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[#42-人間性の拡張]

ロストージャ兄弟、航海への船出。

[#42-人間性の拡張]


「ねぇ!早くこっち見てみろって!」

「もう…そんなに急いでも別に景色なんて逃げないよ」

「いいから!早く来いよ!」


トリカノン海域、デライトシップ航行中──。

ヘイブン出港から、15分。


「もうなんなの…!」

「けしき…って言うのかな…」

「いや、、兄さん…これは…“景色”でいいよ!」

デライトシップ、外見はタンカー船だが、内装は豪華客船と瓜二つ。巨大な金のシャンデリアが待ち構えるその様にただ立ち尽くすしか無い。こんな荘厳な世界は生まれて初めての体験。

「行ってみよー!」

「あ、ちょっと!兄さん!」

高級フレンチレストラン、寿司に中華、バーカウンターが壁一面に広がり、日光を堪能しながらの展望大浴場とプールの両刀、大型シネマシアター、超一流のパフォーマーとエンターテイナーが集うコンサートショー、ナイトライフにぴったりの大人になれる社交場、豊富なエキサイトマシンを完備した大広間アクティビティルーム。

ゴージャスな空間の数々に、2人のテンションは最高潮に。

「うっひょーー〜!!なにこれ!!」

「兄さん…頼むから、ちょっとは落ち着いてよ…」

「落ち着いてられっかよ!?おい!次はなんだよ!」

「これは…ああ、ビュッフェかな…」

「バイキングかぁ?」

「こういう所では、“ビュッフェ”って言うのが基本なの。もっと正確に言うなら“ブッフェ”かな」

「うう…ちっちぇえ事はどうでもいい!要は食べ放題なんだろ?」

「そうらしいね、このデライトシップに備わってる全てのものは無料で提供されてるんだって」

「信じられねえよ!!」

「しかも、僕達、マスターデライトに参加するって言うだけだからね…」

「んそ!なぁーーんにも払ってねぇもんな!」

「うん、、、なんか不思議…だし、ちょっと怖い感じもしなくも無いよ」

「なぁんに言ってんだよ、お前は」

「なによ?」

「いいか?これからキッつい事が待ってるんだろ?」

「うん、、」

「それに備えて、たっくさんの英気を養っておけ!ってぇ、事だろ?」

「“それにしても…”過ぎない?」

「はァ?」

「いや、幾ら何でも…この規模を無料提供って凄すぎるよ…」

「うーーん、、、、“お前らガンバレ”っていう事っしょ?」

「兄さん、もっと真面目に考えてよ」

「わーってるよ、イサキオス主催の企画だろ?マスターデライトは。そんなんもう答え出てるようなもんだろ」

「うん、そうだね…」

「ツインサイドとぶってぇパイプがあるんだ、そっから大金を出してもらってる以外に考えられねぇだろ」


ラティナパルルガ大陸とユレイノルド大陸。トリカノン海域を間に挟んだ形で、2つの大陸は大量の物資を輸出入している蜜月関係。昨今、ロジスティクス機能の充実度も増した事で今まで以上の物流の加速化が実現すると期待されている。基幹航路も確定域に達した。その両大陸が、ファーストポートとラストポートの役割を果たす事が可能な面は双方の大陸民の生活環境を支える重要な基盤と言えるだろう。


「皆様、本日はデライトシップをご利用頂き、誠にありがとうございます。ただ今、本船はトリカノン海域を航行中です。パノプティコンアイランド上陸まで、4日間の船旅となります」

「え、そんなあんの?」

「寄港地があるんだよ、デライトシップはこの通り、豪華客船のようなつくりをしているけど、結局は外観通りのタンカー船。船の後半部分には大量の物資が積載されてるんだよ」

「“ついで”ってことか?」

「そうだね、僕達を島に送るついでって事だね」

「直ぐにつかねぇのかよ…まぁいいや、たっくさん遊び尽くしてやろうぜ!」

2人が話している間にも、アナウンスは絶え間無く続いていた。ロストージャ兄弟のように、真面目にアナウンスに耳を傾けている者は少なかった。物騒がしい船内。ロストージャ兄弟と同じく、関係値のある者と一緒に参加している者が多数。一人でいる者もいるにはいるが、何かと問題のあるヤツなんだと落とし込んだ。

リフレインは見渡した。普通なヤツはここにいない。全員が何かしらの特質があると思っている。こんな所に来るのはそんな奴らばかりだ。

───────┨

“該当者なし”。

┠──────

過去のマスターデライトの最終選抜結果に於いて、この結果は珍しい事じゃない。プロトコルオメガが今、何人なのか、公に発表はされていない。今回も該当者なしの可能性は勿論ある。でもそんな結果になってしまったら、ここに来た意味が無い。姉さんにあんな顔させてしまったんだ…。色んな進路を提案してくれたのに、めっちゃ蹴ってしまった…。今考えてみれば、魅力的なものが多かった。あの時は、マスターデライトの事ばかり考えていて、“姉さんの説得タイム”に突入すると、若干な苛立ちも露呈させてしまったと自負している。きっとそれは、姉さんにもバレてる。あー、やってしまった…折角、姉さんが自分達の将来を見据えて立ててくれた計画を棒に捨ててしまったんだ。だけど、姉さんにも判ってほしかった。いや…、、、うーん、、僕達が悪かったのかな…マスターデライトの事を考える以前、姉さんからの助言は全て、僕達の動向の正解に当てはまっていた。勉強も、運動部選びも、人間関係も、マナーも…人間性に関する事を余す事無く、教授された。こういう言い方をすると、周りの人間が揶揄うように“ブラザーコンプレックス”というのに適合したものになるのかもしれないけど、僕達はまったくそうは思っていない。

姉さんには感謝しかないんだ。さっき言った事もそうだけど一番は、学校に通えている事。

姉さんのおかげで、僕達は問題児のままでいれている。姉さんと僕達の関係を“深い”と揶揄する人間が現れると、先ずベニムーンが殴る。そこから乱闘に発展。これが常にある。本当だったらこんな事を続けていると退学されるのは当たり前。でも姉さんがいつも守ってくれてる。姉さんが後ろ盾になってくれる。今までの自身の功績、姉さんが血の滲むような努力をして掴んだ栄光を代償にして、僕達を守っている。

判っている。僕達が、問題行動を起こさなければいいだけの話。でも、止められないんだ。感情が危ない方に傾いた時、何故だか自分自身でも歯止めが効かなくなるように、動き続ける。それはベニムーンもそうだ。僕達には何が何だか、意味が判らない。

───

「止まれ…!!止まれよ…?止まれ……止まってくれ…お願いだよ、、、、、、頼むから…止まってくれ…」

───

願いを聞かない。聞こうとしない。自分なのに。どう足掻いても、自分を制御できない時間がある。逆らうと相対的な“返し”が来る。嫌になる。一時、絶望を味わった。

なんて、愚かな存在なんだ…。

どうして、僕達は自分の意志コントロールにバグがあるのか…。

姉さんは自らの結晶を削ってまで、援助してくれているのに、僕らはいつも答えられない。姉さんは優しい。それがいつしか、残酷さとして受け止める日が来るかもしれない。真正面から、姉さんと向き合えないかもしれない。

駆られた。

駆られる。

駆られていく。

自分が、周りが。

心を閉じたい。そうすれば、きっと、こんな感情だって表に出さずに済むんだ。心はまだある。こうして、僕を裏切る感情と刃向かっているんだから。まだ大丈夫なんだ。飲み込む…?そんな展開になんてさせない。心がまだ、自身を主軸として機能している限り、最悪の事態にはならないはずだ。だから、大丈夫。大丈夫なんだ。


「…只今より、デライトシップ船長によるウェルカム・パーティを開催致します。皆様、屋外セントラルデッキにてお越しください、繰り返しお伝え致します…」

“キャプテン・ウェルカム・パーティ”。

今からそんな催しが開かれる。

マスターデライト参加者は屋外セントラルデッキに招集された。

向かう。

───────────◈◈◈───────

「おいお前、おい…テメェ何当ってんだよ?」

「ああ、ごめん…ちょっとさぁ、前見てなくてよ…ごめんな」

「お前、そんなナリでマスターデライト受けるつもりかよ。アッハハハハハ!!笑わせるゼ」

「…そうかな…これ…俺的には気に入ってるんだけど」

「アァん?お前バカか?服の事言ってんじゃねぇんだよ、そんな体格で挑もうとしてんのかって言ってんだよ」

「ああ、ちょっと小さいかなぁ」

「小さいかなぁじゃねえだろ、お前、そんなんで選抜になろうとしてんのかよハハハハ!笑わせる」

「まぁね、君は結構体格な感じで勝負しに来てるの?」

「あぁ?」

「聞こえなかった?体格な感じで勝負しに来てるの?」

「あぁん?」

「うーん、、、伝わんないかなー…まぁいいや、なんか凄い注目されちゃってるからもうやめようよ」

「逃げんのか?ダッせぇな!」

「うん、それでいいよ。うん」

「フッ、なんだアイツ」

─────◈◈◈─────────────

「まぁ、ああいうヤツもいるよな」

「そうだね、変わった人間が多いのは承知の事だったけど、あんな体格差でも、あの人、全然にビビって無かった」

「俺も別にビビんねぇけどな!あんなんただデケェだけだろ。態度もデケェし」

「あの子、なんなんだろうね」

「あー、あの絡まれてた奴か?」

「うん」

「タフなだけなんじゃねぇの?精神面が。直ぐやられるって」

「うん…」

随分と時間を食ってしまった。こういった騒動は序章に過ぎないのだろう。この人間関係の亀裂が今後の訓練とも大きく関係してくるのか。目前にて発生した対立は、これから起きる訓練の指針を示すようなものにも思えた。


屋外セントラルデッキ。プールサイドと展望浴場があるエリアだ。大勢の参加者が集う。その数は200人越え。一人で来てる者、複数人のグループを構成している者達、それぞれの集結が総合した結果、そこまで騒々しくはならなかった。

「皆様、本日は第14回マスターデライトに参加して頂き、誠にありがとうございます。只今より、キャプテン・ウェルカム・パーティーを開催致します。申し遅れました。私はマスターデライト企画発案、そして意思決定機関の議長を務めるテキスパンドです。以後よろしく。先ずは当企画への応募に感謝致します。君達は勇敢な兵士です。ここに来るだけでもそれなりの覚悟が必要なのです。マスターデライトの噂は聞いた事があると思います。あそこは危険だ…と。賛否両論の評判は勿論、私の耳にも届いており要改善案が必要だとは考えています。親御さんとも沢山お話したことでしょう。親にとって子は最大の資産です。反対する意見が国家を巻き込んだ騒動に発展する…これはマスターデライトの発案による騒ぎだとは十分に理解しています。生半可な気持ちで挑む場所ではありません。ですが、それを乗り越えた先には、由緒ある名誉が、あなた達には付与されます。これ以上無い価値です。皆様には、《プロトコルオメガ》を目指して頂きます。ですが、残念な事に全員が全員、プロトコルオメガを目指せる権利を獲得出来る事は決してありません。申し訳無い事に、脱落者も数多く現れます。折角、遥々参加してくださったのにお別れになるのは心苦しい所ですが、しょうが無い事なのです。皆様には、人間性の拡張空間を体験するのです。視覚と聴覚と嗅覚、3機関の覚醒。己の欠陥を理解し深める事で自分に不足している部分を確立化させる。欠陥部分を見つけると自然に自分に適合する世界が見えてくるはずです。そうなると、もっともっと高みを目指したくなる。人間の可能性は無限大なのです。行動をしましょう。動くのを止めないで下さい。止まらないでください。何かの違和感を感じたら直ぐに周辺に目を配るのです。そうすると、未だ未体験の世界を味わえます。さぁ行きましょう、天獄の扉が開かれる…《ダイレーターケージ》への挑戦です」

「長ったるいなぁ…アクビしちゃうよ」

テキスパンド議長のサイバービジョンが現れ、マスターデライト参加者に向けての表明が行われた。でもまぁ、その話を真面目に聞いている連中はいない。周りを見ると、ロストージャ兄弟と同じような顔を浮かべる者は少なくない。

うざい、説教臭い、だるい、面倒くさい、椅子用意しろ、じじいの戯言、生真面目に聞いてるのを見られるのが辛い。豪華客船に乗れる事なんて無いんだからはよ自由に歩き回らせろや…。まぁみんなの心情はこんなものだろうか。

アングラな人間が集うこの狂宴に、年齢を重ねまくった議長の挨拶は、若者に響くものでは無かった。時代に合わせていかなきゃならないと思うのに、こういった前時代的な時間を割かれるのは、非常に腹が立つ。

人間には時間が無いんだ。決まりきった人生を歩む時も、必ず複数個への思考を巡らせながら、時を刻む。

それは、主軸となる出来事がどういった状況に陥るのかを把握できているからだ。テンプレート化した人生の切り取りシーンに、脳を働かせる必要性は無い。

え?

“テンプレート化した人生なんて無い?”

いや、あるさ。結局、2回目以降なんて同じ事ばっかりなんだよ。いつも驚くのは1回目の初動のみ。つまらない。とてもつまらない。同じ事の繰り返し。何故人は同じことを繰り返せるんだろう。僕には謎。

───────

「それでは皆様、希望と絶望の両方の味わいをお楽しみにください。ご参加、心より感謝申し上げます」

───────

ロストージャ兄弟、今までの「Lil'in of raison d'être」で書けなかった部位を果たしてくれる重要人物です。

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