[#60-生残者達の黎明]
フィルムレスストレージ編、ファーブスの場合。
[#60-生残者達の黎明]
「ソイヤさ、トロイズ担当の収容者、手を出したんだって?」
「そうだよ…もう最悪だよ…」
「中々手をつけられないからな、あのガキ共」
「ファーブスは良いよな、相変わらずの幸せ具合なんだろ??」
「いやいや、俺だってもう毎回大変だよ…」
「良いじゃんかー、授業ほぼサボってるようなもんだろ?」
2人にはアンリミングとの関係性を伝えている。2人は俺と彼女の密接な仲を羨ましく思っているようだ。それもそのはず、フィルムレスストレージはあくまでも児童養護施設。問題のある子供が送られる場所だ。
アンリミングという存在は特異。2人と会話しているといつも、アンリミングとの近況を伝えるフェーズに入る。俺も悪い気はしないので、乗せられるように話す。
「んで、相変わらずか?彼女の天才っぷりは?」
「そうだな、いつも通りだよ。もう俺もよくわかんねんだよ」
「やっぱり、、、噂は本当なのかな…」
「噂?」
「なんだ、ベヘリット知らないのか?彼女が、セカンドステージチルドレンだっていう噂を」
「え?マジでか??」
「ファーブスは知ってるだろ?」
「いや、、、知らないな…、どこから聞いたんだ?」
「施設のヤツが言ってたんだよ。あの服装から察するに管理者だ。管理者が言ってたんだよ」
「管理者か…緑色の軍服を着ていたんだな」
「そうだそうだ、俺は睨んでるぞ、アンリミングはセカンドステージチルドレンだって」
「でもお前、見た事ねぇんだろ?」
「まぁな」
俺は2人の会話に参加せず、静観を貫いていた。不用意な発言には気をつける。アンリミングが超越者だ…という話から、離そうと別の話題を提供してみる。
「まぁな…んな事より、今日はヤケに多い日だよな」
「うん?そうでもねぇだろ。ンでさぁ、アンリミングに何か変わった箇所とかあんのかよ?」
ダメだ、もうこの話題で港湾都市まで持ち切りになる空気だ。
「いや、、、俺は…そんな事は無いと思う。セカンドだなんて、到底思えない」
「まぁそうだけどよ…あまりにも天才が過ぎるんじゃねぇかって話しよ。あの年齢で高校生いや、大学生レベルの頭があるらしいじゃん」
「それ、どっから聞いたんだ?」
「管理者だよ」
管理者…この施設を管理するのが仕事なら、そんな事を一々言いふらすのはやめた方がいいんじゃないか…。それだったら個人個人のマンツーマン授業の意味が無い。俺は子供の個人技能を、プライバシーに関連する事項だと考えている。それが76人に一人ずつ担当の教育者がいるという事だ。
「あんまり良くないな、管理者が子供の情報をチラホラ言うってゆーのは」
「いやでも、アンリミングは…やっぱり…そうなんだろ…」
「ベヘリットは見た事ないんだろ?そもそも論で」
「ああ、トロイズもだろ?」
「そうだな、見ない。おいファーブス、本当に本当にほんっとうに、何も違和感感じないか?」
「お前しかアンリミングをよく知るのはいないんだよ」
教育者が見る子供は担当の子供のみ。だから俺も2人が受け持っている子供の素性を言葉の内容を通してでしか知らない。
「だから、何も無いって。普通の女の子だよ。ちょっとおかしい感じのな」
「ちょっとて…お前ずっと授業中遊んでんだろ?何が“普通”だよ」
「有り得ねぇからなそんなの…授業内容は90分ミッチリになるよう前もってセッティングしてるんだ。これを…おい、前何分で終わってるって言ったんだっけトロイズ?」
「5分だ」
「5分なんて有り得ないだろ!」
俺はなんでこんなヤツらに真実を話しまくってたんだろうな。そうだ…当時は彼女の天才っぷりに圧倒されて、自分の中で処理し切れなかったんだ。アンリミングには申し訳無い事をしたが、これが通常の大人の反応だ。だが施設の人間には言ってない。気心知れた仲間にしか言ってないのが、安心剤と言った所だ。
「2人、その事って誰にも言ってないよな?」
「ああ、まぁな。なぁ?」
「うん、、まあな。一応は黙ってるけど…」
「頼むぞ。広めないでくれ」
「なんでだよ?」
「彼女が施設で目立っちゃうだろ?そんな存在にはなりたく無いんだよ、あの子は」
「へぇー、お前ヤケにあの収容者を守るんだな」
「そんなに仲良くなっても別に意味ないんだぞ?」
「そう、どうせ、またどっかに送られる事になる。この施設の決まりだからな」
「俺はそれの方が気になってる。何故子供が急にいなくなるんだ?」
「それは…本当に謎の件だな」
「指導者も管理者もここはいっつもダンマリを決め込んでる」
「もしかすると、指導者以上の役職も知らないんじゃないか?」
一夜明けると子供が少数いなくなる現象。教育者にとっては怪現象とは思えず、何か不穏な出来事が起きていると考える者も少なからずいる。俺達はその中の三人だ。
中でも、トロイズは俺とベヘリットよりも2年以上長く、フィルムレスストレージの教育者として働いている。担当だった子供が、次の日には変わっている…なんてもう慣れたもんだ。
「なぁ、トロイズ。指導者以上のヤツらに追求はした事無いのかよ?」
「そりゃあしたよ」
「回答は?」
「ダンマリの上位互換」
「無視か?」
「途方に暮れ、目線が彼方を見つめるぐらいのやつ」
「相当だな」
「だけどもう慣れたからな。俺は仕事が出来てればそれでいいし。あんまり深く考えないようにしてる」
「いや…いくらなんでもな…何も言わずにいなくなるか?施設が許してるって事だろ?それを」
脱走でもない。そんな事フィルムレスストレージにいる子供に出来るはずが無い。一人を除いては。
「親が来たんじゃないか?」
「保護者がぁ?夜にぃ?」
「だとしても担任の教育者に少しぐらい一報入れてもいいだろ。蔑ろにし過ぎだろ」
「そんな事言っても、お前は別に収容者に対して微塵も肩入れしてないんじゃないのか?」
「まなぁ、誰でもいいんだけどさあ仕事出来れば。ただな、流石に急に消えるっていうのはすこーし、思うよな」
意外だな。金だけ貰えればそれでいいという精神だとベヘリット対しては思っていた。
「話し相手になれる感じの雰囲気なんだろ?」
「うんそうだな、それ以上の関係かもしれない」
「え??それ以上ってどういう事だよ」
「あ、いや、そういう意味じゃなくて、なんつーか…兎に角、話の規模が子供じゃないから俺も戸惑ってるよ」
アンリミングの会話には隙が無い。どう転んでも最終的には彼女がボールを持っていて、得点につながっている。人生を3周もしているぐらいの知識量。
俺はこれが、セカンドである事が理由なのを知っている。どうしようか…言った方が気持ちは楽になるのか…でも、彼女は望んでいないはずだ。
彼女の思いを汲み取る…言葉通りでは無いが、これに近い誓約は交わした。守ろう、絶対に。
「まぁでも、なんか他にな、違和感みたいな?アンリミングに何か異変があったら、施設に言うべきだぞ?俺らはただの教育者。ここから先は指導者以上の人間が判断することだ。じゃなきゃ、ファーブス。クビだぞ?」
「ああ、わかったよ」
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『アンリミング・マギールには手を出すな』
そんなことを口にしていた管理者。
俺はその日から、管理者の事を信じきれずにいた。
だから、トロイズの言った事を鵜呑みには出来ない。
アンリミングの秘密は施設の人間はもう既に握っている。
夜、いなくなる。
子供が急にいなくなる。
何日何ヶ月何年単位でいなくなることは知らない。
急にアンリミングが連れて行かれる…。
彼女の親の話を聞くだけだと、とてももう施設に迎えに来るとは思えない。意図的なものを感じる。
施設に送った理由。
親は知っていたんじゃないのか?
我が子が…
セカンドステージチルドレンであることを。
投げ出したんじゃないのか…?
自分達ではどうする事も出来ず、何をしてやったらいいのか…分からなくなった…。
血迷ったんじゃないか…?
それだったら…ニゼロアルカナがあるじゃないか。
あそこはセカンドステージチルドレンを由緒ある生命へと矯正するプログラムが組まれていると聞く。
セカンドの溜まり場というイメージが拭い切れないが、彼女の現状を鑑みるに、矯正プログラムを施す必要は無いと思う。
ニゼロアルカナは、テクフルを平和へ導くために作用している重要な場所だ。
きっと彼女にとっても、ニゼロアルカナが性に合ってる。
問題児が多いとは思うが、意思疎通などは時間という平等に与えられた薬が解決してくれる。
こんな児童養護施設よりも絶対に良いに決まっている。
施設に言ってみるか…。彼女のために。
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「おい、見ろよ」
「もう見えてるよ」
ベヘリットが指差した先には、現在向かっている港湾都市の全景。
現時刻24時を回り、12分が経過。辺りを照らすのは幹線道路に備えられている電柱式街灯。電柱のように配線がまとわりついており、等間隔に置かれている。要は電柱にライト機能が備わったと思ってもらっていい。
そんな暗闇に包まれたラティナパルルガ大陸。
大陸南方エリアは、この時間帯になると活気が湧く。ディーゼリングスカイノットは、ラティナパルルガ大陸の流通を支える重要な物流ターミナルセンター。
他大陸の輸送船、豪華客船、プライベートシップ、多角式格納庫、巨大食品市場、鉄道アクセス、貨物駅、海底調査に使用する潜水艇、更には大海からの攻撃に際して使用される《原子力潜水艦グウリューザ》等々、海に関連する、“物資”、“乗車物”、“防衛機関”の全てを受け持つ最大の港湾都市だ。
大陸間の交流を深める場所としても重要な役割を果たす。他大陸の大使が来日する時とかは物凄い重警備部隊が配置される。
物資調達を行う俺らには関係ない。
ましてや俺なんてディーゼなんちゃらに行く事は、この物資調達のみ。特段俺には不必要な物ばかりが集まる場所。“俺には”っていうだけで他の人間が必要としているのは間違いない。需要と供給の均衡が上手いように絡んでいるのが伺える。そうじゃないとこんな規模には成長しない。
港湾都市に着いた。
道中は閑散としていた。我々が帯同するトラックぐらいしか道路を走っていなかった。どうやら、少し遅めに施設を出たのが功を奏した。この時間になると港湾都市への出入りが急増する。
相変わらずの活気。深い時間なんてお構い無しに、人が行き交う。男臭いイメージがあると思うが、案外そうでも無い。女性も普通に働いている。
主には市場機能を支えるのは女性だ。配属先は港湾都市労働組合が制定するため、港湾都市で働く者は部署を選択することが出来ない。
これだけ聞くと、理不尽というか融通の利かないというか、不満が募る決まりだと解釈してしまう。
だが実際は、そうでも無い。
報酬額の多さが労働者達の心情を工面してくれている。
報酬額の潤沢さはディーゼリングスカイノットを運営・管理している《イサキオスホールディングス》の傘下グループであるのが十分な説明に該当する。
テクフル全土の商業施設、研究施設、軍事兵器開発ラボ、港湾都市の営業権利を取得しているイサキオスホールディングスは、テクフルのインフラ整備を支える大手企業だ。
イサキオスホールディングスが着手した事で、港湾都市の流通は劇的に進化。
悪く言ってしまえば、テクフルを牛耳る最高機関だ。
「ここで止まるか…」
「よし、降りるぞ」
「始めようか」
事前に配布された物資調達リストを確認。3人でリストに記載された物資の調達へと行く。今回リストに記載されていたのは食糧と施設グレードアップ資材。
食糧は理解出来る。通常通りの内容。
「施設グレードアップ資材?」
「なんだそれ?」
「いやほら、これ」
「聞いたことないな…」
「まぁ、、インテリアみたいな?施設で使用する機械物がバラバラになってるんだろ」
「なるほど、それで後から組み立てるっていうわけか」
「んで、それの組み立てって…」
「………俺らだろうな」
「はぁ、、」「はぁ、、、、」
「とりま、、行くか…」
「そだな、やんなきゃ終わんないしな」
「ゆーつー…」
物流拠点・ウォーターフロントエリア・ゲート──。
ウォーターフロントエリアは貿易港。他大陸との物資交流を行える玄関口だ。
ここに来た目的は前者に相当する食糧を調達するため。
何回も来ている所なので、特に迷うことも無くセンターへと向かう。
「ウォーターフロントエリアは現在、貨物駅からの物資配給を待機中。貨物列車が到着次第早急な指示を願います」
「各バース施設にて、第1から第4レベルまでのワーキングサポートを開始」
「超大容量コンテナ、零式対応可能な空きスペースはありますでしょうか?」
「運搬バースから排出中のエアフィルターから、廃材の漏洩を確認。至急管理官の指示に従い、担当員の対応をお願いします」
「埠頭エリアに繋がるミニマムブリッジにて、交通渋滞が発生中。食糧市場に繋がる地上線に余裕があります。埠頭エリアへ行く際は、地上線からの迂回をお願いします」
「ロジスティクス機能が前日の12%マイナスにて効用中」
「今日はそんなにうるさくないな」
「そうだな、うるさい時はもう耳栓持ってくレベルだからな」
「ああ、もうこんな会話も聞こえねぇぐらいにな」
食糧センターに到着。貨物列車が停車していない。
「なぁ、このリストから見て、今日は貨物列車待たなくていいんじゃないか?」
「うん、そうな…確かに、、、コレだったら船の分だけで十分かもな」
「よし、行くか」
「そだな」
普段、食糧の物資調達は海からの輸送船、陸からの貨物列車。2つの物流から食糧を確保する。
今回のリストで指定された物量から察するに、貨物列車からの物資は調達はしなくてもいいとの判断がベヘリットから下された。
俺とトロイズはそれに同意し、貨物列車の到着を待たずに船からの物資へと足を進めた。
船と貨物列車の物資内容は大きく異なる。当たり前だが、輸送船は他大陸からの交易方法として機能している。
ので、船からはラティナパルルガ大陸からでは入手出来ない貴重な資源を手に入れることが出来る。
一方で貨物列車は、ラティナパルルガ大陸北方からの資源を外周で繋げ南方、各地域へと届ける。
そしてディーゼリングスカイノット港湾都市を通して他大陸へと繋げる。つまりはラティナパルルガ大陸に住む者からしてみれば、いつでも入手出来るような物資。レア度的にはコモン程度。
なので、貨物列車からの物資は優先度的には低い。
まぁそれも、リスト次第ではあるのだが…。
しかし、今回の調達リストは貨物列車からの物資願いは無い。輸送船からの物資が対象だ。このケースが一番調達をしている身としては楽だ。あっち行ったりこっち行ったり、一つの調達で収められないのが少しキツイ。
物資調達を行っているのは俺達だけじゃないし、数多くの調達員が集まっているからな。ごった返しも当然ある。
あまりそれには出くわしたくは無いものだ。
同じく、ウォーターフロントエリア・ポートゾーン──。
「やっぱり今日は人いるなー」
「ああ、さっさと済ませて、残りの物資も貰いに行こう」
「そうだな」
輸送船の目の前まで着いた。見上げると首がもげそうになる。そんぐらいの眼前までやってきた。
「すみませーん」
「おお!ベヘリットか!」
「《ベンチュア》さん!久しぶりですね!戻ったんですか?」
「おうそうよ!上の連中の命令だからな、都落ちだよ」
「上の連中?」
「決まってるだろ?イサキオスだよ」
「ここを運営してる企業ですね」
「イサキオスからの命令には逆らえないからな。だけどな、俺の能力を見込んでのことらしいんだよ。そう言われちゃうとなぁ」
「ベンチュアさんはホント、褒め言葉には弱いんですよね」
「まぁなぁ…、、やりがい感じてるから何も言い返せねぇんだよ」
ベンチュアさんは港湾都市に長く働くベテラン。長く働いていると、イサキオスのお偉いさんが注目する。個人の能力を港湾都市データサーバーから絞り出し、今までの功績を表彰する。ベンチュアさんはイサキオスから認められたプレイヤー。
長期勤続すれば、獲得できるものではあるらしい。
ベンチュアさんは《イサキオス公認勤続員》を何度も傍で見ているという。そうか…ベンチュアさんは10年は働いてるから、港湾都市に籍を残してさえいれば、自動的にイサキオスからの注目度が上がるのか…?イマイチぱっとはしないな。これだとツラツラ何もしてない人間も上級組合員となり、優遇が決定される。能力も無い人間がそうなってしまうと港湾都市の将来が危ぶまれる事となる。
ベンチュアさんはそれには該当しない人物。
物流のコントロールを行う重要なターミナルオペレーターとしての役割を果たしている。物資調達をする側人間は、ベンチュアさんのコマンド捌きはいつも有難く思っている。調達リストを渡しさえすれば、内容物を直ぐに用意してくれる。
輸送船から運搬された超大容量コンテナ。これが何個も存在し、中には食糧を中心とした物資が格納。
一体どうやってここから、調達リストの内容物を直ぐに取り出しているのか。それはターミナルオペレーターであるベンチュアさんにしか判らない。
「ベンチュアさんはどこにやりがいを感じてるんですか?」
「物をどこの誰よりも早く、知る事ができるっていうところだな」
「物を早く知れる?」
「そうよ、港湾都市…特にラティナパルルガの港湾都市は本当に多種多様な物資が入ったり送られたり、凄いことになってんだぜ?裏って。その裏側を見ているとな、この世界でこれから話題になる物とか、話題になっている物とかを直ぐに把握出来るんだよ。勿論そうなると、逆の意味も作用するな」
「見なくなった物は人気が無くなって来ている」
「そうよ、今まであんなに梱包されたボックスを確認したのに、そのボックスはもう無くなっていく。世間の流行りっていうのは怖いもんだよな。でも抵抗の意を示すように、増えたり減ったりを繰り返す。どうしても、売りたいんだっていう販売会社の意思を感じるよな。そういう物流の亜空ステーションにいると、テクフルの現状を見れて楽しいんだよな」
「物資が、テクフルの現在を暗示している…」
「なんか、面白そうですね」
「ちょっとー?俺らは何をしに来たんでしたっけぇ?」
「あー、ごめんごめん。もう2分前から準備は出来てたよ」
「早っ!」「はやっ!」「はっやっ!」
「コンピューター触ってるの見てたろ?お前さん達と話している時にはもうほとんど準備出来てたよ」
「やっぱり凄いっすね…んでぇ、、、運搬方法は…」
「この量だと、パレタイズで済むだろう」
「何枚ぐらいですか、、、、」
「3枚だな、そんぐらいで済むぞ」
「フゥー良かったぁ…」
「だが少し気をつけろよ。なるべく外部的な危機を抑えたつもりだが、身体が持っていかれる可能性がある。しっかりと重心を軸にして、気を抜かないようにトラックまで行け」
「わかりました、ありがとうございます!」
「では、今日もありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
「おうよ、気をつけなー」
「よし、食糧を手に入れた。大丈夫そうか2人とも」
「うん、、、ちょっと今日は重いね…」
「背負ってる訳じゃ無いんだから、頼むよ耐えてね」
「ぁーーい…」
パレタイズ。調達した物資をマイクロサイズに変更し、背中の積荷に載せるというもの。だが、マイクロサイズにしたはものの、重量は遜色無く通常サイズの重さを継承している。見た目は完全に小さくなったのに、重さを変えることは出来ない。こんな機能を開発した人には、もう少し頑張って欲しかったものだ。
パレタイズは身体にストランド式の腰巾着を巻き付けて、牽引する運搬方法。これを3人で一つずつ牽引する形になる。
「よし、行こ…」
「割と重いな…」
「大丈夫大丈夫…きを、つき、、、よう…」
物資調達員専用のキャリーロードがある。港湾都市に訪れる者は数多い。利用者が同じ道を行き交ってしまうとカオス状態と化し、人口雪崩が発生してしまう。その事故を未然に防ぐべく開拓されたのがキャリーロード。
──
「ここは、高架キャリーロードゲートです。利用対象者は一人重さ8kg以上の物資を運搬している物資調達員並びに、スカイノット勤務職員です。キャリーロード利用の際は、スカイノット入港時、港湾都市ゲートにて使用したIDパスポートをコードリーダーにかざしてください。では本日も、皆様怪我のないよう頑張っていきましょう」
──
通常利用者が使用するのは地上。
物資調達員が運搬物をトラックまで運ぶ迄には、このキャリーロードの使用が約束される。高架道路である事により、渋滞は緩和。利用者との衝突も無く安心安全にトラックを駐車してあるパーキングエリアまで向かう事が出来る。よって問題無くトラックまで食糧物資を運搬。
平行式エスカレーター遊歩道な事もあり、超快適にスイスイと進行。その際に視界へ映される景色がこれまた素晴らしい。高架道路の真下には懸垂式モノレールが走っている。懸垂鉄道は主に港湾都市と他地域を結ぶ唯一の交通網。港湾都市で勤務する者はほぼ利用するアクセスラインだ。
港湾都市の夜景は目を見張るものがある。これは夜中に働く者にしか訪れない至福のとき。決してネットで検索した結果のものより、圧倒的に臨場感がある。
「この景色を見るために俺らは頑張ってる」
「まさしく」
「まさしく、だね」
「あそこ、ツインサイドか」
「結構遠いけど、見えるんだよねー」
「ツインサイドはデカいからなー」
「行きたいな…」
「トロイズ行ったことないのか?」
「いや、ないよ。あんなところ」
「中々、行く機会が無いからさ」
「まぁな、ツインサイドで買える物も、実際ここで買えちゃうしな」
「勤務割引も適用されるしな」
「カンペキだろ、ここって」
「完璧よ」
「ぱーぺき」
この景色は何回も見ているのに何回でも感動出来る。噛めば噛むほど…そんな子供じみた言葉で完結出来るものじゃない。とても雄大な景色だ。ただこの景色。明るい時間帯で見た事が無い。ライトが光り輝く夜景としてのツインサイドと港湾都市、その他のラティナパルルガ大陸領土しか展望した事無い。どんな景色なんだろうか…。昼時の景色。気になる…。
「あそこってさ…」
彼方を指差すトロイズ。
「ブラーフィ大陸だな」
「きっれいだねー」
「ここさ、南方じゃないよね?」
「いや南方ではあるけど、ツインサイドの方が南方だから、遠い感じではあるよ」
「それなのに、ブラーフィ大陸も綺麗だね…」
「ブラーフィ大陸の北方も港湾都市があるからな。ラティナパルルガ大陸の南方、トゥーラティ大陸の北方。貿易を繋げるには当然の配置だからな」
「それもそっか」
ベヘリットの解に、納得がいきまくるファーブス。
「港湾都市以外にも、、、あのライトの集合都市は《ニレネイズ》、その隣に見えるのが《ブレックバロック》、んで、港湾都市の《ディーゼリンググランドノット》、んで隣の軍港が今は無き北方軍事基地。セカンドにやられた果の姿だ」
「当たり前だけどライトアップされてないからよく見えないね」
「セカンドの侵食が過激化している。俺達もいつまで生きさせてもらえるか分からないってわけだ」
「平和って長続きしないもんだな」
トラックに到着。遊歩道はやっぱり楽だな。港湾都市に来るだけでも大変なのに、疲弊し切った状態だから余計にありがたさを巡らせる。
荷台に牽引物資を積載。3人それぞれが食糧の積載を終え、残すリストは施設グレードアップ資材と書かれた物。
「見た事ないな、はじめましてのものだ」
ベヘリットは俺らよりも、歴が深い。そんなベヘリットも初見な施設資材のリスト。
「初めての物なんかあるんだな」
ベヘリットが見つめるリストに割り込んで見入ってくるトロイズ。
「まぁたまにあるけどな、最近は珍しいもんだよ」
「でも、やんなきゃ終わんないんでしょ??」
「勿論、やるしかない。ええっと、、、これがあるのは…軍港か…」
剣戟軍の所有地。主には剣戟軍の海軍基地としての役割を担っている。戦艦、原子力潜水艦、航空機など海と空への防衛戦を目的とした主力兵器を展開している。
剣戟軍は好きだ。
いつもセカンドステージチルドレンとの戦闘リザルトが公開されると、決まった情報ばっかり。敗北だの、SSCに関する重要な手がかりは確認出来なかった…だのマイナスにしか転ばない敗残の連続。
それが最近、レッドチェーンの影響で戦況が一変。SSCへの対抗策を見出した剣戟軍は、SSCを思うがままに制圧。襲いかかるSSCを物怖じせず迎え撃ち、SSC遺伝子攻撃を無力化。無力化されたSSCはレッドチェーンと同等の兵器が作用した特殊拘束具で四肢を固定。
捕縛されたセカンドステージチルドレンは、強化人間隔離施設ニゼロアルカナへと送還されている。今、人類は勝利に向かい突き進んでいる。その力は日に日に増大し、敗残の記憶が薄れていくほどに目まぐるしい進化を遂げていた。
我々人類にとってはこれ以上無い嬉しさだ。
セカンドステージチルドレン。
人類の原罪にして、今尚生き続ける悪魔の末裔。
それが、あの子の身体にも血として流れている。
これが世にバレたら…彼女はニゼロアルカナに送還される。
だがそれを施設の人間は知っているような口ぶりだった。
あれはなんなんだろうか。
ニゼロアルカナ。
警戒性のある攻撃SSC、正常安定のSSC。
ニゼロアルカナはこれらのSSCを分類し、それぞれの対応を実施。間違いなく、破壊活動を行うSSCは悪性と見なされ相応の処罰が与えられる。
正常安定のSSC。これに分類されるSSCに関する、ニゼロアルカナからの一般公開情報は無い。
たとえ、アンリミングがニゼロアルカナに送られたとしても、悪性では無いため処罰を受ける事は無いだろう。安心だ。
ディーゼリングスカイノット 剣戟軍ソルジャーポート──。
「軍港バースは第4ハブステーションまで、兵器製造を継続中」
「ダメージコントロールが故障中。1時間以内の早期復旧に務めてください」
「剣戟軍調査部隊が、軍港への入港パスポートを発行」
「可能性は捨てきれず、以下の兵器を随時軍港へ運搬します。赤い鎖プロジェクト概要兵器…試作式レッドチェーン、レッドプロダクト、レッドクラウド、レッドバゲージ、レッドロックブラスト」
「ツァーリシリーズの新造に必要なマテリアル確保に伴い、現地開発企画派遣部隊がトゥーラティ大陸を離陸。3時間後に到着予定」
「警備部隊は軍港ゲートからの離散を許可する。デバイスにて指定された箇所への移動を開始してください」
「人工島開発計画は予定通り、イサキオスホールディングスのシキリツ重工が担当。剣戟軍は領海内を航行警戒する事が決定しました」
「当該アナウンスは、イヤー型サイトカインにも10分間隔で送電されます。不快だと感じた場合は軍港ブラウザからの、システムオフを」
「現在、カデシュ・シー付近にて津波が発生中。ラティナパルルガ大陸、ブラーフィ大陸への災害規模は最小限なものと判明。警戒巡視ヘリと気象測量艦が津波付近に接近。この後、2分後に視認結果が発表されます」
「ユレイノルド大陸港湾都市からの応援信号を受信」
「軍港管理の弾道ミサイル、格納庫にて攻撃規模を測定中」
「物資調達員の軍港入港許可を」
「承認。港湾都市パスポートの携帯を確認」
「やっぱすげぇな」
「ハイテクノロジぃー!」
港湾都市の中でも一際目立つのが、軍港。先程調達していた港からは一線を画すぐらいの規模の大きさだ。トロイズと俺は興奮。身体は隠そうとしていても、興奮した顔は隠し切れていないベヘリット。それぞれの反応が見ていて楽しい。
「中々こんな…軍港なんてな!」
「いや、来ないよ…軍港に物資調達物が本当にあんのか?」
「リストに書いてある。絶対ココだよ」
【施設グレードアップ資材】の内訳を詳細に記載してある調達リスト。
───────────────┐
物資調達リスト②
◆施設グレードアップ資材
内容物:施設グレードアップ資材
───────────────┘
「施設グレードアップ資材が…“施設グレードアップ資材”…」
「詳細は俺ら調達員には教えてくれないって言うことか」
「なぁんだ、中身を確認出来ずにそのまま施設へ運べってか?ちょっとぐらいは中身教えてくれてもいいじゃんね?」
「まぁ、、気にはなるよな」
一応ここで先程調達した食糧のリストを再確認する。
───────────────┐
物資調達リスト①
◆食糧
内容物:米、小麦粉、食用油、精肉(牛、豚)、食肉加工品、野菜一式(キャベツ、ナス、カボチャ、ニンジン、トマト、リンゴ)
───────────────┘
こんなにも事細かく記載していたのに、施設のヤツは大雑把すぎるな。
我々の職務上知らなくていいことは多々ある。施設の都合には色々と厄介なものがある事も知っている。揉め事には発展などさせたくないので、これ以上の詮索はやめにしよう。
軍港中心拠点に着いた。軍服姿の男達が歩いてはいなくなり、歩いてはいなくなりを繰り返す。人口密度は低い。広い拠点の中で、最小限に抑えられたオペレーション。
それもそうだ。
現在25時16分。
軍務規則というか、社会人としての勤務時間はとっくに過ぎている。俺らのような深夜に働く者は別として、普通は深い眠りについている頃だ。
でも、さすがは剣戟軍。警戒システムをそのままに通常時のフォーメーションにて戦闘待機中のようだ。
こんな時間にも、奴らの魔の手から人類を守るために。
SSCへの対抗策を打ち出した今、剣戟軍は勝つ事を明確な目的としSSCの駆逐を決行する。
“いつでもかかってこい”。
そう聞こえてくる。
「物資調達員の方々ですかァん?」
「ああ、そうです。えっと…」
「私は剣戟軍軍港の案内人…“ナビゲーター”を担当していまッすぅ…《ラズマーク》上級補佐官と申します。困った人を助けるなんでも屋さんと呼んでください…以後お見知りおきを」
「ああ…はい…」
「港湾都市メインゲートにてリストアップされた内容物は確認されています。ささ、いきましょイキマショ」
「もう、物資はそちらで確認されてるんですね」
「厳重注意物ですからね。ささ、コチラですこちらです!」
軍服姿の若者。弱冠のナルシストさは否めない。ベヘリットは困惑した苦悶の表情を俺達だけに見せる。
「ちょっとごめんなさいね」
「あ、はい」
ラズマークと会話していたベヘリットから一時的に離れていた2人。その2人の元へ急速接近するベヘリット。足取りは身軽。空中を浮遊しているかのような速さでやってきた。
「なに、離れてんだよ!」
ウィスパーボイスで会話が始まる。決して誰にも聞こえない。3人だけの空間だ。
「俺、あーいうの苦手だもん…」
「俺も。ああいう自分に自信持ちすぎてる男嫌い」
「うるせぇなお前ら!急に距離を離すなよ!分かった!?」
「へいへい」「はいはい」
ベヘリットがラズマークの元へ。その際のラズマークの顔たるや…笑顔を振りまいている。好感触とは言えない逆の怖さを兼ね備えている。
『あの人、ぜったいに無理してるな』
目線で意見が合致したトロイズとファーブス。
ラズマークとベヘリットが横になり、その4歩後を追い掛ける。
後方を確認したベヘリットが目線で『もっとこっち来い!』と訴えているが、俺らは薄ら笑い、無視をかました。
『おい!!』
後方から鬼の形相で訴えるベヘリットに、ラズマークからの質問が飛んできた。
ここからは我関せず。センパイに任せるとしよう。
「センパイ、頼んだよ」
「セェンパイ、頼みましたよ〜」
「アイツら…」
沙原吏凜です。最近なする事が多くて、中々に執筆が難しい時期なんです。自分にも色々と都合というものがあります。なのでこの後書きは凄く息抜きなんですよね。
「リルイン・オブ・レゾンデートル」はまだまだ続きます。
兎に角、まだまだ続きます。プロットは次々と完成しています。後は手を動かすのみ。これが凄く大変…。もう本当に。なんで構想があるのに、こうも活字にするのは厳しい事なのか…。
現在は第四章を執筆していますが、第五章第六章第七章第八章とプロットが出来上がっている状態なので今自分の頭の中凄く楽しいです。早く執筆したい!エリヴェーラ、フラウドレス、ティザーエル、もう少しで出てきます。彼女達が狂い咲く異世界アクション巨編を早く!そのためには第四章を頑張ります。ファーブスとアンリミング。どうなると思いますか?
ありがとうございました。




