、、、いや…」

私は笑った。ヘリオローザとの内的宇宙での対話でここまでおかしな事を言われるとヘリオローザの神経回路を疑う。

「幻夢郷だったらアリエルじゃない?」

「ヘリオローザ…あなた…、、、」

「何よ。じゃあ他に考えられる事なんてある?」

「どうやったら幻夢郷の住人が現実世界に出現すんのよ。そんなの…夢じゃないじゃん。ただの…、、、」

「化け物だけどさ、セブンス以外にアイツの正体なんて…私には説明がつかない。セブンスと同等の能力値を持つ生命体がいるとか?」

「それは無い。セブンスと人間。この世界は2つの人間種で決まっている。第三者の介入なんて有り得ない。仮にそんなものが介入してしまったとしたら…世界戦争は新たなフェーズに突入する」

「さ、そうこう話しているうちに、この女、何かを画策していると思わねえのかよ。フラウドレスちゃん?」

「ええ、そんなの言われなくても判ってるわ」

───────◇

「…おまえ…、、あなたに子供って言われる筋合いは無いから」

「戻った…?」

「姉さん、トンネルの先、光だ」

「あなたの望んでいる世界がもうすぐそこに広がってるわよ」

「…、、、」

「お望みの場所だといいわね」



旧東京都大田区 東京国際羽田空港──。


アルヴィトルの願いは広いところに行きたい…だった。羽田空港の滑走路はその願いに一番適した場所だと言えよう。航路トンネルを抜け広がったのは先程までとは異なった風景。やはり、高層建築物が無い。発着ターミナル、管制塔、立体駐車場など、横に広い建物と縦に細長い建物。崩壊したとしても、遮蔽物になりづらいものだった。ましてや、崩壊する先の地面が滑走路という事もあり、全くのダメージが無い。爆撃のダメージも羽田空港の広さに最大限の力を発揮出来なかったのか、海面沿いの第2ターミナルの滑走路には悪路が一切無かった。これは外敵の攻撃が甘かった…とも予測できる。

「確かに、ここは圧倒的に遮蔽物が無い。あなたの理想にピッタリの場所ね」

「姉さん、もういい?」

「そうね。2人とも先導ありがと」

サンファイアとアスタリスが先導を辞退。直ぐにフラウドレスの真横についた。その際、2人のルケニア…特にアスタリスのルケニアであるニーズヘッグが、アルヴィトルの身体にぶつかり衝撃を与えた。

「ちょっと…何すんのよあんた」

「悪ぃ、ここ俺の立ち位置だから」

「へぇ〜、2人が真ん中を守る…と。私にもお守りぐらい出来るんだけど」

「姉さんを守るのは僕らだから。アルヴィトルは、先頭を歩いて」

「私、お守りは得意だよ」

「何言ってんだお前、さっさと歩け」

アスタリスは少々、強引ながらもアルヴィトルの身体を前方に追い払った。

「ちょと…なにすんのよ…」

「お前がここに来たかったんだろ?」

「アルヴィトル、君が日本人なら、羽田空港ぐらい知ってて当然の知識だよね」

「…」

サンファイアは更に彼女への核心を着く台詞を言い並べた。

「君がここに来たいと言ったんだ。この静かさで、人が集まっている…避難所として活用しているとはとても思えないけど」

「あそこ、あの建物。【Terminal.2】。あの建物だったら決壊損傷が他の建物と比べてみてもかなり抑えられている。逆側の【Terminal.1】は損傷が激しい。きっと避難民が集められているのは第2ターミナルね」

「もし、避難民を掻き集めているのなら、こういったトンネルの出入口、つまりは羽田空港と他の区域を繋ぐ道に、何かしらの看板とか、警備金を配置するんじゃないのか?」

サンファイアが、羽田空港の静観さを物語るように生存者への対応が無いことを不審に思う。

「こんなところに人手を使おうとは思っていないんだろうな。きっと中に入ればもう人がパンパンで、押し寄せているに違いないな」

アルヴィトルは上手く回避したように思っているが、3人にとっては更に彼女への不安が募る材料となった。

「お前の言ってることって芯がねぇんだよな」

「あのね、何度も何度も何回も何回も言ってるけど、私もあなたと同じ境遇を味わってるの。なんでわかんないかな。わかんないんじゃないね…分かろうとしてすら無いんだよ。ただただ私のことを怪しがってる」

「当たり前だろ。トンネルに一人で倒れてて、ケガもなしで…」

「その嫌味ったらしい言い方も飽きた。もういいよ、私はこっから一人で行く。あなた達はもっとこの周辺を探索してたらいいんじゃない?そこまで第2ターミナルを信用して無いならね」

「なに、そのセリフ。“第2ターミナルを信用して無い”?。なんだか変な言い回しね」

フラウドレスが引っかかる。どう思われようがそちらの勝手だが、一定間隔で彼女の文言には不可解な文章がある。子供じみた…子供なのだが…、嘘をまかり通そうとする駄目な人間の部分がよく表れている。

「変な言い回しじゃないよ。もうさ、そういう追い詰めをするのもやめてよ。私だって…現状をどうしたらいいのか、必死で考えてるんだよ?せっかくこうして、生存者とも会えた…私はあそこで一人になって、“もう死ぬのかなぁ”って思いながら、眠っていた。私は嬉しかったの。素直に嬉しかったの。3人と会えて、まだこの世界には生きている人がいる…そう、思えたの。それが…なに?あんたらからは、私の存在すらを疑っている。その考え、いい加減にしてくれない?」

「長文ツラツラと御苦労さま」

「は……」

「アルヴィトル、僕は第2ターミナルに行くまでは信じるよ。ただ、もし、誰も居なかったら…それ相応の覚悟はしといてもらわないと割に合わない」

「ちょっと………どういうこと…」

「行こう、第2ターミナルに」

「……」

私達は彼女を信じていない。今すぐにでも戦闘をおっ始める覚悟は既にある。アルヴィトルは長文の中で、喜怒哀楽を引き合いに様々な感情が詰め込まれていた。そのほとんどが仮面で覆い隠された虚実だとは簡単に把握出来る。にしても、よくもまあ感情に身を任せながら、自身をコントロールした事だ。そんなの、意味無いのに。彼女は私の『行こう』という発言に、目を見開きながら怒りとも苦しみとも似つかない、識別不可の表情を返して来た。



羽田東京国際空港 第2ターミナル国際国内線出発ロビー複合施設──。


第2ターミナル。掲示されている看板を見るにこの施設では国際線国内線両方を取り扱う旅客ターミナル。他とは違う、施設の現存レベルには驚かされた。

「ここ…誰かが守ったんじゃねえか…って言うぐらい、保たれてるな…」

「うん、そうだね。何かちょっと…」

「あんたらって本当に、目の前のことを真っ先に疑わなければ気が済まないわけ?いいじゃない、ただ単にここが攻撃されなかったってだけなんだから。そうでしょ?何かがここを守った??そんなこと考えられるサイエンスフィクション脳があるなら、もっと違う視点で物を見ようよ。そんな単調な考えを無視して、多角的に見るのよ。あ、多角的…とか、そんな小難しい言葉、分かんないか??アッハハハ」

「…、、」

─────

「アスタリス…我慢」

「…、、、」

「アスタリス、本当に我慢して…」

「…、、、、、」

─────

「いない」

そう、無情な一言がサンファイアから放たれた。

施設内、全くの損傷無し。爆風から多少の揺れといったものをも感じさせない、発着ロビーの内装。広大なドーム空間、窓ガラスにも一切の傷がない。今までの光景と比較してみれば、考えられない光景だ。

「凄い…」

「なんなんだよ…、ここ…気持ち悪ぃぐらい…」

「保たれてる…」

3人がそう言う。アルヴィトルは無言で、天蓋を見つめていた。

「そんで、お前が望んでいた景色はこれか?誰もいないぞ」

誰もいない。音もない。暗くて、静かで、少し怖い。こんなにも広大な空間にポツンと立たされている雰囲気。こちらが能動的に訪問してきたのに、何故だか孤立させられているように感じるのは何故なんだろう…。やっぱりここ、怖いな…。光が点っていたトンネルの方が、まだ気持ちが落ち着く…。ここまでの空間は要らない。不要に思う。ここに…アルヴィトルの言っていた理想が形になっていたら…どんだけ気が楽になった事か…。

そういったものを“妄想”って言うのかな。“想像”っていう大枠の中で語られる一つのイマジナリーだけど、妄想は範疇を超えた普遍的なものだと思っている。恒久的に人は、妄想で頭を悩ませ、願い、叶えようとする。その身を焦がすような削り身となり得ようとも。

──────────────┤

「*************」

──────────────┤

「何…今の…、、、」

「姉さん、聞こえたよね?」

「俺も聞こえた………じゃあ…」

「違うね…これは…マインドスペースじゃない…」

怪音が轟く。一瞬、これはセブンス同士の通信エラーかと思った。だが、アルヴィトルの顔を見て把握した。彼女にもこの音曲が聞こえている。という事は、現実世界にて響いた音だ。だがこの音…あまりにも嫌な音が過ぎる…。鉄と鉄を擦り付けたよう…それも耳許で。

「*********1***0**0**110001」

「おい…!!なんだよ…!この音は…!!」

「…何…これは…、、一体…、、!!」

「2人とも…!!あ、、アァあ…、、なに…、、やばい…、、おかしくなり…、、ソう……」

「………………………………………」

「あなた…なんにも…」

「…………?」

アルヴィトルが、この音に一切反応を示さない。いや……違う…違うよ…この女…音が聞こえるのに…不快に思ってない…全く…私たちのこの反応を楽しんでもいない。それを隠している…?内面は…、、、え、、分からない…判断出来ない…

「***11**1****1**1***1*11**0」

「ァァァァああああアァああ!!!!」

ダメだ…なんだこれ……サンファイア!アスタリス…!苦しがってる……声も出せてないんだ…私が聞こえないだけ…?そのぐらいに…耳が…バグってきてる…、、

「……………」

あなた…何者なの…どうしてこの音を聞いても普通でいれるの…

「……まずいな。空、様子がおかしい」

「……ングくううう…いたい……、、、ヤバ……!!ちょっと…!どこ行くの!!」

「***1***1*****1***0***」

ァァァアァアアアアアア!!!声にもなってない…目は生きてる…、、、辛うじて…2人の生死は確認出来た……あれ、、、アルヴィトルは…、、…………


音が止んだ。

音が始まる。

音が止んだ。

音が始まる。

音が始まる。

音が始まる。

音が、聞こえる。

音が、奏でられる。

音が…*******。

何…私にも聞こえる音と同じ音が放たれているの…?どうして…?私から発されている音?そんなはず無い。じゃあどうして2人が悶えてるのよ…、、そうだ…ヘリオローザ…!ヘリオローザ…、、ダメだ…ヘリオローザも効いてる…。あなた…!ずっと外を見て…何かを見ているの…、、何も無いじゃない…え…、、、

「ねえさん…」

「サンファイア……!だいじょうぶ?」

「うん…僕は大丈夫…」

「俺も…、、けっこうやべぇかもしれねぇ…」

サンファイアは上手く話せている。私以上に音への耐性があるように思えた。いつの間に、そんな能力を身につけたのね…対するアスタリスは私と同様、それ以上に苦しみの表情が見える。

「姉さん…アルヴィトルは…?」

「分からない…どこかに消えていった…」

「消えていったぁ?あの状況で動けたって言うのか?」

「そうみたい…」

「何故?どうして?あんな音への耐性があるってこと?」

「そう考えるのが自然ね」

「あの女…やっぱり何かを隠してやがった…殺しても良かったじゃねえか!どうしてそう命令しなかったんだよ」

「アスタリスは私の命令が無いと動けないの?」

「…!……」

「私は特にアスタリスの動きを止めるような言葉は投げ掛けていない。あなたが取捨選択をしたのよ、あなた自身の行動をね。アスタリスが彼女を少しでも信用しようとしていた。そうでしょ?」

「…フラウドレスには勝てないな…」

フラウドレスは微笑んだ。黒薔薇の花弁が一輪落下する。

「彼女を自由の身にさせたのは、私達の責任よ。こうした結果を招く事を誰もが予想出来ていなかった。彼女に対する警戒が甘かったってこと」

「マジで…何モンなんだ…」

「セブンスである僕らの聴覚を破壊しに来た…」

「そして、その…超音波とでも言うべきか…その音を全く微動だにせず直立を維持していた」

「姉さん…あれ…」

サンファイアが発着ロビーの窓、外観の方へ視線へ促す。

「なに…あれ、、、」

「おいおい…なんなんだよ…!あれ…」

3人の前に映されたのは天空の裂け目。光と闇が混合する溝のようなものが確認された。

「おい…見えてるよな…」

「うん…僕には見えてる」

「裂け目だ…空が…、、裂けてる…切れ目とも言えるけど…そんなもんじゃない…」

裂け目からは光と闇のエネルギーが沸々と湧き出ていた。裂け目から放出されたその2色のエネルギー波。この世の光景とはとても思えない非現実的なもの。

「滑走路…!」

「…アルヴィトル!」

サンファイアが再び視線へ促す。その先には、アルヴィトルの姿があった。滑走路に一人。裂け目の様子を眺めていた。

「あいつ…何する気だ…!」

「裂け目との関係性を探ろう。外に行くよ」

「分かった姉さん」

「行くか」


──────────Ю═╡

「守衛、守衛、守衛、守衛、守衛、守衛、守衛、守衛。守り人はここに存在する。いつかは、私の方から出向くはずだった。私は、願いの元にここにある。私の赴くままにあなたとの邂逅を果たせるのなら、いつか、私の前で、僕を目覚めさせてほしい。船団が来る前に、ここをどうすればいい。私を殺めるか?私をどうするか。その一存は貴方様にお任せします。私は、あなたの守り人ですから」

──────────Ю╪╡



滑走路へ出た。アスタリスが感情を爆発させ、発着ロビーから見える滑走路へショートカット移動するために、全景ビューの窓ガラスを割ろうとしたが、フラウドレスはその動きを停止させた。

「アスタリス、行くよ」

「分かったよ」

何かと不機嫌なアスタリスを従え、滑走路へと躍り出た。

そこにはアルヴィトルが直立。崇高な眼差しを天空の裂け目へ、向けていた。

「アルヴィトル、何をしているの!?」

「……………」

フラウドレスは一言、そう問い掛ける。アルヴィトルから応答がない。

「喋ってる…?」

「あいつ、ブツブツと何を言ってるんだ?」

「****1******00000*****」

いたい…!!声に出せない痛さだ…!!これ…………、、、どうにかし、て、、ほしい…、、、

「アルヴィトル!!あなたは…、、どうして、、この音を受け付けない…!?」

フラウドレスが意を決して、痛さを乗り越え彼女への疑問を真正面からぶつけてみる。

「………………」

全く聞き入れようとはしない。天空へ目線を向け、口を動かしてる…、、クソ…読唇さえ出来れば…、、あいにくそういった能力は備わっていない…努力すればなんとか習得できるものではあるが…、、まさか口パクを読む日が来るなんて思いもしなかった…。心を読み取る行為なら出来るのに…。

「***************10」

いたい…、、アスタリスとサンファイアが危ない…。いくらルケニアだと言っても、こんな得体の知れないやつからの攻撃に対し、どこまで耐えることが出来るのか…。痛がっている…。母体を防衛するルケニアが崩壊してしまうと、サンファイアとアスタリスの身体が現実に出現されてしまう事となる。そうなってしまったら最悪の事態だ。臍帯を切断されたセブンスは、最早、普通の人間。今の2人の現状…セブンスとしての能力を失う事は、ただの乳幼児と成り果てる事を意味する。

そんな事態は何としても避けなければならない。だからといって、私だって状況は同じだ。他人の心配もそうだが、先ずは…、、ううん…何言ってんだ…私…2人を失うなんて絶対に嫌だ…、、私はセブンスとしての力を失っても構わない。2人を助けたい。2人を絶対に…絶対に…絶対に…絶対に…助け…

「*************11*****111111110」

アアアアアアアアアアァああああ!!!!

脳、、、ぶち破けさす気か!!!この気色の悪い音は…!!!

ヘリオローザ…!!!今は駄目…、、、アァ!

うるせえ…!!もうお前に任せてられねーだろーが!!この音、どう考えてもあのクソ女からに決まってる…!!

そんなの…まだ、決まったわけじゃない…!

決まってなくても…、、あいつ、、を、殺すンだろ?…

「****1**11*11*110***」

ヘリオローザ…!!もうお願い…!私……、、だめかも…、、

さっさとゴチャゴチャ言わずに、私に…アァぁんんんん……んんん…任せておけばいいんだよ!!!!

おねがい…、、、



「*****1*1*10」

「それ、やめやがれーー!!!」

音が聞こえる場所は不明。特定もほぼ不可能だと思える。空の裂け目からなのか、アルヴィトルからなのか、頭の中に直接なのか…。だが、今、この状態で最も疑いの目を向けるに相応しい対象は、裂け目を凝視し続けているアルヴィトルだ。裂け目との関連性を強く感じる。フラウドレスは自身の神経接続をヘリオローザに切替。身体形状変化へのリミッターを解除、全ての主幹コントロールをヘリオローザに委託。

「…よし。サンファイア、アスタリス、フラウドレス。まぁ、見とけって…。あのクソ女を…嬲り殺す」

超速スピードで黒薔薇を再顕現。元々顕現されていたのに、再び顕現させる意味。それは、フラウドレスとヘリオローザの顕現色には大幅な違いがあるからだ。簡潔にまとめると、フラウドレスの方が弱くて、ヘリオローザの方が強い。然し、これはフラウドレスのルケニアが単に“弱い”という意味では無い。ヘリオローザが制御する力があまりに強大だという事だ。ヘリオローザが扱うルケニア。その姿がお目見えとなる。

「出てこい!《バロン・デ・バタイユ》!!」

フラウドレスと同様のサイズ感と黒薔薇を模した外見。だが、ルケニアから溢れ出る悪性エネルギーは、フラウドレスの黒薔薇とは一線を画す。

「ついでに…フラウドレス…お前のルケニアも使わせてもらうぞ…」

フラウドレスの黒薔薇と自身の黒薔薇をドッキング。外見的には全く同じ様相を提示しているが、中身は似て非なるもの。2つの異分子ルケニアが融合した時、それは新たなる次元への拡張へと繋がる。

「死ね…」

融合が果たされた刹那、戦闘を開始させたヘリオローザ。サンファイアとアスタリスが悶え苦しむ様子を後に、単独での戦いに挑む。アルヴィトル、こいつが何者かは知らないが、音との関連性は深いこと違いない。私達の害悪と判断した。ヘリオローザが直々に。誰の意見もなしに。これは、私が決めた。フラウドレスは決めてない。全ての実行権利は、私にある。

「テメェ、、死にやがれて!!!」

黒薔薇による花弁の舞。それはやがて肥大化を遂げ、一つの集合地へと集まる。多数に舞を形成した花弁同士が惹かれ合うように集まり、一つの約束された集合地ブラックアッシュが発動した。ピンポイントエネルギーとして、ブラックアッシュがヘリオローザの手中に収まり、手中が新たにゼロ距離パワーが注がれる。

「いけ」

その一言が、終わるその寸前にブラックアッシュがアルヴィトル目掛けて、放たれた。強大に込められた力が完璧に収まる切らなかった…と言った所だろうか。彼自身も初めて発現させた超次元的技術。アルヴィトルは何もせず、ただただ直立を続行させている。回避する素振りも見せなかった。

ブラックアッシュがアルヴィトルに直撃。ダークマターに包まれた爆煙が滑走路に発生。

「よし…」

「***1*111111*000000*00000*11111」

「ああああ!!!…それ、、、、やめろごのやろう!!!」

「***11*****00000000*****10」

呼吸が難しくなる。生きていることが馬鹿馬鹿しく思える程にいたい。とにかく…いたい。どうして生きてるんだ…?全てを否定したくなる…何をどうしたらこれから脱却できるんだ…声が出ないから…これを表現することさえ憚られている始末。肉を触られている…脳を直接サラッと触られる感触。水分がポトポトと滴る手先が出来たての怪我、瘡蓋にもなってない真っ赤な血が溢れ出る状態の怪我元を触れられているよう。どれだけ喩えれば気が済むのだろう。考える事しか今は能がない。その考えを、相手を向けたいとは思えないのか?ああ、思えない。私の問題なのか。相手からの問い掛けなのか、分からない。だから分別の無いラインでの“単話”として完結させている。

───

「守り人」

───

「……あぁ?」

「守り人としての決まりを果たす。私はそのためにここへ降りた」

「…なに言ってんだあのオンナ…誰と話してる…空…?」

ようやく口を開いたかと思えば、気味の悪い母恵夢を口ずさんでいる。

すると、裂け目から湧き出ていた光と闇のエネルギー波粒子が放出を停止。裂け目が消失した訳では無い。

「姉さん…」

「サンファイア…!」

「ヘリオローザ…お前…戦っていたのか…?」

「見えてなかったの?」

「頭がどうにかなりそうだった…やっばかった…アイツか?」

「そう、アルヴィトル!」

「…」

アルヴィトルがようやくこちらに意識を向けた。

「今の音を発生させていたのは、お前か?」

ヘリオローザは、今すぐにでも攻撃を開始できるよう、能力覚醒の準備を内側から進める。ヘリオローザの戦闘信号をサンファイア、アスタリスが受信。両者も最大火力のルケニアによる能力覚醒を放出寸前の所で留めておく。

「私じゃない。この上のやつからだよ」

「お前とあの裂けた空には何の関係性がある」

「……」

彼女は笑った。不敵に笑った。

「答えろ」

アスタリスは強い口調で迫る。怒りを覚えるアスタリスは今でも攻撃を仕掛ける気だ。

「答える必要も無いんだと思うんだけど…」

「どういうこと?」

ヘリオローザは冷静さを保ちながら、彼女の不可思議な返答を追求。

「あの…別に…そんな意味は無いよ?考察してるようだけど…別に…、、まぁ、、、そうだな…私の仲間が…?来る…みたいな、そんな感じかな。ただ、思ってたよりも時間が掛かっているみたいでね…なんでなんだろうって思ってたら、いつの間にかここにいた。さっきまであそこにいたのにね。3人はどうしたの?なんかずーーーっと、地面に身体が近づいてたけど」

「てめぇ、、俺たちのあの状況を楽しんでいたんじゃねえだろうな?」

「楽しんでた?うーーん、楽しんでた…、、うーーん、難しい質問だなぁ…楽しんでた訳じゃ無いけどね。だってアレは私から出された音じゃないし。かといって、そこまで無関係では無い」

「なんなの…、、勿体ぶらないで言って。さもなくば…」

「ちょっとちょっと、たんまたんま。まさか私を殺す気?」

「そうなる状況になりつつある事、この空気を察せれば分かるだろうが」

「アルヴィトルは、僕達があのような非常事態になっていたのにも関わらず、天空を見上げ続けていた。音で絶命しにかかってきた裂け目との関連が判明した場合、君を外敵として識別、戦闘プロトコルを実行し、ここで殺す」

「いや、それは考えすぎでしょ。お仲間を待ってただけなのにさ」

「そのお仲間さんが出した裂け目からの音で、私達が死にかけた。脳が爆発しそうになったんだ」

「へぇー」

「私達があんな目に遭っていたのに、お前は全く痛がらずに、なんなら微笑んでもいた」

「あー」

「それに対しての回答は?何故、微笑んでた?」

フラウドレスが最後の質問を投げた。この回答が彼女の生死を分ける運命の兆しへの入口。

────────

「死んでくれないかなぁて思ってた」

────────

書きました。この調子で行けば、来週には確実に第五章終えます。てか、終わります。確実に。

どうでしょうか。原世界ともなると実際に存在する場所を絡めた方がいい気分です。

謎の存在、海底トンネルにて見つけたアルヴィトル。

彼女の存在が、フラウドレス編に大きく影響を及ぼします。

「Lil'in of raison d'être」は現在の自分を表出させています。歪んだ感情は今の僕です。喜んでいればその時、とても良いことがあったんだ…と思ってもらえれば幸いです。

ヌテラって美味しいですよね。スグ太りますよね。嫌ですね。スグ無くなるので1キロのやつを買ってます。スグ無くなります。あれ、合法の食べ物なんですかね。抉ぃすよ。

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