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[#52-暗黒の楽園]

アンリミング・マギール。欺瞞で塗られた毎日。

[#52-暗黒の楽園]



その日以降、私達の交際は本格的にスタートした。外出しても私が完全なる変装をすれば、問題にはならないだろうと踏んで挑んだ一発目のデート。上手いように他の人にはバレなかった事から、 デートは実のあるものになっていった。

だが一瞬の気の緩みは、絶対に許されない。マスコミによる交際報道は珍しい事では無いが、内訳が内訳なだけにこの件は絶対にすっぱ抜かれてはいけない。なんだか、これが興奮材料に作用したりしている。ハピネメルからのアプローチがデートを重ねるにつれエスカレートしていくと、私もそれに乗り気になる。

「もう、調子乗んないの」

「アンリミングさんだって、その気じゃないですか…」

公園のベンチで座っていると、二人の公開接触が始まる。本当はこんな所でいたしてしまうと、バレる危険性が一気に高まるのに…止まらない。私から始めたキスが彼のスイッチを目覚めさせ、濃度の高い展開にまで発展したケースもあった。

「ごめんごめん、ここではやめよ?」

「あ、そう、、ですね…」

「でも、気持ちよかったよ。、、ちょっと興奮した」

「ヤバ…マジ可愛すぎです…」

「ウルさい」

下から目線のハピネメルかっこいい…。なに…?この顔、やばいんだけど…めちゃくちゃにしたい。


はぁ、、、こんなん、ただのバカップル。でもこんな時間が私を現実から逃避させるには適した行為なんだ。

常日頃、追われる撮影スケジュール。中々ハピネメルに会えない日だって続いていた。ハピネメルは、芸能界に興味無かったけど、私の事は応援したい!っという事で、エンタメを見始めた。エンターテインメントを見た事なんて、そんな子がいるんだね。


サレアさんから日々送られてくるメッセージ。そこにはメディアに出る私に釘付けになっているハピネメルの姿。ドラマ、バラエティ、CM、モデル(雑誌、インタビュー記事、インタビュー動画)、舞台。今までに出演してきた様々なメディアを制覇しようとしているハピネメルを記録したメッセージが更新される。

サレアさんのメッセージがなくても、いちいちハピネメル自体から感想送り付けてくるっていうのに…ほんとサレアさんもハピネメルの事好きなんだね。


「なんでアンリミングさんこんだけしか、映ってないんですか?」

「なんでアンリミングさんこんだけしか、喋って無いんですか?」

「なんでアンリミングさんここで急に、話やめたんですか?」

「なんでアンリミングさんしか可愛い人いないのに、この女が一番フィーチャーされてるんですか?」

「なんでアンリミングさんが端っこに追いやられているんですか?」

「なんでアンリミングさんが主役じゃないんですか?」


嫌味ったらし一切皆無の純粋無垢な表情と声が、逆に私を現実に叩き込む。

ハピネメルには、メディアというものに対してもうちょっと奥底を見てほしいと思う。


そんな上辺だけじゃないんだぞ…って。

私には私のポジションが用意されてるんだぞって言いたいけど、「??」って顔されたらそこからどうやって自分の言葉を紡いでいけばいいのか判らない。

これが理解できない人には何を言っても無駄だから。しかも相手は今まで、この世界に全く無関心だった男だ。考えてみれば、私だってそこまで真剣にこの仕事をこなしていなかったように思う。エスカレーター方式で、事務所の力で成り上がったに過ぎない。私はただゼロイチのブレイクを果たしただけ。そこからは事務所のゴリ押しと関係者とテレビスタッフが、ヨイショしてくれて私が中心となる世界を形成してくれた。最近はその中心的存在から“ご意見番”みたいなポジションに移行して、責務を全うしている。でもそれも入念な打ち合わせのもので成り立つキャラ作り。

これでいいんだ。この世界で生きていくためには、敷かれたレールに走ってさえいれば、相当な事が無い限り安泰は確約されてる。


目的だって無かった。この世界で目指している進路も明確には無い。事務所は「こうなってほしい」とビジョンを複数提案してくるが、気分的には乗り気じゃない。最終的には乗るつもりではいる。

そうしなきゃ、干されると思っているから。

都市伝説紛いのものじゃない。本当に芸能界というのは簡単に暗黒を覗く事が可能な世界。隠すつもりが無いのか。悪いと思っていないのか。

当人達の心の隙間。

それは情欲に溺れた肉の塊。肉体がオーガズムを欲し、空白となっている心の隙間に垂れ流される。液体と液体が絡み合い、この世の光景とは思えない狂喜乱舞の宴会。休む時間を与えない男は疲れ果てている女を骨の髄まで喰らい尽くす。だめ…そう言ってるのに男は聞かない。

獣だ。性に魂を売ったケダモノ。女を玩具としか思っていない最低最悪の生物に成り下がる男達。多人数がそれぞれ好みの女を選び、その女の現状の芸能ステータスを熟知した上で行為開始となる。

その際に交わされる会話が“仕事の契約”。セックスは男と女をを繋ぐコミュニケーションツールでもあるが、地獄を形成する“武器”にも成りうる。


愛の無いセックス。

男視点では色欲を求めた欲情の最果て。

女視点では絶望の前後運動。

「仕事のため…仕事もため…仕事のため…仕事のため…」

女達は口を揃えて…いや、心で唱え続ける。

そうした闇を知っているからこそ、私は生き残る術を画策している。

暗黒の楽園。私が絶対に行きたくない場所。ここに行こうもんなら死んだ方がいい。女としての身体を破壊されに行くようなもんだ。こんな事に思考を巡らせている時点で私はこの世界に毒されているのかもしれないが…。


正直な文章。

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