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[#43-生と死の螺旋に囚われて]

葬り去られた希望。私は、どうしていいのか分からず、自我を責めた。

[#43-生と死の螺旋に囚われて]


起きた。いつもの時間、いつもの朝、慣れない自身の垂れ顔。いつもと同じ時間と空間なのに、憂鬱になる。またこの通常の時空を体感する事になる。

憂鬱になる。

自分の顔にうんざりする。見飽きたな。嫌だな。どうしていつもこの顔しか作れないんだ。ここから変わるという訳でも無いんだ。明日もこれ。明後日もこれ。明明後日もこれ。ずーっとこれ。何を成し遂げても変わり映えのしない固定された顔。何もかもを信じ切っていない顔。

私は変わった…とクラスメイトに言われる。

無理もないだろう。実際そうだからだ。変わった。あの時を境に変わった。スイッチを押されたように勝手に変貌を遂げた。私の意思とは関係無いようにそれは、感じられた。

私にも怖かったんだ。またいつ、自分という概念が壊れるのか予測しようがないから。

見失う。

自分を見失う。

自分は自分じゃなきゃいけないのに。

自分を刈り取られた。

必死にもがいた。

自分自身を救済する為に、できる限りの事はした。

でも、だめだった。

だめだった。

贖罪がこうして降り掛かって来るとは思いもしない。自分にはこれが丁度いい罰だとは思わない。あまりにも、課せられた罰が大き過ぎる。

自分に対して、いつも不安になる。

どうして、前もって決めた行動を取れないのか?

そうした疑問に直面する機会が増えた。

だから、逃げる。

それから、逃げる。

これの相手をしているとなると、自分に与えられた折角の時間が台無しになってる気がする。

当たり前の日常が消えた。消え失せた。

いつもの空間なのに。何にも変わらないのに。

大きな穴がある。それは、絶対に空いてはいけない。失ってはいけないのに。

毎日毎日、繰り返してきた安寧の記憶。突然そんな日が無くなったら、人はどうなる…回転していた歯車はガタが来たように突如として老朽化、回るという行動は疎かになり、自然と回転行動を成さないまでに朽ちてゆく。まるで誰かが刻まれる歯車と歯車の間に金属パイプを悪戯で差し込んだかのように、非常に不愉快で嫌悪感のある邪魔ものが発生。

安寧の記憶。そこには裏切りも失望も悲しみも慈しみも何も無い。全ての事柄が最終的にはプラグ思考に捉えられる事が約束されている絶対域の世界。

二人との間に生まれる自我境界による螺旋の相対。失われる事の無い…というか失うという言葉すら、安寧の記憶の中に生じさせた事が無い程、不要な思考の一部。留めようはずが無い無用な存在。

私と同じ平行世界にいないのが信じられない。

今までこんなに近くの存在だったのに。

いつか還ってくる…そう信じている私は、能無しですか。もうそんな存在になってもいい。私の存在理由なんて、二人がいるだけでいい。私がどんな姿になってもいい。どんな人格破綻者になってもいい。その一部に二人の存在をはめ込んでもらえれば。いや、そんな事は必要無い。私とは繋がっている。絶対に繋がっている。どんな事が起きても、私はいつもその現場に駆け込んだから。二人の今を知りたいから。二人がその時、何を思ったのか、何を感じたのか、何に触れたのかを知りたいから。その内容がどんなものでもいい。将来のプラスになるのか、マイナスになるのか、どちらでも構わない。二人の経験値に追加される事には、変わりない。ただ…

◈──────────◈

これは、違う。

◈──────────◈

違う。

違うよ。

違う。

違う。

違う。

違う。

違うよ…

絶対に違う。

ここまでの事になるなんて…。

私は絶望した。これ以上の言葉は無い。あるとすれば自殺。だがそれでは何への救いになるか判らないから、省略。

今の私が自身に対して、一番に情けない事として取り上げるのは、母への無様な対応。私が今、考えるべき最重要事項はこれなのかもしれない。

考える余裕が無い。母も同じ気持ちなのは確定してるのに、共有させたくなかった。今以上の感情に進化しそうだから。共有させる方が、今の自分には合理的だと思った。なんでだろう。そんなわけないのに。

大切な人を失うってこうも、精神面に来るもんなんだ…。

こんな生活耐えられない。あと何日、これを繰り返せばいいの?苦痛と苦悩が私の内的宇宙を制圧する。それに加えて孤独という外的圧制がのしかかる。

止めればよかった。

もっと強く反対すればよかった。

己の意志なんて掻き消すぐらいの強さで言えばよかった。

負の磁場。

人には必ず表出させてはいけない感情の領域がある。それに踏み入れる者が現れた時、それは精神領域の拡大化を意味する。創造主によってコンパクトに形作られた心の器を、私はアンインストール。自分自身で形成させた器に転換する。その形成された器は、自身のネガティブ思考を3次元に再現してくれた。数字世界に関連する次元者でも、人間が創造する原動力オブジェクトには逆らえない。

結局は、人間が作るものが正解となる。“正解”となれば、正解なんだ。ここから先を捻じ曲げるのは人間の中の他者という存在。既存する正解を捻じ曲げるのは、容易な事では無い。正解を出した…という事は、それ即ち成り立つ方程式を見つけたという事だからだ。

人は自分自身を認めなければいけない。

そうしなきゃ、生きていて辛いから。いつも自分だけは味方であってほしい。同じ事を考えられる共鳴者でいてほしい。

───────

殺してやる。

───────

───────┨

殺してやる。

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ベニムーン、リフレインを送り出してから、2年後──。


──── ━ ━ ━ ━ ━─────┨

速報です。先程、第14回マスターデライトが行われているパノプティコンアイランドへ、フェーダが襲撃を開始したという事が判明しました。これによる被害は甚大で数多くのマスターデライト参加者が死亡しているとのことです。今回の攻撃を受けて、意思決定機関イサキオスの最高責任者、 テキスパンド議長は緊急の記者会見にて、声明を発表しました。「マスターデライト制度撤廃の予定はありません。ですが、今は様々な問題を考慮した上で、マスターデライトの一時的な停止という判断を下すことを発表致します。亡くなられたプレイヤーのご遺族の方々には心よりお詫び申し上げます。本当に申し訳ございません」

── ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━┨


2年前…あの報道は忘れられない。衝撃的すぎて、私の思考回路は止まった。“数多くの参加者が被害に遭った”。最悪の文章。この文言に親族が含まれる意味合いとなる現実が嘘のよう。

あの事件から、フェーダの行動を追った。

過去と現在。

奴らの蛮行アーカイブを記録する。2188年頃からフェーダの行動が世に出始めた事から、この集団の結成はこの年であると推測されている。

非道で非情で非合理で非人。

憎くてたまらない。奴らを殺したくてたまらない。このやり場の無い…どう散らせばいいのか判らない、感じさせた事の無い“殺意”はどうすればいいのか。

感情が覚醒する。覚えた事の無い、感情の臨界点に直面した。私の殺意に満ち満ちた姿を見て、母が血に眠る秘密を明かす。

「ごめんね…私…3人に隠していたことがあるの…実はね…あなた達のお父さん、フェーダと同じ存在なの…」

「え…フェーダと同じって…」

「そうよ、セカンドステージチルドレンなの…」

「パパが…セカンドステージチルドレン…?」

「うん…お父さん…《ハピネメル・アルシオン》って言うの」

「アルシオンって…」

「セカンドステージチルドレンの原初の血が入っていると言われる悪魔の末裔の一家。私はそんな人と結ばれたの」

「なんでその事を言ってくれなかったの…!」

「ごめんなさい…あなた達の覚醒の兆しが見えなかったからよ。超越者の血が消えつつあると言われていたあの時代。ハピネメルもその一人だった。私と彼が出会ったのは、私が19歳で、ハピネメルが13歳の時」

「13歳…?」

「そうね…ビックリしたんだよ…?今でも覚えてる…。後から考えてみると、ハピネメルらしいなーっていう行動だったんだけど、完全に不審者だったな…」

「パパの顔…覚えてないんだけど…」

「うん…あなた達が生まれた後に死んじゃったからね」

「…言えないの?」

「…」

「言ってよ…」

「…」

「ママはいっつも、パパの話になるとそうやって、口を噤む。その空いた時間、どうにかしてほしいんだけど」

「ごめんね…私…あの人の事…あまり思い出したく無いんだ…嫌いじゃないの…嫌いじゃないんだけど…私…何にもできなかったから…何にもできなくて、彼の想い、受け取れなかった」

「どういうこと?パパはなんで死んだの?」

「…」

「その顔、やめてよ」

「…ごめんなさい…あのね…ティザーエル…あのね…うん…ごめんね…ほんとうに…、、、、、、、、、

───────

ティザーエルは、ハピネメルを知っている」

───────

「…、、、?、、、え、、どういう事?」

「私から言ってた話じゃない。顔も、声も、会話だってした事がある。ティザーエル、ベニムーン、リフレイン。3人全員、パパと一緒にいた。ずっといたのよ」

今まで閉塞を完全としていた母の口は、それを機にタガが外れたように開いた。表情は暗い。このことを本当に話していいのか判らない…といった苦悩の顔面。

何かに恐れている顔。

何かから逃げている顔。

何かを思い出したくない顔。

これを話すと、誰かから刺されそうになるような顔。

マイナスで覆われた暗闇じみた表情は、明滅を繰り返そうと、所々にティザーエルへ送られる“作られた笑顔”が垣間見える。その表情が更にこの話の不気味さを増している事、アンリミングには不本意なものだろう。

「でも、覚えてない。覚えてないよ?」

「うん、消したんだ」

「消した?」

「記憶を消去したの。彼にはそれができた。超越者だからね」

「…なんで消したの?」


彼は、私に愛を与えてくれた。とびきりの愛を与えた。あの日々が懐かしい。終わってほしくない時間が、あの日々にはある。どうしてこんなにも耐え難い時間を授けてくれたのかな…。私には勿体ないぐらいの、かけがえのないもの。

19歳と13歳。まさかこの関係性から、“結婚”にまで続くとは思ってもいなかった。

『マスターデライト編』一時停止。

続きはかなり先になります。

御読了ありがとうございます。

次回から新たなる物語が始まります。

「Lil'in of raison d'être」で最もイロコイ展開です。

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