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Lil'in of raison d'être/リルイン・オブ・レゾンデートル  作者: 沙原吏凜
第三章 愛紡ぐ月季/Chapter.3“yuèjì”
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[#51-天使への引っ掻き]

もう疲れる前に書かなければなりません。

[#51-天使への引っ掻き]


ニーディールは、私との“二人の結束”を強く願っていた。17年間、沢山の子だからに恵まれながらも沢山の厳しい状況に出会した。そんな時に、心の支えになったのが、ニーディールと約束した《アルシオンの指環》。


あっちの世界…いえ、忘れてしまいそうになるから、必ず“日本”って頭の中で…口に出してかな…言おうって決めたんだった。

ここが私達の世界だと勘違いしてしまう。

いや、そうなんだけど。

本出は違うじゃん。

みんな…あの後、どうしたのか判らない。あの日の事を忘れる事なんて出来ようはずが無い。ニーディールは、あの出来事は記憶の改竄と編集によって整理したらしい。私にその能力は無い。だから、延々と甦る日だってある。

今でもそう。

私達の選択は間違っていなかったのかなって考える。

皆で脱出できたんじゃないかって。

こんなことを考えていても、何の意味にも繋がらない。

なのに…私の脳裏にはいつも、ニゼロアルカナでの生活がこべりついている。

要らないのに。

こんな記憶、要らないのに。

皆がいた事実は欲しい。

記憶の編集って、かなり重要視される能力なんだ。虚構の構築に急ぐ際に、これはとても必要される。要らない記憶ほど、海馬にはよく記憶される。本当にイライラするし、隠し切れないレベルの苛立ちで、セカンドの能力が発現されるまでに到達する。

自制御が効く範囲内ならまだしも、そうした“怒り”に関連する感情の起伏によって生まれた極エネルギーは、中々に制御ができるまで時間を要するもの。

感情コントロールで制御可能なセカンドステージチルドレンは数少ない。当該する人物がいた場合、SSC遺伝子能力をマスター化させた、といってもいい。

私は、マスター化までには至らなかった。

マスター化に至るには、出生時に判明する《遺伝子濃度》が深く関係している。




時は戻り…サレアの家──。


「ハピネメルは、そうした境遇を経て、家族の元を離れた。家族の事情ってモンでは済まない…重い重い、事実があの子には課せられた。とても子供が背負いきれるモンじゃない」

「ハピネメルにはその事、いつ教えたんですか?」

「知ってたわ」

「え?」

「赤ちゃんの時のハピネメルは、もう既に自己認識を確立させていた。言語の判別も可能という驚異的な学習能力を携えていたんだ」

「赤ちゃんの時に…?スゴすぎ…」

「幾らセカンドステージチルドレンといっても、この早さは目を見張るもの。それもあってハピネメルは、家族から離れた。父親の二ーディールはこの判断を、“優遇”と思っているけど、母親のエレリアは怒りしかないよね」

「私、エレリアさんの気持ちに寄ってしまいます。やっぱり女としては自分が産んだ子供が、真っ先に別の地で生活をするなんて…家族は子供に恵まれたら、大事にするのは当たり前です。こんな事、口にするまでもないですが…」

「うん…そうだよね。全てを知っているハピネメルは、“愛情”の二文字を信じずに今まで生きてきた。私以外にはね」

「さっき仰ってた、“騎士団”というのは…」

「《オナゲル騎士団》の事ね。複数名いるって言ったけど、もう私だけ…まぁ色々あるの」

「色々って…人間への攻撃もそれに入りますか?」

「まぁ、、可能性としてはあるわ」

「…、、サレアさんもそのメンバーの中の一人なんですよね?」

「そうね」

「…、、、じゃあ、、、」

「ええ、殺した事あるよ」

サレアは躊躇わずに豪語。その強い意志を察知したアンリミングは心とは反した身震いを殺し、発言を受け止める。

「ごめんなさい…でも、私は任務でしかそういうことはしないよ。敵性ターゲットと認識し、“本隊”からの命令が無いと攻撃行為に至ることは無い。それを考えると最近は無いかな。そういった指示」

「仮に今、私と相対してるこの状況を快く思っていたかった場合、その本隊とやらが命令を下す時がある…という事ですか?」

「、、、、、、ゼロじゃないね」

「…!」

「安心して。大丈夫だから。だってハピネメルの彼女さんだもん。ハピネメルが大事にしている人を傷つけるようなマネは絶対にしないから。ハピネメルが、アンリミングの事を大切な存在と位置づけているのなら、私達も同様。アンリミングを我々の仲間として迎え入れる」

「…、、、はい。ありがとうございます」

アンリミングの表情は、決して笑顔とは言えない。ハピネメルに見せていた、“溶け合いの兆し”はどこへやら。口角を上げ、人から可愛いと言われる事が取り柄だった彼女から“笑顔”だけを抜き取った結果が現状だ。とてもこの顔面をハピネメルに見せたくない。

────────────────

「ただ、これだけは覚えておいて。ハピネメル・アルシオンに何かあったら…“この先の未来はお先真っ暗確定だから”」

───


「さ、アンリミング。この話はもうお終いにしましょう。ハピネメルも呼んで、今日は豪華なディナーを用意するから」

転調したサレア。ムードを一転させ、食事を提案する。

「はい、、でも…私、邪魔じゃ…」

「もう一体何を聞いていたの?あなたは邪魔じゃないよ。ハピネメル呼ぶね」

サレアは上階で身体を休めているハピネメルに、アンリミングへのケア終了を連絡。連絡をした瞬間に、上からドスドスと轟々しい足音を出しながら、勢いよく下にやってきた。表情は若干怒っていた。


「サレア姉さん??おっそいんですけど…何離してたんスカ?」

「アンリミングちゃんが、どういう人なのかを詮索してたの」

「それ、僕がここにいてもいいやつですよね?なんなら、僕だけが知ってるアンリミングさんの良い所をサレア姉さんに伝えるいい機会だったのに…」

「アッハッハッ!そうね〜、ハピネメルにしか判らないアンリミングちゃんのポイントもあるんだろうねー!そんな気がするわ、この子には。でもね、女には女よ。女にしか判らないことだってあるの」

「へ?どんな部分??」

「え?、うーーんーーーーんーとーーー」

「ハピネメルには判らないよ。そうですよね、サレアさん」

「ええ!それもそうね。言ったとて…だわ!」

アンリミングとサレアは笑った。

「なんすかそれ…」


◈────────────────────◈

二人の笑いにはイマイチ理解には難しい状況になったと面倒な気にもなったが、どうやら二人はこの時間で、気が合う者同士となった事は把握できた。これに関しては凄く嬉しい。自分を大切に育ててくれた人と、自分が初めて好きになった人が、繋がってくれたのは本当に嬉しい。

そして、都合も良くなる。こんな言葉、あまり僕の今の感情にそぐわないのかもしれないけど、都合は良くなる…はず。アンリミングさんと付き合ってるこの段階を、隠さなきゃいけない。

でも僕は会いたい。アンリミングさんもそう思ってる。その時に活用できるのが、サレア姉さん。サレア姉さんとアンリミングさんが、“仲良し”という構図は上手く利用すれば、この家にアンリミングさんを呼ぶ事だって容易になる。

だって、僕は未成年者。アンリミングさんが、僕と付き合ってるなんて世間は信用するはずも無い。ただ単に、友達としてサレア姉さんと関係があるっていう体にすれば、家だって呼び放題。なんかデリヘルみたいな言い方してるけど、、、だって、デートなんて…できるのかな…考えてみれば凄い場所に今日、行こうとしてたな…複合施設に行ってたら、バレてたかもしれない…。


アンリミングさんは否が応でも目立つぐらいに可愛い。どんなに変装しても気づくやつは気づく。熱烈なファン…うん、、でも、、、思ったけど僕は、アンリミングさんの人気の高さを体感していない。文化祭でのダンスステージでの盛り上がりは、どうかしていた。皆がパフォーマンス集団に夢中になっていた状態のプラスアルファに盛り込まれたのが、コスプレ部という甘味料。これが上手い具合に作用しすぎていて、現場のボルテージは計り知れないものだった。

だけど、僕はあれが本当に“最高の盛り上がり”だったのかが、判らない。自分はああいったエンターテインメントに富んだ作品的なものを見た事が無いから。アンリミングさんと会った次の日だって、アンリミングさんの経歴とかを調べようと思わなかったんだ。

なんでかは断定できる。

ハッキリとわかっている。

───────

不必要な生物の愛を知るからだ。

───────


アンリミングさんが受けてきたであろう、無数の愛を知りたくない。自身の思考の範疇に留めておきたい。

これはアンリミング・マギールから発出されてきた愛を拒絶しているのでは無い。アンリミングに対して発出されてきた自分とは無関係の人物達からの愛を無知のままでいたいんだ。

知る必要が本当に無いと思う。それを上回る愛をこれから僕が与えていくし、これまで与えられてきた愛を知った上でアンリミングさんと会合すると、観衆らの愛がチラつく気がする。アンリミングさんから、この人達を離したい。できうるならば、芸能界を引退してほしいぐらいの気持ちだけど、そんな事は勿論言わない。彼女がしたい事をしていったらそれで全然構わない。できうるならば…の話だ。


彼女は自分からの愛をどう思ってくれるんだろう。

「ファンの皆の方が力強い」とか、

「ハピネメルは、そんなぐらいしか思ってくれないの?」とか、

「あなたの女になりたいんだけど」とか、

「、、、、、、」とか…


僕からの愛が、今まで受けてきたものとあまりにもな差があったら、どうしようと思ってしまう。アンリミングさんはスターらしい。


チェックした方がいいのかな…

いや、、、怖いな…なんか、僕が愛の形を履き違えていたら…でも、その確認のために調査する必要性も出てきたぞ…おいおい…ちょっと待ってくれよ…なんで僕はこんなにも確固たる意思が無いんだよ…。情けなすぎるぞ…こんなので好きな人を守っていけるのか。

アンリミングさん。

◈────────────────────◈



ハピネメル、サレア、この二人の夕飯にアンリミングも加わり、食事を共にした。

「ハピネメル、聞いたよー?」

「なにを?」

「アンリミングちゃんと付き合ってるって」

口の中一杯に詰め込まれた飯が、小粒モノをメインに吹き出される。

「アンリミングさん!??!」

「バレちゃったの…」

隣同士だった二人が耳元で囁きボイスながら、語気の強い口調で言った。

「見ればわかるわよ」

「そうです、私達は付き合ってます。ね?ハピネメル」

「う、、、」

「違うの??」

左隣にいるアンリミングさんが、更に距離を縮めて僕の左手も触ってくる。左手への攻めから始まったアンリミングは、その後も殺人級の可愛さでハピネメルを圧倒。この「違うの??」には、再びの耳元ボイスが採用された。しかし、先程とは全く異なった“囁きボイス”。異次元な大人の色気がふんだんに盛り込まれた、アンタッチャブルな可愛さに僕は悶絶。

「は、、、はい」

「サレアさん、ハピネメルと一緒に色んな思い出を作って行けたらと思っています。改めて、よろしいでしょうか?」

「私は、大丈夫よ。ハピネメル、彼女は良い方ね。きっと新たな人生を歩むいいキッカケよ。大事にしなさい」

「う、うん」

僕がいない間にどんだけの話をしていたんだ。結構進んでいたんだな…

話し声、まったく聞こえなかったな…


始まっただけです。まだ、本当に。

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