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[#48-暴怒、愛に還る]

地獄に落ちろ。

[#48-暴怒、愛に還る]

、、、ハピネメル、、、、?ま、まってよ、そんなにいそいだら、ころんじゃうよ、、これ?にあってる??ありがとう、、やさしいんだね、、ねぇハピネメルは、わたしのこと、どうおもってるの?あなたがいわないんだったら、わたしもいわない。こういうのはおんなにいわせないの、、これだからまだまだこどもあつかいは、おわらせられないの、、ねぇ、しよ?うん、、、あたし、けっこういけるよつになったんだ、コツをつかんだのよ、だから、ねぇ?しよ、まだお子ちゃまにはわからないのよ、わたしをもとめてるんでしょ?わたしをじぶんのなかにおとしこみたいんでしょ?わたしをわたしでなくさせたいんでしょ?、、じぶんのはんいをりかいしすぎてるのよ、そうやってまた、じぶんのてがとどくきょりのなかで、わたしとかいわしてる、それってなにもかんがえてないのとおなじ、なにもしんぽしてない、、こわしてよ、わたしをこわしてよ、

いいのよ…あなたのすきにして。

「お姉ちゃんサぁ」

「ンん〜んぁい…」

「大丈夫か?こんなトコで女の子が寝てちゃアダメじゃないかー」

「あれ、、やばい…やっちゃった…寝ちゃった…」

「お姉さん、この後ッてサぁ…」

「すみません…!起こしていただいてありがとうございます」

「ちょ、ちょっと待ってよ」

「…、、はい?」

足早に男の元を去ろうとしたが、男の“求める声”に反応し、二秒間の沈黙の後、頭を振り返す。寝ぼけていたせいで男の顔と服装をしっかり確認できていなかった初見。

振り返った刹那、眼球のピントがこれでもかと重なり合う。黒に染まったスーツ、ツーブロックのソフトモヒカン、色の濃いサングラス、威圧感を出せる身長の高さ、特筆性の無い普通の声色、嫌な気分にはならない喋り方…。

私は、ここから立ち去った方がいいと直感した。

「お姉さんさァ、お金持ってる?」

「、、、、いえ、持ってないです」

「いやァ、あのねー?ここ、僕の私有地なんだよ。勝手に寝てもらっちゃァ困るんだよねー」

「あ!す、すみません…私、知らなくて…ほんとにごめんなさい…」

「いやァいいのよ、その代わりさァ、オレたちと付き合ってよ…」

それが掛け声と言わんばかりに、四人の黒スーツの男が私を包囲した。

「な、、、なんですか…やめてください…、、」

「キミ、アンリミング・マギールだよな?」

「…だったら、なんなんですか、、、?」

「、、、ウマソウだなと思ってな」

「…!」

「おおっとォ、待てっつってンだろぉ?」

女一人で四人の男からの包囲網を突破できるはずもなく、中心に押し戻される。二人の男に四肢を拘束され、身動きすらも封じられた。

「さっきニュースになってたなァ?」

「女神様気取りでいいご身分なんだね」

「やめてください」

「これは俺の女だ。お前らには上げねぇこれ以上の開発は許さねぇからな」

アンリミングは一瞬の隙に生まれた空白を見逃さなかった。手を拘束していた両脇の男の力が何をトリガーにか、失われた。逃走の機を逃すまいとその場から、猛ダッシュをしようとする。

「おいてめぇ!!何しやがる!!」

アンリミングの逃走で、後方から男達が追い掛けてくる。鬼だ。悪魔だ。こいつらはどうしようも無いクソどもだ。公園外に出ようとした時、眼前に現れる一人の男。

「お嬢ちゃん、、、いや、アンリミング・マギール」

「…、、、こんな事していいと思ってるの?みんなが集まるよ見に来るよ」

他の男とは一線を画す威圧感で、慄くアンリミング。

「残念、この公園にはちょっくら仕掛けをしたんだ…」

「ここには誰も来ねぇし誰も入ってこねぇんだよ」

「…、、、、なによそれ…どういうことよ!!」

「ンじゃあ、ちょっくら黙らすかッ!」

アンリミングに容赦なく下される一振りの拳の鉄槌。

「やめて…」

「タフだねぇ、お前ぇら…なに女に振り払われてるんだよ」

「《チェイカー》さん…」

チェイカーという眼前に現れた男。私を拘束する男達が平伏すように地面に足を着かせた。

「君、いい女だね。俺と一緒に来い」

「嫌です」

「その目、ダメだよ!ダメダメ!俺にそんな目する女!それダメだよー!?」

「あなた、おかしいんじゃない?」

「君の方がおかしいさァ。みんなが俺の女になる瞬間があるんだ。俺の瞳に打たれ、俺の姿に恋をし、俺の愛撫に濡れ落ちる…」

「気持ち悪い…」

「おっとぉ〜、君みたいな女がそんな口を利くもんじゃぁないよ。アンリミング・マギール。ようやく俺に似合う女を探し出した。ずっと見てきたんだよ。君のこと」

「…」

「君が俺に堕ちる瞬間を今まで何度も、ビジョンしてきた。アンリミングの情欲に溺れる姿。ンん〜んん!!タマラないねぇーーー…君は処女かい??」

「最低。地獄に落ちなよ」

「ハァ…しょうがないねえ。やれ」

アンリミングを拘束する男達が、再び手を上げる。

「これ以上、俺に文句を言うなよ?アンリミングちゃんは俺の指示通りに動くんだ。永遠にな」

笑うチェイカー。

「やめて…ください」

声を震わせ、精一杯の絞り切った力で発す。

見知らぬ男に囲まれ、無慈悲な攻撃を受け、縛られ、セックスを迫られる。私という存在を消しにきてるような思いにさせる地獄の具現化。

「おいおいおい、そんな声色やめてくれよー、俺の相手をする女には似合わないぞ?もっと可愛く、俺に心の底から恋する存在でいてくれよ?お前の未来は今ここで決まったようなもんなんだよ」

「やめて…やめて…やめて…やめて…やめて…やめて…やめて…やめて…やめて…やめて…やめて…やめて…やめて…」

断続的に発されるアンリミングの拒絶は、男達の耳に届いていない。あまりの戦慄にアンリミングは声を出すという人間が人間であるべき機能を失ったのだ。自分自身では口から目一杯に出してるつもりなのに、心の中で何回も何回も唱えているかのよう。だが、この拒絶反応が男に聞こえていた場合、更なる仕打ちがアンリミングを襲っていただろう。


アンリミングを壊す男達の卑劣な言動。救いようの無くて、救う術も無い生物種の絶対的な落ち度として扱われる失敗作。必ずとも良人を産むことができない人間。“成功作と失敗作”という幼稚な表現をしたくないのが、やはりこういうイベントを経験すると私は、生態系に於いて人間がマイナスポジションに位置している動植物に思える。

“個性”という言葉は非常に扱いやすい言葉だ。とある出来事に直面し、その出来事が分岐に溢れ様々な意見を必要視される案件だったとする。プラスなアプローチ、マイナスなアプローチ、両者は一見すると相反するようなものになるが、“個性があるね”と言われれば両者の意見は最終判断まで持ち越しになる。つまり個性は人を認めるシークエンスに移る際に、邪魔な人格リソースを判断する材料なのだ。

私は個性を殺される。ここで今、私が私では無くなる。思考回路が停止する。ここで死ぬのかな…視界が暗黒になった。どれもこれも私を殺すために生まれてきたんじゃないかって思ってくる。光を失う。いつも求めずに当たり前の状態を損失する現実が、私には耐え難かった。脳みそが食われる。四方八方から食われてる。キャベツの葉を食べる毛虫のようにゴールを定めず、ただただ“食う”の信念を持ち合わせながら食べる。うねりながら、止まらず、私がブラックアウトしている現状を笑いに来ている。拮抗する細胞が居ないから、食う行動が捗るんだ。思い思いのままに私から、考える力を奪ってゆく。抗うという選択肢すら与えられない。

「じゃあ連れてくか」

私が内的宇宙を彷徨う中、男達は私に聞こえるように普通の音量で“私を壊す”タイムスケジュールを立案。

「おい、起きろ」

膝を落とすアンリミングの両腕を引っ張る。その抵抗無き女の姿に男達は嘲笑った。

「チェイカー、この女もうくたばってるんじゃないか?」

「その女がいいんじゃねぇーのよ、こっからオレが開発していくんだよ」

男達の笑う声にアンリミングは反応する様子を見せない。

男達がアンリミングを引き連れようとした刹那、張られた結界に謎に亀裂が生まれる。

「なんだ?」

「わかりません」

その亀裂は次第に範囲を拡大させ、一つの破砕ポイントが確認できた。男達はこの事態に震え上がる。だが一人だけ、この事態に臆していない者がいた。

「…」

「おい…なんなんだよこれ…!!」

「チェイカー!どうしたんだ!」

「お前達、“約束”は今、果たされたかもしれない」

「お前…まさか…これが…!」

「ああ、ヤツが来る」

侵入者を許さない、チェイカーと男達とアンリミングのみを取り込む“結界”に何者かが姿を現す。

───────────────◈

「その手を離せ」

───────

「なんだお前…?」

「誰だてめえ」

「ガキじゃねーか」

─────

「やめろ」

─────

失意のどん底を彷徨うアンリミングに、一筋の光のようにその声は、暗黒化した闇の心を静粛させる。

男達の前に現れたのは闇のオーラを纏ったハピネメルだった。

「ハピネメル、──!」

アンリミングの微かな声。チェイカーらには聞こえていなかったが、ハピネメルには囁くように聞こえた。目は合わなかった。合わせようとしたのだが、アンリミングの顔面には打撃の跡があった。ハピネメルのダークオーラは、臨界点を超える。

「その手を離せ…はやく…」

「お前…ハピネメルだろ?」

「だったらなんなんだ?テメェは誰だ?」

「俺はチェイカー。知らなくていいが、覚えておいて損はねぇぜ」

「じゃあ、、直ぐに脳から捨てる」

「チェイカー、こいつか?言ってたヤツは」

「あー、コイツでもある。本来は違ったが、まぁコイツでもいい」

「俺になんか用か?」

「ふん…ハピネメル…、、、、“アルシオン”」

「…──!」

「お前の血に用がある」

睨みを効かせるハピネメルに近づくチェイカー。

「ハピネメル・アルシオン、なんでここにいる?」

「うるせえ」

「この女か?」

「…聞こえなかったか?うるせえって言ってんだよ」

「デキてんのか?」

「…」

「できてんだろ!?」

笑うチェイカー。

「こりゃあとんだニュースを掴んだぞ…!!!まさか超有名モデル兼女優が、アルシオンと付き合ってるなんてよ!!笑っちゃうよーンハッハッハッハッ!!!」

「おい、チェイカー…こいつ、どうするんだ?」

「計画実行か?」

「ああ、そうだ。コイツの血がいる。殺すぞ」

男達がハピネメルを取り囲む。一人、アンリミングを拘束する者を除いて。再三の注意を聞かないアンリミングを拘束する者に対し、憤激を露わにするハピネメル。

「お前が、アルシオンか…」

「ガキ相手だけどよ、ごめんなぁ?殺し屋としてこんなに金のある仕事はねぇからよ」

「じゃあ、、、いかせてもらおうか」

ハピネメルを包囲した男達が、エネルギー波を打ち出す。そのエネルギーに、ハピネメルは能力者反応を確認。

「お前、この男達に血を分けたな?」

「ああ、そうだ。やっぱり判るか?」

「当然だ、お前は何者だ」

「何者って、お前が想定してる通りのニンゲン…さ」

「人間…?僕達が?」

「ああ、そうさ、俺らの先祖だって人間として生まれた時代もあるんだぜ?」

「僕らは人間じゃない」

「なぁ、人間になりたくはねぇか?」

「結構だ、そういった話はもう満足している。テメェから勧められる身にもなりたくない」

「そうか…じゃあ、、、お前ら、殺せ」

「了解…」

ハピネメルを取り囲む“超越者紛い”の男達が、攻撃を開始。四人で繰り出される技の応酬に、華麗なまでに回避をするハピネメル。公園という決して広いとは言えない枠の中で、ハピネメルは四人の攻撃を避け続ける。

「おい!このクソガキ!避けてねぇで受けやがれ!!」

「ハァハァハァハァ…コノヤロウ…舐めながって…」

「やっぱり、常人が急に血をもらうからだよ」

男達はセカンドステージチルドレンの血を使い切れていない。そう断定されたハピネメルに、もう“回避し続ける優しさ”は捨て去られた。四人の複数波状攻撃が四方八方から発生、回避行動を奪われたハピネメルはその波状攻撃に向かって全角度対応可能な、反射板を発生。

「食らいな」

波状攻撃は反射板に直撃、反射板の一枚向こうにはハピネメルが直立している。男達の放つ攻撃は反射板によって、届く事は無かった。それどころか、その反射板は波状攻撃をそのままの形で、或いは当該以上の力を発現させ超高速で撃ち返す。四人全員に撃ち返しは命中、沈黙状態に陥る。

「おい…チェイカー…、、、こいつ、、聞いてた話と違ぇじゃねぇか!」

「前もって提示した内容通りじゃないかー、君らが単に、“弱いだけだよ、ゴミクズが”」

「てめぇ…」

残す者は、男達がチェイカーと呼ぶ男のみ。

「お前、超越者だな」

「んな確認いるか??」

「その人から離れろ」

殺意しか感じない鋭利な睨みは、無表情のチェイカーへと突き刺さる。チェイカーの表情は無から一切の変更点無し。畏怖する様子も全く見られない。

「あー、、いいさ。今日は離れよう」

永続的に向かられる尖った視線に嫌気を差したのか、何かを感じ取ったようにアンリミングから離れた。

「これだけは忘れるな…《バッターコール》はお前らが思ってるよりずっと身近にいるという事をな」

「…」

「チェイカー…俺らはどうなるんだ…、、、」

「力が入んねぇ…いてぇ…いてぇんだよ…」

「助けてくれ…」

「使えねえ人間の分際で。契約は破綻だ。お前達には《黄泉送り》の刑を受けてもらう」

「おい!ちょっと待ってくれ!話が違ぇじゃねえか!」

「俺は、女を連れて来い…と言っただけだ。アイツがついてくるとなるとら別の話だ」

「なんだと……、、、」

「じゃあな」

「ちょっと待て!!」

チェイカーの発現する超次元パワーは、時空に歪みを発生させ一つの環を形成。環が高速回転を始め、エネルギーが円中心部に収束する。収束部からサイクロンが生まれ、チェイカーの号令と共に四人の男の元へ急速接近。吸引というよりもサイクロン側から男達へ近づいた点を考慮すると、渦を巻いたエリアを掘削するために発現したようにも解釈できた。公園の地殻変動は言うまでもなく発動、周辺地域への被害も甚大かに思われる。

「お前…アンリミングさんに何の用だ?」

アンリミングを抱えながら、チェイカーの狙いを問う。

「その女が欲しかったんだがぁ、もう目的は変わったよ」

「なんだと…」

「お前だよ…ハピネメル・アルシオン。また会おう」

「お前…!あ、、、…!」

チェイカーが姿を消した。やつの消失により結界は解けた。しかも結界の他に、サイクロンの影響を受け、地殻変動を余儀なくされかけた公園は元通りの姿へ。ハピネメルはこの現実には、理解に苦しんだ。辺りは暗く静まり返り、点在している街灯がよく目立つ。先程まで街灯の光に頼らずとも視覚可能なフィールドが形成されていた。それもチェイカーの能力なのだろう。

だが、今はそんな事を考える暇は無い。目の前に傷だらけの愛する女性が倒れ込んでいるのだ。一時はハピネメルの姿を確認したかに思われたがその後、ハピネメルが男達と戦闘をしている際は反応が無かった。

鼻血を出し、整髪されていたヘアスタイルはめちゃくちゃに解け、手も足も痣だらけで、服も引きちぎられ中破状態で露出度も高くなり、現在も吐血もしている。

「外道が…」

怒りに満ち満ちたハピネメル。

感情がどうにかなってしまいそうな抑え切れない殺意で埋め尽くされる。こんなに可愛らしくて美人で綺麗で素直な女の子なのに、どうしてこんな事ができるのか…。

僕は守れなかった…。アンリミングさん…大切な人なのに…。

責めたい。責めたくなる。もっと早く着いていればアンリミングさんをこんな目に遭わせずに済んだのに。彼女が駅周辺に居なかったからってそこで待ってるのがいけなかった。連絡が返って来ないならこっちから探せばよかった。しかもこの公園なんて、駅から直ぐの距離じゃないか…。どうして自分は考えうるパターンを全て念頭に置かないで、考えついたモノから順に果たそうとしていたのか…。

責めるポイントがありすぎて、自分を殺したくなる。愛する人の姿を見てしまうと自分の行動に、拒絶反応を起こしてしまう。

これまでも、これからも。

自分の決断が本当はこれで良いものなのか…。

誰かの人生をマイナスに変えてはいないか…。

誰かが私を求めているのに、それを無視してはいないか…。

聞こえないか…?僕を求める声が。

自分の血を疑うよ。もっとそういった能力に富んだステータスだったらいいのに。こんな鬼みたいなセンテンスを繰り出せる能力なんぞ、そんな使う時無いのに。先程の状況ともなると役には立ったと思う。だけどこの力はセカンドステージチルドレンの通常スキルとして備わるモノ。こんなの超越者であれば誰でもが持ってる。

僕はこんな装備に頼らずとも、愛する人を救いたいんだ。だって、アンリミングさんが…僕のこの姿を見て戦慄したらどうしてくれるんだ…こんな醜態を晒して嫌悪感を露わにされたら、僕は血統を呪う。

アンリミングさんにはいつかは言いたいと思っていた。彼女がどうやって受け止めてくれるのか、判らない。でも何故か、彼女だったら大丈夫なんじゃないか…そう思っている。なんの根拠も無いどうしようも無い男の仮定の話になる。

未完成のジグソーパズル。彼女と言葉(=パズルピース)を交わしていると、握っていないパズルピースがはめ込まれていくんだ。それは段階的に変革を遂げ“見つけられていないパズルピース”でさえも次々とはめ込むシークエンスに移行させられる。このまま完成してもなんの達成感も無い。だけど完成したから喜んでしまう。彼女といると何故か笑顔になれるんだ。彼女の持つ力を僕は信じている。彼女が振り撒く笑顔には、罪を隠そうとする閉鎖的なぎこちなさを時々感じる。絶え間なく続く笑顔だからこそ、その違和感はよく目立つ。隠そうとする素振りも無いことから、気がついていないだろうと思ってるんだ。アンリミングさん、僕を舐めてかかってる。僕はガキだけど、アンリミングさんが思っている以上に大人に近い存在だ。

─────

アルシオンは、成長速度が早い。

─────

アンリミングさんには、全てを話そう。きっと理解してくれる。そんなトリガーを与えたのが、こんなクソカスどもとは…。

あのクソ野郎…絶対に殺してやる…チェイカーとか言ってたな…《バッターコール》ってなんだ…?知らない言葉を聞くと頭から離れない。

アンリミングの頭を右腕で支え、起こした状態にした。アンリミングを少しでも近くに感じたいから。彼女側からもそうだ。もう大丈夫ですよ…と近くで感じてほしい。僕を近くで感じてほしい。

起きた瞬間、目の前に映るのが僕であってほしい。

いや、僕でありたい。

僕以外見てほしくない。

僕が一番にアンリミングさんを、愛してるから。



「アンリミングさん!アンリミングさん!お願いです!!目を覚ましてください!」

応答が無い。息はしている。

だから諦めない。

絶対に諦めない。

彼女が起きるまで、僕はこの状態を維持してやる。

「ハピネメル…、、、?ハピネメル…なの??」

「はい!そうです…、!大丈夫ですか??」

「ありがとう…助けてくれて…!私…死ぬかと思った…死ぬんじゃないかと…思ったよ…」

「ごめんなさい、僕、アンリミングさんのこと守らなくて…」

「いいのよ…来てくれただけでも嬉しい…ありがとう、、、」

「病院行きましょう」

「ハピネメル…待って…、、、、」

「なんですか?」

─────────◈

「あなた…、、、セカンドステージチルドレンなの?」

◈────────

「アンリミングさん…すみません…僕は、、あなたに言わなければいけない事がありました…まさかアンリミングさんから言われるとは思ってなかったです」

「…」

今現在の痛さを感じているのか、ハピネメルの隠し事への“痛さ”を感じているのか、アンリミングはいつも見せる顔面とはかけ離れた表情になる。大怪我を負っているからでは無く、彼女の表情は解釈し難い顔面を形成していた。

「アンリミングさん…ごめんなさい…僕は…本当に…本当に…とんでもない事を隠してしまってました…僕は、セカンドステージチルドレンです。世間でいう所の悪の生命体。人間の失敗作として語り継がれている危険因子です。僕みたいな存在は消えなければなりません。でも、生きたいんです。生きて普通の暮らしをしたいと思ってるんです。僕は“正常な人間”とは違う生活を送ってきました。家族がそうしろ…と言うから、言われるがままに行動してきたんです。その生活は、刺激的な毎日が無く、人との会話を避け、超越者の疑念を凭れぬよう細心の注意を払う生活でした。僕はそんな生活が嫌だった。

“どうしても人と同じ普通の時間を過ごしたい”。僕の願いはそれだけなんです。でもとある事柄がきっかけで超越者の血が反応を示す。それを押し殺さなければ、周辺にいる人間を殺してしまうかもしれない。僕は、人との繋がりを恐れました。でも中学に入って、僕を認めてくれる人も現れたんです。僕の心も穏やかになり超越者の血が発現される事は無くなりました。僕はこの年になって、初めて人との繋がりを知れたんです。

そんな時に出会ったのが、あなたでした。あなたを人目見た時、こんなにも美しい人がいるんだ…と思い感動の更に上を体験しました。あの時間、あなたの表情を見て…“どうにかしたい”と思ったんです。僕の熱意が悪い方に転がってしまい、アンリミングさんを危険に晒したのは猛省しました。あれは僕が、あんな大人数と喋れる空間が嬉しかったんです。ちょっと…いやだいぶと調子乗ってしまいました…猛省です…。アンリミングさんは、僕の天使です。女神様です。アンリミングさん以上の人は存在しません。そう思ってたのに…こんな目に遭わせてしまい…本当にごめんなさい…」

ハピネメルの長文のメッセージ。アンリミングは一言一言を重く受け止め、今までのハピネメルに感じた違和感と重ね合わせた。なんかようやくパーツが見つかったように感じる。それも、“見えないパーツ”。これって要るのかな…要らないんじゃないかな…と思うけど、付けたら付けたでこれからの関係値をグレードアップさせてくれる品物だと確信した。

「ハピネメル…」

「アンリミングさん!ダメですって…!」

「いいの…てか、、、起こして…」

「あ、、は、はい、、───!」

ハピネメルの介抱を解き、起き上がるアンリミング。はぁはぁと荒い吐息を吐きながら立ち上がろうとする。直立をアシストするハピネメルは、彼女の強さに涙が零れ出た。

「…、、ちょっ、ちょっと、何泣いてるのよ」

「すみません…だってアンリミングさん、ほんと強い人ですね」

「当たり前でしょ?今更気づいたわけ??」

「いえ、、そんな、ことは無いです…」

直立状態となったアンリミングは、直立を補助したハピネメルに思いっ切り抱きついた。

「アンリミングさん!!?」

「お願い…少しだけこういさせて…?」

「アンリミングさん…、、、、、、、」

ハピネメルの鼓動はアンリミングの胸に鳴動。あまりの心臓の過剰すぎる動きにアンリミングは反応を示す。

「なにぃー?緊張してるの?」

「え、、、」

「胸に刺さる」

「あ、、すみません…!ごめんなさい…」

「フン、、ごめんね…お願い、もう少し、、これ、このまま」

「は、、はい、、」

─────

「バカ…もっと早く言いなさいよ」

─────

「アンリミングさん…?」

「セカンドステージチルドレン、ほんとなの?」

「は、、はい、そうです…」

「セカンドステージチルドレンは、心臓が二つあるの?」

「え、、、」

「あまりにも胸に当たるから、そう思っただけ…笑ってよ??」

「アンリミングさん、こんな時にジョークなんてやめてくださいよ…」

「こんな時だから言いたいの…私、今の顔、ハピネメルに見せられないから」

「そんな事無いですよ!僕はアンリミングさんの顔大好きですよ!」

「そーじゃないぃ!もお…あんたってほんと、女心判らないオトコ…」

「え、、」

◈──────────

「見せたくないの…好きな人に」

◈───────

「え、、、」

「私…ハピネメルが、好き。私をこんなに気にかけてくれるんだから、、私も同じ気持ちになって当然でしょ?」

ハピネメルに抱きついていたアンリミングの手の力が、強さを増す。

「あなたといたい…私…本当に怖かった…今日、こんな日になるなんて…思いもしなかった…ハピネメルが来なかったらって考えただけで…私は、、もう、、」

「アンリミングさん、もうやめて。終わった事だから。前を向こう」

「私を守って…もうあんな怖い思いはしたくない…確かにセカンドステージチルドレンは、第一印象は酷い存在だと思っていた。非情な生物でどうしてこんな人種が生まれたんだろうって、ちょっとした怒りにもなってた。だけど、あなたを見てそれは変わった。セカンドステージチルドレン全員が、そうじゃないって。あと、勘違いしないで。ハピネメルがセカンドステージチルドレンだからって、決めつけたわけじゃない。単純に、あなたが好きだからよ」

震え上がるハピネメル。

「アンリミングさん…いいんですか?僕…こんなガキですけど…」

「いいのよ…愛に年齢なんて関係ないよ。好き同士繋がるのが正解なの。誰にも邪魔されない、私達の理想郷を作ろ」

「は、はい!!」

「ハピネメル、こっち向いて」

今までにないアンリミングの顔の近さに、ハピネメルは抱擁を受け入れつつもほんの少し距離をとっていた。それは彼女への拒絶では無い。急すぎるアンリミングの愛の告白に、ハピネメルが追いつけなかったからだ。

「はい、、、、、!!」

ハピネメルがアンリミングと顔を合わせた瞬間、アンリミングは、唇を啄んだ。それも唾液を混合させた大人なモノ。ハピネメルはどうしていいのか、判らずだったが彼女のキスをトレース。彼女が行うキスを瞬時に自分のモノにした。女の欲求と男の憧憬が絡み合い、官能的な時間が続く。

先に唇を離したのはアンリミング。

「ハピネメル…した事あるの??」

「無いです…」

「にしては上手だね…もしかしてそれも能力とか?」

「判りません…アンリミングさんの見よう見まねです」

「私、そんな良いキスしてたってこと?遠回しに褒めてくれてるね」

「褒めるのには自信ありますから」

「ちょーしに乗らないの」

「アンリミングさん、可愛いです」

「そのうるさい口閉じなさい」

「嫌です」

「閉じなさい」

「嫌です」

「閉じなさい」

「嫌です」

「閉じな…」

アンリミングの執拗な“命令”に、しびれを切らしたハピネメルは開口を奪う。

「アンリミングさんを、もうこんな事には巻き込みません」

「これ、意思表示?」

「決意宣言です」

「何が違うのよ」

「今までの僕とは違いますよっていう…」

「私の近くにずっと居てくれる?」

「はい、います。絶対に」

「うん、なんか変わった。変わってる。うん」

「まだまだこれからですよ」

「ハピネメル?」

「もうちょっと、、、やめてほしいかも」

「あーすみません!」

「力みすぎだよ?そういうさじ加減は、学んだ方がいいね」

「アンリミングさん…取り敢えず、応急処置しましょう」

「いててて、そういえばそうだった…私、こんな姿、ハピネメル以外に晒したくない…最悪すぎるもん…」

「そんな事無いです…でも、さすがに今のままでいさせる訳にはいきません。感知できる場所があるので、僕に着いてきてもらえませんか?」

「ええ、いいけど…病院に行ったら私ってバレて直ぐに情報漏れちゃうんじゃ無いかな…」

「安心してください。僕の家に行きましょう」

「え、、いえ?、」

「そうです…アンリミングさんのこの状態をいち早く治す方法があるんです」

「う、、うん、でも、両親いるよね」

「大丈夫です、今日の事もアンリミングさんには話してほしいので」

ハピネメルは子供。となると、セカンドステージチルドレンの親に会う事になる。怪我に汗が染みる。チェイカーと男達の時には出なかった汗が、今ここで急に吹き出てきた。

大人のセカンドステージチルドレンに私は今から会うの…?

大丈夫かな…私…人間だけど…受け入れてくれるのかな…。ハピネメルは私のことをどう言うつもりなの。「彼女だよ」なんて急に言うつもりなの?流石に親の前ではそんな事言わないか…

「あ、あのさぁ…ハピネメル?」

「なんですか?」

歩行補助をするハピネメルに、“当然の回答”が返ってくるはずの質問をする。

「親御さん、、、いるんだよね?」

「はい!いますよー、アンリミングに紹介したいんでねー!」

「え、紹介って…、、?」

「あー、、、付き合ってるって…」

「ハピネメル??」

「───あ、」

「殺すよ?」

「すんません…」

「私達は、付き合ってちゃダメぇ!なの。何っっ回も言ったよねー?」

「わかりました…」

何回も何回も言ってるのに、ハピネメルは初回かのようなリアクションをした。落ち込みすぎでしょ…と声を掛けたいぐらい。私だって包み隠さずに言いたいよ。今日の出来事だって、今でもあまり信じられないけどハピネメルに助けられたんだ。親御さんにだって御礼をしたい。でもその時に邪魔になるのが説明。


『ふと、あの時、突然、「そちらのお子さん」が助けてくれたんです』


なんて言えばいいのだろうか。何も疑われない…よね?


『偶然通りかかって私を悪の組織から助けてくれたんです!』


の方が、現実味を帯びてるのかな…。どっちゃにしろ、何か要領のいく説明を考えないと…。ハピネメルの親からしても、成人済みの女と付き合うなんて現実、受け入れるわけ無いし…

「アンリミングさん」

「うん?ハピネメルどしたの?」

「ちょっと、もう少し僕の近くに来てもらってもいいですか?」

「近くって…もう身体密着してるじゃない」

「身体をこっちにもっと預けてください」

「え??、、、、え、?!ちょ、ちょっと!!?」

「これなら、ラクに運べますね」

ハピネメルの言葉通り自身の身体を預け過ぎた途端、ハピネメルはアンリミングの身体を一気に抱える。背中を持ち、空いていた左腕は私の太腿に大密着。絵に書いたようなお姫様抱っこをしに来た。

「ハピネメル!!ちょっと、、これぇぇ、さすがに、ハズいって…やめてって…!」

打って変わったアンリミングの表情と声色。本気で当該行為の中断を求める。

「ダメです。これに関しては、アンリミングさんの意見は受け付けません。なにせ、これが一番早いんですから」

「タクシー呼べばいいでしょ??」

「ここはタクシー来れないんですよ」

「そんな…私、なんて所に来てたのよ…」

「だから、このまま駅まで行きますよ」

「え、駅ぃ?!いや!いいって、道路に行こうよ。こっから一番近い道路にさぁあ」

「うーん、それもそうですね…残念…」

「ざ、残念ってなによ」

「アンリミングさんとこんな、接近できるいい口実だと思ってたんですけど」

「あんたね…」

「アンリミングさんをこんな近くで見れるんだから、こんないい手段無かったんですけどねー…」

「はいはい、残念でしたー」

「だけど、そのドーロとやらまでは、このままの状態でいてもらいますよ?」

「まぁいいよ、この感じ、ラクだから」

「アンリミングさんももっと正直になればいいのに」

「なによ」

「え、、」

「ハピ?小声で言ったつもりだった?」

「ウソ…聞こえてました…、、、?」

「よゆーできこえてた」

「恥ずかしい…すみません…」

「私も恥ずかしいから、これでおあいこね、、、、、んでぇ?なんなの、“正直なれば”って」

「、、、僕の事、好きなんですよね?じゃあ、ラクだから…じゃなくて、抱っこしてもらえて嬉しい…とかなんかそういうのを待ってました…」

「ハピネメル?、、、、すっごい嬉しいよ!」

今できる最大の満面笑顔がハピネメルに炸裂。

予想を超えた返事に、抱えていた腕から力が引く。一瞬、アンリミングが落ちそうになったものの、立ち直り、心身が持ち堪えた。

「(危ねぇ…アンリミングが折角、見せてくれた笑顔に殺られちまう所だった…ヤバい…今のは…やばい!僕がこんな近くにさせちまったからだ。自分のせいだ。なんでこんな近くにさせたんだよ…ちょっと下を向いたらバカみたいに可愛いお姉さんがいる…この状況作った奴許すマジ…。もう下向けないかもしれん…いやでも、慣れなきゃなだな、こんな事で気絶してたらアンリミングさんの男として務まらんぞ。そうだ、慣れなきゃ…慣れるぞ…そう、慣れるぞ…向くぞ…下、向くぞ…)」

「ハピネメルー?」

「は、はい…!」

「道路まだかなぁ…」

「そうですね…中々道路まで着きませんね…(やっば…その、口元を隠す手が不安感を彩るオプションとして光り輝いている…その上目遣いやめてください…可愛すぎますから…、、)」

「ねぇ、さっきからフラフラしてない??あ、、ひょっとして、“重い”?」

「そーー!んなことー!!ないでしょー!!がぁ!!」

「あ、、そ、そう?だったら、いいんだけど…」

「(マジか…気づいてないうちに身体がアンリミングさんの破壊的な可愛さにダメージを負っていた。なんなんだよこの神経は。可愛すぎて受け付けないって。阿呆すぎるよ。女の子にそんな事言わせてしまうなんて…)」

「道路だよ、タクシー呼ぼ」

「アンリミングさん…さっきからまるで怪我一切してないみたいに、元気ですけど…大丈夫なんですか?」

「う、うん…まぁでも大丈夫って言ったら嘘になるかな…」

「無理しないで下さいよ?あと、タクシーは呼びません」

「え、、このまま…!?このまま行く気?」

「違います。見ててください」

ハピネメルがアンリミングを抱え込んだまま、力を発現。その力は男達に見せた力と同様のもの。自身から生まれた力の源流子が飛翔体として、多方向に飛散。やがてハピネメルは大人一人がくぐるには十分なサイズのリングを発生させる。飛散した飛翔体が形成されたリング中心地へ集約、その光景も先程と酷似していた。

大きく違った箇所は、そのリングから産出されるエネルギー波の色彩。色鮮やかな虹色が、アンリミングを感動の域を超えた“傍観”という極地にさせる。

「綺麗…」

「ここからもっと綺麗になりますよ」

その言葉と共に、集約した飛翔体が艶やかなもう一つのリングを形成。リングの中にリングがある状態何を意味するのか、私には判らない。だけど、私は直視している。彼が出している。大枠のリングとその中に作られたリングを。

二つのリングはそれぞれに同等のエネルギーを放出していないように思えた。根拠となるのは、“内輪”が“外輪”から放出される“黒い物質”を殺してるように見えたからだ。外輪から生まれる黒い物質が、逃げ惑うかのように撹乱を行う。視覚器官へのダメージは無い。

内輪が飲み込んだ、ともとれる様でリングとリングによる互いの能力パフォーマンスは終焉。

「凄い…ハピネメル、凄い綺麗だったよ」

「ありがとうございます、でも、これを見せたかったんじゃないんです」

外輪のパワーを抑えた内輪が、力を掌握。そしてリングの輪の中から発現される謎のホール。

「なんか出てくる…」

「これは、ワーム型転移ホール。これを使えば何処へでも瞬間的に移動する事ができる」

「すごい…、、、てゆうか、最初からこれ使えば良かったんじゃないの?」

「実はアイツらとのやり合いで、能力殆ど使い切ってしまって…」

「充電中だったってわけ?」

「簡単に言うとそうです…」

「はぁ、使い勝手がいいんだか、悪いんだか。必要な時に使えないのは勘弁してよね」

「気をつけます…」


ハピネメルに促されるまま、リングの中に入った。リングの中には、多次元世界の狭間と言われる“この世界”と“違う世界”が平行にビッシリと並んでいる。

「これって…なんなの…」

「本当は、時々しか現れないんだけど…ここは多元世界の軸に値する場所です。僕が偶然その歯車の部分で、転移ホールを発動させてしまったんです」

「人が…いる…」

「勿論、あっちからは見えません。特定の者には見える時がありますけど…見えるというより、“見に来る”っていうか…」

「見に来る…?」

「まぁ、今の僕達みたいな感じです」

私達が歩む《狭間の道》。多元世界に存在する一本の道を歩んでいる。その道からは複数の世界線が確認できた。その世界では我々と同じような世界の光景が“液胞”のようなフワフワした物質の中にある。


上空から観測した映像もあれば、建物に備わる監視カメラからの観測できる当たり前の映像もあれば、誰かも判らない生命体の視界からの映像だったり、“視認”という概念に関連するフィルムレンズの映像が液胞に写出されている。

非現実的な世界を闊歩し、二人は《狭間の道》を後にする。


ハピネメルが再び、発現させたリングで道を抜け、元いた世界へと帰還。

「一軒家?」

「そうです、僕の家です」

「家…」

「あの、、、まぁ、詳しくは入ってから話しますよ。アンリミングさん…大丈夫ですか?」

「ん?なんか変?」

「いや、、ちょっとさっきより顔色が良くないよーな…」

「ほんと??どこだろう…」

「もしかしたら、自分では気付かぬ内に体内へのダメージはかなり蓄積してるんだと思います」

「え、、そんな…私、案外もう大丈夫なんだけど…ほら!」

「ちょっと!アンリミングさん!ダメですって!」

ハピネメルのお姫様抱っこをキャンセル。地に足を着く。

「ハピネメル、もうこーんなに大丈夫なんだよ?なのに内側から何かが攻めてるっていうの??」

「はい、その可能性は高いです。セカンドステージチルドレンがやる所業です。《精神可視波長》の一種だと思います」

「せーしん…かし、な、なに??」

「人の中身を抉る酷い攻撃です。生物への攻撃って、基本的には外部への打撃・射撃、それに準ずるものです。だけど、それ以外にも存在するのが“精神攻撃”です。

生物には必ず“心”が備わっています。

心は生物が生きる上で絶対に無くてはならないもの。そんな生存重要機関を侵されると、大変な事になります。生きる意味を損失したり、自暴自棄になったり、人格が崩壊し別人に成り果てたり…心の破滅は直接的な攻撃よりも、最悪の特大ダメージなんです。

恐らく今回、アンリミングさんに行われた精神攻撃は、それに該当する《ハートファージ》。

アンリミングさんを隷属化させ、チェイカーと呼ばれていた男の下僕にさせるつもりだったんでしょう」

「え、、嘘でしょ…奴隷ってこと、、、?」

「、、、そうです…あのクソ野郎…」

「今、、の私は大丈夫?」

「もちろんです。僕がアンリミングさんの心にクリーナーをかけました!なんですけどまだ完璧にはゴシゴシできてなかったみたいです」

「あー、、そうなんだ」


なんか急に中学生相応の表現になったな…そのちょっと前までは小難しい事を言ってたのに…ハピネメルは人が変わったように話し方とか話す言葉が変わる。チェイカーとの会敵時が正にそう。私のために憤怒していたという感情付加された出来事があったからだろうか。

ハピネメルは好きだ。私を守ってくれるハピネメルも好きだ。でも私の前では、その顔を維持してほしい。あまり眉間に皺を寄せる顔は好きじゃない。

ハピネメルは…かっこいいんだから。

私の英雄は凛々しく逞しく。

復讐に心酔したマイナスオーラの解放は程々にしてほしい…と願う。

もう何も言いません。よろしくお願いします。

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