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[#55-純情なる奏愛]

ハピネメル・アルシオンという男。

[#55-純情なる奏愛]


抜群の料理スキルを携えて、僕は早速実践に…という訳にもいかず…。


「ごめん!その日、私空いてないわ!また今度ね!」

「その日は…ごめんね…仕事だ…」

「えっとね…実は…ハピ?あの、、言い難いんだけど、急に用事ができちゃって…ごめん!また今度会お?」

「ハピ…?ごめん、、、あの、、もう、、ほんとに、、ごめんね、、なかなか会えなくて…」


しょうがない…とは思いつつもやっぱり彼女に会いたい。本当に会いたい。でも会えないのが現実。

最近は、とうとうテレビ電話も拒否されてしまった。

もしかして…アンリミングさん…僕のこと、嫌になってる?

不快に感じてる?

なにか僕、アンリミングさんの気に障るようなことした?

判らない。


会いたいな…アンリミングさん…。


──

【着信】

──


僕は速攻でデバイスを手に取った。

「ハピ?」

「はい…何か用ですか?」

ハピネメルの声は暗い。気分は最悪だ。それがアンリミングさんへの返事にさえ滲み出てしまった。最悪だよ。男として最低の行為。

「今日ね、仕事がまきにまいて早く終わりそうなんだー、もし良かったら今日って空いて──」

「空いてます!!」


現時刻18時。

学校から帰って来て、直ぐの出来事だった。

問答無用で僕は、彼女を家に呼ぶ。

今日、何か用事があったとしてもそれをすっ飛ばして相手をするつもりだ。

ふんふん…なんだかわかりやすいな…僕の感情って…。これが悪い方向に転がって彼女の気分を害する事がないよう、注意が必要だな。気をつけよう。


─────

「どしたのー?そんなルンルンな気分になって」

「姉さん!今日アンリミングさん来るよ!」

「ええ!ホントに?久しぶりだねー、残念だなぁ…まだ私、用事終わらなさそう…」

「そっか…分かった!気をつけてね」

「うん、じゃあじゃねー」


二人っきり…か…。

─────


30分後、家にアンリミングさんがやってきた。

「久しぶりー!ハピネメル」

「久しぶりです…!」

「あははは、もうちょっと…強いって…」


相手の意志を反映せずに、抱きついてしまった。彼女は笑って許してくれた。かなりの力が腕に表出していたのか、彼女からは直ぐにギブの声があがる。

「ご、ごめんなさい…久しぶりだったから…」

「もう…ハピは力強いんだから…ちょっとは考えてよね」

「すみません…、、、」

「…、、、、えいっ!」

そう掛けられた言葉が音の中に消えかけた瞬間、僕の視界は彼女の身体で埋め尽くされた。急に仕掛けてしまったハグを引き離したアンリミング。一度は距離を離した彼女だが、今度はその距離を埋めるために“彼女の方から”ハグを仕掛けてきた。


可愛すぎる…。

良い匂いするし、髪もサラサラで、吐息も肌感で直に感じる。

「会いたかった…」

「あ、、アンリミングさん、、?」

「ごめんね?私、最近色々とバタついてて、ハピと会えなかった…ごめんなさい」

「全然全然!やめてよ!!そんな…アンリミングさんが忙しいのは十分理解してるんだから!」

「私…彼女失格かな…」

「失格じゃないですって!現にこうやって会えてるんだから!本来だって僕の方から迎えに行って方がいいのに…」

「ううん、それは大丈夫だよ?あんなに連絡くれてたのに、いつも断っちゃってたんだから…私が出向かなきゃ、収まりがつかないの」

「アンリミングさん…」

この人…どんだけいい女なんだ…意味がわからん…。

「ささ、ここ玄関前ですから、早く入ってください!」

「うん!お邪魔するね!サレアさんいる?凄いいい香りするアロマがあったからね、買ってきたの」

電話で何度も声を聞いているとはいえ、やはり肉眼で顔を確認しながらの美声には、やられてしまう。

「今夜姉さんは帰りが遅いんです」

「じゃあ、、、二人っきりってことだね」

なんか急に心臓バクバクしてきたんだけど…

アンリミングさんと二人っきり…そんなの何回もあるけど、こんな密室空間での二人は初めてだ。ご飯食べる時の個室とは全く違う。用意された個室は、密閉空間ではあるものの、最低ラインの音が聞こえてくる。他の個室で盛り上がるグループの声だ。最小限に抑えられてはいても、無音にする事は出来ない。


だが今回は訳が違う。完全なる閉鎖空間、家。

外部からの人の声をシャットアウトしている防音空間。

アンリミングさんをソファに座らせ、一先ずは彼女との対話に浸る。


「いやー本当に久々だね。こうやって直接会うのずっと楽しみにしてたんだよ?」

「僕の方がそれは思ってましたよ…もうぜんっぜん、振り向いてくれないから…」

込み上げてきてしまい、僕はアンリミングさんの胸に飛び込んだ。彼女は驚きつつも引くこと無く、ハピネメルの身体を受け止めた。

受け止めた側のその後の発展系として“抱擁”というモーションを選択する余地が、アンリミングにはある。彼女は抱擁を直ぐに実行。大好きな人との大接触に、僕の身体は過剰な迄に悦の反応を示す。

彼女は一切の拒絶をしない。

ハピネメルの気持ちを更に超える愛情表現。

アンリミングの寵愛たる溶けるように笑う表情に、ハピネメルの今までのやるせない気持ちが粛清された。


「よしよし…ごめんね、、、ごめんね、ほら、ハピの大好きな年上の女が来たんだから!もうそんな喜びの果てみたいな顔やめてよ」

僕の頭を撫でながら、優しく語り掛けるアンリミング。そこにはハピネメルを粛々と愛の流れに乗せる不思議な効力を持ち合わせていた。不思議だったが、僕はこれを一番望んでいたんだ。

アンリミングさんの全てが僕になる瞬間を。

「アンリミングさん…お疲れ様です…」

「ふふふ、私結構頑張ってたんだよ?ハピに会えないのは辛かったけど、もう少しでそれが還元されるぐらい、沢山のメディアで私が映ると思う。だから楽しみにしてて」

「本当ですか?僕、アンリミングさんに会えなすぎて、もうどうにかなりそうで…憂鬱で…今までこんなに誰かを思った事なんて一度もなかったから…なんかよくわかんない日が続いてましたよ…」

「そんなに私を想ってくれてたの?」

「当たり前じゃないですか!アンリミングさんが映ってたテレビとか、雑誌ひたすら見てましたよ」

これは本当の事を言っているけど、実際ほんの少し嘘。確かにアンリミングさんへの想いが、会合出来ない日が続くにつれて強力なものへとなった時、彼女が出演している媒体をチェックするようになった。でもこれだと収まりが効かなくなった。やっぱり僕は、“二人の関係”を心から大事にしている。


僕の心の支えとしていつも欠かさず見ていたのは、アンリミングさんのフォトアルバム。撮影者・ハピネメル。

これは僕しか所持していない完全オリジナルのモニタリング写真集。デバイスで撮影した写真を、脳内に書き込む…データ移行する事で、僕はいつでもどこでも彼女の写真を堪能するのが可能になっていた。

だがこれ、弱冠問題死されるのが、画素数の問題。長期記憶への方舟として《マインドアーク》を使用し、情報処理の算段を行っているのだが、毎回アンリミングさんの写真のみ処理時にバグが発生。画質の矮小化が施される。こちらとしてはそんな事望んでいる訳ないのに、何故か無駄な作業が成されたまま自身の記憶領域に残されていく。折角の美しいフォルムと妖艶な肌質でそのままの形で見たいのに。だから時折、我慢ならないと撮影時そのままの状態を維持しているデバイスのアルバムを眺める。その光景をあまり人には見られたくは無いものだ。どうにかなりそうなぐらいに彼女が可愛いから。


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