[#56-愛をわかったつもりじゃない?]
可能性さえあれば出来ないことは無い。
ということは、この世は、出来ることしかない。
[#56-愛をわかったつもりじゃない?]
「アンリミングさん、今夜は、ちょっと見てほしい…というか、食べて頂きたいものがあるんです」
「食べてほしい??」
「はい、実は僕、アンリミングさんに内緒で料理教室に通ってたんです」
「嘘…それって…まさか私の意見のせい?」
「“せい”って言うのやめてくださいよ。僕はあなたのおかげで、新たな世界を見る事が出来たんです。料理教室に通って結構学べたんで、今夜は僕がその実力をお見せしよう思います」
「ええー!マジぃー!?すっごい楽しみ!何回通ったの??」
「1回です!」
「ゥぇ、、?」
「1回です」
「ホントに1?」
「そッすよ?」
「あー、、なるほど…、、」
一回で料理なんか上手くなるわけない…でもぉ、、、炎がバックに可視化されるぐらいヤル気になってるし…仕方無い…付き合おう…まさか…あの発言を本気で捉えていたの…?ハピすごいな…。
「うん!わかった!ハピネメルが、せっかく──、あ、違う…学びに行ってくれたんだから、私食べるよ!」
「ありがとうございます!じゃあ今から作りますね!」
「お腹ペコペコなんだー!何作ってくれるの?」
「スイーツです!」
「すいーつぅ、、、」
「あ、、、いけませんか??」
「うんうん!全然そんな事ないよ!スイーツ!?」
「シャルロット、フォンダンショコラ、タルトタタン」
「この三つを…今から…作るの?」
「いやいや!さすがにそれだと時間食いすぎちゃうんで、今日は…フォンダンショコラを作りたいと思います」
「フォンダンショコラ…むずくない?」
「任せてください!」
大丈夫かなぁ…めちゃくちゃ心配…素人…だよね?素人が初っ端からチョコレートなんて目指していいのかな…。
私の不安は、彼の無邪気なクッキングスタートの合図と共に拭い消された。
素人とは思えない類まれなスキルを駆使して、次々と行程を終わらせていく。料理中、ハピネメルは一切私に話し掛けには来なかった。だから私もその邪魔をしないようにと沈黙を貫く。
でも…何この実力…。
普通じゃないよ…。
一回?
たかが料理教室の一回でこんなにも上達するものなの?
ハピネメル…これも…セカンドの能力って事?
私が喜ぶから?
私が笑うから?
私のために、そこまでしてくれるの?
苦しいんじゃないの…?辛いんだよね…?こんな私のために…なんで…そうまでして私と会いたかったの?
もう、、最悪だよ…私って…。
追い込んでたのかな…彼の気持ち、汲まなかったせいで彼の自由時間が削られたんだよ?その時間があれば、どんだけの私達の思い出が作られたと思うの?私、何も感じ取れてなかった。ガワだけそうだっただけ。勘違いも甚だしい。綺麗に取り繕ってたんだ。心も。
ハピの料理の練度を繰り出される度に、私がそのレベルアップの瞬間をこの目で見たかったな…と後悔がよぎる。
めちゃくちゃ真剣な目…。かっこいい…彼のここまでキリッとした表情は初めて見る…。あの日、ハピネメルが私を救ってくれた時とは違う、何か…“人間人間してる”って言えば伝わるのかな…人なんだよね。やっぱりハピネメルは普通の中学生だよ。
現状を踏まえて付け加えると“異常に料理の腕前があった男の子”。
異常だよ。なんだか今まで色んな所に連れて行ってたけど、、、美味しかった??私が連れて行ったレストラン、舌に合った…よね?大丈夫だよね?こんなにも料理スキルがあるなら、ハピネメルが過去に発言していた…
「僕、食事あんまり工夫した事無いんです。だから色んな場所で色んな味を知りたいです!アンリミングさんがいいなら…」
って、、、言ってたよね。特にスイーツなんて、色んなパティスリー食べさせたよね。その度に新鮮なリアクションでこっちめちゃめちゃに「かわいいなぁ…」ってなってたんだよ?あの、リアクション嘘だった?ちょっと待ってくれよ…ハピぃー??ハピネメルぅー…??あんた、何か私にまだ隠し事してるんじゃないの…?セカンドステージチルドレンなのは、もう理解してるよ。
だけどね、その事実を受け止めさせるだけ、そうさせておいて、何か重要な事を忘れてるんじゃないの?
それは、思いやりだよ。
私達は男と女の単なる関係じゃないんだ。
もう、交際っていう一個の壁を飛び越えた先なの。私も知りたいし、教えてほしい。私だってあなたが望む前から、洗いざらい綺麗にしてるつもり。
あなたは、、、まだ!?まだ!隠し事をしてるの!?
いや、、こんな事を思ってるけど、別にそこまでの事じゃな──…
───┨
くは無いよ!!?
───┨
私はあなたの彼女なの。完全なる彼女。ちょっとした年の差はあるけれども、もう私達は平等なの。
あなたが“さん付け”をするのもいつまで?
私から言わないとダメなの?
私から…「ねぇ?ハピ、ハピはいつまで私の事をさん付けで呼ぶのー?」
なんて、女の子の方から言わせる気なの??
今時の中学生って恋愛を全く知らないのね…。
ハピ…いや、ハピネメル・アルシオン。
あなたには調教が必要なようね。覚悟しといて。私があなたに“愛”っていうのを徹底的に教えてあげる。骨の髄まで染み込むまで、練りにねって、絶対に忘れさせないために私の念動力で海馬に潜り込んで、直接“愛”を書き込むまで、あなたとのマンツーマンの授業よ。
料理教室でナーニを学んだのか、一切知らんけど、あなたはそんな所に行くよりも…もっと大事な人間の性を学習する必要性がある。
私のために料理を学びに行こうとするその姿勢は素晴らしい。大好き。抱かれたい。かっこいい。イケてる。チャレンジ精神、嫌いじゃない。
ただ、私の気持ち…“果て”を読み過ぎてるよ。
もっと上辺でいいのよ。もっと簡単な所から攻めてくれて全然いいのに。
隠し事なんて絶対だめ。
そんなに真剣な表情で、ケーキを見つめないで…。
その眼差しは私の方に向けて…。
ねぇ、、、ハピネメル。。
…
…
…
…
「アンリミングさん?できました!」
「えぇはァ?」
「ん?どうかしました?というか、さっきからずーっとこっち見てて、ずっとブツブツ言ってて、全く聞き取れなかったんで、まぁいっか…ってなってたんスけど…」
「あー!うんうん、大丈夫だよ!ちょっと今後出るドラマの台詞を繰り返してたんだよー!アハハ、ごめんねー、、、ボーッとしてたわ」
「はい、できました!フォンダンショコラ!」
私は息を飲んだ。完成品を疑った。これが素人の作ったフォンダンショコラ…?信じられないクオリティ。
「意外と簡単なんですよ、これ」
「そうなの…?生地も見た感じ良さそうだし、、、」
「混ぜるだけなんで、もう直ぐ!誰でも出来ちゃうんで、僕にも出来ちゃいました!」
「えぇーーー、、、」
本当に…?
「食べて、、い?」
「はい、食べてみて!」
一口サイズにショコラを分断。
「…、、、美味しい…」
「良かったぁ…」
「ハピさぁ、これ本当に美味しいよ…」
「ありがとうございます!僕も食ーべよっ」
…
…
…
…
…
本当に『あとがき』みたいなものを書いてもいいんでしょうか。