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[#54-あなたの笑顔]

楽しみにしてまーす。

[#54-あなたの笑顔]


11月23日──。

料理教室通学開始。


何回も言うようだが、僕が参加しているコースは主に、結婚して子供を育んでいるママが集って家庭的ながらも、上級者向けの料理を創作するスキルを身につけるコース。料理初心者が行くようなコースでは無い。

そんな中に潜り込んだ。案の定、周りは家庭を持っているお母さん方が多くを占めている。

中には、老人介護のために料理を学びに来た人、学生寮の寮母など、“人に振る舞う料理”に関連した人々もいた。だけどそんな中に、男は僕一人だけ。

年齢も僕に近い人はいないように思える。受講人数は自分も入れて12名。


授業内容は開始と共に発表された。

「皆さん、おはようございます!ようこそメイキングフレーバーへ。私はママさんコースを担当しています《メリシア》と申します。いつも来て下さる方、そして今日初めて受講してくださっている方も、よろしくお願いいたします!」

メリシアさん、清楚な方だなぁ……20代前半かな。周りは30代とかが多いのに、年齢層高めの所でいつもこうしてやってるんだ…凄いな…

「さぁでは早速!今回皆さんでチャレンジする料理は……こちらです!“シャルロット”と“フォンダンショコラ”と“タルトタタン”です」

「みっつも!?」

「今日は大変ねぇ……」

「いやぁ、、、全部難しいね……」

「私、生地からの行程がほんと苦手なのよね……」


今日のミッションが発表されると周りの人達から一気に、作業行程の難易度の高さが伺える反応を見れた。どうやら、玄人でもこの3つは難しいのか。アンリミングさんに連れて行ってもらったパティスリー屋さんで、この三つは食べた事がある。めちゃくちゃに美味しかった。

アンリミングさんはスイーツが大好き。この三つ。食べた経験があるな…これだと従来に描いていた“新体験の料理”に出会えない……。でも、、、まぁ仕方無い。今、こうして始まったんだからやってみよう。


こうして、三種のスイーツ制作が始まった。

始まるやいなや、制作行程がモニターに出され、調理器具と使用する材料がメイキングフレーバーから提供された。そこからは前方に長机を構える先生が、我々の調理スピードに合わせて調理を実行する。

自分もモニターを見ながら、調理器具と格闘。

その様子を見て、先生が僕の元へ近づいて来る。

「ハピネメル君、どうかなー?できそうですか?」

「メリシア先生、僕頑張りますよ」

「ホントにー?もし分からない事があったら、遠慮無く先生に聞きに来てね。そのために私はいるんだから」

「わかりました、ありがとうございます」

先生は優しく気にかけてくれたけど、内心は「こんな料理素人ができるわけない」と思っていた。僕にはそれが判る。


いいさ、やってやる。やってやるよ。

舐められたままで終わってられるか。周りは皆、この三種のスイーツ制作にそこまで立ち止まっている様子は無い。行程内容は理解しているが、手先の問題、所謂テクニカルな面で苦戦している状態だ。

参加した12名の受講者。受講者にはそれぞれ長机が用意されている。この机の様相は前方にてフォローする講師と同様のものだ。3×4で構成された机の配置図。


僕はここで他の受講者のスキルを奪う方法を瞬時に閃いた。視界映像を現在の眼球視点から天蓋視点に移行。教室を上から見下ろす映像を視界映像に展開。ピクチャインピクチャのような感じで、サブ映像に天蓋視点を配置した。この天蓋視点映像を見ると、参加者達の動向がこの場にいながら把握できる。別に他の人を見てはいけない…というルールは無いのだが、動きを極端に減らして状況整理に役立てられるからこの《アイズ》機能はとても良い。

SSCでよかった!ってこういう時は思える。視点映像を自由自在に変更する事が可能な《ジャイロキャプチャー》。当該能力を駆使して全員の料理スキルを監視。この機能を通じて確認できた上級テクニック。やはり料理玄人が集うコースという事もあり、その腕前は皆一級品。中には、素人同然の人物もいるが家庭内では最低限の料理を経験してきているのだろう。

十分な料理スキルを携えている。周りの玄人が卓越した才能を誇っている影響で、素人の料理スキルが霞んでみえてしまう。僕よりかは圧倒的に高いテクニックなのに…。

視覚情報から確認できるものは、完璧に信頼できる事が少ない。ある程度の“接触を遂げた”という経験値が必要。第一印象で何事も決めるな…という事だ。


ジャイロキャプチャーの使用で、料理行程には理解を示せた。視界映像の全体像を把握した後、僕は新たに脳内に書き加えが必要不可欠なシーンに直面する。視覚情報を把握し、玄人達のスキルを拝見できた。だがその能力を、僕自身にコピーペーストする事は…可能だ。

SSC遺伝子能力に不可能は無い。生命に対する攻撃的な面に於いては制限される能力はある。個人個人で人を絶命に追い込む力は、全く異なるものなんだ。

僕もそうだ。自分にしか無い、特別な力がある。それを発揮する時が来ない事を祈るばかりだけど…。


─────────

アタッカータイプ、インターセプタータイプ、ヒーラータイプ、 ビルディングタイプ、リサーチャータイプ、ライディングタイプ、テイバータイプ。

─────────


セカンドステージチルドレンの特性名称。名前からして特性の内容を理解出来るものもあるが、《テイバータイプ》は予想をするにはセカンド当人を使ったプレゼン的な説明が必要だろう。そのぐらい最後に記載されたタイプは、特殊なものだ。簡単に書き換えると“マスタータイプ”。セカンドステージチルドレンのありとあらゆる能力を行使することが可能な超越者の頂点とも言える。一見してみてSSCの純血者達がこの特性を持つかと思われるだろうが、これは遺伝子の問題では無い。



運。



勿論、強力な遺伝子情報で生み出されたセカンドステージチルドレンは、テイバータイプとして生まれる確率は高い。テイバータイプに限った事ではなく、どの特性もランダム性で選ばれている。何回も言うようだが、これも、遺伝子情報によっては特性を狙う事も可能だ。

─────

純血に近ければ近いほど、狙った特性を生むことができる。片方でも。両者だと尚更。

─────


僕は、インターセプタータイプ。この能力を使った後は、何も考えたくない…と思ってしまう。直近で使ったのはアンリミングさんを守ろうと決意したあの日だ。


……あまり思い出したくない。



玄人達の脳内へと介入してみると、そこには身体パーツに伝達できていない具現化未済のモーションが数多く存在していた。これは、頭の中では思考できていてもそれを果たす為の力量と技量が足りていないからだ。脳内でビジョンできていても、結局行うのは自分の身体。自身の身体が言うことを聞かなければ、結果には繋がらない。

スキルとはそういうものなのか。

思考、想像、把握、機転。

全てのステータスが統合され、合計点が目標に値するまでに達した場合、ようやくゴールが見えてくる。

数値はどうとでも変えられる。当人の力次第。


僕にはこの者達の思考を脳内に留まらせない。僕が具現化する。行動パターンは全て読み取れた。そして、スキルを外部に表出するのはこの僕だ。身体パーツへ、脳内にて構成されている料理スキルが伝達された場合、僕はその力を奪う事が出来なくなる。伝達未遂のまま、行おうとしている事を盗る必要があるんだ。

何、ムキになってるんだろうな。

でもこれは昔っからそう。

セカンドステージチルドレンは、勝敗に拘ってきた血族だ。

こんな時にも、血が狂うように踊る。

これが“勝敗を決める所業”だとはとてもじゃないけど思えない。

自分の考えとは裏腹に優先されるのは、管に流れる悪魔の血液。

赦してほしい。

まさか、こんな平和な世界で、SSC遺伝子を行使する事になるとは…。


全ては…あなたの笑顔のため。必ず、あなたの喜びに満ち満ちた表情が見られますように。


メイキングフレーバー ママさんコース。

開講史上類を見ないレベルの料理スキルを見せつけたハピネメルは、三種スイーツ制作を完全攻略。

提示された内容、いやそれ以上の作品を完成させ、見た目、美味しさで、講師からは100点…パーフェクトの採点を獲得。

他参加者からはどよめきが走った。

「何か、お店やられているんですか?」

「何者ですか?」

「教えてください!その柔らかさはどうやって出したんですか?」

「ちょうどいい硬さを調整するポイントは?」

歓声の中で、錯綜する質問の乱打。

最早、ハピネメルが講師なんじゃないかと思えてしまう程の伝説的記録を打ち立てたのだった。


僕には、こんな記録どうでもいい事だ。

さぁ、早くこのスキルを駆使して、アンリミングさんに振る舞おう。


アタッカータイプ、インターセプタータイプ、ヒーラータイプ、 ビルディングタイプ、リサーチャータイプ、ライディングタイプ、テイバータイプ。


へえ。

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