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[#63-フラウドレス・ラキュエイヌという哀哭]

《第二章 祝福の臨在》より、フラウドレス編続劇。

[#63-フラウドレス・ラキュエイヌという哀哭]


花の柩。

私の心と身体が落ち着く、大切な場所。

私以外の何人たりともこの快楽を味わう事は出来ない。

私のみぞ知る。この魅力。

くるまってるだけでいい。

包み込まれているだけでいい。

何も考えなくていい。

息を殺すように眠れば、更なる越鳥を体験できる。

私にしか与えられない。

私にしか合わない。

自分が特別なんだと、思い知らされる。

うん、特別。

そう、特別。

なんだ…、、、また思い出すのか…。

嫌だ…やめてよ…、、、せっかく忘れようとしてたのに。

なんで、、、?

なんでよ…どうして…?

なんでこうも、しつこくついてくるのよ。

私はこの記憶なんて求めてない。

求めてないのよ。

今すぐにでも、葬りたい。

のに、出来ない。

果たせない。

その理由も判ってる。

私がこの記憶に干渉したくないから。

当該記憶を忘れるという事は、最小限の干渉が約束される。

私にはそんな事出来ない。

誰かが切り取ってほしい。

切除。削除。排除。

いつまでこの記憶と向き合っていけばいいのかな…。

私はとうの昔の記憶とも解釈出来る。

そんな前じゃない。たかだか2桁じゃないか。

嫌だな…どうしてこうも、嫌な事しか思い出せないんだ…。

ううん、間違えちゃった…。

私に良い思い出なんか無かったよ。

全部ぜんぶ、一つの出来事で、赤く塗られた。

私が、いけなかったんだ…。

私が、、殺しちゃった…。

そうだよね…、、、私が…、、殺した…。


〈3703.5603? ┄ TimeCode-02:25-Terrified to face the truth, she rejects even sleep. ┄ Different World〉


「花と触れ、花を見て、花が咲き、乱れゆく…

そうやって、いつもいつも都合のいいようにはいかない

だけれども、花は見ていた

世界の情勢を

変わりゆく、一人一人の心を

みんなで、見よう…

さぉ、広げて

歌おう」


「俺は歌わねぇ」

「おい、姉さんが言ってるんだ。歌え」

「はぁ?嫌だね。歌う気分じゃねえんだよ」

「あん?お前調子乗ってんじゃねえぞ年下のくせに」

「たかだか、2桁日じゃねぇか。仲良くやろうぜ、“兄弟”?」

「誰がお前なんかと…」

「やめな、サンファイア」

「姉さん…」

「アスタリス、後でしようね」

「あ、ああ…分かった…」

「じゃあ私、柩に行くね」

「うん…また後で、姉さん」

フラウドレスが2人の前から姿を消す。

「アスタリス、顔どうしたの」

「フランのやつ…最近凄い勢いで誘って来ねえか?」

「うん、そうだね。でも姉さんと繋がれるから、僕は好きだよ」

「俺も、フランの事は好きだし、フランとのセックスはこれ以上無い幸福な時間だ。お前ともヤッてるっていうのは気に入らねぇけどな」

「もう、いつまでそんな事を言うんだアスタリス。僕はそんなお子ちゃまな事、気にしてないよ」

「サンファイア、お前はもうちょっと男としての矜恃を持つべきだぞ」

「姉さんは僕達を求めているんだよ。僕達2人は姉さんの情欲に答える責務があるんだ。姉さんの精神を保っておくためにね」

「はぁ…フランとヤッてる時に『あぁー、これサンファイアも経験出来てるのかァーーーーあああああ!!!!』って少し…割と…かなり…限界的に気になっちまうんだよ」

「アスタリスは姉さんとのセックスで、僕のことを考えてしまうぐらい余裕があるセックスをしてるんだね」

「そんなことはねぇーよ!!」

「そんな事って、現にそうやって僕に突っかかって来たじゃないか。姉さんがこれを聞いたら、きっと悲しむだろうなぁ…、あーあ、この事、姉さんに言っちゃおうかなぁ〜ー」

「おいおいおいおい、マジで勘弁してくれ…」

「姉さんは怖いからねー、、、アスタリス、あんた、終わったな」

「おい…サンファイア…言ったら殺すからな」

「君に殺されるほど、僕は脆弱性の欠片も無いよ」

「クソ野郎が…」

────────

『アスタリス?来て…』

────────

「お呼びがかかったみたいだ」

「じゃ、姉さんの気持ちに、答えてあげるように。“僕のこと、セックス中に思い出すなんて…ンフフハ…何だか笑っちゃうよ”」

「てめえになんでこんなこと吐いたんだろうな」

「そんぐらい僕の事を信頼してるって事でしょ?」

「丸く収めようとしてんじゃねえ」

「ンフフフ、さ、ほら行って。3時間後は僕の番だからね」

「もっと遅いシフトになるだろうな」



◈────────────────────────◈

西暦3703年5月11日──。

強化人間保護育成管理施設 マーチチャイルド横浜みなとみらい支部局地。

フラウドレス・ラキュエイヌ、収監。

年齢3歳。


西暦3703年5月29日──。

同・施設。

生後間も無い状態でサンファイア・ベルロータ、収監。


西暦3703年6月21日──。

同・施設。

生後間も無い状態でアスタリス・アッシュナイト、収監。


◈────────────────────────◈

「3名のパーソナルデータ、コピーペースト完了」

「この3人がベストメンバー…なんだな?」

「はい、様々な可用性を持ち合わせている、完成版です」

「直ぐに駆り出せるのは、フラウドレスだけか?」

「現状はそうなります。育成プログラムの早期解決を施せば、ざっと1ヶ月あれば戦域への投入が可能です」

「1ヶ月…掛かるな…、、、、それ以上縮める事は無理か」

「恐らく無理かと思われます。育成プログラム自体が、体内の運動組織細胞を劇的に促進化させる役割を担っています。今の数値が限界です。この先は運動組織細胞を破壊する可能性があります」

「せっかくこんな良品を見つけたんだ。大切に扱わねばなるまい…。了解した、フラウドレスからルケニアの性格診断を急かせ」

「はい」

「遺伝子情報の分岐点は?」

「やはり、セカンドステージチルドレンです」

「2100年8月20日…」

「あの日が全ての始まり…ですね」

「世界が狂った。一つの隕石落下で、1000年以上も苦しむ日々が続いている」

「この世界はどうなってしまうんでしょうか…」

「過去を咎めていても、現在を浄化出来ることは無い。我々は前を進むしか無いのだ」

「そうですね…」

「クリスパーキャス9新造の進捗状況は?」

「滞り無く、進んでいます」

「セブンスの遺伝子を組み換えし、遺伝子情報を編集する…セブンスという驚愕の人型知的生命体を探る、現在唯一の方法なのだ。急げ」



戦争が終わらない。

最早、何故戦争が行われているのか…分からず、ただただ虐殺の報が届く。

苦しいよね、切ないよね、悲しいよね、儚いよね。

泣きたいよね。

でもどうやっても、終わらない。

戦いは終わらないんだ。

どっちかが死なないと、、、どこが死なないと…。

誰かが死ぬ…。

じゃあ誰が死ねばいいんだろう。

リーダーかな。各国のリーダーが死ねば、それでいいのかな…。

私達が殺すのかな…。

ここに収監された私達が殺すのかな…。


私の人生は2人のおかげもあり、彩りを確保する事が出来た。ただ、その着色料が現在進行形で蠢くドス黒い暗黒に対しての勝算があるという訳では無い。

サンファイアとアスタリス。3歳下の2人とはセブンス同士のコミュニケーション方法であるシンクロテキストで、いとも簡単にどこからでも通信が可能。脳内にて送受信される会話方法がその日の唯一の楽しみでもあった。

何もする事が無い。かといって、戦争に駆り出されては人を殺し、意志とは反した行動をしなくてはならない。こんな人生に一体何の意味があるんだろう…。

人を殺す。こんなにも楽しくない非日常的な行為が、ルーティン化している現実に、反吐が出そうだ。

変えたい…。

現状を変えたい。

どうやって変えられるのかな…。

殺すしかないんだ。

私達は、命令に従うしか、生存の道は無い。

選択肢があたえられていない。

不公平だよ…。そんなの…。

私は、みんなは、これで生まれたくてこの世界に落ちた訳じゃない。

私だって、普通の人間に生まれたかった。

だけど、、、、、……もう戻れない。

手は汚れた。

手が汚れたよ…。

何人死んだかな。

んははは…。

“死んだかな”って…

なんでそんな他人事みたいな、言い方するんだろうね。

大っ嫌い。


律歴3703年、5月と6月。

2人がマーチチャイルドにやって来て、私の生活は少し変わった。嬉しかったな…。2人が私と気持ち悪いぐらいに意気投合。脳内で交わされるメッセージだけが、日々の楽しみ。

「フラウドレス?」

「うん、聞こえてるよ」

アスタリス。THE・男って感じのイケイケな様子。顔は…見たことない。でも声とか、文面の感じからして…優しそう。大体の事を深く考えずに、短絡的に物事を成功に収めるタイプ。話しかけやすくて、理解のある回答を提示出来る。誕生からまだ0年目。セブンスといっても、ここまでの成長は早い方と言える。これは将来が凄く楽しみかな。

「フラウドレスはさ、戦争に送られたことあんのか?」

「私は、、、無い」

「ないのか…最近送られたって言ってたから、その期間ずっと戦地に送られてるのかと思ってたよ」

「私は行ったこと無い」

「なんだその変な答え方。“私は”ってなんだよ」

「戦地に投入された者の記憶を見たんだ」

「セブンスか」

「そう、セブンス…戦場での記憶…《マインドスペース》」

「見た奴らの視界には何が映っていたんだ」

「死んでいく、人々の姿。おぞましい…って叫んでいる姿。逃げたいって、怯えてる姿。どれもこれも、戦場にはピッタリの顔面だったよ」

「まぁ、楽しく血を流すやつは人間にはいないだろうからな」

「アスタリスはどう?」

「どうってなんだよ」

「楽しく人を殺せる?」

「うーん、、、やったことが無いからなぁ。想像の範疇でしかものを言えねぇが…、、、たぶん興奮するんじゃねえの?楽しそうとは思うな」

「そうなんだ…思うんだね…」

「ああ、フラウドレスは…あるのか…人を殺したこと」

「うん…あるよ…、、」

「誰を殺したんだ…」

思い出すな…嫌だよ…、、思い出しくないのに…なんでこんな状況になったんだよ…でも…、、彼にだったら言っていいかもしれない…。大丈夫だと思う。

え…本当に言うの?…言うつもりなの…、、、、、、、、

「……両親を殺した」

「すまない。嫌なことを思い出させてしまったな…」

「ううん、気にしないで。ありがと。優しいんだね。私の第一印象通りだよ」

「うえへへ、そうか?良かったよ、フラウドレスの力になれて。これからも仲良くしような」

「うん、ありがとうアスタリス」


「フラウドレスさん?」

「ん?ああ、サンファイアか…なに?」

「うん、おはよう、フラウドレス…さん」

「さん付けなんてしなくていいよ、別に。私は気にしてない」

「いやでも…3歳も年の差あるし…」

「私達はこんな子供の状態。敬語とか、そんなの気にしなくていいんじゃない?」

「そ、そうですか…。でも僕、《記憶配達》を受けた際に、色んな人の人格を見たんです。主には大人。社会的な立場では下の人間。その人格がどうにも僕の性格には強く反映されてしまって…」

「そうなんだ。私も記憶配達は受けた。だから今こうやって言語能力も成人レベルをこなす事が出来ている。でもさ、拒絶するのも大事なんじゃない?」

「拒絶…?」

「なんでかんでも受け入れるのはあんまり良いとは思えないな。自分の内的宇宙に適合した、世界を自らに取り入れたらいいんじゃない?」

「そうですか…分かりました…、、、優しいんですね、フラウドレスさ…あ、いや…“姉さん”は…」

「ね、姉さん…?私が…あなたの…??」

「そうです、敬語がダメなら、姉さんでお願いします」

「誰の記憶を受けたのかしら…まぁいいわ、サンファイア」

「姉さん、また話そう」

サンファイア。この子はアスタリスと真逆の感じ。ズカズカと踏み込む系から一転して、物静かなのがサンファイア。優劣を付ける訳じゃないけどね。2人それぞれに善し悪しがある。2人と会話して、まだ知らない世界を見る事ができるような気がしている。

───────

この世界を知ろうとする意味ってあんのかな

───────

この…地獄みたいに血をタラタラと流し続ける世の中に、何の価値があるのかな…。生きてる意味ってあんのかな…。私って、なんでこんな生物に生まれてきたのかな…。

親からの愛を知っている。

まだ知らない側の人間じゃなくて良かったと思っている。

結末は地獄だったけど。

全部、私のせいだけど。

でも…、、、でも、、私は2人の愛に応えようとした。答えようとしたよ。それであんな結果を招いたのは…、、私のせいなのかな…。私が…私が…全部悪いの…?

今までの歴史を構築してきた人間が悪いんじゃないの?

全部が全部、私のせいだって思うより、スケールを疑う方向性を見出した結果、私は途方も無いこの世界の“正史”を批判した。

これが合ってる。このやり方で合ってる。

こうしないと、自分の気が持たない。

私、この世界嫌いだな。

自分も嫌いだし。

─┨┨┨┨┨┨┨┨┨┨

自分に合う世界に再構成したい。

━┨┨┨┨┨┨┨┨┨┨

こんな願い、叶うわけない。

あのさ、もう否定から始まる物語はやめにしない?

“物語”って…まるで誰かが私たちを操作してるみたいな言い方。

うん、なんか面白いかも…。

再構成…いや、構成するのって、こういう意味なのかな…。

シナリオ…か。

私、シナリオを書きたいんだ…。

この世界を良い方向に針路を紡ぐ、大航海の旅路。

私が神様になって、この世界を変える。

どうやったら神様になれるのかな。セブンスにはその素質があると思う。神様になりたい。なんで出来そう。何でもやれそう。私がこの世界の頂点。誰も刃向かえない理想郷。誰も苦しまずに済む、曖昧な境界が無い。そういう人と人との心が深く紡がれる懐柔な世界。

足掻きようの無い世界。だって私が頂点だから。私がルールだから。私を面前にすれば、全員がひれ伏す。全員が殺される。全員が殺される。全員が殺される。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

え…なにこれ…、、、私…、、何考えてたの…。アアア…だめだよ。あの時の感覚…。愉悦を覚えたあの日の記憶が鮮明に蘇る。まるで先程までの出来事のように、今までの記憶が塗りつぶされる。ザーザーと黒色の絵の具で、描く殴られる。

私の記憶を冒涜しないで。もう私を犯さないで…。

ねえ、もう済んだことなのに、どうした“過去の私”は、執拗に責め続けるの…?

──

だってもなにも、ワタシだからじゃん

──

え…?なに、、、


いやいや、ワタシを…“なに”って言うのやめてよ


なに、もうやめてよ。


やめないよ。やめないやめない。もう偽るの辞めたら?


偽ってなんかない。これが私。あなたを忘れたいのが私。


違うね。ワタシは両親を殺した。


やめて!!!!


やめないね。まだまだ言えるよ。ワタシが、殺したんでしょ


やめてって言ってるの…!!!


やめないって。アンタの方が執拗いなぁ。なんで?どうして受け入れないの?


あなたなんでしょ?


??


あなたがあの時、パパとママを殺したんでしょ?


はァい?何を言ってんのか…もう時間の無駄だね。


無駄なんかじゃない。これでもうサヨナラだよ。あなたとは


出来ない事をそんな出来口調で言い切るのはいいね。嫌いじゃないよ。


あなたは、どの世界の私?


ンフフフフ…、、、それ、今は教える意味無いよ。


…なんなの、ねぇ…もう出てってよ!!


はいはい、わかったよ、フランちゃん。



帰って来た…。いや、ずっとこの場所にいる。私じゃない私が…また現れた…。息が…苦しい…。私…気づかないうちに、何千メートルも走ってた…?

「フラウドレス!」

「姉さん!」

アスタリスとサンファイアだ。2人同時にモニターされている。

「うん…どう、、かした…?」

「フラウドレスの脈拍が急激に上昇していたから、何かあったのかと…」

「大丈夫?姉さん」

「てか、お前誰だよ」

「君こそ。姉さんこの男はなに?」

「アァん?」

「大丈夫よ、2人ともありがとう…。サンファイア、こちらアスタリス。アスタリス、こちらサンファイア」

「どうも」「…」

「アスタリス、安心して。サンファイアはあなたと同じ時期に送られたの。年齢も同じよ」

「ンなの、見ればわかるってーの。お前、フラウドレスに何か吹き込んだのかぁ?あぁ?」

「僕は何も言っていない。僕は姉さんが心配になって、モニターしたんだ。そしたら、バイタル指数が通常時とは異なる動きをしていたから。そこから更に《カルジオタスコープ》で姉さんの脳内を視察したら…、、、姉さん?誰と喋ってたの?」

「…、、あぁ…凄いねサンファイア、、、大体の事分かっちゃうんだ…」

「うん、僕には“思考を食う力”がある。それを使って脳みそに介入することが可能なんだ。無断で姉さんの肉の一部に接触したのは謝るよ。でも、、心配したから…」

「ありがとう…大丈夫だよ。うん、アスタリスもありがとう」

「アァ…まぁいいけどよ…。ンてゆーか、てめぇ、“姉さん”ってなんだよ、姉さんってぇ」

「別にいいじゃないか。君みたいに呼び捨てするよりも、圧倒的に良い」

「なぁにが良いんだ気持ち悪ぃ。血縁関係でもねぇくせに」

「は?」

「アァン??!やんのかこのネクラがァ!」

「2人とも、いい加減にして」

「…!?」「…あ…、」

たった一言、発しただけなのに。直接その言葉を浴びていないのに、なんだか顔面に向かって吹き込まれたように“言葉の字列”が直撃した。

「姉さん…」

「フラウドレス…、今お前…何したんだ…?」

「2人とも、仲良くしなさい。私と2人は仲の良い関係値を築いている。友達の友達は友達よ。お互い啀み合っていないで、仲良くしなさい。いい?」

「…、、、、、、、はい」

「…、、、、、、、、、ああ」

「うん、それでいいわ」



律歴3703年7月1日──。

旧神奈川県横浜市 マーチチャイルドみなとみらい局。


マーチチャイルド。この施設の役割が報告するに値する確定要素を多く入手したので、この場で書き記す事にしよう。書き記すといっても、実際に紙へ記入を行っている訳では無い。私の脳みそ、脳内で無限に広がる花弁の大宇宙セチアービア。ペラペラと咲く花弁を使い、私の想いと記憶を綴る。


マーチチャイルドは軍事兵器を新造する化学兵器特殊開発施設としての役割を持っている。それが判ったのは、これ以上でもこれ以下でもなく、私がそれの対象者として任命されたからだ。送還された日から、何となくではあるが漠然と悪夢を感じた者の雰囲気は漂わせていた。

表向きではマーチチャイルドという施設は、日本軍の戦争に投入されるセブンスの育成と管理を担当している施設だった。それは半分本当で半分嘘。

人間はセブンスの能力を自分たちも利用出来ないか…と唱えたのだ。結果、セブンスは検体として扱われ人体実験を強いられる日々を過ごされている。

ママとパパはこんな日々を娘が暮らすことなるのは、承知済みだったのかな。というか、私は特殊ケースか。親を殺してこの施設に送られたんだ。3年契約の契機。タイミングを掴むのって凄く大切なんだなって思うよ。本当に。

2人から毎時間のようにシンクロテキストが送信される。

2人も実験を受ける日々の連続。絶えぬ事の無い、防ぎようの無い苛立つが募る独房生活。

四肢を拘束され、各ステージに合わせた外傷耐性実験からいつもの拘束生活が始まる。


「では、今日も外傷耐性実験を始める」

その合図がアナウンスされると、私の部屋に複数人数の男と女が入室する。私には抵抗を防ぐための特殊拘束器具が首輪に装着されている。これが装着されている時はセブンスの自由行動が制限されているというマークだ。私を始めとする多くのセブンスが抵抗の意志を示し、拘束器具の洗礼を受けた事だろう。

「四肢を拘束しろ」

「了解」

「フラウドレス、君は最優秀の座を与えるに相応しい適格者だ。よって、この実験が終わり次第、戦線への復帰を命令する。久しぶりに外界に出て、大いに暴れるがいい」

「………」

独房へ流れるアナウンスが鬱陶しい。私はこの声に応答したことは一度たりともない。

「だが、その前に今日も外傷耐性実験を実行しなくてはならない。フラウドレスは安定した体格の持ち主だ。もう、必要性は無いと…思うんだが、まぁこれは決まりだ。行わせてもらう」

独房へのアナウンスがオフになる。しかし、私にはオフライン状態など造作もない。私には全てが聞こえる。壁なんて関係ない。電気を通していなくとも関係無い。一定距離内で交錯している会話を全てアクセスする事が出来る。聴覚器官が最優秀だからな。

よって、その先の会話もその先の会話も、この施設で巻き起こっている全ての事象を私は、この独房から傍受が可能なのだ。だって、最優秀だから。この機能を人間に披露した事は無い。だから私は次々と、“現実”と向き合っている。戦争に行くのも知ってる。

誰が…今度はどのセブンスが投入されるのかも知ってる。最近はそういった特筆すべき戦争の発生は無いみたいだ。



律歴3704年1月18日──。

世界がデフォルトの危機にさらされた。

世界戦争が集結に向かっていた今、日本政府はセブンスの収穫を中止。十分な戦闘兵士が揃ったと見込んで去年の11月16日にセブンスの精査が止まっていたのだ。

だがこの判断が日本を大災禍へと追いやるきっかけの一部となってしまう。

1月18日午前7時39分。

米国空軍が貫通型垂直式落下核弾頭ジャンクマンタイを日本列島全域に投下。投下数は113にも及んだ。

南は沖縄領域、北は北海道。落とされた核弾頭は余すこと無く日本列島を戦火の嵐においやった。何故、日本軍が米軍の攻撃に対抗出来なかったのか。“油断大敵”という言葉が一番に適した表現だろう。日本は浮かれていた。強力なセブンスを多く保有していた日本は、セブンスの保有個数に拘っていた。それが十分な数に満たされた…と判断され精査中止を決定したのが敗因とも言える。セブンスの投入も遅れ、セブンスの攻撃アンプルを装填した新造兵器も投入する事が出来なかった。米軍の初手は徹底的な軍事基地への攻撃だった。そこから国民の居住区域、主要な大都市をマーキング。

日本は大敗した。生存者は数少ない。


荒廃し、跡形もなく葬り去られたマーチチャイルドを始めとするみなとみらい区域。瓦礫で埋め尽くされたエリアで、生き残った3人のセブンス。

「サンファイア!アスタリス!大丈夫!?平気?」

「大丈夫だよ…!」

「ああ、俺も平気だ…クソ…一体何が起きたって言うんだよ…」

「米軍だよ…米軍が日本列島全域に爆撃を開始したんだ」

私達が居るマーチチャイルドみなとみらい基地局も勿論、爆撃範囲対象区域に指定。加えて、関東圏は更なる爆撃の追い討ちが仕掛けられた。

「おい…!!こんな酷い爆撃が日本全部に行われてるって言うのか!?」

アスタリスは、私に答えを求めた。

「多分…ここだけだと思う…、、、」

「ここって?姉さん…」

「恐らくは…関東圏…静岡県、埼玉県を端っこに考えた首都圏重点的爆撃だと思う」

「感染爆発エリアを集中的に狙ったってわけかよ」

「並びに、セブンスが最も発生した場所」

「うん…。2人とも無事なんだよね?会えそう?」

「ああ、大丈夫だ」

「うん、姉さんの所に行くよ」


サンファイア、アスタリスはフラウドレスと合流。

「2人とも、大丈夫?怪我はない?」

「ああ、なんとか…ルケニアが助けてくれたのかもしれねぇぜ」

「うん、だけど…周辺を見た感じ…生き残ってるのは僕らだけみたいだ。他のセブンスの反応も確認出来ない」

「じゃあ…死んだっていうことか?マーチチャイルドのセブンスが…」

アスタリスが疑問を呈す。

「そうみたいね…」

「なんで…僕たちだけ生き残ってるんだ…」

「ああ…まるで誰かが守ったかのようだぜ…」

「守った…そうね…、、そう考えるのが妥当ね」

「だけどよ、俺らってマーチチャイルドに収監されてる他のセブンスよりも能力値が高かったろ?これを鑑みるに、俺らの個人の防衛本能が働いて、俺らを守護したんじゃ無いのか…?」

「防衛本能…?そんなの一切感じなかった…」

「サンファイア、お前はここが吹き飛んだイメージを覚えているか?」

「いいや、覚えていない。君が言う防衛本能を発現させたことすら身に覚えの無いことだ」

「ルケニアって…なんなんだろうね」

「…」「…姉さんは、僕達が生き残ったのが、ルケニアのおかげだと思う?」

「そうだと思う。ルケニア以外に私達を守る者なんてあると思う?」

「姉さんが言ってた…幻夢郷の住人は?」

「…サンファイア。それはもう忘れて」

「いや、忘れられないよ。姉さんが会ったんでしょ?瞳を閉ざした果ての世界で…幻夢郷が僕たちを守ってくれたんだよ」

「サンファイア…お前なぁ…」

「僕も見たんだ!」

「なに?」

「僕も…姉さんが見た果ての先…またその更なる先を見た。姉さんが言ってた情報と照合させたんだ。間違いないよ。僕は幻夢郷を信じている」

「サンファイア、私が見た幻夢郷の姿は暗くておどろおどろしい無窮の世界よ。そんな負のオーラを出している世界の住人が、何故私達を助けるっていうの?」

「それは…」

「あなたは幻夢郷の住人を信じ過ぎよ。私はそこまで重要なセンテンスとして2人に伝えた訳じゃない。『こういう世界もあるんだよ』って単に伝えただけに過ぎないのよ。だからサンファイア、もう幻夢郷の事は言わないで」

「……分かったよ…、、、」

「…今はルケニアが助けた…と考えておきましょう。行くわよ」

「行くって…どこに…」

「そうだ、こんな真っ平らな世界に何の用があるんだよ」

「じゃあこのまま、死ぬの?」

「いや…そういう訳じゃねえけどよ…」

「姉さん…何をしようとしているつもり?」

「決まっている…、、、こんなことをした奴らを殺しにいくの」

「殺す…そうか…、、そうだな…確かに、、なんでそんな感情忘れてたんだろうな」

「うん、、なんでだろう、、、僕もそんな気持ち、忘れてたよ…引き出しの奥どころか、ゴミ箱の中に入れた感じ。懐かしいってなったよ…」

「私達は生きている。この3人が生きている。それだけでも十分よ。私には…他に何も要らない」

「姉さん…」

「フン、ありがたいこと言ってくれんじゃねえか」

「じゃあ、やること一つだね」

「うん、私が…」

「いや、姉さんの力を使うまでもないよ。ここは僕がやる」

「判った。お願いね」

サンファイアが、3人の全方位に広がる大地に対して、リサーチスキャナーを展開。現在地を葬った元凶である核弾頭の熱源エネルギーを特定。大地、瓦礫に付着した物質量を即座に解析へ移す。付着した物質量から爆弾の特定を完了。それはもう判明している事だ。優先すべきはこれを製造した場所。米国空軍のどこなのか…。サンファイアの力を使えば、製造ルートの特定が可能だ。

「サンファイア、行けそう?」

「ちょっと手間取ってくる…」

「んだァっくー、何やってんだよ…」

「これ…どうやら、量産はされていないみたいだ…」

「じゃあ、特定余裕なんじゃねえのかよ」

「それが、中々に難しい。みなとみらいに投下されたのが最後の一つだったらしい。ターゲット捕捉製造ラインの特定は、既存する爆弾に結実させるためのルート確保だ。そのゴールが存在しない」

「んん、つまりは?」

「米国のどこか…という、ことしか掴めなかった…姉さん、ごめん」

「私がやっても無理のようね。サンファイアの方が特定開示の能力は長けてるから」

「フラウドレス、どうすんだよ」

「決まってるわ。虱潰しになって探すのよ」

「ええ…探すって…」

「姉さん、こんなことを今更言うつもり無かったんだけど…、、僕とアスタリスは人間年齢でまだ0歳。ルケニアの力があれば、特段困ったことで無いんだけど、姉さんに迷惑を掛けてしまうかもしれない。かなりの長旅が予測される中で、結末の見えない道を歩むのは危険な気がするんだ…」

「結末の見えない…?それはセブンスに生まれた時から決まり切っている事よ。あなたの言うとおり、“今更”が過ぎるわ。それに、2人はルケニアの本当の力をまだ知らない。日本から米国に行くなんて、ルケニアの力があれば容易いこと。人間レベルの基準で考えるような人格者だったかしら…サンファイア?」

サンファイアに戦慄が走る。フラウドレスの圧に対して、どう答えていいのか…アスタリスの顔を見たが、『俺に向けさせるな…』と言わんばかりの表情を刺してきた。

「ごめん……ちょっと、言葉に欠陥が多くあった…ごめんなさい…」

「…ルケニアを舐めないで。ルケニアはセブンスの全てよ。人間とは違うという証明を汚さないで。いい?」

「うん…わかった」


沈黙。


「行きましょう。目的を果たすために」



フラウドレスを筆頭に3人の旅路が幕を開けた。現在地は旧神奈川県横浜市みなとみらい21地区。かつての繁栄は消え、都市のシンボルであるランドマークタワーが剣戟軍の神奈川県支部として機能。その他の建造物も、日本帝国政府直轄の関連施設に様変わりしている。私達が収監されていたマーチチャイルドは新たに建設された建築物。マーチチャイルドの跡地は巨大なショッピングモールだったというが、世界戦争の火種を食らい破壊された。日本帝国の最重要施設として指定されている剣戟軍支部局等は、セブンスが優先的に防衛。シールドを張り、敵弾攻撃の防御に務めた。先代のセブンスの声が聞こえる。

いつかその声に応えたい…そう思っている。叶わないとは全く思っていない。彼等の働きによって、今、私は生きている。どんな結果であれ、どんな道程であれ、全ては彼等の創ってきた文明が私の未来を照らしてくれた。感謝を伝えたい。

と、目標が不確かな相手への敬意を強く向けるのはまた今度にして…今は、私達の使命を果たすことにしよう。傍から見ると、3歳児の幼児が0歳児を2人引き連れているように見えるだろう。私とサンファイア、アスタリスはルケニアを顕現させて魂をルケニアに移し替えている。

─────────

・フラウドレスのルケニア:

エンプレス・オブ・インディア(黒薔薇)


・サンファイアのルケニア:

ラタトクス


・アスタリスのルケニア:

ニーズヘッグ

─────────

顕現されたルケニアが、幼児体型である3人をサポート。移動の際にもルケニアが作用する。ルケニアは母体に忠誠を誓う。母体への攻撃が確認された場合、瞬時に防衛行動を開始。ルケニアが顕現され攻撃と防衛を果たす。世界戦争にセブンス…こんな幼児を使用する理由がこれだ。ルケニアの力は恐ろしい。小さい小さい身体から発揮される凶悪なパワーは、各国がこぞって使用するに値する。日本帝国が最初にセブンスを発見したらしいが、間違いなくそこから世界の歯車は捻れた。

─────

セカンドステージチルドレンの原初が存在した国だからね。

─────

日本が敗れた。その現実を闊歩する度に感じる。足を歩める前から視界に広がる平地。大都会の街並みは消失。まるで元々こんな風景だったかのように思わざるを得ない。だが、なんだか私としてもこの景色の方がしっくり来るんだ。ちょっと自分の中でもどうやったらそんな真理にたどりついたかのか…思考回路が上手く掴めないが、そう思う。マーチチャイルド内で、“戦争”という言葉をよく聞いていたからかな。何となく、自分の中でも外界がこんな廃れた世界なんじゃ無いか…と認識していた。肉眼で映すまで、私個人のセブンス能力を使って外界の模様をモニターした事がある。その光景に納得がいかなかった。

「なんだ…戦争戦争なんて言ってるから、沢山の人間が施設を出れば、至る所で争っているのかと思ってた」

そんな事を口にまでしていた。

今までこうした大襲撃が行われなかった要因は何なのか。日本帝国軍が保有するセブンスの強さが一因にあると予測する。他に何か…あるのか…日本に…今まで外国軍が攻撃をして来なかった理由が…何か…、、、あるとするならば…私達が今、踏みしめている大地に現れる者なのだろうか。者…、、私は今、者と思ったのか…、、どうしてそこまで突き詰めるような仮定を立てれるんだ。

仮定なんだから、いいじゃないか…。自分が思うように行動すればいい。頭を回せばいい。もう誰かに操艦席を取られたみたいな被害妄想はやめにしよう。いい加減…。



同日、12時13分──。

みなとみらい出発から3時間。


「フラウドレス」

「なに?」

「今まで、シンクロテキストの中で、色んなことを喋って来て、フラウドレスに思うことがあるんだ」

「うん?どうしたの?」

「フラウドレスは3年契約を無視して、両親の元にいたんだろ?それは親から愛されていたっていう事だよな?だけど…」

「ちょっとアスタリス。家族の話はやめようよ」

アスタリスの行き過ぎた提起にサンファイアが制する。

「サンファイア、判ってるよ。判ってるけど、これだけは聞いておきたいんだ」

「いいよ、サンファイア。うん、話して」

「愛ってなんなんだよ」

「愛…?」

「そうだよ。愛だよ。俺は…愛を知らない。産まれてきて直ぐにマーチチャイルドに連れて行かれた。多分、親は俺の事を恨んでると思うんだ。なんでセブンスが産まれたんだ…てな。だから、俺はフラウドレスにような、自分を産んだ大人からの愛というものを知らない。どうやってその…愛というのは生まれるものなんだ?そもそも愛ってなんなんだ?フラウドレスから、両親との話を聞いたあの時から、頭にこべりついてるんだよ…」

「アスタリス、その話は…中々に難しい話になるけど…それでも大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。俺は何でも受け止めるつもりだぜ」

アスタリスから顕現されたルケニア、ニーズヘッグが幼児姿のアスタリスでは成しえない感情の解放…“懇願”をフラウドレスに見せている。それに応えようとフラウドレスは顕現。ルケニア、ブラックローズが姿を現し、アスタリスのルケニアを包み込む。

「ちょっと…!姉さん!」

「サンファイア。あなたも出して…」

「え…、、う、、うん…わかった…」

サンファイアもルケニア、ラタトクスを顕現。ラタトクスとニーズヘッグは黒薔薇の花弁と接触。黒薔薇から伝達される深層意識に迫る情報。海のように広大で、無数の生命組織が確認出来た。

「姉さん…これは…」

「フラウドレス…俺はただ愛を教えてほしいだけだぜ…、?」

「判ってる。判ってるよアスタリス」

フラウドレスが脳内で構成している情報が、黒薔薇を通して外部に伝達。そのままの情報が、2人に送られた。ここからルケニアとしての視点ではなく、自身の視点…サンファイアの肉眼、アスタリスの肉眼にて、フラウドレスが構成した情報を視認可能にした。

「これ。こうすれば、私の脳内で構成されている情報が一瞬にしてあなた達2人に伝わる。伝わる…というか、そのものって言うか…、まるでサンファイア、アスタリスの脳から思考したように、ラグの無い情報伝達速度を可能にさせた」

「え…凄い…」

「ああ…凄いけど…なんでこんなことしたんだ…?」

「2人が大切だから…」

「姉さん…」

「フラウドレス…」

2人はフラウドレスに心を寄せる。

「2人には私が思考した結果を直ぐに認知しといてほしい。私が考えた事を私の中で残したままにしたくないの」

「姉さんと僕の脳が直結する…って考えていいのかな」

「うん、そうよ簡単に言うと」

「へぇ〜面白いじゃん」

「アスタリスの問いに対して、この方法を用いて今回は伝えることにしてみるね。先ず最初に…私も愛が判らない」

「…え、、そうなのか?」

「うん…」

「で、でも…普通出産して直後、セブンスだった場合は直ぐにここに送られる。セブンスだと判明しても、3年間は家族との時間を約束される3年契約。3年契約は結ぶ家族はそこまで珍しい訳じゃ無いが、レアケースとは言える。3年契約を結んでいる理由は、親からの愛だろ?子供を愛したい…子供が本当に欲しかったから、3年という短い年月の中で沢山の思い出を作りたい…。色んな所に行ってアクティビティを楽しんで、その身体で食べれるような物を食べて、親と子で築かれる唯一無二の結束を形作りたい…そういう親たっての希望が3年契約を結ぶ理由だろ?」

「うん…アスタリスに一つ言いたい事が出来た」

「おう…、、、なんだ?」

────

「私より愛を知ってるよ」

────

「……え」

「姉さん…」

フラウドレスはルケニア間での情報同期を終了させた。ここからは直接対話。だが、フラウドレスは2人から顔を隠す。背中を向けながら話を続けた。

「うん…知ってるよ…私よりアスタリスの方が愛の形を知ってる…」

「いや…そんな事ねえよ」

「じゃあそれはどこからの情報?今言ったのは誰からの情報なの?」

「え、、、フラウドレスが言ったんじゃないか」

「アスタリスにもう一つ、伝えなければならないことが出来た」

「…なに」

「人の言うことを直ぐに信じるのはやめた方がいい」

「……は」

「ちょっと…姉さん…さっきから何を言ってるの?」

姉さんの様子が先程からおかしい。会話が噛み合っているようで噛み合っていない。それに過去にアスタリスとサンファイアに嘘をつくような素振りをしたことを急に吐露してきた。

「アスタリスがさっき言ってた3年契約を結ぶ形作りのやつって言うのは、私が憧れてた家族の形をそのまま伝えただけだよ。確かに私は3年契約を親が結んで悠々自適な生活を3年間送っていた。だけど最後の最後で全てがぶち壊れた。私は2人を殺して、3年契約が終了となるほぼ同時期にマーチチャイルドに収監された。私はその日…2人を死に追いやった日から、その日以前までの記憶が断片的にしか無いんだ。アスタリスに向けた形作りは、もしかしたら、過去に私が経験してきたことかもしれない…。だけど、固まった記憶じゃないから、素直に『うん』って言えないの…」

「フラウドレスは、俺に嘘をついてたって言うのか?」

「そうね。嘘をついた。アスタリスとサンファイアに嘘をついたのよ」

「…姉さん…なんでそんな嘘をついたの…?」

「フラウドレス…」

「あなた達…なんで渡しにそこまで身を寄せてくれるの?」

「…え」「…は」

「私があなた達のことを“大切”って言ったから?私があなた達に“生きていてくれてよかった”的な事を言ったから?どうして1年間ただただセブンスのマインドスペース上でコミュニケーション関係を築いただけなのに、こうも私のことを簡単に信じ切ってしまうわけ?ねぇ?答えてよ」

2人は無言を貫く。どうしていいのか分からないんだ。フラウドレスが怒っているのかすらも不明。感情のカテゴライズが一切読み取れない。そんな状況下なのにも関わらず、信用についてひたすら問い質してくるフラウドレスの口撃…。2人はただただ唖然するしかなかった。

「ほら、黙っちゃう…何にも考えて無いんでしょ?何にも考えてないのよ。私が特別だから?私がセブンスの中でも群を抜いて素晴らしい素体だから?私と一緒にいれば、取り敢えずはマーチチャイルドでの生活が落ち着くなぁ…なんて思ってたんでしょ?でも、言っておくからね。私は2人を心から信用したことは一度たりともない。絶対に無い。これからも金輪際ないから。一緒に行くのは構わない。それに私が過去2人に向けて伝えた言葉の解釈をどう変更しようとも構わない。私と一緒にいてくれなくても全然構わない。私は一人で奴らを殺しに行く。顔を見れば判るよ。いや、顔を見なくても判るよ。あなた達の深層心理は今、私の中にある。2人が私とのマインドスペースを拒絶しても、もう逃れようが無いからね」

「フラウドレス…お前……俺で遊んでたのか?」

「遊んでるんじゃないんだよ。どうしてそんな簡単に他人を信じようとするんだーって思ったの。その果ての行動をアスタリスは“遊び”として捉えたのがその質問の意義になってると思うんだけど」

「姉さん…ちょっとほんとに言ってる意味が判らない…僕は、姉さんに救われたんだよ!姉さんの心の支えがあったから、今こうして僕はいるんだ…。なのに急にそんな意味不明な言葉を並べられても困るよ!」

「別にいいんだよ?別にいいんだけどさ…その私への呼び方も物凄く気になってたんだよね…。うん、別にいいんだけど…、、、うん、、そこまでのことをした覚えは、私の中で一切無いんだ。ごめんね」

「…姉さん…ちょと…本当にどうしたの?」

「どうしたも何も…これが本当の私なのよ。嫌なことは何一つ言ってないつもり。これが普通の人格概念。あなた達2人が異常なのよ」

「異常なのはテメェの方だろうが!!!」

アスタリスがルケニアを顕現。

「アスタリス!」

「へぇー、なに?殺るの?」

「さっきっからゴチャゴチャと訳のわかんねぇこと言いやがって…お前…フラウドレスじゃねぇだろ?」

「…え」

「うん??何言ってんの?私は私よ?フラウドレスよ?それ以上でもそれ以下でも無い、正真正銘のフラウドレスよ」

「そうなら、ここでお前を殺す。もうこんなやつとは一緒にいれない。そして…お前がフラウドレスじゃないから…フラウドレスの中にいる“お前”を引き出して殺してやる」

「アスタリス!お前!何を言ってるんだ!姉さんに戦いを挑む気か?!それに…中にいる…って…、、、」

「お前、、なんで気づかねぇんだよ…、、毎日毎日一緒にいれば気づくはずだろうが…、、フラウドレスはフラウドレスじゃない…」

「…え…、、、」

「何かがフラウドレスを喰らい尽くそうとしているんだ…」

「なんだって…!何かって…」

「ンなもんフラウドレスの中にいるやつを、引きずり出して確かめるのみだ。サンファイアやるぞ」

「…うん…、、、判った…、、姉さんを救おう」



フラウドレスが急変した。アスタリスはこれを何者かが取り憑いている…と推察し、彼女の中にいる謎の敵を引きずり出しため、サンファイアと共に戦闘を開始する。

「えぇーー、なに?殺るの?殺っちゃうの?2人が私に勝てるとでも思ってるの?」

「それは…やってみなくちゃ分かんねぇだろうが!」

アスタリスのルケニアが解放。ニーズヘッグから放たれる火炎ブレスがフラウドレスを焼き尽くす。

「アスタリス!そんな事したら、、、」

「こんなんで…フラウドレスは力尽きはしねぇよ…だが、、、そん中にいるやつには効くかもしれねえ…」

「フラウドレスとフラウドレスの中にいる奴は、別の個体と考えているの?」

「そうだ。そう考えしか今は脳が回せない」

フラウドレスに放たれた火炎ブレスは直撃。回避するわけでも無く、一歩もそこから動かずに攻撃を受けた。その直後に地面に巻き起こった爆煙だが、3秒も経たないうちに、煙が振り払われた。

「いやぁ…、、、少し効いたかも…うん…少しね…、、、あのさぁ…なんてことをしてくれるのよ…、、あなた達、私のことを好いてくれてるんでしょ?信用しているんでしょ?信頼し切ってるんでしょ?じゃあこんなことやめてよ…私はあなた達と殺り合う気なんてないのに…」

「アスタリス…」

「嘘だね。またどうせ嘘なんだろ。なぜならお前はフラウドレスじゃないからだ。俺が今からフラウドレスの中にいるお前は殺してやる」

「中とか中とか…もう何なのてん。それにルケニアを向けるのはやめてよ…、、、そのドラゴン少し怖いんだけど…、、」

「うるせえ…ゴチャゴチャ言ってる暇があるんだったら…そこから失せやがれ!!」

ニーズヘッグが翼を高らかに広げ、フラウドレスに突撃。周辺は先程以上の激震で鳴動が走る。

「サンファイア!顕現だ!」

「うん…判った…姉さん…、、戻ってきて…」

顕現したラタトクスが煙幕の中に入り、フラウドレスを探す。すると煙幕の中心で佇む彼女の姿があった。それを確認した次の瞬間、ラタトクスが何かの力によって、一気に急上昇。煙幕を突き抜け、更に天空へ駆け昇る。ラタトクスの身体には、黒薔薇が巻きついていた。

「なんだ…どこまで行くんだ…!!」

サンファイアの制御が効かなくなるまで、上昇。雲海へと辿り着き、2秒間の沈黙の後、今度は急降下。黒色に塗られた茎が一気に降下を開始。サンファイアが意識を失うまでの相当な負荷ダメージをラタトクスは受けてしまう。枝によって身体が拘束され、更に黒薔薇の花弁が拘束状態にあるラタトクスへの直接攻撃を加える。腹部に花弁を突き刺す、尖角攻撃がラタトクスの顕現バイタルレベルを激減させた。

「サンファイア、私は残念だよ…あなたが私を攻撃してくるとはね…あなたは知ってるでしょ?私の強さを。私がどれだけ他のセブンスと違うのかを…そう、、知っているのに私に刃向かってしまう…。もう、、サンファイアは“人間”なんだね…、、私は残念だよ。殺したくないけど…殺さなきゃいけない個体生命に成り果てたから…殺すね。そうこうしてる内に、ほら、下を見てよ…もうそろそろ地上だ。このままこの速度で、君のルケニアを地面に叩き落とす。とんでもない速さでね。きっとグロテスクな場所になるよー…」

「おらァァァァアアア!!!!!」

アスタリスの顕現、ニーズヘッグが地上630m付近で待ち構えていた。屹立したフラウドレスの顕現、黒薔薇の茎を集中攻撃していたが、全く歯が立たない…。集中攻撃の最中、フラウドレスは急降下を繰り出してきた。茎が一気に地面に直進、次第に攻撃音が聞こえてくる。グサグサと痛々しい音だ。

「サンファイア!!」

───────────❈

「アスタリス…対応出来るかな…?」

───────────❈

脳裏に聞こえるフラウドレスの声。その直後、先程まで上を向いても同じ雲の広がる視界だったのが、ぶつ切り編集が成されたように、一回の瞬きを果たした時、視界には黒薔薇とラタトクスの戦闘が眼前に映された。あまりにもな、急すぎる戦闘の再開だった。ニーズヘッグは2人が瞬間移動してきた…としか思えなかった。そんな一瞬の隙も与えられない戦闘にニーズヘッグは為す術も無く参加させられた。イコール、ニーズヘッグが黒薔薇とラタトクスに直撃。垂直急降下エネルギーが重点的に加算され、ニーズヘッグには甚大なダメージが与えられた。

「アアァァああああァァァァアアア!!!!」

「サンファイア…!!ァァァアアアぁぁあ!!!」

ニーズヘッグへの急降下攻撃。

ラタトクスへの拘束突き刺しとニーズヘッグ正面衝突。

2人は激痛を受けながら、地面に叩き落とされた。辛うじて意識は取り戻した。ルケニアがどんだけのダメージを受けようと、死ぬことは無い。死ぬことは無いが、母体である宿主を手放す可能性はある。そんな危険域に突入しているのが、現在のサンファイアとアスタリス。

「ねぇーー大丈夫?私、、こんだけ元気なんだけど…本当に大丈夫?」

伸縮自在の茎。2人を叩き落とした後も上昇と下降を繰り返す。大地に根を張る黒薔薇は自身の身体をうねらせながら2人を心配というオブラートを包んで挑発。

天空へと屹立する美しき黒薔薇。クネクネと気味の悪い動きをするその様は美麗を他所に、地上に倒れ込む2人を嘲笑っているかのよう。


「大丈夫?やりすぎちゃったかな…。あのね、私…本当は2人と一緒に色んなことしたいの…それでね、こんな事にした人達を殺すのもそうなんだけど…私も知りたいんだ…。愛をね。アスタリスが言ってた愛のカタチ。いいよね…私もそんな愛にすっごい憧れてるの…」

「んんん…ううう……、、、ンンんん…ああハァハァハァハァ…」

「ハァハァハァハァ……、、、、、」

「あ、よかった…生きてた…もう心配したァよ…下に降りた方がいいかな…」

「…、、、、」

返答がない。

「そか…わかた。いいよ。下、行くよ。うん」

黒薔薇を顕現させたまま、長く長く聳えていた茎は短くなり、地中へと半分以上が収められる。黒薔薇が2人に近づく。

「行こうよー。ねえ、、、ねえ!!!」

応答がない。

「………………ねえーーーーー!!!怒るよ…」

そっぽを向き、攻撃態勢に入るフラウドレス。

「フラウドレス…」

「うわぁ!なに?サンファイア!」

呼び方を変えた事に全く違和感を感じないフラウドレス。

「僕達と一緒に愛を探しに行くんだろう…?」

「うん!そうだよ!……でも、、、その様子じゃあ歩けないよね…、、というか、、今の2人には歩行はできないわけで…ええーと、、ルケニアも、、使い物にならない感じだよね…、、」

「そうだ…フラウドレス…、、、君の願いを一緒に叶えよう」

ラタトクスが起き上がる。サンファイアの弱い声を発しながら。

「うん!じゃあ…いこ!」

「ちっ…このクソが………」

「アスタリスぅ…?もう、、私が先陣を切るのが、ソンんなに不愉快ぃ?」

「お前に着いていくつもりは無い。イカれたクソ女が」

ニーズヘッグが復活。

「ンまぁ、、そう簡単には倒れんわなぁ」

「なぁ…フラウドレス。お前とはもうちょっと殺り合いたい感じになってきたんだよ」

「うん」

「お前をここで殺す。もう決めた。中身と関係無い。もうお前という存在を今から消しに行く」

「アスタリス!ダメだってそれは!」

「なんでだ、もうこの女はこれらの知る女じゃない。フラウドレスはこんな事するはずが無いだろ」

「だからだよ!!フラウドレスはこんな事するはずがないだろ!だから、フラウドレスを助けよう…。中身を引きずり出すって言ったのは、お前じゃないか!!」

サンファイアとアスタリスのルケニア同士が衝突。

「あの……私、見てればいいのかな…」

「前から言っておきたかったんだが、お前のその男なのに、ナヨナヨとした雰囲気が気に入らねぇんだよ!」

「僕は男として気品のある行動をしてきたんだ…お前のような下品な言葉遣いのやつが、こんな年齢の時からなら、将来は最悪な人間になるんだろうな!」

罵る言葉の後に殴る。罵る言葉の後に殴る…。

「俺はセブンスだ!人間じゃねぇ!」

「いいや、セブンスは人間だよ。人間から進化を遂げた生命だから人間なんだよ」

「俺はこいつらとは違う!」

「違くないんだ!僕らは人間の身体を借りていなかったら存在していない…!確かにこうして僕たちの身体を利用する行為は許されることでは無い…。だけど、創造主が人間なんだから、僕達は感謝するべきなんだ。それは葬る行為を僕は許さないよ」

「なにを決めた顔で言いやがってんだよ!大体、こうして人間は全員死んだんだ。そして俺らはこうして生き延びてる。人間だったら死んでるはずだろうが!」

「進化した、と何度も言っているだろうが!」

「テメェの進化の規定が分かんねぇんだよ!」

「君は本当に頭の回らないヤツだな!」

2人のルケニアによる激突が止まらない。次の一手が繰り出されるとまたその攻撃を超えた力が相手から加えられる。そして、受けた攻撃を超える力で反撃をする…。そんな無情な繰り返しの衝突。

その様子を高みの見物で見守るフラウドレス。そのフラウドレスに徐々に2人のルケニアによる攻撃の衝突が生んだ影響が伝わる。

「へえ〜中々に凄いパワーのぶつかり合いだね。ウンウン、見ていていい気分にはならないけど、飽きはしないかな。ただやるんだったらもっと場所を選んでほしいものだね。どうせ、2人の位置情報なんて直ぐに特定出来るんだから、もうどっかでやってよー」

屹立中の黒薔薇と共に、嫌味ったらしく吐き捨てるように2人へ軽蔑の言を垂らす。屹立の黒薔薇が2人から距離を離そうとする。

「うーん、やっぱりやーめた!私もその争いに参加するー!だめ…??」

2人の取っ組み合いに突然の乱入者。二人の間には攻撃の隙があった。

「2人さぁ…もうバレバレなんだけど…」

「…」「…!」

「そうやって仲間同士の割れを私に見せつけて、油断した中を縫おうって気だったんでしょ?ねえー!違うのー〜!!??」

「…クソ…」

「どうやら…バレてたみたいだね…」

「もうホントに2人ってそういうとこ、甘いンだよね…あまあまだよ、あまあま。そんな事やらなくても、最初っから殺られに来ればいいのに」

サンファイアとアスタリスのルケニア同士は、互いに攻撃をし、衝突し合っているように見せかけた。だが、一瞬の隙に生まれていた“コンマ何秒の回避保険”がフラウドレスには容易に発見出来てしまっていたのだ。

──────────────◇

サンファイア、アスタリス

〈battle stage…backbone:19.137373/monologue〉


「アスタリス、このままじゃ勝てない…」

「クソ…ンなこと嫌でも言葉にするんじゃねえ…」

「だがこれは事実だ…何か打開策を見出さないと、確実に負ける…」

「俺に案がある」

「多分、僕と同じだよ…」

「そうか、、、じゃあ話は早えな」

「うん、姉さんは今、姉さんじゃない。あれは別の何かだ」

「えらく、抽象的に言うな」

「第2人格…とでも言うべきだろうか…姉さんに今までそんな素振り、見せられたことが無い…」

「偽ってた可能性がある…フラウドレスがまだ、俺たちに見せていない…見せるべきでは無い姿」

「じゃあ僕達も見せたことの無い一面を見せればいいんだ」

「見せたことのない一面…?例えばなんだよ」

「僕とアスタリスはよく衝突をする。そして、アスタリスは僕に荒い言葉で言い返すよね」

「そうだな」

「でも僕が君に荒い言葉で返したことは1度たりとも無いんだ」

「確かに…言われてみればそうかもな…」

「だろ?フラウドレスの今の人格を特定する方法が無い限り、前に進めない…。だったら僕たちの人格を変えればいいんだ」

「俺はどうすればいいんだ…?」

「アスタリスは、今までフラウドレスに見せて来なかった性格を露わにするんだ」

「…ぇえ…、、、それ、、けっこうむずくねぇか…、、」

「うん、今までのアスタリスの言動から察するに想像以上に神経を研ぎ澄ます必要性のあるセクションだ。だから、まず最初は僕が先陣を切る。僕がまだ…姉さんに見せたことが無い姿を露わにする」

「ンなもん、サンファイア出来んのかよ…」

「……分からない…僕は、、蛮行が出来るようなタイプじゃないから…、、だけど少しでも、相手の思い描く軌道からズレさせる事が出来たら、一矢報いる可能性はある」

「第1段階にサンファイア、第2段階に俺の人格変更…やってみなくちゃ分かんねぇか…」

「ああそうだよ。そして相手が僕たちの衝突に油断した瞬間、必ず生まれるはずだ。そこからは…」

「ギタギタにしてやるよ」

「そうだ…よし、先ずは第1段階、これでどこまでフラウドレスを引き付けられるかだ」

─────────────◇

「残念でした。私に見えないものは無いよ」

2人の衝突に介入する黒薔薇の花弁。2人のルケニアを切り刻む。激しい斬撃で再び、黒薔薇の前に倒れ伏せる。

「……あの…、、、うん、戦術は凄い良かった。うん、ちぇんじゅつはちゅごいよかたですよー。うんうん。ぱちぱちぱちぱち。あれ…、、拍手が鳴らないなぁ…私…ホンキで凄いなぁて思ってんのに…ホントだよ?ほんとうにすごいなぁ…て思ってたの。そんな簡単に私を欺けるんだーと思ってたその単細胞感がたまらなく意味不明で気持ち悪くて吐き気がしてどうしようも無い哀れで貧弱軟弱脆弱病的もいいところのコリジョン阿呆さんたち」

「アスタリス…僕は…もう、、、ダメかもしれない…」

「馬鹿野郎…お前…ここで諦めたら…、、俺ら本当に何も出来なく殺されるだけだぞ、、、、」

「もうそれでいいよ…、、、」

「あぁん?お前…、、ここに来て弱気な発言してんじゃねえよ…フラウドレスを助けるンじゃねえのかよ…、、」

「姉さんはもう、、消えてしまった…、、、あそこにいるのは…他者を軽蔑し、自己肯定感の身勝手な構築に努めるただの終わったセブンスだ…」

「おーーーーーーーい、それ、私のことーーーーーー?」

「お前以外に誰がいるんだよ…、、フラウドレスを返せ」

「サンファイア…お前…」

「…!あなた…凄いのね…、、、なんか、張り合えそうな雰囲気出せてきたじゃん」

サンファイアの怒りに満ち満ちた、エネルギー波動が謎の円環を発生させた。円環が次第にサイズアップを遂げみるみるうちに別の形態へと変貌。サンファイア及び、ラタトクスの周辺を周期的に回転する謎の高エネルギー円環。ラタトクスを纏うこの円環が、強力な重力場を発生。地殻変動を起こす類の強撃地震が起きる。

「なに…!?」

フラウドレスのルケニア、黒薔薇が地面に根を張っていた事もあり、地震によるダメージは相当なものである事が推察された。確実に体力を消耗している。彼女の弱点は根っこだ。

「サンファイア!」

「あぁ、大丈夫だよ…アスタリス…、、、意識はある…」

「お前…その力は…?」

「僕にもハッキリとは分からない…だけど…これだけは言える。今までの僕とは段違いで…強いってね」

「なにをキメたような口調で言ってんのよ…気持ちが悪い気持ちが悪い…あーー、気持ちが悪い…」

「お前を潰す…そして、、、フラウドレス…姉さんを助ける」

「無理無理無理ムリムリむりむりむり。絶対にむりだよーーー」

「君の弱点は読めた」

「はぁ?」

「君は…独りが怖いんだろ?」

「……、、、」

「ねぇ…そうだろ?そうやって、自分に認識行動を向けて欲しいから、嫌なことを言って、人の気を引こうとしてるんだよ。そのやり方があまりにも人を刺す言い方だから、君には仲間ができない。だけど、君にはそのやり方しか知らないんだ。君がどうやって姉さんの身体を乗っ取っているのかは知らない」

「お前はフラウドレスと何の関係性があるんだ」

「そんなこと、お前たち2人に言ってなんの意味がある…」

「君は、心が弱い」

「はぁ?…、、いい加減にしてくんない?」

「君が言ってた言葉だよ。君が言った言葉を僕が今、そのまま伝えて見ようか?君はきっと、二度と立ち直れなくなるぐらい、泣きじゃくると思うよ」

「……、、、、お前…サンファイア、、、私の、、なにを見たぁ!?!!!?」

「君が信頼を寄せている幻夢郷のドリームウォーカーとコンタクトを取ったんだ」

「なに!?い、いつの間に…!」

サンファイアのルケニアが臨界覚醒。あの絶大な力で構成された円環が黒薔薇を襲った時、サンファイア自身の魂は、フラウドレスの中に眠る深い深い深淵の最奥に棲む幻夢郷を確認。サンファイアはフラウドレス…いや、ヘリオローザの幻夢郷を見たのだ。

と、いうことで久々のフラウドレス編です。

「リルイン・オブ・レゾンデートル」は様々なキャラクターが登場すると共に、ストーリー進行もまばらです。連続的にシナリオを執筆しない理由は…まだ書きたいと思えないからです。

たとえば、アンリミング編は現在、フィルムレスストレージからの脱出パートに入っています。その後、リルイン正史上、最大の事件である《超越の帝劇》が始まります。今の僕の執筆力では超越の帝劇を書けないんです。プロットは既に完成しています。なのですが執筆力が足りてません。そんな力をつけるために、寄り道をしているんです。だからといって手を抜いているわけではありません。フラウドレス編も重要なパートにこれから突入しますし、エリヴェーラ編も《ユグドラシルの為政者》を見つける旅がありますし、ダラノヴァ&セリュール編の《盈虚ユメクイ》もあります。今、執筆可能なレベルのシナリオを果たそうとしているのです。


まぁあまり、?深読みはしないで大丈夫です。普通に、単純に、フラウドレス編を真っ先に書きたいからなので。

フラウドレスvsサンファイア&アスタリスという構造が出来上がってしまいました。ですが、フラウドレスの様子がおかしいですね、、、


次回もよろしくお願いいたします。

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